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博士(農学)齊藤 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)齊藤 学位論文題名

リンゴの樹体生長,収量および果実品質に      およぼす窒素多肥の影響

学位論文内容の要旨

  わが国におけるりンゴに対する窒素施肥量は諸外国に比べて多い。これは果実の肥大と収量の 増加を期待して行われていると考えられるが,窒素の多肥は果実の着色不良,生理障害の多発,

貯蔵性の低下等果実品質に対して悪影響をもたらすことが知られている。特に窒素多肥により果 実の着色が不良となることはよく知られているが,その生理的原因にっいては不明な点が多い。

また,窒素多肥が樹体生長におよばす影響にっいて定量的になされた研究は少なく,さらに窒素 施肥時期と果実収量および品質との関係も明確ではない。

  本研究は,リンゴの樹体生長,果実収量および品質におよばす窒素多肥および窒素施肥時期の 影響を明らかにすることを目的とし,さらに,窒素多肥により果実の着色が不良となる生理的原 因を解明することを目的として実施した。供試品種は主として紅玉である。供試土壌は細粒灰色 低地土であり,その有効態窒素量は青森県においてりンゴ園の約70%を占める黒ボク土よりやや 多い。1972年に無窒素区と窒素施肥区(O. 5kgN/樹)を設け,1982年より窒素施肥区に対する 施肥量を2 kgN/樹に増加し,施肥時期として4月下旬(春施肥区),6月下旬(夏施肥区)お よび9月上旬(秋施肥区)の3処理を設定して実験に供した。

  リンゴの樹体生長と収量におよぼす窒素多肥の影響を検討した。リンゴ葉の単位葉面積当りの 光合成能は無窒素処理と窒素多肥処理間に差がなかった。春施肥区と夏施肥区の単位葉面積当り の蒸散速度は‑N区より高 く,これらの両区では光合成における水利用効率が‑N区より低下し た。―N区と春施肥区の樹体地上部の乾物生産量を非破壊的に測定した。春萌芽前の乾物重に対 する果実収穫後の乾物重の比は両区で1.7と等しく,窒素多肥によって乾物生産能は上昇しな かった。増加乾物重の果実に対する配分率は―N区で高く,新梢と葉に対する配分率は春施肥区 で高かった。新梢は春施肥区で長かった。十N区の窒素施肥量がO. 5kgN/樹であった1972一

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施肥時期を変えた1982―1990年の平均果実収量は夏施肥区で他区より有意に低く,他の3区間に は有意差がなかった。これは6月末の窒素多肥が新梢生長を促進し,花芽の分化・発達を抑制し たためと考えられた。―N区で収量が低下しなかった原因はりンゴ樹の窒素要求性が低いことと,

土壌中の有効態窒素が比較的多いためである。

  リンゴ果実の内部品質におよぼす窒素多肥の影響を検討した。夏施肥区の果実ではカルシウム 濃度が低く,マグネシウム濃度は高かった。ゴム病の発生率は夏施肥区で高く,カルシウム濃度 が低く,マグネシウム濃度が高いことがゴム病発生の原因と考えられた。果実の糖濃度は窒素施 肥時期間で大差なく,アミノ酸濃度は夏施肥区と秋施肥区で高かった。有機酸濃度に処理区間で 有意差はなかった。―N区の果実の着色が最も良好であったことを考え合わせると,‑N区の果 実が品質的に最も優れていた。

  リンゴ果実の着色におよぼす窒素多肥の影響を解析した。窒素多肥により果実の着色は著しく 不良となった。この原因として窒素多肥によって枝葉が繁茂し光条件が悪化することより,果実 の生理的条件が果実の着色に不利となることが第一義的に重要であることを明らかにした。すな わち,樹上着生果を遮光処理した場合および一定の光条件下で果皮切片をインキュベ―トした場 合 の い ず れ に お い て も , 十 N区 の 果 実 の 着 色 は ‑N区 よ り 不 良 で あ っ た 。   窒素を多肥したりンゴ果実で着色が不良となる原因に関連すると考えられる生理的状態の特徴 は以下のとおりである。

1)可溶性窒素濃度,すなわちアスパラギンを主体とする遊離アミノ酸濃度が高い。アスパラギ ン,アスパラギン酸,グルタミン酸および全遊離アミノ酸濃度とアン卜シアニン濃度間で有意な 負相関が存在した。

2)EMP経路 を 経由 して 代謝 され る 糖の 割合 はーN区 の果 実よ り 高い 。EMP経 路とPP経 路 の相対活性比を示すC6/Cl比とアントシアニン濃度 間に有意の負相関,可溶性窒素濃度とC 6/Cl比間に有意な正相関が存在した。

3)果皮中の有機酸のうち,主要な酸であるりンゴ酸濃度は‑N区と差がないが,シトラマル酸 濃度は低い。果皮中のシ トラマル酸とアントシアニ ン濃度間に有意な正相関が存 在した。

