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精神薄弱児の就学指導
吉 村 喜 好
1.就学指導の意義
我が国の近代教育制度は,西欧諸国からの遅れを取り戻し,対等の国力をつけるための ものであった。したがって,その教育目的は国家に有為な人材の養成と確保にあり,精神 薄弱児の教育などは,国家の発展にとって障害にこそなれ,なんの役にも立たないと思わ れていたのではなかろうか。しかしながら少数の先覚者たちは,不具廃疾故に義務教育か ら免除されるという人間否定の教育制度に対し,収容施設や,特別学級の教育に僅かなが らも火をともしつづけてきた,この事実を我々は見逃してはならない。
昭和20年忌敗戦後新しい民主的な憲法は精神薄弱児の人権を確保し「その能力に応じて 等しい教育」が法的に保証されるに至った。しかし当時の我が国の経済力では,すべての 精神薄弱児を収容し教育することは不可能であったが,経済力の向上と共に漸進的に実態 を整える方向に進み,現在では精神薄弱児のための養護学校が全国で153校(49年度),特 殊学級は17,171学級(49年度)まで整備されるに至っている。これら精神薄弱児の就学指 導については養護学校や特殊学級の数が未だ少かった昭和30年代までは,余り問題はなか
ったが,40年代に入り,関係者の努力や理解の高まりと相田って,養護学校,特殊学級の数 が飛躍的に激増してくると,今度は特殊学級への雲級希望者が激減した。教育現場では,
特殊学級定員の下限(地方によって違うがほぼ8名程度)をも満たすことが困難となり,
止むを得ず学校側は教員定数や,学級維持のために普通学級で指導可能な境界線児や,普 通学級で取扱い困難な性格異常児,行動異常児までも二級させられたり,或いは又重度児 をも一緒に六六させたりしたので,折角設けられた特殊学級が個々の能力に応ずる教育を 行う場所ではなくなり,それどころか学校のはきだめ的な存在になってしまった。二級者 は蔑視され,差別される危険性が生じてきたのである。精神薄弱児の人格の尊厳を認め,
彼等の多様性,重度化に応じて作られた特殊学級,養護学校が,政府や国民の意図に反 し,偏見と差別の場となっては,特殊学級不要論がでても仕方がないといわなければなら ない。それ故,就学指導によって,特殊学級や養護学校の夫々の教育に応ずる児童生徒を 厳選することが,精薄児教育を正しく行うため,先ず,重要な課題となってきたわけで
ある。
このたあ就学指導が目ざすあり方として,それは,
(1)障害者の能力や種別に応じて (2)受入側の設備や教育方針に応じて (3)全員就学の方針に沿って
(4)父母の子どもの教育についての考えを配慮して (5)医学的,心理的要因について
充分考慮したものでなくてはならない。
2.就学指導の措置について
多様化,重度化していく心身障害児に対して,その障害に応じ,適切な教育機関に就学 の措置を講ずることは,地区の教育委員会の重要な職務である。この処置を行うことを
「判別」というが,判別の元来のことばには,可否善悪をみわけるという意味が強い。心 身に障害があるということは決して人格の価値にかかわることではないし,又あってはな
らないことである。我々がしなければならないことは,彼等の力に応じ弛適切な教育の場 と機会を与えてやることであり,それが即ち,適性就学措置でなくてはならない。
精神薄弱児に対する適正な就学措置とは,その障害の程度に応じて,(1)特殊学級,養 護学校に入級入学させるのか,(2)あるいは特別な指導を前提として普通学級に止めるの か,(3)重度児であれば厚生省関係の施設に入れて訪問教師の派遣によって教育するのか・
(4)これらの措置を行うこと自体が本入の生命にかかわる危険が伴うと判断された場合は,
残された,就学免除,猶予の規定を用いるか等を定めることである。
このため,それぞれの障害の程度に応じた客観化された基準を作成し,措置することが 必要であらう。これにはまず現行の法的基準を知っておかねばならない。
学校教育法:第22条並に39条においては養護学校への就学義i務を親権者に課し,又同法第 74条では都道府県においては養護学校の設置義務を課している。更に,軽度の精神薄弱児 のために,同法第75条において特殊学級の設置を認め,又教員派遣の教育ができると規定 している。ところが,これら就学義務,設置義務に関する施行日は,同法第93条により政 令によって定められると規定し,盲,聾の養護学校は,学校教育法設定の翌年,政令によ
