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博士(農学)小川佳奈 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)小川佳奈 学位論文題名

バレイショの芽の休眠に関与する    遺 伝 子 の 分 子 生 物 学 的 研 究

学位論文内容の要旨

  バレイショはトウモロコシ,イネ,コムギに並ぶ世界四大作物のーっである.バレ イショ塊茎の長期間貯蔵には低温が用いられているが,塊茎は大量の水分を保持して いるため塊茎の芽の休眠期間が終了すると低温下でも萌芽が始まり,塊茎の利用価値 が失われてしまう.したがって農業上は,塊茎休眠の人為的な制御技術の確立が急務 であるが,塊茎休眠のメカニズムは未だ明らかにされていない.本研究では遺伝子を 同定する手法のーっであるジーントラップ法を用いて塊茎の芽の休眠に関与する遺伝 子 の 単 離 を 行 い , こ の 遺 伝 子 の 機 能 に つ い て 解 析 を 行 な っ た . 1. ジ ー ン ト ラ ッ プ 法 を 用 い た バ レ イ シ ョ 形 質 転 換 体(BD022株 ) の 作 出   ジーントラップ法は,アグロバクテリウムを用いてランダムにレポーター遺伝子

(GUS)を導入し,GUS遺伝子を発現する多数の形質転換体から特異性を示す個体を 選別することから始まる.得られた形質転換体では,その特異性に沿って発現する遺 伝子の内部にGUSが導入されているはずであり,GUSの塩基配列を利用してその遺 伝子をっり上げることができる.本法をバレイショに用いたところ,腋芽の基部に特 異 的にGUSを発 現する 形質 転換体(BD022株)が得られた,この株に小型塊茎を形 成させたところ頂芽基部にGUS発現が認められた.腋芽は頂芽優勢により休眠状態に 置かれており,また塊茎頂芽も休眠中であることから,GUS遺伝子が挿入された遺伝 子(NDL遺伝子 と名 付け た) は休眠に関与しているものと思われた.BD022株の腋 芽に見られるGUS発現は,頂芽を切除し頂芽優勢を打破すると消失した.また,頂芽 優勢を引き起こす原因ホルモンであるIAAを与えるとGUS発現が誘導された.これ ら の結 果はBD022株の 腋芽 で観察されたGUS発現は,頂芽より供給されたIAAによ り誘導されたものであることを示唆している.

2.NDL遺伝子の単離およびその発現解析

  BD022株 にお いてGUS遺伝 子の挿 入を 受け た遺伝 子(NDL遺伝子)を単離した.

NDL遺伝子は,全長875bpの塩基配列を持ち最も長いORFは102個のアミノ酸をコー ド し て い る と予 想さ れた,BD022におい てGUSの 挿入 を受 けた 遺伝子 がNDL遺 伝 子であることを確認するために,単離したNDL遺伝子の上流からNDLプロモーター 領域を切り出し,これにGUS遺伝子を繋いでNicotiana benthamianaに導入した.

この形質転換植物体内でNDLプロモーターにより誘導されるGUS発現のパターンは,

BD022のGUS発 現 と 同 様で あ っ た . し た が っ て ,NDLは ,BD022に お い てGUS遺

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伝子が挿入された遺伝子であると結論した.

  NDL遺伝 子か ら予測 され るア ミノ 酸配 列は ,シ ロイ ヌナ ズナ26Sプロテオソームの サ ブユ ニッ トの ーっ であ るRPNlaの 一部 分と 高い 相同 性を 示し た.RPNlaはオーキシ ン のシ グナ ル伝 達に 関わ って いる こと が知 られて いる .NDLの 予想分子量はRPNlaの 約1/9で あ り ,NDLはRPNlaの ホ モ ロ グ ( 相 同 性 遺 伝 子 ) で は な い と 考 え られ た.

  NDL遺伝 子の バレイ ショ 植物 体で の発 現を ノー ザン ブロ ット 法で解析した.NDL遺 伝 子は 腋芽で特に強い発現を示した.また花および塊茎形成期のストロン頂芽基部に お いて も発 現し てい た. 茎切 片にIAAを与えると発現が誘導された.これらの結果は GUS活性測定の結果と一致した.

3. バ レ イ シ ョ ゲ ノ ム か ら のStRPNla遺 伝 子 の 単 離 お よ び そ の 発 現 解 析   NDL遺 伝 子 と シ ロ イ ヌナ ズ ナ のRPNla遺 伝子 は部 分的 にき わめ て類 似し てい た.

