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博 士 ( 農 学 ) 高 橋 肇

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 高 橋   肇

学 位 論 文 題 名

乾 物 分 配 特 性 か ら み た 春 播 コ ム ギ の 生 育 相 と 生 産 カ の 評 価

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  世界におけるコムギの収量は、近年、農林10号に代表される半矮性 遺伝子の導入により飛躍的に向上したが、最近、先進諸国における増収 効果は必ずしも伸びておらず、21世紀における食糧の確保が将来的課 題となっている現在、さらなる技術改善や品種改良か求められている。

  コムギの品種改良は、従来、収量構成要素や稈長などの比較的単純な 形質に着目して行われてきたか、今後さらに収量性の向上を図るには、

植物か本来もっダイナミックな側面に着目してコムギの本質的な特性を 究 明 し 、 新 た な ボ テ ン シ ヤ ル を 探 る こ と が 不 可 欠 で あ る 。   本研究は、春播ユムギにおける同化産物の各器官への分配が生長点の 一連の分化に伴って規則的に進行していることを見いだし、発育と生長 の両面から生育相を分類し、出芽から成熟に至る全生育過程を、形態形 成、物質生産、群落構造および物質分配面から体系的に把握するととも に、生長シミュレーションモデルを開発し、そのダィナミックスを評価 し よ う と し た も の で あ る 。 主 な 内 容 は 次 の よ う に 要 約 さ れ る 。   1. 乾 物 分 配 則 か ら み た 春 播 コ ム ギ の 生 育 相 と そ の 変 動 要 因   春播コムギにおけ同化産物の分配動向は、生長点の分化に由来する葉 身、穂および子実の形成・発育に伴って規則的に変化しており、その生 育は、I:同化産物がもっぱら葉身の生長にふり向けられる出芽期から 幼穂分化期、u:葉鞘と稈の伸長に伴い、葉身への分配茄直線的に低下 する幼穂分化期から止葉出葉期、m:出穂期を最大に穂への分配か2次 曲線的に変化する止葉出葉期から開花期、IV:胚乳細胞の分裂に伴い子 実への分配か直線的に上昇する開花期から乳熟期、およびV:胚乳の完 成に伴い同化産物が全て子実にふり向け′られる乳熟期から成熟期、の5 つの生育相に分類されることを明らかにした。また、各器官への分配動

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向 の品 種 間差 異を 出 芽後 日数に対する回 帰式を用いて 検討し、長稈 ・晩 生 品種 は 葉身 への 分 配傾 向が強くその期 間か長いこと 、短稈の半矮 性品 種 は穂 へ の分 配傾 向 か強 いことを示した 。さらに、気 象要因の発育 速度

( 生育 相 の日 数) に 及ぼ す影響を発育指 数の概念を用 いて検討した とこ ろ 、発 育 速度 は生 育 前半 は気温および日 長、生育後半 は気温のみに よっ て 変動 し 、品 種の 早 晩性 は生育前半にお ける感応性の 差を反映して いる ことか明らかになった。

  2.光エネルギーの吸収特性と乾物生産との関係

  各 生 育相 に おけ る光 エネル ギ―(光合成 有効放射量) の反射、透過お よ び吸 収 率を コン ピ ュー タを組み込んだ 群落日射測定 システムによ り連 続 的に 測 定し 、光 吸 収特 性と乾物生産と の関係を検討 した。反射率 は生 育 期間 を 通じ てほ ぼ5% で推 移し た が、 透 過率 は 幼穂 分 化期の80%から 止 葉出 葉 期に かけ て10%まで 急減し、群落 構造完成後は95% 以上の光が 吸 収さ れ てい るこ と を確 認した。また、 光吸収効率の 指標となる受 光係 数は生育 の前.半は約0.6、後半は約O.3に推移すること、登熟期では上 部 光合 成 器官 であ る 穂、 穂首、止葉で約80%の光か吸収 されること、お よ び乾 物 生産 量は ェ ネル ギ一吸収量に比 例して増加す るが、その対 応関 係 は出 穂 期の 前後 で 異な ることが明らか となり、登熟 期では群落構 造が 強 光 条 件 下 に よ り 適 応 す る 方 向 に 変 化 す る も の と 推 察 し た 。   3. 登 熟 期 に お け る 葉 身 体 内 成 分 の 消 長 と 光 合 成 能 力   登 熟 期間 に おけ る葉 身の早 朝から夕方に かけての可溶 性糖分増加量、

