茨城大学教育学部紀要(教育科学)33号(1984)27−41
精神薄弱児の自己強化に関する研究 一分類学習課題と弁別学習課題を中心としてを
松村 多美恵**
(1983年9月30日受理)
AStudy on the Self−Reinforcement in the Mental Retarded:
In the Sorting and Discrimination Learning Tasks
Tamie MATsuMuRA
(Received September 30,1983)
は じ め に
精神薄弱児の学習においては,従来,物的強化や社会的強化といった外的強化の重要性が強調さ れてきた。その最たる例としては,オペラント条件づけが挙げられるであろう。すなわち,子ども の個々の反応に対して連続的な即時強化を指導者が与えることによって,簡単な行動の遂行から複 雑な行動の遂行へと段階的に進めていき,最終的に望ましい行動を形成する方法である。しかし,
このオペラント条件づけのように,精神薄弱児の学習の成立を外からの強化のみに依存することで よいのであろうか。オペラント条件づけによりある行動が学習されたとしても,強化が取り去られ た後かなりの程度学習効果が低下することも知られている。さらに,外的な直接強化を常に与えて いることにより,強化を与えられなければ行動しないという習性を身につけてしまうとも考えられ る。興味ある強化物や賞讃・承認といった大人の反応に注目しすぎ学習そのものである課題解決行 勤への集中が妨げられる可能性もある。健常児においては,そういった外的強化がなくても学習が 可能であることが指摘されている(波多野・稲垣 1971)が,精神薄弱児においてもそれが可能で あろうか。
筆者は,精神薄弱児の学習に及ぼす強化の効果について検討する中で,精神薄弱児の学習におけ る内発的動機づけや,外発的動機づけから内発的動機づけへの移行的なものとしての代理強化
(vicarious−reinforcement)や自己強化(self−reinforement)に関する検討がなされるべきである ことを指摘した(松村 1981)。そして,このうちの代理強化については,観察学習に関する研究と してすでに報告した(松村 1983,松村・今橋・塔ケ崎 1983)。そこで,今回は精神薄弱児の学 習に及ぼす自己強化の効果について検討したい。
この自己強化の概念は,そもそもSknner(1953)によって提案されたものであり,人間は本来自 分自身で強化を獲得する力を有しており,自己の行動に対して自分自身で強化刺激を与えることが
*本論文は矢口早苗(S.55年度)および大塚都子(S.57年度)の卒業論文のデータを松村の理論的見解の下 にまとめた。
**茨城大学教育学部障害児教育学科
できる,という考えから出発している。このことは,外的強化や他者の行動結果の観察(モデリン グ)によってのみ行動が決定されるのではなく,自分の行動を自分自身で制卸できること,すなわ ち学習の自律化が可能であることを意味している。
従来の研究結果によると,この自己強化は外的強化訓練によって形成される場合(Kanfer&
Marston 1963 a)と観察学習によって形成される場合(Bandura 1971)があるといわれている。
前者の場合,人は自分の行為に他人がどう反応してきたかによって自分の行為を評価することを学 ぶ。すなわち,周囲の人々の異なる対応の結果,子ども達は他人の設定した評価基準から自分の行 動がどれほど離れているのかによって,自分の行動に対し自己是認的に,あるいは自己批判的に反 応するようになる。これが外的強化訓練により自己強化が確立される基本の考え方である。後者の 場合,人々は他人に対してだけでなく自分の行為に対しても自己の持っている評価の基準をあては める。そして他人はそれを観察している。この場合,人々は他人に対して自己強化の方法を示範し ていることになる。だから,子ども達は親や教師,兄弟や友人などの周囲の人々が自分の行動に対 して是認的あるいは批判的態度を示すのを観察することによって,そのような自己強化的行動を身 につけるというものである。本研究ではこの2つのうち,より一般的であると思われる外的強化訓 練によって形成される自己強化について検討する。
さて,こうした自己強化の機能については,従来大きく2つの方向から検討されてきた。その1つ は,自己強化に先立って外的強化による訓練を行ない,外的強化訓練段階後の自己強化の反応維持機 能やその後の消去抵抗を検討した研究である。それらの研究では,全体的に自己強化の反応維持機能
(石橋 1978Kanfer&Marston 1963 a,根建・春木 1977,1978)や消去抵抗を大にする機能
(根建・春木1977,1978)を認めている。しかし,そうした機能は年齢が高いほど高く,幼児の場 合自己強化で反応を維持していくことが困難であること(石橋 1978)や,外的強化期で高い学習レ ベルに達していることが重要であること(柏木 1972)が知られている。さらに,自己強化の生起率 を高めるには,外的強化期でより多くの外的強化を受けていることが必要であることも指摘されてい る(Kanfer&Marston 1963 b)。その他,この領域の研究としては自己強化率に注目した研究
(Kozma&Easterbrook 1974)や外的強化様式に注目した清水・天池(1978)の研究がある。もう 一方の研究方法としては,外的強化段階が省略され,最初から自己強化の手続きがとられる。そして,
正反応の任意の場合や客観的に決定されている場合における自己強化された反応の再現性が検討され ている。その結果,正反応が任意の場合(石田 1981,塩田 1977,1978)も,客観的に決定されてい る場合(平川 1977,Montogomery&Parton 1970,大上1976)あるいは運動課題(Bandura&
Perloff 1967, Marston 1967)の場合も自己強化された反応の再現率が高いことが実証されている。
以上の研究はすべて健常児・者を対象としたものである。特に年少の健常児(4〜5才)を対象 としたものとしては,天池・清水(1977),柏木(1972)および清水・天池(1978)が挙げられる。
しかし,精神薄弱児を対象としたものはほとんどなく,わずかに牧野(1981)がケース・スタディ 的な検討をしているにすぎない。精神薄弱児は社会的強化に対する反応性が高く,大人の是認や承 認を強く求める傾向がある(Zigler 1973)ことや,課題状況を客観的に認知することが困難なため に実際の成就水準からかけ離れた要求水準を設定してしまうなどということが,精神薄弱児の学習 場面においてよく指摘される。これらの問題はいずれも強化を自分で管理する自律的な学習の困難 性を示唆するものと考えることができよう。Heilbrum&Norbert(1970)は,自己強化は母親の
