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博士(歯学) 山田利恵 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)   山田利恵 学位論文題名

サーモンカルシトニンがメダカ破骨細胞に及ぼす影響

学位論文内容の要旨

  

緒言

  

破骨細胞は骨吸収に関与する多核の巨細胞であり,骨上の吸収窩に面する部 分に光学顕微鏡観察で刷子縁,透過型電子顕微鏡観察で波状縁と呼ぱれる構造 を有し,骨基質を溶解する.哺乳類ではカルシトニン(calcitonin:CT)は破 骨細胞に直接作用するホルモンとして知られている.CTは破骨細胞のカルシ トニン受容体に結合してその波状縁を消失させる結果,破骨細胞が骨表面から 離れるため,骨吸収抑制作用を示す.脊椎動物の系統発生を考えた場合,CT はすべての脊椎動物に存在し,その作用は様々に報告されているが,哺乳類以 外の(汀の役割はよく分かっていない.脊椎動物の系統発生において,骨と破 骨細胞が出現するのは硬骨魚類からであるため,硬骨魚類でCTが破骨細胞に 及ばす影響を調べることは,脊椎動物におけるCTの役割を考える上で重要で ある.このためには硬骨魚類の骨組織より破骨細胞を分離し,培養下で直接

(汀を作用させ,哺乳類の破骨細胞におけるCTの効果と比較することが必要だ が,硬骨魚類の破骨細胞を分離培養した報告はない.本研究はメダカ咽頭骨の 破骨細胞を分離培養する実験系を確立し,咽頭骨の器官培養の実験系と併用 し,サーモンカルシトニン(salmon calcitonin:sCT)がメダカ破骨細胞に及ば す影響を形態学的に明らかにすることを目的とする.

材料と方法

1

)実験動物

  

メダカ成魚をMS222により麻酔し,断頭後,頭部を試料とした.

2

)分離培養

461

(2)

  試料 より採取 した咽頭 骨は,洗浄後,Leibovitz sL‑15培地中で,機械的に破 骨 細 胞を 分 離し た . 細胞 はChamber Slide中に培地 とともに 播種し,24時間培 養後,濃度が10‑6g/ml10‑10g/ml5段階になるように,s(汀を添加し,1または 3時 間 , 室温 , 大気 中 で 培養 し て実 験 群 とし た .sCTを 培 地中 に 添加 しないも の を 対照 群とした. 培養後, 細胞を浸 涜固定し ,酒石酸 耐性酸性 フオスファ タ ーゼtartrate−resistant acid phosphatase  (TRAP)活性反応を検出後,光学顕微鏡に て観察を行った.

3)器官培養

  試料 より採取 した咽頭 骨は,洗浄 後,Chamber Slide中に置き,培地中で濃度 l0‑6g/mllO‑lOg/ml5段階 に なる ようにsCTを 添加し,1または3時 間,室 温 , 大気 中 で培 養 し ,実 験 群と し た .scrを培地 中に添加 しないも のを対照群 と し た. 培 養終 了 後 ,試 料 は浸 漬 固 定し , 脱 灰し た .試 料 はEponに 包埋した 後 ,05mの 準超 薄 切 片を 作 製し , トル イジンブ ルー染色 後,光学 顕微鏡で観 察した.

結 果

1) 分 離 培養

  1時 間 の 培 養 の 対 照 群 にお い て ,TRAP活 性 陽性 反 応 を示 す 細胞 は 細 胞外 形 が 円 形も し くは 楕 円 形を 示 し ,細 胞 質突 起 を 伸長 し てい る 像 が多 数観 察され た . 実 験 群 で は , い ず れのscrの 濃度 で もTRAP活 性 陽 性反 応 を示 す 細 胞は 対 照 群 の細 胞と細 胞外形に差 異は認め られなか った.咽 頭骨より 分離され た咽頭 歯 に 複 数 のTRAP活 性 陽 性 反 応を 示 す 細胞 が 接す る 所 見も 観 察さ れ た .3時間 の 培 養の 対 照群 に お いて も ,TRAP活 性 陽 性反 応 を 示す 細 胞は 細 胞 外形が円 形 も し くは 楕円形 を示し,細 胞質突起 を伸長し ている像 が多数観 察された .実験 群 で は, い ずれ のscrの濃 度 で も対 照 群の細胞 と細胞外 形に差異 は認めら れな か っ た .sCTの 作 用 時 間 にお い て は,1時 間 と3時間 で は 対照 群 ,実 験 群 とも TRAP活 性 陽 性 細 胞 の 大 き さ と 細 胞 外 形 に 差 異 は 認 め ら れ な か っ た . 2) 器 官 培養

  1時 間培 養 の対 照 群 にお い て ,破 骨 細胞は咽 頭骨上で 多核の巨 細胞とし て観 察 さ れ, 骨表面 に刷子縁に より吸収 窩を形成 していた .実験群 では,添 加した sCTの 濃度 に 関わ ら ず ,対 照 群 と同 様 に破骨細 胞は咽頭 骨表面に 刷子縁に より 吸 収 窩を 形成す る多核の巨 細胞とし て観察さ れ,骨表 面から離 れて存在 する破

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骨細胞は認められなかった.

