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精神薄弱児における自主的活動を育てるための指導 法の探究

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(1)

茨城大学教育学部教育研究所紀要16号(1984)117−123      117

精神薄弱児における自主的活動を育てるための指導 法の探究

      甚

ホ 川 弘 容・片 田 政 博・本 多 康 博 加 瀬 俊 一・染 野 弘 子・四日市 ゆみ子

(1983年10月29日受理)

1.研 究 目 的

従来,精神薄弱児においては,指示に従っての行動はできるが課題を自ら見つけ出し解決してい こうとする自主的・自発的活動に困難性があると言われてきている。本校中学部の生徒においても 指示されなければ動けない子や活動に追従型の子がかなりおり,自主的活動を育てる必要性を痛感

してきた。

我々は,この生徒達が自ら目的を持ち,積極的に課題に取り組む意欲づくりをテーマに過去2年 間にわたり「遊び」「調理」場面における生徒の行動の変容を行動観察記録法により追跡検討して きた。その結果,行動内容が質的に高まっていくためには,生徒自身の内的欲求が重要な役割を果 たすことを確認できた。(昭和55年度研究集録第2集発表) また,これらの生徒達の行動を探っ ていく中で,学習場面や日常生活場面における課題達成体験(「やった」 「できた」という成就感 を味わえる経験)が絶対的に乏しいことをつかむことができた。

このような経過をふまえ,生徒のニードに即した素材(教材)の選択と達成体験の積み上げが自 主的活動力の素地を培う上で重要な意味を持つという仮説に基づき,諸条件(①教師のかかわり方

②欲求に根ざした素材の選択と配列,③評価項目など)を設定し,それらを実践する中で生徒の変 容を記録し,その要因分析により,自主的活動を育てるための教師のかかわり方と指導の手立てを 考察したものである。

        Q.研究の方法及び結果

上記の目的を達成するために,下記のような手順によって研究を進め結果を得た。

(1}研究対象の選択

中学部全学年12名(CA12〜15) IQの範囲(50以上…2名,49〜40…4名,39〜30…3名,

測定不能…3名)

(2)調理場面での実態把握(自然観察法〜VTRの活用)

(3)観察記録項目(評価項目)の設定と記録用紙の作成

〈評価の観点〉

教師側の評価の視点として次の4つをおさえた。 ①自主的,主体的活動(自分の意志や自分の

菅水戸市立第二中学校教諭(元 附属養護学校教諭)

(2)

判断に基づいて,ひとりでどれくらいやろうとするようになったか) ②集団への参加(より組織 的な集団にどのように参加できるようになったか) ③経験の広まり(過去の経験をもとにどれく らい新しい経験を積み上げ,活動の中で生かせるようになったか) ④生活技能の高まり(経験の 積み重ねにより,どのような生活技能を身につけたか)

〈観察記録項目〉       〈観察記録用紙〉

評価の視点をより明確にし,また,記録をとり

調理に関する特徴 やすくするために観察記録項目 ①活動内容の理 学  校  生  活 解,②指示の理解,③指示への反応,④自主的な 生 親

態度,⑤役割意識,⑥協力的態度,⑦調理技能,

W

留容

霞力 備   考

⑧家庭における活動,⑨親の協力・関心,を設定 §

C 解 解 識 度 術 動

し,記録用紙を作成して活動の終了時ごとにVT

Rを活用しながら生徒の変容をチェックすること K・T 1 48

にした。

評価の方法は,中学部教官全員の話し合いのも

とに,◎…よくできる,すぐれている,○…ある, K・T 3 46

できる,△……ややある,ややできる,×…ない,

できない,で評価し,その時の状態を備考欄に記 S・S 3 68

入できるようにした。

M・K 3

(4}指導プログラムの立案

〈指導条件の設定〉

自主性,自発性を高めるための教師のかかわり方として次の3つを基本姿勢とした。

①教師は教えようとする立場ではなく,生徒と共に活動しようとする姿勢で接する(自主的,自 発的行動を大切にする) ②つまづきは教師の援助により必ず乗り越えさせる(達成した成就感を 味わわせる) ③生徒の伸びは即時評価する(活動に対して自信を持たせる)

