精神薄弱児 の Personality
Ⅰ
「「Rigidity」の概念についての文献的研究
水 田 善次郎
1 精神薄弱児のPersonalityに関する:Lewin, K・の力学説
人に関して一般的力瘤理論の見地に立つLewinは,(6)「精神薄:弱は単に知能面だけに欠陥があ るのではなく,Personality全体が弱い」という考えに立脚し,精神薄弱についてもその梅南理論 を展開させた。すなわち,Lewinは知能検査で取り扱われる成績のような現象面によって精神薄 弱の特質を理解せんとする立場をのり越え,現象の基底に働く力動的組織を把握し,心理過程その
ものの特質を探究することによって,精神薄弱の人格構造の特異性を明らかにしょうと意図した。
:Lewinは人相互の間に差異の生ずるのは, q)全体系の構造,(2)体系の素材及び状態,(3)体系の意 味的内容,以上三者における相異によるという理論的見地に立っている。この一般理論から,:Lewin は精神薄弱児のPersonalityの構造を次のように説明している。精神薄弱児は幼児の場合と同じ
く,分化の少ない構造をもった人と定義される。すなわち,同じ生活年令の正常児よりも,心的領 域の数が少ないのである。しかし精神薄弱児は分化度においては幼い正常児に相当するけれども,
両者は全く同じとはいえない。分化度の等しい精神薄弱児と正常児との間にみられる主要な力学的 差異は,前者においては心的体系における硬さが大きく,従って,さらに力学画品体制化に対する 受容力が小さいことにあると考えられるといっている。この考えに基づいて,Lewinは人間の発達 を心的構造と,それを構成している心的素材とによって説明するために,心的構造を分化度で表わ
し,心的素材を硬さの概念で表わし,これら分化度と硬さの概念を用いて,発達を連続的統合的に とらえようとした。すなわち,生活年令が増せば分化度は増すが,同時に硬さも増す。従って,分 化度が増大すれば経験の場の構造化も促進されて知的mobilityを増大させるが,他方硬さが増大 するために知的mobilityは滅掬する。このように分化度と硬さとが変化しながら,互いに,しか も種々に組み合わされて,人間の発達過程を特色づけるとした。そしてLewinは硬さを精神薄弱 児のPersonalityの原型的構造と考え,精神薄弱児は素材の質が正常児にくらべて特に非可動的す なわち硬いために,たとえ他の条件が同じであっても,分化が妨げられ,その発達はおくれるとい っている。また高度の分化と外部へのmobilityが等価であるという考えがもし正しければ,ある 条件のもとでは精神薄弱でさえも,生活年令が増加するにつれて,実際行動の大きなmobilityが 顕著に現われねばならないともいっている。
以上のような理論は,Lewinとその弟子たちが行った実験:に適用された。その実験とは飽和過 程,中断作業の再行,代償作業の代償価に関する三種の実験である。
(1)飽和過程に関する実験
心的飽和は要求の力学と密接な関係にあるという見地から,描画活動における飽和実験を試 みた。すなわち, 8才乃至11才の魯鈍級児(若干名の軽い痴愚級児を含む)の精神薄弱児と対 照群として選ばれた同じ生活年令範囲の正常丁丁に, 「月の顔⊥の絵を継続的にいやになるま で描かせ,いやになったら自分の好きな自由画を描いてもよいと指示し,描画活動における心 的飽和過程において精神薄弱児群と正常児群がどのような様相を示すかを明らかにしょうとし た。その結果,全体的飽和時間については両群の間に大差は見られなかったが,飽和にいたる 過程にはかなり著しい差異が見られた。正常児の飽和過程は漸進的で,描画の意欲と飽和の抗 争を弾力的なやり方で切りぬけている.一方,9才以上の精神薄弱児はいつまでも「月」の絵 だけを描き続け,自由画は殆んど描いていないし,月を描いてしまってから二次的動作(休憩 とか道草)が多く現われている。これは,精神薄弱児においては,描き続けようとする意欲と 飽和の雨しとの葛藤が正常児より強いためであると解釈される。精神薄弱児は作業を一生懸命 やっているか,休憩してそれを全く止めているか,他の作業が加わるかのいずれかである。こ のような精神薄弱児の「一か八か」の心理特性について,Lewinは「機能的硬さ,心的素材の 非可動性こそ,知的欠陥の真因をなすものと考えられる」といっている。
(2)中断作業の再行に関する実験
ある課題に熱中している時,何らかの口実をもうけて,その遂行を中断し何か別の課題をや らせ,その第二の課題を完了した後,30秒位そのまま放っておくと,中断未完了課題に復帰す る傾向があるが,復帰する率は,正常児は79%,精神薄弱児は100%であった精神薄弱児の復帰 率の高いことについてLewinは精ネ申薄弱児の場合には,中断された行動に対する緊張体系が 何時までも崩れず,持続していることをあらわしているとし,これは精神薄弱児のrigidityの 強さを示すものと説明している。
(3)代償行動に関する実験
第二の課題を最初の課題と内容,様式,材料,難易の度,その他において類似したものにし て代償価をみた。8才乃至9才の精神薄弱児i群と, 7才乃至8才の正常一群との比較をしてみ ると,正常児の再四望は33%に滅少し,精神薄弱児の再行率は94%に滅少しただけであった。
また,実際上第一課題と第二課題を同じにした場合にも,精神薄弱児の再行率は84%に滅少し たに過ぎなかった。この結果について,Lewinは精神薄弱児は一方向的に固着し,他の行動 に順応的に移行し,あるいは内容的に移調的に進むことによって満足することはない(つまり 代償されない)。剛直性ないしは心的素材の性質が硬いためであると説明している。
Lewinはこのように力学理論的に全人格における心的領域の分化と硬さという二つの面から精神 薄弱児の本質を説明している。その意味においては精神薄弱の研究にとって貴重な価値あるものと 思われるが,佐藤氏⑫Dが人格の構造について, 「(1)複雑性,(2)同時的及び継時的,統一性,(3)開放
(78)
