博 士 ( 農 学 ) 仲 谷 房 治 学 位 論 文 題 名
セ イ ヨ ウ ナ シ 胴 枯 病 の 発 生 生 態 と 防 除 に 関 す る 研究
学 位 論 文 内 容 の 要旨
本論文は、岩手県下のセイ ヨウナシに枝枯れや短果枝群の萎ちょう枯死を引き起こし、
大きな被害を与えている病害 が胴枯病であることを明らかにし、その発生生態を調ベ、全 伝染環を解明するとともに防 除法を検討したものである。
胴枯病の病徴に短果枝群の 萎ちょう枯死の記載がなかったため、その病原が何であるか が問題となっていた。短果枝 群の萎ちょう枯死は一見花腐れ症状を呈するが、これは、短 果枝部分に発生した病斑が進 展して枝枯れになるために発生することが明らかになった。
また、新たな病徴として直径 約1 mmの黒色を呈する小黒点病斑を発見した。種々の発病部 か ら分 離さ れたPhomopsis薗 は 、子のう胞子および柄胞子から分離されたPhomopsisUと 培養的性質および柄胞子の大 きさがほぼ同じであった。また、完全時代および不完全時代 の 形態的性質を比較検討し、セ イヨウナシ胴枯病菌、Diaporthe tanakae Kobayashi et Sakuma( ロ ambigua sense Tanaka non Nitischke) と 同 定 し た 。 前年秋期に認められた小黒 点病斑を経時的に観察したところ、越冬後の開花矧に拡大進 展し、枝枯れおよび短果枝群 の萎ちょう枯死を引き起こした。このことから小黒点病斑は 本病の初期発生病斑であるこ とが明らかになった。ついで、小黒点病斑の形成時期および 形 成部位を調査した。その結果 、小黒点病斑は7月末から見 えはじめ、大部分は8月に形 成された。はじめは小さな褐 色斑点であるが、しだぃに明瞭になり、晩秋には直径l mm程 度の小黒点になった。形成部 位は枝齢によって著しく異なった。1年生枝および短果枝群 の1年生枝に相当する部分に多数認められ、つ。、で2年生枝および短果枝群の2年生枝上 に多かった。新梢部にはこの 調査樹では認められなかった。しかし、激発樹の調査では1 年生枝に比較するときわめて 少なぃものの、秋期に微小黒点が形成されることが明らかに なった。小黒点病斑は、離れ て存在しているときには、病斑進展が小さいために枝枯れお よび胞子角の噴出に至らない が、群がっている場合には、融合して大きな病斑となり、枝 枯れをおこし、さらに多量の 胞子角を噴出した。しかし、短果枝群の枝上では、小黒点病 斑数がわずかでも枝枯れを生 じ、花叢葉が萎ちょう枯死した。小黒点病斑が進展できる時
期 は、 ほぼ5月に 限定 され、進展できなかった小黒 点病斑の多くは翌年あるいは2年後の 開花期に進 展した。
柄胞 子は5門F旬〜7月中 旬に 胞子 角を 作り 、柄 予殻から噴出するが、その艦 刈は6´J 上,中旬で あった。噴出する柄胞子の多くは当年に拡大し進展した病斑部におぃて形成さ れたもので あるが、前年の病斑部に新たに形成された柄子殻で作られる場合もあった。I峻 出した胞子角は降雨により分散した。柄胞子の噴出初期に採取した胞子角には発芽能丿亅を 有するa IY‑のみが含まれ、後半になると発芽能カを欠く声胞予が混在してきた。なお、
前年の病斑 部で形成された胞子角はいずれの時期にもすべてば胞子であった。培養条件お よび小黒点 病斑形成枝の病斑進展条件の検討から、形成柄胞子の種 類は、主として柄‑殻 の形成期間 の温度条件の影響を受け、低温条件下でば胞子が形成されることが1弸らかにな った。一方 、子のう殻は、病斑進展が比較的小さくその病斑部の周囲に癒傷組織が臓りf: が るよ うに なっ た病 斑 部において秋期に形成され、大部分は3〜4年生枝上の病 斑に観察 さ れた 。子 のう 胞子 の 噴出は、越冬後、柄胞子の噴出期より遅い6月下旬〜8月 上旬にお いて認めら れた。柄胞子、子のう胞子ともに降雨により分散することから、雨媒伝染する ものと推察 された。
