博士(歯学)水野貴行 学位論文題名
RANKL に よ る RAW264 . 7 細 胞 の 破骨細胞分化に伴うァポトーシスの誘導
学位論文内容の要旨
緒菖
骨組織は破骨細胞による吸収と骨芽細胞による形成とを繰り返すことで一定の骨量を維 持している。この機能バランスが崩れると様々な病的な骨変化をもたらすことが知られて いる。1998年、破骨細胞の分化と機能を調節する破骨細胞分化因子receptor activator of nuclear factorだBligand (RANKL)が同定された。破骨細胞前駆細胞はRANKLを認識し、
colony―stimurating factor・1(CSF‑1)の存在下で破骨細胞に分化する。破骨細胞前駆細胞か ら分化した単核の破骨細胞は融合して多核の巨細胞を形成して骨を吸収する。破骨細胞に よる骨吸収の亢進は、破骨細胞あたりの骨吸収活性が亢進すること、破骨細胞の数が増加 することおよび破骨細胞の寿命が長くなることによると考えられるが、破骨細胞の寿命に ついては不明な点が多い。そこで未だよく理解されていない破骨細胞の分化と細胞死の関 係について検索した。
材料と方法
RT‑PCR法でRANKL細胞 外ドメイ ンの遺伝 子をプラ スミドpGEXに導入し、pGEXーRANKL を作成し 、BL21 pLysSに可溶 性RANKL (sRANKL)を発現 させて回収した。マウスマクロ ファージ 様細胞株 であるRAW264.7 (RA`W)細胞は、lx104個/cm2になるように調整して 10 %FBSおよび各 種濃度のsRANKLを添加し たaMEMを用い て通法に従 い培養し た。―定 の期間培養した細胞を10%中性ホルマリン溶液にて固定し、通法により酒石酸耐性酸性ホ スフ んタ ―ゼ(TRAP)染色 を行った 。2核以上 のTRAP陽性多核 細胞を破 骨細胞と した。
マンモス牙由来の象牙質切片上にRAW細胞を同様の条件で、sRANKL 200 ng/m|を加えて 培養し、培養8日後に象牙質切片を回収後、走査型電子顕微鏡で観察した。培養液にsRANKL 200n〆mlを加えた添加群と非添加群で、培養2、4、6日目にCe‖CountingKit―8を用いて生
存細胞数、CytoTox―OneTM Homogeneous Membrane Integrity Assayを用いて乳酸脱水素酵素 (LDH)活性およびCaspase一GloTM3/7 Assayを用いてCaspase3/7活性を測定した。同様な条 件 下で、培 養2、4、6日目にそれぞれの細胞から通法に従ってDNAを回収し、臭化エチジ ウム含有1%アガロ―スゲルで電気泳動した。また、培養2、4、6日目に細胞を10%中性ホ ル マリン溶 液にて固定後、Apop Tag'ペルオキシダーゼを用いて、TUNEL染色およびTRAP 染色の二重染色を行った。
結果
今 回 精 製し たsRANKLはRAW細胞 をTRAP染色陽 性多核細 胞に分化 させること を確認し た 。さらに 、誘導されたTRAP陽性多核細胞は象牙質切片上に多数の吸収窩を形成し、骨 の 吸収能を 有することから、これらの細胞は破骨細胞であることが確認された。sRANKL の濃度依存的な効果を評価するために、sRANKL濃度を0丶一丶2000 ng/mlで培養液に添加し、