性:人格の内部と外部との交通性の大小,(4)安定性:外部からの圧力に対する抵抗安定性,(5)広大 性:人格の広さ,(6)変通性:人格のいろいろの特性をあらわし,いろいろの態度をとりうる自由性 であり,これには行動または体験の可塑性または柔軟性と自律性の二つの要因を含むと考えられ る。」といっているように,心的領域の分化と硬さだけで人格構造を十分に説明できるかどうか問題 であろう。大西氏個もこのようなことを指摘している。また,大西氏πの飽和過程,中断作業の再 行実験,撃墜氏⑳の中断作業の野梅実験,隠岐氏㈲の代償行動などに関する追試実験の結果から夫 々指摘されるように,精神薄弱児が課題をどう意味づけていたか。課題の構造の困難度,複雑性が どう扱われていたか。被験者と実験者との関係あるいは相互交渉の仕方はどうであったか。課題に 対してどんな目標が設定され,課題状況がどうなつ一ていたのかなど,Personality理論を導き出す 方法の粗雑さに問題が残されているのではないかと思う。
五 「Rigidity」の概念についての論争 1,Kounin, J. S.の見解
:Kounin, J・S.(3)(4)はLewinの説く精神薄弱児のPersonalityの構造の硬さについて,「硬さは 隣…接諸領域間の交通(Communication)を阻害する境界の機能的性質である。領域Aと領域B の交通の程度は,BへのAの影響の度合い,もしくはAへのBの影響の度合いによって定ま る。すなわち,領域Aと領域Bは,Aしの状態の変化がBの状態を変化させる程度に交通してい る」と定義し,硬さの程度は生活年令(C.A.)と共に増大すると仮定した。このことから推論し て,精神年令(M.A)が等しい時には,硬さの程度は精神薄弱の程度と正の一次函数であると仮 定した。そしてKouninはこの仮定を基礎とし,仮説演繹法(hypothetico deductuie method)
を用いて,M. A.が等しくC. A.の異なる種々の条件下において,行動の差異に関する種々の法 則を見出そうとした。すなわち,M. A.をほぼ等しく(6,8才乃至6,10才)する正常児(平 均C.A.6,8才),精神薄弱児(平均C. A.14,5才),精神薄弱者(平均C。 A 41,7才)の 三群の夫々を被験者として,次のような実験を行った。
(1)飽和と共飽和に関する実験
「M.A.が同一であれば,一つの要求に対応した飽和が,隣接する他の要求に対して共飽和を起 す程度は,C. A.の多いものほど少ないだろう」という仮説に基づき,描画活動における共飽和 度の測定をした。すなわち,M. A.の等しい正常児型・精神薄弱児群・精神薄弱者群の各群に,
最初猫の絵を描かせ,猫の絵を描くのに飽いたら,次にカブト虫を描かせ,それにも飽いたら今度 は海亀を描かせ,最後に兎を描かせた。この実験は一つの動物を描く活動は,他の動物を描く活動
と,程度は異っても共飽和するだろうという仮定にもとずくものであった。共飽和の程度は ピ
猫の飽和時間一廻ブト虫(海亀,兎)の飽和時間 ×100
≠副食包禾ロキ旨数=
猫の飽和時間
によっ測定された。その結果,共飽和は正常児の場合に最大であり,精神薄弱者の場合に最少であ った。共飽和は活動諸領域間の「Communication」を示すと仮定されているので,:Kouninは共 飽和度が最大である正常児はrigidityが最少であり,共飽和度が最少である精神薄弱者はrigidity
が最大であることを示すとし,「rigidityはC. A.に関してもまた精神薄弱の程度に関しても,正 の一次函数である」という先の仮定は支持されたとしている。
(2)習慣の転換に関する実験
「M.A.が同一であれば,年長のものほど,領域においても隣…部活動に影響されることが少ない だろう。」という仮説を立て,一度確立された習慣が,別の活動に対して転換される程度について実 験を行った。すなわち,レバーを「押せ」ば,箱の中にはいっているおはじきが,外へとび出す仕 組になっている遊びをさせて, 「押す動作」を習慣づけ,次に今度はレバーを「上げ」なければお はじきが出ない.ような仕組に変えた時,前の習慣がどのくらいスムーズに転換するかをみようとす るものである。実験の結果,転換の失敗の回数は正常児が一番多く,次いで精神薄弱児,精神薄弱 者の順℃あった。これは正常児の方が精神薄弱者よりも,はじめの習慣づけられた「押える」動作 に固執する度合が大きく,そのため新しく課せられた「レバーを上げる」動作に転換することが困 難であることを示すものである。この結果からK:ouninは,正常児にとっては,「押える」動作が 正反応である場面と,「上げる」動作が正反応である場面のこの二つの場面がoverlapしている場 面であるのに対して,精神薄弱児及び精神薄弱者にとっては,二つの場面はお互に頑固に分凝して いる場面であると結論した。かくて「M・A.が等しければ年長者ほど一つの活動領域が他の活動領 域の影響を少なくうける」という第二の仮説は支持されたとしている。
(3)分類による統合に関する実験
「M.A.が同一であれば, C. A.が増すにしたがって,外見上明らかでない新場面を比較的多 数の独立した構成部分に分節するだろう。」という仮説のもとにカード分類実験を行った。被験者に 色や形の異なる25枚のカードを与えて,それを任意の基準で5っのCategoryに分類させるもので ある。実験は次の二系列から成り立っている。
A系列=黒,黄,緑,ピンク,赤の5色からなるカード
B系列:色と形の共に異ったカードで,形は三角形・正方形・円・十字形・星形の5種,色は 各形態とも紫青・藍青・巨財(濃度:3段階)の5色
実験の結果は正常児は色または形による正確なCategory原理によって分類しているものが多い。
これに対して精神薄弱者は全くなんらの原理も立てず・でたらめの基準で分類しているものが多 い。これについて:Kouninは,精神薄弱者にとっては夫々のカードは独立したものとしてとらえら れ,それらを包括的全体にまとめることが困難なためと解釈し,このような個々のものの独立性は 彼らの心的構造の硬さによるものだとし,第三の仮説も支持されるとした。
(4)分類による再構成に関する実験
「M.A.が同一ならば,年長であるほど,所与の場面を再構成することが困難であろう」という 仮説にもとづきカード分類実験を行った。
C系列:形はB系列に同じで,色は黄色
D系列:色はA系列のものと同じ,形はB系列と同じ。