これまで 胴枯病菌は有傷接種でしか発病させることができなかったため、傷痍寄生性を 示すとされ おり、自然発病と同じ病徴を発現させた事例はなかった。そこで、接種方法を 検討すると ともに自然発病と同じ病徴を発現させることにより伝染環を解明しょうとした
。栽培樹を 川い、枝に柄胞子を含ませた脱脂綿をバラフイルムで巻き付ける方法および胞 子角の噴出している枝を樹の上部に取り付ける方法で無傷接種したところ、自然発病と|ld じ病徴を発 現させることができた。すなわち、小黒点病斑の形成、小黒点病斑での越冬、
翌春の病斑 進展による枝枯れおよび胞子角の噴出が認められた。感染から小黒点病斑形成 ま で、 短い 場合 で4〜5カ月 、通 常は1年2力月 を要 し、 小黒 点病 斑の 状態 で越 冬し、翌 春に病斑進 展して枝枯れが発生した。したがって、伝染環の一巡に は、短い場合で1年、
通 常、2年要 する こと が示 され た。 小黒 点病 斑は 形成l〜2年後に進展すること があるの で 、感 染か ら枝 枯れ ま で3〜4年の長いサイクルを持つことが明らかになった。 枝の感受 性を枝齢別 に比較すると、新梢がもっとも感染しやすく、ついで1年生枝が感染しやすか っ た。2年生 枝、3年 生 枝と枝齢が増加するにっれ、感受性が低下した。枝の感 受性およ ぴ 発病 まで の期 間を 考 慮す ると 、新 梢や1年 生枝 が感染し、2年後の春に花芽を持つ2〜 3年生枝となって枝枯れが発生すること を示し、自然発生圃場の発生状況と一致した。一 方、子のう 胞子の場合も、柄胞子と同じ方法で接種し、小黒点病斑の形成、病斑進展によ る枝枯れお よび柄胞子の噴出が認められ、自然発病と同じ病状を再現できた。主要果樹に 対 する 柄胞 子の 接種 試 験の 結果 、セ イヨ ウナ シだ けに病斑を形成し、ロtanakaeによる ―474−
胴 枯 病 が 報 告 さ れ て い る り ン ゴ に 対 し て も 病 原 性 が 認 め ら れ な か っ た 。 次に防除薬剤の検索および防 除法を検討した。各種殺菌剤の柄胞子発芽抑制効果および 菌叢発育抑制効果を検討した結 果、ベ丿ミル、チオファネー卜メチル、ダイホルタン、有 機銅、フェナリモルおよび卜リ ホリンが有効であった。主としてこれらの薬剤を柄胞子の 噴出期に散布した結果、この時 期の薬剤散布はきわめて効果的であり、翌年の小黒点病斑 の形成を著しく減少させ、薬剤 散布2年後の枝枯れおよび短 果枝群の萎ちょう枯死の発生 を抑制することができた。防除 効果はダイホルタン水和剤、ボルドー液がすぐれ、ついで
、有機銅・チオファネー卜メチ ル水和剤およびキャプタン・ベノミル水和剤が有効であっ た。柄胞子の分散がおきる降雨5日前にキャプタン・ペ丿ミ ル水和剤を予防散布すること により、小黒点病斑形成を阻止 することができた。また、降雨後2日以内に薬剤散布する と防除できることも明らかにな った。なお、小黒点病斑形成枝に対する薬剤散布および塗 ,ni剤処理では効果が認められなかった。発病枝の剪除処分は重要であるが、多発条件下に おける発病枝の剪除処分による 伝染源の除去と薬剤散布との併用処理の実用性を検討した ところ、伝染源の除去効果は、 薬剤散布を行わなぃ場合、明瞭に認められたが、薬剤散布 を実施すると、薬剤散布の効カ の影響を強く受け、除去効果が減少した。このように感染 防止をねらいとした薬剤散布は きわめて重要である。なお、剪定にあたっては、小黒点病 斑が多数形成されている枝を除 去するとともに、多発園では小黒点病斑形成状態から枝枯 れ の 被 害 が 予 測 で き る の で 、 多 め に 枝 を 残 す こ と も 重 要 と 推 察 さ れ た 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