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 29
養育態度と密接な関係があり,母親が非養護的で統制の少ないことと正相関し,逆に養護的で統制 の強い母親の子どもは外的強化条件の方が有利であると指摘している。母親の養育態度に関して言 えば,精神薄弱児は一般に養護的で統制の強い扱いを受けがちであると思われる。そのため,この 点からも精神薄弱児における自己強化の効果は健常児に比べて認められにくいと考えられる。
しかし,ここで精神薄弱児の学習における自己強化の機能を考える上で1つの指針となる研究が ある。安藤(1967)は,子どもの学習の仕方が知能水準によって異なることを内的強化の差による と考えた。つまり,ある学習場面において知能の高い子どもはそれぞれの試行をただ反復するので はなく,一試行ごとに反応に対する仮説を持ちそれを検証する。いわば各試行後に自己強化といえ るような内的強化の働きがあるのに対し,低知能群では各試行においてこのような働きが欠如し,
それぞれの試行が独立し単に反復しているにすぎないため,つまりそれぞれの試行反復に自己強化 がないために試行間に一定の原理を見い出すことができないと考え,それが結果に差を生ずるので はないかと推測している。そこで,精神薄弱児にそのような内的強化が自発的に生じないとしたら,
実験者側から各試行後に自己強化させるような事態を設定してやれば学習が容易になるのではない かと考えられる。
以上のような問題意識から,本研究においては特に外的強化訓練後の精神薄弱児の自己強化の反 応維持機能について同一MAの健常児と比較すること,すなわち,強化子の自己操作というような ある程度能動的な学習を精神薄弱児に課すことによって,これまで健常児・者に認められてきた自 己強化の機能が精神薄弱児においても認められるか否かを検討することを目的とする。
その際,従来の精神薄弱児の学習研究の領域で多く用いられてきた分類学習課題(実験1)と弁 別学習課題(実験H)を用いて検討する。分類学習は概念の存在の認知にかかわる過程(概念形成:
concept formation)を問題にしており,弁別学習は概念の正事例と負事例を区別する規定属性の 認知にかかわる過程(概念達成:concept attainment)を問題にしている。さらに実験1では精 神発達レベルの違いによる検討,反応維持機能と同時に消去抵抗についての検討および自己強化反 応やそれが次の反応に及ぼす影響等をも検討する。また,実験皿では,福島(1980)が検討したよ うな被験者の反応結果についての外的情報(フィードバック)や,自己強化に対する外的強化が,
自己強化と共に用いられる場合の効果をも検討する。
実 験 1
方法
被験者:被験者は茨城県内の精神薄弱児養護学校の中等部および高等部に在籍する精神薄弱児48 名(男子23名,女子25名)と,水戸市内の小学校および幼稚園に在籍する健常児48名(男子27名,
女子21名)である。精神薄弱児,健常児ともにMA 8才群とMA 6才群が設けられ,さらにそれぞ れSR(自己強化・Self−Reinforcement)条件群ER(外的強化, Extema1.Reinforcement)条 件群およびNR(非強化, No−Reinforcement)条件群の各々に分けられた。 T able 1は各群の内 訳を示している。
実験材料:12c皿×15cmの大きさの厚紙に, Fig.1に示された図形をボールペンで描いたカード30 枚およびFig.2に示された黒の分類箱1個が実験材料として用いられた。なお, Fig.1のカードの
番号は呈示順序を示し,これは舌L Table LSubjects(Exp.1).
数表を用いて決定された。 N CA 融
実験計画:被験者(精神薄弱児, Mean Range Mean Range 健常児)×精神年齢(8才,6才) Menta1 Retarded
×強化条件(SR, ER, NR)の MA 8 SR 8 17:0 16:6−17:5 8:9 7:6,10:5
ER 8 16:5 14:1−17:5 8:8 7:9−10:1
2×2×3要因計画で行なう。各 9「oup NR 8 16:7 14:6−18:5 8:9 7:6−10:5 群の強化スケジュールはTable 2 SR 8 16ご3 16:3.18:1 6:4 5:8.6:9 のとおりである。 MA 6
@実験手続き:実験は1対1面接 group ER mR
88 16:2 P6:0
13:8−17:5 P3:8−17:8
6:9 U:3
6:1.7:4 T:6−6:9
Normal
法により行なわれ,被験者は分類 SR 8 8:1 7:6−8:2
(MA)8箱を間にして実験者と向きあって
ER 8 8:1 7:6.8:0
座る。各被験者ともにTable 2に group NR 8 7:9 7:5−8:5
示されたように3段階の強化スケ (MA)6 SR 8 6:1 5:7−6:4
ER 8 6:1 5:6−6:5
ジュールで分類課題を課せられる。 group NR 8 5:9 5:1−6:1
〈第1段階〉課題の訓練段階であ
り,各群とも100%外的強化条件で15試行 Stralght Straight Curved
Line Line+ Line
行なう。Fig.1の1番から15番までのカー Curved Line
ドを呈示して「この15枚のカードを今から
?ネたに分けてもらいます。この箱の投入
1 2 圓 3
⑤
口の3枚のカードのうち,同じ仲間だなと 5 日 4
⑳
6思うカードのところの入り口から中に入れ
ト下さい。」あなたができれば,私がrあ 7 ◇ 8 囹 10
⑥
たり』といってマルをつけます。まちがっ
たときは『はずれ』といってバッをつけま 9 ◆ 11
φ
12す。よく考えてマルがたくさんつくように
がんばって下さい。」と教示する。その後, 15 図 14 團 13
磯
カードを1番から15番まで順番に被験者に
闢nして,いずれかの投入口から入れさせ 17 命 18
㊥
16⑬
る。○,×はあらかじめ呈示しておいた用
?ノ1試行ごとに赤鉛筆で記入する。<第 19
⑭
21 図 20総
2段階>SR条件, ER条件,およびNR
件の強化条件の相違による学習効果を比 22
鐙
26圓
23⑨
較する段階であり,各々の強化条件で30試 、行行なう。Fig.1の1番から30番までのカー
24
幽
29 図 27愈
ドを呈示する。その際,SR条件では「今
xは自分で考えて,できたと思ったら,解 25 國 30
¢
28蝉
答用紙の各番号の欄にマルをつけ,まちが
ったと思ったらバツをつけなさい。」と教示 Fig.1. Figures used in the task.
