博士(歯学)宮田康一 学位論文題名
骨形成蛋白質による異所性骨形成へのビタミン C の影響
(Ascorbic acid regulates bone morphogenetic protein (BMP) ‑induced ectopic osteogenesis)
学位論文内容の要旨
【緒言】
ピタミンCは,コラーゲンのプロリン残基が粗面小胞体で水酸化される過程で,抗酸化 剤として作用し,プ口リン水酸化酵素の酵素活性を安定化する,このプ口リン水酸化酵素 が不活化した場合,コラーゲンは細胞内で三重鎖構造を形成できず分解するため,生体内 におい てピタミ ンC欠乏状 態が継続すると粗面小胞体の発達やコラーゲン合成が阻害さ れ,細胞間基質のコラーゲン線維が減少する.ピタミンCの骨組織へおよぽす影響につい ては,臨床的に病的骨折や骨量の減少,さらには老人の骨粗鬆症に関与する可能性が示唆 されている,また,実験的にも,ピタミンCの欠乏tま骨組織の修復や改造に障害を与える ´
こ と が 示 唆 さ れ て いる が ,そ の 詳 細な 作 用機 序 に つい て は未 だ 不 明な 点 が 多い , そこで 今回,未 分化間葉 細胞が骨形成蛋白質(BMP)によって軟骨芽細胞もしくは骨芽 細胞に分化誘導される場合,ピタミンCがその分化誘導過程におよぼす作用の詳細につい て明らかにするために,L‑gulonolactone oxidase遺伝子が欠損しており,ピタミンC欠乏症 状を示 すo搬辺ラ ットを用 いてBMPによる 異所性骨 形成過程 を病理組織学的,組織計量 学的および生化学的に検索した.
【材料と方法】
実験動物には,生後6週齢の雄性Wistar系ODS(岱簡g師cDisordeトSmonogi)ラット30 匹を用いた.実験群は〇批 dラット(15匹)とし,対照群は正常遺伝子を保持している十/十 ラット(15匹)とした
実験では,不溶性骨基質(IB的20mgにrhBMP・2(2ルg/30ルl)を含浸したべレット体を ラットの背部皮下に埋入した。
ペレット体埋ヌ1,2,3,4週後に各群3匹づっ安楽死させ,摘出した埋入物を組織検索用
および生化学分析用の試料とした.
組織検索用の試料は,10%中性緩衝ホルマリンにて固定後,lOワ。EDTA (pH7.4,4℃)で脱灰,
通 法 に従 い パ ラ フィ ン 包 埋し ,5ルmの 連 続切 片 を 作製 し た .染 色 法 は ヘマ ト キ シリン・
工 オ ジ ン(HE)染 色 , ア ザ ン ・ マ ロ リ ー(AM)染 色 , ア ル シア ン プ ルー 染 色 ,ト ル イ ジン ブル ー(pHワ .o) 染色を 用いた. これらの脱灰標本は,光学顕微鏡を用いて,骨の性状およ び骨の形成過程について病理組織学的に検索した
生化 学 分 析 では , ベ レッ ト体埋 入2,4週 後の摘出 物を試 料とし, 各埋入物 におけ るアル カ リ ホ ス フ ァ タ ー ゼ(ALP)活 性 ,カ ル シ ウム 含 有 量 ,II型 コラ ー ゲ ン含 有 量 につ い て 検 索した.
な お ,ocUodラ ッ ト に 関 し ては 生 後4週 よ りLlア ス コ ルピ ン 酸3mgを 週に 一 度 経口 投 与 し,慢性ピタミンC欠乏状態を維持した
【結果】
実験 期 間 中 のODSラッ ト の 体重 は , 対照 群 で は経 時 的に 増加して いたが, 実験群 では生 後7週目以降体重の増加は認められなかった. ´
血 清中ピタ ミンC含量は ,対照群 では実 験期間を 通じほぼ 一定の 値を値を 示して いたが、
実 験 群 で は 実 験 期 間 を 通 じ て 検 出 基 準 以 下 で ピ タ ミ ンC欠 乏 状 態 が 維 持 さ れ て い た:
組織 学 的 に |ま , 対 照群 では, 術後1週目に おいて,IBM表 面での旺 盛な軟 骨新生お よび 軟 骨 内骨 化 が み られ ,2週目 に はIBM周 辺で の 骨 芽細 胞 に よる 活 発 な 骨新 生 が 観察 された ま た , 4週 日 に は 新 生 骨 骨 組 織 に 骨 髄 様 の 構 造 が み ら れ る よ う に な っ た 一方 , 実 験 群で は , 術後1週 日に はIBM表 面 での 軟 骨 新生 は 対 照 群に 比 し 著し く減 弱し て お り , 軟 骨 細 胞 の 肥 大 化 は 阻 害 さ れ2週 日 に はIBM周 辺 で の 骨 新 生 は 障 害 さ れ そ の 新 生 骨 辺 縁 に み ら れ る 骨 芽 細 胞 は 萎 縮 し , 数 も 少 な か った ま た ,3週 日 にはIBM周 辺 に お い て骨 新 生 が 認め ら れ たが, 骨組織に みられ る封入細 胞は少 なく,そ の辺縁 に認めら れ る 骨 芽 細 胞 も2週 と 同 様 に 萎縮 し , 数も 少 な く, 骨 新 生 量は 対 照 群に 比 し 少な か っ たそ の 後 ,4週 目 に はIBM周 辺に3週 と同 様 の 骨組 織 が 認 めら れ た が, 辺 縁 には 殆 ど 骨芽 細 胞 はみられず骨新生の増加傾向も認められなかった.
