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中国語の結果補語構造における下位カテゴリーの研究 : <限界性>の観点から

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Academic year: 2021

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Title 中国語の結果補語構造における下位カテゴリーの研究 : <限界性>の観点から

Author(s) 楊, 安娜

Issue Date 2017-03-23

DOI 10.14943/doctoral.k12515

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/68579

Type theses (doctoral)

File Information Yang_Anna.pdf

(2)

博士学位申請論文

中国語の結果補語構造における

下位カテゴリーの研究

――〈限界性〉の観点から――

専 攻:言語文学

学生番号:05105026

氏 名:楊 安娜

(3)

凡 例

・ * は当該の文が統語的に、非文であることを表す。 ・ # は当該の文が語用論的に、不適格であることを表す。 ・ ? は当該の文の許容度が低いことを表す(許容度の低さがどのレベルの要因によるも のなのかは問題としない)。 ・「 」は日本語の引用句であることを表す。 ・ “ ”は中国語、または英語の引用語句であることを表す。 ・〈 〉は意味・機能概念を表す。 ・ 文法成分については次のような略称を用いる。 S=主語 (subject) V=動詞 (verb) R=結果補語 (resultative) C=補語 (complement) O=目的語 (object)

Oi=間接的目的語 (indirect object) Od=直接的目的語 (direct object) N=名詞 (noun) ・先行研究は、例えば“朱德熙(1981)”のように、著者名・発表年代を示す(さらに頁数を付 加することもある)。著者名については、日本人、欧米人は姓のみを、中国人は姓名を示 す。 ・ 本稿に取り上げる用例について * 出典を明記していない用例は筆者による作例である。 * 作 例 以 外 の 用 例 は CCL( 中 国 北 京 大 学 漢 語 語 言 学 研 究 中 心 の 中 国 語 コ ー パ ス http://ccl.pku.edu.cn:8080/ccl_corpus)によるものであり、( )内にその出典示す。原 則として著者名(訳者名等)、作品名を示すが(例えば「(CCL・老舍《龙须沟》)」),雑 誌などの場合は雑誌名のみを示す(例えば「(CCL・《报刊精选》)」)。 * 用例の日本語訳は、特に断らない限り、筆者によるものである。 * 引用文の中の「……」は、特に断らない限り、筆者による省略を意味する。 * 引用文における漢字の字体(簡体字または繁体字)及び記号の表示は、原文に従う。 ・ 中国語用例の文法性判断については、基本的に筆者自身(30 代,女性,大連市出身)に基 づくが、その他適宜、中国出身の複数のインフォーマントの協力を得た。とりわけ、第 3 章の用例については、中国北方出身の 10 名のインフォーマントの文法性判断に基づいた。

(4)

i

目 次

序章 動補構造について

... 1

0.1. 本論文の研究対象及び研究背景 ...

1

0.2. 「補語」についての概観 ...

3

0.2.1. 「補語」の定義 ...

3

0.2.2. 「補語」の分類 ...

4

0.2.2.1. 朱德熙(1982)の分類 ...

4

0.2.2.2.刘月华他(1983/2001)の分類 ...

5

0.2.3. 本論文の立場 ...

7

0.3. 本論文の構成 ...

8

第1章 VR 構造に関する先行研究 ...

10

1.1. 結果補語(R)の定義 ...

10

1.2. VR 構造に関する先行研究 ...

10

1.2.1 先行研究の焦点 ...

10

1.2.1.1. 形成レベルの問題 ...

11

1.2.1.2. 「主要部」の位置の問題...

11

1.2.1.3. 使役義の由来の問題 ...

11

1.2.2. 先行研究の成果 ...

12

1.3. 〈限界性〉の観点 ...

14

1.4. VR 構造の下位分類 ...

18

1.4.1. 先行研究における VR 構造の下位分類 ...

18

1.4.2. 本論文の分類 ...

19

第2章 従属節に生起する VR 構造―“VR 了的 N”における VR 構造― ...

22

2.1.問題提起 ...

22

2.2.三宅(1991)における考察および問題点 ...

23

2.2.1. 三宅(1991)の考察 ...

23

(5)

ii 2.2.2.三宅(1991)の問題点 ...

25

2.3. VR 構造の二次的分類 ...

28

2.4. “VR(了)的 N”構造における“了”の生起状況についての調査 ...

29

2.4.1.

生起可否についての

インフォーマント調査 ...

29

2.4.2. 生起頻度についてのコーパスによる用例調査 ...

36

2.5.“VR 了的 N”構造における“了”の生起条件に関与する要因 ...

38

2.6.第 2 章のまとめ ...

41

第3章 主節に生起する VR 構造―動詞コピー構文における VR 構造― ...

42

3.1. 先行研究における問題点 ...

42

3.1.1. 動詞コピー構文における目的語(O)の指示性(semantic referentiality) に関する問題 ...

42

3.1.2.動詞コピー構文における動詞「重複」に関する問題 ...

44

3.1.3.動詞コピー構文の意味機能に関する問題 ...

44

3.2. 先行研究における動詞コピー構文の分類 ...

45

3.3. 本論文の分析 ...

47

3.3.1. 本論文の動詞コピー構文の分類 ...

47

3.3.2.「非使役義コピー構文」と「使役義コピー構文」の関連性 ...

52

3.3.3. 使役義動詞コピー構文の〈使役義〉について ...

53

3.4. VR 構造が動詞コピー構文に生起する状況 ...

56

3.5.第 3 章のまとめ ...

58

第4章 VR 構造の個別研究 ...

60

4.1. “V 完”と“V 过1”の機能の相違 ...

61

4.1.1. “V 完”と“V 过1”の意味機能に関する先行研究と問題点 ...

61

4.1.1.1. 朴鐘漢(1997/2000) ...

62

4.1.1.2. 朱継征(1999) ...

63

4.1.1.3. 張岩紅(2006) ...

66

4.1.2.本論文の分析 ...

68

4.1.2.1. “V 完”と“V 过1”の統語機能の相違 ...

68

4.1.2.2. “V 完”と“V 过1”の意味機能の相違についての仮説 ...

70

(6)

iii 4.1.3. まとめ ...

81

4.2. “V 好”と“V 完”の機能の相違 ...

82

4.2.1. “V 好”の〈完成義〉の顕在化条件に関する先行研究と問題点 ...

83

4.2.1.1. 藤田(1993) ...

83

4.2.1.2. 鲁晓琨(1995) ...

84

4.2.2.“V 好”の〈完成義〉の顕在化条件 ...

85

4.2.2.1. “V 好”の〈完成義〉が顕在化する語彙レベルの条件 ...

85

4.2.2.2. “V 好”の〈完成義〉が顕在化する構文レベルの条件 ...

92

4.2.3.〈完成義〉が顕在化する場合における“V 好”と“V 完”の機能の相違 ....

96

4.2.4. まとめ ...

99

4.3. 第 4 章のまとめ ...

100

第5章 “V 到”構造と方向補語構造の機能差異 ...

102

5.1.中根(2005,2008)と杉村(2011)における主な観点 ...

102

5.2. 〈過程性〉についての問題 ...

103

5.2.1.中根(2005,2008)の主張及び問題点 ...

103

5.2.2.VxY の〈過程性〉に対する杉村(2011)の見解 ...

104

5.3. 〈限界性〉についての問題(Y の役割) ...

105

5.4. “正”、“在”、“正在”との共起問題について ...

106

5.4.1.中根(2005,2008)の分析 ...

107

5.4.2. 杉村(2011)の分析 ...

108

5.4.3.本論文の分析 ...

109

5.5.第 5 章のまとめ ...

116

第6章 本論文の結論と今後の課題 ...

118

参考文献一覧 ...

122

(7)

- 1 -

序章 動補構造について

0.1. 本論文の研究対象及び研究背景

本 論 文 は 、 現 代 中 国 語 に お け る 「 動 補 構 造 」 と い う 文 法 範 疇 の 下 位 カ テ ゴ リ ー で あ る「 結 果 補 語 構 造 」(verb-resultative construction,以 下 は VR 構 造 と 表 記 す る ) を 研 究 対 象 と す る 。 補 語 と は 、 文 法 成 分 の 一 つ で あ り 、 主 と し て 動 詞 や 形 容 詞 か ら な り 、 述 語 動 詞 の 直 後 に 位 置 し 、 そ の 述 語 動 詞 が 指 示 す る 事 態 の 結 果 や 状 態 を 表 す 。 補 語 と 前 項 動 詞 か ら 形 成 さ れ る 文 法 構 造 は 動 補 構 造 (VC 構 造 と 記 す )と 呼 ば れ て い る 。1補 語 に 関 す る 定 義 は 本 論 文 の 0.2.3 で 行 な う こ と と し 、 本 節 で は 、 動 補 構 造 に 関 す る 研 究 に つ い て 概 説 す る 。 「 動 補 構 造 」 に 関 す る 研 究 は す で に 半 世 紀 余 り 経 っ て い る 。 現 在 尚 中 国 語 研 究 の 重 要 な 課 題 と し て 、数 多 く の 研 究 者 の 関 心 を 集 め て い る 。例 え ば 、「 日 本 中 国 語 学 会 」の 学 会 誌 で あ る『 中 国 語 学 』に は 、1966 年 に 発 表 さ れ た 大 内 田 三 郎 の「 補 語 構 造 を 示 す “个 ”に つ い て 」 か ら 始 ま り 、 2016 年 ま で 補 語 に 関 す る 論 文 が 45 本 以 上 収 め ら れ て い る 。 な お 、 中 国 や そ の ほ か の 地 域 で 発 表 さ れ た 論 考 は 枚 挙 に 暇 な い 。こ れ ら の 研 究 に よ っ て 、動 補 構 造 に 関 す る 重 要 な 問 題 が 次 々 と 解 明 さ れ た 。 例 え ば 、 通 時 的 観 点 か ら み れ ば 、 動 補 構 造 は 現 代 中 国 語 に は 存 在 す る が 、 上 古 漢 語 (殷 ~ 前 漢 )に は 存 在 し な い と い う 事 実 は 、 古 代 語 と 現 代 語 の 構 造 面 で 大 き な 差 異 の 一 つ と み な さ れ て い る 。 上 古 漢 語 で は 、 主 に 能 格 動 詞 (ergative verb)の 他 動 詞 的 用 法 を 用 い て 、 動 作 主 体 が 対 象 に 何 ら か の 状 態 変 化 (結 果 )を 起 こ さ せ る と い う 使 役 的 な 事 態 を 表 す が 、 そ の 結 果 を 引 き 起 こ す 手 段 や 方 式 に 関 す る 意 味 内 容 は 欠 け て い る 。 中 古 初 期 (後 漢 )以 降 に 成 立 し た と さ れ る 動 補 構 造 は あ る 動 作 に 内 1「 動 補 構 造 」 と い う 命 名 は 品 詞 レ ベ ル と 意 味 レ ベ ル の 混 交 で あ る た め 、「 述 補 構 造 」 と い う 用 語 を 用 い る 学 者 も い る (陆 俭 明 1990,袁 毓 林 1999 な ど )。ま た 、そ も そ も「 補 語 」 と い う 用 語 は 当 該 構 造 の 文 法 的 機 能 の 本 質 を 反 映 し き れ な い た め 、「 二 次 的 述 語 (secondary predication)」と い う 用 語 を 提 案 し た 学 者 も い る (金 立 鑫 2009)。だ が 、多 く の 研 究 者 に 共 有 さ れ て い る 現 状 を 考 慮 し 、 本 論 文 は 、「 動 補 構 造 」 と い う 伝 統 的 な 用 語 を 採 用 す る 。