〈素材の選択とその配列〉

素材の選択にあたっては,生徒の欲求に根ざした内容を取り上げるべく,あらかじめ調理におい てどのようなものをつくりたいかを事前調査し活動の意欲づけを図った。また,これらの素材の中 から,生徒の発達段階に合ったものを選択し,季節や学校行事との関連のもとに一連の流れのある 活動内容に組み上げ,生徒達がより前回の学習経験を生かせるよう配慮した。

あじじまん大会1 あじじまん大会 あじじまん大会 うどん作り うどん作り そば作り

1 1【

ホットケーキ けんちん汁 ハンバーグ きつねうどん けんちん てんぷらそば

ピザパイ ぎょうざ やきとり たぬきうどん うどん きっねうどん

ジュース おにぎり バーベキュー

⑦      (亙)     ①      ⑩      ⑪      ⑫

お母さんにご ソそうしよう

ォつね{〜鍍たぬき{薯難

年こしそば

?閧

ッんちんそば

もちやき大会 ォなこもち

? こもち

もちつき大会 オょうゆもち ネっとうもち

にんじんケー L作り

jンジンケーキ

パーティーを オよう Tンドイッチ Pーキtルーツポンチ 竄ォとり

(3)

石川他:精神薄弱児における自主的活動を育てるための指導法の探究        119

⑤ 活動の展開 (単元名「みんなでつくる日」)

この活動は教育課程の中で特別活動に位置づけ, 「みんなでつくる日」という名称のもとに12回 実施した。活動を展開するにあたっては事前に担当者が指導計画案を作成し,それを全教官で検討

し修正を加え,より生徒が意欲を持ち主体的に活動に取り組めるように構成した。次に,「みんな でつくる日」活動計画第1回,第12回を例として示す。

第1回「みんなでつくる日」活動計画

1.題 材  あじじまん大会1(ピザパイ,ホットケーキ,ジュース)

2.目 標 。いろいろな経験をさせ,楽しく活動に参加させる。

。集団での活動を通して,自主的,協力的に取り組む態度を養う。

3.活動計画(6時間扱い)

第1次  立案,計画,準備………・…・・2時間 第2次  実施………・…・……・…………2時間 第3次  反省………2時間 4.本時の指導

(1)目 標 。仲間と協力しながら調理し,楽しく会食ができる。

。安全を配慮して,自分の役割を理解し,意欲的に取り組むこと ができる。

②準備・資料

テーブル,テーブルクロス,VTR,カメラ,テープレコーダー,

花びん,花,台ふきん,ティッシュペーパー,あじじまん大会看板

③ 展 開

時 間 内 容 と 活 動 形  態 留 意 事 項

1 本時の活動内容について聞く 全  体 ・時間の流れに沿った活動が展開できるよ

。活動の流れ う時間の配分の概略をわからせる。

5分 。調理器具に対する安全への配慮 ・安全な器具の取り扱いを強調し,やけど,

。所属グループの確認 ケガには十分注意させる。

2 グループに分かれ活動する グループ ・生活訓練室に設置された各グループのコ

ピザパイグループ 一ナーに移動させる。

35分 ホットケーキグループ

グループでの活動は以下に一例をの

t   ジュースグループ

R 会食をする 全  体

せる。(4)

・各グループで調理されたものを, ・食べ方は立食形式でさせる.

30 それぞれ試食する ・グループで作ったものを少しずつ食べる

。試食した感想などを話し合う よう指示して試食させる。

4 あとかたづけをする グループ ・自由に感想を述べさせる。

。調理器具 ・電気器具や壊れやすい物(ガラス器等)

15分

。食器 の取り扱いを指示し注意させる。

↑5分 5 次時の活動について話し合う 全  体 ・内容を話し合い,次時への動機づけをは ゥらせる。

(4)グループ活動計画案(一例)

ピザパイグループ

(4)

個別目標

氏 名 性 別 目       標

0・M 。あきずに最後までピザパイを作ることができる

S・K 。種類のちがうピザパイを作ることができる

S・S 。教師の少ない援助でピザパイを作ることができる

準備・資料

〈身支度〉 白衣,三角巾,手ふき

〈材料〉 冷凍パイ皮,サラミソーセージ,ベーコン,ハム,ピーマン,グリンピース,

マッシュルーム,玉ねぎ,ピザソース,ピザチーズ

〈用 具〉 オーブン(3)パイ皿(3)ボール(1)中皿(7)小皿32スプーン(3)包丁(3)