り施行されたのであるが,精神薄弱児のための養護学校設置の政令は,それより更に32年 後の昭和54年まで待たねばならなかった。しかし,これによって我が国の障害児教育は法 規上名実共に完全就学が確立されたわけである。
養護学校へ措置さるべき精神薄弱児については,学校教育法第71条の2の規定をうけ同 法施行令第22条の2で次のように定められている。
(1)精神発育の遅滞の程度が中里以上のもの
(2)精神発育の遅滞の程度が軽度のもののうち,社会的適応性が特に乏しいもの となっている。この規定に関して,昭和37年IO月18日付文部省初等中等局長の通達で,施 行令が示す中度以上とは「痴愚」「白痴」のことであって「痴愚」とは新しい事態の変化 に適応する能力が乏しく他人の助けによりようやく自己の身辺のことがらを処理しうる が成人になっても知能年令5,6才に達しないと考えられるもので(IQ25〜50程度)「白 痴」は言語をほとんど有せず自他の意志および環境への適応が困難で衣食の上に絶えず保 護を必要とし,成人になってもまったく自立困難と考えられるもの」(IQ25〜20以下)と
なっている。
特殊学級対象の児童生徒は従って,それ塚外の精神薄弱児である。文部省発行の「精神 薄弱特殊学級教育課程編成の手びき」には,
α)軽度σQでいえば50〜75程度)の精神薄弱児童生徒のうち,養護学校の対象とな る,社会的適応性の特に乏しいものを除いたもの
(2)境界線児のうち,状況によって特殊学級において教育することが望ましいと考えら れるもの
精神薄弱児の就学指導(吉村) 329
又,先の通達の中には養護学校がないところはその間特殊学級において教育してもさし っかえがない。とある。
境界線児童生徒については同じ通達で「普通学級に於て留意して指導するか,特殊学級 において教育しても差支えない」。といっている。以上のように,養護学校,特殊学級,
普通学級の対象児の規準は一応明確に規定されているようであるが,具体的に措置を講ず るとなると,各々の養護学校や特殊学級の性格や教育方針に応じて更に考慮していかね ばならない。そのため,就学委員会を組織してその適正化をはからねばならないのである。
3.就学指導委員会
以上の規準をふまえながら,適正な就学措置を講ずるためには,就学指導委員会を組織 しなければならない。就学指導委員会は,学校段階におけるもの,即ち校内就学指導委員 会と都道府県単毅階におけるものとがある。
(1)校内就学指導委員会
校内就学指導委員会は,学校内の児童生徒の中で,①特殊学級に入級措置を講じた方が よいか,普通学級で注意して指導した方がよいか ②重度児の場合は養護学校への措置が 必要であるかどうかそのために県市段階の委員会に申請するかどうかなどをきめるために 組織するものである。
委員会の構成メンバーは,校長,教頭,特殊学級担任教師全員,普通学級代表,校医,
養護教諭等である。
委員会が開催される前段階として,入級予定者全員の性格や能力等がそれぞれの担当教 師によって調査され書式にして委員会に提出されなければならない。そのたあ小学校の場 合は入学当初よりも2年進級の直前に行われる方が良い。又委員会の開催,新入級の措置 だけでなく,既に入級している児童生徒に対し再考慮をしていく必要もあるので,場合に よっては年に数回開くこともある。
委員会では此等の資料をもとにして討議し,必要があれば更に精密な知能検査や性格検 査等を専門家に委託実施して貰いその結果を考慮に入れて措置を内定する。内定した結果 については父母の了解を得た上で教育委員会に申請し決定する。
(2)都府県市就学指導委員会
この委員会の必要性は,前記校内就学指導委員会に撃て精薄児にくわしい精神科医,内 科医,比較的高度な技術を要するテスター等を委員として確保することが困難なので,こ れを補うためである。就学指導の措置にあやまりがあれば,児童生徒の生涯にとって重大 な影響を及ぼすことになるのでこのように校内就学指導委員会と都府県市就学指導委員会 の二段階の委員会を設けても慎重にしすぎるということにはならない。更に重症児の場合 は,小学校を経過しないで児童相談所等を通じ直接にこの段階の措置を必要とする場合が あるからである。
委員会の構成は,
特殊学級担任代表 2名 県教委(市教委) 2名 教育長 1名 各養護学校長 数名
児童相談所々長 1名 小児科医 ユ名 精神科医 1名 耳鼻咽喉科医 1名 心理学者 1名 障害児教育学者 !名
この委員会では,各学校就学指導委員会で内定された措置の確認と児童相談所や各養護学 校から上ってきた,重症児,平復障害児の措置等に関する資料を参考として討議し決定す
る。
