博士(薬学)佐藤昌昭 学位論文題名
AmphidinolideJ , K および TheonezolideA の 構 造 に 関す る 研究
学位論文内容の要旨
本研究では,海洋生物に共生する微生物の2次代謝産物とくにマク口リド 化 合 物 に つ い て,2次 元NMRを 中心 とし た最新 のス ペク トル 手法お よび 合 成化学的方法を用いて,その立体化学を含めた構造決定を行う目的で研究を 行った。
沖縄産ヒラムシ觚pんiscoえoDs sp.に共生する渦鞭毛藻Amphidinivnz sp.
Y一5株を実験室で大量培養し,培養液3300しから得られた培養藻体のメタノー ルノトルェン(3:1)抽出物をトルェンと1Mの食塩水で分配した。殺細胞活性の 認 め ら れ た ト ルェ ン層を シリ カゲ ルカ ラム, 逆相HPLCで繰 り返し 精製 す る こと によ り, 新規化 合物 とし て15員 環マ ク口 リドAmphidinolideJ(1, 単 離収 率O. 006%,湿重 量)な らび に19員環 マク口 リドAmphidinolideK(2
,0. 00003%,湿重量)を単離した。
AmphidinolideJは光 学活 性な 無色の 油状 物質 で, 高分解能FABMSにより 分 子式C24H3 804を 有することが明らかとなった。1H,13CーNMRおよび2次 元NMRスペ クト ルの 結果 を詳細 に解 析す るこ とによ り,15員環ラクトン構 造を有する1の平面構造が明らかとなった。この推定構造を確認するために 1の還元的オゾン分解を行った結果,1のC一1〜C―7,C−8〜C−11,C−12〜C‑
16に相当する3個のフラグメントおよび部分的に分解したフラグメントが得 られ,この結果から1の平面構造を確定した。
1は,こ れま で単 離されたAmphidinolide類の中で収量の最も多い成分で あることから結晶化を試みたが,X線解析可能な結晶か得られなかった。し たがって,1の立体化学の決定を,オゾン分解のフラグメントを利用した合 成的手法によって行った。C一1〜C−7フラグメントにつし、ては2種の異性体,
Cー8〜C―11フラグメントについても2種の異性体,C一12〜C―16フラグメント については4種の異性体をそれぞれ光学活性体として合成した。得られた各 フラグメントについて,比旋光度,1H―NMR,FABMSを天然物由来のフラグメ
ン ト と 注 意 深 く 比 較 検 討 し た 結 果 ,1に 含 ま れ る6個 の 不 斉 炭 素の 絶 対 立 体 配置を3R,9R,10R,13R,14R,15Rと決定した。
AmphidinolideK(2) は そ の 単 離 収 量 が0.3 mgと 微 量 成 分 で あ っ た が , 600MHzのNMR等 を 用 い た 構 造 解 析 に よ っ て , そ の 化 学 構 造 を 明 らか に し た 。 2は 光 学 活 性 な 無 色 の 油 状 物 質 で ,IRか ら は 水 酸 基 ・ カ ル ボ ニ ル基 ,UVか ら ジェンの存在がそれぞれ推定された。lH―NMR,1°C−NMR (72000回積算)のほか,
COSY,Hsoc,HMBC等 の2次 元 ス ベ ク ト ル を 詳 細 に 解 析 す る こ と によ り , 全 て のIH,1°Cの シグ ナ ル を 帰 属 す る こと がで き,2は新 規炭 素骨 格を 有す る19員 環 マ ク 口 リ ド で あ る こ と が 明 ら か とな っ た 。 さ ら にNOESYで 観 察さ れ た ク ロ ス ピ ー ク お よ び1HーIH間 の 結 合 定 数 を 解 析 こ と に よ り , テ 卜 ラヒ ドロ フラ ン 環 , エ ポ キ シ ド 部 分 な ど 一 部 の 相 対 立 体 化 学 に つ い て も 推 定 し た 。 TheonezolideA(3) は , 沖 縄 産 海綿 丁 んeonelt&sp.