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 31
し,ER条件では「これまでと同じことをして下 40㎝
さい。」と教示し,NR条件では,「今度は私はた 」==ゴ よ==コ ===7
↑
だ黙って見ていますから・あなたは自分で考えて 厘7厘7塵7・ 20㎝
やって下さい。」と教示する。そしてカードを順番
⊥
に手渡し,投入口から入れさせる。そして,SR lo㎝
条件群では被験者自身が,ER条件群では実験者 1 r20㎝
が1試行ごとに○×を解答用紙につける。NR条 Fi9・2°Disc「imination box・
件群では解答用紙を配布しない。〈第3段階〉消
Table 2. Reinforcement schedules 去抵抗を見る段階であり,第2段階と同じ課題を (Exp.1).
強化なしで30試行行なう。すべての群に対して
1Phase 2Phase 3Phase
「もう一度今と同じカードを分類して下さい。今
SR度は私はただ黙って見ています。では始めましょ
9「oup ER SR NR
う。」と教示し,解答用紙は配布しない。 ER g「OUP ER ER NR NR group ER NR NR
結 果
1.正反応数:各群の正反応数の平均と標準偏差を示したのがTable 3である。第1段階での群 間の差はほとんど認められない。第2段階における平均正反応数の亟変換値について,被験者
(精神薄弱児,健常児)×精神年齢(8才,6才)×強化条件(SR ER, NR)で分散分析を行な った結果,それらの主効果および交互作用すべてにおいて有意な差は認められなかった。しかし,
各群ごとに3つの条件の間の差を検定したところ,①精神薄弱児MA8才群では, SR条件とNR 条件の間(t−2.38,df−14, P<.05)およびER条件とNR条件の間(t−2.2Z df−14,
P〈・05)に有意な差が認められ,SRにERと同様の効果が認められた。②精神薄弱児MA6才 群では,SR条件とNR条件の間に有意差が認められ(tニ2β4, df=14, P<.05), SRの 効果がみられた。③健常児8才群では,いずれの条件間にも有意な差は認められなかった。④健常 児6才群では,ER条件とNR条
件の間(t−239,df=14,P〈 Table a Means and standard deviations of correct responses・
05)およびER条件とSR条件
1Phase 2Phase 3Phase
の間(t=223,df=14, P〈05) Men七al Retarded
Mean(SD) Mean(SD) Mean(SD)
に有意差が認められ,SRの効果 SR 22.8(2.63) 22.6(3.08) 23.1(2.83)
MA 8
ヘみられなか九 即up聚 22.2(2。36)Q1.5(2.19)
23.3(3.18)
P8.8(2.89)
24.5(1.73)
P9.8(2.90)
次に,第2段階のSR, ER, SR 19.5(3.36) 21.0(2.89) 18.8(2.83)
MA 6
mRそれぞれの強化条件が第3段 ER 20.0(3.00) 19.3(2.91) 18.3(4.15)
階の消去期におよぼす効果を棚 9「°UP NR 22.2(2.46) 16.9(2.93) 17.1(2。78)
Normal
する・第3段階における平均正反 (MA)8 SR 22.2(2.82)
Q2.4(2.72)
Q1.2(3.44)
24.1(2.32)
Q4.8(2.66)
Q1.7(3.68)
25.6(2.34)
Q4.6(2.73)
Q2.1(1.69)
年齢の離に有意差が認められた (MA)6養餐 19.0(3.30)
P9.2(3.46)
20.0(2.74)
Q3.6(2.78)
19.2(4.09)
Q3。9(3.33)
9「oup NR(F=2325,df=1,84, P<.
19.4(2.58) 19.7(3.28) 18.1(5.88)
「
05)。下位検定の結果,精神薄弱児のSR条件(F ・=605,df−1,84, P<.05), ER条件
(F =876,df−1,84, P<.01),および健常児のSR条件(F =8β3, df=1,84, P〈.01)
とNR条件(F =5万6, df冨1,84, P<.01)にMAの高低による差が認められた。強化条件間 の差を,第2段階と同様,精神薄弱児のMA8才群, MA6才群,健常児の8才群,6才群の4群 において検討したところ,①精神薄弱児MA8才群ではSR条件とNR条件の間(t=2ユ5, df=
14,P〈.05), ER条件とNP条件の間(t=3.68, df=14, P〈.01)に有意差が認められ, SR およびERの効果がみられた。②精神薄弱児MA6才群では,いずれの条件間においても有意差は 認められなかった。③健常児8才群では,SR条件とNR条件の間(t−320, df−14, P〈.01)
およびER条件とNR条件の間(t=2ユ6, df−14, P〈.05)に有意差が認められ, SRおよび ERの効果がみられた。④健常児6才群では, ER条件とSR条件の間(t=227, df〒14, P<.
05)およびER条件とNR条件の間(t−235, df=14, P〈.05)に有意差がみられ, ERの効
Table 4, Numbers of SR and correct SR rates.