(8)

- 2 - 包 さ れ る cause-effect と い う 二 つ の 意 味 素 を 別 々 に 叙 述 す る よ う に な っ た 。 さ ら に 、 動 補 構 造 の 研 究 は 、 他 の 文 法 表 現 の 歴 史 的 形 成 の 解 明 に も 役 に 立 つ と 思 わ れ る 。 例 え ば 、 現 代 中 国 語 に お け る ア ス ペ ク ト 接 辞 “了 ”、 “着 ”、 “过 ”お よ び 情 態 助 詞 “得 ”の 文 法 化 、 “把 ”構 文 、 動 詞 コ ピ ー 構 文 、 新 型 話 題 構 造 の 成 立 な ど は 、 動 補 構 造 と 深 く 関 わ っ て い る 。 (石 毓 智 2002) 類 型 論 的 観 点 か ら み れ ば 、 動 補 構 造 の 発 展 は 、 中 国 語 の 動 詞 を 総 合 性 の 高 い も の か ら 分 析 性 の 高 い も の へ 転 換 を 促 進 さ せ た 。 ま た 、 現 代 中 国 語 は 日 本 語 や 、 フ ラ ン ス 語 な ど の よ う な 動 詞 枠 付 け 言 語 (Verb-framed language)と 異 な り 、 英 語 や ド イ ツ 語 な ど の 言 語 と 同 様 、衛 星 枠 付 け 言 語 (Satellite-framed language)で あ る と い う 主 張 の 根 拠 の 一 つ と し て 、動 補 構 造 は し ば し ば 取 り 上 げ ら れ る 。(Talmy2000, 柯 里 思 2003, ラ マ ー ル 2008 な ど ) 共 時 的 観 点 か ら み れ ば 、 動 補 構 造 は 現 代 中 国 語 に お い て 重 要 な 文 法 構 造 の 一 つ で あ る 。 そ れ は 語 (e.g.“提 高 (高 め る )”)、 フ レ ー ズ (e.g.“洗 干 净 (き れ い に 洗 う )”)、 構 文 (e.g.“他 把 苹 果 吃 完 了 。(彼 は リ ン ゴ を 全 部 食 べ た )”)な ど 、様 々 な 文 法 レ べ ル に 生 起 す る 。な お 、邵 敬 敏 (1982)が 指 摘 し た 中 国 語 の 6 つ の 基 本 的 動 詞 文 ― V, VO, VOiOd, VC, VOC, VCO の う ち の 三 つ に も 動 補 構 造 が 関 与 し て い る 。2

上 述 の よ う な 研 究 に よ っ て 、我 々 は 動 補 構 造 の 発 生 過 程 や 文 法 化 の メ カ ニ ズ ム 、 及 び 現 代 中 国 語 に お け る 位 置 づ け な ど の 問 題 に 対 す る 認 識 が 深 ま り つ つ あ る が 、 動 補 構 造 の 個 別 的 な 下 位 カ テ ゴ リ ー に 関 す る 研 究 は ま だ 十 分 と は 言 え な い 。 現 代 中 国 語 に お け る 動 補 構 造 に つ い て い え ば 、 何 れ も [ 動 作 ― 結 果 ] と い う 意 味 構 造 を 持 つ と 分 析 さ れ う る が 、そ の 下 位 カ テ ゴ リ ー は 決 し て 一 枚 岩 で は な い 。例 え ば 、 結 果 補 語 、 方 向 補 語 、 程 度 補 語 な ど は 「 結 果 」 の 表 現 方 法 が 異 な る た め 、 前 項 動 詞 と の 結 合 の 緊 密 さ 、 目 的 語 と の 統 語 的 位 置 関 係 、 他 の 文 法 成 分 と の 共 起 関 係 な ど の 面 に お い て 、 異 な る 特 徴 を 呈 し て い る 。 動 補 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー に 対 す る 記 述 ・ 分 析 な し で は 、 こ れ ら の 文 法 現 象 の 解 明 は 不 可 能 で あ る 。 そ し て 、 動 補 構 2 邵 敬 敏 (1982)は そ れ ぞ れ 次 の よ う な 具 体 例 を 挙 げ て い る 。 V(e.g. “ 敌 人 失 败 了 (敵 が 失 敗 し た )”),VO(e.g.“ 学 过 汉 语 (中 国 語 を 習 っ た こ と が あ る )”),VOiOd(e.g. “ 教 我 数 学 (私 に 数 学 を 教 え る )”),VC(e.g. “ 走 了 出 去 (歩 い て 出 て い っ た )”),VOC(e.g. “ 放 了 两 本 书 在 桌 子 上 (二 冊 の 本 を テ ー ブ ル の 上 に 置 た )”), VCO(e.g. “ 学 了 三 年 中 文 (中 国 語 を 三 年 間 習 っ た )”)

(9)

- 3 - 造 下 位 カ テ ゴ リ ー の 研 究 を 通 じ て 、 中 国 語 動 補 構 造 の 体 系 化 に 貢 献 す る こ と も 期 待 さ れ る 。 本 論 文 は 動 補 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー の 中 の VR 構 造 を 研 究 対 象 と す る 。 理 由 は 以 下 の 2 点 が 挙 げ ら れ る 。 (ⅰ ) VR 構 造 は 動 補 構 造 の プ ロ ト タ イ プ と 位 置 づ け ら れ て お り 、 VR 構 造 の 特 徴 を 明 ら か に す る こ と で 、動 補 構 造 全 体 像 の 解 明 も 可 能 に な る と 思 わ れ る 。実 際 の と こ ろ 、従 来 動 補 構 造 に 関 す る 研 究 の う ち VR 構 造 を 中 心 に 扱 う も の が そ の 大 半 を 占 め て い る と い う 現 状 が VR 構 造 研 究 の 重 要 性 を 示 唆 し て い る 。 (ⅱ ) VR 構 造 に 関 す る 研 究 (通 時 的 研 究 を 含 む )に は 夥 し い 蓄 積 が あ り 、 関 連 す る 成 果 や 調 査 デ ー タ が 豊 富 に 存 在 し 、 本 格 的 な 研 究 を 行 う 条 件 が 整 っ て い る 。 本 論 の 本 題 に 入 る 前 に 、 議 論 の 前 提 と し て 現 代 中 国 語 の 「 補 語 」 を 概 観 し 、 そ し て 動 補 構 造 に お け る VR 構 造 の 位 置 づ け に つ い て 確 認 し て お き た い 。

0.2.「補語」についての概観

「 補 語 」 の 細 部 の 定 義 及 び そ の 分 類 に つ い て は 、 研 究 者 間 で 出 入 り が あ る 。 以 下 は 代 表 的 な も の を 紹 介 し て お く 。

0.2.1.「 補 語 」 の 定 義

丁 声 树 他 (1963)は 、 “补 语 是 动 词 或 形 容 词 后 面 的 补 充 说 明 成 分 (補 語 は 動 詞 或 い は 形 容 詞 の 後 に 置 か れ る 補 足 説 明 す る 成 分 で あ る )”と 定 義 づ け 、 補 語 と 前 項 動 詞 と は「 補 足 説 明 」の 意 味 関 係 を 成 し て い る と 指 摘 し て い る 。し か し 、朱 德 熙 (1982) は “补 语 只 能 是 谓 词 性 成 分 ,不 能 是 体 词 性 成 分 。从 意 念 上 说 ,… … 补 语 的 作 用 在 于 说 明 动 作 的 结 果 或 状 态 。(補 語 は 述 詞 性 成 分 で な く て は な ら ず 、名 詞 性 成 分 で あ っ て は な ら な い 。 意 味 か ら い え ば 、 … … 補 語 の 役 割 は 、 動 作 の 結 果 あ る い は 状 態 を 説 明 す る こ と に あ る 。 )”と 定 義 し て お り 、 補 語 成 分 の 品 詞 上 の 性 質 、 補 足 説 明 す る 内 容 な ど に も 言 及 し て い る 。 朱 德 熙 (1982)の こ の 定 義 は 後 の 学 者 ら に 受 け 継 が れ て い る 。 本 論 文 も こ の 定 義 が 妥 当 だ と 考 え 、 従 う こ と と す る 。

(10)

- 4 -

0.2.2.「 補 語 」 の 分 類

0.2.2.1.朱 德 熙 (1982)の 分 類 朱 德 熙 (1982)は 主 と し て 動 補 構 造 の 形 式 に 着 目 し 、“得 ”を 伴 う か 否 か に よ っ て 、 動 補 構 造 を “粘 合 式 述 补 结 构 (粘 着 型 動 補 構 造 )”と “组 合 式 述 补 结 构 (統 語 型 動 補 構 造 )”に 大 別 す る 。 前 者 に つ い て 、 朱 德 熙 (1982)は “补 语 直 接 粘 附 在 述 语 后 头 的 格 式 (補 語 が 直 接 動 語 の 後 に 付 加 さ れ て い る 形 式 を 指 す )”と 定 義 し て お り 、具 体 例 と し て “抓 紧 ”(し っ か り と つ か む )、“写 完 ”(書 き 終 え る )、“说 清 楚 ”(は っ き り 言 う )”な ど を 挙 げ て い る 。 後 者 に つ い て は 、 “带 ‘ 得 ’ 的 述 补 结 构 (“得 ”を 伴 う 動 補 構 造 を 指 す )”と 定 義 し て お り 、 具 体 例 と し て “走 得 快 (歩 く の が 早 い )”、 “看 得 多 (た く さ ん 見 る )”、 “写 得 很 清 楚 (は っ き り 書 い て あ る )”な ど を 挙 げ て い る 。 更 に “粘 合 式 述 补 结 构 (粘 着 型 動 補 構 造 )”の 下 位 カ テ ゴ リ ー と し て 、 結 果 補 語 構 造 、方 向 補 語 構 造 及 び “到 ”字 補 語 構 造 が あ り 、“组 合 式 述 补 结 构 (統 語 型 動 補 構 造 )” の 下 位 カ テ ゴ リ ー と し て 可 能 を 表 す 動 補 構 造 と 、 状 態 を 表 す 動 補 構 造 が あ る と 指 摘 し て い る 。 前 者 に は “看 得 见 (見 え る )”な ど が あ り 、 後 者 は “看 得 多 (た く さ ん 見 て い る )”な ど が あ る 。 さ ら に 、 程 度 補 語 を 伴 う 動 補 構 造 は 粘 着 型 動 補 構 造 で あ る 可 能 性 も あ れ ば (e.g.“好 极 了 (す ご く 素 晴 ら し い )”、 “暖 和 极 了 (す ご く 暖 か い )”、 “可 笑 透 了 (お か し く て 仕 方 が な い )”)、 統 語 型 動 補 構 造 で あ る 可 能 性 も あ る (e.g. “好 得 很 ”(と て も よ い )、“闷 得 慌 (息 苦 し い )”、“喜 欢 得 不 得 了 (好 き で た ま ら な い )” と 述 べ て い る 。 上 記 の 記 述 を 踏 ま え 、 朱 德 熙 (1982)に お け る 分 類 を 以 下 の よ う に ま と め る こ と が で き る だ ろ う 。 【 表 1】 動 補 構 造 粘 着 型 動 補 構 造 (“得 ”を 伴 わ な い ) 統 語 型 動 補 構 造 (“ 得 ” を 伴 う ) 結 果 補 語 構 造 方 向 補 語 構 造 程 度 補 語 構 造 (一 部 ) “ 到 ” を 伴 う 補 語 構 造 可 能 補 語 構 造 状 態 補 語 構 造 程 度 補 語 構 造 (一 部 ) 尚 、 朱 德 熙 (1986)は 、 結 果 補 語 構 造 、 方 向 補 語 構 造 の 殆 ど は 可 能 補 語 構 造 へ の 変