今日の就学指導委員会では,完全就学を建前とする以上,如何なる重症児であっても,
必ず何等かの教育的措置を講じるという決意でかからねばならない。完全就学に応ずる体 制がととのえられなければ完全就学を措置したところで意味がないかもしれないが,完全 就学の法規を建前だけに終らせないためにも,就学指導委員会の強固な決意と,それに応 ずる教育委員会の行政措置が望まれるのである。
4.就学指導委員会のため準備すべき資料
児童生徒の実態を確実に把握し,その能力に応ずる適正な措置をするのが就学指導委員 会の任務であれば,そのため,児童生徒の知能的,性格的,家庭的,教育的,身体的諸要 因を確実に把握しなければならない。そのための方法として,家庭調査,生育歴調査,知 能検:査,社会生活能力検査,性格行動検査,運動能力検:査,行動観察,学力検査,医学的 診断等を必要とし,最後にこれ等を基にした総合診断が行われなければならない。
α)家 庭 調 査
就学措置を行う場合,大事なポイントは,保護者の児童生徒に対する態度と理解の度合 を知ることである。概して精神薄弱児の保護者は,その子どもに対し感情的で冷静な判断 を欠いている場合が多い。そこで此の調査の大きな狙いは,家庭における両親のその子に 対する接し方や,学校に対してどのような教育を望んでいるかを知ることである。そのた めに,先づ
①精神が遅滞していることを,いつ頃誰が気付いたのか。
②そのため,いままでどのような対策がとられてきたのか ③原因は何と思うのか
④ 特殊学級や養護学校であなたの子どもに必要な教育が行われることに賛成か不賛成 か
⑤不賛成であれば,何故か
⑥ この子の将来の進学や就職についてどう考えるか ⑦ その他
(2)生育歴調査
よりよい将来の方針を定めるためには,現状の調査はもとより過去の生育史を明らかに することが必要である。しかし,これは個人のプライベートにかかわることが多く,又聞 きにくいこともあり,一片のアンケートを配布してすぐ記入してくれることでもないの で,充分なラポートを確立した上で面接によってしらべていかなければならない。
331 精神薄弱児の就学指導(吉村)
主たる調査項目としては,
① 家 系 調 査
本人及び父母の同胞,祖父母の範囲についての血族結婚の有無,異常の有無についてし
らべる。
② 妊 娠 時
ω 父母の年令 回 過去の妊娠回数 ㈲ 妊娠時の状態 目 妊娠時の母の精神状態 困 梅毒の有無その他母の疾病
③ 出 産 時
(イ)分娩(普通,早産,鉗子分娩,切開,仮死) (ロ)すぐ泣いたか ㈲ 生れてすぐ 乳を吸ったか 1→ その他異常は
④ 乳 幼 児 期
ω首のすわり 回発歯の時期 ㈲ かたことをいう 目這う 立つ 歩く等の時 期が早いか,普通か,遅いか(何ケ月位)をしらべる。
⑤幼児期以降について
(イ)健康状態 回 就園,就学状況 ㈲ 就学猶予,免除の状況(その理由,期間,猶 予免除後の処置) 目 施設入所児ではその施設での記録等
⑥ 既 応 症
..易感冒症,易下痢症,栄養失調症,肺炎,消化不良症,高熱,ひきつけ,頭部外傷,え きり,ジフテリア,百日咳,病弱,その他についての発病の時期,程度,処置,予後の状
況を記入する。
(3> 矢口 倉旨 検 査
就学措置を行うための知能検査は,非常に重要な役割を果すものである。それだけにこ の取扱いは,特に慎重であらねばならない。知能検査には集団検査と個別検査があである る。集団検査は多人数を同時に実施出来る利点があるが,一定の時間内での作業であり,
作業方法の指示がわからなければそのまま最低点となる危険性があり,精神薄弱児の検査 には不適当である。それに対して個別検査は,時間にとらわれず作業可能の最大限をしら べることができる。しかしこれを利用するためには,検査者は相当の熟練を必要とするの で,児童相談所や大学の心理学教室等の専門家にゆだねるのが良いが,今日のように障害 児学級が多くなると,障害児学級担任教師がその専門的技能を持つことを要求されてく る。現在我が国で用いられている個別知能検査のうち最も広く利用されているのは,ビネ 騒動検査とWISC, WPPSI等である。
ビネ山勢は主として言語使用の問題で構成されているが,WISC, WPPSIなどはその 上に動作性の問題も含んでいるので言語能力の不十分な障害児の検査には後者の方が適当 であろう。又大脇式精神薄弱児知能検査のように,精薄児用の検査もある。
さて我々は,知能検査を実施して,被験者の知能指数や知能偏差値を算出して就学措置 の為の資料にしょうとするわけであるが,知能検査の原理は,人の知能は生得的なもので 生涯ほぼ変らないものであるという,恒常性の仮説の上に成立している。しかし今日では いろいろな専門家の研究の結果,知能は恒常ではなく変化するものである。たとえば狩野 氏の研究によれば,±21以上の知能指数の変動があったもの(小1から中3までの問に)
