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日中会話の不同意表明に見られる「配慮」の伝え方 の分析

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日中会話の不同意表明に見られる「配慮」の伝え方 の分析

著者 趙 東玲

著者別表示 Zhao Dongling

雑誌名 人間社会環境研究

号 35

ページ 33‑48

発行年 2018‑03‑31

URL http://doi.org/10.24517/00050959

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

人間社会環境研究第35号2018.3

日 中 会 話 の 不 同 意 表 明 に 見 ら れ る

「配慮」の伝え方の分析

金 沢 大 学 大 学 院 人 間 社 会 環 境 研 究 科

趙 東 玲

要旨

本研究は,日本語母語話者(JNS)・中国語母語話者(CNS)が不同意表明を行う際に「配慮」

がどのように相手に伝わるかを表現方法と言語形式という2つの側面から明らかにした。まず,

不同意表明の表現方法を考察した結果,1)不同意が明示される前に同意できないことを予告的 に暗示すること,2)不同意が明示された後で相手の同意や共感理解を求めること,3)相手 の提案に興味を示し,不同意の明示を遅らせることまたは回避すること,4)不同意を提案の形 で示し,相手との親密さを表すこと,5)不同意表明の補助手段を単独で行使すること,6)不 同意表明の補助手段を複合的に行使すること,といった「配慮」行動が観察された。そのうち,

1)と2)は両母語話者に共通し,3)・5)と4)・6)はそれぞれJNSとCNSの特徴と見なされ る。次に,不同意表明の言語形式について考察した結果,JNSの特徴として「不同意の明示」の

「指摘型」「程度抑制型」「否定型(代案提示)」のいずれにおいても,話を続けやすくするための 意見表明を緩和する言語形式を使用していた。それに対し,CNSの会話にはそういう「配慮」の 言語形式が見られず,断定する表現形式の使用が多い。しかし,CNSの「不同意の明示」には相 手の行為を誘う形を取り,話し手自身の行為を含む「勧誘」の形式多く使っていることが観察さ れた。これによる不同意の表明は意見の押し付けを避けるためのCNSの「配慮」の特徴であると 思われる。また,「不同意の暗示」の「回避型」の表現に関しては,問いかけによって不同意の 表明を潜在化させるような「配慮」の伝え方が両言語において確認できた。

キ ー ワ ー ド

日本語母語話者,中国語母語話者,不同意表明,配慮

℃onsideration''shownbyconversationalexpressionsofdisagreement:

AcontrastiveanalysisoftheJapaneseandChinese

GraduateSchoolofHumanandSocio‑EnvironmentalStudies,KanazawaUniversity

ZHAODongling

Abstract

ThispaperanalyzedhowcGconsideration''canbeconveyedtolisteners廿omtwoaspects‑GGexpression methods"and、6expressionfbrms"‑whenJapanesenativespeakers(JNS)andChinesenativespeakers (CNS)expresstheirdisagreement.Thefbllowingbehaviorsof"consideration"ofthespeakerswere

33

(3)

34 人間社会環境研究第35号2018.3

observedafieranalyzingtheresultsofthedisagreementexpressions:1)implyingnoticeablythatspeakers cannotagreebefbretheyuttertheirdisagreementexplicitly;2)requiringthelistenergunderstandingofthe disagreementofthespeakersaffertheyutteritexplicitly;3)showingtheirinterestintheproposalsofthe listenersfbrthespeakerstoexpresstheirdisagreementlater;4)expressingtheirdisagreementinthefbnn ofaproposaltoshowintimacywiththelisteners;5)usingasingletypeofsupplementarystrategy;and6) usingvarioustypesofsupplementarystrategies.1)and2)areobservedcommonlyinbothJapaneseand Chinesenativespeakers,3)and5)areconsideredthecharacteristicsofJNS,and4)and6)areregardedas

thecharacteristicsofCNS.

Furthennore,廿omtheaspectofthe"expressionfbnns,''wefbundthefbllowingresults:whenuttering thedisagreementexplicitly,mStendtouseseveralsofienersattheendofthesentencestomakethe conversationsmoreeasilycontinuable.Onthecontrary,CNStendtousesomedirectexpressionstoshow theirdisagreement.However,thespecialwayfbrCNStoshowconsiderationwhentheyexpresstheir disagreementisthattheyuseinvitationfbnnstomakethelistenersacceptthedisagreementsothatthey avoidfbrcingtheirideasonthelisteners.Withrespecttotheimplicitwayofshowingdisagreement,itwas fbundthatbothnativespeakerscommonlyuseinterrogativesentencestomaketheirdisagreementlatent.

Keyword

Japanesenativespeakers,Chinesenativespeakers,disagreement,expressingconsideration

1 . は じ め に

日常生活において,意見を交換する場面が少な くない。例えば,会社などでの会議の際のディス カッションや,授業などでの討論,物事を決める 際の相談など,さまざまな場面において意見を述 べ,またその意見に対して相手から賛成や反対な どの態度表明が行われたりするが,その際,さま ざまな意見交換のやり方によって談話が進んでい く。このような過程において,相手に対して異な る意見を表明する場合,相手の体面を傷つけた り,不愉快にさせたりする危険があるため,コ ミュニケーション主体は自覚的に様々な配慮を凝 らす必要がある。しかしながら,異なる文化や言 語 を 持 つ 相 手 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 行 う と い う異文化間の接触場面では,一方の試みた「配 慮」が相手に認識理解されない可能性が高いこ とが予想できる。事実,中国人日本語学習者と日 本語母語話者との接触場面における日本語による

「不同意コミュニケーション」を考察対象とした 金(2015)では,中国人日本語学習者が不同意の 理由や根拠を伝えることにより相手に配慮を示し

たことに対し,日本語母語話者はそれを配慮され たとは受け止めず,説得されているように感じる だけでなく,意見の押し付けがなされているとも 感じると指摘している。また,野田(2012)が指 摘しているように,日本語非母語話者がそれなり の配慮を示す言語行動をとったつもりでいても,

その配慮がよい印象を母語話者に与えない場合が ある。こういった,必ずしもよい印象を与えない 配慮表現や言語行動は,文法や語彙の不自然さと 異なり,人格の問題だと思われる危険性もある。