窒 素含 有 率お よび 光 合成 速度を連日測定 し、群落同化 能カの評価を 行っ た。その 結果、′窒素 含有率は強光下での光合成速度と、糖分の日中増加 董は群落条件下での光合成速度と高い正の相関(それぞれr=O.963***、

r=0.760***)を示し、窒素含有率は潜在的な光合成能カを、糖分の日中 増 加量 は 群落 にお け るり アルタイムな光 合成速度を反 映しているこ とが 明 らか に なっ た。 ま た、 光合成は葉身窒 素含有率か1.2%以下ではほと ん ど 行 わ れ ず 、 光 合 成 速度 か2pmol/缶/s以下 で は葉 身 に糖 分 が蓄 積 さ れないことが明らかになった。

  4. 稈 内 に お け る 一 時 的 貯 蔵 養 分 の 蓄 積 ・ 転 流 と 登 熟 機 構

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  登熟期間における稈の乾物重の推移を節位兄IJ、成分別に調査し、稈内 貯蔵養分の蓄積・転流と登熟機構との関係について検討した。稈の乾物 重は乳熟期から成熟期にかけて減少するか、その減少は主として可溶性 糖分の減少に起因しており、第2節問および下位節問が貯蔵器官として の役割を果たしていることが判明した。また、稈内可溶性糖分の消長と 子実生長の推移から、登熟期間は、1)同化産物が主として稈の伸長生 長にふり向けられる開花期から稈伸長停止期、2)同化産物は子実生長 に利用され、余剰分か一時的に稈に蓄積される伸長停止期から乳熟期、

3)同化産物は主に子実生長にふり向けられ、不足分か稈から子実へ転 流する乳熟期から光合成停止期、および4)同化産物は生産されず、子 実は稈からの転流のみによって生長する光合成停止期から成熟期、の機 能 的 役 割 が 異 な る4っ の 相 に 区 分 さ れ る こ と か 明 ら か とな っ た 。   5‑収 穫 指 数 お よ び バ ィ オ マ ス 生 産 の 品 種 間 差 異 と 環 境 反 応   ドイツで育成された高バィオマス品種と北海道の半矮性品種との交雑 後 代から 選抜さ れた6系 統を環境の異なる20所で栽培し、収穫指数と バィオマス生産の゛環境反応について検討した。育成系統は親品種に比べ 収穫指数は劣るものの全乾物重か高く、高収系統の育成が可能なことか 示唆された。しかし、全乾物重は収穫指数に比べ環境の違いによって大 きく変動することが判明した。

  6. 生 長 シ ミ ュ レ ― シ ョ ン モ デ ル の 開 発 と 生 産 カ の 評 価   各章で得られたデータを@発育モデ丿レ、@生産モデル、◎分配モデル に分けて数式化し、生育相の進展に伴って段階的に進行する生長シミュ レーションモデルを開発した。次に、実際の気象データを入カし、出カ された計算値を実測値と比較してモデルの精度を検討した。その結果、

乾物重の計算値は必ずしも実測値と一致しなかったが、発育経過や器官 別乾物重の推移の様相はきわめてよく適合した。また、モデルの応用例 のーっとして、平年と単年度の気象データを用いて播種期を変動させた 場合の影響を解析したところ、バィオマスと子実収量は播種期の遅れに 伴って減少することなどが予測され、本モデルの有効性が示された。

  以上のように、本研究によって、これまでとかく連続的で複雑である

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と考えられてきたコムギの生育は、乾物分配則からみると生長点の分化 を軸とする主要生育事象を転換点として規則的に進行しており、機能的 役割や気蒙反応性の異なる5づの生育相から成立っていることか明らか になった。また、コムギ群落は、出穂による形態変化に伴って構造的に も機能的にも大きく変化するほか、従来不明な点が多かったコムギの登 熟機構にも機能的役割の異なる4っの相か存在することが判明した。さ らに、得られた結果を基に生長シミュレーションモデルを開発し、生産 カの評価を試みた結果、本モデルによルコムギの生産カを理論的に評価 し得る新しぃモデルの構築か可能と考えられた。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨

    学位論文題名

乾物分配特性からみた春揺コムギの生育相と生産カの評一

  本 論 文 は、 序 章と6章か らな り 、表12、 図45、英 文摘 要 およ び引 用 文 献142を 含 む 総 頁 数152の 和 文 論 文 で あ る 。 別 に 参 考 論 文9編 が添えられている。

