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博士(歯学) 加藤卓己 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(歯学)   加藤卓己 学位論文題名

在宅自立高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態に      関する再調査

学位論文内容の要旨

    

【緒言】

  

口腔カンジダ症は、口腔常在菌である口腔カンジダ菌による日和見感染症で ある。口腔カンジダ菌は、健常人の3〜 75%に認められ、宿主の免疫能の低下に より口腔カンジダ症を発症する。健常者における口腔カンジダ菌の保菌状態と、

さまざまな全身的、局所的な口腔カンジダ菌関連因子を明らかにすることは、

口腔カンジダ症の予防として重要である。さらに近年、口腔カンジダ菌は、義 歯性口内炎の原因菌となることや、誤嚥性肺炎の原因菌のひとっとして注目さ れており、その保菌状態を把握することは、これらの疾患予防の観点からも重 要である。

    

以前、われわれは在宅自立前期高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態 を調査し、口腔カンジダ菌の検出率は年齢、客観的口腔乾燥の有無、有床義歯 の有無と有意に関連することを報告した。約3年後の今回、同所で再調査を行 う機会を得た。

  

本研究の目的は,口腔カンジダ菌の関連因子(特に前回有意に関連していた客 観的口腔乾燥と有床義歯)に関して詳細に検討することと、約3年の経時的変化 を調査し、保菌状態と加齢に関して、縦断的・横断的に検討することである。

  

なお、本研究は、北海道大学大学院歯学研究科臨床・疫学研究倫理審査委員 会の承認のもとに行った(承認番号2012第5号)。

    

【対象】

  

余市町在住の在宅自立高齢者に対し、2012年に実施した口腔健康調査の際に、

カンジダ培養検査が実施でき、かつ明らかな口腔カンジダ症を認めなかった

198

人(男性76人、女性122人、平均年齢75歳)を対象とした。なお、198人中

134

人は2009年の調査と同一の被験者であった。

ー485−

(2)

    

【方法】

  

被験 者に 対し て、 あら かじ め全 身と 口腔の健康に関する質問票を郵送し、記 入 させ て口 腔健 康調 査当 日に 持参 させ た。質問票では、年齢、性別、血液型、

全身疾患、内服薬、飲酒歴、喫煙歴、口腔内不快症状(味覚異常、舌痛、粘稠感、・

主観的口腔乾燥)の有無について調査した。会場での口腔健康調査では、身長・

体 重、 残存 歯の状態、口腔清掃状態(DI、CI)、歯周組織の状態(CPI)、客観的口 腔乾燥の評価、有床義歯(作製時期、清掃習慣、就寝時装着の有無、汚染状況、

軟性裏層剤の有無、設計)について調査した。今回新たに、客観的口腔乾燥の指 標 とし て柿 木分 類に 加え 唾液 湿潤 度検 査とガムテストを、口腔衛生状態の指標 と して 舌背 部の 総細 菌数 の測 定を 追加 した。また、義歯床面積の比較のため規 格 写真 を撮 影し 、画 像解 析を 行っ た。 カンジダ菌培養検査は、舌背および義歯 粘膜面(上顎義歯粘膜面口蓋部および歯槽部、下顎義歯粘膜面歯槽部)より採取 した検体を培養した。

    

【結果】

  

被 験者 全体 の口 腔カ ンジ ダ菌 の検 出率 は約

80

%で 、従来の報告よりもやや高 率で あっ た。 その なか で、 有床 義歯 使用 者の 検出率 は約

89

%とさらに高率であ った 。菌 種別 では 、最 優勢菌は

Candida albicans

で全体の50%、次いでCandida

glabra to

が全体の33%であった。

  

口 腔カ ンジ ダ菌 の検 出率 と保 菌状 態に 関連 する因 子を検索した結果、有意差 を 認 め た 項 目 は 飲 酒 歴 、残 存 歯 数 、 有床 義歯の 有無 の3っで あっ た。 これら

3

項目で多変量解析を施行したところ、有床義歯の有無(オッズ比

3

.5)は有意に関 連す る独 立因 子で あっ た。 従来 の報 告で 口腔 カンジ ダ菌の検出率との関連が指 摘されている血液型、全身疾患や薬剤の有無、舌背の総細菌数などについては、

