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博士(地球環境科学)大西 敦

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Academic year: 2021

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博士(地球環境科学)大西   敦

    学位 論 文 題名

    Studies on the growth‑blocking peptide     that regulateslnSeCtdeVelopment

( 昆虫 の 発育 を 制 御す る発 育阻害ベ プチド(GBP)に関す る研究)

学 位 論 文 内 容の 要 旨

  発育阻害ペプチド(growth−blocking peptide: GBP)は、カリヤコマユノヾチ(Cotesia kariyai)に寄生されたアワヨトウ(Pseudaletiaseparata)幼虫の血液から単離・精製 されたア ミノ酸25残 基からな る生理活 性ベプチドである。約10 pmol ‑ 20 pmolのGBP を終 齢 初 期幼 虫 に注 射 す ると 、 顕著 な 体 重増加 の抑制及 び2‑5日間の 蛹化遅延が 観 察される 。当初か ら、このGBPこそコマ ユノヾチの 寄生によ る鱗翅目幼虫の発育阻害 現象の主因であろうと予想されていた。

  本 研 究で は 、GBPと宿主昆 虫との発 育阻害現 象の関係 を明確に する為に 、血中GBP 濃度 の 正 確な 定 量を 試 み た。 こ のた め に 、抗GBPモ ノクロー ナル抗体 を作成し、 数 pmolのGBPを 定 量 で き るELISA法 に よ る ア ッ セ イ 系 を確 立 し た。 こ のア ッ セ イ系 を用いて 、カリヤ コマユノ ヾチに寄 生されたア ワヨトウ 幼虫にお ける血中GBP濃度の 変化 を 追 った 。 その 結 果 、未 寄 生幼 虫 で は、終 齢幼虫脱 皮以降急 速に血中GBP濃 度 は減 少 し 、終 齢2日目に は10 pmol/ml以下 まで減少 してしま うのに対 し、寄生 され た幼 虫 で は、 寄 生後10時間 以 内 に未 寄 生コ ン ト □― ル 幼虫 の そ れに 比 ベ約4ー5倍 のレベル にまで上 昇するこ とが明ら かになった 。ただ、 このよう に高まった血中GBP は、その 高濃度を 維持する のではな 〈、徐々に 低下し、4目後に再 び上昇するという 特徴 的 な 濃度 変 化を 示 す こと が 判明 し た 。寄生 に伴って 表れる特 徴的な血中GBP濃 度の 変 化 は、 飼育温度 を25℃から10℃に移す 低温処理 に伴う発 育阻害時 にも観察さ れた 。 従 って 、 血中GBP濃 度上 昇 によ る 幼 虫発育阻 害という 現象は、 寄生バチに よ る寄 生 と いう 特殊な生 理的環境 下でのみ 観察され るもので はな〈、 もっと広範 な環 境ストレ ス状況下 での発育 遅延時に 共通する生理的変化と結論づけることができた。

  上 記 のよ う な、 寄 生 や低 温 処 理に よ る血 中GBP濃度 の調節機 構を明ら かにするた め に 、 ア ワ ヨ ト ウGBPのcDNAを 解 析 し た 。 ク □ − ニ ン グ し たcDNAの 塩 基 配 列 から、GBPは まず前駆 体夕ンパ ク質とし て合成され ることが 明らかになった。また、

こ のGBP cDNAを プ □ − ブ に 用 い て 行 っ た ノ ― ザ ン ブ □ ッ ト 解 析 に よ っ て 、

(2)

GBPmRNA は脳ー神経節及び脂肪体で合成されていることを確認した。さらに、血 中GBP は主に脂肪体から分泌されることも分かった。また、寄生、低温処理するこ とによって、脂肪体内のGBP mRNA の発現量に変化はなかった。そこで、脂肪体内 のGBP 前 駆体の 濃度を定量するために、抗GBP 前駆体ポリク□―ナル抗体を作成 し、脂 肪体 内の GBP 前駆 体濃 度をELISA 法に より 測定した。その結果、血中GBP 濃度変化と同じく特徴的な濃度変化を示し、その挙動はそれそれ一日早〈ずれてい た。以上の結果から、血中GBP 濃度の変化は、GBP mRNA の転写後の段階、もしく はGBP 前駆体合成段階で調節されていると考えられる。

   これまでに、GBP のアミノ酸配列と非常によく類似したぺプチドが、数種類の鱗 翅目昆虫の幼虫から見っかっており、麻痺ペプチド、細胞刺激ペプチドとして報告 されている。このことから、GBP は鱗翅目昆虫に広く存在している多機能性の生理 活性ペプチドであることが推測される。また、GBP のアミノ酸配列は、ヒトの上皮 成長因子(EGF )のドメイン構造と類似していた。これらのことから、GBP は、そ の濃度に依存して細胞増殖活性を持つのではないかと考えた。そこで、ヒト上皮細 胞、及び昆虫由来の培養細胞である町9 細胞を用いて、GBP の細胞増殖活性を測定 した。その結果、GBP はヒト上皮細胞に対しては EGF とほぼ同等の、町9 細胞に対 しては EGF より も高 い細 胞増 殖活性 を示 した 。また、GBP の EGF レセプターに対 する親和性を検討するために、1251 で標識した EGF を用い、ヒト上皮細胞、尠9 細胞 に対してコンペティティブノヾインディングアッセイを行った。その結果、GBP は、

