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博士(農学)久野 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)久野 学位論文題名

ベレニアルライグラスにおけるフルクタン合成酵素遺伝子の 解析および耐凍性分子育種への応用

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  温 帯 以 北 に 生 息 す る 多 年 生 の 植 物 は 、 秋 か ら 冬 に か け て 気 温 の 低 下 に 伴 い 徐 々 に 耐 凍 性 を 獲 得 し 、 氷 点 下 で も 生 存 で き る 。 こ の 現 象 を 低 温 馴 化 と 呼 ぶ 。 低 温 馴 化 過 程 の 植 物 細 胞 内 で は 、 各 オ ル ガ ネ ラ で 貯 蔵 物 質 の 蓄 積 や 液 胞 の 小 型 化 な ど 劇 的 な 変 化 が 起 こ る 。 ス ク ロ ー ス を 基 質 と す る フ ル ク ト ― ス の ポ リ マ ー で あ るフ ル ク タ ン も 、低 温 馴 化 過 程で 液 胞 に 蓄 積 す る 多 糖 類 の1つ で あ る 。 フ ル ク タ ン は 、 温 帯 起 源 のC3植 物 、 特 に イ ネ 科 、 ユ リ 科 お よ び キ ク科 植 物 に 多 く蓄 積 す る こ とが 知 ら れ て お り、 ペ レ ニ ア ルラ イ グ ラ ス (Lolium perenne L.)も フ ル ク タ ン を 蓄 積 す る 植 物 の1種 で あ る 。 本 研 究 は 、 ペ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス の 耐 凍 性 の 向 上 を 目 的 と し て 、 フ ル ク タ ン 代 謝 の 遺 伝 機 構 を 明 ら か に し て 耐 凍 性 と の 関 連 を み た も の で あ る 。 本 論 文 は5章 で 構 成 さ れ 、 第1章 が 緒 論 、 第2章 が フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 の 単 離 お よ び 同 定 、 第3章 が フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 の マ ッ ピ ン グ お よ び フ ル ク タ ン 含 有 量 のQTL解 析 、 第4章 が コ ム ギ 由 来 の フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 を 導 入 し た 形 質 転 換 植 物 の 特 性 お よ び第5章 が 総 合考 察 と な っ てい る 。

  第1章 の 緒 論 で は 、 ペ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス の 有 用 性 や そ の 耐 冬 性 育 種 の 重 要 性 を 論 じ た 後 、 国 内 外 の こ れ ま で の 研 究 の 経 緯 や 最 近 の 情 報 を 踏 ま え 、 低 温 馴 化 過 程 に お け る 植 物 細 胞 内 の 変 化 や 植 物 が 耐 凍 性 を 獲 得 し て い く メ カ ニ ズム を 述 べ 、 フ ルク タ ン と 環 境ス 卜 レ ス 耐 性 と の 関 連 に つ い て 展 開 し た 。

  第2章 で は 、 ペ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス か ら フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 を 単 離 し 、 そ の 機 能 解 析 お よ び 低 温 馴 化 過 程 で の 発 現 解 析 を 行 っ た 。 ま ず 、 低 温 馴 化 冠 部 組 織 由 来 のcDNAラ イ ブ ラ リ ー か ら 、 既 知 の フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 と 相 同 性 が 高 い2.2〜2.5kbpの6種 類 の ク ロ ― ン を 単 離 し た 。 そ れ ら の ク ロ ― ン をprftl〜prft6と 名 付 け た 。特 にprft4は ぺ レ ニア ル ラ イ グ ラ ス か ら 既に 単 離 さ れ てい るsucrose−sucrose1−fructosyltransferase(1−SST)、 遺 伝 子 と 相 同 性が 高 か っ た 。次 に 、prftl〜 pr丹5につ いて、 酵母( 鯢カなpasめ′′s) 発現シ ステム を用い た機 能解析 の結果 、p册´お よびp′ナ 醒はfructan‐.fructan1−fructosyItransferase(1―FFT)を、

〆 朋 お よ びpガ 瓸 はfruCtanイruCtan6G−fructosyltransferase(6G−FFT) を そ れ ぞれ コ ー ド し

1225 ‑

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ていることを明らかにした。prft4は1―SST遺伝子であることを確認した。6G一FFT遺伝子に 関しては、本研究においてイネ科植物から初めて単離できた。また、植物を低温処理させた とき、葉部および冠部組織では、低温馴化に伴いフルクタンの含有量が増加した。Realtime RT―PCR法を用いて、フルクタン合成酵素遺伝子の発現解析を行った結果、prft´および prデルは、低温馴化過程で葉部および冠部組織において著しく発現が増加したが、prft3.