4)ポリアミン,特にスパーミン濃度が高い。このことがエチレン生成と細胞の老化を抑制して いる可能性がある。着色開始期にのみ果芯中工チレン濃度と果皮中アン卜シアニン濃度間に有意 な正相関があり,同時期の果肉中スパーミン濃度と果芯中工チレン濃度および果皮中アントシア ニン濃度間にそれぞれ有意な負相関があった。また,果皮中スパーミン濃度の上昇にともなって アントシアニン濃度は有意に低下した。

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5)フラ ボノ イ ド合 成系 に おい てジ ヒ ド口 ケル セ チン 以後 の 合成 系が ア ントシアニン合 成系よル ケルセチ ン配糖体合成系に 傾いている。

  窒素 を多 肥 した 果実 で 着色が 不良となる直接的な 原因は,フラボノ イド合成系がアン トシアニ ン 合成 系よ ル ケル セチ ン 配糖体 合成系に傾いている ことにある。さら に,上記の生理的 条件が相 互 に影 響し あ って 着色 を 不良に していると推定され る。可溶性窒素と 糖代謝系は全着色 期間にわ た って ,シ ト ラマ ル酸 は 着色期 間の中後期で,ポリ アミンとエチレン は着色開始期でそ れぞれア ントシア ニン生成に対して 影響をおよぼす。

  以上の 結果から,リンゴ に対する窒素多肥は果実収量の増加および果実肥大にさほど効果はなく,

新 梢な どの 栄 養生 長を 盛 んにし ,果実の着色を不良 にし,生理障害の 多発,貯蔵性の低 下等果実 品 質に 悪影 響 を与 える こ とが確 認された。したがっ て,リンゴに対す る窒素施肥はでき る限り低 く 抑え るべ き であ ると 考 え,低 窒素肥沃度のりンゴ 園に対する適正な 窒素施肥量を本研 究結果お よ び 既 往 の 研 究 結 果 に 基 づ ぃ て 試 算 し た 。 果 実4t/10aを 生 産 す る の に 要す る窒 素 量は8kg N/10aであ っ た。 草生 栽 培の 場合 土 壌窒 素依 存 率を90% , 施肥 窒素 の 利用 率を8%と す ると , 10kgN/10aと な る 。 葉 に 含 ま れ る 窒 素(2. 4kgN/10a) は落 葉後 土 壌で 分解 さ れ, 再吸 収 さ れ ると する と7. 6kgN /'10aが 必要量となる。した がって,果実収量 と品質の両面から みて低窒 素 肥沃 度の り ンゴ 園に 対 する 最適 な 窒素 施肥 量 は8 kgN/10a程 度 であ り, 窒 素肥 沃度 が 高い 場 合 には ,施 肥 量を さら に 滅ずる 必要があると考えら れ,現在の施肥量 (青森県のりンゴ に対する 平 均窒 素施 肥 量17kgN 710a) は過 剰 であ ると 結 諭さ れる 。 また ,春 か ら夏にかけてり ンゴ樹に 吸 収さ れた 窒 素は 新生 部 位であ る新梢,葉および果 実に重点的に配分 され,秋に吸収さ れた窒素 は 根, 幹等 に 一時 的に 貯 蔵され た後,次年度の初期 生長に利用される ことから,春の窒 素施肥量 は必要ナ ょ枝と葉面積を確 保する程度にとどめ ,果実品質に対し て影響が少なく,根の窒素吸収カ が 大き く衰 え てい ない 着 色開 始期 (9月 上 旬) に残 りの窒素を施肥す るのが合理的であ ると提案 した。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    但 野 利 秋 副査    教授    佐久間敏雄 副 査    教 授    千 葉 誠 哉 副 査    教 授    原 田    隆

  本論文は,図35,表69,引用文献131を合み,6章からなる総頁数198の和文論文である。別に 参考論文19編が添えられている。

  わが国のりンゴに対する窒素施肥量は諸外国に比べて多い。これは果実肥大と収量増を図るた めと考えられるが,窒素多肥は果実の着色不良,生理障害の多発,貯蔵性の低下等果実品質に悪 影響をもたらす可能性がある。特に窒素多肥により果実の着色が著しく不良となることはよく知 られた事実であるが,その生理的機作にっいては不明である。また,窒素多肥と樹体生長にっい ての定量的研究は少なく,さらに窒素施肥時期と果実収量および品質との関係も明確ではない。

  本研究はりンゴの樹体生長,果実収量および品質におよぼす窒素多肥と施肥時期の影響ならび に窒素多肥による果実着色不良の生理的機作の解明を目的として実施されたものである。得られ た成果の概要は次の通りである。

1.窒素肥沃度が比較的高い土壌におけるりンゴ(品種紅玉)葉の光合成能は無窒素処理と窒 素多肥処 理(36kgN/10 a)間で差がな かった。春施肥区(4月下旬施 肥)と夏施肥区(6月下 旬施肥)では蒸散速度が―N区より高く,光合成における水利用効率は低下した。春萌芽前の地 上部乾物重に対する果実収穫後の乾物重の比は両区で1.7と等しく,窒素多肥による乾物生産能 の上昇は認められなかった。増加乾物重の果実への配分率は―N区で高く,新梢と葉への配分率 は春施肥区で高かった。平均果実収量は―N区,春施肥区および秋施肥区(9月上旬)間に差が なく,夏施肥区で他区より低かった。

