奈良教育大学学術リポジトリNEAR
へき地の小学生の学習動機
著者 藤田 正
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 16
ページ 155‑161
発行年 1980‑03‑23
その他のタイトル Children's Motives for Learning in Remote Mountain Villiage
URL http://hdl.handle.net/10105/6448
へき地の小学生の学習動機*
藤 田 正洲
(心理学教室)
児童の学習動機には、親や教師にほめられたいから勉強するといった外的動機と、.新しいこと を知りたい、面白くて楽しいから勉強するといった内的動機とがある。杉村(1973)はこれらの 動機を含む項目を用いて、奈良県下のへき地の小学2年、4年、6年生の学習動機を調査し、分 析を行った。その結果、へき地の小学生の特徴として外的動機に関する項目の承認率が都市部の 子どもよりも高いこと、および全体的な傾向としては、内的動機の項目の承認率は年齢とともに 増加しているが、外的動機の項目の承認率は2年から4年にかけて減少していることが見い出さ れナこ。一般的にいって、動機づけの教育的な観点からは、外からの動機づけよりも内からの動機 づけの方が望ましいとされ、年齢が増すにつれて外から内へと動機づけが内面化することが期待 されている。したがうて、子どもの内的な学習動機に焦点をあてて検討していくことは重要であ ると考えられる。
ところで、玉瀬(1979)はへき地の小・中学生と都市部の小学生を用いて、両親の称賛・叱責 と健康、学習態度、対人関係、環境の4領域から成る学力向上要因との関係を検討している。結 果は、日頃ほめられることの多い称賛群は、叱られることの多い叱責群よりも学力向上要因の得 点が高いこと、および、よくほめよく叱る型、よくほめるがあまり叱らない型の親の場合が、よ く叱るがあまりほめない型の親の場合よりも学力向上要因の得点が高く、その差は母親よりも父 親の場合において顕著であることがへき地と都市部の両方で見い出されている。
子どもの内的動機である成功動機(達成動機と同じ)が高いこと、学習場面で過度の不安がな いことなどは、一般に学習を促進する要因と考えられている。また、これらの要因が親の称賛や 叱責の影響を受けていることは玉瀬(1979)の結果からも推測できる。そこで本研究では、へき 地と平坦部の小学5年生を用いて学業成績や親の称賛・叱責と、子どもの成功動機、テスト不安、
および自己責任性との関係について検討することを目的とした。
方 法
調査対象 へき他校として、奈良県吉野郡十津川村立上野地小学校、二村小学校、三村小学 校、平谷小学校(いずれも2級へき他校)の5年生合計77名を用いた。平坦校として、大和郡 山市立筒井小学校の5年生111名を用いた。
* ChildrenもMotives for Learning in Remote Momtain ViHiage
ホホ Tadashi Fujita(Department of psychdqgy,Nara University of Educat ion,
Nara)
銅査内容 ω学習動横診断検査(MAAT)一藤原・下山(1969)のものから、成功動機、
テスト不安・自己責任性の領域を用いれ
①成功動機一従来、達成動機と呼ばれていたものであり、r成功の要求」、r成功の予想 ・期待」、r成功の重要性の認識」、およびr成功に対する障害を克服しようとする態度」
などが含まれ、知的学習場面、技能場面、運動場面、社会生活場面の4つの場面について、
それぞれ成功動機の強さが測定される。
②テスト不安一テストに対する不安が学習を促進するような適度な緊張をもたらす傾向で ある促進的緊張と、テストに対する不安が学習を阻害するほど過度な緊張をもたらす傾向で ある失敗回避動機とに分けて測定され孔
③自己責任性一成功や失敗を経験したとき、その原因を自己の行為に求めるか、あるいは 他人の行為やその他の事情に求めるかの傾向である。自己責任性の弱い者は学習への動機も 弱いと仮定されている。
②称賛・叱責の調査一玉瀬(1979)の称賛・叱責の調査項目より、①強化歴(項目1〜6)
と②称賛・叱責の組合わせ類型(項目7,8)に関する8項目を選んで質問項目を作成した(表
1)。
表1 称賛・叱責の調査項目
学校年組男女名前
つぎのしつもんで、もっともあてはまると思うものの番号に○をつけてください。