か ら 単 離さ れ た37員 環 マ ク 口 リ ド で, 海 綿 に 共 生 す る 微 生 物 に よ っ て 産 生 さ れ て いる と考 えら れ る 化 合 物 で あ る 。 平 面 構 造 お よ び 末端 のC75位 の 立 体 化 学 は , 既に 近 藤 ら に よ り 決 定 さ れ て い る が , 残 る22個 の不 斉 炭 素 の 立 体 化 学 は 未 決 定 で あ る 。3 は 非 結 品 性 化 合 物 で あ る た め , 本 研究 で は3の 立 体 化 学 研 究 の 一環 と し て , 3の オ ゾ ン 分 解 に よ り 得 ら れ たC4〜C17フ ラ グ メ ン ト に つ い て 可能 な 立 体 異 性 体 の 合 成 を 計 画 し た 。 こ の 部 分 には4個 の 不 斉 炭 素 が 含 ま れ てお り , 計16 個 の 異 性 体 が 存在 す る が , モ デ ル 化合 物に よる 検討 の結果 ,2つの1,3―ジ オ ー ル は と も にsyn配 置 で あ る こ と が 判 明 し , 候 補 化 合 物 を2種 類に 絞 り 込 む こ とが でき た。 それ ぞれ の合成 はD―リ ンゴ 酸お よびL―リ ンゴ 酸を 出発 原料 と し ,Grignard反 応, 還元 的オゾ ン酸 化, 〇― メチ ル化 など によ ルホ スホ ニウ ム 塩2種 を 合 成 し た 。 一 方 ,Lー リ ン ゴ 酸 を 出 発 原 料 と し ,Wittig反 応, 接触 還 元 , ジ オ ー ル 保護 等 に よ っ て ア ル デ ヒ ド 体 を 調 製 し た 。 得 ら れた 各ホ スホ ニ ウ 厶 塩 と ア ル デヒ ド 体 と をWittig反 応 に よ り カ ッ プ リ ン グ さ せ, アミ ド化 , ア セ チ ル 化 な ど を 経 て , 目 的 の 可 能 な 立 体 異 性 体2種 の 合 成 を 行 っ た 。 合 成 し た 立 体 異 性 体2種 と 天 然 物 由 来 のC4〜C17フ ラ グ メ ン 卜に つ い て , 1Hお よ び1 C―NMRな ら び にHPLCを 詳細 に比 較検 討し ,天 然物 の相 対立 体配 置 を 決 定 し た 。 更に 合 成 品 の 比 旋 光 度 の 符 号 と 値 か , 天 然 物 由 来フ ラグ メン ト と 一 致 し た た め ,3のC4〜C17フ ラ グ メ ン ト に 含 ま れ る4個 の 不 斉 炭 素 の 絶 対立体配置を8S,10R,145,165と決定した。
以 上 , 本 研 究に お い て , 海 洋 生 物 の 共 生 微 生 物 が 産 生 す る マク 口リ ド化 合 物3種 に っ い て 構 造 研 究 を 行 い ,AmphidinolideJは 絶 対 立 体 配 置 を 含 め た そ の 全 化 学 構 造 を ,AmphidinolideKは 微 量 な が ら そ の 平 面 構 造と 一 部 の 相 対 立 体 配 置 を ,TheonezolideAはC4一C17フ ラ グ メ ン ト に 含 ま れ る4個 の 不 斉 炭 素 の 絶 対 立 体 配 置 を , そ れ ぞ れ 明 ら か に す る こ と が で き た 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
小 林 淳 一 橋 本 俊 一 中 島 誠 森 田 博 史
学 位 論 文 題 名
AmphidinolideJ , K お よ び TheonezolideA の 構造に関する研究
海 洋 共 生 微 生 物 か ら は 、 特 異 な 化 学 構 造 や 生 物 活 性 を も つ 二 次 代 謝 産 物 が 数 多 く 分 離 さ れ 、 そ の 構 造 解 析 、 全 合 成 、 生 物 活 性 等 の 研 究 が 活 発 に 行わ れ て ぃ る 。
