博 士 ( 農 学 ) 永 坂 曜 介 学 位 論 文 題 名
Corticzu7n, rolfsii のグ ル コア ミラ ー ゼに 関す る 研究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
グルコース製造工業においては、通常原料とする生デンプンの水懸濁物を加熱蒸煮 し、糊化した後、ロ・アミラーゼ、ついでグルコアミラーゼを作用させ、グルコースに まで分解するとぃう工程がとられている。近年、エネルギ一節約の観点より、多大なエ ネルギーを費やす蒸煮の工程を省略し一段階でグルコースに変換する方法が提案され、
その実現のネックとなっている強カかつコストの安い酵素の探索が行われてきている。
当研究室において単離された担子菌Corticium rolfsiiの分泌する生デンプン糖化酵素 は、生デンプンの無蒸煮糖化に要求される条件一高濃度生デンプン懸濁液、酸性条件下 (pH 3.0 ‑ 4.0)−のもとで市販の酵素に比べ強カに作用する優れた酵素である。しかし、
培養の難しさからまだ実用化には至っていない。そこでこの酵素の生デンプン分解活性 の 要因 を 探る こ と、 そ して そ の遺 伝 子の 有 効利 用 を目 的として研 究を行った 。 本研究の結果を要約すると以下のとおりである。
1.生デンプン糖化酵素の成分解析
C. rolfsiiの生デンプン糖化酵素(粗酵素)には3種類の生デンプン分解性グルコアミ ラーゼ(Gl,G2,G3)、2種類の生デンプン非分解性グルコアミラーゼ(G4,G5)、および 1種類の生デンプン非分解性 ,アミラーゼが含まれる。精製酵素の検討からGl ‑ G3 は酵素活性は同じであり、生デンプン分解活性が粗酵素にくらべ弱く、とくにジャガイ モ生デンプンに対してはほとんど分解が起こらなくなることなどがわかっている。そこ で精製G2を用いて何が原因かを調べた。その結果、極微量(グルコアミラーゼの約1
/50量)のd,アミラーゼの存在によってジャガイモ生デンプンの加水分解が劇的に進 行 し、 粗 酵素 の 生デ ン プン 分 解活 性 を再 現 でき る こと などが明ら かとなった 。 2.cDNAクローニングおよぴ酵母における発現
生デンプン分懈性グルコアミラーゼG2のcDNAクローニングを行った。得られたク ローンは579残基か らなるポリ ベプチド鎖をコードする完全長のcDNAクローンであ り、推定アミノ酸配列は、.1Jジルエンドベプチダーゼ消化によって得られたベプチドの 内部アミノ酸配列と完全に一致し、グルコアミラーゼの活性ドメイン、デンプン粒吸着 ドメイン(SBD)、およぴ両ドメインをっなぐりンカー領域が認められた。他の糸状菌由 来のグルコアミラーゼとの相同性は35%から56%でAspergill us nigerのグルコアミラ ーゼと最も高い相同性を有していた。またSBDとりンカー領域にいくつかの特徴がみ られた。
SBDはデンプン粒への吸着機能を持ち、生デンプンの分解に必須のドメインである。
cI rol fsiiグルコアミラーゼはドメイン内部のマルトース結合サイトのーつ 2b の両側 に 存 在 し て い る 保 存 性 の 高 いAla残 基 とTyr残 基 が な か っ た 。 ま たSBDの 両 端 に あ り 、 ジ ス ル フ ィ ド 結 合 を 形 成し て い る と ぃ わ れ て い る 保 存 性 の高 い2つ のCys残 基も 見られなかった。
リ ン カ ー 領 域 は 、 活 性 ド メイ ン とSBDの間 にあ り、 両ド メイ ンを 連結 して いる 領域 であ る。 これ まで に配 列が 報告されているグルコアミラーゼの中でC.rolfsiiはこの部 分 が 最 も 短 く 、 後 半 部 のTS領域 ( また はTS配列 とも 呼ばれ 、Thr、Se「 残基 を多 く含 み 、 〇 ・ グ リ コ シ ド 鎖 が 豊 富 に 連 結 し て い る 領 域 ) が 見 ら れ な か っ た 。 得ら れたcDNAを酵 母で 発現さ せる ため 、ア ルコ ール デヒ ド口 ゲナ ーゼ のプ ロモ ータ ー を 持 つ 酵母 発 現 用 ベ ク タ ーpAAH5に 連結 し 、Saccharomyces cerevisiaeに 導 入 し た。 形質 転換 酵母 は、 糊化 および生デンプン分解能を獲得したが、発現のレベルは非常 に低かった(0.001 U/ ml)。
3.麹菌における発現