そ こで バレ イシ ョゲ ノム から ,新 たにRPNlaのホモログの単離を試みた.その結果,

全 長3327bpで 明 確 なORFを 持 つ &RPNlaが単 離 さ れ た . こ の 遺 伝 子 の 予 想 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 とシ ロイ ヌナ ズナRPNlaのア ミノ 酸配 列は80% の相 同性 を示 した .ノ ー ザ ン ブ ロ ッ ト解 析に よりStRPNla遺 伝子 はバ レイ ショ 植物 体の どの 器官 でも 恒常 的 に発 現し てい るこ とが 認め られ た.NDL遺 伝子 にコ ード され ている102個のアミノ 酸 の う ち57個 はStRPNlaと 共 通 で あ っ た . こ の 結 果 は1VDL遺 伝 子 がStRPNla遺 伝子から派生した遺伝子であることを示唆している・

4.NDL遺 伝 子 およ びStRPNla遺 伝子の 過剰 発現 が形 質転 換植 物の 形態 にお よば す影   響

  NDL遺 伝 子 とStRPNla遺 伝 子 の 機 能 を 検討 す る た め , そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 を 〃 ・ benthamiana葉片に導入して植物体を再生させ,それらの過剰発現が形態に韜よばす影 響 を観 察し た. 恒常 的な 発現 を誘 導する35Sプロモーターにこれらの遺伝子を繋いで 導 入し た場合,正常な再分化は起こらず形質転換体は得られなかった.そこで化学物 質(dexamethasone以 下DEXと 略 ) 発 現 誘 導 プ ロ モ ー タ ー の 下 流 にNDL遺 伝 子 あ る い はStRPNla遺 伝子を 配置 した ベク ターを用いて形質転換体を作成した.得られた形 質 転換 植物 体にDEXを 投与 しこ れら の遺伝子を過剰発現させると,いずれの遺伝子に お いて も植物体の矮化,導管の発達異常,維管束間形成層の発達,皮層細胞の肥大な ど が み ら れ た . こ れ ら の 遺 伝 子 の 働 き が 同 一 方 向 であ っ た 事 実 は ,NDL遺伝 子は SYRPNla遺伝子の働きを抑制するのではなく,|StRPNla遺伝子を補助していることを示 唆 して いる .ま たこ れら の形 態変 化は,IAAの受容やそのシグナル伝達に異常を示す 突 然 変 異 体 に 多く みら れる こと から ,NDL遺伝 子な らぴ にStRPNla遺伝 子はIAAのシ グナル伝達に関与していると考えられる.

  本研 究で得られた結果は,NDL遺伝子は進化の過程で|SYRPNla遺伝子から派生的に 生 じ, 腋芽 基部 や塊 茎頂 芽基 部に おいてIAAにより特異的に発現することにより,恒 常 的 に 発 現 し て い るStRPNla遺 伝 子 を 補 助 し ,オ ーキ シン(IAA)のシ グナ ル伝 達を 局 所的 に増幅することにより塊茎頂芽や腋芽の休眠維持に働いていると考えられる.

本研 究は 植物 の機 能タ ンパ ク質を コー ドす る遺 伝子 の一 部から小型の遺伝子が派生 し,それがもとの遺伝子の制御に関わっている可能性を示したが,そのような例はほ とんど報告されていない.本研究が遺伝子研究の新しい側面を拓くきっかけとなるこ とを 期待 した い. また 常法 で遺伝子の単離を行った場合,本研究で得られたNDL遺伝

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子のような派生遺伝子を単離できる確率は非常に低いものと思われる.現在積極的に 研究が行われているRNA干渉、偽遺伝子あるいはペプチドホルモンなどの研究におい てもジーントラップ法は有効であるものと思われる‐

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

バレイショの芽の休眠に関与する    遺 伝 子 の 分 子 生 物 学 的 研 究

  本 論 文 は7章 か ら な り , 図 33, 表 9を 含 む113頁 の 和 文 論 文 で あ る .   バ レ イ シ ョ 塊 茎 の 貯 蔵 に は 低 温 条 件 が 用 いら れ て いる . しか し 塊 茎は 大 量の 水 分 を 持 っ た め , 休 眠 期 間 が 終 了 す る と 低 温 下で も 萌芽 が 始 まり , 塊 茎の 利 用 価 値 は 失 わ れ て し ま う . し た が っ て 農 業 上 , 塊茎 休 眠の 人 為 的制 御 技 術の 確 立 が 急 務 で あ る が , 塊 茎 休 眠 の メ カ ニ ズ ム は 未 だ明 ら かに さ れ てい な い ,本 研 究 は 遺 伝 子 同 定 法 の ー つ で あ る ジ ー ン ト ラ ッ プ 法を 用 いて 塊 茎 休眠 に 関 与す る 遺 伝 子 の 単 離 を 行 い , こ の 遺 伝 子 の 機 能 に つ い て 解 析 を 行 な っ た .   ジ ー ン ト ラ ッ プ 法 は , ア グ ロ バ ク テ リ ウ ムを 用 い てラ ン ダム に レ ポー タ ー遺 伝 子 (GUS)を 導 入 し ,GUS遺 伝 子 を 発 現 す る 多 数 の 形 質 転 換 体 か ら 特 異 性 を 示 す 個 体 を 選 別 す る こ と か ら 始 ま る . 本 法 をバ レ イシ ョ に 用い た と ころ , 腋 芽 の 基 部 に 特 異 的 にGUSを 発 現 す る 形 質 転 換 体 (BD022株 ) が 得 ら れ た . こ の 株 に 小 型 塊 茎 を 形 成 さ せ た と こ ろ 塊 茎 頂 芽 基 部 にGUS発 現 が 認 め ら れ た . 腋芽 は 頂芽 優 勢 によ り 休眠 状 態 にあ り , また 塊 茎頂 芽 も 休眠 中であ ることか ら,