培養6日目にTRAP陽性多核細胞数を測定した。0丶一丶5ng/mlではTRAP陽性多核細胞は確認 で きなかっ たが、20 ng/mよ り確認さ れ、sRANKLの濃度依存的にその数が増加した。ま た 、sRANKL濃度を200n〆m|と500ng/向 で10日間培養し、TRAP陽性多核細胞数を測定し た。両条件ともにTRAP陽性多核細胞数は6日目をピークに増加した後減少し、10日目には ほ とんど確 認できなかった。とのTRAP陽性多核細胞数の減少について調べるために、生 存 細胞数、LDH活性、Caspase活 性を測定 した。sRANKL濃度 を200ng/mlで培養液に添加 し 、培養2、4、6日目の それぞれ におけるsRANKL非添加群を100%として、RANKL添加群 の 生存細胞 数を比較した。培養2日目の生存細胞数はRANKL非添加群とほぼ同じであった が、培養4日目で約70%、培養6日目で約45%と減少していた。LDH活性の測定結果では、2 日 目、4日目 においてsRANKL添加群と非添加群ともに有意な差は認められなかったが、6 日 目におい て非添加群に比べ添加群で上昇傾向を示した。Caspase3/7活性の測定結果で は、sRANKL添加群におけるCaspase3/7活性は4日目に上昇し、6日目にはさらに増加した。
これらの結果より、アポトーシスの誘導が推測されたので、同様な条件下でDNAの断片化 を 確認した 。sRANKL非添加 群ではDNAの 断片化を認 めなかっ たが、sRANKL添加群の6日 目 よりDNAのラ ダ ーが確 認された 。TUNEL染色とTRAP染色の2重 染色を行っ たところ 、 sRANKL非 添 加群 で はTRAP陽性細 胞、TUNEL陽性 細胞はと もに認め なかった。sRANKL添 加群の4日目にはTRAP陽性多核細胞を認めたが、TUNEL陽性細胞は認めなかった。しかし、
培養6日目のTRAP陽性多核細胞にTUNEL染色陽性を認めた。
考察 ―882―
sRANKL200 ng/ml、500 ng/mlの 濃 度 に お い て 、 培 養6日 目 を ピ ― ク にTRAP陽 性 多 核 細 胞 数 が 減 少 し た 。TRAP陽 性 細 胞 の 融 合 の 結 果 、 細 胞 数 が 減 少 し て い る 可 能 性 も 考 え ら れ る が 、 生 存 細 胞 数 の 減 少 お よ びTRAP陽 性 多 核 細 胞 が 認 め ら れ な く な っ た こ と か ら 細 胞 死 が 生 じ て い る こ と が 考 え ら れ た 。 ま た 、sRANKL濃 度 が200 ng/mlと500 ng/mlの 結 果 でTRAP陽 性 多 核 細 胞 数 に 差 が 生 じ た が 、 そ の 傾 向 に 違 い が 認 め ら れ な か っ た こ と か ら 、 sRANKL濃 度 の 違 い に よ っ てTRAP陽 性 多 核 細 胞 数 の 減 少 が 早 ま る 可 能 性 は 少 な い と 考 え ら れ た 。 培 養4日 目 にCaspase3/7活 性 の 上 昇 が 始 ま り 、 ア ポ 卜 ー シ ス の 誘 導 が 開 始 し て い る こ と を 示 唆 し た 。TRAP陽 性 多 核 細 胞 が ピ ― ク と な る 培 養6日 目 に はDNAの 断 片 化 を 認 め 、 い く っ か の 細 胞 の 核 はTUNEL染 色 陽 性 を 示 し た 。 こ れ ら のCaspase3/7活 性 は さ ら に 上 昇 し 、LDH活 性 も 上 昇 傾 向 を 示 し た 。LDHは 細 胞 膜 破 壊 と と も に 上 昇 す る た め ネ ク ロ ― シ ス に よ っ て も 上 昇 す る が 、6日 目 のLDH上 昇 は 培 養4日 目 に ア ポ ト ー シ ス が 開 始 し た 細 胞 死 に よ る も の と 推 測 さ れ る 。 以 上 の 結 果 か ら 、sRANKLが 作 用 し たRAW細 胞 で は 破 骨 細 胞 に 分 化 す る 過 程 で す で に ア ポ ト ― シ ス の 誘 導 が 始 ま り 、 成 熟 し た 破 骨 細 胞 は 速 や か に ア ポ ト ー シ ス を 生 じ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
