博士論文審査報告書
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(2) 中性子は、科学、産業、医療、安全規制等の多くの分野で幅広く利用されてい る。例えば、様々な科学分析のために中性子が利用されている。原子力発電では 中性子が核燃料の核分裂連鎖反応の主役であり、発電所や関連施設や環境中の中 性子被ばく量を知るためには、中性子フルエンスや中性子エネルギーの精密測定 が要求されている。また、中性子を利用するガン医療が実用化されており、ガン 細胞への正確な中性子照射量を求めることが不可欠である。中性子は電荷を持た ないために物質を直接電離する能力がない。そのために、中性子のエネルギーや フルエンスを精度よく求めることが困難である。 今後中性子の利用が様々な分野で益々盛んになるものと予想されるなか、中性 子の積極的な利用のためにも、中性子フルエンスの精密測定は重要である。本博 士論文は、中性子フルエンスの精密測定技術の高エネルギー領域への拡張と中性 子利用現場スペクトルへの適応化を主題としたものである。 本論文は 6 章で構成されており、各章の具体的な内容は以下のとおりである。 第 1 章では研究背景と研究目的について述べている。中性子フルエンスの精密 測定技術の現状を分析し、高エネルギー領域への拡張と中性子利用現場の連続的 な 中 性 子 ス ペ ク ト ル へ の 適 応 を 課 題 と し て 指 摘 し て い る 。 20 MeV 以 上 の 中 性 子 は高エネルギー加速器施設で発生させられるほか、宇宙線起因のものが存在し、 加速器施設内外の放射線管理や宇宙航空分野の被ばく管理と放射線防護、半導体 デ バ イ ス の シ ン グ ル イ ベ ン ト ア ッ プ セ ッ ト ( SEU) 耐 性 評 価 試 験 等 の 分 野 で 精 密 な中性子計測が必要とされている。一方、中性子医療施設では幅広いエネルギー を持つ中性子が意図的に生成され治療に用いられるほか、核燃料施設においては 核燃料から放出された中性子が幅広いエネルギー分布を持つため、通常の基準中 性子源とは異なる中性子計測への対応が必要であることが指摘されている。 第 2 章では、高エネルギー中性子照射試験に用いられる. 7Li(p,n)反. 応準単色高. エ ネ ル ギ ー 中 性 子 ス ペ ク ト ル の 解 明 に つ い て 述 べ て い る 。 7Li(p,n) 反 応 で 発 生 す る高エネルギー中性子は、照射試験に利用する高エネルギーピーク中性子に加え て、低エネルギーまで続く連続的なエネルギーを持つ中性子が混在することが実 用の大きな妨げとなっていた。連続的なエネルギーを持つ中性子の影響を評価し 照射試験における補正を可能にするため、申請者は、低エネルギー領域までの中 性子スペクトルフルエンスの測定に取り組んだ。量子科学技術研究開発機構 TIARA 施 設 で パ ル ス ビ ー ム 技 術 の 提 供 を 受 け 、中 性 子 飛 行 時 間( TOF)法 に よ る 測定を低エネルギー領域まで拡張した。中性子のエネルギーに応じて有機液体シ ンチレーターと. 6Li. ガラスシンチレーターを適切に選択し、モンテカルロ計算及. び実験を通じ検出器の応答関数を評価し、検出器信号の中性子-ガンマ線弁別を 実現し、中性子スペクトルフルエンスを低エネルギー領域まで測定・評価するこ と に 成 功 し た 。ま た 、実 験 室 内 に 充 満 す る 100 keV 以 下 の 中 性 子 は 散 乱 中 性 子 が 支 配 的 で あ る こ と を 実 験 と 計 算 か ら 検 証 し 、 7Li(p,n) 反 応 か ら 直 接 生 成 し 飛 来 す.
(3) る 中 性 子 の エ ネ ル ギ ー は 100 keV 付 近 が 下 限 で あ る と い う こ と を 突 き 止 め た 。 これらのデータ及び知見は当該施設で中性子検出器の応答評価測定や半導体デ バ イ ス の SEU 試 験 等 を 行 う 際 の 基 礎 デ ー タ と し て 活 用 さ れ る ほ か 、 他 の 高 エ ネ ルギー中性子施設や核物理学への貢献も期待されるものである。 第 3 章 で は 、 7Li(p,n)反 応 で 生 成 す る 連 続 中 性 子 の 影 響 を 実 験 的 に 除 去 す る 手 法について検証した。申請者は、大阪大学核物理研究センターのサイクロトロン 施 設 で 、複 数 の ボ ナ ー 球 検 出 器 を 用 い て 9 6 M e V か ら 3 8 7 M e V ま で を 4 つ の エ ネ ルギー に分 割し て 、ター ゲッ トス ウ ィンガ ー装 置を 用 いた 2 角 度差 分法 による 応 答測定を行い、モンテカルロ計算で求めた応答関数と比較することで、その適応 性 を 評 価 し た 。 大 球 径 の 高 密 度 ポ リ エ チ レ ン ( HDPE) 中 性 子 減 速 材 を 用 い た 検 出器や、類似した特性を有する市販の中性子サーベイメーターに応用したところ 本 手 法 が 有 効 に 機 能 す る こ と が 明 ら か に な っ た 。一 方 、小 球 径 の H D P E を 用 い た 検出器や類似した特性を持つ中性子個人線量計は、施設に固有な低エネルギー中 性 子 の 影 響 に よ り 、適 用 に は 注 意 が 必 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。