(11)

- 5 - 換 が 可 能 で あ り 、 ま た 補 語 が 形 容 詞 で あ る 場 合 、 結 果 補 語 構 造 が 状 態 補 語 構 造 に も 変 換 で き る と い う 言 語 事 実 を 指 摘 し て い る 。 0.2.2.2. 刘 月 华 他 (1983/2001)の 分 類 刘 月 华 他 (1983/2001)は 朱 德 熙 (1982)の 分 類 を 踏 ま え 、 主 と し て 補 語 と 前 項 動 詞 と の 意 味 関 係 を 分 類 基 準 と し 、 補 語 を 結 果 補 語 、 方 向 補 語 、 可 能 補 語 、 様 態 補 語 、 程 度 補 語 、 数 量 補 語 、 介 詞 フ レ ー ズ 補 語 と 7 つ に 分 類 し て い る 。 現 在 、 刘 月 华 他 (1983/2001)の 分 類 が 広 く 採 用 さ れ て い る た め 、 以 下 は す こ し 詳 し く 紹 介 し て お き た い 。 (以 下 の 用 例 (0-1)~ (0-15)は 刘 月 华 他 1983/2001 よ り 引 用 し た も の で あ る 。 日 本 語 訳 は 筆 者 に よ る も の で あ る ) 0.2.2.2.1.“ 结 果 补 语 ” (結 果 補 語 ) “表 示 动 作 或 状 态 的 结 果 ― 引 起 动 作 者 或 动 作 受 事 的 状 态 发 生 变 化 。结 果 补 语 由 形 容 词 和 动 词 充 任 。 ”(動 作 ま た は 状 態 の 結 果 ― 動 作 主 或 い は 受 動 者 の 状 態 に 変 化 が 引 き 起 こ さ れ る こ と を 表 す 。 結 果 補 語 は 形 容 詞 と 動 詞 に よ っ て 担 わ れ る 。 ) (0-1) 你 看 完 这 本 杂 志 了 吗 ? (あ な た は こ の 雑 誌 を 読 み 終 え ま し た か ) (0-2) 这 篇 文 章 写 好 了 , 交 给 你 吧 。 (こ の 文 章 は も う 書 き あ が っ た か ら 、 あ な た に 渡 し ま し ょ う 。 ) 0.2.2.2.2. “ 趋 向 补 语 ”(方 向補 語 ) “表 示 人 或 事 物 通 过 动 作 以 后 ,在 空 间 位 置 移 动 的 结 果 。”(動 作 に よ っ て 人 や 事 物 が 生 じ た 空 間 位 置 の 移 動 の 結 果 を 表 す も の で あ る 。 ) (0-3) 小 明 从 图 书 馆 借 来 一 本 书 。 (小 明 は 図 書 館 か ら 本 を 一 冊 借 り て き た 。 ) (0-4) 谁 有 问 题 请 把 手 举 起 来 。 (質 問 の あ る 人 は 、 手 を 挙 げ て く だ さ い 。 ) 0.2.2.2.3. “ 可 能 补 语 ”(可 能補 語 ) “表 示 主 客 观 条 件 是 否 允 许 (某 种 结 果 、趋 向 ,某 种 情 况 发 生 )。”(主 観 的 条 件 ま た

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- 6 - は 客 観 的 条 件 が あ る 結 果 、 方 向 、 あ る 状 況 の 発 生 を 許 す か ど う か を 表 す 。 ) (0-5) 我 只 学 了 几 个 月 汉 语 , 看 不 懂 《 人 民 日 报 》。 (私 は 中 国 語 を 何 ヶ 月 し か 習 っ て い な い の で 、『 人 民 日 報 』 は 読 め な い 。 ) (0-6) 我 去 书 店 看 看 , 你 要 的 书 也 许 买 得 到 。 (私 は 本 屋 へ 行 っ て み て み る 。 あ な た の ほ し い 本 が 買 え る か も し れ な い 。 ) 0.2.2.2.4. “ 情 态 补 语 ” (様 態 補 語 ) “ 指 动 词 或 形 容 词 后 用 ‘ 得 ’ 连 接 的 表 示 动 作 的 结 果 状 态 的 补 语 。” (動 詞 ま た は 形 容 詞 に 後 接 す る 、「 得 」 に よ っ て 導 か れ 、 動 作 の 結 果 状 態 を 表 す 補 語 を 指 す 。 ) (0-7) 他 急 得 哭 起 来 。 (彼 は せ っ ぱ つ ま っ て 泣 き 出 し た 。 ) (0-8) 李 老 师 每 天 睡 得 很 晚 。 (李 先 生 は 毎 日 遅 く ま で 起 き て い る 。 ) 0.2.2.2.5. “ 程 度 补 语 ” (程 度 補 語 ) “从 意 义 上 来 说 是 表 示 程 度 的 ,在 形 式 上 有 用‘ 得 ’连 接 和 不 用‘ 得 ’连 接 两 种 。” (意 味 か ら み れ ば 程 度 を 表 す も の で あ る 。形 式 上 は「 得 」に よ っ て 導 か れ る も の と 「 得 」 を 伴 わ な い も の 2 種 類 が あ る 。 ) (0-9) 这 本 书 我 喜 欢 极 了 。 (こ の 本 は 私 は 大 好 き で す 。 ) (0-10) 外 边 热 得 快 要 死 了 , 别 出 去 了 。 (外は 死ぬ ほど 暑い か ら、 出かけ ない でくだ さい 。) 0.2.2.2.6. “ 数量 补语 ” (数量補語) “在 动 词 后 表 示 有 关 动 作 变 化 的 数 量 的 成 分 叫 数 量 补 语 。 ”(動 詞 の 後 に つ き 、 動 作 ・ 変 化 の 数 量 を 表 す 成 分 の こ と を 数 量 補 語 と 呼 ぶ 。 ) (0-11) 这 本 书 你 看 过 几 遍 了 ? (こ の 本 は 、 何 回 読 み ま し た か 。 ) (0-12) 去 年 他 在 北 京 住 过 几 天 。 (去 年 彼 は 北 京 に 数 日 滞 在 し ま し た 。 )

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- 7 - 0.2.2.2.7. “ 介 词 短 语 补 语 ” (介 詞 フ レー ズ補 語 ) “由 介 词‘ 于 ’、‘ 向 ’、‘ 自 ’组 成 的 介 词 短 语 可 以 用 在 动 词 或 形 容 词 后 作 补 语 ,叫 介 词 短 语 补 语 。 ”(介 詞 “于 ”、 “向 ”、 “自 ”に よ っ て 導 か れ る 介 詞 フ レ ー ズ は 動 詞 ま た は 形 容 詞 の 後 に 置 か れ 補 語 と し て 用 い る こ と が で き る 。 (こ れ を )介 詞 フ レ ー ズ 補 語 と 呼 ぶ 。 ) (0-13) 鲁 迅 出 生 于 一 八 八 一 年 。 (魯 迅 は 1881 年 に 生 ま れ た 。 ) (0-14) 这 是 发 自 内 心 的 喜 悦 。 (こ れ は 内 心 よ り 発 せ ら れ た 喜 び だ 。 ) (0-15) “ 大 爷 !” 她 欢 快 地 叫 了 一 声 , 扑 向 田 大 爷 。 (「 お じ い さ ん ! 」 彼 女 は う れ し そ う に 声 を あ げ 、 田 お じ い さ ん に 抱 き つ い た 。 ) 以 上 の 記 述 を 図 示 す る と 次 の よ う に な る 。 【 表 2】 補 語 結 果 補 語 方 向 補 語 可 能 補 語 様 態 補 語 程 度 補 語 数 量 補 語 介 詞 フ レ ー ズ 補 語

0.2.3. 本 論 文 の 立 場

前 節 で 紹 介 し た よ う に 、 朱 德 熙 (1982)と 刘 月 华 他 (1983/2001)の 分 類 は 基 本 的 に 同 じ で あ る が 、 後 者 は 意 味 関 係 に 基 づ く よ り 細 か い 分 類 を 行 な っ て い る 。 本 論 文 は 意 味 上 の 問 題 を 議 論 す る た め 、 刘 月 华 他 (1983/2001)の 分 類 を 採 用 す る こ と と す る 。 た だ し 、 い く つ か 補 足 点 を 付 け 加 え て お き た い 。 (ⅰ ) 刘 月 华 他 (1983/2001)で “情 态 补 语 (様 態 補 語 )”と 称 さ れ て い る も の は 、 研 究 者 に よ っ て 、 呼 び 方 が 異 な る 場 合 が あ る 。 例 え ば 、 朱 德 熙 (1982)は “状 态 补 语 (状 態 補 語 )”と い う 名 称 を 用 い て い る が 、 杉 村 (1992)で は 「 程 度 補 語 」 と 呼 ん で い る 。本 論 文 で は 、刘 月 华 他 (1983/2001)の 用 語 を 採 用 す る こ と に す

