博 士 ( 獣 医 学 ) 山 本 恵 司
学 位 論 文 題 名
ウ マ ( サ ラ ブ レ ッ ド 種 ) に お け る出 生 前 後 の 心 調 律 お よ び 出 生 直 後 の 新 生 子 不 整 脈 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ウマ胎子・新生子にとって出生前後は酵素供給様式をはじめ,生理的な状況が著しく変化する 時期であるにもかかわらず,その間の心拍数変動などに関しての知見は非常に乏しい。さらに近 年,出生直後のウマ(サラブレッド種)新生子において,種々の一過性不整脈が出現することが 知られるようになった。しかしながらその発生状況,発生要因ならびに出生前の状況との関連は 依然明らかでなく,その臨床的意義を合め,解明される必要があると思われる。そこで分娩直前 のサラブレッド種単胎妊娠馬101例および双胎妊娠馬1例中,70例から胎子心電図を,また102例 の新生子から出生直後の新生子心電図を記録し,出生前後における心調律の変化を観察した。
まず,出生直前および直後のウマ新生子における不整脈の発現状況をみると,出生前には不整 脈はほとんど検出されなかったが,出生時には新生子102例中31例がすでに異所性調律であり,
そ の主 体は心房細動(AF)であった。また他の71例 は出生時に洞調律(SR)であっ たが,そ の後殆 どの例において洞性不整脈(SA),ワンダリングペースメ―力一(WP),期外収縮ある いは房 室ブロック(AVB)が不規則かつ重複して出現し,さらに少数例では期外収縮に続いて 心房性 頻拍(AT),AFあるいは心室 性頻拍(VT)を認めた。しか しながら,死亡例1例を除 き ,こ れ ら不 整脈 は自 然に 消 失あるいtま SRに復 帰し,以後その再発を認めな かった。
また死亡例を除く101例にっいて不整脈発生率を調査したところ,98例(97.O%)において種々 の一過性不整脈の発現を認めた。その中で最も多くの例で認められた不整脈は心房性期外収縮 (67.3%)であった。次いでSAあるいはWP(63.4%),AF (28.7%),心室性期外収縮(17.8
%),AVB(14.9%),VT (5.9%),AT (4.0%)およびQRS群を伴わない心房波の連続(4.O
%)であった。以上の不整脈の持続時間は出生後5―10分程度であったが,AF例の中には生後 2時間以上も持続した例があった。
次に,出生前後のウマ胎子・新生子における心拍数変動を調査した。その結果,70例の胎子心 拍数の平均値は,出生前50分から出生直前1一2分まで徐々に減少し,約58拍/分に至った。ま
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た一次破水が確認できた46例のうち39例は分娩第1期後半から出生直前にかけて心拍数が減少し ており,これはウマ胎子における一般的な心拍数変動パターンであると考えられた。一方,46例 中7例および一次破水が確認できなかった24例中2例でfま,一次破水前後の心拍教の漸増あるい は出生直前の一過性頻拍を認めた。また終始SRであった60例における出生時の新生子心拍数の 平均値は77拍/分であり,出生直前に比べ,約19拍/分の増加がみられた。新生子心拍数は出生 後1―2分まで再び滅少し,65拍/分に至ったが,呼吸の確立および自発運動により漸増する傾 向にあった。一方,出生後にAFを認めた例では,その心室拍動数は漸増する傾向にあったが,
50一200拍/分の範囲で一 定せず,細動リズムは除細動に向けて減少する傾向がみられた。
また異常分娩であった4例において,出生直前に胎子心拍数の増加を認め,出生後に比較的重 度の不整脈を検出したが,その関連性にっいては明らかではない。
以上のウマ新生子における出生直後の不整脈および出生前後の心拍数変動にtま,出生時の胎子
・新生子における低酸素状態が深く関わっている可能性があり,これらの関連性にっいて検討す る目的で,出生直後の臍動脈血(63例),臍静脈血(59例)および頸静脈血(80例)を,それぞ れ出生後20秒以内,30秒以内ならびに新生子の出生時管理後に採取し,血液pH,炭酸ガス分圧 ならびに酸素分圧を測定した。
その結果,出生直後の臍動脈血pHは7. 311土O.046(平均値土標準偏差),炭酸ガス分圧は62.