prft4およびprたヴに関しては、顕著な発現増加は見られなかった。これらのことから、低温馴 化過程におけるフルクタン含有量の増加と〆丹´および〆デ醒の発現量の増加が密接に関連 していることを示唆した。

  第3章では、連鎖解析集団を用いて単離した遺伝子のマッピングおよびフルクタン含有量 のQTL解析を行った。連鎖解析集団内で多型検出が可能なprtt´、prft3およびprたイのPCR ベースのマ―カ―を作製した。それらの遺伝子の連鎖解析を行った結果、〆朋は第3連鎖 群(LG3)に座乗し、p册´およびp′たイはLG7インベルターゼ遺伝子の近傍に座乗した。続い て重合度3〜7のフルクタンを「低分子フルクタン」、重合度8以上のフルクタンを「高分子フ ルクタン」と定義し、2002年および2003年における越冬前冠部組織のフルクタン含有量の QTL解 析を行 った。そ の結果、LG1お よびLG4に高分 子フルク タンのQTLを、LG3に低 分 子フルクタンのQTLをそれぞれ検出した。フルクタン合成酵素遺伝子のマッピング位置とフ ルクタン含有量のQTL検出位置が一致しない結果となった。このことは、フルクタン含有量 が直接合成に関与する酵素遺伝子以外の因子によっても支配されている可能性を示唆して いる。

  第4章では、コムギ由来のフルクタン合成酵素遺伝子をぺレニアルライグラスに導入し、

そ の特性を調査した。コムギ由来のフルクタン合成酵素遺伝子wftl(sucrose―fructan 6‑fructosyltransferase)およびwft2(1―SST)を過剰発現する形質転換ペレニアルライグラ スを作出した。形質転換体および非形質転換体の葉部におけるフルクタン含有量を調査し た結果、wftlを導入した1個体、pvft2を導入した3個体において、非形質転換体と比べてフ ルクタン含有量の増加が見られた。続いて、電気伝導度法による耐凍性検定の結果、非形 質転換体に比べてフルクタンを多く蓄積している形質転換体で耐凍性が向上していた。この ことから、フルクタン合成酵素遺伝子を導入することは植物の耐凍性を向上させる手段とし て有効であることが示唆された。

第5章の 総合考 察では、 低温馴 化過程でフルクタン含有量と合成酵素遺伝子発現の増加 が見られたこと(第2章)や、フルクタン含有量が増加した形質転換体の耐凍性が向上してい たこと(第4章)から、フルクタンが植物に耐凍性を付与させる重要な物質の1つであると考 え 、耐凍性 のQTLと第3章で明 らかにしたフルクタン含有量のQTLとの関連について総合 的に考察した。また、本研究成果のぺレニアルライグラス耐冬性育種への応用について論じ た。

    ―1226ー

(3)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

喜多村 中嶋 金澤

学 位 論 文 題 名

啓介     博     章

ベレニアルライグラスにおけるフルクタン合成酵素遺伝子の 解析および耐凍性分子育種への応用

  本 論 文 は5章119頁 か ら な る 和 文 論 文 で あ り 、 図24、 表7、 英 文 要 約 お よ び 付 表3 を 含 む 。

  フ ル ク ト ー ス の ポ リ マ ー で あ る フ ルク タ ン は、 寒 地 型イ ネ 科 植 物に 多 く 蓄積 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 フ ル ク タ ン は 植 物 細胞 内 で は液 胞 に 蓄積 し て お り、 低 温 スト レ ス に 対 し て 浸 透 圧 調 整 を 行 う 生 理 調 節 物 質と し て 、ま た 、 越冬 後 の 再 生の た め のェ ネ ル ギ ー 源 ( 貯 蔵 物 質 ) と し て の 働 き を 持 つ。 本 研 究で は 、 ベレ ニ ア ル ライ グ ラ スを 研 究 対 象 と し て フ ル ク タ ン 合 成 の 基 本 的 知 見を 得 る とと も に 、フ ル ク タ ンの 特 徴 を利 用 し た 植 物 の 耐 凍 性 分 子 育 種 へ の 応 用 に つ い て 検 証 し た 。

  得 ら れ た 結 果 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1.フルクタン合成酵素遺伝子の単離および同定