セイヨウナシ胴枯病の発生生態と防除に関する研究
本 論 文 は 、 岩 手 県 下 の セ イ ヨ ウ ナ シ に 枝 枯 れ や 短 果 枝 群 の 萎 ちょ う 枯死 を引 き起 こし 、 大 き な 被 害 を 与 え て い る 病 害 は 胴 枯 病 で あ る こ と を 明 ら か に し 、そ の 発生 生態 を調 べ、 全 伝 染 環 を 解 明 す る と と も に 、 防 除 法 を 確 立 し た 研 究 を ま と め た も の で あ る 。 論文は表53、図8、 図版8、文献70を含む総頁146の和文論文である。
こ れ ま で 知1ら れ て い な か1た 新 た な 病 徴 と し て 、 小 黒 点 病 斑 を発 見 した 。小 黒点 病斑 は 7月 末 〜8月 に 形 成 さ れ 、 は じ め は 小 さ な 褐 色 斑 点 で あ る が 、 し だ ぃ に 明 瞭 に な り 、 晩 秋 に は 直 径l mm程 度 の 小 黒 点 に な っ た 。 こ の 状 態 で 越 冬 し 、 翌 春 に進 展 し枝 枯れ や短 采枝 群 の 萎 ち ょ う 枯 死 を 引 き 起 こ し た 。 小 黒 点 病 斑 が 進 展 で き る 時 期 は 、 ほ ぼ5月 に 限 定 さ れ 、 進 展 で き な か っ た も の は 翌 年 あ る い は2年 後 に 進 展 し た 。 形 成 部 位 は 枝 齢 に よ っ て 箸 し く 甦なった。lfr小枝お よび短果枝餅の1イfく′―l: ‑に嗣Iリ1する部分に多数I忍められた。一jいで 2年 生 枝 お よ び 短 果 枝 群 の2年 生 枝 上 に 多 か っ た 。 小 黒 点 病 斑 は 、 離 れ て 存 在 し て い る と き に は 、 病 斑 進 展 が 小 さ い た め に 枝 枯 れ に 至 ら な ぃ が 、 群 が っ てい る 場合 には 、融 合し て 大 き な 病 斑 と な り 、 枝 枯 れ を お こ し 、 さ ら に 多 量 の 胞 子 角 を 噴 出し た 。し かし 、短 果枝 群 の 枝 上 で は 、 小 黒 点 病 斑 数 が わ ず か で も 枝 枯 れ を 生 じ 、 花 叢 葉 が 萎 ち ょ う 枯 死 し た 。 柄 胞 子 は5月 下 旬 〜7月 中 旬 に 胞 子 角 を 作 り 、 柄 子 殻 か ら 噴 出 す る が 、 そ の 贐 期 は6月 上 , 中 旬 で あ っ た 。 柄 胞 子 の 噴 出 初 期 に 採 取 し た 胞 子 角 に は 発 芽能 カ を有 する ば胞 子の み が 含 ま れ 、 後 半 に な る と 発 芽 能 カ を 欠 く ロ 胞 子 が 混 在 し て き た 。形 成 柄胞 子の 種類 は、 柄 子 殻 の 形 成 期 間 の 温 度 条 件 の 影 響 を 受 け 、 低 温 条 件 下 で ば 胞 子 が形 成 され るこ とが 明ら か に な っ た 。 一 方 、 子 の う 殻 は 、 病 斑 進 展 が 比 較 的 小 さ く そ の 病 斑部 の 周囲 に癒 傷組 織が 盛 リ 上 が る よ う に な っ た 病 斑 部 に お ぃ て 秋 期 に 形 成 さ れ 、 翌 年 の6月 下 旬 〜8月 上 旬 に 子 の う 胞 子 を 噴 出 し た 。 子 の う 胞 子 お よ び 柄 胞 子 は と も に 降 雨 に よ っ て 分 散 し た 。 こ れ ま で 胴 枯 病 は 、 有 傷 接 種 で し か 発 病 さ せ る こ と が で き な かっ た ため 、傷 痍寄 生性 を
