学 位 論 文 題 名
「 ミ ズ ナ ラ の 堅 果 生 産 の 年 変 動 現 象 と 発 生機 構 」
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
樹 木 の 種 子 生 産 の 年 変 動 は 一 般 に 豊 凶 と 呼 ば れ 、 古 く か ら 知 ら れ て い る 現 象 で あ る が 、 こ れ ま で 詳 細 で 定 量 的 な 研 究 は ほ と ん ど 行 わ れ て こ な か っ た 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 北 海 道 の 天 然 林 の 主 要 林 冠 樹 種 で あ る ミ ズ ナ ラ を 対 象 と し て 、 種 子 ( 堅 果 ) 生 産 の 年 変 動 を 個 体
ベースから定量的に捉え、また、開花から堅果の成熟までの一連の 過程を通じて解析を行い、年変動のバターン、発生要因および機構
に つ い て 検 討 を 行 っ た 。
1. 北 海 道 大 学 雨 竜 地 方 演 習 林 母 子 里 地 区 の 3林 分 に お け る 、 合 計 53本 の ミ ズ ナ ラ 林 冠 木 を 対 象 と し た 採 取 デ ー タ を も と に 、 1981年 か
ら 1993年 ま で の 13年 間 の 変 動 を 解 析 し た 。 堅 果 生 産 の 年 変 動 は き わ め て 大 き く 、 全 個 体 の 平 均 で み る と 変 動 の ピ ー ク は 、 1984年 、 1987 年 、 1989年 、 1992年 の 4回 観 察 さ れ た 。 こ の う ち 1987年 が 最 も 多 く 平 均 4094個 、 多 い 個 体 で 15000個 に 達 し て い た 。 一 方 堅 果 生 産 が ほ と ん ど み ら れ な い 不 作 年 は 1986年 、 1988年 、 1990年 の 3回 観 察 さ れ た 。 年 変 動 に つ い て の 変 動 係 数 は 193. 5%で あ っ た 。 こ の 値 は 、 個 体 ベ ー ス の 長 期 測 定 か ら 年 変 動 が 明 ら か に さ れ て い る 同 属 ( コ ナ ラ 属 ) 樹 種 を 含 む 例 と 比 較 し て 最 も 大 き か っ た 。 ま た 、 年 生 産 数 の 頻 度 分 布 は 二 山 型 を 示 し 、 豊 ・ 作 年 と 不 作 年 に 二 極 分 化 し た 堅 果 生 産 バ タ ー ン を
も つ こ と が う か が え た 。
2. 各 個 体 間 お よ び 各 林 分 間 の 堅 果 生 産 の 年 変 動 バ タ ― ン は い ず
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れ も 有 意 な 順 位 相 関 を 示 し 、 林 分 内 の 個 体 間 、 さ ら に 、 互 い に 数km 離 れ た3林 分 問 で も き わ め て 強 く 同 調 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た 。
豊作年(変動のピ―ク年)は、2〜3年間隔で認められたが、自己相 関分析の結果では全個体の平均、各林分の個体平均および各個体の い ず 、 れ の レ ベ ル で も 有 意 な 周 期 は 認 め ら れ な か っ た 。 3.各年における個体の堅果.生産性の相対順位は比較的安定して おり、堅果生産性は個体サイズにおおよそ規定されていた。平均的 1
な生産量の多い個体ほど堅果生産の変動が比較的小さい傾向がみら れ たが 、 変動 の大き さは 個体サ イズに は依存 して いなか った。
4.ミズナラの堅果生産の年変動に認められた以上のような特徴 を、年変動をめぐる仮説の予測と比較検討した。種子生産の年変動 には、外的ないし生理的な条件の変動にしたがって起こる反応に過 ぎをいとする見解と、効果的な受粉や種子の食害回避詮ど繁殖上の 意義をもつ結実習性であるとする見解があり、後者が真正な定義で の豊凶(Masting)とされている。本研究で明らかにされたミズナラ の堅果生産の年変動は、変動の大きさなどから、豊凶に該当するこ とが示唆された。
5.変動を弓Iき起こす要因として考えられてきた様々な気象要因 の影響を、堅果生産の13年間の変動データと調査地最寄の演習林母 子里作業所の気象観測データをもとに分析した。既存の報告をもと に、堅果生産に影響を及ばす可能性がある気象要因を抽出整理し、
それらに該当する変量を算出し解析を行った。豊作を誘発する気象 要因の存在は認められず、従来想定されていた要因の多くはミズナ ラの豊凶に関係していなかった。唯一、送粉期の降水量が堅果生産 との間に負の相関を示しており、送粉期の多雨が送受粉を妨げ不作 を誘発する関係があることが考えられた。
6.ミズナラの堅果生産にみられる豊凶の発生に関わる要因や機 ―762 ‑