組織 計 量 学 的に は , 対照 群では 軟骨新 生量は術 後1〜2週 日にかけ て急激に 減少し た.一 方 , 実験 群 で は 術後1週 日の 軟 骨 新生 量 は 対照 群 に 比し 著 し く少 な い も のの , 術後2週日 で は 対照 群 に 比 し有 意 に 多くの 軟骨新生 が認め られた. また, 骨新生量 につい ては,組 織 学的 に,実 験群にお いて術 後1,23,4週 目で, 対照群に 比し著 しく少なく,組織計量学的に も, 形成さ れた骨組織の量は,対照群との間に術後1,2,3,4週目で有意な差が認められた.
生化学的には,実験群では対照群と比較して,2週目ではALP活性が約80%減少し,カ ルシウム含有量は殆ど認められなかった.また,u型コラーゲン含有量は,実験群が対照 群より多い傾向を示した,
【考察】
組織学的検索では,ピタミンC欠乏状態において軟骨内骨化は阻害され,骨芽細胞の数 は少なく,骨形成過程も障害されていたが,このような所見はthBMP‑2による異所性骨形 成 過 程 に は ピ タ ミ ン Cが 関 与 し て い る こ と を 示 す も の と 考 え ら れ た , 組織計量学的には,ピタミンC欠乏状態において,軟骨新生および軟骨内骨化が阻害さ れてい たが,こ のような所 見はthBMP‑2による未分化間葉細胞から軟骨細胞への分化お よび軟骨細胞の肥大化が阻害されたことによるものと推察された,また,骨新生も著しく 抑制されていたが,このような所見tま未分化問葉細胞から骨芽細胞への分化および骨芽細 胞の機能が抑制されたため,骨基質形成にも障害が生じたことを示唆するものと考えられ た.
生化学的には,術後2,4週日では,実験群におけるALP活性およびカルシウム含有量は 対照群に比し著しく低い値を示していたが,このような所見は,ビタミンC欠乏状態にお いて未 分化間葉 細胞から分 化する骨芽細胞が少ないため,摘出物におけるALP活性が低 く,また新生骨辺縁の骨芽細胞によって産生されるコラーゲンが少なく,産生したコラー ゲン線維の成熟も障害されるため,骨基質へのカルシウム沈着が阻害されたことを示すも のと考えられた.また,術後2週日におけるII型コラーゲン含有量は,実験群が対照群よ り多い傾向を示していたが,このような所見tま,ピタミンC欠乏状態において,軟骨細胞 の 肥大 化が阻害 され,軟 骨内骨化 の障害が 生じてい ることを 示すものと 推察され たl
【結論】
ln vivoにおいてピタミンCが欠乏した場合,IBM‑rhBMP・2複合体による異所性骨形成過 程は障害されることが明らかになった.骨形成の障害には,ピタミンC欠乏状態による未 分化問葉細胞の骨,軟骨形成細胞への分化,増殖抑制に基づく骨,軟骨新生の障害が大き な要因となっていることを示唆するものと考えられた.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
骨形成蛋白質による異所性骨形成へのビタミン C の影響
(Ascorbic acid regulates bone morphogenetic protein (BMP) ‑induced ectopic osteogenesis)
審 査 は ,3名 の審 査 員を 一同 に介 して 行わ れた 試験 は口 頭試 問の 形式 で, 学 位申 請論 文 の 内 容 と そ れに 関連 した 学科 目に つい て行 われ たI以 下に 提出 論文 の要 旨と 審 査の 内容 を 述 べ る .
ピ タ ミ ンCの 骨組 織ヘ 及ば す影 響に つい ては , 臨床 的お よび 実験 的に 多く の知 見が 蓄積 され てい るが ,そ の詳 細な 作用 機 序に つい ては 未だ 不明 な点 が多 い. 本研 究では, 未分化 間 葉 細 胞 が 骨 形 成 蛋 白 質(BMP)に よ っ て 軟 骨 芽 細 胞 も し く は 骨 芽 細 胞 に分 化誘 導さ れる 場 合 , そ の 分 化誘 導 過程 にお ける ピタ ミンCの 作 用に つい て明 らか にす るこ とを 目的 とし た.