2.夏施肥 区の果実ではゴム病の発生 率が高く.Ca濃度は低く,Mg濃度が高いことがゴム病 発生の原因と考えられた。

3.窒素多肥により果実の着色は著しく不良となった。この原因として果実の生理的条件が着色 に不利となることが第一義的に重要であることを明らかにした。窒素を多肥したりンゴ果実で着 色 が 不 良 と な る 原 因 に 関 連 す る 生 理 的 状 態 の 特 徴 は 以 下 の と お り で あ る 。 1)可溶性窒素濃度が高いこと。可溶性窒素濃度の上昇によってアントシアニン濃度は低下した。

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2) EMP経 路 を 経 由 し て 代 謝 さ れ る 糖 の 割 合 は ーN区 の 果 実 よ り 高 い こ と 。 3) シ トラマ ル酸濃 度が 低いこ と。果 皮中の シ卜 ラマル 酸濃度 の上昇 によっ てア ン卜シ アニン 濃 度 が上昇 した。

4) ポ リアミ ン,特 にス パーミ ン濃度 が高い こと 。この ことが エチレ ン生成 と細 胞の老 化を抑 制 し た可能 性があ る。着 色開 始期に のみ果 芯中工 チレン 濃度 と果皮 中アン トシア ニン濃度間に有意 ナ よ正相 関があ り,同 時期 の果肉 中スパーミン濃度と果芯中工チレン濃度および果皮中アントシア ニ ン濃度 間にそ れぞれ 有意 な負相 関があ った。 また, 果皮 中スパ ーミン 濃度の 上昇にともなって ア ントシ アニン 濃度は 低下 した。

5) フ ラボノ イド合 成系 におい てジヒ ド口ケ ルセ チン以 後の合 成系が アン卜 シア ニン合 成系よ ル ケ ルセチ ン配糖 体合成 系に 傾いて いるこ と。窒 素を多 肥し た果実 で着色 が不良 となる直接的な原 因 は,フ ラボノ イド合 成系 がアン トシア ニン合 成系よ ルケ ルセチ ン配糖 体合成 系に傾いているこ と にあっ た。さ らに, 上記 の生理 的条件 が相互 に影響 しあ って着 色を不 良にし ていると推定され る 。可溶 性窒素 と糖代 謝系 は全着 色期間 にわた って, シト ラマル 酸は着 色期間 の中後期で,ポリ ア ミ ン と エ チ レ ン は 着 色 開 始 期で そ れ ぞ れ ア ント シ ア ニ ン 生成 に 対 し て 影響 を お よ ぼ す。

  以 上の解 析結果 から ,、リ ンゴに 対する窒素多肥は果実の肥大と収量増にさほど効果はなく,果 実 の着色 不良, 生理障 害の 多発, 貯蔵性 の低下 等果実 品質 に悪影 響を与 えるこ とを確認した。そ れ 故,リ ンゴに 対する 窒素 施肥は できる だけ低 くすべ きで あると 考え, 低窒素 肥沃度のりンゴ園 に 対する 適正な 窒素施 肥量 を試算 した結 果,7. 6kgN/10aが必要量であった。したがって,果実 収 量 と 品 質の 両 面 か ら みて 低 窒素肥 沃度の りン ゴ園に 対する 最適な 窒素施 肥量 は8 kgN/10a程 度 であり ,窒素 肥沃度 が高 い場合 には, 施肥量 をさら に減 ずる必 要があ ると結 論した。また,春 か ら夏に 吸収さ れた窒 素は 新生部 位であ る新梢 ,葉お よび 果実に 重点的 に配分 され,秋に吸収さ れ た窒素 は根, 幹等に 貯蔵 された 後,次年度の初期生育に利用されることから,春の窒素施肥量は 必 要な枝 と葉面 積を確 保す る程度 にとどめ,果実品質に対して影響が少なく,根の窒素吸収カが大 き く 衰え てい ない着 色開始 期(9月上 旬)に 残り を施肥 するの が合理 的であ ると 提案し ている 。   以 上のよ うに, 本研 究はり ンゴの 樹体生 長と 果実収 量のた めにも ,高品 質の 果実を得るために も ,現行 の窒素 施肥量 が多 すぎる ことを 明示す るとと もに ,窒素 多肥に よるり ンゴ果実の着色不 良 の原因 にっい て新知 見を 得てお り,そ の成果 は学術 的に 高く評 価し得 るばか りでなく,実際の り ンゴ栽 培に対 して貢 献す るとこ ろが大 きい。

  よ って , 審 査 員 一 同は , 別に 行った 学力 確認試 験の結 果と合 わせ て,本 論文提 出者齋 藤寛は

参照

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