したがって,異文化間コミュニケーションにおい て会話の目的を達成するには,それぞれ,どのよ うな表現が好まれるのか,双方の言語表現にはど のような相違点があるのかを知ることが重要であ る。つまり,異文化間の接触場面において起こり うるトラブルの原因を検討する前段階として,母 語場面で行われる言語行動の解明が重要な意味を 持つと考えられる。

以上のような問題意識に基づき,本研究では,

親しい関係にある友人同士による何かを決定する 会話を分析対象とし,相手の主張と異なる見解を

(4)

述べる「不同意表明」言語行動を着目にし,日中 両言語において不同意がそれぞれどのように表明 され,またその際,どのような配慮表現が使用さ れ,さらに日中両母語話者の行動様式にどのよう な相違が存在しているかについて考察を試みる。

2.先行研究及び用語の規定 2.1先行研究と問題点

不同意表明に関して日・中両言語の間ではどの ような違いが存在するかについての先行研究に は,王(2013),楊(2009),楊(2015)がある。

王(2013)は,談話完成テストと自然会話の2 種類の調査方法を用いて,日常生活でよく対面す る場面を,フォーマルな場面からカジュアルな場 面まで4つ(フォーマルな相談場面,インフォー マルな相談場面,買い物場面,食事場面)に分類 し,また,会話を行った相手との関係(親下,親 同,親上,疎下,疎同,疎上)を変数として,そ れぞれの場面においてどのように不同意を表明す るのか,不同意を表明するときにどのような特徴 を示すかを中心に調査を行っている。この調査に よって,不同意表明の傾向などに関する日・中両 母語話者間の違いも浮かび上がった。その結果よ

ると,「意見や評価の不同意」について,多くの 場面において,日本語母語話者はより多くの暗示 的な言い方を使用し,不同意を表明するが,中国 語母語話者はより多くの明示的な言い方で不同意 を表明する傾向が明らかにされた。さらに,「事 実の不同意」については両母語話者ともに明示的 に不同意を表明する傾向が見られた。

楊防(2009)は,中国語母語話者間の日常会 話,そして日本語母語話者と中国人日本語学習者 間の接触場面の日常会話のなかで,不一致におけ る「直接表明」・「間接表明」・「回避」という3つ の調整ストラテジーの使用について考察を行って いる。その結果,中国語母語話者は事実情報の認 識における不一致,発話意図の理解のずれによる 不一致の場合,直接的に不同意を表明するが,感 想や評価の不一致の場合,間接的に不同意を表明

する。他方,日本語母語話者は,中国語母語話者 より「間接表明」と「回避」のストラテジーを多 用すると述べている。

楊虹(2015)は日中接触場面,中国語母語話者 間の会話,そして日本語母語話者間の会話という 3つの場面における不同意発話の言語形式に焦点 を当て,発話文のモダリテイ使用の観点から分析 を行っている。その結果の一部として,日中それ ぞれの母語話者会話場面の不同意表明発話におけ るモダリテイの使用状況についてどのような違い があるのかが明らかになった。この研究によれば,

中国語母語話者場面では不同意発話の約半分が有 標モダリテイを付加せずに断定的に発話されてい るのに対し,日本語母語話者場面ではモダリテイ を付加しない不同意の発話は1割強にとどまって いるということである。

このように,先行研究において日・中両母語話 者間の会話における不同意表明の仕方を分析した ものの多くが,単一発話を対象として分析してい る。しかし,日本語母語話者の不同意表明に関す る研究では,日本語母語話者は,複数の発話によっ て不同意を表明していることが指摘されている (椙本,2004;倉田・楊,2010)。また,g(2014) に指摘されているように,中国語の不同意に関す る研究は,社会言語学の観点に比べて文法論から アプローチしたものが多い。不同意を表明すると いう言語行動には,意見を伝えると同時に会話の 相手への配慮を示すなど,複数の言語行動により 構成されることが明らかになっているが,日中対 照研究にはこのような観点からの研究はまだ少な い。そこで本研究では,不同意表明の言語表現形 式,及び不同意表明の表現方法をも含め,不同意 を伝える一連の発話に注目し,不同意の表明に伴 いどのような配慮が伝えられるのかを分析するこ とにより,日・中母語話者場面の不同意表明とい う言語行動の特徴を明らかにすることを目指す。

2.2用語の定義

日本語の文献では,相手の考えや意見などと異 なる見解を表明することについて,「不同意」.

(5)

36 人間社会環境研究第35号2018.3

「不一致」・「反対表明」などの用語が使用されて いる。また,「不同意」という用語を使っている 文献では,考察する対象範囲がまちまちであるた め,「不同意発話」・「不同意行為」・「不同意表明」

などの用語も存在する。ここでは,一連の用語の 定義を概観し,本研究で扱う不同意を定義する。

倉田・楊(2010)では,議論の場面において相 手の見解や提案と相反する方向に持っていく不同 意の意向を示す中核となる発話を「不同意発話」

と呼び,堀田(2017)では,合意形成を目指すディ スカッション,デイベートなどの場面で起こりう る,先行発話である意見や提案または事実提示を はじめとした様々な命題内容に対する不同意を表 す行為を「不同意行為」と規定している。また,

王(2013)では,ある会話参加者が他者のある事 実情報に対する認識ある物事に対する意見や評 価 と 異 な る 意 識 意 見 や 評 価 を 持 つ と き に 行 う 不 賛成や非難,反論,否定の意味や含意を持つ言語 行為や非言語行為(笑い,沈黙など)のことを「不 同意表明」と述べている。

以上の定義を考察すると,事実や情報に対する 認識,物事についての意見や評価等における話者 間の考えの不一致が不同意の主な構成要素として 取り上げられていることが明らかになった。そこ で,先行研究の定義を踏まえた上で,本研究は以 下のように用語を規定する。「不同意表明」とは,

会話参加者同士で何かを決定する際,相手の考 え(ある事実や情報に対する認識,ある物事に対 する意見や評価等)と異なる考えを持つ時に行う 不賛成や否定的評価等を含む否定の意味や含意を 持つ言語行為のことである。これらの言語行為は 不同意の意向を示す中核の発話であり,それと併 用された否定を示すディスコースマーカーである