が54.2%と半数以上を示している。このことは,もはや知能検査の結果が,就学措置を決 定する為の重要な資料とするには大きな危険性があることを示しているわけである。サミ エル・カークは「知能は遺伝によるのかもしれないが,遺伝されるのは固定的なIQでは なく,あるIQの範囲である」といっている。例えばある子どもがIQ70〜110の範囲をも って生れた場合,教育によってはその範囲内の上限まで達することが出来るというのであ る。それ故に知能検査は検査結果の指数の高低よりも,検査のプロセスにおける彼の知能 の特性欠落の状況を知り知能を向上させるため診断用具として利用すべきであろう。
(4)社会生活能力調査
同じ精神年令,知能指数の持主であっても,生活年令の差や,環境条件,親の養育:態 度,躾の違いから環境への適応能力はそれぞれ異ってくるものである。これを知るための 標準化された測定検査としては,牛島義友の社会成熟度テスト,社会適応テスト,三木安 正のSIM社会生活能力検査等がある。此等は社会生活に必要な能力分野をいくつかに分 ち,その測定結果より社会成熟年令を算出し,更に社会成熟指数を算出したものである。
此等の標準検査は全般的な生活能力の傾向を相対的に正しく把握することは出来るが,
教師が指導内容や方法を決定する具体的な資料としては完全とはいいがたい。そこで教師 自身が作成した調査を併用する必要があろう。内容としては,養護学校小学壷中学部学習 指導要領の資料の中にある「生活」の項の低学年の「内容」のうち特に「基本的生活習 慣」としてあがっている17の項目を参考にすればよい。これ等の項目について,学級,学 校内は勿論家庭におけるあらゆる場面における反応をくわしくしらべ累加的にあるいは,
評定法によって記録しておくことが必要であろう。
(5)性格行動検査
精神薄弱児は,精神薄弱なるが故に外界への正しい適応が出来ず又,精神薄弱児なるが 故に外部からの不当な圧迫に耐えねばならないため,普通児よりも異常な性格や行動の持 ち主になり易いものである。異常な性格は,脳障害という生理的欠損から生じる場合もあ るが,多くは環境への不適応から起ってくるものである。したがってこれは教育によって 矯正される面が大きいといわなければならない。これらの判断には,医師の診断と共にロ ールシャッハ,TAT, CA T, PFTなどテストを用いて性格診断を行っておくことが 必要である。しかし此等のテストを正確に適用するためには,充分な熟練を必要とするこ
とはいうまでもない。
(6)運動能力検査
精神薄弱児の遅滞はそれが単に知能の面だけでなく,運動能力の面,手足の巧緻性とい う面にも現われるものである。そこで運動能力を増し,手足の巧緻性を回復させることが 精神薄弱児の治療にもつながるわけであるから,運動能力について,その量や質の特性を 知ることが,精神薄弱児の理解のため必要な手段となってくる。運動機能発達検査には,
標準化されたものがあるが特に精神薄弱者用として作られたものはないようである。教師 では,体力検査として握力,背筋力,肺活量の検査,50メートル疾走,懸垂,垂直とび,
ボール投げなどについてその数値とともに普通児並に出来る場合をA段階としA,B, C 段階で評価すればその概略を押えることが出来るであろう。運動機能としては,敏捷性,
333 精神薄弱児の就学指導(吉村)
柔軟性,身体平衡性,持久性についての検査が必要で,敏捷性はバービーチスト,柔軟性 は前屈,後屈,側屈などで,身体平衡性は閉眼単脚直立で,持久性は連続馬脚とびなどに よって測定が出来る。この場合も普通児を基準に実数とA,B, C段階の評価で概略を押 えておく心要があろう。
(7)行 動 観 察
精神薄弱児を発見するため最も日常的で常識的な方法は,彼の行動を観察してその異常 性を見出すことである。観察の仕方は2つに大別される。1つは,一定の形式によらず,
あらゆる機会と場所において,自由に被験者を観察し記録していくやり方である。この 方法は,子どもの自由なありのままを捉える事ができるという特徴があるが,一方その観 察は,ともすれば主観的に偏り,推量や先入観で判断されることが多い。そこでいま一つ の方法は,観察すべき行動や種類や観察者の仕事の手順を決めてから行う組織的観察法が
ある。組織的観察法の2,3の例を示せば ①逸話的行動記録法