結 語
1. GST (GlutathioneーS‑transferase) 融 合 タ ン パ ク 質 と し て 作 成 し たsRANKLはRAW細 胞 を 破 骨 細 胞 に 分 化 さ せ た 。
2.sRANKLの 濃 度 依 存 的 に 破 骨 細 胞 数 が 増 加 し た 。
3.sF狐NKLを 加 え て ― 定 期 間 培 養 し た 破 骨 細 胞 の 数 は 日 数 と と も に 増 加 し ピ ー ク を 迎 え た 後 は 減 少 し た 。
4:sRANKLに よ りRAW細 胞 は 破 骨 細 胞 へ 分 化 す る と 同 時 に ア ポ ト ー シ ス を 誘 導 し た 。
―883―
学位論文審査の要旨
学位論文題名
RANKL によるRAW264 .7 細胞の
破骨細胞分化に伴うァポトーシスの誘導
審 査は、審 査委員全 員の出席の 下に口頭試問の形式により行われた。申請者に対して提 出論文とそれに関連した学科目について試問を行った。審査論文の概要は以下の通りである。
骨組織は破骨細胞による吸収と骨芽細胞による形成とを繰り返すことで一定の骨量を維持 しているが、破骨細胞の寿命については不明な点が多い。本研究は、破骨細胞の基礎研究と し て 、 破 骨 細 胞 の 分 化 と 細 胞 死 の 関 係 に つ い て 検 討 し た も の で あ る 。 初めに、単球系細胞を破骨細胞に分化させる重要な因子receptora而vふrofnucle釘鹹tor膨 Bligand(RANKI,) を分子生 物学的手 法で大腸 菌に作製 させ精製 した。次にこのRANKLは マクロ ファージ 様細胞株 であるRAW細 胞を破骨 細胞のマ ーカーであ る酒石酸耐性酸性ホス ファタ ーゼ(T・RAP)染色に陽性の多核細胞に分化させることを確認した。このT凡廿陽性 多核細胞は象牙質切片上に多数の吸収窩を形成し、骨の吸収能を有することから、これらの 細胞は 破骨細胞 であるこ とが確認 された。RANKLの濃度依 存的な効果 を評価するために、
凡 蜘dー 濃 度 をO〜2000n如nで 培 養液 に 添 加し 、 培養6日 目 にTRAP陽性 多 核細 胞 数 を測 定 した 。0〜5n如1で はTRAP陽性多 核細胞は確 認できな かったが 、20n如dより 確認され 、 凡 い 眦 の 濃 度 依 存 的 に そ の 数 が 増 加 し た 。 ま た 、RANKL濃 度 を200n如dと500n如1で 10日間培 養し、TI廴廿陽性多核細胞数を測定した。両条件ともにTI廴廿陽性多核細胞数は6 日 目 を ピ ー ク に 増 加 し た 後 減 少 し 、 10日 目 に は ほ と ん ど 確 認 で き な か っ た 。 このT凡 廿陽性多核細胞数の減少について調べるために、生存細胞数、LDH活性、Caspase 活 性を 測 定 した 。m丶NKL濃 度 を200n伽1で培 養 液に 添 加 し、 培 養2、4、6日 目のそれ ぞ れ に お け るR鮒0江 非 添 加群 を100% と し て、RANKL添 加 群の 生 存 細胞 数 をCe11Coundng Kjt‐8を用 い て比較 した。培 養2日目の生 存細胞数 はRANKL非添加 群とほぼ 同じであ った が、培 養4日目で 約70%、培養6日目で約45%と減少していた。(MOTox‐OneTMHomogeneouS MembraneIntegr衂A卿 を 用い たLDH活性 の 測 定結果では 、2日目、4日目にお いてRANKIー 添加群 と非添加 群ともに有意な差は認められなかったが、6日目において非添加群に比ベ添
政 明
人
善 邦
正
川 木
村
北 鈴
田
