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博 士 ( 医 学 ) 川 上 睦 美

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 川 上 睦 美

学 位 論 文 題 名

老 年 者 の 感 染 症 に お け る 血 清 G ― CSF 値

― と く に 繰 り 返 し 感 染 に つ い て 一

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  願粒球 コロニ一 刺激因 子(G‑CSF)は,願粒 球前駆細 胞に対 する造血 因子と し て働 くととも に成熟 願粒球の 機能を 亢進させ る作用も 持つ重要な因子である.

G‑CSFは感染時には,リボ多糖類やインターロイキン1(IL‑1)などの刺激を受け て単球ノマク・ロフアージ,血管内皮細胞,線維芽細胞などで産生される.レかし 感染 時の血清G‑CSF濃 度に関する報告はほとんどない.本研究では,老年感染症 患 者の 急性期に おいて 血清G‑CSF濃度の 測定を行 い,中 でも特に 繰り返し 感染 を起 こす患者 の感染 急性期の 血清G‑CSF値の特徴及び他の臨床データとの関連に ついて検討を行った.

対象と方法

  感 染症症状 を呈し て来院し た48名の 患者(65‑101歳,平均81.2+SD 8.7歳)に お いて感染 急性期の 血清G‑CSF濃度を調べた.患者のうち過去三ケ月以内に同様 の 感染を起こしており,適切な治療を行ったにもかかわらず完治していないか,

あ るいは再 び感染を 起こし ている者26名を 繰り返し 感染あり ,残りの22名 を 繰り返 し感染な し と した.ま た 繰 り返し感 染あり とした26名中22名 は 今回の感 染から完 治した とは言い 難かっ た.そこ で,この 完治に至らず遷 延 化した状 態 を 慢性期 と定義 した. 繰り返 し感染あり 群では22名で 感 染急性期 と 慢性 期 と の比較を 行った .一方, 繰り返し感染なし 群で は15名において感染急性期と治癒期との比較を行った.

  32名の健常老年者(64 ‑88歳,74.9+8.2歳)において血清G‑CSF値を測定しコン

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トロールとした.また,3名の健常老年者において,血清G. CSFの日内変動を調 べた.

  血清G‑CSFil度の測定には比也法および化学発光法を用いた定量的免疫酵素法 (EIA)を用いた.前者は抗リコンビナント(r) G‑CSF抗体を付着させた管に0.2ml の血清をいれO.5mlの緩衝液を加えて室温で反応させたものにぺルオキシダーゼ でラベルしたrG‑CSF抗体O.1mlを加えさらに2時間反応させた.洗浄後,1mlの抽 出液を加え2時間反応させ492nmにおける吸光度を測定した.比色法の測定限界 は30Pg/Ilであった.30pg/ml以下の症例ではさらに化学発光法による定量的免 疫酵素法を用いて測定した.抗体の標識にはグルコースオキシダーゼを用いた.

化学発光法を用いた定量的免疫酵素法の測定限界はO.5pg/mlであった.検討し た症例で血清G‑CSF値がlpg/ml未満の者はいなかった.感染症患者では,血清 総蛋白 ,血清アルブミン(Alb),コリンエステラーゼ(ChE),末梢白血球数

(VBC),穎粒球数,C反応蛋白(CRP)の測定も行った.

結果

  健 常 老 年 者 に お け る 血 清G‑CSF濃 度 鼓253197pg/ULlで あ っ た . 健 常 老 年 者 の 血 清G‑CSF濃 度 と 穎 粒 球 数 お よ び 年 齢 と の 間 に 相 関 は な か っ た . 血 清G‑CSF 日 内 変 動 を 観 察 し た3例 で は , は っ き り し た 変 動 傾 向 は 指 摘 で き な か っ た .   感 染 症 急 性 期 の 血 清G‑CSF濃 度 は5719+7829pg/mlで , 健 常 老 年 者 に 比 較 し て 有 意 に 上 昇 し て い た (p<00001) , . 急 性 期 の 血 清G‑CSF値 と 願 粒 球 数 お よ びCRP に 相 関 は な か っ た . 繰 り 返 し 感 染 な し 群 と 繰 り 返 し 感 染 あ り 群 と の 比 較 で は , 繰 り 返 し 感 染 な し 群 に お け る 急 性 期 の 血 清G‑CSF値 の 方 が , 有 意 (P<O001)に 高 か っ た (1014.1927.4pg/nlvs1976369Opgml) . ま た 血 清Alb値 も , 繰 り 返 し 感 染 あ り 群 よ り 有 意 に 高 か っ た (pO005) が , 年 齢

, 血 清 総 蛋 白 ,ChE, 感 染 急 性 期 のVBCお よ び 願 粒 球 数 ,CRPに 有 意 差 は な か っ た . 操 り 返 し 感 染 な し 群 の 急 性 期 と 治 癒 期 の 比 較 で は , 血 清GCSF

