早稲田大学大学院 先進理工学研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
A n a l yt i c s m o o t h i n g e f f e ct f o r n o n l i n e a r S ch rö d i n ge r e q u a t i o n s
非 線 型 シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 の 解 析 的 平 滑 化 効 果
申 請 者
Gaku HOSHINO
星埜 岳
物理学及応用物理学専攻 数理物理学研究
Department of Pure and Applied Physics Research on Mathematical Physics
2015 年 12 月
1
量 子 力 学 に 於 け る 状 態 は ( ア フ ィ ン 空 間 と し て の ) ガ リ レ イ 時 空 の 原 点 を 任 意 に 固 定 し た 直 積 空 間 上 の 複 素 数 値 函 数 と し て の 波 動 函 数 で 記 述 さ れ る が 、 こ れ は ( 時 間 に 依 存 し た ) シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 の 初 期 値 問 題 の 解 に 外 な ら な い 。 波 動 函 数 に 現 れ る 波 と し て の 性 質 は 、 音 波 や 電 磁 波 の よ う な ホ イ ヘ ン ス の 意 味 で の 有 限 伝 播 性 を 持 つ 双 曲 的 な 波 で も な く 、 熱 伝 導 の 拡 散 波 の よ う な 順 序 保 存 性 と 無 限 伝 播 性 を 持 つ 放 物 的 な 波 で も な く 、Korteweg-de Vries や Benjamin-Ono モ デ ル に 現 れ る 波 の よ う な 位 相 速 度 と 群 速 度 の 概 念 が 独 立 に 異 な る も の と し て 並 存 す る 分 散 性 波 動 と し て 分 類 さ れ る も の で あ る 。 分 散 性 波 動 の 伝 播 の 数 学 的 記 述 は 、 線 型 理 論 に お い て は 量 子 力 学 の 数 学 的 基 礎 と な り 、 非 線 型 理 論 に お い て は de Broglie に 始 ま る 物 質 波 の 理 論 、 即 ち 古 典 場 の 数 学 的 根 拠 と な る も の で あ る 。 基 本 的 な 問 い 掛 け と し て は 、 初 期 値 問 題 の 解 の 存 在 と 一 意 性 、 初 期 値 問 題 に 対 す る 解 の 連 続 的 依 存 性 を ア ダ マ ー ル の 意 味 で の 適 切 性 と し て 、 ユ ー ク リ ッ ド 空 間 上 の 函 数 空 間 毎 に 初 期 値 問 題 の 適 切 性 を 論 じ る 事 で あ る が 、波 の 性 質 を 詳 し く 調 べ る た め に は 、定 在 波 、散 乱 波 、 爆 発 波 に 繋 が る 初 期 状 態 の 分 類 お よ び そ れ ぞ れ の 波 の 性 質 の 解 析 が 興 味 の 対 象 と な る 。 初 期 値 問 題 の 数 学 的 定 式 化 と し て は 、 ユ ー ク リ ッ ド 空 間 上 の 函 数 空 間 を 一 つ 設 定 し 、 そ の 函 数 空 間 の 中 で の 時 間 変 数 を 独 立 変 数 と す る 発 展 方 程 式 、即 ち 無 限 次 元 空 間 に お け る 常 微 分 方 程 式 と 見 做 す 方 法 が 一 般 的 で あ る 。