SR+ SR一 Tota1
Tota1 Correct Correct Total Correct Correct correct Mean SD Mean SD SR rate Mean SD Mean SD SR rate SR rate
Mental Retarded ■
MA 8 22.6(4.5) 18.0(5.1) .79 7.4(4。5) 2.6(1.9) .35 .69 MA 6 21.8(6.4) 15.4(5.0) .70 8.2(6.4) 3.1(2.7) .37 .65 Normal
(MA)8 23.8(3.7) 20.8(4.7) .87 6.2(3.7) 2.3(2.8) .38 .78
(MA)6 23.5(5.8) 16.6(4.4) .70 6.5(5.8) 3.1(2.8) .48 .65
果のみがみられた。
2.第2段階におけるSR反応:
自分の反応を正しいと判断して,
○をつけることを正のSR反応
(SR+),誤りだと判断してxを
20 ツけることを負のSR反応(SR−)
として,各群のSR総数,正しい SR数(正反応に正のSRを与え た場合および誤反応に負のSRを 与えた場合)から正SR率を以下
10 フ式で求めた。
正SR数正SR率一
@ SR総数 x100
その結果がTable 4である。健常
児8才群の正SR率がわずかに高 0
笏
いが,あとの3群はほとんど差が SR+ SR− SR+ SR− SR+ SR− SR+ SR−
lA 8 MA 6 (MA)8 (MA)6
みられない。各群の正SR率を角 Mental Reta「ded N°「ma1
@ 2C…ect SR 変換した後,その値について被験
者(精神薄弱児,健常児)x精神 Fig.3Numbers of SR+and SR−.
,
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 33
年齢(8才,6才)で分散分析を行なったが,いずれの効果も有意ではなかった。Fig.3は,各群 におけるSR+数と, SR一数,およびそのうちの正しい反応数を図示したものである。各群のSR+
数とSR一数の差を検定した結果,精神薄弱児MA 8才群(CR−259, P<.01),精神薄弱児MA 6才群(CR−2.30, P〈・05),健常児8才群(CR=3.21, P<.01),健常児6才群(CR−292,
P〈.01)のいずれの群においてもSR+反応が有意に多いことが認められた。また各被験者群間 のSR+反応数について分散分析を行なった結果,有意な差は認められなかった。さらに, SR+
とSR一における正反応率の比較を行なったところ,精神薄弱児MA8才群(疋2−5.13, df=2,
P〈05),と健常児8才群(z2=6.85, df=2, P<.01)において, SR+の正反応率が有意に 高く,精神薄弱児MA6才群においてもその傾向がみられた(12−2.71, df−2, PぐOl)。
3.第3段階におけるM+反応とM一反応:次にM+反応(第2段階で行なわれた反応が第3段階 において再びくり返された場合)とM一反応(第2段階で行なわれた反応が第3段階において変え られた場合)について分析する。SR+反応とSR一反応のと関係から, SR+→M+反応(第2段 階で正のSRを受けた反応が第3段階でくり返された場合),同様にSR+→M一反応,(SR−→
M+反応,SR−→M一反応の4つのパターンについて各群の比較をしたものが, Fig 4である。
0 10 20 30 Menta1
Retarded MA 8 group
Ment創
Remrded MA 6 group ..㌔ 卜, 閣
Normal(MA)8group
Normai(MA)6group % r , ,
口SR・−M・國SR・−M−□SR−−M・目SR−−M一 Fig・4. SR patterns。
いずれの群でもSR+→M+反応が多い傾向がみられる。各群のSR+→M+反応とSR+→M一反 応を比較した結果,いずれの群でもSR+→M+反応が有意に多かった。 (精神薄弱児MA8才群 CR−342, P〈.01,精神薄弱児MA6才群CRニ1.74, P〈.05,健常児8才群CR=4.02,
P<.01,健常児6才群CR=3.28, P〈.01)。しかし, SR−→M+反応とSR−→M一の間で はいずれの群においても有意な差はみられなかった。
実 験 H
方法
被験者:被験者は茨城県内の精神薄弱児養護学校に在籍する精神薄弱児47名(男子31名,女子16 名)と水戸市内の幼稚園に在籍する健常児40名(男子22名,女子18名)である。精神薄弱児,健常 児ともにそれぞれF+SR(Feedback+Self−Reinforcement)条件群, S R+ER(Self−Reinforce一
ment+External−Reinforcement)条件群SR条件群ER条件群およびNR条件群の5っの群
の各々に分けられた。Table 5は各群の内訳を示している。
実験課題および実験
材料:実験材料として Table 5. Subjects(Exp.2).
は,練習用の絵カード N CA MA IQ
40枚と本実験用の図形 Mental Mean Range Mean Range Mean Range Retarded F+SR 8 14:4 13:2−15:7 6:0 5:2−7:2 42.4 35−55 カード330枚(第1段 SR+ER 10 14:4 12:3−17:10 6:2 4:9−7:10 43.0 34−52 階用240枚,第2段階 SR 9 14:5 10:8−17:3 6:10 5:6−7:7 45.9 33.63
用90枚)を用意する。 ER 12 13:9 11:3−15:7 5:11 4:1−7:8 43.7 27−58 NR 8 13:3 11:3−15:10 6:7 5:4−7:6 51.9 37−61
刺激カードはいずれも Normal
縦7cm×横10c皿の大き F+SR 8 5:6 4:2.6:4 さのケント紙で,練習 SR+ER
@SR
79 5:4 U:0
4:9−6:5 T:9−6:6
用の場合は中央に絵が ER 8 5:8 4:1−6:7
描かれ,本課題用の場 NR 6:0 5:10−6:5
合は中央に三角形が貼
付されている。①練習課題…「魚」と「花」(いずれも線画)の2種類各々20枚ずつが用意され,
「魚」と「花」のカード2枚を1組として同時に呈示する。この時の呈示位置(右,左)は乱数表 によりあらかじめ決めておく。②本課題…色と大きさを次元とする2次元3価の弁別学習課題を用 い,適切次元は大きさとする。また,強化子として直径1.5c皿の赤の丸いシールを用いる。刺激カー
ドの中央に貼付された三角形は色(赤,緑,黄桃)と大きさ(一辺が5.Oc皿,3.5cm,2.5c皿)の 異なる9種類の正三角形であり,この9種類のカードのうち,色と大きさの異なる3枚を一組とし,
同時呈示する。この時の呈示の仕方は全部で36とおりあるが,乱数表によりそれぞれの呈示順をあ らかじめ決定しておく。本課題の第1段階では最初から40組(120枚)を1セットとし,第2段階 では第1段階用のカードの組合せのうち10番から40番までの30組(90枚)を1セットとする。なお,
第1段階用は正刺激が大きい三角形の場合と小さい三角形の場合の2セットを用意し,それぞれの カードの裏に強化子である赤い丸のシールを貼付しておく。
実験計画:被験者(精神薄弱児,健常児)×強化条件(F+SR SR+ER, SR, ER, NR)
の2x5要因計画で行なう。
実験手続き:実験は1対1面接法により行なわれ,被験者は実験者と向きあって座る。各被験者 ともに練習段階の後,Table 6に示されたように2段階の強化スケジュールで弁別課顕を課せられ る。〈練習段階〉被験者に「魚」と「花」の練習用カード2枚を呈示し,「ここにr魚』とr花』の 絵があります。どちらかの絵がアタリでどちらかの絵が Table 6. Reinforcement scheduleS ハズレになっています。でも,どちらがアタリでどちらが (Exp.2).