1土6.9mmHg,および酸素分圧は27.0土5.ImmHgであり,出生直後のウマ新生子が低酸素,高 炭酸血症ならびにアシドーシスに陥っていることが示唆され,新生子不整脈の発現に深く関与し ているものと考えられた。
次に出生直後の不整脈の種類および程度と低酸素状態とを比較するため,不整脈の種類から新 生子を4群に分類した(1群:異所性刺激生成を認めず,2群: AFを除く心房性異所性柬l亅激生 成異常,3群:AF,4群: 心室性異所性刺激生成異常)。また2群にっいては,心房性期外収 縮の頻度および持続時間 からさらに軽度(2−A群)と重度(2―B群)に分け,これら5群の 血液pHならびに血液ガス分圧を比較した。新生子の低酸素状態を最も反映すると考えられる,
出生直後の新生子臍動脈血酸素分圧倣,それぞれ1群が22.5土3.2mmHg(平均値土標準偏差),
2―A群が27.4土3.6mmHg,2―B群が25.1土5.OmmHg,3群が29.3土6.OmmHgならびに4群 が26.8土4,7mmHgであり,各群の間に有意な差は認められなかった。また不整脈の程度により 軽度および重度に分けた2群にっいても,有意な差はみられなかったが,軽度群では重度群より も臍動脈血酸素分圧は高い傾向にあった。
以上の成績をまとめると,ウマ(サラブレッド種)において出生直前に不整脈は殆どみられな
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かっ た。出 生直後 には 様々な 不整脈 が高率 に発現 し, それら は自然 に消失し,以後再発を認めな い も ので あ っ た 。 また 心拍数 は分娩 第1期後半 から出 生直 後にか けて徐 々に滅 少し ,出生 後約1
‑9分か ら 増 加 す る傾 向に あった 。こ の様な 不整脈 の発現 に,出 生直 後の新 生子の 低酸素 が関 与 して いる可 能性が 示唆 された 。
学位論文審査の要旨 主査 教授 戸尾祺明彦 副 査 教 授 金 川 弘 司 副 査 教 授 藤 永 徹 副査 助教授 原田悦守
ウマ胎 子・新 生子に とって 出生 前後は 酸素供 給様式 をは じめ, 生理的 な状況が著しく変化する 時 期であ るに もかか わらず ,その 間の 心拍数 変動な どに関 しての 知見 は非常 に乏しい。近年出生 直 後のサ ラブ レット 種新生 子に一 過性 不整脈 が出現 するこ とが知 られ るよう になったが,その発 生 状況, 発生 要因な らびに 出生前 の状 況との 関連は 不明な 点が多 い。 そこで 申請者はウマ(サラ ブ レッド 種) 胎子・ 新生子 の心電 図学 的観察 および 血液ガ ス分析 を行 い,新 生子不整脈の発現様 相 を 検 討 し た。 本 論 文 は その成 績を述 べた もので ,和文144頁 から成 り, 参考論 文4編を付 して い る。
まず, 出生直 前およ び直後 のウ マ新生 子にお ける不 整脈 の発現 状況を みると,出生前には不整 脈 はほと んど 検出さ れなか ったが ,出 生時に は新生 子102例中31例がすでに異所性調律であった。
ま た他の71例は 出生時 に洞調 律で あった が,そ の後殆 どの 例にお いて様 々な種類の不整脈が,不 規 則かっ 重複 して出 現した 。これ ら不 整脈は 自然に 消失あ るいは 洞調 律に復 帰し,以後その再発 を 認 め な か った 。 ま た 不 整脈の 発生率 を調 査した ところ ,新生 子101例中98例(97.0%) におい て ,なん らか の不整 脈を認 めてお り, その中 で心房 性期外収縮(67.3%)が最も高頻度にみられ,
次 いで洞 性不 整脈あ るいは ワンダ リングペ―スメーカ‑ (63.4%),心房細動(28.7%),心室性 期 外収縮 (17.8% ), 房室ブ ロック (14.9% ),心 室性頻 拍(5.9% ),心 房性頻拍(4.O%)およ びQRS群 を 伴わ な い 心 房 波の 連 続(4.O% ) の 順 であ っ た 。 以 上の 不 整 脈 の 持続 時 間 は 出 生後 5―10分 程度 であっ た。