この方法は,教師が児童生徒と接している場合,彼等が自由に,又は不用意に示した態 度や行動を観察し,それを記録簿に累加的に記述したものである。この記録簿は,各人毎 に1頁を割当て,それに「日時」「場面」「逸話的行動」「解釈指導」の欄を取り,彼が特 異の行動を示した場合,早速彼が記載さるべき頁を開き「日時」「場面」(例えば算数の時 間とか)を記し,「逸話的行動の欄」には,彼の行動を主観をまじえず,みたままの客観的 な記録を行う。「解釈指導の欄」は,それから暫く時間を置いて,何故彼はその様な行動 を行ったのかについて,教師の考えと,それに対して行った対策を記入する。それが1学 期,あるいはユ年と,累加的に記録されていくことにより,彼は,何時,どの様な場面 で,どのような異常行動を起すかという傾向を捉えることが出来るのである。
② 行動目録法
これは,あらかじあおこることが予想される行動,例えば叱られた場合の子どもの行動 として,へつらう,従順,弁解する,不平をいう,泣く,逃げるなどがある。いじめられ た場合の行動としては,こびる,泣く,反抗する,逃げる,けんかする等が予想される。
そこでこれら予想される行動の項目を表に示し,該当する行動が生じた場合,チェックを していく方法である。
③ 評定尺度法
それぞれの行動について価値の程度をつけたいくつかの段階の短文記述を用意し,その 何れかの段階にチェックして評定をする方法である。たとえば記述法による尺度法では,
「依存性」について
・自分でできるような時でも,すぐ他人に頼ろうとする ・少し困ると,すぐに頼りたがる
・できるだけ自分の力でしょうとするが,ときには他人に頼る ・あくまで,自分でやりとげようとして,他人に頼らないい。
図式尺度法では,段階記述を一直線上に配置して,記述法よりもっと短い文を記述し配 列したものである。
これ等の検査は,項目に適切なものが作り出せれば,精神薄弱児の行動特性をつかむた
めに,重要な資料となるであろう。
(8)学 業成 績
学業不振は精神薄弱の重要な症状であり,学令;期においては有力な判断の資料である。
勿論学業不振児のすべてが精神薄弱児ではないが,精神薄弱児の学力は遅滞しているもの である。文部省の実態調査によると,軽度の精神薄弱児6年2学期の学力平均は,国語で
3年2学期,算数で2年3学期から3年1学期程度であるという。学力調査は主として国 語と算数の2教科の調査で充分と思う。これらにも勿論,診断用標準検査があるので,そ れを用いて遅れの状態を詳細に診断しておくことが必要であろう。
(9)医師の診断
入級措置について医師の協力を求めることは当然である。しかし,医師といっても精神 医学を専攻してる医師は少ないし,又その中でも精神薄弱児にくわしい人は極めて少数で ある。又今日の発達した医学においても精神薄弱に関する病理的解明が十分になされてい るわけでもないので,余り過大な期待を医師にのみ持つことは出来ないであろう。ただ,
或る種の精神薄弱児に対しては,医学的治療が効果があり,又精神薄弱児が重復して持っ ている色々な病的合併症,例えば,テンカン,心臓その他内臓の欠陥に対する治療,更に は梅毒で精神薄弱になった者に対する血液検査や駆梅療法等には医師の協力が絶対に必要
である。
5.総合診断と措置
以上各方面で実施された検査や調査資料は,まとあられて就学指導委員会に提出されな ければならない。これ等の資料については,必ずしも多ければよい,くわしげればよいと は言えない。余計なものが多すぎるとかえって判断がしにくくなる場合もある。そこでこ の綜合診断では,集められた資料のうち,最も必要なものは何かを探しだし,それを重点 的に深く調査した方が効果的な場合もすくなくない。
就学委員会ではこれらの資料に基き各々の障害児に対して適切な就学措置を講ずるため に論議が行われるのであるが。この場合措置しようとする受入側の養護学校,特殊学級が どのような性質のものであるかを委員はすべて承知の上での論議でなくてはならない。こ れらの学校や学級が,措置しようとする児童生徒の教育に,適切な教科内容を持ち,施設 設備も適正なものであるかどうか,又普通学級に措置しようとするなら,その担任が特 に障害児の教育に理解があるかどうかをみきわめた上での措置でなくてはならない。如何 に,客観的な厳密な資料の検討の上で措置が定められても,受入側の学校や学級の内容や 設備が不充分であれば適正な就学措置とは言えない。就学指導は,障害児教育全体から言 えば先づその先陣を駆ける重要問題であるが,これが解決のためにはやはり行政面の整備 と,障害児に理解ある教師の存在が不可欠であり,又それらを支える社会や父母達の理解 と協力が必要であることはいうまでもない。
