博 士 ( 農 学 ) 植 竹 勝 治
学 位 論 文 題 名
乳 牛 の 視 聴 覚 認 知 と 学 習 を 利 用 し た 群 管 理 技 術 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
農 畜 産 物 貿 易 自 由 化 ガ 進 展 を背 景と して 、酪 農に お いて は生 産者 乳価 なら びに 個体 販売 価 格 の 低 迷 が 続 い て い る 。 こ のよ うな 情勢 の下 で、 生 乳生 産に おけ るよ り一 層の 生産 費低 減 が 求 め ら れ て い る 。 近 年 、 自動 搾乳 機な ど省 人化 を 企図 した 管理 機器 が開 発さ れて きて い る が 、 そ の 効 カ を 最 大 限 に 発揮 させ るた めに は、 牛 舎レ イア ウト や管 理手 順等 の個 別技 術 を 有 機 的 に 結 合 し た ト ー タ ルな 飼養 管理 体系 を確 立 する 必要 があ る。 その ため の周 辺技 術 の ひ と っ と し て 、 飼 養 管 理 の目 的に 応じ て牛 群の 行 動を 適切 に管 理す る行 動制 御技 術の 開 発 が あ る 。 そ の 場 合 、 牛 群 の行 動は 強制 によ るの で はな く、 自然 に行 動を 促す 刺激 の畜 舎 内 外 へ の 配 置 に よ っ て 自 発 的に 達成 され るこ とが 重 要で ある 。そ のた めに は、 牛が 外部 環 境 を ど の よ う に 認 知 し て い るか にっ いて の基 礎的 な 知見 を得 るこ とが 必要 とな る。 しか し な が ら 、 牛 の 知 覚 ・ 認 知 研 究の 歴史 は他 の研 究領 域 に比 較し て浅 く、 この 分野 にお ける 基 礎 的 知 見 の 不 足 が 、 牛 の 知 覚・ 認知 機能 を利 用し た 管理 技術 の開 発を 試行 錯誤 的で 非効 率 的 な 段 階 に 留 め て い る の が 現 状 で あ る 。
こ の よ う な 背 景の もと で、 本研 究は 乳牛 の 視聴 覚認 知と 学習 を利 用し た群 管理 技術 開発 に 有 効 な 基 礎 的 知 見 を 得 る 目 的 で 、 以 下 の 項 目 に つ い て 検 討 し た 。 1) 牛 の 視 聴 覚 刺 激 の 識 別 能 カ と 強 化 刺 激 の 種 類 に よ る 視 聴 覚 刺 激 認 知 の 特 徴 2) 視 聴 覚 刺 激 を 行 動 管 理 技 術 に 応 用 す る 際 に 必 要 と な る 牛 の 学 習 能 カ と 記 憶 3) 乳 牛 群 の 行 動 管 理 技 術 開 発 に お け る 視 聴 覚 刺 激 利 用 の 可 能 性
本 研 究 の 成 果 は 以 下 の よ う に 要 約 き れ る 。
1) 牛 の 視 聴 覚 刺 激 の 識 別 能 カ に つ い て 、 特 に 色 覚 と 聴 カ に つ い て 検 討 し た。 また 視 聴 覚 刺 激 を 利 用 し た 牛 群 誘 導 技 術 の 開 発 を 考 え る 上 での 実用 性の 観点 から 、視 聴覚 刺激 と 強 化 刺 激 と し て の 餌 報 酬 な ら び に 電 気 シ ョ ッ ク と の 組み 合わ せに つい て検 討し た。 色覚 に つ い て は 、 二 者 択 一 の 迷 路 を 用 い た 識 別 学 習 を 通 じ て、 乳牛 が人 と同 じ色 覚メ カニ ズム を 有 す る な ら ぱ 、 そ の 色 覚 は正 常な3色型 であ る可 能性 が高 いこ とを 明ら かに した 。聴 カに っ い て は 、 オ ベ ラ ン ト 条 件 づ け を 用 い た 精 神 物 理 学 的 闘値 測定 法に より 、牛 の聴 覚感 受性 が 低 周 波 数 か ら 徐 々 に 向 上 し 、 周 波 数2kHz付 近 で 最 良 とな るこ とを 示し た。 また 、オ ベラ ン 卜 条 件 づ け を 用 い て 、 餌 報 酬 獲 得 場 面 で は 、 牛 が 聴 覚刺 激よ りも 視覚 的な 刺激 に対 して よ り 注 意 を 向 け や す い こ と を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 古典 的条 件づ けを 用い て、 電気 ショ ッ ク ―263―