明 夫
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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示すとされていた。しかし、栽培樹を用い、枝に柄胞子を含ませた脱脂綿をパラフィルム で巻き付ける方法等で無傷接種したところ、自然発病と同じ病徴を発現させることができ た。すなわち、小黒点病斑の形成、小黒ー魚病斑での越冬、翌春の病斑進展による枝枯れお よび 胞子角の 噴出が 認められ た。感 染から小 黒点病斑形成まで、短い場合で4〜5カ月、
通常 は1年2カ月 を要し 、小黒点 病斑の 状態で越 冬し、翌春に病斑進展して枝枯れが発生 した 。したが って、 伝染環の 一巡に は、短い 場合で1年、通常、2年要することが示され た 。 小黒 点 病 斑は形成l〜2年後 に進展す ること があるの で、感 染から枝 枯れまで3〜4 年要することもあることが明らかになった。枝の感受性を枝齢別に比較すると、新梢がも っと も感染し やすく 、ついで1年生 枝が感 染しやす かった 。2年 生枝、3年生枝と枝齢が 増加するにっれ、感受性が低下した。一方、子のう胞子の場合も、柄胞子と同じ方法で接 種し、小黒点病斑の形成、病斑進展による枝枯れおよび柄胞子の噴出が認められた。柄胞 子の接種試験の結果、セイヨウナシだけに病斑を形成し、本菌による胴枯病が報告されて い る り ン ゴ に 対 し て も 、 ナ シ 等 他 の 果 樹 に 対 して も 病 原性 が 認 めら れ な か った 。 次に、各種殺菌剤の柄胞子発芽抑制効果および菌叢発育抑制効果を調ベ、有効薬剤を中 心に、柄胞子の噴出期に散布した。この結果、この時期の薬剤散布はきわめて効果的であ り、 翌年の小 黒点病 斑の形成を著しく減少させ、薬剤散布2年後の枝枯れおよび短果枝群 の萎ちょう枯死の発生を抑制することができた。防除効果はボルドー液、ダイホルタン水 和剤がすぐれ、つ1、で、有機銅・チオファネ一卜メチル水和剤等が有効であった。柄胞:j の分 敞がおき る降雨5日前 の予防散 布ばか りでなく、降雨後2日以内に薬剤散桁すること によっても防除できた。なお、多発条件下におぃては発病枝の剪除処分による伝染源の除 去効果は、薬剤散布を行わなぃ場合、明瞭に認められたが、薬剤散布を行うと、その影響 を強く受け、除去効果が減少した。一方、剪定にあたっては、小黒点病斑が多数形成され ている枝を除去するとともに、小黒点病斑形成状態から枝枯れの被害が予測できるので、
これらを考慮して、多めに枝を残すことも重要と推察された。
以上のように、本研究はこれまで不明であった胴枯病の全伝染環を明らかにし、それに 基 づ ぃて 防 除 法を 確 立 した も の であ り 、 学術 上 、 応 用上 貢 献 する と ころ大で ある。
よっ て、審査 員一同 は別に実 施した 学力確認 試験の結果とあわせて、本論文の提出者 仲 谷 房 治 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る に 十 分 な 資 格 あ る も の と 認 定 し た 。