6.就学指導における諸問題
最後に,就学指導をより適切に行うための諸問題として,該当する児童生徒と共に対象 児の父母に対する指導(というより,協力,あるいは説得),さらには普通学級担任教師
335 精神薄弱児の就学指導(吉村)
に対する指導(この場合も相談,協力というべきだと思うが)などが重要であることを銘 記すべきである。
対象児に対する学級指導は,単に法規で定められた条項に適合する児童・生徒を機械的 に集あてくるというのではなく,彼等の納得を得るたあの教師の指導努力がなされなけれ ば,入級後十分半学習効果を期待することは困難であるし,ましてや特殊学級が学校内で 差別視されやすい状況にあれば,なおさら彼等自らの意志で入陣しうるよう,教師の懇切 な指導が要望されるのである。児童生徒の納得のいく1つの条件が,父母の同意であって
,教師にとっては,この父母への入級説得の方がより困難な問題であろう。それは,特殊 学級へのわが子の入級が,普通学級から追い払われたという被差別意識を起させ,さらに それが,自分の面目やその先祖代々によって築かれたと考えられる社会的地位にかかわる 重大な問題であると受けられ勝ちだからである。この傾向は特に辺地の方ではなはだしい ようである。このような阻害意識をもちやすい父母に対して,その子を特殊学級に二級さ せることが,その子の幸福を,現在はもとより,将来も保証する最も正しい方法であると 自信をもっていえるだけの教師が果してどの位いるだろうか。とにかく,特殊学級ができ たから,定員を満たさねばならないというさし迫った現実に対応するのみの入級指導で は,この根強い父母の被害意識には抗すべくもないと思われる。
次に,特殊学級の存在が,普通学級の担任教師にとって,学級で指導困難な児童や学級 集団活動のじゃまになる児童の収容所という誤った認識の場であるならば集められた彼等 の多様性に対してどんなに能力ある特殊学級担任教師といえども,学校内で効果的な教育 活動を期待することは無理というものである。
このように特殊学級の入級指導は,その対象の児童・生徒だけでなく,校長をはじめ学 校全体の教師の特殊学級に対する正しい理解と,その上に立った地域社会の障害児教育に 対する偏見を正すことなくして,ただしい指導はできないことを知らねばならない。
長崎大学養護課程では,昭和47年と昭和50年度の2回にわたり,長崎県下の特殊学級の 実態調査を行った(50年度のものは現在整理中なので未整理のものは47年度資料を用い
る)。そのうち,入級に関係ある項目を拾って考察してみよう。
特殊学級在級児のIQの分布は図1で示しているように,60代をピークにノーマルカー ブに近い分布をしている。しかし,その両端にはIQlOo以上が12名と, IQ20以下が18
表1 長崎県特殊学級のIQ分布(50年度調査)
試1
市 部
郡 部
計
1測不1−19}2・代13・代14・代15・代{6・代7・代i8・代19・代ll・・一1計
数%
37
V.2
1
O.212 Q.3
30 T.8
64
P2.4
92
P7.9 135 Q6.8
108 Q1.0
27
T.2
7
P.4
2 P.3
515
P00.0数% 29
S.9
3
O.5
2
O.3 19 R.2
61
P0.2
77
P3.0 160 Q6.8
131 Q2.1
76
P2.8
27
S.5 10 P.7
595
P00.0数166%15・9
4
O.4 14 P.3
49 S.4
125 P1.3
169
P52
295
Q6.6239
Q1.5 103 X.3
34
R.0 12
P.1
1,110P00.0
名も在嘉している。この中のある学級では,IQ 121,IO8とIQ27を含む9名で編成されていた。
このような学級をユ人の担任教師で,どのような 教育を行なえというのだろうか。この状況は言う までもなく,精神薄弱児の特殊学級のなかにいろ んな種類の子どもたちが混在していることを示す ものであって,表2の「特殊学級児童・生徒主障 害別」をみると,精神薄弱児の54.3パーセント に次ぐのは,行動問題児,学業不振児の23.4%
である。特にその傾向は都市部より郡部に多いこ とに注目したい。さらに郡部の場合これに無答を 加えると,何と48%が精神薄弱以外の理由で下級
させられたことになる。このことは郡部の特殊学 級の性格が本来の狙いである精神薄弱児の特殊学 級から,実際は行動問題児とか学力不振児の混在
表2
図1 長崎県特殊学級のIQ分布図
3020
10
% IQ
、、
サ
7
/メ7
ノ
!