分 散 性 波 動 を 特 徴 付 け る も の と し て 、エ ネ ル ギ ー・運 動 量・電 荷 の 保 存 則 、 波 動 函 数 の 空 間 一 様 な 時 間 減 衰 ( 分 散 評 価 ) が 量 的 記 述 の 典 型 例 で あ り 、 波 動 函 数 の 零 点 集 合 の 内 点 の 消 滅 ( 一 意 接 続 性 ) や 平 滑 化 効 果 が 質 的 記 述 の 代 表 例 で あ る 。 平 滑 化 効 果 (smoothing effect) と は 、 設 定 し た 函 数 空 間 に お け る 力 学 系 の 時 間 発 展 に お い て 、初 期 状 態 の も つ 特 異 性 が 瞬 時 に し て 消 滅 し 、 波 動 函 数 の 空 間 局 所 的 な 滑 ら か さ が 発 生 す る 数 学 的 現 象 を 表 す 言 葉 で あ る 。 こ れ は 熱 の 拡 散 現 象 に 伴 う 典 型 的 な 性 質 で も あ る が 、 分 散 性 波 動 現 象 は 可 逆 過 程 で あ り 、 時 間 反 転 対 称 性 と 両 立 す る 平 滑 化 効 果 は 質 的 に 全 く 異 な る も の で あ る 。 ま た そ の 認 識 は 比 較 的 新 し い も の で あ る 。 時 間 に 依 存 し た 散 乱 理 論 で は 、加 藤 敏 夫 に よ る ハ ミ ル ト ニ ア ン に 対 す る 平 滑 作 用 素 の 理 論(Theory of H-smooth operator) が こ れ に 相 当 す る (1968)。Korteweg-de Vries 方 程 式 に 対 し て 平 滑 化 効 果 を 見 出 し た の も 加 藤 敏 夫 で あ る (1 983)。 非 線 型 シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 の 平 滑 化 効 果 を 初 め て 示 し た の は 林 仲 夫 、 仲 光 邦 昭 、 堤 正 義 の 共 同 研 究 (1986) に よ る 成 果 で あ る 。 そ の 証 明 は 波 動 函 数 に 作 用 す る ガ リ レ イ 変 換 群 の 生 成 作 用 素(以 下 ガ リ レ イ 生 成 作 用 素 と 略 す)を 用 い た も の で 、 ガ リ レ イ 生 成 作 用 素 を 通 じ て 、 初 期 値 状 態 へ の 重 み 条 件 が 、 初 期 時 刻 を 離 れ る と 瞬 時 に 波 動 函 数 へ 微 分 作 用 素 と し て 空 間 局 所 的 に 転 換 す る 事 実 を 巧 み に 用 い た も の で あ る 。 こ れ に よ り 、 三 乗 冪 ( 三 波 相 互 作 用 ) 等 の 滑 ら か な 自 己 相 互 作 用 の 下 で は 、 初 期 状 態 へ の 任 意 の 多 項 式 に よ る 重 み 条 件 が 、 初 期 時 刻 を 離 れ た 波 動 函 数 の 無 限 回 微 分 可 能 性 に 転 じ る 事 が 導 か れ る 。
2 そ こ で 次 の 問 題 が 自 然 に 生 ず る 。
・ 波 動 函 数 の 解 析 的 平 滑 化 効 果 は 起 こ る の か ?
も し そ う だ と す れ ば 、 ど の 様 に 定 式 化 さ れ 、 ど の 様 に 証 明 さ れ る の か ?
・ 時 間 変 数 に つ い て の 平 滑 化 は 起 こ る の か ?
も し そ う だ と す れ ば 、 ど の 様 に 定 式 化 さ れ 、 ど の 様 に 証 明 さ れ る の か ?