異 種遺 伝子 の発 現と 酵素 分泌に優れた麹菌A. oryzaeを宿主とし、ホスホグリセレー ト キナ ーゼ のプ ロモ ー夕 一を持 つA. or yzae発 現用 ベク ターpBPTにcDNAを 連結 し、
発 現を 試み た。 その 結果 、培地 の最 適化 を経 て、1ゼ あたり 約140 mg(3.5 U/ ml)の 生産に成功した。発現したC. rol fsiiグルコアミラーゼ(G2AO)を精製し、その性質を 解析したところ、生デンプン分解活性、糊化デンプン分解活性ともにC. rol fsii培養上 清 由 来 のG2( 天 然 型G2)と ほ ぼ 同じ であ った が、 分子 量の 増加 と安 定性 の低 下が みら れ た 。 エ ン ド グ リ コ シ ダ ー ゼHによ ってN‑グ リコ シド 鎖を 除去 した とこ ろ、 両酵 素の 分 子量 は共 に減 少し64 kDaに一 致し たの で、 分子 量と おそ らく 安定 性の 差は 、N‑グリ カンの差に起因すると推察された。
4.キメラ酵素の作製
C. rolfsiiグルコアミラーゼの各ドメインを他菌株由来のグルコアミラーゼと組換えた キメラ酵素を設計し、A. or yzaeで発現させ、精製後解析を行っを。組換えの相手とし て 、グ ルコ アミ ラー ゼの 中でも 生デ ンプ ン分 解活 性が 強く 、TS領域 を持 ち、 解析 の進 ん でい るA. awamon var. kawachiのグ ルコ アミ ラー ゼGAIを選 び、 ドメ イン を組 換え た キ メ ラ 酵 素 を2種 類 作 製 し 、 オリ ジナ ルの 酵素 とと もに 諸性 質を 解析 した 。比 活性 に関 して は、 ほと んど 差は 見られなかった。活性安定性に関して、各キメラ酵素はその 活性 ドメ イン の由 来す るオ リジナルの酵素に似た結果を示し、基質を糊化デンブンとし た場 合と 生デ ンプ ンと した 場合とで全く同じ結果であったため、生デンプン分解性グル コア ミラ ーゼ の安 定性 は、 ほぼその活性ドメインに由来すると推察された。 .アミラ ーゼ の存 在下 、ジ ャガ イモ 生デンプンの長時間にわたる加水分解実験を行ったところ、
天 然 型G2、A.or yzaeに て 生産 さ れ たGAI、 お よ び2つ の キ メ ラ酵 素は 、ほ ぼ同 程度 の優 良な 結果 を示 した が、A or yzaeに て生 産さ れたG2 (G2A〇)は低い分解率にとど まっ た。 これ より 、安 定性 の低 下し たC. rolfsiiグル コアミラーゼへのTS領域の付加 が、 安定 性の 向上 効果 では なく、実際に生デンプンの加水分解を促進していることが示 唆された。
今 まで に生 デン プン 分解 性グルコアミラーゼの機能を解析するために、部位特異的変 異や 、同 一酵 素内 での ドメ インの組換え(欠失や重複)などの手法が行われてきている
が、他菌株の酵素とドメインを組換えた手法はとられていない。キメラ酵素の諸性質に ついては現在さらに解析をすすめており、SBDの生デンプンに対する吸着様式に違いの あることがわかってきている。今後さらに、酵素分子における各ドメインの関連や機能 をより明らかにするとともに、他菌株由来の酵素とのドメインごとの機能を比較するこ とで、生デンプン分解活性、安定性、さらに生産性に優れた新しい酵素の設計が可能に なると期待される。
学位論文審査の要旨 主 査 教授 冨田房男 副 査 教授 千葉誠哉 副査 助教授 横田 篤
学位論文題名
Corticz 絖rolfsii のグルコアミラーゼに関する研究
本 論 文 は 、 和 文111頁 、 図40、 表20、 引用 文 献85、6章 から な り 、ほ か に参 考 論 文4編 が 付 さ れ て い る 。
グル コース製 造工業に おいては、 通常原料 とする生 デンプン を加熱蒸 煮し、糊化 した 後、 . アミラー ゼ、ついでグルコアミラーゼを作用させ、グルコースにまで分 解す るとぃう 工程がと られている 。近年、 エネルギ ー節約の 観点より 、多大な エネ ルギ ーを費や す蒸煮の 工程を省略 し一段階 でグルコ ースに変 換する方 法が提案 さ れ、 その実現 のネック となってい る強カか つコスト の安い酵 素の探索 が行われ てき ている。
当研究室において単離されたCorticium rolfsiiの分泌する生デンプン糖化酵素は、
市販 の酵素に 比ベ強カ に作用することができ.る今までにない優れた酵素であり、産 業的 に生産を 試みると ころまで応 用が進ん だものの 、培養の 難しさか らまだ実 用化 にはいたっていない。