問1 あなたは、お父さんにほめられるのとしかられるのとでは、どちらが多いですか。
1.ほめられるほうが多い 2一しかられるほうが多い 3.同じぐらい
問2 あなたは、お母さんにほめられるのとしかられるのとでは、どちらが多いですか。
1.ほめられるほうが多い Zしかられるほうが多い 3.同じぐらい 問3 あなたは、1週間のあいだにお父さんにどれぐらいほめられますか。
1.ほとんど毎日ほめられる・ Zときどきほめられる 3.ほとんどほめられない 問4 あなたは、1週間のあいだにお母さんにどれぐらいほめられますか。
1.ほとんど毎日ほめられる 2一ときどきほめられる 3.ほとんどほめられない 間5 あなたは、I週間のあいだにお父さんにどれぐらいしかられますか。
1.ほとんど毎日しかられる 2.ときどきしかられる aほとんどしかられない 問6 あなたは、1週間のあいだにお母さんにどれぐらいしかられますか。
1.ほとんど毎日しかられる 2.ときどきしかられる 3.ほとんどしかられない 問7 あなたのお父さんは次のうちどれですか。
11よくほめるしよくしかる 2一よくほめるがあまりしからない 3.よくしかるがあまりほめない 4.ほめもしかりもしない
問8 あなたのお母さんは次のうちどれですか。
1.よくほめるしよくしかる zよくほめるがあまりしからない 3.よくしかるがあまりほめない 4.ほめもしかりもしない
実施 へき他校は昭和54年11月12,13日に、平坦校は1O月29日に筆者と心理学専
攻学生が調査を行った。先に学習動機診断検査を行い、ひき続いて称賛・叱責の調査を行った。
調査を行っている間に、担任教師に学級で学業成績のよい者と悪い者の氏名を記入してもらった。
結 果 と 考 蒙
へき地校と平坦校の学習動機 表2は、へき他校と平坦校におけるMAATの平均値と 検 定の結果を示したものである。成功動機のうち、技能、連動、社会生活の各場面、および総合に おいて有意差がみられ・いずれもへき地の方が平坦よりも得点が高かりれこれはへき地の子ど もの方が平坦部の子どもよりも成功を求める動機が、知的学習場面を除く、技能、運動、社会生 活場面で強いということを示している。
表2 へき他校および平坦校におけるMAAT得点の平均値
成 功 動 段 テスト不安 自 己
知的学習技能 運動社会生活総合 促進的失敗回避責任性 へき地 24,7 26,3 29,2 26.4 106,7 22,7 22.4 8.1 平坦25,5 25,1 27,0 24,510Z0 21,8 22.3 8.2
c検定 十 ** * 十
十.05<P<.10 , *P<.05 , **ρ<、01
学業成着と学習動機 学級担任教師に依頼して抽出してもらった学業成績のよい者と悪い者 のうち、データーの記入に不備のあった者を除いたため、へき他校では上位群16名、下位群16 名、平坦校では上位群35名、下位群22名になった。以下では、これらの者について分析を行っ た。表3は、へき地と平坦における学業成績別のMAATの平均値とサ検定の結果を示したもの
である。
まず、へき地ではテスト不安の失敗回避動機においてのみ上位群と下位群の間に有意差がみら れれこれは上位群の方が失敗回避動機が低いことを示してい乱成功動機では・上位群が下位 群よりも幾つかの場面で得点が高いが統計的には有意でなかった。次に平坦では、成功動機のう ち知的学習、技能、運動の各場面および総合のいずれにおいても上位群の方が下位群よりも高い 得点であった。また、テスト不安においては、上位群では促進的緊張の得点が高く、逆に下位群 では失敗回避の得点が高いという結果であった。
以上の結果から、学業成績上位群は下位群に比べて、学習を促進するような成功動機が知的学 習、技能、連動、社会生活などの場面で強く、また、テスト不安においても学習を促進するよう な適度の緊張が強く、逆に学習を阻害するような過度の緊張をもたらす傾向はなかった。このよ うな傾向は、へき地より平坦で顕著でありた。テスト不安のうち、失敗回避動機が下位群で強か ったという結果は、従来の研究(杉村・藤田.1971)と一致するものであった。なお、平坦の上 位群は促進的緊張が強く、失敗回避動機は弱いが、逆に下位群は促進的緊張が弱く、失敗回避動
機が強いというように両方の要因が影響しているが、へき地の場合には促進的緊張では上位群と 下位群の差はなく、失敗回避動機のみが上位群と下位群の差を生じさせている点は関心がもたれ
る。
表3 学業成績別のMAAT得点の平均値
成 功 動 機 テスト不安 自 己