ハズレなのかはまだわかりませんね。私がアタリ とかハ 1Phase 2Phase ズレとか言いますからよく聞いていてアタリをたくさん F+SR group ER F+SR あてて下さい。初めはわからないけれどもだんだんわか SR+ER group ER SR+ER
ってきますから頑張ってやって下さい。」という教示を与 SR grOUP ER SR え,どちらかのカードがあたりかを問う。第1試行で被 ER g「OUP ER ER
験者の選んだカードの反対のカードを正刺激とする。 第 NR g・・up ER NR
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 35
2試行以後は「アタリ」「ハズレ」を実験者が言語で強化する。学習基準は20試行中3連続正反応と する。学習基準達成後は直ちに第1段階に進む。〈第1段階〉外的強化により本課題の学習をある 程度成立させる段階である。実験者には,呈示順番1のカード3枚(この3枚にはどれにも赤い丸 のシールは貼付しておかない。)を被験者に呈示し,「今度は絵ではなく,三角形で3枚ずつカード が出てきます。さっきと同じようにどれがアタリかをあてて下さい。また私がrアタリ』rハズレ』
を言いますね。」という教示を与え,3枚のカードのうち1枚を選ばせる。被験者が正反応をした時 に実験者は「アタリの時は裏に赤い丸がついていますよ。」という教示を与え,被験者に確認させ る。強化は,実験者の言語とカードの裏の赤い丸のシールとで行なう。なお,正刺激は練習段階と 同様第1試行の反応により決定する。すなわち,被験者が第1試行で大(一辺が5ncm)の三角形 を選んだ場合は,その被験者にとっての正刺激は小(一辺が25c皿)の三角形となり,第1試行で小 の三角形を選んだ場合は大の三角形が正刺激となるわけである。また,被験者が第1試行で中(一 辺が3bcm)の三角形を選んだ場合は,正刺激の決定は第1試行後被験者が大か小の三角形を選ぶま で持ち越される。学習基準は40試行中3連続正反応とする。学習基準達成後は直ちに第2段階に進 む。〈第2段階>F+SR条件, SR+ER条件, SR条件, ER条件,およびNR条件それぞれの学 習効果を比較検討する段階であり30試行行なう。正刺激は第1段階の正刺激と同じである。①F+
SR条件…カードは第2段階用のカードを用いる。赤い丸のシール30枚を渡しておく。カードを呈 示し,「今度もさっきと同じです。でも今度は私はrアタリ』rハズレ』を言いません。カードの 裏に赤い丸もついていません。そのかわり,私がアタリのカードを持っていてあなたが選んだ後で それを見せます。」という教示を与える。3枚のうちの1枚を被験者が選んだ後,他の2枚のカード を片付け,実験者が持っていたカードを呈示し,「アタリはこれです。あなたが選んだこのカード と私の持っているこのカードが同じだったらアタリですから,あなたの選んだカードの裏にこの赤 い丸を貼って下さいね。違う時には貼らないでそのまま私にカードを返して下さい。」と教示する。
②SR+ER条件…カードは第2段階用のカードを用いる。 あらかじめ半分に切ってある赤い半円 のシール30枚を被験者に手渡しておく。カードを呈示し,「今度もさっきと同じです。でも今度は 私はrアタリ』rハズレ』を言いません。カードの裏に赤い丸もついていません。だから今度はア タリだと思うカードの裏にこの赤い半分の丸を貼って下さい。この丸は半分ですが,あなたの答が 正しい時には私がもう半分の丸を貼って赤い丸にします。赤い丸になるように,私もシールが貼れ
るように頑張って下さい。」という教示を与える。そして,被験者が正刺激を選びそのカードの裏 に半円のシールを貼った時には,「はいアタリです。私も貼りますね。」と言いながらシールを貼 り完全な丸にする。はずれた時,すなわち被験者が正刺激を選べなかった時には,「ハズレです。
だから私なシールを貼りませんね。」と言う。③SR条件…カードは第2段階用のカードを用いる。
あらかじあ赤い丸のシール30枚を渡しておく。カードを呈示し,「今度もさっきと同じですが,今 度は私はrアタリ』rハズレ』を言いません。また,カードの裏にシールもついていません。だか
ら今度はアタリだと思うカードの裏に自分でシールをっけて下さい。」と教示する。④ER条件…
カードは第1段階用のカードの10番から40番までの30組を用いる。カードを呈示し,「今度もさっ きと同じです。どれがアタリかあてて下さい。」と教示する。⑤NR条件…カードは第2段階用の カードを用いる。カードを呈示し,「今度もさっきと同じですが,今度は私はrアタリ』rハズレ』
を言いません。また,カードの裏にシールもっいていません。でも同じようにしてアタリだと思う
方のカードを選んで下さい。私は見ているだけですが頑張ってやって下さい。」と教示する。
結 果
1第1段階の試行数:正刺激決定後の試行から3連続正反応の学習基準に達するまでの各被験者 の試行数にっいて各群の平均と標準偏差を示したのが,Table 7である。これについて,2×5要 因の分散分析を行なったところいずれの主効果および交互作用においても有意差は認められなかっ
た。
2。平均正反応数:第2段階における各群の平均正反応数と標準偏差を示したのがTable 8であ る。これについて2×5要因の分散分析を行なったところ,いずれの主効果および交互作用におい ても有意差は認められなかった。SR手続きを含むF+SR条件, SR+ER条件,およびSR条件 をまとめて1つの群とし,ER条件やNR条件と比較してみたが,ここでも有意な差は認められな
かった。
Table 7, Means and standard de−
@ Table 8. Means and standard de一
Menta1 Mental
Normal Normal
Retarded Retarded
Mean(SD) Mean(SD) Mean(SD) Mean(SD)
F+SR 9.6(10.9) 13.5 (7.3) F+SR 20.3(10.0) 22.1(6.1)
SR+ER 7.8(4.0) 8.6(6.9) SR+ER 20.8(8.3) 25.0(7.1)
