博 士 ( 理 学 ) 佐 藤 俊 平
学位論文題名
Genetic diversity of chum salmon inferred from the sequence variation of mitochondrial DNA and neurohypophysial hormone genes
(ミトコンドリア DNA および神経葉ホルモン遺伝子の 塩 基変 異 か ら 推測 し た シ ロザ ケ の 遺 伝的 多 様性 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
シロザケは北太平洋とその隣接海域に広く分布しており,成熟すると繁殖のために母川回帰する.
そのため,それぞれの河川で遺伝的に分化した地域集団(系統群)が生じており,大きな遺伝的多様 性が生じていると考えられる.事実,アイソザイムやミトコンドリア(mt) DNAの制限酵素断片長多 型などにより,系統群間で一定の遺伝的分化が生じていることがこれまで示されてきた.このような 系統群ごとの遺伝的な違いは,それぞれのシロザケ集団が長さや水温などの環境が異なる河川に適応 した結果,生じている可能性がある.生物の生息環境に対する適応は,個々の遺伝子発現の調節,さ らにはその調節をっかさどる転写調節領域を変化させることで起こると考えられる.実際にシロザケ では,淡水適応に関与する神経葉ホルモン遺伝子のバソトシン(VT) II型遺伝子のニューロフアジン 中間部において,カナダと日本の系統群間で多型があることが報告されている.このことは,シロザ ケの構造遺伝子にも遺伝的多様性が存在し,それが環境への適応に重要な役割を果たしている可能性 を示している.
そこで本研究では,まずミトコンドリア(mt) DNAを用いて環太平洋地域に生息するシロザケ集団 の遺伝構造を集団遺伝学的に解析した.っいでそのシロザケ集団の遺伝構造がどのような歴史的な形 成過程を経て成立したのかを統計的に推定した.さらに神経葉ホルモンであるVTおよびイソトシン (IT)遺伝子の構造を決定し,上流転写調節領域・イン卜ロン.3 ―非翻訳領域などについて多型解析 を行い構造遺伝子にどの程度の遺伝的多様性があるのかを調べた.また異なる集団問で比較をおこな い,地域間における違いがあるのかを調べた.
シロザケ集団の遺伝構造を明らかにするために,まず北海道6集団・本州6集団の計12集団由来の 537個体についてmtDNA調節領域の塩基配列をダイレクトシーケンス法で解析した.その結果,5 側 前半部分約500bpに高変異部位があり,12種類のハプロタイプが見っかった,この12種類のハプロタ イプの関係を調ぺるためネットワーク分析を行ったところ,大きく3つのグループに分かれた,ハプ ロタイプの種類は北海道集団で多く,遺伝子多様度は北海道集団が本州集団に比べて高い傾向を示し た. 12河川集団の地理的関係を調べるために近隣結合法によるグループ化を行ったところ,大きく北 海道・本州太平洋岸・本州日本海岸の3地域に分かれた.そこでこれら3地域問で遺伝的分化が生じ ているのかを調べるために´丶MO丶′A解析およびX2テス卜を行ったところ,3地域問において有意な遺 伝的分化が認められ,特に北海道集団と本州太平洋岸集団で大きいことが示された(第1章),
‑ 217―
次に,新たに得られた日本4集団・韓国1集団・ロシア10集団・北米(アラスカとカナダ)21集団 の計36集団由来の1617個体について上記研究と同様の実験を行い,すでに得られている日本地域の 結果とあわせて集団遺伝学的な解析を行った.その結果,18種類のハプロタイプが新たに見っかり,
調べた48集団で計30種類のハプロタイプが認められた.ハプロタイプのネットワーク分析の結果,
大きく3つのグループ(A.B.C)に分かれ,日本地域にはすべてのグループが,ロシア地域には主 にグループBとCが分布していた.それに対し,北米地域に分布するハプロタイプは,そのほぼすぺ てがグループBに属するものであった.ハプロタイプ多様度は日本で最も大きく,ロシア,北米の順 で小さかった.AMOVA解析およびx2テストを行ったところ,日本・ロシア・北米の3地域間で強い 遺伝的分化が生じていることが分かった.また日本地域と同様に北米地域でも5っの地域内集団が存 在し,一定の遺伝的分化があるニとが明らかとなった,(第2章).