カード分類ははじめ3回までは実験3のやり方と同じであるが,4回目からは「これまでとちがっ (80)
たやり方でやりなさい」と教示し,新しい分類基準ができるまで10回やらせる。実験の結果は新し く見出された分類基準の累加数で表わされ,正常児は6試行目にはユ00%新しい基準に達したが,精 神薄弱者は10試行目になっても20乃至30%に過ぎなかった。これについてKouninは,精神薄弱者 の場合一度決めた基準に固執し,新しい課題の要求される事態に変っても,それに適応することが 困難であることを示し,これは精神薄弱者の心的構造はその各領域間の壁が厚く,流通性に欠けて いるためであると説明して,先の仮説は検証されたとした。
2,Werner, H:.の見解
Werner, H(12はrigidityという言葉は発達心理学,比較心理学,異常心理学において行動分析 じのために価値ある概念だとしている。そして観察や実験の結果に基づいて, rigidityは種族発生 的にはもちろん個体発生的にも,発達と共に滅少するものであると提言した。 さらに進んで,
Werner(1鋤はrigidityの観点から精神薄:弱児の類型的研究を行うに際して, Lewin以来採られて いるrigidityの概念はあいまいであることを指摘し, rigidity概念について独自の理論的考察を 行っている。Werner働の指摘した第一の点は,従来rigidityの概念を定義するに際して,ある人 はそれを構造的に定義し,他の人は機能的に定義しているために,両者の間に矛盾した主張が生ず ること。第二の点は,rigidityの概念とStability(differentiation)の概念の混同のために,あ いまいな陳述になっていること。第三の点は,rigidityは多様特性ではなくて単一特性であると仮 定したために,不当な概括がなされていること。以上三っの点を指摘し・ている。
Wernerによれば,機能的意味におけるrigidityは,反応の変容(variation)の不活発さに関 連している。反応の変容能力(variability)が欠けているのは,種族発生的にも個体発生的にも低 級な有機体の特徴だということが見出されている。またこの特性は脳損傷者に観察され,器官がお かされていないfrustration状態の人の行動特性としても現われる。
KouninはLewinの人格構造理論を採用し, rigidityを心的体制の準物質的性質と仮定した。
すなわち,人は境界を有する領域によって構造化されていると考えられる。そしてrigidityは分離 の程度すなわち領域の相対的独立に関連している。独立の程度が大であればあるほどrigidityの程 度も大であるといっている。
WernerはKouninのこの定義の有用性は疑わしいとして, LewinやKouninの行った飽和 の実験をとり上げ,それらの難点を指摘している。すなわちLewinはその実験結果について,一 つの飽和した活動から同じ分野の他の活動にかわる傾向の欠けているのはrigidityのしるしである
と主張し,他方Kouninは,その実験結果について一つの飽いた活動から同じ分野の他の活動に変 わるのはrigjdityのしるしであると主張している。 L,ewinとKouninは飽和実験によって得ら れた同じ結果について,互に矛盾した解釈をしているが,このことについてWernerは,・一般に活 動が単調であるか,またははっきりきまった活動であれば精神薄弱児は正常児よりも飽和し難いと いわれるように,両者の解釈の矛盾は,被験者の独特な心的構造と一定の作業との力動的な関係を 無視した結果生じたものと思われる。すなわち,LewinとKouninの実験の結果は,機能的rigidity の観点に立てば,その矛盾を解消させることができるが,K:ouninの構造的rigidityの観点から
はその矛盾を解決することはできないといっている。
次にWernerはrigidityの概念を明確にするために, Stabilityもしくはdifferentiationを 導入し・それらの関係について・「どちらかといえばrigidityとStabi!ityは心理学的内包にお いて差異がある……分化が少なければ少ないほど,行動はよりrigidになり,しかも安定性が少な
くなるだろう。行動の安定性が得られるためには,有機体がその直面した種々の場面との機能的バ ランスを保つための反応の可塑性を必要とする。」と説明し, 「rigidityはCA,と正の一次函数 である」というKouninの陳述は,明らかにこの二つの概念の誤った同一化に基づくものであると 批判している。
WemerはKouninの第二・第三の実験をとり上げ,次のように説明している。すなわち,第二 の実験に対して,彼の論証は日常用いられ且つ,臨床的に十分確立されているrigidityの概念と 全く反対の概念を含んでいると批判し,簡単な運動的作業は精神薄弱児と正常児において,それほ ど違いはないといっている。それでKouninのrigidity概念を用いるならば「正常児は年少であ ればあるほど運動的作業の場合には転換することがうまくいかない,すなわち,より固執的であ
り,従ってよりrigidでない」という反対の結論をしなければならなくなり,しかも適応性は柔軟 性の結果ではなく,硬さの結果として現われてくるという語義的に矛盾した結論をしなければなら なくなる。また,第二実験と第三実験を比較すれば,両実験とも転換能力に関する実験であるとい う意味で,共通の性質をもっているが,第二実験においては,転換能力は精神薄弱者が最大で,次 いで精神薄弱児,正常児の順であるのに対して,第三実験においては,反対に正常児の転行能力が 最も大きく,精神薄弱児,精神薄弱者の順となる。Wernerは両実験の結果は矛盾していることを 指摘し,構造的rigidityによっては,この矛盾を解消させることは不可能であるとした。運動test
(第二実験)では,精神薄弱者が正常者の行動にもっとも近く,カード分類(第三・第四実験)で は,正常児が正常者の行動に最も近かった。だから論理的にはこの二つのtestの両方ともではな