  世界におけるコムギの収量は、近年、半矮性遺伝子の導入により飛躍 的に向上したが、最近、先進諸国における増収効果は停滞しており、新 たな収量ポテンシャルの探求が急務となっている。本論文は、春播コム ギの生育過程を発育と生長の両面から5っの生育相に分類し、各生育相 における生産上の意義を形態形成、物質生産、群落構造および物質分配 の面から体系的に把握するとともに、生長シミュレ―ショシモデルを開 発し、収量性の 改善に資する基礎 的資料を得ようとしたものである。

  第1章では、同化産物の分配動向が幼穂分化期、止薬出葉期、開花期 および乳熟期を転換点として規則的に変化していることを見いだし、従 来、形態変化を中心に分類されていた生育相を発育と生長の両面から統 一・的に把握し得る5っの生育相に分類した。また、各器官への分配動向 は品種によって異なり、長稈・晩生品種では葉身への分配傾向が、短稈 の半矮性品種では穂への分配傾向が強いこと、各生育相における発育速 度は生育前半では気温および日長、生育後半では気温のみによって変動 することを明らかにした。

  第2章は、光エネルギ―(光合成有効放射)の反射、透過および吸収 率を連続測定し、乾物生産との関係を検討したものである。反射率は生

男郎 也 公俊 義 古下 本 吐 中木 島 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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育期間を通じてほぼ5%で推移するが、透過率は幼穂分化期から止葉出 葉期にかけて急減し、群落構造完成後は95%以上の光か吸収されている ことを確認した。また、光吸収効率の指標となる受光係数は、生育の前 半では0.6、後半では0.3に推移すること、登熟期では上部光合成器官 である穂、穂首、止葉で約80%の光か吸収されること、および乾物生産 量はェネルギー吸収量に比例して増加するか、その対応関係は出穂期の 前後で異なることを示し、登熟期では群落構造か強光下条件により適応 する方向に変化することを明らかにした。

  第3章は、登熟期における葉身の早朝から夕方にかけての可溶性糖分 増加量、窒素含有率および光合成速度を測定し、群落同化能カを評価し たものである。その結果、窒素含有率は強光下での光合成速度と、糖分 の日中増加量は群落条件下での光合成速度と高い正の相関を示し、窒素 含有率は潜在的な光合成能カを、糖分の日中増加量は群落におけるりア ルタイムな光合成速度を示すことを明らかにした。また、光合成は葉身 窒素含有率か1.2%以下ではほとんど行われず、光合成速度か2p mol/

茄 /S以 下 で は 葉 身 に 糖 分 が 蓄 積 さ れ な ぃ こ と を 示 し た 。   第4章では、登熟期間における稈の乾物重の推移を節位別、成分別に 解析し、稈内貯蔵養分の蓄積・転流と登熟機構との関係について検討し ている。乳熟期から成熟期にかけての乾物重の減少は:可溶性糖分の減 少に起因しており、第2節問および下位節間亦貯蔵器官としての役割を 果たしていることを明らかにした。また、稈の伸長停止期から乳熟期で は同化産物は子実生長に利用され、余剰分が一時的に稈に蓄積されるこ と、乳熟期から光合成停止期では同化産物は子実生長にふり向けられ、

不足分か稈から子実へ転流すること、およ.び光合成停止期以降は子実は 稈 か ら の 転 流 の み に よ っ て 生 長 す る こ と を 明 ら か に し た 。   第5章では、ドイツ育成の高バィオマス品種と北海道の半矮性品種と の交雑後代系統の生産カを環境の異なる地域で比較し、育成系統は親品 種に比べ収穫指数は劣るものの全乾物重か高く、高収系統の育成か可能 なことを示した。

  第6章では、各章で得られたデータから、生長シミュレーションモデ

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ルを開発し、計算値と実測値との比較からモデルの精度を検討した。そ の結果、乾物重の計算値は必ずしも実測値と一致しなかったが、発育経 過や器官別乾物重の推移の様相はきわめてよく適合した。また、モデル の応用例のーっとして播種期の影響を解析したところ、バィオマスと子 実収量は播種期の遅れに伴って減少することか予測され、本モデルの有 効性が示された。

  以上、本研究は、春播コムギの生育過程を形態形成、物質生産、群落 構造および物質分配面から体系的に解析、検討し、新たな生長シミュレ

―ションモデルを提示したもので、学術上重要な知見を加えたばかりで なく、応用上の貢献も大きぃものと評価される。よって審査員一同は、

別 に行 っ た学 力確 認 試験 の結果と合わせて、 本論文の提出者高 橋肇 は博士(農学)の学位を受けるのに十分ぬ資格かあるものと認定した。

参照

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