ヒト上皮細胞に対してEGF ほどの強い親和性を示さなかったが、髟9 細胞に対して は、EGF とほぼ同等の低い親和性を示した。これらのことから、GBP は昆虫体内に 存在するサイトカイン様ペプチドだと考えられる。

   抗 GBP モノク □− ナル 抗体 を用い て、 卵内 のGBP 濃度を測定した結果、 GBP は アワヨトウの卵内にも存在し、その濃度は産卵後3 日目まで上昇を続け、孵化直前 の4 日目には若干の減少がみられた。細胞増殖活性をもつGBP は、卵の発生過程に おいても重要な役割をはたしている可能性がある。

   最初、GBP は、カリヤコマユバチに寄生されたアワヨトウ幼虫の体液中から、幼 虫の発育を阻害する活性を持ったぺプチドとして発見された。しかし本研究により、

GBP は未寄生幼虫にも存在しており、寄生だけでなく、より広範なストレスによっ てもその濃度が上昇することから、このぺプチドはストレス応答システムの初期に 活発に合成されて、幼虫の発育を抑制的に調節していることが明らかになった。ス トレスを受けると、血中のGBP は脂肪体内でまず前駆体夕ンパク質として合成され、

プ□テア―ゼによって切断を受けることにより、血中に分泌される。その調節は、

mRNA の 転写 の段 階で はな〈 、mRNA の 転写後 の段 階、もし〈はGBP 前駆体合成段

(3)

階で調節されることが分かった。さらに、GBP は当初の幼虫の発育を阻害する機能 だけでなく、濃度に依存して細胞の増殖を促進する活性も持っていることを示した。

これまでに数種類の鱗翅目昆虫から、GBP 様ペプチドが単離されており、その機能

も多様であることから、このぺプチドは、鱗翅目昆虫において広〈存在する多機能

性のサイトカインである可能性が高い。

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授

芦 田 正 明 高 木 信 夫 瀧 谷 重 治 早 川 洋 一

    学 位 論 文 題 名

    Studies on the growth‑blocking peptide     that regulateslnSeCtdeVelopment

( 昆 虫 の 発 育 を 制 御 す る 発 育 阻 害 ベ プ チ ド (GBP) に 関 す る 研 究 )

  内 部 寄 生 バ チ ・ カ リ ヤ コ マ ユ バ チ に よ っ て 寄 生 さ れ た 宿 主 ア ワ ヨ ト ウ 幼 虫 は 、 幼 虫 か ら 蛹 へ の 変 態 が 阻 害 さ れ る 。  こ の 寄 生 バ チ の 寄 生 に よ っ て 発 育 阻 害 を 受 け た 宿 主 ア ワ ヨ ト ウ 幼 虫 血 液 か ら 単 離 ・ 精 製 さ れ た 生 理 活 性 物 質 が 、 ア ミ ノ 酸25残 基 か ら な る 発 育 阻 害 ベ プ チ ド(Growth‑blocHngpeptide,GBP) で あ る 。  数10pmolの 精 製GBP を 未 寄 生 の 健 康 な ア ワ ヨ ト ウ 終 齢 初 期 幼 虫 に 注 射 す る と 、 体 重 の 増 加 は 鈍 り 、 蛹 へ の 変 態 も 数 日 間 遅 れ る 。 そ の 後 の 研 究 で 、GBPは 未 寄 生 ア ワ ヨ ト ウ 幼 虫 に も 存 在 し 、 特 に 、 終 齢 以 前 の 若 齢 期 幼 虫 血 液 中 に は 比 較 的 高 濃 度 存 在 し て い る ら し い こ と が 明 ら か に ぬ っ た 。  こ れ ら の 実 験 事 実 に 基 づ き 、 申 請 者 ら は 、GBPが 昆 虫 の 発 育 を 調 節 す る 一 種 の ホ ル モ ン 様 ペ プ チ ド で は な い か と い う 作 業 仮 説 を 立 て た 。 本 研 究 は 、 こ の 作 業 仮 説 を 実 証 す べ く 、GBPの 昆 虫 体 内 に お け る 正 確 な 濃 度 変 動 の 把 握 、GBP田NA の 分 析 、 さ ら に 、GBPの 生 理 作 用 の 解 析 を お こ な っ た 。