れた林冠観測塔において、開花から堅果の成熟に至るまでの生産過 程を通した年変動を調査した。これにさきだち、樹冠内変異による バイアスを把握するため、ミズナラ林冠木5個体の樹冠各部における 花生産と堅果生産およぴ年による違いを調べた。調査木5個体は、相 対的に高位置に樹冠をもつ3個体と、これら3個体の下に樹冠の大部 分を展開する低位置個体2個体に区分される。高さ別に当年枝あたり の花および堅果生産数を1993年と1994年の2年間調べた。高位置に樹 冠をもつ個体では雌花と雄花序の両者とも樹冠内で垂直的な変異を 示し、樹冠上部で指数的に増大していた。花生産バターンは年間で 異なり、1993年のほうが1994年よりも樹冠下部での開花量が多くな っていた。これに対して、堅果生産は、1993年が不作で、1994年が 豊作であったが、両年とも樹冠上部にほば限定されており、樹冠下 部では堅果生産がほとんどみられなかった。低位置に樹冠をもつ個 体では樹冠内の開花量に一定した傾向はみられず開花畳が少なかっ た。また、両年とも堅果生産がみられなかった。したがって、豊凶 は、林冠に達し優勢な個体の樹冠上部での、堅果生産の著しい増減 によって生み出されると推察された。
7.高位置に樹冠をもつ3個体の樹冠上部における花生産と堅果生 産過程のデモグラフイーの年変動を解析した。3個体の樹冠上部の枝 を合計18本選定し、1990年から 1994年までの5年、間、着生する当年 枝全てについて雌花生産数を計測し堅果の成熟まで10日間隔で生残 を追跡した。並行して、観測塔周囲の20個体の樹冠下に設置したり タートラップを用いてヾ雄花序生産を測定した。雌花生産は、最も 多い1992年 で100当年 枝あた りに321.0個で最も少なかった1994年 の144.4個の2倍程度であった。これに対し、堅果生産は明確な豊凶 を示し、1994年は100当年枝あたりに平均25.4個、多い枝では50個、
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1992年 は 平 均17.4個 で あ っ た が 、 そ の 他 の3年 で は ほ と ん ど み ら れ な か っ た 。 生 産 量 は 個 体 に よ り 異 な る も の の 、 年 変 動 は 個 体 間 で ほ ば
同調 し てい た 。堅 果生 産 の豊 凶 は雌 花 生産の多寡 ではなく結実 率、
と く に 開 花 後 約10月 間 の 結 実 初 期 過 程 に おけ る 堅果 の 生存 割 合の 変動゛によって発生することが示された。
8. 豊凶の 意義として、 同調.開花に より受粉効率 を高め大量種子 生産 を 行う た めと する 「 受粉 効 率」 と 、種子生産 の変動によっ て豊 作年 に 種子の捕食を 回避するとす る「捕食者飽食 」の2仮説が有 カと され て きた が 、従 来の 実 証例 は 受粉 の 効果が及ん だ後の種子数 の変 動の み に着 目 して きた 。 そこ で 本研 究 では、開花 と受粉効率の 変動 と豊 凶 の関 係 をさ らに 分 析し た 。雄 花 序は雌花と 同調した年変 動を 示し た が、 堅 果生 産の 年 変動 に は直 結 していなか った。受粉実 験を 1992年〜 19 94年の3年間行ったが、受粉効率を人為的に.高めても堅果 の生存過程は年間で0〜 30%と変化し豊凶が発生した。これらはミズ ナラ の 豊凶 に おい て受 粉 効率 仮 説を 棄 却し、繁殖 上の意義とし て、
種子 生 産の 豊 凶に よる 捕 食回 避 効果 を 検証する必 要性を示唆し た。
9. 不 作 年 には 受粉 効 率を 人 為的 に 高め ると 初 期過 程 の生 存 が高 まる た め、 気 象条 件に よ る受 粉 の失 敗 が不作をも たらすと考え られ た。 気 象要 因 によ る不 作 の同 調 は、 個 体の蓄積同 化産物の堅果 生産 への投資バタ ーンを個体間 で揃え、変動 を同調させる可能性がある。
また 、 受粉 成 功に 応じ た 蓄積 同 化産 物 の投資の調 節が想定され 、特 定の年におけ る種子への大 量投資により 豊作が起こると考えられた。
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主 査 副 査 副 査
教授 教授 助教授
五十嵐 松田 矢島
学 位 論 文 題 名
恒夫 彊 昌 う フコく
「ミズナラの堅果生産の年変動現象と発生機構」
本 論文 は7章 で構 成さ れ、 図43、表19、 引用 文献164、 総頁 数157頁の和文 論文である。
別に参考論文5篇が添えられている。