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次 に,出 生前後 のウマ 胎子・ 新生 子にお ける心 拍数変 動を 調査し た。そ の結果,70例の胎子心 拍 教 の 平均 値 は , 出 生前50分か ら出生 直前1−2分ま で徐々 に減少 し, 約58拍/ 分に至 った 。ま た 一次破 水が確 認で きた46例 のうち39例は 分娩第1期 後半か ら出生 直前 にかけ て心拍 数が減 少し てお り,こ れは ウマ胎 子にお ける一 般的 な心拍 変動パ 夕一ン である と考 えられた。また終始洞調 律で あった60例に おける 出生時 の新 生子心 拍数の 平均値 は77拍 /分で あり,出生直前に比べ,約 19拍/ 分 の 増 加 が みら れ た。新 生子心 拍数は 出生 後1―2分 まで再 び減 少し,65拍/分 に至 った が, 呼吸の 確立 および 自発運 動によ り漸 増する 傾向に あった 。一方 ,心 房細動を認めた例では,
そ の心室 拍動数 は漸 増する 傾向に あった が,50―200拍/分 の範囲 で一 定せず ,細動 リズム は除 細動 に向け て減 少する 傾向が みられ た。
以 上のウ マ新生 子にお ける出 生直 後の不 整脈お よび出 生前 後の心 拍数変 動には,出生時の胎子
・ 新生子 におけ る低 酸素状 態の関 与が考 えられ たの で,出 生直後 の臍動 脈血(63例 ),臍 静脈血 (59例) および 頚静脈 血(80例)を ,それ ぞれ 出生後20秒以内 ,30秒 以内な らびに 新生 子の出 生 時 管 理 後 に 採 取 し , 血 液 pH, 炭 酸 ガ ス 分 圧 な ら び に 酸 素 分 圧 を 測 定 し た 。 そ の結果 ,出生 直後の 臍動脈 血pHは7.311土O.046(平均値土標準偏差),炭酸ガス分圧は62.1 土6. 9mmHg,お よび酸 素分圧 は27.O土5.ImmHgで あり ,出生 直後の ウマ新 生子 が低酸 素,高 炭 酸血 症なら びに アシド ーシス に陥っ てい ること が示唆 され, これら が新 生子不整脈の発現に深く 関与 してい るも のと考 えられ た。
次 に出生 直後の 不整脈 の種類 およ び程度 と低酸 素状態 との 関連性 をみる ため,不整脈の種類か ら 新 生 子を4群 に 分 類し た(1群 :異 所 性 刺 激 生成 を 認 め な かっ た も の,2群 :心房 細動を 除く 心 房 性 異所 性 刺 激 生 成異 常 ,3群 :心 房 細 動 ,4群: 心室性 異所性 刺激 生成異 常)。 また2群に っ い て は, 心 房 性 期 外収 縮 の 頻 度 およ び 持 続 時 間 から さ ら に 軽 度(2―A群)と 重度(2−B群)
に 分 け ,こ れ ら5群 の血 液pHな らび に 血 液 ガ ス分 圧を比 較した 。その 結果, 新生 子の低 酸素状 態を よく反 映す ると考 えられ る出生 直後 の新生 子臍動 脈血酸 素分圧 にっ いて,各群の間に有意な 差 を認め なかっ た。 また不 整脈の 程度に より軽 度お よび重 度に分 けた2群に っいて も, 有意な 差 は み ら れ な か っ た が , 軽 度 群 で は 重 度 群 よ り も 臍 動 脈 血 酸 素 分 圧 は 高い 傾 向 に あ っ た。
以 上の成 績によ って, 申請者 は出 生後の ウマ新 生子に 高率 に種々 の不整 脈が発現することを明 らか にし, それ らは一 過性で あり, その 発現に は新生 子の低 酸素状 態が 深く関わっていることを 見出 し,ウ マ新 生子に おける 心調律 異常 の解明 に貴重 な知見 を提出 した 。よって審査員一同は山 本 恵 司 氏 が 博 士 ( 獣 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
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