博 士 ( 工 学 ) 秀 島 好 昭
学 位 論 文 題 名
山 岳 地 流 域 の 積 雪 賦 存 量 の監 視 と 融 雪 水 の 農 業 利 水 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近 年, 北海道 では水 田およ び畑 地圃場 の大型 化およ び機械 化の 進捗, 営農面における良質米お よ び良質 野菜 の生産 を目標 に,栽 培品種 の改 良とこ れに応 じた適 期作 付が行 われており,水の需 要 量とそ の時 期が変 化して いる。
本 論文 は,北 海道の 代表的 な米 作地帯 である 石狩川 流域を 中心 に多種 業種の河川水の利用状況 お よび農 業分 野にお ける水 資源利 用動向 の分 析を通 じて, 融雪水 が今 後とも 益々重要な水資源と な ること を指 摘し, 山岳地 域にお ける水 資源 の推定 ,管理 および 監視 手法に っいて論じている。
本 論文 は全7章か ら構成 されて いる。
第1章 は 序 論 で あ り , 研 究 の 目 的 , 既 往 の 研 究 お よ び論 文 の 構 成 と手 法 を 述 べ てい る 。 第2章 は,北 海道 の水資 源の融 雪水へ の依存 状況 ,水利 用状況 および 積雪 資源の 監視現 況を調 査 し , 農 業 利 水 に 関 し て 以 下 の よ う な 問 題 点 が 存 在 し て い る こ と を 明 ら か に し て い る。
1)北海 道 の 農 業 用水 の 取 水方式 は, 夕ム貯 留の利 用形態 が多い 。利 水需要 パター ンの変 動と 河川自 流量と の比較 から ,融雪 流出量 はダム の貯 水容量 および 農業用 水管理方式を大きく左 右し, 融雪流 出量を 精度 よく推 定する ことが 必要 である 。
2)石 狩川水 系で は灌漑 期に農 業用水 の河川 水利 用率が 高いこ とから ,今 後の水 源開発 におい ては広 域的な 利水計 画に 基づく 水資源 の配分 と管 理,さ らに山 岳地を 含めた未開発流域での 積極的 な水資 源開発 の必 要があ る。
第3章 は,北 海道 内にお ける長 年の降 水資料 を用 いて, 長期水 利用計 画立 案に必 要な水 文資料 の 要約を 行っ ている 。すな わち, 農業用 水で は融雪 水の貯 留利用 と灌 漑期の 降水流出水の利用が 主 体 と な る ので , 前 年12月‑3月 まで の 寒 候 期 と5月 〜9月 まで の 灌 漑 期 に分け ,その 期間 の降 水 量・日 雨量 などの 等分布 図に基 づいて北海道の降水気候区分図を作成した。降水気候区分図は,
冬 期の北 西季 節風に 伴う降 雪と夏 期の南 西風 の流入 に伴う 降雨お よび 北海道 中央部の地形的特徴 を 反 映し たもの で, 灌漑期 では日 本海側 ,太 平洋側 西部, 太平洋 側東部 ,オ ホーツ ク海側 の4つ
の気候区,寒候期では内陸部気候区を含んで5っの気候区の降水特性を明らかにするとともに,
水資源に利用できる降水量の期待値を示している。特に,日本海側気候区の寒候期の降水量の変 動係数は,灌漑期のそれよりも小さく,降雪が安定した水資源であることを明らかにしている。
さらにアメダス甲・乙・丁観測所の降水量資料を基に,各気候区ごとに標高と期間降水量の関係 図を作成し,気象・水文資料の未整理な場所で参考となる山岳地の降水量補正倍率値を求めた。
第4章は,流域の気象資料が十分に得られない山岳地の積雪量の推定手法を提案している。山 岳地に位置する流域では,気象・水文要素を精度よく観測することは一般に困難である。特に,
降雪の場合は近傍平地部の観測所の気象資料より懸案地域の降雪,積雪状況の推定には大きな誤 差をともなう。まず,石狩川の支流である徳富川流域を解析の対象とし,流出量から流出機構お よび降水量を逆推定す る成分分離AR法を適用する手法を述ベ,これによって水収支量が実測 値と よく 適 合することを示してい る。また,4章で得られてい る降水量補正倍率値とARモ デルから得られる結果がよく符合することを確かめている。
第5章では,融雪期の利水管理に日融雪流出量を再現できる流出モデルの必要なことを指摘し ている。まず,山間部に設けた融雪流出試験地の観測資料に基づいて流出モデルが備えるべき以 下の条件を提示している。
1)積雪量の多い山岳地域では融雪流出ピークの遅れが大きく,時間融雪量および時間融雪流 出量を基に日融雪流出量を計算する必要がある。
2)積雪深の変化に応じて到達時間を変化させる必要がある。
3)時間融雪量を求めるには気温の熱伝達と日射の2要素の測定値が必要であるが,山岳地域 では時間日射量のデ一夕を入手することが困難であり,日照時間から時間日射量を換算する ことが必要である。
っきに,上述の3っの条件を満足する実用的で簡便な流出モデルとして,従来の流出関数法を 改良 する こ とを 提案 し, これ に よっ て実測融雪流出量を説明 できることを示している。
第6章は,積雪賦存量,すなわち,春の融雪期直前までに流域に残留している積雪量を精度よ く推定するためには,初冬の融雪を考慮しなければならないことを指摘している。まず,初冬の 融雪期間の日平均気温,日最高気温の累計曲線および降水量資料を用いた簡易積雪賦存量の推定 手法を提案している。次に,ランドサット画像の積雪量分布と上述の推定積雪賦存量を比較し,
推定手法の妥当性を検証している。