ま た 、H D P E 減速材内に金属層を設けることで高エネルギー中性子に対する応答を効率化した 検出器について、実験結果と計算結果との間に乖離が認められたが、使用した金 属断面積データに基づく計算結果側に問題があり、改訂データを用いることで実 験結果と合致することを明らかにした。これらのことから、申請者は、高エネル ギー中性子施設向けの中性子エリアモニタ等に対する本手法の有効性を実証する とともに、当該検出器に用いられた鉛及び銅の断面積データの改訂動向を支持す る貴重なベンチマークデータを得ることにも成功した。 第 4 章 で は 、 ホ ウ 素 中 性 子 捕 捉 療 法 ( BNCT) に 用 い ら れ る 中 性 子 ビ ー ム の 特 性 評 価 に つ い て 述 べ て い る 。近 年 、国 内 外 で B N C T の た め の 加 速 器 中 性 子 源 施 設 の開発が相次いでいるが、その中性子発生・エネルギー変調機構の多様性から、 モンテカルロ計算に加えて実験的に評価する技術が求められている。申請者は、 い ば ら き 中 性 子 医 療 研 究 セ ン タ ー の Be(p,n)反 応 を 利 用 し た BNCT 施 設 で 、 開 発 段 階 で の み 利 用 可 能 な 微 弱 な ビ ー ム を 活 用 し 、 3He 比 例 計 数 管 ベ ー ス の ボ ナ ー 球 ス ペ ク ト ロ メ ー タ ー ( BSS) を 用 い て 中 性 子 ス ペ ク ト ル フ ル エ ン ス の 測 定 を 行 っ た。モンテカルロ計算による治療室内の中性子エネルギー分布に基づき、中性子 源の特性評価に適した測定点を複数選定した。また、熱外中性子の測定に適した 応 答 関 数 群 を 持 つ よ う に ボ ナ ー 球 検 出 器 を 選 定 し B S S を 構 成 し た 。パ ル ス 中 性 子 源のピーク強度に対応した検出器ガス圧を選定し、中性子源のパルス性に対応し た補正を施した各検出器の測定結果をアンフォールディングすることで、測定地 点の中性子スペクトルフルエンスを導出した。その結果は計算値と概ね一致し、 治療に適した中性子エネルギー分布であることを確認した。その結果、治療に必 要な中性子強度を実現するための陽子ビーム電流増強目標値を定量的に提示する ことにも成功した。また、これらの結果は、大強度中性子ビームに対応した新た.
(4) な検出器による測定結果を検証するための参考データとなることも期待できる。 第 5 章では、核燃料施設の中性子 エネルギー分布に対応した基準中性子場の開 発について述べている。核燃料施設で被ばく管理が必要な区域で観測される中性 子は、一般に核燃料物質の自発核分裂で放出された後に遮蔽体を透過しエネルギ ー変調した中性子が支配的である。中性子検出器の応答評価に広く用いられる較 正用中性子源とはエネルギー分布が大きく異なるため、これらの中性子検出器で は 施 設 内 の 中 性 子 線 量 を 過 大 も し く は 過 小 に 評 価 す る こ と が あ る 。そ こ で 、252Cf 中 性 子 源 を 直 径 30 cm の 重 水 層 で 覆 う こ と に よ っ て 核 燃 料 施 設 で 観 測 さ れ る 中 性 子エネルギー分布を模擬する重水減速. 252Cf. 中 性 子 基 準 場 を 構 築 し た 。申 請 者 は 、. 重水容器の構造、中性子源挿入機構、マウント及びアライメント等に関する不確 かさ要因をモンテカルロ計算によって精密に評価した。また、実験室内の散乱中 性子の影響を評価するため、シャドーコーンで直接中性子を遮蔽した測定を行う 必要があるが、重水容器を含む中性子源アセンブリが大きく標準的なシャドーコ ーンの導入が困難であるため、重水減速. 252Cf. 中性子源のエネルギー分布を考慮. し 、最 小 限 の 負 荷 で 必 要 な 遮 蔽 能 力 が 得 ら れ る シ ャ ド ー コ ー ン を 設 計・製 作 し た 。 ボナー球検出器を用いた中性子フルエンスの測定結果はモンテカルロ計算の結果 と 不 確 か さ の 範 囲 内 で 一 致 し 、B S S に よ っ て 測 定 し た 中 性 子 エ ネ ル ギ ー 分 布 も モ ンテカルロ計算結果をよく再現した。実用中性子検出器に対する模擬基準中性子 場での応答測定を通じてその有効性についても検証している。 第 6 章では、本論文で示した研究成果をまとめ、これらの成果が相補的に機能 することによって多様な分野において信頼性の高い中性子計測が可能となること を述べている。 以 上 を 要 約 す る と 、 申 請 者 は 、 熱 中 性 子 か ら 数 百 MeV ま で に わ た る 広 い エ ネ ルギー領域の中性子に対し、中性子フルエンスのみならず施設や用途にも応じた 精密な中性子計測技術の開発に取り組み、学術、産業、医療等の中性子利用分野 の 要 請 に 応 え た 。 そ の 過 程 で 、 7Li(p,n)反 応 生 成 中 性 子 ス ペ ク ト ル 構 造 や 中 性 子 断面積に関わる物理的に貴重なデータ及び知見も得ることに成功した。これらの 成果は今後の中性子科学の発展に大きな寄与を与えることが期待されるものであ る。よって博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。 2 0 1 7 年 11 月 審査員. 主査. 早稲田大学教授. 工学博士(東京大学). 鷲尾 方一. 副査. 早稲田大学教授. 理学博士(早稲田大学) 長谷部信行. 副査. 産業技術総合研究所ラボチーム長 博 士 (工 学 )(早 稲 田 大 学 ) 黒 田 隆 之 助.
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