「でも」「だって」「いや,や,いや一」などの応 答表現をも含め,「不同意表明発話」とする。また,

本研究における「配慮」とは,金(2012,2015) の定義に基づき,「不同意表明」を行うことによ

り生じる問題を緩和するために,話し手が聞き手 に何らかの気配りや気遣いをすることである。

3.研究目的と研究方法 3.1目的と課題

前述のように,不同意を伝える場合,相手の体 面を傷つけたり,不愉快にさせたりする危険があ るため,相手への「配慮」を示しながら「不同意 表明」を行う必要がある。そのためには,日.中 両言語において相手に伝わる「配慮」にはどのよ うなものがあるのか,その実態を調べる必要があ る。そこで,本研究では,日本語母語話者(以下,

JNS)と中国語母語話者(以下,CNS)の不同意 表明を行う言語行動にはそれぞれどのような「配 慮」が行われるのかを探ることを目的とし,下記 のように2つの研究課題を設け,分析を実施する。

課題1.不同意表明の表現方法にどのような

「配慮」が示されるか,また,JNSと CNSにはどのような共通点と相異点 が見られるか。

課題2.不同意表明の言語形式にどのような

「配慮」が示されるか。また,JNSと CNSにはどのような共通点と相異点 が見られるか。

3.2データ収集

調査は,2015年8月から12月にかけ,日・中両 母語話者を対象に実施した。調査協力者は,それ ぞれ日本の北陸地域のH大学・K大学,中国の中 原地域のN大学に属する学生(20代前半が殆ど)

である。また,調査は人間関係と性差による影響 を排除するため,会話参加者は対等関係(友人同 士)・同性同士に限定した。データの収集は,何 かを決める相談会話を行ってもらい,それを録音 することによって行った。自然な会話の展開を観 察するために,調査者は話題と会話時間の長さを 指定せずに最終の合意形成まで普通に話をするよ うに指示するだけで,その場で録音設備を使える 状態に調整してから退室した。調査の結果は,3 名1組とし,各9組また,日・中両言語の会話 時間の長さは合計でそれぞれ19分6秒・18分14秒 であった。

(6)

録音した会話は,「基本的な文字化の原則」(宇 佐美,2011)に従って文字化')した。

国立国語研究所(1994)では,単位方略をある タスクを遂行するために必要なストラテジーの行 動様式を類型化したものであると規定している。

本研究はその単位方略を利用して考察を行った王 (2013)を参考にした上で,「否定型」「指摘型」「程 度抑制型」「共感期待型」「発言要求型」「意見保 留型」「回避型」という7種の方略の型に分類し た。また,堀田(2017)を参考に,全方略の型を

「主要部」(「不同意の明示」・「不同意の暗示」)と,

「補助部」(「不同意表明の補助」)にカテゴリー分 けした(表1)。

「不同意の明示」とは,「不同意」が実際に発語 3.3分析方法

課題1については,まず不同意表明にどのよう な単位方略が使われているのかを調べ,また,使 われている単位方略を不同意の表現行動によって カテゴリー化し,その使用に関する日・中両言語 の特徴を調べた。課題2については,日・中両言 語における使用頻度が高い単位方略に注目し,そ れぞれはどのような言語形式によって表現される のかを調べた。

表 1 不 同 意 表 明 の 単 位 方 略

*は筆者が追加した単位方略及び方略の型

方略の型 説 明 単 位 方 略

不同意の明示主要部

否定型

指摘型

程度抑制型

相手の見解に対して明 示的に否定・反対する。

立場が対立するような 情報を提供する。

相手の考えと対立する ことをある程度抑制し 表明する。

不同意の表明 マイナス評価

代案提示

自分の情報提供

事 実 提 供

承認先行

相手が表明した見解に対して否定を示す応 答表現.遂行動詞によって不同意を示す。

事態や事柄について好ましくない評価を下 0

代わりの具体的な提案を提示する。または 代わりとなる提案の方向を提示する。

事態に対する必要な話し手自身の情報を伝 える0

必要なまたは有益な情報や事実を伝える。

不同意を明確化する前に相手の発話を全部 或いは部分的に承認することを伝える。

不同意の暗示主要部 回 避 型 話題 を 変 え たり 、 関連 する内容だけを提示す ることで.話し手が抱 く不同意を潜在化させ

妥協の提出 話題の転換

冗談

意 見 の 不 完 全 な 叙

外見上は他者の考えに服従する。

異議を持つことに言及せずに話題を変える。

実現できない事柄を提示する。

感想や評価などを伝えようとするが,言語 化しない。

不同意表明の補助補助部

共感期待型

発言要求型

意見保留型

情報や理由などの叙述 によって,相手からの 同 意 や 共 感 理 解 を 期 待する。

相手に情報や意見を求 めることにより,暗に 反対の意図を示す。

同意の期待

共感や理解の期待

確認の要求 情報提供の要求 意見保留

情報や理由などの叙述によって,同意を求 め る0

情報や理由などの叙述によって,共感や理 解を求める。

先行発話を正確に理解するために確認を求 め る0

事態や事柄に関する未知の情報を与えるよ う求める。

自己確認のように自分の意見をとどめ、明 確に表現しない。

(7)

人間社会環境研究第35号2018.3 38

内効力2)を持つという意味的要素であり,それぞ れ「否定型」「指摘型」「程度抑制型」が該当する。

「不同意表明の補助」とは,「不同意」の効力を軽 減する意味的要素であり,「共感期待型」「発言要 求型」「意見保留型」が該当する。「不同意の暗示」

とは「不同意」の効力を潜在化させる意味的要素 であり,「回避型」が該当する。

JNSはそれに対する使用頻度が最も高いことが見 られる。また,「不同意の暗示」の使用について は,JNSが「冗談」方略を使わず,CNSの会話に は「意見の不完全の叙述」の使用が見られない。

4.1.1JNSの「承認先行」とCNSの「代案提示」

「不同意の明示」の各方略のうち,「否定型」・

「指摘型」と異なり,「程度抑制型」(「承認先行」

方略)は相手の提案に対して同意できないことを 明確に伝えるものであるが,相手の考えと対立す ることを遅らせて伝えることによって表明される ため,相手の提案は受け入れられること,もしく は相手の考えは認められることを伝え,その提案 をベースとして更に内容を増やしたり,不利益の ところを指摘するという特徴がある(会話例1)。

会話例1において,JNSA25の「なんか買って食 べるでもいいし。」の提案に対し,JNSC34はまず その発話を受け入れる意味を示す「ね↑」を先に 発し,「どっか買ってくるか,つくるか。」という 4.不同意表明の表現方法