SR 6.6(4.2) 6.1 (3.4) SR 21.4(9.2) 23.4(9.4)
ER 8.6(5.0) 11.9(11。6) ER 22.1(8.9) 21.3(10.6)
NR 3.5(0.7) 7.8(5.8) NR 19.5(7.3) 20.9(11.3)
3.学習成立者の割合:第2段階30試行にお Table 9. Percentages of sublects
けるチャンス レベルは正反応数が10試行,誤 who reached the criterion.
反応数が20試行である。このレベルと有意に Mental
(P<.05) 差のあるレベルをz2検定で求 Retarded Norma1 めたところ,正反応数が18試行, 誤反応 F+SR 50%(4/8) 75%(6/8)
SR+ER数が12試行であった。そこでこのレベル 60%(6/10) 86%(6/7)
SR 56%(5/9) 67%(6/9)
以上にある者を学習成立者と考え,この ER
75%(9/12) 63%(5/8)
割合を各群で比較したところ, Table 9のよ NR 63%(5/8) 63%(5/8)
うであった。 しかし,いずれの群間にも有意
な差は認められなかった。SR手続きを含む3群をまとめて, ER条件やNP条件と比較しても差 は認められなかった。
4.タイプ別ごとの比較:第1段階での学習基準に達するまでの試行数をA型(3試行),B型(平 均未満),C型(平均以上)の3つに分け,さらに第2段階での正反応数を1型(30試行全て正反応)
H型(学習成立レベル18試行正反応以上),皿型(正反応が18試行未満)とし,9つのタイプを考 え,精神薄弱児と健常児におけるそれぞれのタイプ別の人数を比較したのが,Table 10である。
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 37
Table 10. Numbers of subject on each type.
Mental Retarded Normal
A B C A B C
1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3 1 2 3
1 2 1 1 3 1 2 1 4
F+SR (10%) (9%) (4殉(6%) 0%) (5%) (10%)(7%)(30紛
2 1 3 1 2 1 1 1 1 1 1 2
SR+ER (9%)(4%)(13%)(6%)(13%) 6%)(12%) (12%) 5%)(5%) (5%) (15%)
2 1 1 1 1 1 2 3 3 1 2
SR (20%) (10%)(4%) (4%) (4%) (6%) (13%) (37%) (15%) (5%) (15
3 4 1 2 2 2 2 2 1 1
ER (13%) (18%)(4%) (13%) (13%) (25%) (10%) (10%)(7%) 7
4 2 1 1 1 4 1 1 1
NR (40%)(2(励 (4%) (4%) (12%) (21%) (5%) (7%)(7%
7 3 15 7 7 8 7 1 12 7 9 4
(70%) (30%) (68%) (31%) (46%)(53%) (87%) (12%) (63%) (36彪) (69%)(30%
Total 10(100%) 22(100%) 15(100%) 8(100%) 19(100%) 13(100%)
考 察
まず,実験1の考察から始める。第2段階において精神薄弱児はMA8才群もMA6才群も自己 強化の効果が認められた。ところが健常児8才群では各条件群間に有意な差が認められなかった。
これは,自己強化の効果がなかったと考えるよりもむしろ,小学2年生には本実験の課題が比較的 易しかったこと,また,日常生活の中でも正誤の判断を下す学習場面に臨むことが多いことなどの ために,NR条件においても潜在的な自己評価行動が行なわれていて,そのため,3群間に差が見ら れなかったのではないかと考えられる。健常児6才群では,SR, NRの両条件に比べてER条件 の成績が有意に高く,SRの効果はほとんど認められなかった。このことは,自己強化の効果が7 才前後の年齢段階を境として,それより高次のレベルは自己強化による学習の有効性が高まってく
るが,それより低次のレベルでは外的強化による学習の方が有効であろうとする柏木(1976)・らの 予想と一致している。しかし,精神薄弱児ではMA6才群にも自己強化の効果が認められた。この ことは,自己強化による学習が可能になるためには,精神年齢以外の要因として子どもの生活年齢 やそれにともなう生活経験なども関係している可能性を示唆する。
次に,第2段階のSR ER,およびNRそれぞれの強化条件が第3段階の消去期におよぼす効果 を検討する。精神薄弱児においても健常児においてもMA 8才では第2段階においてSRないしER の強化を受けた群は,NR条件と比べて消去抵抗が大きかった(消去期の成績が有意に高いことが 認められた。したがって,第2段階におけるSRの効果がERと同様に第3段階にまで維持された
と考えられる。しかし,SR条件群がER条件群に比べて第3段階の成績がよくなるということは なかった)。一方・精神薄弱児,健常児ともにMA 6才群では第2段階におけるSRの導入は,等3 段階に効果をおよぼさなかった。特に,精神薄弱児MA 6才群では,第2段階においてはSR条件
とNR条件の間に有意な差がみられたが,第3段階では両者の間に有意差はみられなかった。この ことは,一旦獲得された自己強化を次の消去期においても内在的に維持することは,発達的に低次 のレベルではむずかしいとする柏木(1972)や石橋(1978)の指摘と一致している。