(p〈O.01),WBC(p〈O.0001),願粒球数(p〈O.001),CRP(p〈0.001),体温(pくO.ool と も 急 性 期 の 方 が 有 意 に 上 昇 し て い た . 一 方 , 繰 り 返 し 感 染 あ り 群 の 感 染 急 性 期 と 慢 性 期 で も 同 様 の 比 較 を お こ な っ た が , 有 意 差 を 認 め た の は 願 粒 球

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数(p<0.05)と体温(p<0.005)のみであった・

考察

  健常老 年者32名 における血清G‑CSF濃度はl‑95pg/mlでこのうち28名(87.弼で)

は40pg/ml以下で あった. これはWatariらの, 成人健常 者の8&9で血清G‑CSF濃度 は30pg/皿以下 であると いう報 告とほぼ 同様の 結果であ った.本 研究の結果から は血清G‐CSF濃度 と年齢と の相関 はなく, 加齢によるG・CSF産生能の低下は,は つっき りしな かった. また血 清G‐CSF値独 ,末梢顛粒球数と相関を示さなかった

.この 原因と しては, 平常時 の顛粒球 数コントロールに必要なG.cSF濃度変化の 幅 が 狭 く , は っ き り と し た 相 関 関 係 を 得 ら れ な か っ たこ と が 考え ら れ る .   感染時 におけ る血清G,CSF濃度に 関しては,まとまった報告はない.本研究の 結果か ら,感 染急性期 に血清G‐CSF値は明 らかに上昇するが,その値には各症例 間 で差 が あ るこ とが 示され た.感染 の病原 体が一様 でなく ,また重 症度にも 差 がある ことが 血清G−CSF濃 度に差 がでる一 因と思われる.また,血清G‐cSFと願 粒 球数 と の 聞に 相関 が得ら れなかっ た理由 としては ,感染 症状発現 期から採 血 までの 時間が 一定では ないた めに,血 清G_CSFの上昇と願粒球数増加反応との時 間差や ,顛粒 球造血に 対して 負の調節 作用を持 っイン ターフェ ロン.aや可溶性 レセプ ターな どの影響 がある と思われ る.しかし最大の原因は,感染時のG‐CSF 産 生細 胞 が 常に 多く のサイ トカイン に直接 的,間接 的に刺 激を受け 読けてい る ことに あると 考えてい る.

  感染急 性期の 血清G・CSF値は, 繰り返し感染なし 群の方が 繰り返し感染 あり 群より 有意に高 く,ま た他にこ の2群間で有意差を認めたのは血清Alb値の みであ った. 感染時にG・CSFを産 生する単 球系の細胞は,感染刺激を繰り返し受 け るこ と に より ,そ の反応 が低下す ると言 われてい る.こ のような 免疫系の 不 応答が 繰り 返し感染 あり 群のG−CSF濃 度が有意に低かった一因と考えられた

.また 栄養低 下状態の みでも ,IL‐1やTNFの産生能が低下するとの報告があり,

G‐CSF産 生の障害 も引き起 こされ る可能性 がある.一方,抗G.CSF抗体の出現の 可能性 も考慮 しなくて はなら ない.本 研究においては,抗G‐CSF抗体の測定は試 みてい ないが ,感染急 性期の 血清G‐CSF濃 度の低 い 繰り 返し感 染あり 症例3

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例 にお いてthG‑CSF投与を行 なったところ,G‑CSFの血中 濃度の上昇および末梢 顛粒球数 の増加が見られたことから,現時点において抗G‑CSF抗体の関与は考え 難い.

結諭

  健常老年者の血清G‑CSF値は,・年齢との相関を示さなかった.老年者感染症急 性期の血清G‑CSF値な,健常老年者より有意に上昇 していた.血清G‐CSF値と願 粒 球数 の相 関は ,健常老年者,感染急性期患者共になかった.感染急性 期の血 清G‑CSP値は, 繰り返し感染なし 群の方が 繰 り返し感染あり 群より有意 に 高か った .本 研究の結果より老年者の場合,健常状態では特に問題が なくて も繰り返し感染を起こ す症例などで,G‑CSFの産生 に影響がでる可能性が示唆さ れた.

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

老 年 者 の 感 染 症に お け る血 清 G ー CSF 値

一 と く に 繰 り 返 し 感 染 に つ い て ―

    研究 目的

  穎粒 球コ ロニ 一 刺激 因子(G‑CSF)は, 穎粒 球 前駆 細胞 に対 する 造血 因子とし て 働く とと もに 成 熟願 粒球 の機 能を 亢進 させる作用も持つ 重要な因子である.

本 研究 では ,老 年 感染 症患 者の 急性 期に おい て血 清G‑CSF濃 度の 測定 を行い,

中 でも 特に 繰り 返し感染を起こ す患者の感染急性期の血清G‑CSF値の特徴及び他 の臨床デ ータとの関連について検討を行った.