くて,いずれか一方のteStの結果だけが,精神薄弱者の高度のrigitityを実証することができ る。もっと詳しく言えば多分精神薄弱者は,カード分類testでは,正常児よりも,よりrigidに 行動するが,他方運動testでは,正常児よりも少なくrigidに行動するというのが本当であろうし
というのは,精神薄弱児がカード分類testにおいて,正常児よりもrigidに境界づけられ分類さ れているためでなく,精神薄弱児の具体的な思考様式によるものであろう。未分化な人は色や形の ような抽象的概念を用いて分類するというより,知覚的な具体的布置によって分類する。一度具体 的布置が形成されると,抽象的概念による分類が形成された場合よりも,色や形による分)誤による 抵抗が大きいといい,subnomal rigidityの特性としての機能的分化の欠品に関係づけることがで きるといっている。さらに一つの局面から他の局面への転行のrigidityは生活年令と共に通常滅 少することがわかったといっている。
感覚運動testや分類testにおいて,精神薄弱児の行動が正常児の行動と差異があることは,
それらのtestが性質の異ったtestであったためであると証明することができる。すなわち精神 薄弱者は,簡単な具体的運動のtestにおいては,殆どそのおくれを示さない。そこで精神薄弱者の (82)
動作は正常児よりも賢明な方法で行われるのに対して,正常児の感覚運動動作は総体的な分離でき ない全体という観点においてなされる。だから一部分の変化が求められても,今まで習得したやり 方に固執するか,誤りの運動をしてしまうのである。反面,精神薄弱児は抽象的概念構成を必要と するtestにおいては,能力以下の動作をする。如何なる分類testにおいても,一つの局面から 他の局面へ十分な乱行ができるのは,あらゆる対象を種々の性質という観点で分化させてみること ができる場合だけである。それで分類testの場合も,正常児はその難易の程度に応じて,転行ず る能力が精神薄弱児(者)より優れているか或は同じ程度にrigidであるかのいずれかであるかも しれない。だからWemerは分化の二二の現われ方は,個人の型と作業の型によって様々ではあ るが,それはrigidityの根本原理と考えられるとし,作業の性質と個人の活動の型との関係を次 の表のように整理している。
課題の性質
具体的運動 概念的抽象
活 動 の 型
分化度の小(rigid)
年 少 の正常児
分化度の大(flexible)
年長の正常児,精薄児
年少の正常児,精薄児 年 長 の正常児
従来一般に精神薄弱者の行動特性としてのrigidityは,単一特性であると仮定されていた。し かしながら精神薄弱にもいくつかの型があって,同じく精神薄弱者の聞においても,その心的体制 はお互いに異っていることが知られるようになったため,WernerとStruss(11)は従来の仮定に疑 問をもち,rigidityの種類は有機体の状態によって,質的にも量的にも種々に区別することがで きることを示し,rigidityと生来性の精神薄弱児,脳損傷型の精神薄弱児との関係に関心をよせる ようになった。そしてWemer職まM. A.をほぼ同じくする脳損傷型の精神薄弱児(平均M. A.9.0 才)と生来性の精神薄弱児(平均M.A.9.1才)夫々18名を被験者として,①音のリズムの再生,
②絵の再生,③点図形の再生,④語系列の再生の4っの再生実験を行い,二つの精神薄弱児群の間 に,固執の質及び量に関して差異があることを見出した。すなわち,脳損傷型の精神薄弱児は系列 内で同じリズム形式を1回以上間違ってくり返えす反復性固執(repetitive perseveration)や,
前に2回提示された型式と同じリズム型式の反応を,系列の後半になって突然間違って再び示す遅 延固執(delayed perseveration)をするものが多かったが,生来性の精神薄弱児にはそのような 反応は滅多にみられなかった。そして生来性の精神薄弱児においては,すぐ前に提示されたリズム 型を,そのままくり返えす単純固執(simple perseveration)が多かった。
Wemerは脳損傷型の精神薄弱児の硬さをabnormal rigidityと呼び,生来性の精神薄:弱児の 硬さをsubnormal rigidityと呼んだ。そして, subnormal rigidityは分化の欠除によるもので あり,諸領域相互間が明確に分化していない場合は融合する傾向があり,stereotypeな反応をひき 起すのであると結論している。それに対してabnomal rigidityは多分機能的isolationの結果で あり,感覚運動的諸活動が異常なくらいに独立した別の活動になっているのだろう。それで,行動
が一致しなくてもそのことに無頓着に反復されるのだろうといっている。
3,Kounin J. S.の反論
以上のようなWernerの批判に対して, Kounin(5)は次のように反論している。自分の定義は物 理的意味をもった構造的概念であり,構造的概念では行動の基礎になる機能的準準を十分に考慮し
ていない。 また,常識的解釈と全く逆の解釈を導いている場合があると批判している。しかし,
rigidityの構成が「機能的」か「構造的」かどうかという問題は,それらの言葉が如何なる意味で 用いられるかという問題であり,Kounin自身は機能的概念を取扱っていると信じていた。また,
Kouninはrigidityを行動特性として定義しているのではなく,構成上の特性として定義してい る。また,rigidityの程度は人格構造のすべての領域で同じとは仮定していない, rigidityの程 度は同一人の異った領域内では差があるであろうし,異った個人の対応する領域間においても,
rigidityの程度は異なるであろうと述べている。かくて Kouninは, rigidity概念についての Wemerの見解と自分の見解の差異は, rigidityのとらえ方が顕型的(phenotypical)か元型的
(genotypica1)かの違いにあるのであって, Wernerは顕型的にとらえたのであり自分はrigidity を二型的に捉えたのであると答えた。