ノ
市部
、 己一一一郡部
、
、
ロ
、
ミ
、
、
、
へ 、、
、、
二十2・3・4・5・6・7・8・9…0一
調査校(小・中)262校,被調査人数1,877名
特殊学級児童・生徒主障害別(調査児童・生徒1,729名。ただし重複主障害を含め件数L844)
融1一避董1騰聯障害降障害1羅隣害騨圃そ剣無答i計
市
郡部 部
594
40849
46
46
3823
179 6
県
下1・…29518414・1
8 4
109 333
9 145
847 997
・51 ・214421・54[・・844
47年度調査 調査校小・中203校 被調査人員1,729名
立3 年齢別特殊学級在盛者数葡遡り1舗7歳i8歳19祠・・歳・1紳2歳i・3歳1・4歳i燵i矯1計
市 部
S 部7 35 V7
60 P01
75 P77
83 P56
69 P32
86
W2113 V8
ユユ6
V9
44 Q4
85 S8
774
X55
県 下1・1・・2t・6・1252【23gi2・・1・68、・9・巨95681133
1・・四9
する多様化傾向の学級に移行していることを示し ている。この理由として考えられることは,特に 郡部においては,精薄学級とか特殊学級といわれ ることを対象児の父母は特に嫌うので,行動問題 児,学業不振児を入級させることによって,表面 的には促進学級として,父母を納得させているよ うである。そうでもしなければ,父母に対する入 級説得が困難であったのではあるまいかと思われ
る。しかし,
も,実態に沿った考え方をするもので,
図2 特殊学級には本来どのような子どもを 入れるべきと思うか(47年度調査)
学業不振児 問題行動児 情緒障害児
IQ30〜50のもの IQ50〜70のもの IQ70〜90のもの
そ の 他
無 答1%
46銑
21% ===コ市部
一郡部
概13%
7% 4 0
6%
1・%0.4%
2%41% 60%
このような実態の中におかれた特殊学級担任は,特殊学級に対する考え方 「特殊学級にはどのような児童・生徒を入級させ るべきか」の問に対しては,図2で示すように,郡部は21%(市部はII%)の担任が学業
337 精神薄弱児の就学指導(吉村)
不振児を特殊学級に入れるべきであるといっている。
このように,郡部のような地域性においては特殊学級を促進学級化することによって一 級指導が行われているとみるべきであろう。それ故に,表3で示すように「年令別特殊学 級在三者数」では,小学校卒業と中学校卒業の年令段階における在赤面数が激減している のも,普通学級に復帰させるという促進学級制をとっているからに他ならない。
一方都市部の方は,図1で分かるように,カーブが左よりで比較的重度児が特殊学級に 在面していることを示している。ここでは特殊学級が地域保証という意味で,重度児を対 象にすべきであるとの考えが高まっていることによるものと思われる。
このように特殊学級の入前が基本原則からはなれて,郡部に於て促進学級化しなければ ならなかったのは,ただ担任教師の障害児教育に対する認識不足というより,長崎県の辺 地という封建的土地柄も考慮に入れなければならないだろうし,さらには,ただ特殊学級 というたった一つの枠ができただけで,特殊学級のための施設・設備や定員等に理解と関 心を示さない行政の貧困さにも原因であるといえよう。
重度児の特殊学級特級について
54年に迫った養護学校の義務化の問題は,中央都市はともかく,我々辺地にあるものに とってこれは大変なことである。本県は,児童数の減少のため定員の削減が余儀なくされ 2学級3担任という最低の望みも恐らく困難ではなかろうかとさえ思われる。そこでこれ にかわるものとして,訪問教師制を拡充し,これを正規の教員に切り変えることによっ て,義務化を消化する方向に進むものと推察される。この制度も,対象児を二級させるこ とが生命にかかわるような実態であれば,それもやむをえないと思うが,安易に実施され ると,月数回の御気品伺いでことを済ますという危惧もないわけではない。
表4 長崎県における不就学児童の実態 長崎県における昭和49年度調査によると・
不就学児
521名(施設 334名)
(入院 11名)
(在宅 176名)
精 薄 肢体不自由 病 弱 筋 ジ ス
情緒障害
盲 ろ う
198名 284名 19名6名 5名 9名
(昭和49年年長崎県教育庁調査による)
…