ケーキサーパー③ フォーク(3)お盆(7)

〈資 料〉 調理手順表,準備物表,コーナー標示 ウ 展 開

時 間 内 容 と 活 動 留  意  事  項

1 準備をする ・準備物表を見ながら,それぞれ持ち寄った材料に過

。材料と用具を確認する 不足がないかをS・Sを中心に確かめさせる。

・個人で購入した材料

・グループで購入した材料

5分 ・用具

。調理の手順を確認する ・調理の手順表を見ながら,作り方をはっきり理解さ

。具の種類 せ,意欲をもって活動できるようにさせる。

・具ののせ方 ・オーブンは高温になるので,取り扱い方には十分注

・オーブンの扱い方 意させる。

・盛りつけの仕方

2 ピザパイを作る ・材料は家庭で事前に購入させ,下ごしらえをして持

。パイ皮に具をのせる 参させる。

。オーブンで焼く ・S・Sには,焼き上がりの彩りなども考えて具の組 30分 ・焼け具合を見る み合わせを工夫させる。

3 盛りつけをする ・チーズの溶けた時点で取り出させる。

。オーブンから取り出す ・熱いので,やけどをしないように注意させる。

。切り分ける

(5)

石川他:精神薄弱児における自主的活動を育てるための指導法の探究       121

第12回「みんなでつくる日」活動計画 1.題材  パーティーをしよう

2.目 標 。手順と役割を理解し,意欲的に取り組む態度を養う。

。安全に留意し,仲間と協力しながら楽しく活動に参加させる。

3.活動計画(7時間扱い)

第1次  ・立案,計画,準備………2時間 第2次  実施………・…・…・………4時間 第3次  反省………・…・…・…・……・…・1時間 4.本時の指導

(1)目 標 。各グループごとに,仕事の手順や役割を理解し,仲間と協力し ながら楽しく活動することができる。

。安全に留意して,自分達の力で調理することができる。

② 準備・資料

テーブル,テーブルクロス,VTR,カメラ,テープレコーダー,

花びん,花,台ふきん,ティッシュペーパー,花かざり,ペーパ 一フラワー,看板

(3)展 開

時 間 内 容 と 活 動 形  態     留  意  事  項

1 活動の流れについて話を聞く 全  体 。パーティー開始の時刻を確認させ,時間

。パーティーの日程 の流れにそった活動を考えさせる

15分 2 調理場所についての説明を聞く 。調理器具の安全な取り扱い方を発表させ,

。各グループごとの活動場所 注意して活動するように指示する 3 各グループごとに調理する グループ

サンドイッチ グループでの活動は以下に二例をの

やきとり せる(4)

30分 フルーツポンチ ケーキ

4 会食の準備をする 全  体 。パーティーの目的を確認させ,その内密

。テーブルを並らベクロスを掛ける に即した場の設定を工夫させる 30分 。花を飾り,調理したものを並べる        Eプログラムにそっての活動がスムースに

5 パーティーをする できるよう援助を与える

。会食 ・自分達の作ったものばかりでなく,他の

2時間 。演技 グループのものも試食するよう指示

6 後かたづけをする する

3 。調理用具 。楽しい雰囲気の中でパーティーが終わる

。テーブルなど ように配慮する

(6)

サンドイッチグループ やきと.リグループ 1 活動内容について話し合う 1 活動内容を確認する

。仕事の手順と役割の確認 。手順と役割の確認

。材料,用具の準備と確認 。材料と用具の確認

2 サンドイッチ作りをする

。下ごしらえをする(S・S) 。下ごしらえをする(0・H,T)

。卵サンド(K・Y) 。ねぎを切る(0・Y)    ・

。ハムサンド(K・N) 。串にさす(N・N,T)

o野菜サンド(0・M) 。たれをつける(0・H)

。サラダサンド(S・S) 。金焼で焼く(0・Y,N・N, T)

3 盛りつけと後始末をする 3 盛りつけと後始末をする

o

㈲ 結果(生徒の変容)

我々は「みんなでつくる日」の活動を単元として12回(1週間に1回,計24週), 時間(1単 位時間50分)実施した。その結果として活動状況の変化を第1回目と第12回目を比較して以下に示す。