函 数 の 滑 ら か さ を 表 す 概 念 と し て 、 解 析 性 (analyticity) は 最 良 の も の で あ る か ら 、 こ の 問 題 は 平 滑 化 効 果 を 問 う も の と し て は 究 極 に 位 置 す る も の で あ る 。 上 記 の こ れ ら の 問 題 は 林 仲 夫 ら に よ っ て 部 分 的 な 肯 定 的 解 答 が 与 え ら れ た が 、 小 さ な デ ー タ に よ る 時 間 大 域 解 の 枠 組 み と の 関 連 に よ る 理 解 を 与 え る 定 式 化 で は な か っ た 。 技 術 的 困 難 と 複 雑 さ も あ っ て 、 林 仲 夫 ら の 研 究 は 1990 年 代 初 頭 で 途 絶 え 、2 0 年 以 上 に わ た っ て 、 こ の 分 野 の 研 究 は 殆 ど 省 み ら れ な か っ た 。
申 請 者 は 、 こ の 解 析 的 平 滑 化 効 果 (a nalytic smoothing effect) の 問 題 に 取 り 組 み 、 基 礎 的 な 函 数 空 間 の 設 定 、 ガ リ レ イ 生 成 作 用 素 や 擬 共 形 変 換 群 の 生 成 作 用 素 (generator of pseudo-conformal transformations) の 波 動 函 数 の 積 へ の 作 用 の 記 述 な ど 、根 源 的 な 方 法 論 ま で 立 ち 返 っ て 理 論 的 整 備 を 行 い 、 上 記 の 問 題 に 明 快 な 解 答 を 与 え 、 既 存 の 結 果 を 含 む 形 の 理 論 に 体 系 化 す る と と も に 、 単 独 の 非 線 型 シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 の み な ら ず 、 そ の 連 立 系 に 対 し て も 、 具 体 的 な 相 互 作 用 の モ デ ル に 適 用 し た 場 合 に 最 良 と 考 え ら れ る 研 究 成 果 を 数 多 く 得 た 。
本 博 士 論 文 は 、 そ れ ら の 成 果 を 基 礎 と し て 、 今 ま で に 行 わ れ た 申 請 者 の 研 究 を 系 統 的 に 論 じ た も の で あ る 。 本 論 文 は 4 部 で 構 成 さ れ て い る 。
第 1 部 は 解 析 的 平 滑 性 を 記 述 す る た め の 函 数 空 間 の 導 入 及 び そ の 特 徴 付 け 、 ガ リ レ イ 生 成 作 用 素 と 擬 共 形 生 成 作 用 素 の 波 動 函 数 の 積 へ の 高 次 ラ イ プ ニ ッ ツ 的 作 用 に 関 す る 新 し い 等 式 に つ い て の ま と め で あ る 。 本 論 文 全 体 の 構 成 で は 主 結 果 に 対 す る 準 備 の 役 割 を 担 う も の と し て 第 1 部 が 位 置 付 け ら れ て い る が 、 申 請 者 独 自 の 発 見 を は じ め 独 創 性 の あ る 研 究 成 果 の 本 質 的 な と こ ろ が ま と め ら れ て い る 。 擬 共 形 不 変 な 相 互 作 用 は 、 解 の 満 た す 保 存 則 、 対 応 す る ラ グ ラ ン ジ ア ン の 対 称 性 、 方 程 式 の 線 型 偏 微 分 作 用 素 か ら 定 ま る 不 変 ベ ク ト ル 場 の 成 す リ ー 代 数 ( リ ー 環 )、 特 殊 線 型 群𝑆𝐿2(ℝ)の ヒ ル ベ ル ト 空 間𝐿2に お け る 表 現 論 、 時 空 フ ー リ エ 空 間 に お け る 特 性 曲 面 上 へ の フ ー リ エ 制 限 理 論 ( ス ト リ ッ カ ー ツ 評 価 ) に お い て 、 極 め て 興 味 深 い 対 称 性 を 持 つ こ と が 知 ら れ て お り 、 そ れ ら の 数 学 的 事 実 は こ の 30 年 余 り で 次 第 に 分 か っ て き た 歴 史 的 経 緯 が あ る 。 申 請 者 の 発 見 し た 高 次 ラ イ プ ニ ッ ツ 的 作 用 に 関 す る 一 連 の 等 式 は 、 擬 共 形 不 変 な 相 互 作 用 の 理 解 に 新 た な 視 点 を 加 え る も の で あ る 。 さ ら に 申 請 者 は 、𝐿2空 間 あ る い は 一 般 の𝐿𝑝空 間 に お け る 解 析 性 を 的 確 に 記 述 す る た め に