記述的,山型的概念としてのrigidityは,観察された動作を言葉で表現する場合に種々に使われ てきた。それらrigidな諸動作は大ざっぱに④stereotype(紋切型),◎perseveration(固 執性),⑳fixity (定着),㊥lack of variability(変化性の桜台),㊥pedantry(細事拘 泥),㊦inflexibility(非柔軟性)などのように記述することができる。これらの言葉は日常使わ れる言葉の記述的意味であり,またある臨床家の常識的意味を構成している。このように,これは 行動の型に関する顕型的概念であり,行動がperseverativeかnon−Perseverative,, flexibleか inflexible, stereotypeかvariableかなどによって,ある行動をrigidとし他の行動をnon−rigid と分類するところの顕型的概念である。自分はrigidityという言葉に関する上述の顕型的用法を十 分に心得ていて,この一般的な準記述的(quasi−descriptive)用法と実験的研究に用いられた rigidityの構成との聞を明白に分けた。このような硬い行動を起す要因としての内部的rigidity以 外のものとして,次に示すA,B, Cの因子を指摘し,むしろ自分の方が力動的rigidityを問題に
しているのだとしている。
(A)人や心理学的環境の分化の程度:分化度の少ない人はより少ない行動内容をもち,種々の 行為の可能性が少ないので,よりstereotypeな方法で行動する。
(B) 当面の問題に関連した諸領域の分化の程度:分化の程度というのは単に人や心理学的環境 の一般的分化の程度だけでなく,もっと特殊的に,個人の行動が生起する特定の場面に関連した領 域の分化の程度のことである。一般的に高度に分化している人は,特定の場面には適用できないの で,ある場面においてはillvariableな方法で行動するかもしれない。他の領域においては高度に 分化していてvariableな行動を示すかもしれない。
(C)多方面にわたる動機づけの因子:種々の動機づけの因子は,例えば失敗に対する恐怖,結 果の不確かさ,強い強制的欲求,,inflexibleな目標,繰返された失敗, frustration, incecurity・
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低い成功への期待などの如き,非常に一般化された行動的rigdityの山型的概念の中に含まれる Perseverative, stereotype, inflexible, invariableな行動の存在を考慮しているかもしれない。
4,Goldstein, K, Sarason, S. B.の見解
Goldstein, K.(1)(2)やSarason, S. B.(8)もKouninの構造的rigidityに反対している。
GoldsteinはKouninの構造的rigidityに対して,課題状況ないしは構えについて批判する。
そしてrigidityは有機体がその環境を適当な仕方で処理できないときに起るもので,破局的状態 に対する自我防衛の手段であると説明する。つまり,その人の能力以上の課題が与えられた場合と か,不適当な状況におかれた場合に生ずる働きがrigidtyであるといい。 Sarasonはrigidityを 問題にする場合には,課題の性質,個人の能力及び課題や状況での心的構えなど多くの要素を検討 しなければならないと強調し,Kouninの仮説には賛成できないとしている。 Sorasonは自ら,、
M.A.が同一の精神薄弱児でも,その行動様式や知的能力に関する成功,失敗の場合では種々のタ イプを見出すことができるとしている。さらに,Kouninは被験者群の施設入園期間を考慮してい ないことを指摘し,rigidityの増減には, C A.の増加によるよりも個人の主体的条件を多方面か ら吟味する必要があると説いている。奥、野氏の(1眺知的能力とrigidityの関係を強調し,「ある年 令範囲ではM.A.を単に分化の程度のみの相関物と仮定するよりも,分化の程度とrigidityの程 度の交互作用との相関物と考えた方がよい」と述べて1(ouninの仮説を批判している。
rigidityに関する諸問題について続けられてきた幾つかの論争の跡を追ってきたが,それらの論 争の焦点はrigidityの概念の内容を如何に規定するか,そしてそれに関連した実験結果をどのよ うに解釈し説明するかという点にあるようである。Wernerが試みたrigidityに関する概念の整理 によって,Stabilityとrigidityとの異同や連関性などは,ある程度明確になったと思われる。ま た彼のrigidityの類型的研究は高く評価さるべきであろう。しかし, Wernerに対する異論がな いわけではない。毛利氏と藤野氏(23}はWerner⑬の実験と全く同じ方法で,正常児を対象に実験を 行っプこが,その結果は正常児の場合にもWemerのいう二類型反応と同じ傾向がみられ, Wemer が外因性固執反応と呼んだabnormal rigidityを示した正常児も,その病歴には頭部損傷や疾患な どの外因性障害は全く認められなかった。また,特定個人の各実験事態における反応型には一貫性 が認められず,個人の固執反応は事態によって異なり,ある精神機能をとらえる条件ではabnormal rigidity を示した個人も,他の事態では必らずしも同じ rigid な反応を示さなかった。 もし Wernerが主張するように脳損傷児はabnormal rigidityを示すのに対して,生来性の精神薄弱児
はsubnormal rigidityを示し,これは分化の欠除のためだという仮定が正しいとすれば,分化の 程度によってsubnormal rigidityは幾らかに分けられるかもしれないし, abnormal rigidityも 脳の損傷の部位や程度によって幾つかに分けられるのではないかとも思われる。
皿,最:近の研究の傾向 1,Plenderlith, M.の研究
Plenderlith, M(7)はM. A.の等しい正常児,精神薄弱児の夫々30名を被験者として,弁別学 習課題や反対弁別学習課題について調べた。被験者は同じ方法で,二つの対象の中の一方を選ぶよ
