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博 士 ( 農 学 ) 藤 井 清 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 藤 井 清 一

学 位 論 文 題 名

植 物 生 理 活 性 物 質 ブ ラ シ ノ ラ イ ド に よ る イ ネ の 生 長 制 御 に 関 す る 作 物 生 理 学 的 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  ブ ラ シ ノ ラ イ ド(BR)は ,1979年 にU.S.D.A. の ミ ッ チ ェ ル らに よっ てセ イヨ ウア ブラ ナ か ら 単 離 さ れ , 精 製 ・ 構 造 決 定 さ れ た ス テ ロ イ ド 骨 格 を も つ 天 然 植 物 生 理 活 性 物 質 で あ る .BRは 他 の5っ の 植 物 ホ ル モ ン と は 異 な る 特 異 な 生 理 作 用 を 有 し , イ ネ に お い て は , そ の 処 理 に よ っ て ス ト レ ス 回 避 や 増 収 が 期 待 さ れ る 物 質 で あ る . 本 研 究 は , イ ネ の 発 芽 か ら 登 熟 ま で の 生 活 環 に お け るBRの 生 長 調 節 作 用 を 作 物 生 理 学 的 に 追 求 し , 合 わ せ て 農 業 上 の 利 用 の 可 能 性 に つ い て 検 討 し た も の で あ る .

1. ラ ミ ナ ジ ョ イ ン ト テ ス ト に お け る ブ ラ シ ノ ラ イ ド の 活 性

  BRは , イ ネ 幼 苗 の ラ ミ ナ ジ ョ イ ン ト に よ る オ ― キ シ ン 活 性 物 質の ノく イオ アッ セイ 系( オ

― キ シ ン 依 存 の イ ネ 細 胞 伸 長 促 進 作 用 の 検 定 ) に お い て , イ ン ド ー ル 酢 酸(IAA)の10,000 倍 以 上 の 活 性 を 示 し た . 低 温 ス ト レ ス 条 件 で は ,IAAは 検 定 温 度 ( 通 常 の 試 験 で は30℃ ) の 低 下 に と も な っ て 活 性 が 著 し く 低 下 し15℃ で は 全 く 活 性 を 示 さ を い の に 対 し て ,BRは 検 定 温 度 が 低 下 し て も 顕 著 な 活 性 を 維 持 し ,IAAに は 認 め ら れ な い 特 異 な 生 理 作 用 を 発 現 す る こ と が 明 ら か に な っ た . ブ ラ シ ノ ス テ ロ イ ド(BRS)の 中 で は ,BRの 活 性 が も つ と も 高 く ,IAAと 同 程 度 に し か 活 性 を 示 さ な い も の も あ り , 構 造 と 活 性 の 間 の 相 関 が 示 唆 さ れ た .

2. ブ ラ シ ノ ラ イ ド に よ る イ ネ の 登 熟 促 進 作 用

  登 熟 促 進 に よ る 収 量 増 を 目 的 に し て , イ ネ の 生 活 環 に お け るBRの 処 理 時 期 を 調 べ た と こ ろ , 最 高 分 げ つ 期 処 理 の 場 合 で は 穎 花 数 が 増 加 し , 穎 花 分 化 期 ・ 減 数 分 裂 期 ・ 出 穂 期 の 各 時 期 の 場 合 で は , 何 れ も 出 穂 開 花 後 の 粒 重 増 加 速 度 が 早 ま り , 登 熟 歩 合 の 向 上 が 認 め ら れ た .BRは 一 桁 違 う2種 類 の 濃 度 間 で 登 熟 促 進 作 用 に 大 差 は な い が , 減 数 分 裂 期 と 出 穂 期 の2回 処 理 で 効 果 が 高 か っ た . こ う し た 効 果 の 違 い は ,BRの 植 物 体 へ の 難 浸 透 性 と 関 わ っ て い る も の と 考 え ら れ た ,

  BR処 理 に よ る イ ネ の 粒 重 お よ び 登 熟 歩 合 へ の 影 響 を み る と , ガ ラ ス 室 条 件 で は ,BR無 処 理 区 ( 対 照 区 ) よ り も 粒 重 ・ 登 熟 歩 合 を 向 上 さ せ た . 低 温 ス ト レ ス 条 件 下 で の 登 熟 歩 合 は ガ ラ ス 室 条 件 下 の75% 以 下 に 減 少 し た が ,BR処 理 は 登 熟 後 期 に お い て そ の 減 少 を 軽 減 し た . 軽 減 の 程 度 は 低 温 条 件 下 で 顕 著 で あ っ た . こ の よ う に ,BRは , ガ ラ ス 室 と い う 限 定 さ れ た 条 件 下 で は あ る が , 明 ら か に 登 熟 を 促 進 し , 特 に 低 温 ス ト レ ス 条 件 下 に お い て そ の 効 果 が 高 い こ と が 明 ら か に な っ た .