関連 を認 めな かっ た。 前回 の調 査で 口腔 カン ジダ菌 検出率と有意な関連を認め た客 観的 口腔 乾燥 につ いて 、柿 木分 類に 加え 唾液湿 潤度検査とガムテストを施 行して詳細な検索を行ったが、有意差は認めなかった。

  

3

年の 経時 的な 変化 によ り、 口腔 カン ジダ菌 検出 率は 、

63

%か ら

79

%と 有 意な 上昇 を認 めた 。カ ンジ ダ陰 性か ら陽 性に 転じた 被験者において有意に変化 した 関連 因子 は、 口腔 清掃状態

(DI)

であった。また、3年以内の短期間にカンジ ダ菌 を保 菌し た被 験者 は、

3

年以上保菌している被験者に比べ、単独菌種の割合 が有意に高かった。

  

有 床 義 歯 の 使 用 に よ り 、 混 合 菌 種 の 割 合 が 増 加 し 、 そ の 多 く は

Candida albicans

十Candida glabraぬの 組み 合わ せで あった 。義歯床粘膜面のカンジダ 培養結果から、上顎義歯において、口蓋が被覆され、人工歯の歯数がより多く、

−486―

(3)

義歯床粘膜面の面積がより大きな義歯は、カンジダ菌検出率が有意に高くなっ た。また、上顎義歯粘膜面から検出されるカンジダ菌の菌量は、口蓋部よりも 歯槽部に有意に多く付着していた。

    

【考察】

1

.加齢に関して

  

口腔カンジダ菌検出率を前回の調査と同一被験者134人で行った縦断研究で は、約3年の加齢で63%から

79

%と有意な上昇を認めた。口腔カンジダ菌の保 菌状態に関する縦断研究は、著者らが渉猟し得た範囲では報告がなく、しかも、

わずか3年という短期間において同一被験者の口腔カンジダ菌検出率が有意に 上昇したことは、非常に興味深い。また、3年以内の短期間にカンジダ菌を保菌 した被験者は、3年以上保菌している被験者に比べ、単独菌種の割合が有意に高 かった。この結果から、カンジダ菌の保菌初期には単独菌種の割合が高いが、

保 菌 状態 が 長 期間 に なる と 混合菌種 として増殖 することが 示唆された 。

2.

客観的口腔乾燥に関して

  

本研究の結果は、客観的口腔乾燥の指標とした3種類全てにおいて、カンジダ 菌検出率との間に関連は認めなかった。これは、今回の被験者は客観的口腔乾 燥を呈している者が少なかったため、口腔カンジダ菌検出率との問に有意差を 認めなかった可能性が考えられる。今回の被験者は、約80%と高率にカンジダ 菌が検出されているが、口腔カンジダ症を発症している者を除外しているため、

口腔乾燥は口腔カンジダ菌の保菌状態においてよりも、口腔カンジダ症の発症 段階でより強く関連しているものと推測された。

3

.有床義歯に関して

  

本研究では、義歯を上顎と下顎、さらに上顎義歯の粘膜面にっいては歯槽部 と口蓋部に分けて培養した。その結果、カンジダ菌の検出率はどれもほば同じ で、カンジダ菌種についても単独菌種、混合菌種の割合やCandida albicans丶

Candida glabra

ぬなどの検出される菌の菌叢はほば同じであった。また、義歯 の設計との関連については、上顎義歯において、口蓋が被覆され、人工歯の歯 数がより多く、義歯床粘膜面の面積がより大きな義歯は有意にカンジダ菌検出 率が高くなった。さらに、上顎義歯粘膜面の口蓋部と歯槽部を比較してみると、

カンジダ菌検出率には有意差は認めなかったが、菌量に有意差を認め、口蓋部 に比ベ歯槽部に有意に多くのカンジダ菌の付着を認めた。これは、義歯の形状 によるものと推測され、口蓋部が凸面であるのに対し、歯槽部は凹面となるた め、菌が停滞しやすいことと清掃性が悪くなることによるものと考えられた。

ー487 ‑

(4)

    

【結語】.