  第1章 で は 、 化 学 合 成GBPを 用 い て 抗GBPモ ノ ク 口 ー ナ ル 抗 体 を 調 製 し 、 こ れ を 用 い て 先 ず 未 寄 生 ア ワ ヨ ト ウ5齢 、6齢 ( 終 齢 ) 幼 虫 血 液 中GBP濃 度 の 定 量 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、5齢 脱 皮 日 皿5DO) が 約40pmol/mlと 最 も 高 いGBP濃 度 で あ り 、 そ の 後 、 終 齢 脱 皮 前 後 に 一 度 上 昇 す る も の の 幼 虫 発 育 を 通 し て 徐 々 に 減 少 し て 行 く こ と が 明 ら か に な っ た 。  一 方 、 終 齢 脱 皮 日 皿6D0) に 寄 生 さ れ た 幼 虫 血 中GBP濃 度 は 、 寄 生 後 一 日 以 内 に 未 寄 生 幼 虫 に 比 ベ 約4倍 の レ ベ ル に ま で 上 昇 す る こ と が 分 か っ た 。 そ の 後 、 そ の 高GBPレ ベ ル は 、 一 度 減 少 し 、 再 び 上 昇 し て 寄 生 後6日 目 に ピ ー ク に 達 し た 。  こ れ ら の 血 中GBP濃 度 の 正 確 な 定 量 に よ っ て 、 血 中GBPが 昆 虫 幼 虫 発 育 を 調 節 す る 重 要 な フ ァ ク タ ー で あ る と い う 上 記 の 作 業 仮 説 を 間 接 的 な が ら も 証 明 す る こ と が で き た 。

  第2章 で は 、GBPcDNAの 解 析 を 行 っ た 。  先 ず 、 寄 生 さ れ た 宿 主 ア ワ ヨ ト ウ 幼 虫

(5)

か ら

mRNA

を 単 離 し 、 そ の

cDNA

を 合 成 し た 。

  

次 に 、 こ れ を 鋳 型 に

PCR

を 行 っ て 得 ら れ た

GBPcDNA

断 片 を ブ 口 ー ブ に 用 い て

GBPcDNA

の 単 離 に 成 功 し た 。 単 離 し た

GBPcDNA

の 塩 基 配 列解 析 の 結 果、

GBP

は 、pre‑pro‑peptide とし て合 成さ れる こと を 明ら かに した 。   さら に、 この

cDNA

をプ口 ーブ に用 いて 行っ たノ ーザ ンブ 口ット 解 析に よっ て、

GBP

が 主に 脳一 神経 節と 脂肪 体の

2

つの 組織 で合 成さ れる こと が分か っ た 。

  

興 味 深 い こ と に 、 両組 織の

GBPmRNA

サ イズ は、 前者 が約

2

1kb

、 後者 が約

900b

と 明ら かに 異な って おり 、組 織特 異的転 写調 節様 式を とっ てい るこ とが 分かっ た 。

  

ま た 、 寄 生 後 時 間 を 追っ て調 製し た脂 肪体

RNA

を 用い ノー ザン ブ口 ット 解析 を 行 っ た 結 果 、

GBPmRNA

濃 度 は 寄 生 に よ っ て 変化 し な い こ と が 明 ら か に な っ た 。 し た が っ て 、 寄 生 に 伴 っ て 観 察 さ れ る 血 中

GBP

濃 度 の 増 加 は、

GBP

遺 伝子 発現 にお け る転 写後 レベ ルで の活性化によるものであろうことが予想できた。   事実、寄生に よ って 脂肪 体GBP 前駆 体夕 ンノ ヽク 質濃 度は 上昇 しており、寄生によって少なくとも 翻訳レベルでの活性化が誘起されることが証明できた。

  

3

章 で は 、 ア ワ ヨ ト ウ の 他 に も う

2

種 類 鱗 翅 目 昆 虫 の

GBPcDNA

の 構 造 解 析 を 行 っ て そ の 類 似 性 を 比 較 し た 。そ の結 果、

GBP

を コー ドす る領 域で は約

80

% 以上 の類 似性があること、さらに、そのドメイン構造がやや哺乳類の上皮成長因子(epidermal

growthfactor

,EGF )の一部に似ていることが明らかになった。   ヒトケラチノサイト細 胞 及 び 昆 虫

sF9

細 胞 を 用 い て そ の 成 長 速 度 に 対す る

GBP

の 影 響 を 調 べ た 結 果、

GBP

は 、明 らか にE く 彈様 細胞 成長 因子 活性 を示 すこ とを確認することができた。したが っ て 、

GBP

は 、 昆 虫 で 始 め て 発 見 さ れ た 細 胞 成 長 ベ プ チ ド と 言 え る 。

  

以上 の結 果は 、GBP の昆 虫発 育調 節ホ ルモ ン様 作用、及び、細胞成長因子活性を実 験 的 に 証 明 し た も の で あ り 、 昆 虫 生 理 学 に お け る重 要 な 業 績と 位置 付け られ る。

  

審査 員一 同は 、こ れらの成果を高く評価し、また申請者は研究者として誠実かつ熱

心 であ ると 考え 、大 学院課程における研鑽や単位取得なども併せ申請者が博士(地球

環 境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。

参照

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