に対して視聴覚刺激を条件づけした場合、反応量では視覚刺激と聴覚刺激の間に差はない が 、 残 効 性 の 点 で 視 覚 刺 激 が 聴 覚 刺 激 を 若 干 上 回 る こ と を 示 し た 。 2)視聴覚 刺激に対 する牛の 学習能カと 記憶にっ いて検討した。学習能カにっいては、
オベラ ント条件 づけと古 典的条件づけの2っの学習様式に分類して検討した。餌報酬など 正の強化刺激を用いたオペラント条件づけ学習の場合、概ね10〜25セッションで牛は視聴 覚刺激に対する行動反応を習得することを明らかにした。また、電気ショックを用いた古 典的条 件づけ学 習では、2セッションというごく短期間の内に牛が視聴覚刺激に対する条 件反応を獲得することを示した。その一方で、電気ショックの提示を知らせる視聴覚刺激 に対する回避学習にっいては、牛は習得することができず、刺激と行動反応の連合学習に おける生物学的制約の存在が示唆された。牛の記憶カについては、オペラン卜条件づけに より習得した行動反応ならびに空間的記憶を、牛が90日という長期間にわたり保持・再生 できることを示した。
3)現在実 用化段階 に達しっ っある自動 搾乳シス テムを飼養管理体系のモデルとして、
視聴覚刺激を利用した搾乳室への牛群の自発的誘導を企図した管理技術にっいて検討した。
試作の実験施設を用いた模擬試験において、給飼作業と給飼された飼料を牛群誘導のため の視覚的な刺激として利用することで、牛群の搾乳ストールヘの自発的進入を促進できる ことを示した。また、実際に自動搾乳機を用いた実証試験において、搾乳時に習慣的に音 楽を流すことが、牛群内の牛を自発的にホールディングエリアに移動させる、あるいは移 動しないまでも、横臥・休息している牛の割合よりも通路で佇立する牛の割合を増やすな ど 、 搾 乳 室 へ の 管 理 者 に よ る 牛 の 誘 導 に 効 果 が あ る こ と を 示 し た 。
以上のように、本研究では牛は人と同様の視聴覚機能を有しており、学習能カも高いこ とを明らかにした。また視聴覚認知と学習を利用することで、牛群の効率的な行動管理技 術の開発が可能であることを例証した。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
大久保 清水 近藤
学 位 論 文 題 名
正彦 弘 誠司
乳牛の視聴覚認知と学習を利用した
゛ 群管理技術に関する研究
本 論 文1ま5章 で 構 成 さ れ 、 表2、 図17、 引 用文 献113を 含 む 総ペ ー ジ 数123の和 文 論 文で あ り 、 別に 参 考 論文10編が 添 え られ て い る。
酪 農に お け る労 働 生 産性 の 一 層の 向 上 を図 る た め、 近 年 、 自動 搾 乳 機な ど 省 人化 を 企 図 し た 管 理機 器 が 開発 さ れ てき て い るが 、 そ の効 カ を 最大 限 に 発 揮させる ために1ま、 牛舎レ イ ア ウ トや 管 理 手順 等 の 個別 技 術 を有 機 的 に結 合 し た総 合 的 な 飼養 管 理 体系 の 確 立が 必 要 で あ る 。そ の た めの 周 辺 技術 の ひ とっ と し て、 飼 養 管理 の 目 的 に応 じ て 牛群 の 行 動を 適 切 に 管 理 する 行 動 制御 技 術 の開 発 が 求め ら れ てい る 。 この 場 合 、 牛群 の 行 動を 強 制 によ る の で は な く、 自 然 に行 動 を 促す 刺 激 の畜 舎内外 への配置 によって 達成す ることが 重要で あり、