上記研究から明らかとなったシロザケ集団の遺伝構造は,過去に起こった様々な歴史的なイベント の結果を反映したものと考えられる.そこで,これまでの研究で明らかとなった結果をもとに,環太 平洋シロザケ集団の歴史的な形成過程をNested Clade Analysis (NCA)を使って推定した,その結果,
シロザケmtDNAハプロタイプの分散の主要なプロセスとして,連続的な分布域の拡大が関わっていた ことが推定された,ここからシロザケは日本海周辺地域を起源とし,ロレアを経て北米地域に分布域 を広げていき,それぞれの地域に定着した後,遺伝的分化をしていったものと考えられる(第3章).
これまでの結果から,シロザケは地域間あるいは集団間で遺伝的分化をしており,大きな遺伝的多 様性を持っていることが明らかとなった.このような遺伝的多様性が実際の構造遺伝子にも存在する のかどうかを,神経葉ホルモン遺伝子について調べた.シロザケは4倍体であるので,同一の分子種 に対してI型とu型の2本の遺伝子を持つ.まず,神経葉ホルモン遺伝子の遺伝子構造を解析したと ころ,VT遺伝子はI型.H型ともに3エクソン−2イン卜ロン構造をしており,哺乳類VP遺伝子.OT 遺伝子と同じであった.これに対し,IT遺伝子はI型.u型ともに4エクソン亠3イン卜ロン構造であ り,これは円口類のヌタウナギVT遺伝子と同じ構造であった.このことから,シロザケIT遺伝子は 神経葉ホルモン遺伝子の祖先型を保持していると考えられる.ハープロット法による解析から,シロ ザケVTI遺伝子とVTH遺伝子およびIT‑I遺伝子とITII遺伝子はともにコーディング領域は相同性が 高いものの,上流転写調節領域とイントロンは相同性がほとんど無いことが分かった.これは他の動 物種と比較しても同じであった.日本の津軽石川で得られた集団についてVTI遺伝子の上流転写調節 領域・エクソンA.第1イントロン,VTn遺伝子の3 ―非翻訳領域,そしてIT‑Iの第2イントロンの 多型解析をしたところ,エクソンAを除くすぺての領域で,mtDNA調節領域よりも高い多型性がある ことが明らかになった.また,VT‑I遺伝子の上流転写調節領域・エクソンA.第1イントロンまでの 領域の塩基配列を日本の津軽石川の集団とアラスカのSalmon Riverで比較したところ,両集団の問で 高い塩基変異性があることが明らかとなった(第4章).
以上の一連の研究から,環太平洋シロザケ集団には一定の遺伝的分化が生じており,遺伝的多様性 が保持されていることが明らかになった.神経葉ホルモン遺伝子にmtDNA調節領域よりも高い多型性 が存在すること,集団間においても高い塩基変異性があることが分かった.このことはシロザケ神経 葉ホルモン遺伝子に遺伝的多様性があり,それがそれぞれの集団の環境ーの適応に関わっている可能 性を意味する.また神経葉ホルモン遺伝子に生じていた遺伝的多様性は,シロザケが日本海周辺域か ら環太平洋一帯に分散した後,個体がそれぞれの地域に入り込んで定着・適応していく過程で生じた のではなぃかと考えられる.