能指 調理に関する特徴 性 知 調理に関する特徴

学 校 生 活

能指

学 校 生 活

数WISC 活動内容の理解 指示の理解 指交の反応 役割意識 協力的態度 技術 生徒の活動 親の協力関心

数WISC 誉ホの理解 指交の反応 役割意識 協力的態度 技術 生徒の活動 親の協㌘関心

K・T 1 48 O K・T 1 48 0 O O

N・N 1 52 × N・N 1 52 O X

0・Y 1 女 37 X × × × X × 0・Y 1 37 0

0・M 1 女 35 X O・M 1 35 0・H 2 43 × X × × X x × X 0・H 2 43 × K・S 2 34 O X X K・S 2 34 K・N 2 × X X X K・N 2 S・K 2 40 O O S・K 2 40 O .◎ O X

1・K 2 女 罷 X X X 1・K 2 O o × ×

K・Y 3 46 X × × K・Y 3 46 O

S・S 3 68 O S・S 3 68 O

M・K 3 X X × X X M。K 3 O

〈あじじまん大会1(第1回目)〉 〈パーティーをしよう(第12回目)〉 

※ ◎……すぐれている  O……ある,できる  △……ややある,ややできる  x……ない,できない

(7)

石川他:精神薄弱児における自主的活動を育てるための指導法の探究        123

3.研究の成果

第1回と最終回(第12回)の活動の実態を比較すると,明らかに生徒の変容が指摘できる。自主 的,自発的な態度の視点から考察を加えるならば,それまで指示によって活動していた生徒が,自

ら課題に取り組もうとする姿勢が見られ,活動にも積極性が見られるに至った。特に低IQ(測定不 能も含む)の生徒達や活動に意欲の持てない追従型の生徒の伸びが顕著に表われている。それは,

日常生活においての失敗体験から生じる消極的な行動をこの活動によって,物事を成し遂げた成就 感,つまり,達成体験を徐々にではあるが積み上げてきたことに大きな要因があると推察できる。

また,集団参加という観点からは「自分の役割を果たそうとする姿勢」にかなりの生徒が伸びを見 せている。しかし,「協力(手伝う,助け合う)する姿勢」の伸び率は予想に反して低調であった。

それは,この活動自体が個人の意欲態度に焦点を当てた条件下で実施されたことから,この事態は 当然の状態であるとうかがうことができる。また,生活経験の拡大という視点においては知識技 能の高まりとして例えば,包丁の使い方(切り方,きざみ方),用具の安全な取り扱い方,また,

調理の手順の理解などに伸びが見られている。

我々はこの実践において,活動に対する意欲を育てることが知識,技能の習得に対しても,有効 に動機づける要因となっていることの示唆を得たと言える。また,評価項目の「自主的な態度」に 伸びのある生徒は,それ以外の項目にもかなりの伸びが見られている。つまり,自主的,自発的行 動力の伸長は,他の評価項目ともかなり相関が高いように思われる。

4.まとめと反省

対象が12名という少人数であったため,一般的な傾向を統計的に結論づけることをさけ,生の行 動記述による特性分類から傾向をとらえた。従って,今後は対象の範囲を広めて,客観的に追証で きる方法を生み出したい。今回の研究では,精神薄弱児の自主的,自発的活動の伸長を図る指導に おいては教師のかかわり方(指導条件及び姿勢)に大いに左右されることが確認できたことは成果 であった。特に能力の低い生徒達にとって,教師が共に仲間として活動する中で,つまづきを援助 し,小さなことでも達成体験を積み上げることが自主的,自発的活動を育てる上で最も有効と考え られたのである。障害の重い生徒の指導としては,教師の方で内容を準備し組み立てる指導を与え るばかりでなく,興味,関心に根ざした素材を生徒自身に選択させ,ニードに合わせて内容を構成 する指導を教育課程の中に,ぜひとも組み入れたいと考える。特に意欲,態度(集中力)などの行 動の側面に焦点をあてた指導においては障害児の社会的自立をめざす上で,重視されなければなら ない分野である。

最後に,本研究を通して残された課題は,評価の項目の妥当性と教育工学的手法に基づく資料処 理の方法など継続的に検討を加えていかねばならない。

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