本 研 究 で は 、 特 異 な 化 学 構 造 と 生 物 活 性 を も つ 海 洋 共 生 微 生 物 由 来 の マ ク ロ リ ド 化 合 物 の 構 造 解 析 を 行 う 目 的 で 、1) 渦 鞭 毛 藻Amphidinium sp. よ り 単 離 し た 新 規15員 環 マ ク ロ リ ド 化 合 物AmphidinolideJに つ い て 部 分 合 成 に よ る 立 体 化 学 の 解 明 、2) 同 渦 鞭 毛 藻 よ り 単 離 し た 新 規19員 環 マ ク ロ リ ド 化 合 物AmphidinolideKに つ い て ス ペ ク 卜 ル デ ー タ に 基 づ ぃ た 構 造 解 析 、3) 海 綿Theonella sp.よ り 単 離 さ れ た 新 規 37員 環 マ ク ロ リ ド 化 合 物 TheonezolideAに つ い て 部 分 合 成 に よ るC4‑C17部 分 の 立 体 化 学 の 解 明 、 を 行 っ た 。
渦 鞭 毛 藻Amphidinium sp.よ り 新 規15員 環 マ ク ロ リ ド 化 合 物Amphidiー nolideJを 単 離 し 、 各 種2次 元NMRデ ― タ の 詳 細 な 解 析 に よ り 平 面 構 造 を 明 ら か に し た 。 さ ら に 、 オ ゾ ン 分 解 に よ り 得 ら れ た3個 の フ ラ グ メ ン 卜 の 立 体 異 性 体 を 合 成 し 、 対 応 す る 天 然 物 と の ス ペ ク ト ル デ ー タ を 比 較 す る こ とに よ り 、AmphidinolideJに 含 ま れ る6個 の 不 斉 炭 素 の 絶 対 立 体 配 置 を す べ て 明 ら か に し た 。
渦鞭毛藻Amphidinium sp.より新規19員環マクロリド化合物Amphidinolide Kを単離し、各種2次元NMRデータの詳細な解析により平面構造を明らかに した。また、NOESYデータおよび H― Hカップリングに基づぃて立体化学 の―部を推定した。
3)TheonezolldeAのC4−C17フラグメンヒQ立佳1ヒ堂
海綿Theonella sp.より単離された37員環マクロリド化合物Theonezolide Aのオゾ ン分解により得られたC4‑C17フラグメン卜について、モデル化合 物の合成とスペクトルデータの比較により相対立体配置を推定し、さらに可 能な2つのジアステレオマーを合成することにより、このフラグメン卜に含 まれる4個の不斉炭素の絶対立体配置を解明した。
以上本研究では、渦鞭毛藻より単離した2種のマクロリド化合物について、
AmphidinolideJの場合は分光学的手法と合成化学的手法を用いて立体化学 を含む構造解明に成功し、AmphidinolideKの場合は分光学的手法により一 部の立体化学を含めた構造を帰属してぃる。とくにAmphidinolideJに関す る研究は、3つのセグメン卜の可能な立体異性体をすべて合成し、限られた 量の天然物の分解生成物と比較するとぃう、極めてチャレンジングな仕事を、
忍耐カと緻密な実験で目的を達成してぃる。また、AmphidinolideKは、天 然物の量が0.3 mgとぃう極めて少量にも関わらず、2次元NMRを中心とした スペク卜ルデータを詳細に検討し構造を帰属してぃる。ー方、海綿より単離 さ れているTheonezolideAについては、オゾン分解により得られるフラグ メントの可能な立体異性体16個のうち、モデル化合物の結果から必要不可 欠な2個のみを合成して立体化学の解明に成功してぃる。本研究は、新しぃ 天然有機化合物の発見、合成的手法による立体化学の解明、とぃう点で天然 物化学の分野で優れた研究成果をあげたものとぃえる。本研究成果は、既に 国際学術誌に発表されており、博士(薬学)の学位を受けるに値する業績と 判断された。