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- 8 - る 。 (ⅱ ) 前 述 し た 刘 月 华 他 (1983/2001) の 補 語 分 類 は 朱 德 熙 (1982) と の 違 い の 一 つ は 、「 数 量 補 語 」 を 個 別 の 項 と し て 立 て る か 否 か と い う と こ ろ に あ る 。 こ れ は 動 詞 の 後 に く る 数 量 詞 を 補 語 と 見 な す か 、 目 的 語 と 見 な す の か と い う 問 題 に 対 す る 両 者 の 意 見 が 分 か れ て い る こ と に 起 因 し て い る と 思 わ れ る 。 玄 幸 子 (2001)に も 指 摘 さ れ て い る よ う に 、 朱 德 熙 (1982)や 房 玉 清 (1992)な ど の 研 究 は 、 こ の よ う な 数 量 詞 が 目 的 語 と 同 様 に 動 詞 に 後 接 す る と い う 統 語 的 特 徴 に 注 目 し 、「 目 的 語 」 と 見 な す 立 場 を 取 っ て い る が 、 胡 裕 树 (1962)、 刘 月 华 他 (1983/2001)な ど の よ う に 、動 詞 の 後 の 数 量 詞 は そ の 動 作 及 ぶ 対 象 を 示 す の で は な く 、 動 作 に 対 す る 補 足 説 明 で あ る と い う 「 意 味 上 の 特 徴 」 に 基 づ き 、 数 量 補 語 と し て 捉 え る の が 一 般 的 で あ る た め 、 本 論 文 も こ の 立 場 に 立 つ 。 (ⅲ ) 「 方 向 補 語 」に つ い て 、述 語 動 詞 と 補 語 成 分 と の 意 味 関 係 は 結 果 補 語 と 同 様 、 「 動 作 ― 結 果 」 と 捉 え ら れ る た め 、 方 向 補 語 を 結 果 補 語 の 下 位 範 疇 と 見 な す 学 者 も い る 。 本 論 文 は 、 両 者 を 区 別 す る 立 場 に 立 ち 、 主 に 結 果 補 語 構 造 に つ い て 考 察 す る が 、本 論 の 第 6 章 で 結 果 補 語 構 造 “V 到 ”の 比 較 対 象 と し て 、「 方 向 補 語 構 造 」 も 取 り 扱 う 。

0.3. 本論文の構成

本 論 文 の 構 成 は 以 下 の よ う で あ る 。 第 1 章 で は 、 ま ず VR 構 造 に 関 す る 先 行 研 究 を 振 り 返 る 。 主 と し て 、 先 行 研 究 の 議 論 の 焦 点 、 こ れ ま で 明 ら か に な っ た VR 構 造 に 関 す る 統 語 的 ・ 意 味 的 特 徴 、 及 び 本 論 文 の 観 点 に つ い て 述 べ る 。 さ ら に 、 本 論 文 の 分 析 の 基 盤 と な る VR 構 造 の 下 位 分 類 を 行 う 。 第 2 章 で は 、 VR 構 造 が 従 属 節 (“VR(了 )的 N”構 造 )に 生 起 す る 場 合 、 “了 ”の 生 起 条 件 は い か な る も の か と い う 問 題 に つ い て 検 討 を 加 え 、 VR 構 造 に 〈 限 界 性 〉 の 程 度 と い う 意 味 的 要 素 が 深 く 関 与 し て い る こ と を 指 摘 す る 。 第 3 章 で は 、 VR 構 造 が 主 節 の う ち の 動 詞 コ ピ ー 構 文 に 生 起 す る 状 況 を 考 察 す る 。 具 体 的 に は 、 ま ず 動 詞 コ ピ ー 構 文 の 構 文 機 能 を 解 明 し た う え で 、 VR 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー が 動 詞 コ ピ ー 構 文 に 生 起 す る 条 件 を 明 ら か に す る 。

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- 9 - 第 4 章 で は 、 VR 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー の 一 つ ― 〈 完 成 相 〉 を 表 す VR 構 造 ― に お け る “V 完 ”“V 过 1”“V 好 ”を 考 察 の 対 象 と す る 。 三 者 の 意 味 機 能 に つ い て 個 別 研 究 を 行 い 、VR 構 造 に お け る R の「 限 界 化 」の 実 現 条 件 に つ い て 検 討 す る 。 第 5 章 で は 、 非 プ ロ ト タ イ プ 的 な VR 構 造 の 代 表 例 と し て “V 到 ”を と り あ げ 、 移 動 事 態 を 表 す 場 合 、 方 向 補 語 構 造 と の 機 能 差 異 に つ い て 考 察 す る 。 そ し て こ こ に お い て も 〈 限 界 性 〉 の 程 度 が 関 与 す る こ と を 指 摘 す る 。 最 後 に 、 第 6 章 に お い て 本 論 文 の 結 論 と 今 後 の 展 望 に つ い て 述 べ る 。

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第1章

VR 構造に関する先行研究

本 章 で は 、ま ず 結 果 補 語 の 定 義 を 確 認 し た 上 で 、結 果 補 語 構 造 (VR 構 造 )に 関 す る 先 行 研 究 に お い て ど の よ う な 問 題 が 議 論 さ れ て き た の か を 振 り 返 っ て み た い 。 そ の 後 、 先 行 研 究 に よ っ て 明 ら か に な っ た こ と を 整 理 し 、 更 に そ の 不 足 な 点 を 指 摘 し て お き た い 。

1.1. 結果補語(R)の定義

王 力 (1943/1979)は 、「 結 果 補 語 」 を “末 品 補 語 ”と 呼 び 、 前 項 動 詞 と の 関 係 に つ い て 、 “前 项 动 词 为 中 心 , 补 语 成 分 是 限 制 前 项 动 词 的 。 (前 項 動 詞 が 中 心 で あ り 、 補 語 成 分 は 前 項 動 詞 に 対 し 制 限 を 加 え る の で あ る ) ” と 述 べ て い る 。 王 力 (1943/1979)で い う「 制 限 」関 係 は 、刘 月 华 他 (1983/2001)で は 次 の よ う に よ り 詳 し く 記 述 さ れ て い る 。 “ 结 果 补 语 主 要 表 示 动 作 或 状 态 的 结 果 ― 引 起 动 作 者 或 动 作 受 事 的 状 态 发 生 变 化 ,如 ‘ 打 破 了 一 个 杯 子 ’ 意 思 是 由 于 动 作 ‘ 打 ’, 动 作 的 受 事 ‘ 杯 子 ’ 发 生 了 变 化 : 破 了 ; 有 些 结 果 补 语 表 示 对 动 作 的 评 价 、 判 断 , 如 ‘ 功 课 做 完 了 ’ 中 的 结 果 补 语 ‘ 完 ’ 的 作 用 是 对 动 作 ‘ 做 ’ 的 判 断 评 价 。 ”(結 果 補 語 は 主 に 動 作 或 い は 状 態 の 結 果 を 表 す ― (あ る 結 果 補 語 は )動 作 主 或 い は 被 動 作 主 の 状 態 に 変 化 を 引 き 起 こ す こ と を 表 す 。 例 え ば 、 “打 破 了 一 个 杯 子 (コ ッ プ を 一 つ 割 っ た )”は 動 作 “打 (打 つ )”に よ り 、 受 動 者 で あ る “杯 子 (コ ッ プ )”に 次 の よ う な 変 化 が 生 じ た ― “破 了 (割 れ た )”。あ る 結 果 補 語 は 動 作 に 対 す る 評 価 、判 断 を 表 す 。例 え ば 、 “功 课 做 完 了 (宿 題 は や り 終 え た )”に お け る 結 果 補 語 “完 (終 わ る )”は 動 作 “做 (す る )”に 対 す る 判 断 ・ 評 価 を 表 す 。 ) 上 記 の 先 行 研 究 を 踏 ま え て 、本 論 文 は 結 果 補 語 に つ い て 、次 の よ う に 定 義 し て お く 。す な わ ち 、「 結 果 補 語 は 、前 項 動 詞 が 表 す 動 作 行 為 あ る い は 状 態 の 結 果 を 補 足 説 明 す る 文 成 分 の こ と を 指 し て お り 、 動 詞 や 形 容 詞 に よ っ て 担 わ れ る 」 と す る 。

1.2. VR 構造に関する先行研究

1.2.1.先 行 研 究 の 焦 点

VR 構 造 に つ い て 、 こ れ ま で 意 味 論 的 、 統 語 論 的 な 側 面 か ら 研 究 が 進 め ら れ て

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- 11 - き た 。 議 論 さ れ て き た 重 要 な 研 究 課 題 を 整 理 す る と 、 次 の よ う に な る 。 1.2.1.1. 形 成 レ ベ ル の 問 題 VR 構 造 が い っ た い 複 合 語 な の か フ レ ー ズ な の か は 複 雑 な 問 題 で あ る 。VR 構 造 は 語 彙 レ ベ ル に お い て 形 成 さ れ た と 主 張 す る 研 究 者 が い れ ば (Thompson1973、湯 廷 池 1989、 沈 力 1993、 申 亜 敏 ・ 望 月 2006)、 統 語 レ ベ ル に お い て 形 成 さ れ る と 主 張 す る 研 究 者 も い る (山 口 1991、Sybesma1999)。更 に 、石 村 (2011)は 統 語 的 に 形 成 さ れ る が 、 VR 構 造 の 文 中 で の 振 る 舞 い に は 語 彙 的 性 格 が 濃 厚 に 認 め ら れ る と 主 張 し て い る 。 1.2.1.2.「 主 要 部 」 の 位 置 の 問 題 前 述 の 丁 声 树 他 (1963) 、 朱 德 熙 (1982) と 王 力 (1943/1979) の ほ か に 、 黎 锦 熙 (1924/1954)、张 志 公 (1953)な ど の 先 行 研 究 は 、VR 構 造 を 含 む 動 補 構 造 の 前 項 動 詞 が 構 造 の 中 心 部 で あ り 、 補 語 は 付 属 成 分 で あ る と い う 見 解 を 持 つ の に 対 し 、 李 临 定 (1984)、马 希 文 (1987)は 動 補 構 造 の 統 語 構 造 主 要 部 は 前 項 動 詞 で は な く 、補 語 で あ る と い う 反 対 の 意 見 を 持 つ 。 現 在 、 一 般 的 に VR 構 造 の 意 味 主 要 部 が 補 語 で あ る と い う 説 は 主 流 に な り つ つ あ る が 、統 語 構 造 の 中 心 部 は V な の か 、R な の か 、 学 者 間 で 尚 意 見 が 分 か れ て い る 。 1.2.1.3. 使 役 義 の 由 来 の 問 題 VR 構 造 に は 、 V と R は と も に 自 動 詞 で あ る に も か か わ ら ず 、 使 役 義 を 持 つ も の が あ る 。 例 え ば 、 “他 哭 湿 了 手 帕 (彼 は 泣 い て ハ ン カ チ が 濡 れ た )”に お け る 述 語 動 詞 “哭 (泣 く )”は 自 動 詞 で あ り 、 結 果 補 語 “湿 (濡 れ る )”も 自 動 詞 で あ る 。 本 来 は そ れ ぞ れ 目 的 語 を 取 ら な い の に 、 動 補 構 造 を 形 成 す る 場 合 そ れ が 可 能 と な る 。 こ の よ う な 使 役 義 の 獲 得 の 仕 組 み に 関 す る 研 究 も 盛 ん に 行 わ れ て い る 。 例 え ば 、 秋 山 (2010)は 認 知 言 語 学 の 観 点 か ら 検 討 を 加 え 、「 V が 他 動 詞 / 非 能 格 動 詞 で 、R が 目 的 語 の 状 態 変 化 を 表 し て い る と 解 釈 さ れ る 場 合 、 主 語 が 使 役 主 、 目 的 語 が 被 使 役 主 に 解 釈 さ れ 、VR 構 造 が 使 役 義 を 獲 得 し 、使 役 他 動 詞 の 役 割 を 務 め る 。V と R が 何 れ も 非 対 格 動 詞 / 形 容 詞 の 場 合 、“把 ”な ど の 導 入 に よ り 、VR 構 文 が 使 役 義 を 獲 得 す る 」 と 主 張 す る 。 ま た 、 石 村 (2011)は 、 動 詞 連 続 構 造 と ヴ ォ イ ス 体 系 の 角