3. イ ネ の 登 熟 促 進 に 対 す る ブ ラ シ ノ ラ イ ド の 作 用 機 構

(2)

   (1 )同化産物の転流に及ばす影響

   出穂期のl4C̲ トレーサー実験において,出穂期に光合成作用で取り込まれた14C は葉か ら糖類の一時貯蔵器官である葉鞘および稈を経て穂に移行していくが,BR 処理は同化産 物の葉鞘,稈での貯留を抑え,速やかに穂への転流を促進することが判明した.さらに.

穂ばらみ期,開花期および乳熟期の3 生育時期に別々に行った14C̲ トレーサー実験におけ る,対照区の器官別14C の分布をみると,穂ばらみ期では,固定されたI4C は葉鞘および稈 に長期間留まり穂へは徐々に移行するが,開花期以降には,葉鞘および稈での一時貯留 期間が短くなり,乳熟期では取り込み1 日後に既に穂への'4C 移行が90 %にもなった.出穂 後の日数がたっにっれて葉から穂への14C の移行は一層速やかになった.こうした条件の なかで,BR 処理は穂ばらみ期の14C̲ トレーサー実験において穂への移行に差はなかった が,開花期以降の14C̲ トレーサー実験ではBR は同化産物の穂への転流を促進した.すな わち,BR は出穂開花期以降の同化産物の穂への転流を促進することで登熟を促進するこ とが明らかになった.

(2) 炭水化物の分配に及ばす影響

   登熟期のイネの器官における炭水化物の分布を,まず対照区におけるガラス室条件と 低温ストレス条件の場合で比較すると,器官全体に含まれるデンプン量は,低温ストレ ス条件下ではガラス室条件下に比べて顕著に減少するが,スクロース量は逆に著しく増 加した.このときのデンプン量の減少は,葉鞘,稈あるいは葉身では著しく高揚する一 方で玄米での集積量が激減するためであり,スクロ―スの全体量の高揚は,玄米での減 少するものの葉身,葉鞘,稈で激増するためであった.こうしたガラス室および低温ス トレス条件下で生育する登熟期のイネの場合に,BR 処理は,両条件下において対照区よ りも葉鞘および稈のデンプン量を減少させ,玄米中のデンプンおよびスクロース量を増 大させた.BR はガラス室条件下のみならず低温ス卜レス条件下においても,葉鞘および 稈での炭水化物の蓄積を抑え,玄米(子実)へのスクロースおよびデンプン蓄積を促進 し,登熟を増強するものと考えられた.

(3) 穂の内生ホルモン含量の変化

   穂のシンク能については,出穂後に増加する内生ホルモンのなかのオーキシン(IAA) , アブシジン酸(ABA) およびエチレンを定量し,BR 処理の影響を検討した.穂の内生ホ ルモンIAA ,ABA およびエチレンは,出穂開花期を境に著しく高揚するが,BR は登熟初 期のIAA 含量およびエチレン生成量を増加させる傾向があり,逆に ABA 含量を低下させる 傾向を示した.BR は,これらホルモンの内生レベルを変動させてシンク能を向上させて いる可能性が推察された.

4 .圃場実験におけるブラシノライドの登熟促進作用

   このような作用をもつBR の圃場試験の結果では,イネの穂の特定穎花をみると弱勢穎 花における粒重増加および登熟歩合が向上したが,穂全体でみると登熟歩合がわずかに 向上したのみであった.しかしながら,遅延型冷害を想定した晩植による出穂期の遅れ を作り出し,登熟期の積算温度が足りない条件において,BR は粒重を増加させ,登熟歩 合を向上させ,明らかな登熟促進作用を示した.

   以上,本研究においては,BR と,イネ苗作りと関係の深い発芽・初期生育および子実

の収量と直接的に結びっく生殖生長期の生長調節作用を解析し,特に低温ストレスとの

関わりに視点を置いて調査研究した.その結果,BR は,イネの生活環に亘って生長促進

(3)

作用を示し,特に低温という異常温度下でその能カを発揮する事が判明した.なかでも BR の登熟促進作用は同化産物の穂への転流を促進することに帰因し,低温下でもBR の効 果が発現することを明らかにした.

  BR の植物成長調節剤としての農業生産上の実用化には,生長制御に関する新しい現象

の発見とそのメカニズムの解明や制御のための処理法の開発・修正など今後とも一層の

基礎的先導的研究や技術開発が必要であるが,本研究は,その基礎資料として役に立っ

ものと考えている.

(4)

学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査   教授   喜久田嘉郎 副査   教授   岩間和人 副査   教授   大澤勝次 副査   教授   坂   齊

     (東京大学大学院農学生命科学研究科)

     学 位 論 文 題 名

植 物 生 理 活 性 物 質 ブ ラ シノ ラ イ ド によ る イ ネ の 生 長 制 御 に 関 す る作 物 生 理 学的 研 究

本論 文は 、総 頁数158頁 からなる邦文で表18、図33、を含み8章から構成されている。

別に6編 の参 考論 文が 添え ら れて いる 。

ブラシノライド(BR)は、1979年にグローブらによってセイヨウアブラナから単離され、精 製・構造決定されたステロイド骨格をもつ天然植物生理 活性物質である。BRは他の植物 ホルモンとは異なる特異な生理作用を有し、イネにおいては、その処理によってストレス回 避による増収が期待される物質である。本研究は、イネの発芽から登熟までの生活環にお けるBRの 生長 調節 作用 を作 物生 理学 的に 研究し、 合わせて農業上の利用の可能性につ いて検討したものである。次にその成果を列挙する。