―218
学位論文審査 の要旨
主査 教授 浦野明央 副査 教授 小池達郎,
副査 教授 高畑雅一 副査 教授 片倉晴雄
副査 教授 阿部周一(大学院水産科学研究科)
学位論文題名
Genetic diversity of chum salmon inferred from the sequence variation of mitochondrial DNA and neurohypophysial hormone genes
(ミトコンドリアDNA および神経葉ホルモン遺伝子の 塩基変異から推測したシロザケの遺伝的多様性)
シ口ザケは成熟すると繁殖のために母川回帰するため,それぞれの河川で遺伝的に分化した地域集団(系 統 群)が 生じて いる, このよ うな系 統群ご との遺伝 的な違いは,それぞれのシロザケ集団が長さや水温な ど の環境 が異な る河川 に適応 した結 果,生 じている 可能性がある,生物の生息環境に対する適応は,個々 の 遺伝子 発現の 調節, さらに はその 調節を っかさど る転写調節領域を変化させることで起こると考えられ る .そこ で本学 位論文 では, まずミ トコン ドリア(mt) DNAを用い て環太 平洋地 域に生 息する シ口ザケ集 団 の遺伝 構造を 集団遺 伝学的 に解析 した. ついでそ のシロザケ集団の遺伝構造がどのような歴史的な形成 過 程 を 経 て成 立 し た のか を 統 計 的に 推 定 し た, さらに神 経葉ホ ルモン であるVTおよび イソト シン(IT) 遺伝子の構造を決定し,上流転写調節領域・イント口ン.3 ‐非翻訳領域などについて多型解析を行い構造 遺伝子にどの程度の遺伝的多様性があるのかを調べた,
シ口ザケ 集団の 遺伝構 造を明 らかに するた めに,mtDNA調節領 域の塩 基配列をダイレクトシーケンス法 で 解析し た結果 ,調べ た環北 太平洋48集団で 計30種類 のハプ 口夕イ プが認 められた .ハプ 口夕イ プは,
ネ ットワ ーク分 析の結 果,大 きく3つ のグル ープ(A.B.C) に分か れ,日 本地域に はすべ てのグ ループ が ,口シ ア地域 には主 にグル ープBとCが分布 してい た.そ れに対し ,北米 地域に 分布す るハプ 口夕イプ は‐そのほぼすべてがグループBに属するものであった.
上記研究 から明 らかと なった シロザ ケ集団 の遺伝 構造は,過去に起こった様々な歴史的なイベントの結 果を反映したものと考えられる.そこで,環太平洋シロザケ集団の歴史的な形成過程をNested Clade Analysis (NCA)を 使っ て 推 定 した , そ の 結果 , シ ロ ザケmtDNAハプ ロタイ プの分 散の主要 なプロ セスと して, 連 続 的な分 布域の 拡大が 関わっ ていた ことが 推定され た.ここからシロザケは日本海周辺地域を起源とし,
ロ シ ア を 経 て 北 米 地 域 に 分 布 域 を 広 げ て い き , 定 着 し た 後 , 遺 伝 的 に 分 化 し た と 考 え ら れ る , このよう な遺伝 的多様 性が実 際の構 造遺伝 子にも 存在するのかどうかを,神経葉ホルモン遺伝子につい て 調べた .日本 の津軽 石川で 得られ た集団 について 上流転写調節領域・エクソンおよびイントロンンの多
‑ 219−
.や奄驩刈Gゆャb忙瑚笹駈ヤ宴W廿鄭瑚堪壯e(籵尉)H蛙卦K嚠蝉芸.跫櫛縄哥(p卩q .ヤぬp昧謡誕醂嚠ヤb蛍艇瑚掣澀ロャ3pいS駆:→蛍瑠eぐ罫蘇G匝斌Q毒や毒や廷宴や.g聡廷 響鑾蝓S単瑠u→m坦嚠殻糶亜宴凵.ゼn灸来最刈uや糟聶製蝋巛瑚蝉3恒¢p3等ゼ區日斌ぜ悩刈凵や b蝉虻奄型『副瑜3姫ゆQq督駆騒驪くZ9111ゼm世嚠八中ミ岳黼護轄.ゼn蝕りー最心密廷刈りゃ3p宴柚史 雀罨掣蜷喩S坦瑠.clcp9刊疑ゼ僉S嶇嚠0側1亜ゼ回蝶ふ蟄口ふ皺降K藤、心最巛さQ嚠lGq盃 .製n蝕刈最心罫灸刈ルャ稽疑響蝋巛蝴蝉〔つ値p區Q日斌薩.ぬ凵刈製j馨錻p區日蝶QおAI.ば uomI拐eRK小卜凵日蝶eミぬ騨艇e将皿付贏齏輔蝉G贇羅ep悩八口上八ヤ{菰心最鬢羅塩驩叶響堰 刈.ぜ悩.ゼ真心Q隴灸塑『副喩3値¢Qq鵞駆猛羅v.Z9111.p贇羅Q式蕊八ふふコニ.吋u刈刈j瑚塞謎副