奈良教育大学学術リポジトリNEAR
中国と日本における小学生の学習動機
著者 杉村 健, 于 斌
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 27
ページ 93‑102
発行年 1991‑03‑01
その他のタイトル Study Motives of Elementary School Children in China and Japan
URL http://hdl.handle.net/10105/6760
中国と日本における小学生の学習動機
杉 村 健・干 斌
(心理学教室)
要旨:中国(吉林省長春市)と口本(奈良県川西町)の小学生の学習動機を比 較した。学習接近動機では、 大人になって役に立っ 新しいことを知りたい
が両国に共通であり、中国の子供は いろいろ調べるのが好き 問題を解く のが好き が多く、H本の子供は テストがあるから が多い。中国と比べて 日本の子供は宿題、テスト、競争、教師と親の賞賛にかかわる動機が強い。学 習回避動機は全項目において日本の子供の方が極端に強く、特に 宿題が多い とき 授業時間がのびたとき 問題が難しいとき 勉強がいやになる。
キーワード:学習接近動機、学習回避動機、中国、日本
子供の学習動機の関しては、従来の研究では主として学習接近動機に焦点が当てられていたが
(杉村,1986,1973;杉村・藤田,1971;杉村・柴山,1972)、最近になって、学習回避動機が注 目されるようになってきた(杉村・清水,1989;杉村・北村,1990;杉村ほか,1990)。学習接近 動機とは学習に向かおうとする動機であり、興味や好奇心などの内的要因と称賛・叱責などの外 的要田からなっている。一方、学習回避動機は学習を避けようとする動機であり、学習の困難性、
教師の在り方、叱責とその予期の要因からなっている。このような学習動機は生得的なものでは なく、後天的に形成され、環境によって変化するものであると考えられる。とりわけ、学習に対 する親の考え方、教師の教え方や動機づけの方法、さらに地域の雰囲気などの影響を受けると考 えられる。事実、学習接近動機については、奈良県内のへき地と平坦部の小学生(杉村,1973)、
大阪rfi・大和高田市と沖縄県那覇市の小学生(杉村・柴山,1972)でかなり異なることが兄いだ されている。しかし、学習回避動機についてはそのような研究は行なわれていない。
本研究の目的は、学習接近動機と学習回避動機が、中国と日本の小学生でどのように異なるか を検討することである。これによって、両国の小学生の学習動機が明らかにされるだけでなく、
学習に対する親の在り方や教師の動機づけの方法などを推測することができる。本研究で対象に したのは、中国、日本それぞれ1つの小学校であるので、その結論の一般性には限界があること は言うまでもない。中国の調査校は吉林省長春市の小学校で、全校児童数は約1000名である。学 力は全国的にみて中位であると言われている。日本の調査校は奈良県川西町の小学校で、全校児 童数は約580名である。全国的にみた学力水準はわからないが、この学校で2、4、6年生に実 Studv Motives of Elementary SchooI Childrenin China andJapan
Takeshi SUGIMURA and YU Bin
(∂甲αr加e花 扉PsッCん00gγ,八brα hZuersわ0 月仇Cαわ0m Ⅳαrα)
施した知能検査のクラス別の平均知能偏差値は、50〜55であった。
方 法 調査対象
表1は調査対象を示したものである。中国の小学生は各学年2クラスずつで、合計290名であ り、口本の小学生は各学年3クラスずつで、合計303名であった。なお、日本の資料は杉村・清 水(1989)を用いた。
表1 調査対象の内訳(人数)
学 年
2 4 6 合 計 男 児 46 41 52 139 中 国 女 児 45 59 47 151 合 計 91 100 99 290 男 児 41 62 51 154 日 本 女 児 49 55 45 149 合 計 90 117 96 303
調査内容
学習接近動機は杉村・清水(1989)が用いた14項目であり、表2には、各項目の内容とそれに 対応する中国語訳が示されている。学習回避動機は杉村・清水(1989)が作成した17項目につい て杉村・北村(1990)が妥当性の検討を加え、4項Hを除外した13項目であり、表3に示されて いる。
調査手続き
口本の小学校では、心理学専攻生がそれぞれの教室の出向き、この調査は成績に関係がないか ら正直に回答するようにと教示し、項目番号と質問を読み上げて、 はい の場合は番号に○印 を、 いいえ の場合は番号に×印をつけさせた。中国の小学校では、f二と同様な方法で担任の 教師に実施してもらった。
結果と考察 学習接近動機
表4は、各質問項目について国別、学年別の承認率と、角変換値による分散分析の結果を示し たものである。