うに学習させられた。この弁別が学習された後,その対象がとり替えられた。そして被験者は前に は正しい選択ではなかった対象を選択する反応に変更するように求められた。実験の結果,精神薄 弱児は与えられた弁別学習または反対弁別試行において,正常児と有意な差を示さないことが見出 された。このことからPlenderlithはLewinや:Kouninが主張したような,精神薄弱児は正常 児に比べてrigidであるということを一般化することは妥当でないと指摘した。
2,Stevenson, H.&Zigler, E.の研究
Steve且son, H.&Zigler, E. G①はplenderlithの研究をとり上げ,:Lewin, KouninやWerner が夫々の立場からrigidityの概念を決定したことについて,概念規定はもっといろいろのtypeの 課題を用いた実験的研究の後になさるべきであると批判し,弁別学習についての二つの実験を行っ た。この実験は,生活空間内での境界は正常児より精神薄弱児がrigidであるというLewinや Kouninの理論から推論される仮説の妥当性を調べんとして試みられた実験である。彼らは正常児
と精神薄弱児が最初の弁別学習場面において,習得したある一つの反応から,第二の弁別学習場面 で要請される新しい反応へ転換する能力について調べた。そしてrigidityの程度は被験者が,最初 の場面においては正しかった反応を,第二の場面の中にそのま\継続する固執的反応の相対的影響 の仕方によって測定されるとした。そして,もし新しい別の領域では別の活動をするようにあらか じめ被験者に教示を与えておけば,精神薄弱児の活動が正常児の活動より優れているだろうと仮定 されよう。かかる仮定に基づいてその硬い境界は生活空間の近接領域から反応の千渉を変えるだろ うと仮定して実験を行ったのである。その結果は,精神薄弱児は同じM.A.の正常児よりrigid であるという仮説は支持されなかった。そして今までの研究結果から,正常児と精神薄弱児の差異 は,賦払の動機づけの差異に関係があるのではないかということを提出した。
3,Zigler, E.の研究
Zigler, E.個は,施設にはいっている精神薄弱児は,大人との触れ合いも少なく,認められるこ とも少ないために,そのような触れ合いや承認を獲得しようとして,正常児よりもより高い動機づ けをもつだろうと仮定し,LewinやKouninによって報告された活動における正常児と精神薄弱 児との相異は,認識的な硬さ(cognitive rigidity)の差異というより,両群間の動機の差異と関 係しているという仮説のもとに実験を行った。先ずC.A.範囲8才乃至14才,M. A.範囲4才乃至
8才の男女夫々30名の被験者を,彼らの入園前の経歴によって社会的損失 (social deprivation)
の多い群と少ない群の二群に分け,肩入れゲーム(Marble−in−the−Hole)を行わせた。このゲーム はブルーとオレンヂの400個の球を二つの穴に夫々色分けして入れるゲームであり,「もう,これ以 上したくない」と実験者に告げるか,30秒以上球を入れなかった時,ゲームは中止される。このゲ
ームは球を入れる箱の二つの穴のうち,手前の穴にブルーの球を,後の穴にオレンヂの球を入れる Part工と,穴と球の色との関係がPart Iと反対のPart皿との二つの部分から成っている。そ して二つの強化条件で実施された。すなわち,第一の強化条件においては,Part IをNon−SupPort
(ゲームの仕方だけを説明してやらせる)Part I[をSupPort(ゲームの仕方の説明に続いて,「上 手ですね」「よくできました」など言語的支援また,ほほえみやうなずきなどの動作的支援もする)
(86)
すなわち,(NS−S)条件で強化し,第二強化条件においては,その反対の(S−NS)条件で実施し た。この実験における仮説は次の四つの事柄であった。
①(NS−S),(S−NS)の両条件の下で,社会的損失の多い群はそうでない群より,ゲームを 長時間続けるだろう。
② errorの割合は社会的損失の多い群ほど少ないだろう。
③ 社会的損失の多い群はゲームを最後までするだろう。
④(NS−S),(S−NS)のどちらの条件の場合でも,社会的損失の多い群の方がそうでない群 より,Part Iに費やす時間よりも長い時間Part五に費やすだろう。
実験の結果,より多く社会的に損失を受けたものはゲームに多くの時間を費した。すなわち・ゲー ムを最後までするものが多かった。また,Part工のゲームに費した時間よりも:Part皿のゲーム に費した時間が多かった。より多く社会的に損失を受けたものは,errorの割合が少なかったが・
5%の有意水準に達しなかった。これらの結果に対して,精神薄弱児に観察される硬い行動は・大 人との相互交渉を保つため,或は従順や忍耐を通して大人からの認可を得ようとする強い動機づけ のためだろうという見解に対して一層の支持が得られたとしている。
4,沢文治氏らの研究
謡扇と中塚氏19)は家庭児と施設収容児の硬さを比較した結果,人格的硬さは家庭児よりもむしろ 施設収容児により多くみられたと報告している。
5,ShepPs, R.&Zigler, E.の研究
外因性精神薄弱児は内因性精神薄弱児よりもrigidであるという先天的rigidityの観点に立つ 従来の見解に対して,ShepPs, R.&Zigler, E.(9)は,同じM. A.をもつ外因性精神薄弱児と内 因性精神薄弱児との間には,認識的な硬さ(cognitive rigidity)の差異があるのではなく,両者 の現わすrigidな行動の差異は,社会的援助(social supPort)や承認(apProval)を得んとす る欲求の差異の反映であるという仮説をたて,Zigler q物用いた感入れゲーム(Part I, Part皿 を含む)を実施して,①固執性(perseveration),②errorの数,③共飽和得点の三つの尺度に よって,この仮説を検証せんとした。