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- 12 - 度 か ら 検 討 を 行 い 、中 国 語 VR 構 造 の 使 役 義 は 、「 語 順 」を 利 用 し た 統 語 的 な 型 の 力 に よ っ て も た ら さ れ る と 主 張 す る 。 ま た 、以 上 の 三 つ の 課 題 の ほ か 、VR 構 造 と 中 国 語 の 他 の 構 文 と の 転 換 関 係 (李 临 定 1980,马 希 文 1987 な ど )、他 の 言 語 と の 対 照 研 究 (彭 国 真 2007,黄 春 玉 2009, 鈴 木 2004 な ど )や 、VR 構 造 の 結 合 価 (Valency)(郭 锐 1995,王 红 旗 1995,申 亜 敏・ 望 月 2006 な ど )と い っ た 問 題 も 議 論 さ れ て い る 。 こ の よ う に 、 研 究 者 た ち は 様 々 な 視 点 か ら VR 構 造 の 研 究 に 取 り 組 ん で き た 。 こ れ ら の 研 究 に よ っ て VR 構 造 に 関 す る 重 要 な 問 題 が 次 々 と 解 明 さ れ た と 言 っ て よ い 。 以 下 に お い て 本 論 文 の 議 論 と 直 接 的 に か か わ る 研 究 成 果 の 一 部 を 紹 介 し て い く 。

1.2.2.先 行 研 究 の 成 果

本 論 文 は 朱 德 熙 (1982)、荒 川 (1982)、刘 月 华 他 (1983/2001)、Tai(1984)、望 月 (1990、沈 力 (1993)、马 真・陆 俭 明 (1997)、石 村 (2000)、XuDan(2006/2008)な ど の 先 行 研 究 に 基 づ き 、 こ れ ま で の 先 行 研 究 に よ っ て 明 ら か に な っ た VR 構 造 の 統 語 的 特 徴 及 び 意 味 的 特 徴 を 以 下 の よ う に ま と め る 。 (ⅰ )V は 自 然 な 開 始 点 を 持 つ が 、 終 結 点 を 持 た な い 動 作 や 過 程 を 表 す 。 よ っ て 、 能 願 動 詞 (e.g.该 (~ す べ き で あ る ),得 (~ し な け れ ば な ら な い ),敢 (~ す る 勇 気 が あ る ),会 (~ で き る ),要 (~ す る 必 要 が あ る ))や 感 情 動 詞 (e.g.爱 (愛 す る ), 贪 (む さ ぼ る ), 嫌 (嫌 う ), 怨 (憎 む ), 恨 (恨 む ))な ど の よ う な 開 始 点 と 終 結 点 を 持 た な い 動 詞 は V の 位 置 に 生 起 し な い 。 (ⅱ )R は〈 + 非 対 格 性 〉〈 + 非 意 志 性 〉の 意 味 特 徴 を 有 す る 形 容 詞 や 動 詞 に よ っ て 担 わ れ る 。 そ の う ち 、 結 果 補 語 と な る 動 詞 は 限 ら れ て い る が 、 常 用 の 形 容 詞 は ほ と ん ど が 補 語 に な れ る 。 具 体 例 は 次 の よ う に 挙 げ て お く 。 【 補 語 に な る 動 詞 】 e.g. 走 (い な く な る ),跑 (消 え 去 る ),通 (通 じ る ),病 (や む ),疯 (気 が 狂 う ), 死 (死 ぬ ),倒 (倒 れ る ),成 (成 る ),懂 (理 解 す る ),透 (し み と お る ),动 (動 く ),翻 (ひ っ く り 返 る ),见 (見 え る ),完 (終 わ る ),穿 (突 き 抜 け る ),过

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- 13 - (終 わ る ) 【 補 語 に な る 形 容 詞 (一 部 )】 e.g. 矮 (低 く な る ), 笨 (不 器 用 に な る ), 谗 (食 べ た く な る ), 臭 (臭 く な る ), 红 (赤 く な る ),长 (長 く な る ),潮 (湿 っ ぽ く な る ),苦 (苦 く な る ),烂 (腐 る ),冷 (冷 た く な る ),宽 (幅 広 く な る ),旧 (古 く な る ),浓 (濃 く な る ), 胖 (太 る ), 平 (平 ら に な る ) 尚 、马 真・陆 俭 明 (1997)の 調 査 に よ る と 、168 個 の 単 音 節 形 容 詞 の う ち 、153 個 が 結 果 補 語 に な れ る 。し か し 、790 個 の 二 音 節 形 容 詞 の う ち 、結 果 補 語 に な れ る の は わ ず か 63 個 し か な い 。 更 に 、 結 果 補 語 に な れ る 形 容 詞 の 内 部 で も 、 補 語 に な る 能 力 に 強 弱 の 差 が 見 ら れ る 。 例 え ば 、 形 容 詞 “破 (破 れ る ・ 壊 れ る ・ 割 れ る )”は 数 多 く の 動 詞 と 結 合 し て VR 構 造 を 形 成 す る こ と が で き る の に 対 し 、 形 容 詞 “横 (横 暴 に な る・理 不 尽 に な る )”は 動 詞 “变 (変 わ る )”と し か 結 合 し な い 。 (ⅲ )VR 構 造 は 限 界 的 事 象 を 表 す た め 、〈 実 現 済 み /完 了 〉 を 表 す ア ス ペ ク ト 接 辞 “了 ”と 〈 経 験 〉 を 表 す ア ス ペ ク ト 接 辞 “过 ”を 後 接 さ せ る こ と は で き る が 、 動 作 や 状 態 の 持 続 を 表 す ア ス ペ ク ト 接 辞 “着 ”を 後 接 さ せ る こ と は で き な い 。 (ⅳ )VR 構 造 の 多 く は V と R の 間 に “得 ”あ る い は “不 ”を 挿 入 し 、〈 可 能 〉の 意 味 を 表 す 可 能 補 語 を 作 る こ と が で き る 。 (ⅴ )VR 構 造 に も 動 詞 と 同 様 に 自 他 の 区 別 が あ る 。 VR 構 造 の 自 /他 の 違 い は 、 V と 必 然 的 な 関 係 は な い 。 (ⅵ )VR 構 造 は 他 の 動 補 構 造 と 同 じ よ う に 、新 た な 動 詞 を 産 出 す る 文 法 手 段 の 一 つ で あ る 。 V と R の 組 み 合 わ せ が き わ め て 自 由 で あ り 、 生 産 性 が 高 い 。 (ⅶ )VR 構 造 の 否 定 形 は 、“没 (有 )+ VR”で あ る 。例 え ば 、“说 清 楚 (は っ き り 言 う )” の 否 定 形 は “没 说 清 楚 (は っ き り 言 わ な か っ た )”で あ り 、 “看 见 (見 え る )”の 否 定 形 は “没 看 见 (見 え な か っ た )”で あ る 。

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- 14 - こ の よ う に 、VR 構 造 に 関 す る 議 論 や 研 究 が 盛 ん に 行 わ れ て い る た め 、VR 構 造 の 多 様 な 側 面 が 捉 え ら れ 、 VR 構 造 に 対 す る 認 識 は 深 ま り つ つ あ る 。 し か し 、 上 述 し た 研 究 の 殆 ど は VR 構 造 の 一 部 を 考 察 の 対 象 と す る も の で あ り 、 そ れ に よ っ て 得 ら れ た 結 論 は 一 部 の VR 構 造 に し か 適 用 し 得 な い も の で あ る 。 例 え ば 、 本 論 文 で 後 述 す る 〈 完 成 相 〉 を 表 す VR 構 造 は 、〈 使 役 義 〉 を 持 た な い こ と と 、 他 の VR 構 造 と 比 べ て 「 閉 じ た ク ラ ス 」 を 形 成 し 、 生 産 性 が 高 く な い こ と を 理 由 に 、 研 究 対 象 か ら 除 外 す る 先 行 研 究 が 多 い 。 よ っ て 、 VR 構 造 に 包 括 的 な 研 究 は 決 し て 十 分 と は 言 え な い 。 ま た 、 VR 構 造 に 下 位 カ テ ゴ リ ー の 存 在 を 想 定 し な け れ ば 解 決 で き な い 文 法 現 象 も 数 多 く あ る 。例 え ば 本 論 文 で 取 り 上 げ る 連 体 修 飾 構 造 の “VR(了 )的 N”構 造 に お い て は 、VR 構 造 の 下 位 分 類 に よ っ て 、“了 ”の 生 起 状 況 が 異 な る 。ま た 、 VR 構 造 の 下 位 分 類 に よ っ て 、 動 詞 コ ピ ー 構 文 と の 整 合 性 に 差 が 生 じ る こ と が あ る 。 更 に 、 同 じ く 〈 完 成 相 〉 を 表 す “V 完 ”、 “V 过 1”、 “V 好 ”に つ い て は 、 い ず れ も 動 作 の 〈 完 成 〉 を 表 す も の の 、 そ れ ぞ れ 〈 完 成 義 〉 の 実 現 条 件 が 異 な る 。 こ れ ら の 文 法 現 象 を 合 理 に 説 明 す る に は 、 VR 構 造 に 下 位 カ テ ゴ リ ー を 立 て た う え で 、 記 述 と 分 析 を 行 っ て い く こ と が 必 要 で あ る 。

1.3.〈限界性〉の観点

本 論 文 は 、 ア ス ペ ク ト の 主 要 な 意 味 特 徴 で あ る 限 界 性 と い う 観 点 か ら VR 構 造 を 考 察 す る 。 限 界 と は 簡 潔 に い う と 、 一 般 的 に は 言 語 的 に 表 現 さ れ た 動 作 の 、 時 間 的 な 展 開 に お け る 仕 切 り で あ る 。 動 作 の 展 開 に お け る 時 間 的 な し き り と な る の は 、 動 作 の 展 開 の 過 程 が つ き は て 、 そ れ 以 上 展 開 す る こ と の で き な い よ う な 動 作 の 臨 界 点 で あ る 。臨 界 点 が あ る 動 詞 は「 限 界 動 詞 」、限 界 点 が な い 動 作 は「 非 限 界 動 詞 」と 呼 ば れ る 。 (工 藤 1995, 三 原 1998 な ど ) 限 界 性 は 継 続 性 と 共 に 英 語 の 動 詞 の ア ス ペ ク ト 的 分 類 の 基 準 と し て 導 入 さ れ た 研 究 に は 、 Vendler(1967)、 Smith(1991)な ど が あ る 。 Vendler(1967)の 動 詞 (句 ) 分 類 に 関 す る 詳 細 な 記 述 は 本 論 文 の 第 5 章 に 譲 る が 、こ こ で は 、三 原 (2004)に お け る Vendler(1967)の 分 類 に 関 す る ま と め を 以 下 の よ う に 引 用 し て お く 。