  は じ め に 、 ペ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス 低 温 馴 化 冠 部 組 織 由 来 のcDNAラ イ ブ ラ リ ー か ら 既 知 の フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 と 相 同 性 の 高 い6つ のcDNAク 口 ー ン を 単 離 し た 。 そ れら をprftl〜prft6と 名 付け 、 そ の 特性 解 析 を行 っ た 。そ れ ら の遺 伝 子が コード する タ ン パ ク 質 の 機 能 解 析 を 行 っ た 結 果 、prftlお よ びprft2はfructan: fructan l‑fructosyltransfraSe(1‐FFT) 活 性 を 、p´ : ル3お よ びp所5はfructan:fruCtan 6G‐fruCtOSyltraSnferaSe(6G‐FFT)活性を、p′少イはSuCrOSe:SuCrOSel‐fruCtOSyltraSnferaSe

(1‐SST) 活性を それぞれ 持つこ とが明ら かとなっ た。(p′ル6の翻訳産物では反応が起こ ら な か っ た 。 )6GーFFT遺 伝子 は 、 本研 究 に よっ て イ ネ科 植 物 から 初 め て 単離 で き た。

低 温 馴 化 過 程 で 、 ベ レ ニ ア ル ラ イ グ ラ ス の 葉 部 およ び 冠 部に お い てフ ル ク タ ン含 有 量 の 増加 が 見 られ た 。 同時 に 、pゆ ´ 〜 〆少5の 発 現量 の 調 査を 行 っ た結 果 、p所3〜pゆ5は 低 温 馴 化 と 関 係 の あ る 発現 の 増 加は 見 ら れな か っ たが 、pザ´ お よ びp所2は 低温 馴 化 に     −1227―

(4)

伴い著しく発現量が増加していた。これらのことから、prftl およびprft2 の発現量の増 加 と フ ル ク タ ン 含 有 量 の 増 加 は 密 接 に 関 連 し て い る と 予 想 さ れ た 。

2 . フ ル クタ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 の マ ッ ピ ン グ お よ び フ ル ク タ ン 含 有量 の QTL 解 析    はじめに、ペレニアルライグラスF2 連鎖解析集団を用いてprftl 、prft3 およびprft4 の マッ ピン グを 行った。prft3 は第3 連鎖群(LG3 )に座乗し、prtl およびprft4 はLG7 のインベルターゼ遺伝子の近傍に座乗した。次に、同じF2 連鎖解析集団を用いてフル ク タン 含有 量を 測定 しQTL 解析 を行 った 結果 、高分子(重合度8 以上)フルクタンは LG1 と LG4 に 、 低 分 子 ( 重 合 度 3 〜 7 ) フ ル ク タ ン は LG3 に検 出さ れた 。フ ルク タン 合 成酵 素遺 伝子 がマッピングされた位置とフルクタン含有量のQTL 検出位置は一致し ない結果となった。このことから、フルクタン含有量は、直接合成に関与する酵素遺 伝子以外の因子(例えば、転写因子や転流・蓄積に関わる因子)によって支配されて いると推察した。

3 . コ ム ギ 由 来 の フ ル ク タ ン 合 成 酵 素 遺 伝 子 を 導 入 し た 形 質 転 換 植 物 の 特 性    ペレニアルライグラスよりも耐凍性が高いコムギ由来のフルクタン合成酵素遺伝子 をぺレニアルライグラスに導入した形質転換体を作出し、その特性解析を行った 。バ クテリア由来のフルクタン合成酵素遺伝子は液胞標的シグナルが無いために、植物に 導入すると奇形になる場合が多いが、コムギ由来のフルクタン合成酵素遺伝子の導入 では、形態的に正常な形質転換体を得ることができた。形質転換体のフルクタン含有 量を調査した結果、非形質転換体よりもフルクタン含有量が増加していた。また、電 気伝導度法で耐凍性検定を行ったところ、形質転換体の耐凍性の向上が確認できた。

これらのことから、フルクタン合成酵素遺伝子を導入することでぺレニアルライグラ スの耐凍性を向上することが可能であると考えた。

   本研究は、フルクタン合成酵素遺伝子の特性を明らかにするとともに、ベレニアル ライグラスの耐冬性(耐凍性を含む)育種への応用に重要な道筋を立てるものであり、

学術的に高く評価できる。

   よって、審査員一同は、久野裕が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有す

るものと認めた。

参照

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