  

有床義歯の使用は、口腔カンジダ菌の保菌率およぴ菌叢の変化と密接に関連 した因子であることから、今後口腔カンジダ菌対策として義歯の材質、設計、

清掃法を再検討する必要があると思われる。

―488―

(5)

学位論文審査の要旨 主 査    教 授    北 川 善政 副査   教授    柴田健一郎 副 査    教 授    横 山 敦郎

学 位 論 文 題 名

在宅自立高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態に      関する再調査

  審査は、審査担当者 がー同に会し口頭試問の形式により行われた。申請者に本論文の 概要の説明を求め、口 頭試問形式で提出論文の内容及び関連分野について試問した。申 請者は論文の概要を以 下のように説明した。

【背景】以前、我々は在宅自立前期高齢者における口腔カンジダ菌の保菌状態を調査し、

口腔カンジダ菌の検出率は年齢、客観的口腔乾燥の 有無、有床義歯の有無と有意に関連 する こと を報 告した。約3年後の今回、同町で再調査を行う機会を得た。 本研究の目的 は、口腔カンジダ菌の関連因子(特に前回の調査で 有意に関連していた客観的口腔乾燥 と有 床義 歯) に関して詳細に検討しその影響 を明らかにすることと、約3年の経時的変 化 を 縦 断 的 に 検 討 し 、 加 齢 に 関 し て そ の 影 響 を 明 ら か に す る こ と で あ る 。

【対 象】 余市 町の 在宅 自立 高齢 者に 対し 、2012年に実施した口腔健康調 査の際に、明 らか な口 腔カ ンジ ダ症 を認 めな かっ た198人 (男性76人、女性122人、平 均年齢75歳)

を 対 象 と し た 。 な お 、198人 中134人 は 前 回 の 調 査 と 同 一 の 被 験 者 で あ っ た 。

【方法】被験者に対して、質問票を送付し事前に記 入させて口腔健康調査当日に持参さ せた。質問票では、年齢、性別、血液型、全身疾患 、内服薬、飲酒歴、喫煙歴、口腔内 不快症状の有無について調査した。会場での口腔健 康調査では、身長、体重、残存歯の 状態、口腔清掃状態、歯周組織の状態、客観的口腔 乾燥の評価、有床義歯の状態につい て調査した。今回新たに、客観的口腔乾燥の指標と して柿木分類に加え唾液湿潤度検査 とガムテストを、口腔衛生状態の指標として舌背部 の細菌数の測定を追加した。また、

義歯床面積の比較のため規格写真を撮影し、画像解析を行った。カンジダ菌培養検査は、

舌背および義歯粘膜面(上顎義歯粘膜面口蓋部およ び歯槽部、下顎義歯粘膜面歯槽部)

より採取した検体を培養した。

【結果】被験者全体の口腔カンジダ菌検出率は80% で、従来の報告より高めであった。

その なか で、 有床 義歯 使用 者の 検出 率は89%とさらに高率であった。口 腔カンジダ菌 の検出率と保菌状態に関連する因子を検索した結果 、有意差を認めた項目は飲酒歴、残

―489―

(6)