実 験 動 物 に は , 生 後6週 齢 の 雄 性Wistar系ODSラ ッ ト30匹 を 用Vゝ た 実 験 群 はL‑
gulonolactone oxidase遺伝 子が 欠損 して おり ,ピ タミンC欠乏症状を示すod!odラッ ト(15 匹 ) , 対 照 群 は 正 常 遺 伝 子 を 保 持 し て い る十/十ラ ット(15匹 )と し,2群 間 でBMPに よる 異 所 性 骨 形 成 過 程 を 病 理 組 織 学 的 , 組 織 計 量 学 的 お よ び 生 化 学 的 に 比 較 し たI 実 験で は, 不溶 性骨 基質(IBM) 20 mgにthBMP‑2(2ルg/30ル1) を含 浸し たぺレッ ト体を ラットの背部皮下に埋入した.ベレット体埋 入1,2,3,4週後に各群3匹 づっ安楽死させ,摘 出 し た 埋 入 物 を 組 織 学 的 検 索 用 お よ び 生 化学 的 分析 用の 試料 とし た組 織学 的検 索用 の試 料は; 10%中性緩衝ホルマリンにて固定後,lOt70EDTA (pH7.4,4℃)で脱灰,通法に従いバラ フ ィ ン 包 埋 し ,5ルmの 連 続 切 片 を 作 製 し た 染 色 法 は ヘ マ ト キ シ リ ン ・ エ オ ジ ン(HE)染 色等 を施 し, 骨の 性状 およ び骨 の 形成 過程1こ っい て病理組織学的に検索した.生化 学的分 析で は, ペレ ット 体埋 入2,4週 後 の摘 出物 を試 料と し, 各埋 入物 にお ける アルカリ ホスフ ア タ ー ゼ(ALP)活 性 , カ ル シ ウ ム 含 有 量 ,H型 コ ラ ー ゲ ン 含 有 量 に つ い て 検 索 し た な お ,otVodラ ッ 卜 に 関 し て は 生 後4週 よ り し ア ス コ ル ピ ン 酸3mgを 週に 一度 経口 投与 し,慢性ピタミンC欠乏状態を維持した.
学
男 明
隆 邦
田 後
木
森 向
鈴
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
組織学的には,対照群では,術後1週日において,IBM表面での旺盛な軟骨新生および 軟骨内骨化がみられ2週日にはIBM周辺での骨芽細胞による活発な骨新生が観察された,
また,4週目には新生骨骨組織に骨髄様の構造がみられるようになったI一方,実験群では,
術後1週 目にはIBM表 面での軟 骨新生は 対照群に比し著しく減弱しており,軟骨細胞の 肥大化は阻害され,2週日にはIBM周辺での骨新生は障害され,その新生骨辺縁にみられ る骨芽 細胞は萎 縮し,数 も少なか ったまた,3週日にはIBM周辺において骨新生が認め られたが,骨組織にみられる封入細胞は少なく,その辺縁に認められる骨芽細胞も2週と 同様に萎縮し,数も少なく,骨新生量は対照群に比し少なかったその後,4週日にはIBM 周辺に3週と同様の骨組織が認められたが,辺縁には殆ど骨芽細胞はみられず,骨新生の 増加傾向も認められなかった
組織計量学的には,対照群では軟骨新生量1ま術後1 ‑‑‑2週目にかけて急激に減少した一 方,実験群では術後1週目の軟骨新生量は対照群に比し著しく少ないものの,術後2週目 では対照群に比し有意に多くの新生軟骨が認められた,また,骨新生量については,実験 群において術後1,2,3,4週目で,対照群に比し著しく少なく,どの週でみても,対照群との 間に有意な差が認められた.
生化学的には,実験群では対照群と比較して,2週目ではALP活性が約80%減少し,カ ルシウムの含有は殆ど認められなかった.また,H型コラーゲン含有量は,実験群が対照 群より多い傾向を示した.
以上の結果から,ピタミンCが欠乏した場合,IBM‑rhBMP・2複合体による異所性骨形成 過程は遅延することが明らかになった.骨形成の遅延には,ピタミンC欠乏状態による未 分化間葉細胞の骨,軟骨形成細胞への分化,増殖抑制に基づく骨,軟骨新生の障害が大き な要因となっていることを示唆するものと考えられた.
論文の審査にあたっては各審査委員と申請者の間で,本論文の内容とその関連事項につ いて質疑応答がなされた.設間は未分化間葉細胞を対象とした組織学的研究を行うことの 意義,病理組織学的・生化学的検索法,本研究と予防歯科領域との関連について詳細にわ たって行われ申請者はそれぞれに的確に解答し,考察・展望について明確に言及した,本 研究で得られた基礎的実験の手法を臨床応用する展望についても深く考察しており,将来 性の高いものと評価された従って本論文申請者は博士(歯学)にふさわしいものと認め られた.