GUS遺 伝 子 が 挿 入 さ れ た 遺 伝 子 (NDL遺 伝 子 と 名 付 け た ) は 休 眠 に 関 与 し て い る も の と 思 わ れ た .BD022株 の 腋 芽 に 見 ら れ るGUS発 現 は , 頂 芽 を 切 除 し て 頂 芽 優 勢 を 打 破 す る と 消 失 し た . ま た , 頂 芽優 勢 を引 き 起 こす 原 因 ホル モ ン で あ るIAAを 与 え る とGUS発 現 が 誘 導 さ れ た . こ れ ら の 結 果 はBD022株 の 腋 芽 で 観 察 さ れ たGUS発 現 は , 頂 芽 か ら 供 給 さ れ るIAAに よ り 誘 導 さ れ た も ので あ るこ と を 示唆 し てい る .

  次 にNDL遺 伝 子 の 塩 基 配 列 を 決 定 し た . そ の 上 流 か ら プ ロ モ ー タ ー 領 域を 切 り 出 し , 下 流 にGUS遺 伝 子 を 繋 い だ も の をNicotiana benthamianaに 導 入 し 形 質 転 換 体 を 得 た . こ の 植 物 はBD022株 と 同 様 なGUS発 現 を 示 し た ・   NDL遺 伝 子 か ら 予 測 さ れ る ア ミ ノ 酸 配 列 は , シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ26Sプ ロ テ オ ソ ー ム の サ ブ ユ ニ ッ ト の ー つ で あ るRPNlaの 一 部 分 と 高 い 相 同 性 を 示 し た , し か し NDLの 予 想 分 子 量 は RPNlaの 約 1/9で あ り ,NDL遺 伝 子 とRPNla遺 伝

   

田 藤

田 野

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子は相同ではないと考えられた.そこでバレイショゲノムから,RPNla 遺伝 子に相当する遺伝子を単離しStRPNla と名付けた.この塩基配列から予想さ れるアミノ酸配列とシロイヌナズナ RPNla のアミノ酸配列の相同性は約80 % であった.

   バレイショ植物体に韜けるNDL 遺伝子ならぴに StRPNla 遺伝子の発現パタ ーンをノーザンブロット法で解析した.NDL 遺伝子は腋芽で特に強い発現を示 した.また花や塊茎形成初期のストロン頂芽基部においても発現していた.さ らに茎切片に IAA を与えると発現が誘導された.これらの結果はBD022 株に おける GUS 発現の結果と一致した.一方 StRPNla 遺伝子には部位特異的な発 現は見られず,どの器官でも恒常的に発現していた・

  NDL 遺伝子と StRPNla 遺伝子の機能を検討するため,それぞれの遺伝子を ルben tha zuiana 葉片に導入して植物体を再生させ,それらの過剰発現が形態 におよばす影響を観察した.恒常的な発現を誘導する35S プロモーターにこれ らの遺伝子を繋いで導入した場合,正常な再分化は起こらず形質転換体は得ら れなかった.そこで化学物質( dexamethasone 以下 DEX と略)発現誘導プロ モーターの下流に NDL 遺伝子あるいは StRPNla 遺伝子を配置したベクターを 用いて形質転換体を作成した.得られた形質転換植物体にDEX を投与しこれ らの遺伝子を過剰発現させると,いずれの場合も植物体の矮化と頂芽の生長停 止が見られた。これと同様な形態変化は,IAA の受容やそのシグナル伝達に異 常を示す多くの突然変異体において共通に認められている.NDL 遺伝子は、

.9tRPNla 遺伝子などが関与するIAA のシグナル伝達を,腋芽基部や塊茎頂芽 基部において局所的に増幅し、その結果として生長停止を伴う塊茎頂芽や腋芽 の休眠が生ずる可能性が考えられる.

   本研究で得られた結果は,NDL 遺伝子は進化の過程でStRPNla 遺伝子から 派生的に生じたことを示唆している.このように植物の機能タンパク質をコー ドする遺伝子から断片化した遺伝子が,元の遺伝子の制御に関わっている可能 性を示した例はほとんど報告されておらず,本研究の成果は遺伝子研究の新し い側面を拓くきっかけとなるものと期待される・

   よって審査員一同は,小川佳奈が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格

を有するものと認めた.

参照

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