そ の た めに は 、 牛が 外 部 環境 を ど のよ う に 認知 し て いる か に っ いて の 基 礎的 な 知 見が 必 要 と な る 。し か し なが ら 、 牛の 知 覚 ・認 知 研 究の 歴 史 は比 較 的 浅 く、 こ の 分野 に お ける 基 礎 的 知 見 は不 足 し てい る の が現 状 で ある 。
こ のよ う な 背景 か ら 、本 研 究 は乳 牛 の 視聴 覚 認 知 と学 習 を 利用 し た群管 理技術 開発に有 効 な 基 礎 的 知 見 を 得 る た め に 、 以 下 の 項 目 に っ い て 検 討 し た も の で あ る 。 1) 牛 の 視 聴 覚 刺 激 の 識 別 能 カ と 強 化 刺 激 の 種 類 に よ る 視 聴 覚 刺 激 認 知 の 特 徴 2) 視 聴 覚 刺 激 を 行 動 管 理 技 術 に 応 用 す る 際 に 必 要 と な る 牛 の 学 習 能 カ と 記 憶 3) 乳 牛 群 の 行 動 管 理 技 術 開 発 に お け る 視 聴 覚 刺 激 利 用 の 可 能 性
本 研 究 の結 果 は 以下 の よ うに 要 約 さ れる 。
1) 牛 の 視 聴 覚 刺 激 の 識 別 能 カに っ い て、 特 に 色覚 と 聴 カに つ い て検 討 し た。 ま た 視 聴 覚 刺激 を 利 用し た 牛 群誘 導 技 術の 開 発 を 考え る 観 点か ら 、 視聴 覚 刺 激と 強 化 刺激 と し ての 餌 報酬 な ら びに 電 気 ショ ッ ク との 組 み 合 わせ に つ いて 検 討 した 。 色 覚に つ い ては 、 乳 牛が 人 と同 じ 色 覚メ カ ニ ズム を 有 する な ら ぱ 、そ の 色 覚は 正 常 な3色型であ る可能 性が高い こと を 明ら か に した 。 聴 カに つ い ては 、 牛 の 聴覚 感 受 性が 低 周 波数 か ら 徐々 に 向 上し 、 周 波数 2kHz付 近で 最 良 とな る こ とを 示 し た 。ま た 、 餌報 酬 を 組み 合 わ せた 場 合 、牛 が 聴 覚刺 激 よ
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りも視覚的な刺激に対してより注意を向けやすいことを明らかにした。さらに、電気ショ ックに対する反応には視覚刺激と聴覚刺激間に差がみられないが、残効性の点では視覚刺 激が聴覚刺激を上回ることを示した。
2)視 聴覚刺激 に対する 牛の学習 能カにっ いては、 オベラントおよび古典的条件づけに おける牛の学習能カがかなり高いことを示す一方で、視聴覚刺激と強化刺激の組み合わせ 学習において生物学的な制約があることを示唆した。牛の記憶カにっいては、オベラント 条件づけにより習得した行動反応ならびに空間的記憶を、牛が90日にわたり保持・再生で きることを示した。
3)現 在実用化 段階に達 しっっあ る自動搾 乳システ ムを飼養管理体系のモデルとして、
視聴覚刺激を利用した搾乳室への牛群の自発的誘導を企図した管理技術にっいて検討した。
その結果、給飼作業と給飼された飼料を牛群誘導のための視覚刺激として利用することで、
牛群の搾乳ストールヘの自発的進人を促進できることを示した。また、搾乳時に音楽を流 すことが、牛を自発的に搾乳室近くに移動させる、あるいは、横臥・休息していた牛の割 合より通路で佇立していた牛の割合を増やすなど、搾乳室への牛群の誘導に効果があるこ とを示した。
以上のように、本研究では牛が人と同様の視聴覚機能を有しており、学習能カも高いこ とを明らかにした。また、牛の視聴覚認知ならびに学習能カを利用することで、牛群の効 率的な行動管理技術の開発が可能であることも例証した。これらの成果は牛の環境認知分 野における基礎的知見に寄与するものであり、学術的に高く評価されるとともに、実用面 においても有益な成果を提供している。よって審査員一同は、植竹勝治が博士(農学)の 学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。
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