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- 15 - 「 Vendler 分 類 は 、 ま ず 状 態 性 の 基 準 に よ っ て 状 態 (state)動 詞 を 取 り 出 し 、 次 に 限 界 性 の 基 準 に よ っ て 動 作 に 必 然 的 な 終 わ り が な い 活 動 (activity) 動 詞 を 孤 立 さ せ る (終 わ り が な い 動 詞 を 非 限 界 動 詞 、 終 わ り が あ る 動 詞 を 限 界 動 詞 と い う )。 そ し て 、 限 界 動 詞 を 瞬 間 性 の 基 準 に よ っ て 、 動 作 が 瞬 間 的 に 遂 行 さ れ る 到 達 (achievement)動 詞 と 、動 作 を 行 う の に 時 間 を 要 す る 達 成 (accomplishment)動 詞 に 区 分 す る 。」 a.状 態 動 詞 b.活 動 動 詞 c.到 達 動 詞 d.達 成 動 詞 (三 原 2004) し か し 、多 く の 研 究 者 が 指 摘 し た よ う に 、〈 限 界 性 〉は 一 つ の 動 詞 に 固 定 さ れ た も の で は な く 、 文 中 の 動 詞 以 外 の 要 素 に よ っ て 変 わ り 得 る 。 例 え ば 、 三 原 (2004)は 日 本 語 の 動 詞 の〈 限 界 性 〉は 語 彙 的 ア ス ペ ク ト だ け で は 決 定 で き な い 現 象 と し て 、 次 の 例 文 を 挙 げ て い る 。 (1-1) a.『 罪 と 罰 』 を { 2 日 間 /2 日 で } 読 ん だ 。 b.川 岸 を { 30 分 ほ ど /鉄 橋 の と こ ろ ま で 30 分 ほ ど で } 歩 い た 。 上 記 の 例 に つ い て 、三 原 (2004)は (1-1)a の「 2 日 間 読 ん だ 」と (1-1)b の「 30 分 ほ ど 歩 い た 」 は〈 限 界 性 〉を 有 し な い が 、「 2 日 で 読 ん だ 」「 鉄 橋 の と こ ろ ま で 30 分 ほ ど で 歩 い た 」は〈 限 界 性 〉を 有 す る と 述 べ て い る 。こ の 例 か ら 、〈 限 界 性 〉を 持 た な い 活 動 動 詞 が 述 語 と な る 文 に 、 付 加 詞 を つ け る こ と に よ っ て 、 動 詞 に 限 界 点 を 設 定 し 、〈 限 界 性 〉を 有 す る 達 成 動 詞 に 転 換 さ せ る こ と が で き る と い う こ と を 示 唆 し て い る 。 同 じ よ う な 現 象 が 現 代 中 国 語 に お い て も 見 受 け ら れ る 。 陈 平 (1988)は 、 現 代 中 国 語 の 事 象 タ イ プ を 分 析 す る 際 に 、決 定 要 素 は 動 詞 の 語 彙 ア ス ペ ク ト の み な ら ず 、 ほ ぼ す べ て の 文 法 成 分 が 関 与 し て い る と 述 べ て い る 。

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- 16 - 有 必 要 再 次 强 调 指 出 句 子 在 情 状 类 型 方 面 的 归 属 , 并 不 单 纯 取 决 于 谓 语 动 词 本 身 , 而 是 由 动 词 和 其 他 句 子 成 分 共 同 决 定 的 。 动 词 的 重 要 作 用 在 于 , 它 的 语 义 性 质 为 句 子 的 情 状 归 属 提 供 了 数 量 不 一 的 可 能 性 , 而 其 他 句 子 的 成 分 所 起 的 作 用 则 是 在 有 关 可 能 性 中 进 行 选 择 , 具 体 确 定 了 句 子 的 情 状 类 别 。 陈 平 (1988:405-414) (改 め て 強 調 し た い の は 、文 が ど の 事 態 タ イ プ に 属 す る か に つ い て 、単 に 述 語 動 詞 そ の も の だ け で は な く 、 動 詞 と 他 の 文 法 成 分 と 共 同 で 決 定 さ れ る も の だ と い う こ と で あ る 。 動 詞 の 重 要 な 機 能 と し て は 、 そ の 語 彙 的 意 味 性 質 は 文 の 事 象 タ イ プ を 決 め る に は 、 複 数 の 可 能 性 を 提 供 す る の で あ る 。 一 方 、 他 の 文 法 成 分 は 、 そ の 複 数 の 可 能 性 の 中 か ら 選 択 し 、 文 の 事 象 タ イ プ を 具 体 的 に 決 め る 働 き を 果 た す の で あ る 。 ) こ の よ う な 、あ る 動 作・行 為 に 限 界 点 (開 始 点 と 完 結 点 )を 設 置 す る 機 能 は 、「 限 界 化 機 能 」 と 呼 ば れ 、 現 代 中 国 語 で は 「 限 界 化 機 能 」 を 有 す る 文 法 成 分 は 、 結 果 補 語 、 ア ス ペ ク ト 接 辞 、 動 詞 の 重 ね 型 、 介 詞 フ レ ー ズ 、 時 間 詞 、 名 量 詞 、 動 量 詞 な ど が あ る と さ れ て い る 。 (石 毓 智 2002:190) (以 下 の 例 (1-2)~ (1-8)は 石 毓 智 2002 か ら 引 用 ) Ⅰ . 結 果 補 語 (1-2) 看 完 书 再 玩 。 (本 を 読 み 終 え て か ら 遊 ぶ ) Ⅱ . ア ス ペ ク ト 接 辞 (1-3) 看 了 书 再 玩 。 (本 を 読 ん だ ら 遊 ぶ ) Ⅲ . 動 詞 の 重 ね 型 (1-4) 看 看 电 视 再 睡 。 (す こ し テ レ ビ を 読 ん で か ら 寝 る ) Ⅳ . 介 詞 フ レ ー ズ (1-5) 书 放 在 书 架 上 再 走 。 (本 を 本 棚 に お い て か ら 行 く ) Ⅴ . 時 間 詞 (1-6) 看 一 个 小 时 书 再 玩 。 (本 を 一 時 間 読 ん で か ら 遊 ぶ ) Ⅵ . 名 量 詞 (1-7) 看 一 本 书 再 玩 。 (本 を 一 冊 読 ん で か ら 遊 ぶ )

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- 17 - Ⅶ . 動 量 詞 (1-8) 看 一 遍 书 再 玩 。 (本 を 一 回 読 ん で か ら 遊 ぶ ) 以 上 の よ う に 、 現 代 中 国 語 に お い て 、 述 語 動 詞 を 限 界 化 す る 文 法 手 段 は さ ま ざ ま な も の が 存 在 す る と い う 指 摘 が あ る も の の 、 こ れ ら の 文 法 手 段 は 如 何 に 〈 限 界 化 機 能 〉 を 果 た す の か 、 各 文 法 手 段 の 間 に 如 何 な る 差 異 が あ る の か 、 更 に 同 じ 文 法 手 段 の 内 部 に あ る 下 位 成 員 は 果 た し て 全 く 同 じ よ う に 機 能 す る の か 、 と い っ た 問 題 に 対 す る 研 究 は 未 だ に 不 十 分 で あ る 。 本 論 文 は そ の 試 み の 一 環 と し て 、〈 限 界 化 機 能 〉を 有 す る 結 果 補 語 に 対 す る 研 究 に よ っ て 、〈 限 界 性 〉と い う 研 究 観 点 か ら の ア プ ロ ー チ の 可 能 性 と 有 効 性 を 提 示 し て み た い 。 こ こ で 、 注 意 し て お き た い の が 、〈 限 界 性 〉 に せ よ 、〈 継 続 性 〉 に せ よ 、 動 詞 に よ っ て そ の 度 合 い が 違 う と い う こ と で あ る 。河 上 (1996:28-32)に よ れ ば 、伝 統 的・ 古 典 的 カ テ ゴ リ ー 論 で は 、「 カ テ ゴ リ ー と は 必 要 か つ 十 分 な 属 性 の 集 合 に よ っ て 定 義 さ れ る 」 と 考 え ら れ 、「 カ テ ゴ リ ー は 客 観 的 か つ 普 遍 的 な 根 源 的 意 味 (こ れ を 意 味 素 性 (semantic feature)と い う )の 集 ま り に よ っ て 定 義 さ れ る 。 意 味 素 性 は 明 確 で 輪 郭 の は っ き り し た も の で あ り 、 カ テ ゴ リ ー の 成 員 か 否 か は あ る 意 味 素 性 を 持 つ か 持 た な い か で 判 断 さ れ る 。」と い う 考 え を 主 張 す る 。し か し 一 方 、プ ロ ト タ イ プ 理 論 (prototype theory)で は 、 「カ テ ゴ リ ー 内 で は そ の 成 員 ら し さ の 度 合 い は 一 定 で は な く 、プ ロ ト タ イ プ 効 果 の 差 が 生 じ て い る 」。こ の よ う な 立 場 に 立 つ と す れ ば 、 あ る 文 法 カ テ ゴ リ ー の 中 の 典 型 的 な 成 員 と そ う で な い も の が 共 有 す る 意 味 特 徴 が 、 程 度 の 概 念 を 含 む 相 対 的 な も の で あ る こ と に な る 。 以 上 の 分 析 を 踏 ま え 、 本 論 文 は 〈 限 界 性 〉 と い う 概 念 に つ い て 次 の よ う に 定 義 し て お く 。 す な わ ち 、〈 限 界 性 〉 と は 、「 動 作 行 為 の 時 間 軸 上 の 内 的 展 開 に お け る 限 界 点 の 明 確 度 」 の こ と と す る 。 本 論 文 は 具 体 的 に 以 下 の 二 つ の 問 題 点 を め ぐ っ て 、 議 論 を 進 め て い き た い 。 ① R は V に 対 し て 如 何 に 限 界 化 す る の か 、 す な わ ち 、 R の 限 界 化 が ど の よ う な 条 件 の も と で 実 現 さ れ る か と い う 問 題 。 ② R の 限 界 化 機 能 は 、 VR 構 造 の 文 法 的 振 る 舞 い に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の

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- 18 - か 、 と い う 問 題 。 な お 、 本 論 文 は 〈 限 界 性 〉 と い う 概 念 に 程 度 の 違 い を 認 め る こ と が 、 文 法 研 究 に お い て 有 意 義 で あ る か 否 か に つ い て も 論 じ る 。

1.4.