知的学習技能 運動社会生活総合 促進的失敗回避責任性
へき地 上位群.25,6 26,9 28,6 27.3 下位群 242 26,2 27,9 25.6
109.0 103.9
23,2 19.7 8,6 22,1 25.9 7.1
検定 ***
上位群 平 坦 下位群
26,9 26,3 28,2 25.9 107,2 24,3 19.3 8,7 23,1 23,6 25,4 23,5 95,6 17,8 26.1 8.1
c検定 ** 十 十 * *** ***
十.05<Pく.1O.*P<.05.**P<.01.***P<.Oo1
称資・叱資の強化歴と学習動機 称賛・叱責の質問で得られた回答を、最初の6項目につい て十6点から一6点までに得点化し、その得点の十2以上の者を称賛群、一3以下の者を叱責群 とした。表4はへき地と平坦における称賛群と叱責群のMAATの平均値と 検定の結果を示し
たものである。
まず、へき地では成功動機の知的学習、技能、社会生活の各場面および総合において称賛群の 得点が叱責群の得点よりも高かった。テスト不安については、促進的緊張の得点は称賛群で高く、
失敗回避の得点は叱責群で高かった。自己責任性については、称賛群が叱責群よりも得点が高か った。次に、平坦では成功動機の知的学習、技能の各場面および総合で称賛群の得点が叱責群の 得点よりも高かっれテスト不安については・促進的緊張の得点が叱責群よりも高かっねまた・
自己責任性においても称賛群の時点が叱責群の得点よりも高かった。
表4 称賛・叱責の強化歴とMAAT得点の平均値
成 功 動 機 テスト不安 自 己 人数
知的学習技能 運動社会生活総合 促進的失敗回避責任性
へき他 称賛群 14 26,0 27,2 29,6 29.1 叱責群 11 22,9 24,1 28,2 25.6
111,9 24,5 20.6 9.3 100,7 20−7 25.6 6.6
〜検定 十 十 * * * *** *
称賛群.21 26,9 27,3 27,8 25.8 平 坦 叱責群 21 2くL5 22,9 27,8 22.8
107,8 24−3 23.6 9,0 97,9 20,2 22−7 7,3
検定 十 ** * * 十
十.05く戸<.1O.*戸<、05.**P<.01.ホホ*戸<.001
以上の結果から、へき地と平坦の両方で、親から日頃よくほめられていると感じている称賛群 の子どもの方が、よく叱られていると感じている叱責群の子どもよりも成功動機や促進的緊張が 強く、自己責任性も強いといったより望ましい学習動蔵の状態にあるといえよう。ところで、へ
き地ではテスト不安の失敗回避動機が叱責群に強く表われている。この点は平坦の場合とは異っ ており、へき地の子どもの方が親から受ける叱責がこの種の動機を強く引き起こしているものと 考えられる。
称資・叱責の組合わせと学習動機 質問項目7と8で両親が・RW型(よくほめよく叱る)、
RN型(よくほめるがあまり叱らない)・NW型(よく叱るがあまりほめない)、またはNN型
(ほめも吃りもしない)のいずれであるかを調べた。表5は、その結果をまとめたものである。
表からもわかるように、平坦では両親ともRW型が一番多く、RN型またはNW型がそれに続き、
NN型はごく少なかった。他方、へき地では両親ともにRW型、RN型、NW型がほぼ同じぐら いの割合であり、平坦の場合とは異なっていた。
表5 親の称賛・叱責の組合わせ類型(%)
父 親 母 親
RW RN NW NN RW RN NW NN
へき地 31,5 30,1 26,0 12,4 29,6 29,6 35.2 5.6 平坦40,9 31,8 20.0 7,3 56,8 17,1 24.3 1.8 RW:よくほめよく叱る RN:よくほめるが叱らない
NW:よく叱るがほめない NN:ほめも吃りもしない
表6と表7は、地域別にこれら類型別MAA Tの平均値を示したものである。N N型は頻度が 少ないので除外し、残りの3類型を分析の対象とした。いずれも父親と母親について別々に、項
目ごとに分散分析を行い、ダ値が有意であったものについては下欄に表示した。なお、ダ値が有 意な場合にはさらに単純効果の検定を行い、得点が有意に高い値をゴチック体で示した。
表6 称賛・叱責の組合わせ類型別のMA A T得点の平均値(へき他校)
人数 成 功 動 機 テスト不安 自 己
知的学習技能 運動社会生活総合 促進的失敗回避責任性 RW
父 親 RN NW
23 22 19