①偉い人になりたいから−円本の方が高く、2年生では90%を越えているが、学年が進むに
つれて減少し、6年生では40%にも達していない。中国では2年生から4年生にかけて著しく減
表2 学習接近動機の質問項目
① 偉い人になりたいから勉強する 将来恩威為一個偉大的人而学習
② 宿題があるから勉強する 為了完成作業而学習
(奇 先生に叱られるから勉強する 因為故老師批評而学習
④ いろいろ調べるのが好きだから勉強する 因為喜款了解各種知識而学習
⑤ 仲間外れにされたくないから勉強する
伯因為自己学習不好同学不和自己玩不頂和自己一起傲事 唱.大人になって役に立つから勉強する
学習対自己長成大人有用 t手 放にほめられたいから勉強する
為了被父母義損而学習
⑨ テ朴で良い点を取りたいから勉強する 為了考弐取得好成.債而学習
⑨ 問題を解くのが好きだから勉強する 為了解決不盛的問.肇而学習
l⑲ 新しいことを知りたいから勉強する 為了知道新的知識而学習
⑪ 先生にほめられたいから勉強する 為了故老師表揚而学習
⑫ 友達に負けたくないから勉強する 為了不落在同学後面而学習
(魯 教科書を読むのが好きだから勉強する 因為喜歓看教科書而学習
⑱ 親に叱られるから勉強する 囲為被父母批評而学習
少するが、6年生でまた増加する。 偉い人 というイメージは、国によって、また人によって
異なるが、日本では、学年とともに偉い人になりたいという気持ちがだんだんと薄れ、また、親
や教師もそのような動機づけをしなくなることが推測される。中国では、6年生になると親や教
師の圧力によって偉くなりたいという気持ちが強まるのかもしれない。
表3 学習回避動機の質問項目
① 宿題が多いとき勉強がいやになる 作業根多的時候討厭学習
② 問題が難しいとき勉強がいやになる 作業根差的時候討顧学習
③ 当てられて答えを間違えたとき勉強がいやになる 自己挙手却投能正確回答問題時討厭学習
④ 先生に叱られる時勉強がいやになる 被老師批評的時候討腰学習
⑧ 宿題を忘れたとき勉強がいやになる 忘記写作業的時候討厭学習
⑥ 先生の機嫌が患いとき勉強がいやになる 老師的情緒根塔的時候討腰学習
⑦ 親に叱られるとき勉現がいやになる 被父母批評的時候討厭学習
⑧ 授業時間が延びたとき勉強がいやになる 老師延長講謀時間喝討厭学習
⑨ テ朴の点が悪かったとき勉強がいやになる 考講的成績不好時討厭学習
⑩ 気分が患いとき勉強がいやになる 心情不好的時候討厭学習
⑪ 授業がわからないとき勉強がいやになる 上謙聴不l僅時討厭学習
⑫ 手を挙げても当ててもらえなかったとき勉強がいやになる 自己挙手老師投諾自己回答問題喝討厭学習
⑬ 授業がつまらないとき勉強がいやになる 課程内容没有意思時計厭学習
②宿題があるから−中国ではほとんどないが、日本では30〜40%もあり、日本の子供の方が 宿題によって動機づけられていることが明らかである。Chen and Stenvenson(1989)によると、
中国、日本、アメリカのうち、宿題が最も多いのは中国の小学校である。本研究の調査校も例外 ではなく、宿題が毎日あり、親が宿題を教え、点検することが当然のことになっているという。
中国の子供にとっては宿題は多いが、それは当然しなければならないものであり、日本の子供は
宿題をいやいやながらやっているのである。
表4 学習接近動機の国別、学年別の承認率と角変換による分散分析の結果
番号 2 4 6 国 学年 交互作用 1 中国 63 19 64 49
日本 91 58 37 62 16.90Ⅰ= 79.11日1 58.72日Ⅰ
2 中国 9 0 0 3 日本 40 32 30 34 中国 15 1 0 5 日本 22 18 13 18 4 中国 95 94 91 93
日本 86 48 38 中国 8 2 4
7
一
5
5一
日本 24 9 4 12
140.63‥ 26.40日
40.44‥ 28.87‥
113.57‥Ⅰ 36.59‥
10.94日★ 17.86日Ⅰ
中国 80 63 88 77 日本 93 95 96 95 7 中国 12 1 2 5 日本 74 31 22 42 中国 53 9 12 25 日本 92 76 77 82 9 中国 88 87 89
日本 53 24 14 10 中国 91 80 92 本 94 71 59 11 中国 12 0 0 日本 71 20 9 12 中国 7 2 2
日本 78 56 13 中国 25 19
2
一
0 4
1
日本 58 17 16 14 中国 22 1 3 日本 30 15 22
88 7年 4 33
39.29‥ 10.11‥
9・90
24.29‥
5.65
163.39‥ 66.54‥ 11.62日
247.62‥ 65.42日Ⅰ 9.00Ⅰ
246.50 ‥ 19.38‥ 21JO5‥
12.92‥ 28.82‥1 21.83‥
133.70日 128.00‥ 11.20第Ⅰ 4
甲 284・76… 25・37… 6・73 18
30 11.10