VR 構造の下位分類

前 述 の よ う に 、 現 代 中 国 語 の 補 語 は 多 様 な 内 容 を 含 み 、 VR 構 造 の 内 部 も 同 じ よ う に 決 し て 均 質 的 な も の で は な い 。 し た が っ て 、 VR 構 造 を 細 分 化 し 、 記 述 す る 必 要 が あ る 。 本 章 で は ま ず VR 構 造 の 分 類 を 行 っ た 先 行 研 究 を 紹 介 し 、 問 題 点 を 指 摘 し た 後 、 本 論 文 で 使 わ れ る 分 類 に つ い て 述 べ て お く 。

1.4.1.先 行 研 究 に お け る VR 構 造 の 下 位 分 類

筆 者 の 管 見 の 限 り で は 、 従 来 の 研 究 の 中 で 、 VR 構 造 に つ い て 、 最 も 早 く 分 類 を 行 っ た の は 、王 力 (1943/1979)で あ る 。以 下 (1.4.1.1~ 1.4.1.2)は 王 力( 1943/1979) に お け る 分 類 で あ る 。 1.4.1.1.形 容 詞 が結 果 補語 に な る 場 合 1.4.1.1.1.一 般 例 あ る 動 作 行 為 に よ っ て 、引 き 起 こ さ れ る 状 況 を 表 す 。例 え ば 、“推 倒 (押 し 倒 す )”、 “弄 坏 (壊 す )”な ど の 例 が あ る 。 1.4.1.1.2. 特 殊 例 動 作 主 の 行 為 を あ る 状 況 に 変 化 さ せ る こ と を 表 す 。例 え ば 、“踢 错 (蹴 り 間 違 う )” の “错 (間 違 う )”は “踢 (蹴 る )”と い う 行 為 が 間 違 っ た と い う 意 味 を 表 す 。 1.4.1.2.動 詞 が 結果 補 語に な る 場 合 (こ の 種 類 の 動 詞 自 身 が 自 動 詞 で あ る ) あ る 行 為 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た 状 況 を 表 す 。 1.4.1.2.1 前 項 動 詞 が 他 動 詞 で あ る 場 合 結 果 補 語 と 結 び つ い た 後 、〈 他 動 性 〉を 持 つ 述 語 に な る 。こ の 場 合 、こ の 行 為 に よ り 引 き 起 こ さ れ る 状 況 は 、 即 ち 受 動 者 が 被 る も の で あ る 。 1.4.1.2.2. 前 項 動 詞 が 自 動 詞 で あ る 場 合

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- 19 - 結 果 補 語 と 結 合 し た 後 、〈 自 動 性 〉を 持 つ 述 語 に な る 。こ の 場 合 、行 為 に よ り 引 き 起 こ さ れ る 状 況 は 、 即 ち 動 作 主 が 被 る も の で あ る 。 王 力 ( 1943/1979) は 上 述 の VR 構 造 は 述 語 動 詞 V と 補 語 の 間 に 因 果 関 係 が あ る と し 、“使 成 式 (causative form)”と 呼 ん で い る が 、し か し 、後 の 王 力 (1958/1980) で は 、 1.4.1.2.2.で 述 べ ら れ た VR 構 造 、 す な わ ち 、 補 語 が 意 味 的 に 動 作 主 に 指 向 す る VR 構 造 に は 因 果 関 係 は 存 在 し な い と し 、 “使 成 式 ”か ら 除 外 し た 。 王 力 氏 の 分 析 は 以 下 の 2 点 に お い て 評 価 す べ き で あ る 。 (ⅰ )一 部 の VR 構 造 に 〈 使 役 義 〉 と い う 意 味 特 徴 を 備 え て い る こ と を 指 摘 し た 点 で あ る 。 (ⅱ )「 意 味 指 向 」と い う 観 点 か ら VR 構 造 に 対 し て 分 類 を 行 っ た と い う 点 で あ る 。 し か し 、 王 力 (1958/1980)に お け る 「 補 語 が 意 味 的 に 動 作 主 を 指 向 す る VR 構 造 は 因 果 関 係 が な い 」と い う 主 張 に 反 す る 例 も あ る 。例 え ば 、“饿 死 (餓 死 す る )”、“看 惯 (見 慣 れ る )”、“站 累 (立 ち 疲 れ る )”等 の 例 に つ い て い え ば 、い ず れ も 前 項 動 詞 が 表 す 動 作 の 遂 行 に よ っ て 、後 項 補 語 が 表 す 結 果 状 態 が 発 生 す る と 解 釈 で き る た め 、 「 因 果 関 係 」 が 成 り 立 つ と 考 え た ほ う が 妥 当 で あ ろ う 。 た だ し 、 補 語 が 被 動 者 を 指 向 す る VR 構 造 に あ る「 因 果 関 係 」(e.g.“他 打 碎 了 玻 璃 (彼 は ガ ラ ス を 割 っ た )”) と 比 較 す れ ば 、 前 者 の 方 が 間 接 的 で あ る こ と が 明 白 で あ る 。 な お 、 “吃 完 (食 べ 終 わ る )”、 “做 成 (や り 遂 げ る )”な ど の よ う な 補 語 が 前 項 動 詞 の 完 成 の 局 面 を 表 す タ イ プ に つ い て 、王 力 (1943/1979,1958/1980)で は 言 及 さ れ て い な い が 、本 論 文 で は 、 そ れ を VR 構 造 の 下 位 分 類 の 一 つ と し て 取 り 扱 う 。

1.4.2.本 論 文 の 分 類

本 論 文 は 范 晓 (1985)、山 口 (1991)、王 红 旗 (1996)、施 春 宏 (2008)な ど の 分 類 を 踏 ま え 、 結 果 補 語 の 「 意 味 指 向 」 (他 の 文 法 成 分 と の 意 味 関 係 )に 基 づ い て 、 R が ど の よ う に 限 界 化 す る の か 、 つ ま り 、 限 界 化 の 仕 方 の 差 異 を 基 準 に 、 次 の よ う に 下 位 分 類 す る 。 [A 類 ] R が 前 項 動 詞 を 指 向 し て お り 、 前 項 動 詞 が 表 す 動 作 行 為 の 完 成 の 局 面 を 表

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- 20 - す 。 本 稿 で は 〈 完 成 相 〉 を 表 す VR 構 造 と 呼 ぶ 。 e.g.V 完 13, V 过 1 4 , V 好 , V 着 (zhao2), V 住 , V 见 [B 類 ] R が 受 動 者 を 指 向 し て お り 、 VR 構 造 は V が 表 す 動 作 行 為 に よ り 、 受 動 者 に 何 ら か の 状 態 変 化 が 生 じ る こ と を 表 す 。 e.g. V 完 2,V 破 ,V 碎 ,V 肥 ,V 红 ,V 干 净 ,V 走 ,V 坏 ,V 净 ,V 光 ,V 没 , V 绝 , V 败 , V 胜 , V 赢 [C 類 ] R が 動 作 主 を 指 向 し て お り 、 VR 構 造 は V が 表 す 動 作 行 為 に よ り 、 動 作 主 に 何 ら か の 状 態 変 化 が 生 じ る こ と を 表 す 。 こ の 状 態 変 化 の 多 く は 感 情 ・ 感 覚 も し く は 心 理 的 な も の が 多 い 。 e.g. V 醉 , V 腻 , V 够 , V 烦 , V 累 , V 疼 , V 晕 , V 麻 , V 懂 , [D 類 ] R が 受 動 者 、 動 作 主 以 外 の 名 詞 成 分 を 指 向 し て お り 、 VR 構 造 は V が 表 す 動 作 行 為 に よ り 、 受 動 者 ・ 動 作 主 以 外 の 名 詞 成 分 が 表 す 第 三 関 与 者 に 何 ら か の 状 態 変 化 が 生 じ る こ と を 表 す 。 e.g. (把 鞋 )走 破 了 , (他 脸 都 )气 黄 了 , (他 砍 柴 )砍 断 了 (两 把 斧 头 ) [E 類 ] R が 前 項 動 詞 を 指 向 し て お り 、 V の 表 す 動 作 行 為 の 結 果 状 態 に 対 す る 話 者 の 評 価 を 表 す 。 そ の う ち 、“快 (速 い ),慢 ((速 度 が )遅 い ),早 (早 い ),晚 (遅 い ),久 ((時 間 が ) 長 い ”な ど の よ う な 、R が 動 作 行 為 に 対 す る 評 価 を 表 す も の が あ れ ば 、“长 ((長 さ が )長 い ,短 (短 い ),高 (高 い ),矮 ((身 長 が )低 い ,低 (高 さ が )低 い ”な ど の よ う な 、受 動 者 が 生 じ た 結 果 に 対 す る 評 価 を 表 す も の も あ る 。い ず れ も「 何 等 か の 基 準 と な る 状 態 か ら ず れ て い る と い う 意 味 を 表 す 」 た め 、 陆 俭 明 (1989, 3 中 国 語 の 結 果 補 語 “完 ”は 二 つ の 意 味 が あ る 。一 つ は 、動 作 行 為 の 完 結 を 表 す 。も う 一 つ は 「 事 物 が な く な る 」 と い う 結 果 状 態 を 表 す も の が あ る 。 両 者 を “完 1”と “完 2” に 区 別 し 、 前 者 を[ A 類 ]に 、 後 者 を[ B 類 ]に 分 類 す る 。 4 後 述 (4.1.)の よ う に 中 国 語 に お け る “V 过 ”の “过 ”に は そ の 意 味 機 能 に よ っ て〈 経 験 〉 を 表 す ア ス ペ ク ト 接 辞 の “过 ”と 結 果 補 語 の “过 ”に 分 け ら れ る 。本 論 文 で は 、後 者 の み を 考 察 の 対 象 と し 、 “V 过1”と 記 す 。