3

時間培養の対照群,実験群でも1時間培養のも のと同様の所見を示していた.また,sCTの作用時間においては1時間と3時 間 で は 破 骨 細 胞 の 形 態 に 著 し い 差 は 認 め ら れ な か っ た .

考察

  

硬骨魚類のsCTの作用に関して,これまでに幾っかの研究があり,scr投与 による骨代謝や,破骨細胞の骨吸収能への影響は様々に報告されている.この 理由のーっとして,これまでに報告されている実験系は鱗の器官培養や,生体 内の血清カルシウム濃度や骨吸収面積の検索であり,生体内の他の細胞や因子 が結果に影響を与えている可能性が考えられる.生体内に存在する細胞を分離 し,培養する方法は特定の細胞を観察するためには有効で,生体内の影響を受 けることなく,外部から与えられた刺激に対する細胞の挙動および形態の変化 を観察できることが利点である.

  

本研究は初めて硬骨魚類の骨組織から破骨細胞を分離培養した報告であり,

この非常に簡便な実験系を用いて,CTがメダカ破骨細胞に及ぼす影響にっい て形態学的に検索した.この実験系の結果はsCTがメダカの破骨細胞の細胞外 形の変化に影響を及ばさないことを示している.また,器官培養における結果 は,scrがメダカの破骨細胞の骨吸収を抑制していないことを示している.以 上のことから,本研究における破骨細胞の分離培養と器官培養の結果は,scr はメダカ破骨細胞に対して骨吸収抑制の作用を示さないことを示唆している.

  

硬骨魚類の鰓にはCT受容体が存在し,crは鰓を介する水中からのカルシウ ム取り込みの調節に関与していることが報告されているユ.メダカにおけるCT 受容体の局在に関する報告はないが,ゼブラフイッシュでは(汀受容体は脳,

脾臓,鰓,腸管,腎臓そして皮膚に局在するという報告があることから,メダ カのCT受容体も鰓に存在し,crは鰓を介するカルシウム取り込みの調節に関 与している可能性が考えられる.

  

硬骨魚類の破骨細胞におけるCT受容体の局在を検索した報告はないため,

メダカの破骨細胞にも(汀受容体が存在しない可能性も考えられる.以上のこ とから,sCTがメダカ破骨細胞に対して骨吸収抑制の作用を示さないことの理 由のーっとして,硬骨魚類のメダカにおけるCTの役割は,哺乳類のそれとは異 なり,破骨細胞による骨吸収を抑制することではない可能性が考えられる.硬 骨魚類には脊椎動物の進化の過程で初めて骨と破骨細胞が出現するため,この

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(4)

種に出現する破骨細胞は系統発生学的に原始的な特徴を有している可能性が考 えられ,哺乳類の破骨細胞が有する

CT

による骨吸収抑制作用を持たないこと が 硬 骨 魚 類 の 破 骨 細 胞 の 特 徴 の ー っ で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ る .

  

結論

  sCT  

はメダカ破骨細胞に対して骨吸収抑制作用を示さないことが示唆され た.その理由のーっとして,硬骨魚類におけるメダカにおけるcrの役割は,

哺乳類のそれとは異なり,破骨細胞による骨吸収抑制の作用ではない可能性が 考えられる.

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(5)

学位論文審査の要旨 主査 副査

副査

教授 教授 特任准教授

土門 網塚 野谷

学 位 論 文 題 名

卓文 憲生 健治

サーモンカルシトニンがメダカ破骨細胞に及ぼす影響

  審査は審 査担当者 全員出席の下,学位申請者から研究内容の説明がなされ,

関連事項 について 口頭試問 が行われた .

  は じめ に , 学位 申 請者 よ り 学位 申 請論 文 は サー モ ンカ ルシト ニン(salmon calcitoninsCT)がメダカ破骨細胞に及ぼす影響を形態学的に明らかにすること を 目的とし て行われ たことが 述べられ た.ついで 研究の背 景,方法 ,結果,考 察 ,結論に ついて以 下のよう な説明が 行われた.