4.1主要部である不同意表明方略の使用傾向 JNS及びCNSの相談会話において,不同意の表 明に使われる単位方略の使用状況を表2に示し た。表2からは以下のことが確認できる。

まず,「不同意の明示」の使用では,JNSと比べ CNSは約2割上回っており,その中で,「否定型」

の3つの方略に対する使用頻度が高いことが見ら れる。他方,CNSの「程度抑制型」の「承認先 行」方略がそれほど使われていないのに対し,

表 2 不 同 意 表 明 方 略 の 使 用 状 況

注:「×」という符号は,その単位方略が使われていないという意味である。

不同意表明方略のカテゴリー JNS

使用数及び使用頻度(%)

CNS

使用数及び使用頻度(%)

主要部

不同意の明示不同意の暗示

否 定 型

指摘型

程度抑制型 回 避 型

不同意の表明 マイナス評価 代案提示

自分の情報提供 事実提供 承認先行 妥協の提出 話題の転換 冗 談

意見の不完全な叙述

42%

21%

×

×

2(6.1%)

3(9.1%) 2(6.1%)

7(21%)

1 ( 3 % ) 3(9.1%)

×

3(9.1%) 58%

7%

12(14.5%) 11(13.3%)

9(10.8%) 11(13.3%)

3(3.6%)

2(2.4%)

1(12%) 3(3.6%)

2(2.4%)

×

補助部

不同意表明の補助

共感期待型

発言要求型

意見保留型

同意の期待 共感や理解の期待 確認の要求 情報提供の要求

意見保留 37%

×

4(12.1%) 4(12.1%)

×

4(12.1%) 35%

5(60%)

3(3.6%)

6(7.2%)

8(9.6%)

7(8.4%)

33(100%) 83(100%)

(8)

【会話例1]JNSの「承認先行」による不同意の表明 話 者 発 話 内 容

JNSC33じゃあ、うちで食べる↑

JNSB25いいよ・

JNSA25なんか買って食べるでもい いし。

不 同 意 表 明 の 単 位 方 略

JNSC34ね↑どっか買ってくるか、承認先行 つくるか。

発話で先行発話の提案の上に更に他の選択肢を追 加することにより,先行発話に対する不同意を示 している。ここでいう「承認先行」方略につい て,「受け入れ+不同意」(大塚,2005)や「表面 的同意」(王,2013)など,先行研究では異なっ た用語が使われてきたが,JNSの会話に使われて いることがこれらの先行研究において示されてい ることは共通している。更に,米井(1997)では,

このような発話は,相手への配慮を示す手段の一 つである「前置き」として考察を行い,また,観 察された対人配慮の特徴にはこのような配慮の仕 方は割合が一番高いと指摘きれている。それに対 し,本研究のデータのCNSの会話には,相手の提 案の上に更に内容を増やすという「配慮」の伝え 方がl例も見られない。また相手の提案を先に受 け入れ,その後,その提案の不利益の部分を指摘 することによる不同意の表明も2例しか見られな

い o

一方,CNSはJNSと比べ,不同意をより多くの 明示的な言い方で表明すること,また,その中 で「否定型」の3つの方略の使用が多いことが分

かつた。「否定型」の3つの方略のうち,不同意 を「代案提示」という表現方法で示すのは,不同 意の表明から生じた緊張感を緩和する機能を持つ からではないかと思われる。会話例2のように,

「代案提示」方略は「不同意の表明」や「マイナ ス評価」発話の後に出てきているからである。会 話例2において,クリスマスに何かのイベントを するかどうかということについて話し合ってい る。CNSC2のクリスマスの時期も期末であるた め,試験のためにイベント等は要らないという考 えに対し,CNSA2‑1は「承認先行」方略で相手 の考えを受け入れた後,意見の押し付けを避ける ために「要不然ロ帥]也一決ノL:吃介板ロ巴↑(食事 会しようか↑)」発話で不同意を提案の形で表明 している。このように,判断の決定権を相手に与 えており,他の意見があれば受け入れる心構えが あるという姿勢を見せることで,「配慮」を伝え

ている。

4.1.2JNSの「意見の不完全な叙述」とCNSの「冗談」

「不同意の暗示」の各方略のうち,CNSの会話 において「妥協の提出」と「意見の不完全な叙述」

の使用は見られない。この2つは「回避型」の単 位方略として,いずれも相手と一定の距離を保ち ながら不同意の意味を暗示的伝える方略である。

「意見の不完全な叙述」は今回の調査では主節の 否定部分を省略する「言いさし」のことを指す。

例えば,相手の「卓球」という提案に対して「卓 球は,なんか,ちょっと」「卓球は…」のような 言い方で不同意の表明を潜在化させている。白川

会話例2CNSの「代案提示」による不同意の表明 話 者

CNSC2

発話内容

現在,I陶近期末了,ロ目イ「]学校任各也比較重,所以我覚得:ロ自イi]汪是:

把大量肘向用在学刃上,作イi]覚得呪?

(筆者訳)今は、そろそろ期末になるから、勉強も大変し、時間を 勉強のために使ったほうがいいと思うが、どう思う?

CNSA2‑1是舸,学刃也挺好的,不泣,至誕桔的活,大家匝咳:我感覚大家匝 咳娯宋一下。要不然ロ自イ「]也一決ル吃ノt坂I巴↑

(筆者訳)そうだね。勉強はいいけど。クリスマスだから、皆で 個人の考えだけど、何か一緒に楽しもう。食事会しようか↑

不同意の単位方略

承認先行 不同意の表明 代 案 提 示

(9)

40 人間社会環境研究第35号2018.3 会話例3CNSの「冗談」による不同意の表明

話 者 発 話 内 容 不 同 意 の 単 位 方 略

CNSC8 那休,其他的,祢イi]税不好看是肥?

(筆者訳)あなたたち、ほかに、面白くないといっただろう?

CNSB8 不是其他的,我イi]可以看鬼片嚇↑<笑>

(筆者訳)いや、ほかだったら、ホラー映画を見てもいいよ↑<笑> 冗 談 CNSA8

CNSB9

鬼 … 鬼 片 梛 : < 笑 >

(筆者訳)ホ…ホラー映画か:<笑>

12点紳升始的喝↑<笑>

(筆者訳)夜中12時からのか↑<笑>

CNSA9 随…岨...<笑>「午夜凶鈴」要不要↑

(筆者訳)あ…あ...<笑いながら>「リング」か↑

(2009)では,「言いさし」は強い断定を避け,語 気を和らげる働きをすると指摘している。

それに対し,「冗談」方略の使用はJNSの会話 に見られない。会話例3が示しているように,

CNSC8の「那休,其他的,体{i]悦不好看,是ロ巴?