先天的rigidityの立場によって推論すれば,①固執性反応に関しては,外因性精神薄弱児は内 因性精神薄弱児より長くゲームを続けるであろう。②errorの数の尺度に関しては,外因性精神薄 弱児は内因性精神薄弱児よりerrorの数が少ないであろう。③共飽和得点尺度に関しては,外因性 精神薄弱児は内因性精神薄弱児より低い共飽和得点を示すことになるだろう。これに対して,動機 づけの立場から推論すれば,①ゲームへの固執は,大人との相互交渉の要求を反映するのだから,
相互交渉の要求が強くなればなるほど,固執の程度も大きくなるだろう。それ故に,両類型精神薄 弱児とも,単にやり方を指示するだけのNon−Support条件の場合よりも,うまくできたらほめて もらえるSupport条件の場合に,より長くゲームをするだろう。②errorの数は被験者の従順さ と関係があり,従順さが増せばerrorは少なくなる。従順さとは報いとして増加する。すなわち,
社会的強化の程度が増加するのである。それ故に,両類型の精神薄弱児ともNon−Suppo此条件に
おいてよりもSupPort条件においてerrorが少なくなるだろう。③仮定は共飽和得点に関して ひきおこされることはできないとしている。
被験者として選ばれた各20名の外因性精神薄弱児,内因性精神薄弱児の墓園を更に10名づっの Support条件群とNon−Support条件群の二つの条件群に分け,外因性精神薄弱児でSupport群,
外因性精神薄弱児でNon−SupPort群,内因性精神薄弱児でSupPort群,内因性精神薄弱児で Non−Support群の四群に対して,球入れゲームを実施した。その結果は,外因性精神薄弱児の場 合も内因性精神薄弱児の場合も共に動機づけの要因を重視する立場における予測と一致し,一方,
先天的rigidityの見解から推論される予言と全く正反対の結果が得られた。更に, M. A.を同じ くする両類型の精神薄弱児群の間には有意な差はなく,先の仮説は支持された。
6,本明氏らの研究
本明氏ら四は,(ユ)一般に器質的及至機能的障害のある有機体の行動はrigidであるといわれる が,たとえ脳に器質的障害はあっても,知能的に正常なCerebral Polsy (CP.)の場合に果して その行動はrigidであろうか。(2)脳障害をもつC. P.は,同時に運動機能障害を伴うので,適応 面においても障害を蒙り,社会的に狐合した状態におかれがちで,そのため二次的意味のrigidity が予想される。すなわち,C. P.においては脳障害要因と社会的狐立要因との二面からのrigidity が共存するものと考えられる。この二要因から由来する夫々のrigidityをできるだけ分離してと
り出さねばならないとした。被験者群として,知能的に正常な上述のC・P.群と,脳障害のない polio群,短期間の社会的狐立経験をもつAmputation(Amp.)群及び対照群としての正常者群の
4群を選び,①Dot Configuration Test,②Concept Formation Test,③Water Jar Test,
④:Rorschach Test,⑤Personality Rigidity Testの5種類の実験を行った。
5種類のtest成績と被験者各群との関係を調べることによって, rigidityの質的ないし量的差 を明らかにせんとし,更に同一沢内における各test成績を比較することによって, rigidityの一 般性と特殊性の問題にも検討を加えようとした。その結果について,本明氏らは次のように考察し
ている。
① 運動機能障害をもつ身体障害者群は正常者に比べて何らかの硬さがみられる。そして身体障 害者群をCP., Polio, Amp.の各群に分けて比較すると,夫々異った硬さがあると思われ る。
② 知能の遅滞に関係なく,脳に器質的ないし機能的障害がある場合には,硬さがみられる。特 に知覚面に異常固執反応が顕著にみられ,更に人格面にも他の群よりも比較的硬さがあるよう である。しかし,C. P.群の中にも硬さを示さないものがいることは,脳障害の部位,大きさ などの如何によるものかもしれない。
③ 運動機能障害のため長期間の社会的孤立経験をもつ者の中で,脳障害のないものは②で述べ たことと異ったかたちで,知覚面と態度(Einstelung)面に硬さのサインがみられ,転換能力 に欠け,情緒的要請に適合しにくく,抑制的な傾向があると思われる。
④比較的最近運動機能障害をうけたものは,何らかのストレスをもつものと考えられ,概念形 (88)
成が最初は困難であること,Rorschach Testでみられるような情緒的過敏さ,心的葛藤,不 安と共により充奮的な特徴があり,そして容易には他人と親しみにくく,因襲的な態度の硬さ があるようである。
⑤硬さについてのtestは数多くあるが,特定の一つのtestによってすべての面の硬さがと らえられているとはいえないようである。しかし基底的なものとして,知覚面に現われる硬さ は脳障害に起因している場合が多く,その他の面でもより多くの硬さがみられるのではないか と思われる。
⑥脳障害がなく知能的に正常な一般の人々の硬さは,性格面や人格面により多く現われ,その 硬さは社会的狐立経験の長い個人ほどより強く,そして狐立経験の短いものも,正常者群にく らべれば,より強い硬さを示すといえるようである。
7,田口則良氏の研究
田ロ氏㈲は分化度と硬さとは異ったCategoryに属する概念であり, rigidityの研究にとって は,直接それ自体による一次的なrigidityのみが対象となるのであって,研究方法としては知的 要因を排除して測定しなければならないと考えた。そして従来なされてきた精神薄弱児のrigidity に関する諸研究は,K:auninやMcMurrayの実験をはじめ,他の研究も知的要因の排除されて いないことを指摘し,知的要因の排除を意図した固執性testを作成した。すなわち,それらの testはCreative Effort Tests (C):C一工, C一皿, C一躍の三種類, Alternative Tests
(A)rA一工, A一工1, A一皿, A−IVの四種類, Direct−P Tests(D):D一工a, D−Ib, D 一皿a,D−Hb, D一皿a, D一皿bの六種類,計13種類の問題から成りたっている。そこで, C、A.