存 歯 数 、 有 床 義 歯 の 有 無 の3っ で あ っ た 。 こ れ ら3項 目 で 多 変 量 解 析 を 施 行 し た と こ ろ 、 有 床 義 歯 の 有 無 の み が 、 有 意 に 関 連 す る 独 立 因 子 で あ っ た ( オ ッ ズ 比3.5) 。 補 綴 物 ご と に 比 較 す る と 、 有 床 義 歯 使 用 者 は 非 使 用 者 に 比 べ 検 出 率 が 有 意 に 高 い 結 果 で あ っ た 。 ま た 、 そ の 菌 叢 を 比 較 す る と 、PD使 用 者 に 比 べFD使 用 者 は £albicans以 外 の 菌 種 の 検 出 率 が 有 意 に 高 か っ た 。 義 歯 粘 膜 面 の カ ン ジ ダ 培 養 結 果 か ら 、 上 顎 義 歯 に お い て 口 蓋 が 被 覆 さ れ 、 人 工 歯 の 歯 数 が よ り 多 く 、 義 歯 床 粘 膜 面 の 面 積 が よ り 大 き な 義 歯 は 、 カ ン ジ ダ 菌 検 出 率 が 有 意 に 高 く な っ た 。 ま た 、 上 顎 義 歯 粘 膜 面 か ら 検 出 さ れ る カ ン ジ ダ 菌 の 菌 数 は 、 口 蓋 部 よ り も 歯 槽 部 に 有 意 に 多 く 付 着 し て い た 。 約3年 の 経 時 的 な 変 化 に よ り 、 口 腔 カ ン ジ ダ 菌 検 出 率 は63% か ら79% と 有 意 な 上 昇 を 認 め た 。 カ ン ジ ダ 陰 性 か ら 陽 性 に 転 化 し た 被 験 者 に お い て 、 有 意 に 変 化 し た 背 景 因 子 は 口 腔 清 掃 状 態 で あ っ た 。 陰 性 か ら 陽 性 に 転 化 し た 被 験 者 の 菌 叢 は 、 前 回 か ら 陽 性 で あ っ た 被 験 者 よ り も 単 独 菌 種 の 割 合 が 有 意 に 高 か っ た 。

【 結 語 】 以 上 の 結 果 よ り 、 今 回 は 口 腔 カ ン ジ ダ 菌 の 検 出 と 客 観 的 口 腔 乾 燥 に 有 意 差 は 認 め な か っ た が 、 有 床 義 歯 の 使 用 お よ び 加 齢 は 口 腔 カ ン ジ ダ 菌 の 保 菌 率 お よ び 菌 叢 の 変 化 と 関 連 し た 因 子 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。

  各 審 査 員 よ り 、 本 研 究 の 背 景 、 方 法 、 結 果 、 結 語 お よ び 関 連 の 研 究 に つ い て 質 問 が な さ れ た 。 主 な 質 問 内 容 は 、 以 下 の 通 り で あ っ た 。

  1) 口 腔 カ ン ジ ダ 症 患 者 と 健 常 な 口 腔 カ ン ジ ダ 菌 保 菌 者 の 保 菌 状 態 の 違 い に つ い て   2) 今 回 の 研 究 対 象 に お い て 口 腔 カ ン ジ ダ 症 患 者 を 除 外 し た 理 由 に っ い て   3) カ ン ジ ダ 培 養 検 査 に お い て 口 腔 内 と 義 歯 粘 膜 面 と の 検 体 採 取 方 法 の 違 い に つ い て   4) 義 歯 か ら の 培 養 の 方 が 舌 か ら の 培 養 よ り 検 出 率 が 低 か っ た 理 由 に つ い て   5) 義 歯 粘 膜 面 の 部 位 別 培 養 で 菌 数 は 歯 槽 部 に 多 い の に 対 し 、 舌 の 培 養 結 果 で は 義 歯     が 口 蓋 を 覆 う と 検 出 率 が 高 く な る 理 由 に つ い て

  6) 義 歯 粘 膜 面 の 部 位 別 カ ン ジ ダ 培 養 結 果 と 、 臨 床 に お け る 口 腔 カ ン ジ ダ 症 発 生 部 位     の 違 い に つ い て

  7) 加 齢 に よ り 新 た に 認 め た 菌 種 は ど こ か ら ど の よ う に 発 生 し た か   8) 今 回 の 研 究 結 果 か ら い え る こ と お よ び 結 果 を 今 後 ど の よ う に 活 か し て い け る か   こ れ ら の 質 問 に 対 し て 、 論 文 申 請 者 か ら 明 快 な 回 答 と 説 明 が 得 ら れ 、 さ ら に 今 後 の 研 究 の 発 展 性 に つ い て も 明 確 な 計 画 を 持 っ て い る と 判 定 し た 。 本 研 究 は 、 高 齢 者 に お け る カ ン ジ ダ 保 菌 状 態 の 新 し い 知 見 を 示 し た も の で あ り 、 そ の 内 容 が 高 く 評 価 さ れ た 。   審 査 委 員 は 全 員 、 本 研 究 が 学 位 論 文 と し て 十 分 値 し 、 申 請 者 が 歯 学 博 士 の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。

―490―

参照

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