(あなたたち,ほかに,面白くないと言っただろ う?)」という先行発話に話者の不満な気持ちが 溢れていることが窺える。その際,CNSB8は冗 談のように言うことによって,その場に生じた 緊張感を緩和した。CNSB8発話が冗談の機能を 持っていると思われる理由は,その発話に伝わっ た「遊びの合図」のことである。大津(2004:48) では,「冗談を言うとき,会話相手にもそれが冗 談であると解釈してもらわなくてはならない。そ のため,それが遊びであることを示すために様々 な合図が発せられる。」と述べている。会話例3 において,冗談の合図であると解釈できるのは,

まず笑いである。CNSB8を始めとする一連の発 話は笑いを挟みながらホラー映画について話し合 い,「リング」という映画館では見られない具体 案に至ったことが見られる。上映中の映画ではな く,新作ではない「リング」まで言及するのは,

「映画館に映画を見に行く」という会話の主旨と 離れ,「遊び」というメタメッセージを発するで はないかと思われる。また,韻律の操作は冗談の 合図であると大津(2004)にも指摘されている。

音が引き伸ばされたり,強調のための上昇調文末

イ ン ト ネ ー シ ョ ン が 使 用 さ れ た り す る こ と が こ こで見られる。友人同士の会話における会話者間 の「対立」を「冗談」方略で示すことは親密さを 表すストラテジーとして用いる場合があると大津 (2004)に指摘されているように,CNSのこうい う「親近の原則」(曲・陳,1999)により友人同 士の関係を維持する方略が他の言語行動にもよく 見られる。

4.2補助部である不同意表明方略の使用特徴

「不同意」の効力を軽減する意味的要素である

「不同意表明の補助」は,不同意を明示的にまた は暗示的に表明する発話の前後に行う態度保留や 補足的な説明などを表す補助手段のことである。

本節では,「不同意表明の補助」の使用にJNSと CNSにはどのような特徴があるかについて考察 を試みたい。

4.2.1不同意表明の構成

1つの提案に対して,複数の発話によって異な る立場を表明する場合がある。本研究では,1人 の話者によって発せられた複数の不同意表明発話 を抽出し,これらの複数の不同意表明発話がどの ような要素によって構成されているのかを考察し てみる。その結果は表3,表4に示した。表3と 表4の比較を通し,不同意表明行動に関する日・

中両母語話者の共通点,及びそれぞれの特徴が明

(10)

表3JNSの不同意表明の構成要素

表 4 C N S の 不 同 意 表 明 の 構 成 要 素

ンa‑1・a‑2はこれに当たる。これらのパターン には事実情報や相手の意見等への確認(発言要求 型),または話者自身に対する確認(意見保留型)

は不同意を明示しようとする合図の働きをしてい る。2)不同意が明示された後,関係する情報や らかになった。まず,両母語話者の共通点として

は以下の2点が指摘できる。1)不同意の表明が 明示される前に,不同意を表明する意図があるこ とを合図として相手に示している。JNSの不同意 表明のパターンlと,CNSの不同意表明のパター

会話例4JNSの「共感や理解の期待」による不同意の表明

不 同 意 の 単 位 方 略 話 者 発 話 内 容

JNSB20野球ですかね。

野球:俺も三人ですつけ、野球はすきだけど=。共感や理解の期待 JNSC27

JNSA18=やっぱ、部活がやつとったから。

不同意表明の 構 成

不同意表明の補助

・00今■■■ 不同意の明示/暗示 不同意の明示/暗示

早■■■■■■■■■

不同意表明の補助 パ タ ー ン 1 確認の要求十確認の要求

(発言要求型)

承認先行(明示)

パ タ ー ン 2 意見保留十意見保留 (意見保留型)

話題転換(暗示)

パ タ ー ン 3 代案提示(明示) 共感や理解の期待

(共感期待型)

パ タ ー ン 4 共感や理解の期待 (共感期待型)

不同意表明の構成 不 同 意 表 明 の 補 助 →

■■■■凸■■二■■■ 不同意の明示/暗示

不同意の明示/暗示 → 不 同 意 表 明 の 補 助

パターンa‑l 確認と情報提供の要求

(発言要求型)

意見保留 (意見保留型)

不同意の表明 代案提示

(明示)

パ タ ー ン a ‑ 2 同意の期待 (共感期待型)

意見保留十同意の期待 (意見保留型)+(共感期待型)

自分の情報提供 事実提供

(明示)

パ タ ー ン b 意見保留十意見保留 (意見保留型)

話 題 転 換 (暗示)

パ タ ー ン c ‑ 1 不同意の表明

マイナス評価 代案提示

(明示)

同意の期待・共感や理解の 期待

(共感期待型)

パ タ ー ン c ‑ 2 自己の情報提供

(明示)

共感や理解の期待 (共感期待型)

(11)

42 人間社会環境研究第35号2018.3

会 話 例 5 C N S の 複 数 の 補 助 手 段 の 使 用 に よ る 不 同 意 の 表 明 話 者

CNSC7

発 話 内 容

「捉妖妃」↑就在悦再着一遍↑

(筆者訳)「捉妖記」↑もう一回見よう↑

C N S A 7 「 捉 妖 妃 」 再 要 看 一 遍 卿 : < 笑 > < 2 >

不同意の単位方略

可是,都不考慮別的喝↑・我価都已竪看泣了咽↑

意見の保留 笑い 沈黙 同意の期待 自分の情報提供 (筆者訳)「捉妖記」もう一回見るか:<笑><2>

だって、ほかの何かを考えないか↑私たちもう見たんだもん↑

反対の理由などを述べ,それによって,相手から の同意や理解を期待する。JNSの不同意表明のパ ターン3と,CNSの不同意表明のパターンc‑1, c‑2はこれに当たる。

更に,日・中両母語話者のそれぞれの特徴も確 認できた。JNSの会話では「不同意表明の補助」

は「不同意の明示」・「不同意の暗示」の補助手段 として使用されない場合もある(表3のパターン 4)。会話例4のように,JNSC27の「共感や理解 の期待」の意味機能を示す不同意表明発話の前後 に,その話者による他の方略の使用は見られない。