  破骨細 胞は多核 の巨細胞で,光学顕微鏡観察で刷子縁と呼ばれる構造を有し,

骨基質 を溶解す る細胞で ある.カ ルシトニ ン(calcitoninCT)は哺乳 類では,

破骨細 胞のカル シトニン 受容体に 結合し, 刷子縁を消 失させる ため,破 骨細胞 は骨表 面から離 れ,骨吸 収は抑制 される. 脊椎動物で は,哺乳 類以外で のCT 役割は よく分か っていな い.硬骨 魚類にお けるCTの破骨 細胞への 影響を調べる ことは ,脊椎動 物におけ るCTの役割 を考える 上で重要で あるが, 硬骨魚類の破 骨細胞 を分離培 養した報 告はない ,本研究 はメダカ咽 頭骨の破 骨細胞を 分離培 養する 実験系を 確立し, 咽頭骨の 器官培養 と併用し,sCTがメダカ破骨細胞に及 ばす影 響を形態 学的に明 らかにす ることを 目的とし, 以下の方 法で行わ れた.

  メ ダ カ 成 魚 をMS222に よ り 麻 酔 し , 断 頭 後 , 頭 部 を 試 料 と し た .

‑ 465

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  分 離培 養は ,メ ダカの 咽頭 骨よ り機 械的に分離した破骨細胞をLeibovitz s Lー15培地で24時間培養し,scrを10石〜10・10g/mlの濃度で1または3時間培養液に 添 加 し 実 験 群 と し た , 細 胞 を 固 定 後 , 酒 石 酸 耐 性 酸 性 フ オ ス フ ァ タ ー ゼ tartrateーresistant acid phosphatase(TRAP)染色し,光学顕微鏡で観察した.

  器 官培 養はsCTを上記と同様の濃度・時間で添加した培地中で咽頭骨を器官培 養し たも のを 実験 群とし た. その 後, 試料を固定,脱灰,エポン包埋後,準超 薄切 片を 作製し光学顕微鏡で観察した.分離・器官培養ともにsCTを添加しない ものを対照群とした,

  実 験の 結果 ,分 離培養 した 対照 群の 破骨細胞はほば円形の細胞外形を有し,

TRAP陽性 を示 した .実験 群の 破骨 細胞 ではsCTの濃度 ・作 用時 間に 影響される こと なく ,対 照群 と同様 の細 胞外 形を 示し,TRAP陽性であった.器官培養の対 照群 の破 骨細 胞は 刷子縁 を持 ち, 骨に 吸収窩を形成していた.実験群の破骨細 胞はsCTの濃度・作用時間に影響されることなく,対照群と同様に刷子縁を持ち,

骨に吸収窩を形成していた.

  以 上の 結果は,sCTがメダカの破骨細胞の細胞外形の変化に影響を及ばさない こと と,sCTがメダカの破骨細胞の骨吸収を抑制しないことを示している.この 理由 とし て, 哺乳 類では ,破 骨細 胞にcr受容体が存在し,CTは直接破骨細胞に 作用して骨吸収を抑制することから,硬骨魚類には(汀受容体が存在しない可能 性が 考え られ た. また, 硬骨 魚類 の鰓 にはCT受容体が存在し,CTは鰓を介する 水中 から のカ ルシ ウム取 り込 みの 調節 にCTが関与することが報告されているこ とから,同様に,メダカの(汀受容体も鰓に存在し,(汀は鰓を介するカルシウム 取り込みの調節に関与している可能性が考えられる.

  以 上の ことから本論文の結論として,sCTはメダカ破骨細胞に対して骨吸収抑 制作用を示さないことが示唆された.

  以 上の 説明 に引 き続き ,各 審査 担当 者より,本研究の背景,方法,結果,考 察お よぴ 関連 の研 究につ いて 質問 がな された.主な質問内容は以下の通りであ った.

  1)sCTを用いた理由について・

  2)破骨細胞とメカニカルストレスとの関係について.

  3)破骨細胞の鰓におけるCTの役割について,

  4) 哺 乳 類 と 魚 類 の crの ア ミ ノ 酸 配 列 の 相 同 性 に つ い て .   5) 両 性 類 の 破 骨 細 胞 に お け る CT受 容 体 の 存 在 に っ い て .

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これらの質問に対して,学位申請者から明快な回答と説明が得られ,さらに 今後の研究についても発展的な将来展望を示した.

  

以上のことから審査担当者は,本研究は今後のこの分野の研究の発展に大き く寄与するものと判断した.

  

学位申請者は,本研究を中心とした専門分野はもとより,関連分野について も十分な学識を有していることを審査担当者一同が認めた.よって,審査担当 者一同は学位申請者は北海道大学博士(歯学)の学位を授与される資格がある ものと認めた.

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参照

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