本実験では以上のようなSR, ER, NRの各強化条件間の学習効果の比較の他に,第2段階の SR反応に関する検討を行なった。各群のSR+数とSR一数を比較した結果,いずれの群におい てもSR+数が多かった。このことは,本実験の課題が丸や三角を組み合わせた図形であって,精 神薄弱児や幼稚園児にもなじみやすく,ある程度分類の基準が被験者の中で形成されていたことも 一っの原因であると思われる。しかし,全体として精神薄弱児と健常児の間に有意な差がみられな かったということは,精神薄弱児においても実際の結果からかけ離れた評価一たとえば,実際の 正誤を判断せずに全部○をつけてしまう,あるいは,全部×をつけてしまう一が見られなかった ためと考えることができる。このことから,精神薄弱児においてもある程度の自己評価は可能なの ではないかと思われる。
さらに,自己強化が次の反応におよぼす影響をSR+→M+, SR+→Mr SR−→M+,および SR−→M一という4つのパターンに分けて検討した結果, SR+→M+反応がSR+→M一反応に比 べて有意に多く,正しいと自己評価した反応は次の段階においても再びくり返される傾向があると 考えることができる。この傾向は各群で一貫してみられた。これは,塩田(1979)の「正の自己評 価は同一反応の出現頻度を高める」という指摘と一致し,このことが精神薄弱児においても当ては まることを示唆する。しかし,これに反してSR−→M+反応とSR−→M一反応を比較した結果,
2つの間に有意な差はみられなかった。つまり,誤りだと自己評価した反応でも必ずしも次の段階 では変えていないということになる。これは,SR一反応に次の段階で反応を変化させるだけの強 化効果が必ずしも備わっていなかったと考えることができるであろう。
次に,実験旺の考察に入る。実験1と異なり,実験Hにおいては精神薄弱児,健常児ともに自己 強化の効果は認められなかった。これは用いられた課題の相違によるように思われる。佐々木・福 島(1979)によれば,自分の反応の正誤を判断し報酬を与えるという自己強化の実験に用いられる 課題としては,①何が正反応に値するかの基準がある程度被験者に明確に示されていることと,② 正反応に達するための手段が,被験者にとってかなり困難で努力を要するといった性質を備えてい ることが必要であると述べられている。実験IIで用いられた課題は,2次元3価の単純弁別学習課 題であった。すなわち,1つの刺激が正刺激とされ,この正刺激は学習全体を通して変わらない。
したがって,被験者は単純に1つの適切な刺激を反応をくり返す過程で習得すればよいわけである。
本実験についてみれば,第1段階で3連続正反応の学習基準に達するまでの反応で習得した正刺激 が,次の第2段階でも正刺激となっていた。このため,第1段階で完全に正刺激を習得してしまっ た被験者については,第2段階の強化条件の影響と全く無関係に30試行全部正反応をすることが可 能なわけである。つまり,前項のタイプ別の比較にあるA−1型,B−1型, C−1型のタイプに おいては,強化条件による影響が働く以前に正刺激に対する確信が完全に高まり(それに到達する までの試行数はA−1型,B−1型, C−1型でそれぞれ異なるが),正反応をし続けた被験者と,
ある程度の正刺激に対する予想をもとに1試行1試行予想を確かめながら学習を成立させて30試行 全部正反応をした被験者との両方が混在していたと考えられる(後者の場合にのみ,自己強化の影 響の可能性があると考えられる)。さらに,A−H型, B一豆型,およびC−H型の中の29試行正反
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 39
応した者,あるいは28試行正反応した者などについても同様に,第1段階で正刺激を完全に習得し た者と第2段階での学習者とが混在していたと考えられよう(1〜2試行の誤りは,完全に正刺激 を習得している場合でも認められるので)。
以上のような可能性が考えられるため,やはり弁別学習のような単一の正刺激を習得する課題に おいて,自己強化の機能を検討することは不適切であるように思われる。自己強化の機能を検討す る研究においては,第1段階では完全に学習していないで,かつ各群の学習レベルを同一にする必 要がある。そのため,本実験では第1段階の学習基準を3連続正反応としたのであるが,以上の説 明で示唆されるように,この3連続正反応がそのまま第1段階での学習レベルを同一にすることに は結びつかなかったように思われる。従来の研究において用いられた課題としては,無意味綴弁別 課題(春木・大上1976,Kanfer&Marston 4963 a, Kozma&Easterbrook 1974), SG価働態 度項目に関連した有意味語の選択課題(根建・春木1977,1978),および図形の弁別課題(天池・
清水1977)等が挙げられるが,これらの課題における正刺激は複数である。正刺激が1つの弁別 課題を用いた研究は柏木(1972)のもののみである。
このような課題に関する検討と同時に自己強化の具体的な操作方法の検討をも今後是非必要であ ろう。本研究においては,実験1ではOxを記述させ,実験Hでは赤い丸のシールをアタリと思う カードの裏に貼付させた。前者の方法は従来の研究でも行なわれているが,後者の方法は本実験で 新しく試みた方法である。従来弁別学習での自己強化は,柏木(1972)が行なっているように,ア タリだと思ったら「おはじき」をとるという方法が多かった。しかし,予備実験の結果,この方法 では弁別学習で正反応をあてるという行為と「おはじき」をとるという行為が分離してしまい,特 に精神薄弱児においてはある特定のカードを選んだことと「おはじき」をとって自己強化をしたと いうことが結びついていないように思われた。「おはじき」をとるという行為によって,かえって 試行と試行の間の連続性が失なわれ,試行間で同一の正刺激を選ぶという学習が遅れてしまうこと が考えられる。本実験で用いられた方法をも含めて,特に精神薄弱児において課題の特殊性と適合 した自己強化のしかたを検討することが必要であろう。さらに,精神薄弱児においてどの程度能動 的学習が可能であるかを考察する上で,精神薄弱児がどの程度自分の反応や成績を自分で評価でき るのかといった点をも検討していくべきである。
引 用 文 献
1)天池理栄子・清水直治 1977.「自己強化学習の検討一その1」r日本教育心理学会第工9回総会発表論文 集』,694−695.