26,0 25.0
2Z8
27,2 26,7 24.O
30,6 27.3 111,1 28−4 27.3 107,3 26,4 24,2 97.7
23,8 20.9 9,5 22,0 22.6 8,4
21,6 23.2 5.7
** **
RW 母 親 RN NW
21 21 25
25,9 24,7 23.0
273
26.3
245
29,7 27.3 110,2 28,7 27.9 108,1 28,0 24,3 99.8
22,7 20.8 8,9 23−5 22.3 8,3 21,4 23.7 7.3
F * 非
*P<、05.**戸く.01
表6はへき他校の場合である。父親では成功動機の知的学習と運動場面、および自己責任性に おいてRW型とR N型の得点がNW型の得点よりも有意に高い。また、母親では成功動機の知的 学習と社会生活場面および総合においてRW型とR N型の得点がNW型の得点よりも有意に高か った。以上のことから、両親が叱るばかりでほめない場合には、成功動機や自己責任性が低下す ることが示唆される。
表7は平坦校の場合である。父親では成功動機の知的学習、技能、社会生活の各場面および総 合でRW型とR N型の得点がNW型の得点よりも有意に高かった。また、母親では成功動機の社 会生活場面でR N型とRW型がNW型よりも得点が高かった。テスト不安の促進的緊張ではR N 型がRW型やNW型よりも得点が高かった。失敗回避動機についてはNW型とR N型がRW型よ
りも得点が高かった。さらに、自己責任性においてはRN型がRW型やNW型よりも得点が高か った。以上のことから、父親の場合はRW型が一貫して、R N型やNW型よりも良い学習動機の 状態にあるが、母親の場合には平坦では、RW型よりもR N型の得点が高いものが多かった。こ
の点はへき地の母親の場合とも異なっている。へき地の結果と併わせて考えると、共通している ことは両親が叱るばかりであまりほめない場合には、成功動機やテスト不安、自己責任性などが 低下し、望ましい学習動機の状態でなくなることである。
表7 称賛・叱責の組合わせ類型別のMAAT縛点の平均値(平坦校)
成 功 動 濃 テスト不安 白 己 人数
知的学習技能 運動社会生活総合 促進的失敗回避責任性 RW 45 27,0 26,5 28,0 26.1 107,6 23,2 21.8 8−9
父親RN35 25−425,426,1 24.1101,1 21,5 22.2 8.1
NW 22 23,5 22.9 2σ6 22,3 95,2 20−3 22.5 7.6
戸 ホ* * * *
RW 63 25,9 25,5 26,8 24.9 103,2 21,0 21.1 8.2
母親RN1926−226,228,0 26.1106,423,723.6 9.7
NW 27 24,6 23,7 27,1 22−2 97,5 20−0 24.0 7.3
F * * *
*戸く.05,**P<.O1
要 約
奈良県下のへき地と平坦部の小学5年生を対象にして、学業成績や両親の称賛・叱責と学習動 機(MAAT)との関係を検討した。称賛・叱責については、①称賛・叱責の強化歴と②称賛・
叱責の組合わせ類型の2点から分析した。主な結果は次のとおりである。①へき地の方が平坦よ りも学習動機の得点に高いものがみられた。②へき地と平坦の両方で、学業成績の上位群は下位 群よりも学習動機の得点が高かった。③へき地と平坦の両方で、ほめられることの多い称賛群は、
叱られることの多い叱責群よりも学習動機得点が高かった。④称賛・叱責の類型についても、へ き地と平坦の両方で、RW型とR N型がNW型よりも学習動機得点が高かった。
引 用 文 献
藤原喜悦・下山剛 杉村健 1973
杉村健・藤田正
玉瀬耕治 1979
1969 学習動機診断検査〔MAAT〕解説 金子書房.東京
へき地における小学生の学習動機奈良教育大学教育研究所紀要.9.
91−g8.
1971 児童の学習不安と学習動機 奈良教育大学教育研究所紀要,
7,101−107.
へき地および都市における称賛・叱責の研究 奈良教育大学教育研究所紀 要.15,127−134.
付記〕 本研究を行うにあたり、奈良県大和郡山市立筒井小学校、吉野郡十津川村立上野地小 学校、二村小学校、三村小学校、平谷小学校の校長先生はじめ担任諸先生方、児童の皆さんの御 協力を得ました。また、資料の整理に際しては心理学専攻生奥田晃子さん、藤圧1敦子さんの御協 力を得ました。記して厚く感謝の意を表します。