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- 21 - 2001)、岩 崎 (1990)な ど で は「 過 分 義 現 象 」 と 呼 ば れ て い る 。 な お 、こ の タ イ プ の 〈 過 分 義 〉 を 表 す VR 構 造 の R は 〈 中 性 〉 形 容 詞 で あ り 、「 量 」 を 表 す と い う 特 徴 を 有 す る 。5 e.g. V 长 ,V 短 ,V 高 ,V 矮 ,V 低 ,V 大 ,V 小 ,V 重 ,V 轻 ,V 宽 ,V 窄 ,V 远 , V 近 , V 早 , V 晚 , V 胖 , V 肥 , V 瘦 , V 稠 , V 稀 , V 硬 , V 软 , V 紧 , V 松 な お 、 马 真 ・ 陆 俭 明 (1997)に も 指 摘 さ れ て い る よ う に 、 結 果 補 語 の 意 味 指 向 は 必 ず し も 不 変 な も の で は な い 。 前 項 動 詞 と の 意 味 関 係 に よ っ て 、 R の 意 味 指 向 が 変 わ る こ と が あ る 。 (1-9) a.把 球 踢 坏 了 。 ((サ ッ カ ー を し て 、 )サ ッ カ ー ボ ー ル が 壊 れ た )(马 真 ・ 陆 俭 明 1997 か ら 引 用 ) b.把 鞋 踢 坏 了 。 ((サ ッ カ ー を し て 、 )靴 が 壊 れ た 。 )(同 上 ) 結 果 補 語 “坏 ”は 例 (1-9)a に お い て は 、 意 味 的 に 受 動 者 の “球 (サ ッ カ ー ボ ー ル )”を 指 向 し て い る が 、 例 (1-9)b に お い て は 、 道 具 の “鞋 (靴 )”を 指 向 し て い る 。 し た が っ て 、 本 論 文 で は 、 VR 構 造 の R の 意 味 指 向 を 判 断 す る 際 に 、 前 項 動 詞 及 び 他 の 成 分 と の 意 味 関 係 を 十 分 に 考 慮 す る う え で 行 う 。 続 い て 、 2 章 (第 2 章 と 第 3 章 )に 分 け 、 VR 構 造 が 従 属 節 の“VR(了)的 N”構 造 に 生 起 す る場 合 、 主 節 の う ち の 動 詞 コ ピ ー 構 文 に 生 起 す る 場 合 、 VR 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー が ど の よ う な 異 な る 統 語 的 振 る 舞 い を す る の か を 考 察 し 、更 に R の 限 界 化 の 仕 方 と の 関 連 性 に つ い て も 考 え て み た い 。 5 陆 俭 明 (1989、 1990)で は 「 量 度 形 容 詞 」 と 称 す る 。

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第 2 章 従属節に生起する VR 構造

6 ―“VR(了)的 N”における VR 構造― 本 章 で は 、 VR 構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー が 連 体 修 飾 構 造 に 生 起 す る 場 合 (“VR(了 ) 的 N”構 造 と 記 す )、 “了 ”と の 共 起 関 係 に つ い て 考 察 し て み た い 。 従 来 の 研 究 に お い て 、動 詞 (V)が 連 体 修 飾 語 に な っ て 名 詞 成 分 を 修 飾 す る 場 合 (“V(了 )的 N”構 造 と 呼 ぶ )の “了 ”の 生 起 条 件 に 関 す る も の が 数 多 く あ る が 、 VR 構 造 が 連 体 修 飾 語 に な る 場 合 、 “了 ”が ど の よ う な 条 件 の も と で 生 起 す る の か と い う 問 題 に 触 れ る 研 究 は 少 な い よ う で あ る 。 本 章 は 先 行 研 究 を 踏 ま え 、 “VR(了 )的 N”構 造 に お け る “了 ”の 生 起 条 件 を 解 明 し 、更 に 各 タ イ プ の VR 構 造 に お け る R の 限 界 化 の 仕 方 と の 関 係 に つ い て 考 え て み た い 。

2.1.問題提起

VR 構 造 が“ 的 ”構 造 を 形 成 し 、連 体 修 飾 語 に な る 場 合 、“了 ”の 生 起 条 件 の 問 題 を 最 も 早 く 取 り 上 げ た の は 、Chao(1968)で あ る 。当 該 の 著 作 に お い て “了 ”の 使 用 可 否 に つ い て 、 Chao(1968)は 次 の よ う に 指 摘 し て い る 。

“In a V-R compound used attributively in a subordinative position, the suffix – leis optional if the center is the goal but is not used as a rule if it is the actor or instrument.”(VR 構 造 が 従 属 的 な 位 置 に 置 か れ て お り 、 連 体 修 飾 語 な る 場 合 、 も し 中 心 語 N が V の 対 象 で あ れ ば 、 “了 ”の 使 用 は 自 由 で あ る が 、 N が V の 動 作 主 あ る い は 道 具 で あ れ ば 、 “了 ”は 用 い ら れ な い ) し か し 、 上 記 の 記 述 は あ く ま で 一 部 の 言 語 事 実 し か 当 て は ま ら ず 、 幅 広 い 解 釈 力 を 持 た な い 。 例 え ば 、 “吃 腻 了 的 菜 (食 べ 飽 き た お か ず )→ ? *吃 腻 的 菜 ”や “买 大 了 的 鞋 (買 っ た 大 き す ぎ た 靴 )→ *买 大 的 鞋 ”の 例 で は 、N が V の 対 象 で あ る に も 関 わ ら ず 、 “了 ”の 使 用 は 随 意 的 で は な く 、 義 務 的 で あ る 。 一 方 、 “闹 累 了 的 士 兵 (騒 い 6 本 章 は 楊 (2016)の 議 論 を 骨 子 と し て 加 筆 ・ 修 正 を し た も の で あ る 。

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- 23 - で 疲 れ た 兵 士 )→ ? *闹 累 的 士 兵 ”、“切 折 了 的 刀 (折 れ た 包 丁 )→ 切 折 的 刀 ”な ど の 例 の よ う に 、N が V の 動 作 主 あ る い は 道 具 で あ る が 、“了 ”の 使 用 が 義 務 的 で あ っ た り 、 随 意 的 で あ っ た り す る 用 例 が た く さ ん 見 受 け ら れ る 。 ま た 、王 占 華 他 (2008)は 木 村 (1982)、三 宅 (1989)な ど と 同 じ く 、“VR(了 )的 N” 構 造 に は 触 れ ず 、 “V(了 )的 N”構 造 に お け る “了 ”の 生 起 条 件 の み を 検 討 し て い る 。 仮 に 、 “VR(了 )的 N”構 造 を 、 “V(了 )的 N”構 造 の 下 位 カ テ ゴ リ ー と 見 な し 、 後 者 に お け る “了 ”の 生 起 条 件 を 前 者 に そ の ま ま 当 て は ま ら せ よ う す れ ば 、 不 都 合 が 生 じ る 。 王 占 華 他 (2008)は “V 了 的 N”構 造 に お け る “了 ”の 生 起 に は 、 語 用 論 的 な 要 因 が 絡 み 合 っ て お り 、話 者 が 意 図 的 に「 不 可 逆 転 」な 状 態 だ と 認 識 す る 場 合 に 限 り 、“了 ” が 生 起 す る と 主 張 し て い る 。し か し 、上 述 し た “闹 累 了 的 士 兵 → *闹 累 的 士 兵 ”、“买 大 了 的 鞋 → *买 大 的 鞋 ”な ど の 現 象 を や は り う ま く 説 明 で き な い 。 よ っ て 、 “V(了 ) 的 N”構 造 と “VR(了 )的 N”構 造 は 、 意 味 的 、 構 造 的 類 似 性 が あ る も の の 、 両 構 造 に お け る “了 ”の 生 起 問 題 に つ い て 検 討 す る 場 合 、 両 者 を 異 な る 構 造 と み な し た ほ う が 妥 当 で あ ろ う 。 こ の 問 題 に つ い て 詳 し く 分 析 を 行 っ た 先 行 研 究 は 、 管 見 の 及 ぶ 限 り 、 三 宅 (1991)の み で あ る 。 以 下 は 三 宅 (1991)に お け る 問 題 点 を 指 摘 し た う え で 、 “了 ”の 生 起 条 件 に つ い て 再 検 討 す る 。

2.2.三宅(1991)における考察および問題点

2.2.1. 三 宅 (1991)の 考 察

三 宅 (1991)は 、“VR(了 )的 N”構 造 に お け る “了 ”の 生 起 条 件 つ い て 次 の よ う に 分 析 し て い る 。(以 下 2.2.1.1.~ 2.2.1.2.は 三 宅 1991 に お け る 分 析 の ま と め で あ る ) 2.2.1.1.“ 了 ” が 省 略 可 能 な 場 合 Ⅰ .“R”が 意 味 上 “V”を 指 向 し て お り 、 直 接 動 詞 の 表 す 動 作 行 為 を 説 明 す る 場 合 、 “VR(了 )的 N”構 造 に お け る “了 ”は 省 略 で き る 。(例 (2-1)~ (2-7)及 び 日 本 語 訳 は 三 宅 1991 か ら 引 用 ) (2-1) 她 给 我 作 饭 , 问 我 身 上 怎 样 , 还 常 常 偷 看 我 , 象 妈 妈 看 睡 着 了 的 小 孩 那 样 。

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- 24 - (彼 女 は 私 に ご は ん を 作 っ て く れ た り 、体 の 調 子 は ど う か と 聞 い て く れ た り 、 ま た し ょ っ ち ゅ う 私 の 様 子 を う か が っ て 、 ま る で 母 親 が 寝 付 い た 子 供 を み る よ う だ っ た 。 ) 睡 着 了 的 → 睡 着 的 (2-2) 打 完 了 的 时 候 , 胜 家 便 说 :“ 完 了 , 对 不 起 呀 !” (け ん か が 終 わ っ た ら ,勝 っ た 方 が「 終 わ り だ 。す ま な か っ た な ! 」と 言 う 。) 打 完 了 的 → 打 完 的 Ⅱ .“R”が 前 項 動 詞 “V”以 外 の 名 詞 性 成 分 と 意 味 上 主 述 関 係 を 成 し 、且 つ “V”と “R” の 間 に 強 い 因 果 関 係 が 存 在 し て お り 、“V”が 表 す 動 作 行 為 が 不 可 避 的 に “R”が 表 す 状 態 を 生 み 出 す 場 合 は 、 “了 ”は 省 略 で き る 。 (2-3) 现 在 他 非 常 的 安 静 , 像 个 跑 乏 了 的 马 , 连 尾 巴 也 懒 得 动 。 (今 や 彼 は 非 常 に 静 か で 、走 り 疲 れ た 馬 の よ う に 、し っ ぽ さ え 動 か す の が お っ く う で あ っ た 。 ) 跑 乏 了 的 → 跑 乏 的 (2-4) 当 我 对 她 说 的 时 候 , 每 个 字 都 象 烧 红 了 的 煤 球 烫 着 我 的 喉 。 (私 が 彼 女 に 話 す 時 ,そ の 言 葉 一 言 一 言 が ,ま る で 焼 け て 赤 く な っ た 豆 炭 の よ う に 私 の の ど を 熱 し て い た 。 ) 烧 红 了 的 → 烧 红 的 2.2.1.2.“ 了 ” が 省 略 不 可 の 場 合 Ⅰ .“R”が 前 項 動 詞 “V”以 外 の 名 詞 性 成 分 と 意 味 上 主 述 関 係 を 成 し 、且 つ “V”と “R” の 間 の 因 果 関 係 が 弱 く 、“R”の 表 す 状 態 が “V”の 表 す 動 作 行 為 の 偶 然 の 結 果 に 過 ぎ な い 場 合 、 “了 ”は 省 略 で き な い 。 (2-5) 她 由 一 进 门 , 嘴 便 开 了 河 , 直 说 得 李 太 太 的 脑 子 里 象 转 疯 了 的 留 声 机 片 。 (彼 女 は 入 り 口 を 入 る と ,口 を 開 け て し ゃ べ り ま く る の で ,李 お ば さ ん の 頭 の 中 は 狂 っ た よ う に 回 転 す る レ コ ー ド の よ う に な っ た 。 ) 转 疯 了 的 → *转 疯的

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