その代わりに,JNSA18の「事実提供」や「理由 づけ」方略を後続に使用することにより,不同意 の明示を完結した。この「不同意表明の補助」を 単独に行使することは相手への気配りではないか と思われる。CNSの会話では不同意が明示的に示 される前の段階において複数の補助手段の使用が 見られた(表4のパターンa‑2)。会話例5のよ

うに,自分の情報を不同意表明の明示として提出 する前に,意見の保留・同意の期待の上に,更に 非言語行動の笑いと沈黙もCNSA7の発話から観 察された。これは相手からの提案や意見が押し付 けがましいという原因によって生じた可能性が高

い o

4.2.2使用違いの代表的な方略

「不同意表明の補助」の使用に,「情報提供の要 求」と「同意の期待」方略はJNSの会話には使わ れていないが,使われた方略(「共感や理解の期 待」.「確認の要求」・「意見保留」)はいずれもそ

の使用頻度がCNSと比べて高いことは表2に確 認できる。その中で,CNSの会話において高い頻 度で使われた「情報提供の要求」とJNSの会話に おいて使用頻度の高い「確認の要求」との違いに ついて検討を試みたい。

「発言要求型」における「確認の要求」と「情 報提供の要求」との違いは,相手の提案をどのよ うに正確に理解するかという点にある。「確認の 要求」は先行発話の提案について,その提案に包 含された内容を発話とし,反対しようとしてもそ の提案に興味を示す姿勢を見せ(会話例6),「情 報提供の要求」は先行発話の提案について不信な 態度でそれに関する未知の情報を与えるように求 める(会話例7)特徴が窺える。両会話例のそれ ぞれの提案に対し,JNSA5‑2の「カレーも食え るね↑」発話(会話例6)と,CNSB6の「那決

会話例6JNSの「確認の要求」による不同意の表明

話 者 発 話 内 容

JNSA5‑1<「ここいち」まで>{<}=。

中 略

不 同 意 の 単位方略

J N S A 5 ‑ 2 カ レ ー も 食 え る ね ↑ 確 認 の 要 求 J N S C 4 あ あ 。

JNSA6

JNSA7

こ ん な ん か ら 、 ど れ が 決 める↑

中略

「ここいち」はカレー:

は悪くないけど、辛いも んな:

事実提供

(12)

会話例7CNSの「情報提供の要求」による不同意の表明

不同意の単位方略 発話内容

話 者

去:就是那イ、操坊,楼下的那十,看乞楼下的【【

(筆者訳)ああ:あの運動、あそこの、このアパートのそば【【

CNSA9

情報提供の要求 CNSB6】】 那決ノL是要銭的ロ日↑

(筆者訳)】】あそこはただじゃないね↑

中略

自分の情報提供 銭 的 事 L 我 不 去 咽 。

(筆者訳)使用料金がかかるなら、行かないよ。

CNSB9

には大きな差が見られない。それに対し,それ ぞれに最も高く使用されている「回避型」(JNS

:21.3%,CNS:7.2%)と,「否定型」(CNS:38.6%,

JNS:6.1%)に,両言語では有意差が見られた(「回 避型」:x2=5.752,"=1,p=.016;「否定型」:

x2=12.278,"=1,p<・001)。以下に,それぞれ

の型の使用について,詳しく検討する。

几是要銭的ロ巴↑(あそこただじゃないね↑)」発 話(会話例7)では,含まれる否定的な態度の ニュアンスが異なる。この違いについて倉田・楊 (2010)は,中国人は事実関係を明確にすること を重視する事実志向が推察されるのに対し,日本 人は対人関係に配慮する側面も見られると指摘し

ている。

5.1「指摘型」における」NS・CNSの言語的特徴

JNSが用いた「指摘型」の言い方には,「〜ほ

うがいいやんねえ(じゃないか)」のような疑問

表現,または,会話例8が示しているように,文 末に「〜けど」,「〜かな」「〜からね」が付く表

現が観察された。多くの先行研究はこれらの言語 5.不同意表明の言語形式

図1に不同意表明の方略の型のJNS及びCNSに よる使用頻度を示した。まず両言語の共通点とし て「指摘型」が上位3位以内に位置しており,

それぞれの使用頻度(JNS:15.2%,CNS:16.9%)

早■み︑︲︑︲︲︲夕℃則.pT■bロ︲dJ︲弘弔pToワロ.d︐q︲︒・︑ロ︒D1p刊F1Pd.

鮒 否 定 型 鋳 指 摘 型 蕊 程 度 抑 制 型 .";共感期待型 簿 発 奮 要 求 型 拶 意 見 保 留 型 毒 蹴 避 型

JPN"

RQ︲●

; I I I 謹迩蘂篭溌蕊爵溌鐙謹

CNS

『ロ

40% 60% 80% 100%

20%

0%

図 1 不 同 意 表 明 の 方 略 の 型 の 使 用 頻 度

(13)

44 人間社会環境研究第35号2018.3 表現を対人配慮の要素として考察を行ってきた。

その中で,メイナード(2005)では「〜じゃない か」のような否定疑問形は意見を柔らかく提示す る典型的な表現であると述べ,また,李(2001) では「ね」は一方的ではなく相手に配慮しなが

ら異なる立場表明をするのを助けると規定してい る。更に,金(2015:46)では,「けど」のよう な言い切り回避用法(田頭,2013)の使用について,

「不同意の表現主体は断定的な表現を避けること で,意見に確信を持っているわけではないことを 示し,「不同意表明」を和らげたり,意見が強く 伝わるのを避けたりするとともに,相手に次の「不 同意表明」の余地を与えるのである。」と指摘し ている。このように相手に話を続けやすくさせる 表現形式を,勧誘談話に見られるストラテジーと して分析したザトラウスキー(1993)は「気配り 発話」と呼んでいる。

それに対し,会話例9が示しているように,自 分の情報と事実を提供する際,CNSには自分の意 見などを柔らかくするモダリティ表現3)は付加 せず,断定的な言い方を使用する場合がほとんど である。