樹 木の 種子 生産 の年 変動 は 古く から 知られている現象であるが、これまで 詳細で定量的 な研 究は 行わ れて こな かっ た 。本 研究 では、ミズナラを対譲として、種子( 堅果)生産の 年変動を個体ベースから定量的に捉え、開 花から堅果の成熟までの一・連の過程を通じて解 析 を 行 い 、 年 変 動 の パ タ ー ン 、 発 生 要 因 お よ ぴ 機 構 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。 1. 北海 道大 学雨 龍地 方演 習林 母子 里地区の3林分で53本のミズナラ林冠木 について1981 年か ら13年間 の堅 果生 産の 年 変動 を解 析した。変動のピークは4回、不作年は3回観察され た 。 年 変 動 に つ い て の 変 動 係 数 は 193.5名 で 、 き わ め て 大 巻 か っ た 。 2. 各個 体間 およ び各 林分 間の 堅果 生産 の年 変動 パタ ― ンは ぃずれも有意 な順位相関を 示し 、林 分内 の個 体間 、3林 分間 でも きわ めて 強く 同調 し てい た。豊作年は2〜3年間隔で 認 め ら れ た が 、 自 己 相 関 分 析 の 結 果 で は 有 意 な 周 期 は 認 め ら れ な か っ た 。 3. 各年 にお ける 個体 の堅 果生 産性 の相 対順 位は 比較 的 安定 しており、堅 果生産性は価 体サ イズ にお およ そ規 定さ れ てい た。 平均的な生産量の多い個体ほど堅果生 産の変動が比 較 的 小 さ ぃ 傾 向 が み ら れ た が 、 変 動 の 大 き さ は 個 体 サ イ ズ には 依存 して いな かっ た。
4. 種子 生産 の年 変動 には 、外 的な ぃし 生理 的な 条件 の 変動 にしたガって 起こる反応に 過ぎ なぃ とす る見 解と 、効 果 的な 受粉 や種子の食害回避など繁殖上の意韈を もっ結実習性 であ ると する 見解 (豊 凶Masting)があ るが、本研究で明らかにされたミズナ ラの堅果生産 の年変動は、変動の大きさなどから豊凶に 該当する。
5. 変動 を引 き起 こす 要因 とし て考 えら れる 気象 要因 の 影響 を、堅果生産 の13年間の変 動デ ータ と気 譲観 測デ ータ を もと に分 析したが、豊作を溌発する気象要因の 存在は認めら れず 、従 来想 定さ れて いた 要 因の 多く はミズナラの豊凶に関係していなかっ た。唯ー、送 粉期の降水量が堅果生産との間に負の相関 を示した。
6. 天然 林内 に架 設さ れた 高さ20mの 林冠観測塔を利用し、開花から堅果の 成熟に至るま での 年変 動を 調査 した .高 位 置に 樹冠 をもっ個体では雌花と雄花序の両者と も樹冠内で垂 直的 な変 興を 示し 、樹 冠上 部 で指 数的 に増大していた。これに対し堅果生産 は樹冠上部に ほば 限定 され てい た。 した が って 、豊 凶は林冠に違した優勢な個体の樹冠上 部での、堅果
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生産の著しい増減によって生み出されると推察された。
7.高位區に樹冠をもっ3個体の樹冠上部の枝を18本選定し、5年間にわたり若生する当 年生枝全てについて雌花生産数を計測し堅果の成熟までLO日間隔で生残を追跡した,また、
観謝塔周囲20個体の樹冠下に設置したりタートラップを用いて、雄花序生産を測定した.
雌花生産は、100当年生枝あたり321.0〜144.4個であったが、堅果生産Iま明確な豊凶を示 し、1994年は100当年生枝あたり平均25.4伺、1992年は平均17.4個、その他の3年ではほと んどみられなかった。堅果生産の豊凶は雌花生産の多寡ではなく結実牢、とくに開花後約 1ケ 月 間 の 堅 果 の 生 存 割 合 の 変 動 に よ っ て 発 生 す る こ と が 示 さ れ た 。 8.豊凶の意義として、同調開花により受粉効率を高め大量種子生産を行うためとする
「受粉効率」仮説と、種子生産の変動によって豊作年に種子の捕食を回避するとする「捕 食者飽食」仮説が有カとされてきたが、従来は種子数の変動のみに着目して巻た。本研究 では、開花と受粉効率の変動と豊凶の関係をさらに分析した。雄花序は雌花と同鬪した年 変動を示したが、堅果生産の年変動には直結せず、受粉実験により受粉効率を人為的に高 めても豊凶が発生した。これらはミズナラの豊凶におぃて受粉効卒仮説を棄却し、繁殖上 の 意 義 と し て 種 子 生 産 の 豊凶に よる 捕食 回避 効果 を検 証す る必 要性 を示 唆し た。
9.不作年には受粉効率を人為的に高めた場合に初期過程の生存が高まるため、気象条 件による受粉の失敗が不作をもたらすと考えられた。気象要因による不作の同調は、個体 の蓄積同化産物の堅果生産への投資パターンを個体問で揃え、変動を同調させる可能性が あ る 。 特 定 の 年 に お け る 種 子 へ の 大 量投 資 に よ り 豊 作 が 起 こ る と 考 え ら れ た 。 以上のように本研究は詳細な実験により、ミズナラ堅果生産の年次変動の発生機構を解 明するに必要な多くの新知見を明らかにしたもので、この分野の研究進展に寄与するとこ ろ大きぃものがある。よって審査員一同は、最終試験の結果と合わせて、本鑰文の提出者 倉 本 恵 生 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 ける に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た 。
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