    対象 と方法

  48名の 感染症患者(65 ‑101歳,平均81.2+SD8.7歳)において 感染急性期の血 清G‑CSF濃度を調べた.患者のうち過 去三ケ月以内に同様の感染を起こしており,

適切な治 療を行ったにもかかわらず完治していないか,あるい強 再び感染を起こ している 者26名を 繰り返し感染あり ,残りの22名を 繰り返 し感染なし と した.ま た 繰り返し感染あり とした26名中22名は今回の感染 から完治したと は言い難 かった.この 完治に至らず遷延化した状態 を 慢性期 と定義した.

繰り返 レ感染あり 群では22名で感染急性期と 慢性期 との 比較を行った.

一方, 繰り返し感染なし 群では15名において感染急性期と治 癒期との比較を 行った.

  32名の 健常老年者(64 ‑88歳,74.9+8.2歳)において血清G‑CSF値を測定しコン トロール とした.また,3名の健常老 年者において,血清G― CSFの日内変動を調 べた.

89

上 田

川 金

授 授

教 教

査 査

主 副

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  血清G‑CSF濃度 の測定に強比包法および化学 発光法を用いた定量的免疫酵素法 を用いた .比色法の測定限界は30pg/mlであった.30pg/mj̲以下の症例ではさらに 化学発光 法による定量的免疫酵素法を用いて測定した.化学発光 法を用いた免疫 酵素法の 測定限界はO.5pg/mlであっ た.検討した症例で血清G‑CSF値がlpg/ml未 満の者は いなかった.感染症患者でiま,血清総蛋白,血清アルブミン(Alb),コ リ ンエ ステ ラー ゼ ,末梢自血球数(WBC),顛粒 球数,C反応蛋白(CRP)の測定も行 った.

    結果

  健常老 年者における血清G‑CSFil度 は25 ‑3+19.7pgInLlであっ た.健常老年者 の 血清G‑CSFill度 と顎粒球数および年齢との間に相関はなかった.血清G‑CSFの 日 内 変 動 を 観 察 し た3例 で は , は っ き り し た 変 動 傾 向は 指摘 でき なか った .   感染症急性期の血清G ‑CSFilll度は571.9土782.9pg/血lで,健常老年者に比較し て有意に 上昇していた(pくO.0001).急性期の血清G‑CSF値と願粒球数およびCRP に 相関 はな かっ た . 繰り 返し 感染 なし 群 と 繰り返し感染あり 群との比 較 で独 , 巌り 返 し感 染な し 群に おけ る急 性期 の血 清G‑CSF値 の方 が,有意 (P<O.001)に高かった(1014.1+927.4pg/ml vs.197.6土369.opgノnLl).また血 清Alb値 も, 操 り返し感染あり 群より有意 に高かった(p<0.005)が,体温以 外 の他 の検 査項 目 に有 意差 はな かっ た. 操 り返し感染なし 群の急性期と治 癒期の比 較で倣,血清G‑CSF値,IlIBC,願粒球数,CRP,体温とも急性期の方が有 意に上昇 していた.一方, 巌り返し感染あり 群の感染急性期 と 慢性期 で も同様の 比較をおこなったが,有意差を認めたのな願粒球数と体 温のみであった     考察および結語

  健常 老年 者に お ける 血清G‑CSF濃 度の 加齢 に よる 変化 は明 かで はな かった.

また血清G‑CSF濃度と末梢願粒球数の 相関強なかった.これは恒常時必要なG‑CSF 濃 度が 低い ため , 変化 を捉 えら れて いな いた めとも考えられる.本研究の結果 か ら, 感染 急性 期 に血清G‑CSF値は明らかに上 昇することが示された.しかしそ の 値に 強各 症例 問 で差 があ るの 辻, 感染 の病 原体や重症度が一様でないためと 思 われ る. また , 血清G‑CSFと穎粒球数との間 に相関が得られなかった理由とし て は, 血清G‑CSFの上昇と願粒球数増加反応と の時間差や,願粒球造血に対する 負 の調 節作 用の 影 響,さらに大きな原因としてはG‑CSF産生細胞に対する多くの

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サイトカインの関与があると言えよう.

繰り返し感染なし 群と 繰り返し感染あり 群の比較では感染急性期の 血清G‑CSF値は, 繰り返し感染なし 群の方が あり 群より有意に高く,

また他にこの2群問で有意差を認めたのは血清Alb値と体温のみであった.感染 時にG‑CSFを産生する単球系の細胞は,感染刺激を襟り返し受けることにより,

その反応が低下すると言われている.このような免疫系の不応答が 繰り返し 感 染 あ り 群 の G‑CSF濃 度 が 低 値 を 示 し た 原 因 と 考 え ら れ た .   感染急性期の血清G‑CSF濃度の測定な感染に対する生体の反応をみる上で有用 と考えられた.特に予後の悪い老年者などの感染症でthG‑CSF投与を含めた適切 な治療法を選択していく上でも血清G‑CSFil度の測定注重要になると考えられた.

  以上より本研究強博士(医学)の学位論文として妥当なものと判断される.

参照

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