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
加群 で上 昇傾 向を示した。Caspase‑G10TM3/7 Assayを用いたCaspase3/7活性の測定結果で は、RANKL添加 群に おけ るCaspase3/7活性 は4日目に上昇し、6日目にはさらに増加した。
これ らの 結果 より 、アポ トー シス の誘 導が 推測されたので、同様な条件下でDNAの断片化 を 確 認 し た 。RANKIー 非 添 加 群で はDNAの 断 片 化 を 認 め な かっ た が 、RANKL添 加 群 の6 日 目 よ りDNAの ラ ダ ー が 確 認 さ れ た 。TUNEL染 色 とTRAP染 色 の2重 染 色 を 行 っ た と こ ろ 、RANKIー 非添 加群 ではTRAP陽性 細胞 、TUNEL陽 性細 胞は とも に認 めな かっ た。RANKI 添 加 群 の4日 目 に はTRAP陽 性 多 核 細 胞 を認 め たが 、TUNEL陽性 細胞は 認め なか った 。し かし、培養6日目のTRAP陽性多核細胞にTUNEL染色陽性を認めた。
この実験の結果より、RANKIー200 ng/ml、500 ng/mlの濃度において、培養6日目をピーク にTRAP陽 性多 核細 胞数が 減少 した 。TRAP陽 性細 胞の 融合 の結 果、 細胞 数が減少している 可能 性も 考え られ るが、 生存 細胞 数の 減少 およ びTRAP陽 性多 核細 胞が 認められなくなっ たこ とか ら細 胞死 が生じ てい るこ とが 考え られた。また、RANKI 濃度が200 ng/mlと500 ng/mlの結 果でTRAP陽性 多核 細胞 数に 差が 生じたが、その傾向に違いが認められなかった こ と か ら 、RANKL濃度 の違 いに よっ てTRAP陽 性多 核細 胞数 の減 少が早 まる 可能 性は 少な いと 考え られ た。 培養4日目 にCaspase3/7活性が上昇することから、アポトーシスの誘導 が 開 始 し てい る こ と が 示 唆 さ れ 、TRAP陽 性 多核 細胞 がピ ーク となる 培養6日 目に はDNA の断 片化 を認 め、 いくっ かの 細胞 の核 はTUNEL染色陽性を示した。これらのCaspase3/7活 性は さら に上 昇し 、LDH活性 も上 昇傾 向を 示し た。LDHは 細胞 膜破 壊と ともに上昇するた め ネ ク ロ ーシ ス によ って も上 昇す るが、6日 目のLDH上 昇は 培養4日目 にア ポト ーシ スが 開 始 し た 細胞 死 に よ る も の と 推 測 さ れ る 。 よっ てRANKLが 作用 したRAW細 胞で は破 骨細 胞に分化する過程ですでにアポトーシスの誘導が始まり、成熟した破骨細胞は速やかにアポ トーシスを生じることが示唆された。
論文審査にあたって、論文申請者による研究要旨の説明後、本研究ならびに関連する研究 について口頭試問を行った。主な質問事項は、1)細胞増殖と分化の違い、2)DNAの断片化 の機序、3)単球/マクロファージから破骨細胞が誘導される機序、4)可溶性RANKLの性質 とRANKIーの作成方法、等であった。これらの質問に対して申請者から適切かつ明快な回答、
説明が得られ、研究の立案と遂行、結果の収集とその評価について申請者が十分な能カを有 し てい るこ とが 確認 され た。本研究は、RANKLによる破骨細胞への分化と同時にアポトー シス誘導の可能性を示したものであり、その内容が高く評価された。申請者は、関連分野に も幅広い学識を有していると認められ、さらに発展的研究へのモチベーションも高く将来性 についても評価された。本研究業績は再生治療のみならず関連領域にも寄与すること大であ り、博士(歯学)の学位に値するものと認められた。