表4で示すように就学猶予・免除児は52ユ名 で,この中に在宅児が176名もいるが,51年 には30名の訪問教師によって,そのなかの 1ユ3名が教育を受けていることになってい る。残る63名は,父母の希望がないとか,離 島のため交通機関が不便で教師派遣の困難に よるものである。これに対しては,今後,そ の地域に居住する教職の有経験者方に委嘱するとかして無就学の解消に努あているとのこ とである。最終段階ではやはりこの訪問教師制なり派遣教師制になるであろうが,やはり 本筋は養護学校なり特殊学級の中で教育されるべきであり,そのための予算,施設・定員 の充実をおこたってはならないと思う。特に離島僻地の多い本県としては,養護学校の充 実よりはむしろ,各地区の特殊学級を充実させ,地域保証に立脚した特殊教育が望まれる べきであろう。そのためには,2学級3担任制は最低の要求でなければならない。この場 合,大きな問題の一つとして,教師の研修ということがある。重症児の教育を,障害児教 育に無経験な教師にまかせて研修が行なわれないということは,仏を作って魂を入れない ようなものである。そのためには長崎市,佐世保市,島原市あたりに養護教育センターを 設けて,障害児教育のベテランや医療関係者のメンバーを配し,宿泊施設も備えて充分な
研修が行われるように,養護教育センターの設置を提案したい。実現すれば,辺地の重症 児を担当している教師は,年に数回,センターに障害児と共に泊り込みの指導を受けるこ とが可能となるであろう。しかし,このような研修の前提としても,特殊学級の2学級3 担任制が是非とも必要となってくる。このような受入れ体制が充実してこそ,等級指導も 正しく行われるものである。
二級指導の実際 さて論題をもとに戻し,児童・生徒に対する入級の実際について付言 しておこう。中程度の障害児の特殊学級への入級は,前にもいったように,対象児が,特 殊学級に編成変えになることを納得しなければならない。特殊学級の方が楽しくておもし ろいから進んでいく気運を作ってやるのが,この場合の教師の役目であろう。
子どもは誰でも馴れたところがら見知らぬところに入れられることを本能的に嫌がるも のであるから,最初は心入級の形をとり,1日数時間か,週に何回とかきめて特殊学級の 見学を行わせることである。普通学級で,自分の能力に不相応な教育を受け,精神的にも
肉体的にも萎縮してしまっておれば,それだけに,自分と同じ位の能力の者が集まってい る特殊学級の自由さ,闊達さに魅力を感じてくるはずである。もし特殊学級にそのような 魅力を感じさせないとしたら,もともとその特殊学級自体に問題があり本来の役目を果し ている学級とは言えないであろう。
私が興味を持って読んだものに,近藤益雄の「みどり学級」への入級指導がある。彼の 場合は,彼自身が普通学級に出向いて,そこにいるちえ遅れの子どもたちと仲よしにな
り,やがて彼が教える教室によろこんで入学するという形で特殊学級を作っている。
「そこでこの学級にいれる子どもたちが,一おう,3,4年中からときまりますと,私 はその子どもたちのいる教室にあそびにいきました。そしてだまって,その子どもたちの ことばや動きを,しずかにみていることにしました。しかし,みているだけでも,子ども たちは近づいてきました。どうしてそうなるのか私にもわからないのですが,どうもそん な子どもたちと私とはどこかでずいぶん一致するものがあるにちがいないと,このごろに なって思うようになりました。それから,私はその子どもたちのいる教室で授業をしまし た。4年生はローマ字を,3年生には図画というあんばいです(中略)礼子とキョ子もそ の中にいたのですが,このふたりは,教室の一ばんまえの机にならんでいて何をたずねて も,オーバーなどかぶっていて,こたえもせず,ふたりで,げらげらわらうだけだったの に WO がよめるようになってからは,やっと顔をあげて,まともに私の方をむいて話 をきくようになりました。
この2人はローマ字の授業がすむと,さっそく職員室の私のところにきました。きても べつに用があるわけではありません「そとであそぼうや」と私が運動場に出ると,子ども たちはついてきますが,まだまつわりつくというほどではありません。私は手をひいてや りました。話しかけてみました。だんだん話するようになりました」。(以下近藤益雄著
作二二から)
このように近藤益雄の入級指導は,自分から子どもの方に出かけていって積極的にラポ ート作りをやっている。そして遂には「うちたちは先生からならうばい。ここの教室がよ かけん,いつまでもおってよかね」といわしめるよう仕向けていっている。これはテクニ ックというより,近藤益雄の子どもに対する愛情が人間本来のもの,言いかえるならば,
どのような子どもといえども,ひとつの人格を有する尊い存在であるという深い愛情が,
彼の素晴らしい教育効果を生んだのではなかろうか。