1.ラミナジョイントテストにおけるブラシノライドの活性

  BRは、イネ幼苗のラミナジョイントによるオ―キシン活性バイオアッセイ系(オーキシン依 存のイネ細胞伸長促進作用の検定)において、インド― ル酢酸(IAA)の10、000倍以上の 活性を示した。低温ストレス条件では、IAAは検定温度(通常の試験では30℃)の低下にと もなって活性が著しく低下し15℃では全く活性を示さないのに対して、BRは検定温度が低 下し ても 顕著 な活性を 維持し、IAAには認められな い特異な生理作用を発現することを 明らかにした。

2.ブラシノライドによるイネの登熟促進作用

  イネの生活環におけるBRの処理適期を調べたところ、 最高分げつ期処理の場合では穎 花数が増加し、穎花分化期・減数分裂期・出穂期では、 何れも出穂開花後の粒重増加速 度が 早ま り、 登熟歩合 の向上が認められた。BRは、減数分裂期と出穂期の2回処理で効 果が高かった。こうした効果の違いは、BRの植物体への難浸透性と関わっているものと考 えられた。

BR処理によるイネの粒重および登熟歩合への影響をみる と、ガラス室条件では、対照区 よりも粒重・登熟歩合を向上させた。低温ストレス条件下での登熟歩合は対照の75%以下

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(5)

に 減少 し た が、BR処 理は登熟 後期に おいてそ の減少を 軽減し た。軽減 の程度 は低温条 件下で顕著であった。このように、BRは、明らかに登熟を促進し、特に低温ストレス条件下 においてその効果が高いことが明らかになった。

3. イ ネ の 登 熟促 進 に 対す る 同 化産 物 の 転流 と 分 配 に及 ば す ブラ シ ノ ライ ト の 影響   出穂期 の14C―トレー サー実 験におい て、出穂期に光合成作用で取り込まれた14Cは葉 から糖 類の一 時貯蔵器 官であ る葉鞘お よぴ稈を経て穂に移行していくが、BR処理は同化 産 物の 葉 鞘 、稈 で の 貯留 を 抑 え 、速 や か に穂 へ の 転流 を 促 進す る ことが 判明した 。 登 熟期 の イ ネの器 官におけ る炭水化 物の分 布を、ま ず対照 区におけ るガラ ス室条件 と 低温ストレス条件の場合で比較すると、器官全体に含まれるデンプン量は、低温ストレス 条件下では対照に比べて顕著に減少するが、スクロ―ス量は逆に著しく増加した。デンプ ン量の 減少は 、葉鞘、 稈ある いは葉身 では著しく高揚する一方で玄米での集積量が激減 するためであり、スクロースの全体量の高揚は、玄米では減少するものの葉身、葉鞘、稈 で激増するためであった。BR処理は、対照区よりも葉鞘および稈のデンプン量を減少させ、

玄米中のデンプン量を増大させた。

4.穂の内生ホルモン含量の変化

出 穂後 に 増 加する 内生ホル モンのう ちオー キシン(IAA)、ア ブシジン 酸(ABA)およびエ チレンを定量した。穂の内生ホルモン含量は、出穂開花期を境に著しく高揚するが、BRは 登 熟初 期 のIAA含 量および エチレン 生成量 を増加さ せる傾 向があり 、逆にABA含量 を低 下させる傾向を示した。BRは、これらホルモンの内生レベルを変動させてシンク能を向上 させている可能性が推察された。

5.圃場実験におけるブラシノライドの登熟促進作用

イネの 穂の特 定穎花を みると 弱勢穎花 における粒重増加および登熟歩合が向上したが、

穂全体 でみる と登熟歩 合がわ ずかに向 上したのみであった。遅延型冷害を想定した晩植 による 出穂期 の遅れは 、登熟 期の積算 温度が足りない条件において、BRは粒重を増加さ せ、登熟歩合を向上させ、明らかな登熟促進作用を示した。

以上、本研究においては、BRと、低温ストレスとの関わりに視点を置いて調査研究してい る。その結果、BRは、イネの生活環に亘って生長促進作用を示し、低温でもその能カを発 揮 する 事 が 判明し た。なか でもBRの 登熟促進 作用は同 化産物 の穂への 転流を 促進する ことに帰因し、低温下で効果が発現することを明らかにした。

BRの 植 物 成長 調 節 剤と し て の 農業 生 産 上の 実 用 化に は 、 生長 制 御に 関する 新しい現 象の発 見とそ のメカニ ズムの 解明や制 御のための処理法の開発・修正など今後とも一層 の基礎 的先導 的研究や 技術開 発が必要 であるが、本研究は、その基礎資料として役に立 っものと考えられる。

  よって 審査員 一同は、 藤井清 一が博士 (農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。

参照

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