会話例8と会話例9は,いずれも相手の提案内 容について最近行ったばかりであるという意味を 表す例文である。JNSの「〜からなあ」という,

意見が強く伝わるのを避ける言い方と比べ,CNS は自分の情報を「但是(でも)」という自己の意

見を強く主張する逆接の接続詞,「已姪…了(も う〜た)」という事態を完了させたことを表す断 定の言い方(副詞と過去式)で相手に伝える傾向 が窺える。こういった言語の特徴は「聞き手中心 型」(JNS),「話し手中心型」(CNS)に対応して いると久米他(2000)が指摘している。

5.2「回避型」における」NS・CNSの言語的特徴 JNSの「回避型」に対する使用には,話題を変 えたり,関連する内容だけを提示することで,話 し手が抱く不同意を潜在化させるという特徴が窺 える。牧原(2012)では,例えばトイレをきれい に使うように依頼を表す際に使われる「いつもき れいにお使いいただきありがとうございます」と いうような感謝表現を「発話機能の転用」と定義 しており,またこのように他の発話機能を有する 発話の転用は配慮表現の一つとしてJNSの会話に 頻繁に使われていると指摘している。そのため,

会話例10のような「話題の転換」方略は上例のよ うな「感謝」に見せかけた「依頼」表現と同じく,

「問いかけ」に見せかけた「不同意」表現のこと ではないかと思われる。会話例10では,3人の会 話参加者がどのようなスポーツを選んで一緒にや るかについて話し合っている。JNSA17‑2の「バ ランスボールかな。」という提案に対し,会話者 Cは「確認の要求」を2回出した後,第3者であ る会話者Bに対して「きみは,なん,なんのスポー

会話例8JNSの「自分の情報提供」による不同意の表明 話 者 発 話 内 容

JNSA9‑2俺、俺やつばの、お好み焼き食いたいげんてな。最近食べてないし。

J N S B 7 い や 、 俺 、 最 近 行 っ た か ら な あ 。

話 者 CNSC2

CNSA2‑1

会話例9CNSの「自分の情報提供」による不同意の表明 発話内容

「捉妖旧」不措,要不我イi]去看好不好?

(筆者訳)「捉妖記」が面白そう。見に行かない?

但是,我已錘看辻一遍了。

(筆者訳)でも、あの映画、もう見た。

不同意の単位方略

自分の情報提供

不同意の単位方略

自分の情報提供

(14)

会話例10JNSの「話題の転換」による不同意の表明

話 者 発 話 内 容 不同意の単位方略

JNSA17‑2うん:<3>バランスボールかな。

JNSC24<笑いながら>バランスポール↑ 確認の要求

J N S B 1 8 ク リ ア

JNSC25なんで、バランスボールなの↑ずっと、バランスボール↑面白いやね。確認の要求 JNSB19面白い、面白い。

JNSC26 はあ、できるの↑これ、そういうなんか、きみは、なん、なんのスボー 意見の保留 意見の保留 話題の転換 ツが好きですか。

会話例11CNSの「話題の転換」による不同意の表明

話 者 発 話 内 容 不同意の単位方略

CNSC5 (CNSC4:要不ロ目,ロ自換「海底携」肥。)附近就有咽。那迪,那令,

「琴店路」口。就那辺,汪有一↑,述有一十好示迪呪。可以把活劫 直接串起来。

(筆者訳)(CNSC4:「海底携」に行こうか。)この近くにもあるよ。

あの、あれ、「琴店路」の交差点。そこには、また、カラオケーも あるよ。活動が続くことができる。

CNSB7 咬,我上次友的那十微信,祢イi]看児没 ↑

(筆者訳)あの、前「Wechat」で登録したあれ、見てた↑ 話 題 の 転 換

ツが好きですか。」(JNSC26)という問いかけを することによって不同意の表明を潜在化させてい る。

不同意を表明する際に対人関係を配慮する,こ のような高度な会話のストラテジーはCNSにも 使用されていることが窺える(会話例11)。使用 頻度が非常に低いため,特徴とは言えないが,こ の方法による不同意の表明の仕方が存在している ことが確認できた。会話例11では,食事会の実 施場所について話し合っている。CNSC5は前発 話で「海底携」という提案を出したが,更に詳し い情報を提供することにより相手の同意を期待す る。しかし,CNSB7はそれに対し肯定・否定の 態度を「咳,我上次没的那介微信,伽i]看兄没↑

(あの 前「Wechat」で登録したあれ,見てた↑)」

という発話の提出によって回避した。JNSと同様 に「問いかけ」という言語形式を用い,単純の「問 いかけ」の意味機能ではなく,「問いかけ」に見

せかけた「不同意」表現であると解釈できるだろ う。

5.3「否定型」におけるCNSの言語的特徴 不同意表明の明示度が最も高い言い方である

「否定型」の使用に,JNSの会話では,「代案提示」

方略の使用が2例しか見られない。「否定型」は,

JNSがほとんど使用していないことに対し,CNS は多用する傾向が窺え,全方略のうちの3割以上 を占めている。その中での「不同意の表明」・「マ イナス評価」.「代案提示」という3つの単位方略 の使用頻度はほぼ同じであるが,ここでは,「配慮」

を示す「代案提示」方略の言語形式ついてのみ検 討を試みる。

「代案提示」に使われた言語形式は,表64)に

示したように,勧誘文の使用が一番多い。ここで の「代案提示」は不同意表明の機能を果たしてい たとしても,提案提出の発話機能も持っているた

(15)

46 人間社会環境研究第35号2018.3 表 6 C N S の 「 代 案 提 示 」 の 言 語 形 式

モ ダ リ テ ィ の 分 類 中国語の主な言語形式 「代案提示」

表 現 類 型

情報系 叙 述 平叙文(無標)

疑 問 疑向文(疑問文) 1

行為系 意 志 (一定)要(よ(う))

勧 誘 肥(よ(う)・ないか) 6

認 識 思考動詞 想(と思う)

め,相手の行為のみを要求するのではなく,相手 への配慮が伝わるように相手の行為を誘う形「〜

ロ巴(「〜(よ)う」,「ないか」)」を取り,話し手自 身の行為をも含む「勧誘」の形式が圧倒的に多く 使われた。また,「要不〜(あるいは〜)」などの 接続詞との併用,または「別的〜(他のなにか)」

のような話し手自身の意志や希望などを示す具体 的な提案を提示しない言い方によって,選択権を 相手に提供した,もしくは提供しようとした。こ れはすなわち,選択の決定権は相手に任せるとい う意味機能を有していると思われる。そのため,