ユ0才乃至ユ2.8才の男女夫々10名つつの精神薄弱児群(平均1.Q.一70.25)と正常児群(平均1. Q.一 115.75)を被験者として選び,精神薄弱児群と正常児群の固執性に差異が認められるかどうかを実 験的に検討した。その結果,精神薄弱児群と正常児群の間に,A−IV, D−Ib, D一豆aの三つの Testsを除いて有意な差は認められなかった。その三つのTestsも主に知的要因が原因で生じた 差で,固執傾向によって生じた差とはいえない。しかし,作業の速さでは正常児が全Testsとも有 意に早かった。
IV まとめ
Lewinの提唱した精神薄弱児に関する力動理論的考想は,精神薄弱児を真に理解せんとする学究 に,極めて有効な指針を与えてくれる卓越した考想であると思われるが,彼の用いたrlgidity概念 のあいまいさのために,この概念規定をめぐって,WernerとKouninとの間に自然的論争をまき おこし,論争の結果はrigidityが構造的であるか機能的であるか,単一特性と見倣すか多様特性 としてとらえるべきか,はたまたStabilityとrigidityとの異同や連関性の問題にまで発展し,
rigidityに関心を寄せる者にとって両者の大論争は正に名優の絶妙なる演技に接するかの如く興趣
・興奮さえ覚えさせるほどの見事な応酬を展開した。最後Wernerによって提出された「分化度」
を以てrigidityの理論的基礎とする考想に至って,さしもの大論争も至極すっきりした姿で終止 符を打ったと考えてよかろう。もっとも,この考想を敷延すれば,「ものわかりが良ければrigidで
ない」という独善的感に陥いる不安がないではないが,論争の中で,Wernerは特に注目すべき価 値のある主張をした。それは,rigidityの研究並びに理解に際しては,個人と与えられた課題の性 質とを力動的に追求しなければならないという主張である。
最近の諸家の研究の跡を検討してみると,精神薄弱児のPersonality構造それ自体がrigidity なる特性を備えているのか,それとも,ある特定の状況に対してのみrigidな現象がみられるの か,もしくはまた精神薄弱児の中のある種のtypeの潜入だけがrigidな特性を有しているのか,
などについて明確な実験的例証を示してくれる研究はなされていないようである。しかしながら,
多年に亘る多くの先達のたゆまざる研讃努力の結果は,精神薄弱児に対するrigidityの測定並びに 研究法の中に結実し,種々の観点・角度から考案工夫された広汎多岐なアプローチの方法は,我々 後進の前途への道標として高く価値されてよい。
そこで,筆者は所与の課題の構造の困難度,課題の意味づけ方,課題目標と課題状況との関係 或は被験者と実験者との人間関係などの条件統制はもちろん,施設や特殊学級などの在籍期間,
それまでの経歴などを十分に考慮して,今後系統的実験的研究を進めて行きたいと思う。 また,
現在精神薄:弱は知能や社会生活能力の基準によって定義されているので,単にrigidityを測定す るtestsばかりでなく,その他に診断性の知能検査,社会成熟度検査,性格検査なども合せて実施 し,それらの因子分析を行うことによって,先に述べたいくつかの未解決:の問題の少なくとも一部 分は解明できるであろうと信じ,今後の研究に期待するものである。
本稿は精神薄弱児のrigidityについての文献的研究を試みたものであるが,研究者の義務である 資料蒐集において万全を期したとは云い難く,脱漏のそしりを蒙るやも知れず,その任を十分果し えなかったこと御叱正を有難く乞う次第である。本研究をまとめるに当って,終始御指導を賜った 武藤雪下先生に深謝しつ㌧筆をおく。
参 考 文 献
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伊藤隆二:精神薄弱児の心理学 日本文化科学社,1964
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U9}沢文治・中塚博勝:人格の硬さに関する研究。日本心理学会食23,24回大会発表,第26回大会(日本心 理学会)発表抄録p.228より引用
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励 田口則良:精神薄弱児の固執性に関する研究。広島大学教育学部紀要 第一一部1964,13,101−111
㈱ 毛利昌三・藤野藤俊 :所謂人の硬さ(dgidity)についての実験的研究(1)
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⑳ 本明寛・毛利昌三・沢文治:硬さについての比較研究1,五,日本心理学会第28回大会発表抄録,1964