そこ でこの酵 素の強カ な生デンプ ン分解活 性の要因 を探るこ と、そし てその遺伝 子の有効利用を目的として研究を行った。
1.生デンプン糖化酵素の成分解析
c. rol fsiiの生デンプン糖化酵素(粗酵素)には3種類の生デンプン分解性グルコア ミラ ーゼ(Gl,G2,G3)、2種類の 生デンプン 非分解性 グルコアミラーゼ(G4,G5)、及 び1種 類の生デ ンプン非 分解性 . アミラー ゼが含ま れる。精製酵素の性質として、
Gl ‑ G3は酵 素活性に ついてほ ぼ同じであ ること、 生デンプン分解活性が粗酵素にく らべ 弱く、と くにジャ ガイモ生デ ンプンに 対しては ほとんど 分解が起 こらなく なる こと などがわ かってい る。そこで 精製G2を用 いてその 差をうめ るのには 何が必要な のか を調べた 結果、微 量のa→アミ ラーゼの 添加によ って粗酵素の生デンプン分解活
性を再現できることなどが明らかとなった。
2.cDNAクローニングおよぴ酵母における発現
生 デ ン プ ン 分 解 性 グ ル コ ア ミ ラ ー ゼG2のcDNAク ロ ーニ ン グを 行 っ た。 得 られ た ク口 ー ンは579残 基か ら なる ポ リ ベプチド 鎖をコー ドしており 、グルコ アミラ―
ゼの活 性ドメイン 、デンプ ン粒吸着 ドメイン(SBD)、およぴ 両ドメインをっなぐりン カー領域が認められた。
SBDは デン プ ン 粒へ の 吸着 機 能 を持 ち、生デ ンプンの 分解に必須 のドメイ ンであ る。C. rolfsiiグルコアミラーゼはドメイン内部のマルトース結合サイトのーつ 2b の 両 側 に 存 在 し て い る 保 存 性 の 高 いAla残 基 とTyr残 基 が な か っ た 。 ま たSBDの 両 端に あ り、 ジ ス ルフ ィ ド結 合 を 形成し ていると ぃわれてい る保存性 の高い2つ の Cys残基も見られなかった。
リ ン カー 領 域 は、 活 性ド メ イ ンとSBDの間に あり、両 ドメインを 連結して いる領 域である。これまでに配列が報告されているグルコアミラーゼの中でC. rolfsiiはこ の 部分 が 最も 短 く 、後 半 部のTS領域(Thr、Ser残基 を多く含 み、〇.グ リコシド 鎖 が豊富に連結している領域)が見られなかった。
得られ たcDNAをS.cerevisiaeに導 入したと ころ、形 質転換酵母は、糊化および生 デ ンプ ン 分解 能 を 獲得 し たが 、 発 現の レ ベル は 非 常に 低 か った(0.001 U/ ml)。
3.麹菌における発現
異種遺 伝子の発現 と酵素分 泌に優れた麹菌A. oryzaeを宿主とし、発現を試みた。
そ の結 果 、培 地 の 最適 化 を経 て 、1Lあたり 約140 mg (3.5 U/ ml)の生 産に成功し た。発現したC. rol fsiiグルコアミラーゼ(G2AO)を精製し、その性質を解析したと ころ、生デンプン分解活性、糊化デンプン分解活性ともにC. rol fsii培養上清由来の G2 (native G2)とほぼ 同じであ ったが、 分子量の 増加と安 定性の低 下が起こっ てい た。
4.キメラ酵素の作製
C. rol fsiiグルコアミラーゼの各ドメインをA.awamon var. kawachiのグルコアミ ラーゼGAIと組換えた キメラ酵 素を設計 し、A.or yzaeで 発現させた。キメラ酵素を 2種 類と 、 オ リジ ナ ル の酵 素 の諸 性 質を解 析したと ころ、比活 性に関し ては、ほ と ん ど差 は見られ なかった 。安定性 に関して は、ほぼ その活性ド メインに 由来する と 推察さ れた。生デ ンプンの 加水分解 実験では 、native G2、A.or yzaeにて生産され たGAI、お よび2つの キメラ酵 素はほぽ 同程度の 優良な結 果を示した が、A.or yzae にて生産されたG2 (G2AO)は低い加水分解率にとどまった。
以 上の ように本 研究は、 生デンプ ン分解性 酵素分子 に関する学 術的な寄 与が大き い も の で あ る と と も に 、 応 用 的 に も 寄 与 す る と こ ろ が 大 き な 成 果 で あ る 。 よ っ て 、 審 査 員 一 同 は 、 永 坂 曜 介 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な資格を有するものと認めた。‑ 1014−