「勧誘」形式が圧倒的に多く使われた「代案提示」

による不同意の表明は意見の押し付けを避けるた めのCNSの「配慮」行動ではないかと思われる。

6.おわりに

本研究は,不同意表明の表現方法と言語形式と いう2つの側面から不同意表明行動について考察 を行った。その結果,不同意表明を行う際に日・

中両母語話者がどのような「配慮」をどのように して相手に伝えようとしているのかが明らかにさ れた。

不同意表明の表現方法について考察した結果,

日・中両母語話者の相手への「配慮」に関する共 通点と相異点が以下のように確認できた。まず,

両母語話者の共通点は不同意を明示的に表明する 場合であり,1)不同意が明示される前に,不同 意を表明する意図があることを合図として相手に 示めし,2)不同意が明示された後,関係ある情 報や反対の理由などを述べ,それによって,相手 からの同意や理解を期待するという2点の「配

2

慮」の仕方が確認できた。両母語話者間の相異点 は,まずどのような単位方略で「配慮」を伝える のか,また,「不同意表明の補助」がどのように 使用されるのかという2点にある。JNSは対立す ることを遅らせる伝え方である「承認先行」,強 い断定を避け,語気を和らげる働きをする「意見 の不完全な叙述」と相手の提案を真筆に考えてい るという意味を示す「確認の要求」方略を,CNS は不同意を提案の形で示す「代案提示」,相手と 親密さを表す「冗談」方略を使用することにより 相手に「配慮」を示すことが観察された。また,

JNSは「不同意表明の補助」を「不同意の明示」・

「不同意の暗示」の補助手段として使わない場合 もあり,単独で行使するのは更に意見が強く伝わ るのを避けるとともに,相手に次の「不同意表明」

の余地を与えるという「配慮」の仕方が観察され た。それに対し,CNSは相手の提案や意見が押し 付けがましいという背景による不同意の明示は,

それを表明する前の段階で,複数の補助手段を使 用するという「配慮」の仕方が見られた。

不同意表明の言語形式について考察した結果,

まず,不同意が明示的に表明される際に使われた

「指摘型」・「否定型」の言い方に日・中両母語話 者の言語表現の特徴が確認できた。「指摘型」の 言い方では,JNSが語尾に同意を誘う問いかけ

「〜ほうがいいいいやんねえ(〜じゃないか)」の ような意見を緩和する表現,または「〜けど」「〜

かな」のような話を続けやすくする表現形式が試 みられていた。それに対し,CNSはそういった自 分の考えを柔らげるモダリテイ表現は使用せず,

断定する言い方を使用する場合がほとんどであっ た。「否定型」の言い方では,CNSが「代案提示」

(16)

の使用に,相手の行為を誘う形「〜ロ巴(〜(よ)う ないか)」を用い,話し手自身の行為を含む「勧誘」

の形式を多く使っていることが観察された。これ による不同意の表明は,意見の押し付けを避ける ためのCNSの配慮手段の一つであることが確認 された。それに対し,JNSの会話には「代案提示」

の使用が2例しか見られず,「指摘型」と同様の 言語形式を使っていることが分かった。そして,

不同意が暗示的に表明される際に使われた「回避 型」の言い方では,「話題の転換」等の方略の言 語形式に加え,問いかけをすることによって不同 意の表明を潜在化させるような配慮言語表現が両 言語において確認できた。

不同意表明という言語行動は,表現と理解のや り取りを繰返すことにより築き上げられるもので あると指摘されている。しかし,本研究では単に 意見の対立が生じる段階にのみ焦点を置いた。

今後は,「不同意表明」に対して,相手がそのま ま受け入れるのか,または反論や説得などの言語 行動を取るのかという相手の言語行動をも含めた

「不同意表明行動」,及びそのやり取りにおける「配 慮」の様相の考察が必要である。

表 5 モ ダ リ テ ィ の 枠 組 み と 主 な 言 語 形 式

表 現 類 型

認 識

モダリテイの分類 情 報 系 叙 述

疑 問 行 為 系 意 志 勧 誘 断定・推量

日本語の主な言語形式 平叙文(無標)

疑 問 文 よ(う)

よ(う)・ないか 断定形(の)[無標]

【注】

1)文字化資料の記号

1発話文の終わり

0

,(,)1発話文中(日本語の慣例は「、」・中 国語の慣例は「,」)

? 疑 問 文 ( 平 板 イ ン ト ネ ー シ ョ ン )

↑ 上 昇 イ ン ト ネ ー シ ョ ン

〈 笑 〉 笑 い く 2 〉 沈 黙 の 秒 数

音の引き延ばし 音 の 言 い よ ど く>{<}同時発話の前文 く>{>}同時発話の後文

= = 改 行 さ れ る 発 話 と 第 1 話 者 の 発 話 の 間 が 短い

【【】】割り込み発話

「 」 固 有 名 詞

2)発話行為理論(speechacttheory)は,発語行 為(locutionaryact),発語内行為(illocutionary act),発語媒介行為(perlocutionaryact)の3 行為からなるが,中心は発話内行為の発語内効力

(illocutionaryfOrce),つまり発話の機能である。

3)楊虹(2015)は,中国語のモダリテイの機能体系 について考察を行った影(2012)を参考にし,中 国語のモダリテイの言語形式を日本語の分類の枠 組みに基づき,表5のように再分類した。ここで の自分の情報と事実を提供する際に使われた言語

中国語の主な言語形式 平叙文(無標)

疑問文・反語文(唯道/不是・・・喝)

(一定)要 ロ巴

断定形(①)

かな・だろう(か)・じゃない(か) 好像・ロ巴

蓋 然 性 か も し れ な い ・ に 違 い な い . た ぶ ん ・ 也杵・可能・不一定・厘咳 もしかすると

証 拠 性 観 察 推 定 ようだ.らしい.(し)そうだ 好像・看来・看上去・着祥子 伝 聞 (する)そうだ.(する)って U斤悦・据悦

思考動詞 と思う 覚得・感覚・想・圦力

楊虹(2015:91)

(17)

48 人間社会環境研究第35号2018.3 形式は「認識のモダリテイ」に当たると思われ、

日本語の文末表現の使用と比べ,中国語には「断 定形」の使用がほとんどである。

4)表5を参考にした結果である。

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参照

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