2)安藤照子 1967.「幼児の概念獲得における訓練効果と知能水準の関係」『心理学研究』37,331−341.
3)Bandura, A.(Ed.).1971.角ッc1LoZo8・ cαZ mode琵㎎∵σo頑 c翻㎎〃あeo7 θs. Aldine, Chicago.
(バンデュラ編原野・福島訳 モデリングの心理学 1975 金子書房)
4)Bandura, A., and B. Perloff.1967. Relative efficacy of selfmonitored and externally reinforcement systems .」側mαZ q1 PersoπαZ 孟yαπd SodαZ j%ッcゐoZogッ,7,111−116.
5)福島修美 1980.「課題解決行動における自己強化と外的強化の結合」r日本教育心理学会第22回総会発
表論文集』,82−83.
6)春木豊・大上良隆 1976.「自己強化に関する実験的研究(H)」『日本教育心理学会第18回総会発表論文 集』,486−487.
7)波多野誼余夫・稲垣佳世子 1971.『発達と教育における内発的動機づけ』(明治図書)
8)Heilbrum, A.B. Jr。, and W. Norbert.1970. Maternal child rearing experience and self一 reinforcement effectiveness .1初θZopmεπ君αZ jR3)励oZogッ,3,81−87.
9)平川忠敏 1977.「自己強化の新反応形成機能の発達的研究」r心理学研究』48,171−174.
10)石橋由美 1977.「幼児の自己強化による行動維持におよぼす社会的強化の効果」r日本教育心理学会第 19回総会発表論文集』688−689.
11)石橋由美 1978.「幼児における自己強化の行動維持機能におよぼす外的強化の効果」『心理学研究』49,
265−272.
12)石田勢津子 1981,「自己強化および自己評価の学習に及ぼす効果一正反応情報を伴う課題を用いて」
『心理学研究』52,274−280.
13)Kanfer, RH., and A.R. Marston.1963{a}. ℃onditioning of self−reinforcing responses:
An analogue to self−confidence training .鳶ッcho護ogεcαZ Repor齢,13,63−70.
14)Kanfer, F.H., and A.R. Marston.1963(b}. Determinants of self。reinforcement in 一
?浮高≠氏@learning . Jb肱肌αZ(ゾ翫pθrごmθπ αZ」馬ッcんoiogy,66,245−254.
15)柏木恵子 1972。「幼児の弁別学習における自己強化(Self−reinforcement)の機能」『心理学研究』
42,321−327.
16)柏木恵子 1976.「人間学習における自己強化」r教育心理学研究』24,59−56.
17)Kozma, A., and P. Easterbrook.1974. Effects of baseline self−reinforcement behavior and training level on post−training self−reinforcement .JbωmαZ qノ泓pθr mθη孟αZ」馬ッcんoZo8ッ,
102,256−259.
18)牧野由美子 1981.「自己強化行動」『日本特殊教育学会第19回大会発表論文集』102−103.
19)Marston, A.R.1967. Self−reinforcement and external−reinforcement in visual motor learning . Jb脳「παZ q〆1砒Pθ7εm・θπεαZ角ッcゐoZogy,74,93−98.
20)松村多美恵 1981.「精神薄弱児の学習に及ぼす強化の効果について」r教育心理と近接領域』6,33−40.
21)松村多美恵 1983.「精神薄弱児の観察学習に関する研究」r特殊教育学研究』21,37−47.
22)松村多美恵・今橋親子・塔ケ崎芳子 1983.「障害児の観察学習に関する研究一弁別学習課題を中心とし て一」『茨城大学教育学部紀要』32,57−71.
23)Montogomery, G。T. and D.A. Parton.1970. Reinforcing effect of self−reward . JbωmαZ q〆1砒Pε「 mθη α護P3ッcんoZo8y,84,273−276.
24)根建金男・春木豊 1977.「自己強化に関する実験的研究(IV)一価値態度要因の効果(1}」『日本心理 学会第41回大会発表論文集』518−519.
25)根建金男。春木豊 1978.「自己強化に関する実験的研究(VI)一自己強化の消去抵抗(1>」r日本心理 学会第42回大会発表論文集』456−457.
26)大上良隆 1976.「自己強化に関する実験的研究(1)」『日本心理学会第40回大会発表論文集』477−478.
松村:精神薄弱児の自己強化に関する研究 41
27)佐々木正人。福島修美 1979,「自己強化手続きによる自己評価基準の形成と正反応の増大」r心理学研 究』50,136444.
28)清水直治・天池理栄子 1978.「自己強化学習の検討一その4一幼児における負強化の形成を主に」『日 本教育心理学会第20回総会発表論文集』618−619.
29)塩田勢津子 1977.「自己強化の機能に関する実験的研究」r日本教育心理学会第19回総会発表論文集』
690−691。
30)塩田勢津子 1978.「自己強化の機能に関する実験的研究」r教育心理学研究』26,162.171.
31)Skinner, B.F.1953.& e麗θαπd加mαπbeゐαひεoハMacmillan, New York.
32)Zigler, E.1973. The retarded child as a whole person . In D.K. Routh(Ed.).跣ε
θエpθ7 mθπεαZps)ノcんoZo8ッ(ゾmθπ虚αZ rε¢αrdαε 07L 231−322, Aldine, Chicago.