3
ガ リ レ イ 生 成 作 用 素 や 擬 共 形 生 成 作 用 素 に つ い て の 冪 級 数 展 開 の 絶 対 収 束 ノ ル ム を 備 え た 従 来 の 函 数 空 間 的 な 捉 え 方 と と も に 、 函 数 の 虚 軸 方 向 へ の 延 長 可 能 性 を 測 る ノ ル ム を 備 え た ハ ー デ ィ ー 空 間 的 な 捉 え 方 も 導 入 し 、 お 互 い の 包 含 関 係 な ど 、 そ の 基 礎 的 性 質 も 詳 し く 研 究 し 、 第 2 部 以 降 の 研 究 に そ の ま ま 応 用 可 能 な 形 に 定 式 化 し て い る 。
第 2 部 は 、 空 間 変 数 に 関 す る 解 析 的 平 滑 化 効 果 に つ い て の 結 果 を ま と め た も の で あ る 。 林 仲 夫 ら に よ る 結 果 を 見 通 し 良 く 整 備 し 、 既 存 の 枠 組 み で は 扱 え な か っ た 指 数 函 数 的 相 互 作 用 等 も 含 む 理 論 の 時 間 大 域 的 体 系 化 を 提 示 し て い る 。初 期 状 態 へ の 指 数 函 数 的 重 み 条 件 が 、初 期 時 刻 を 離 れ た 波 動 函 数 の( 空 間 変 数 に 関 す る ) 解 析 性 に 転 じ る 様 子 が 数 学 的 に 明 快 に 記 述 さ れ て い る 。
第 3 部 で は 、 時 空 両 変 数 に 関 す る 解 析 的 平 滑 化 効 果 に つ い て の 結 果 を ま と め た も の で あ る 。 擬 共 形 生 成 作 用 素 が 冪 級 数 展 開 に お け る 無 限 次 の 微 分 作 用 素 と し て 、 擬 共 形 相 互 作 用 に ラ イ プ ニ ッ ツ 的 に 作 用 す る 様 子 を 第 1 部 で 得 ら れ た 一 連 の 等 式 に よ っ て 自 然 に 表 現 し て い る 。 第 2 部 の 重 み 条 件 を 強 め た 形 と な る 初 期 状 態 へ の ガ ウ ス 函 数 的 重 み 条 件 が 、 初 期 時 刻 を 離 れ た 波 動 函 数 の
( 空 間 変 数 の み な ら ず ) 時 空 両 変 数 に 関 す る 解 析 性 に 転 じ る 様 子 が 数 学 的 に 明 快 に 記 述 さ れ て い る 。
第 4 部 は 、 申 請 者 が 本 研 究 の 過 程 で 得 た 様 々 な 新 し い 知 見 を ま と め た も の で あ る 。 第 2 部 、 第 3 部 の 主 目 的 そ の も の か ら は 、 や や 外 れ る が 、 関 連 性 の あ る ト ピ ッ ク ス 的 な 問 題 を 集 め て 様 々 な 角 度 か ら 論 じ て い る 。
以 上 を 要 約 す る と 、 本 論 文 は 非 線 型 シ ュ レ デ ィ ン ガ ー 方 程 式 の 持 つ 平 滑 化 効 果 を 解 析 性 の 視 点 か ら 論 じ た も の で あ り 、 擬 共 形 生 成 作 用 素 の 相 互 作 用 へ の 作 用 を 明 示 的 に 与 え る 一 連 の 等 式 の 発 見 と と も に 、 解 析 性 を 記 述 す る 二 つ の 捉 え 方 に 伴 う 函 数 空 間 論 の 研 究 を 進 め 、逐 次 近 似 の 枠 組(iteration scheme) に お い て 線 型 評 価 ( ス ト リ ッ カ ー ツ 評 価 ) に 対 す る 非 線 型 評 価 が 時 空 大 域 的 に 閉 じ る 理 論 的 枠 組 み を 提 示 し た 点 に 、極 め て 高 い 学 術 的 価 値 を 持 っ て い る 。
よ っ て 、 本 論 文 は 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 論 文 と し て 相 応 し い も の と し て 認 め る 。
2015 年 11 月
審 査 委 員 ( 主 査 ) 早 稲 田 大 学 教 授 理 学 博 士 ( 京 都 大 学 ) 小 澤 徹 ( 副 査 ) 早 稲 田 大 学 教 授 理 学 博 士 ( 東 京 大 学 ) 大 谷 光 春 早 稲 田 大 学 教 授 理 学 博 士 ( 北 海 道 大 学 ) 小 薗 英 雄 早 稲 田 大 学 教 授 理 学 博 士 ( 早 稲 田 大 学 ) 田 中 和 永