第7章では,中山間地に位置する開墾畑地における融雪水の灌漑利用手法を提案している。す なわち,中山間地の農地は標高が高く,面積・規模が小さいことや散在していることもあって,
ダ厶等による十分な農業用水の確保が困難な場合が多く「天水利用型の農業」である。中山間地 は一般に豊富な積雪資源に恵まれ,この融雪水を圃場近傍の水源に集水し,灌紙水として利用す る手法を提案している。開墾農地の給水可能水量の推定方法を述べるとともに,ワイス,当麻地 域では灌漑必要水量の25〜33%を供給可能であり,この集水施設の有効性を明らかにしている。
第8章は結論で,各章の主たる結果をまとめてL.、る。
以上,本研究は,北海道における農業構造・営農管理の変化に伴う水需要の時間的・空間的変 動を分析し,その対応策を論じたものである。‐
学位論文審査の要旨
近年,北海道では水田および畑地圃場の大型化および機械化の進捗,営農面における良質米お よび良質野菜の生産を目標に,栽培品種の改良とこれに応じた適期作付が行われており,水の需 要 量と その 時 期が 変化 する とと も に, 厳格 な水 管理 が 要求 され るよ う になっている。
本論文は,北海道の代表的な米作地帯である石狩川流域を中心に河川水の利用状況および農業 分野における水資源利用動向の分析を通じて,融雪水が今後とも農業用水の益々重要な水資源と なることを指摘し,山岳地域における水資源の推定管理および監視手法にっいて論じている。
先ず,北海道の農業用水の融雪水への依存状況,水利用状況および積雪資源の監視現況を調査 し , 農 業 利 水 に 関 し て 以 下 の よ う な 問 題 点 の 存 在 す る こ と を 明 ら か に し て い る 。 1)北海道の農業用水の取水方式は,ダム貯留の利用形態が多い。利水需要バターンと河川自 流量を比較し,流域からの融雪流出量はダムの貯水容量および農業用水管理方式を大きく左 右し,融雪流出を精度よく推定することが必要である。
2)石狩川水系では灌漑期に農業用水の河川水利用率が高いことから,今後の水源開発におい ては広域的な利水計画に基づく水資源の配分と管理,さらに山岳地を含めた未開発流域での 積極的な水資源開発の必要がある。
次に,水文資料の十分に整備されていない山岳地域で農業利水施設の計画に関して,北海道内
博 興
浩
睦 忠
田 倉
伯
藤 板
佐
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
に おけ る長年 の降水 資料を 用い て,長 期水利 用計画 立案に 必要 な水文 資料の 整備を 行っている。
す なわ ち,農 業用水 では融 雪水 の貯留 利用と 灌概期 の降雨 流出 水の利 用が主 体とな るので,前年 12月‑3月ま で の 寒 候 期と5月 〜9月ま で の 灌 漑 期に 分 け , 降 水気 候 区 分 図 を作 成 して いる。 降 水 気候 区分図 は冬期 の北西 季節 風に伴 う降雪 と夏期 の南西 風の 流入に 伴う降 雨およ び北海道中央 の 地形 的特徴 を反映 したも ので ,灌漑 期では日本海側,太平洋側西部,太平洋側東部,オホ一`ソ ク 海 側 の4っの 気 候 区 , 寒 候期 で は 内陸部 気候区 を含 んで5っの 気候区 の降水 特性を 明らか にす る とと もに, 水資源 に利用 でき る降水 量の期 待値を 示して いる 。日本 海側気 候区の 寒候期の降水 量 の変 動係数 は,灌 漑期の それ よりも 小さく ,降雪 が安定 した 水資源 である ことを 明らかにして い る。 さらに ,アメ ダス観 測所 の降水 量資料 を基に ,各気 候区 ごとに 標高と 期間降 水量の関係図 を 作成 し,気 象・水 文資料 の未 整備な 場所で 計画立 案の指 標と なる山 岳地の 降水量 補正倍率法を 提 案し ている 。また ,降雪 の場 合,近 傍平地 部の観 測所の 気象 資料よ り懸案 地域の 降雪・積雪状 況 の推 定には 一般に 大きな 誤差 をとも なう。 著者倣 石狩川 の支 流であ る徳富 川流域 を試験流域と し , 流 出 量 か ら流 出 機 構 お よび 降 水 量 を 逆推 定 す る フ アル 夕 一 分 離AR法 を 適 用す る手法 を提 案 し, 水収支 が実測 値とよ く適 合する ことを 示して いる。 また ,先に 述べた 降水量 補正倍率法と ARモデル から得 られる 結果 がよく 符合す ること を確 かめて いる。
積雪賦 存量, すなわ ち, 春の融 雪期直 前まで に流 域に残 留して いる積 雪量を 精度 よく推定する た めに は,初 冬の融 雪を考 慮し なけれ ばなら ないこ とを指 摘し ている 。初冬 の融雪 期間の日平均 気 温, 日最高 気温の 累計曲 線お よび降 水量資 料を用 いた簡 易積 雪賦存 量の推 定手法 を提案してい る 。
さらに ,山岳 地にお ける 広領域 の積雪 賦存量 をラ ンドサ ット画 像資料 を用い た結 果より,本研 究 で提 案して いる降 水量補 正倍 率法, 積雪賦 存量の 簡易推 定法 が実用 的な精 度を持 っていること を 確か めてい る。
次に, 融雪期 の農業 利水 施設の 管理に 日融雪 流出 量を再 現でき る流出 モデル の必 要なことを指 摘 して いる。 まず, 山間部 に設 けた融 雪流出 試験地 の観測 資料 に基づ いて流 出モデ ルが備えるべ き 以下 の条件 を提示 してい る。
1) 積 雪量 の 多い山 岳地域 では融 雪流 出のピ ークの 遅れが 大き く,時 間融雪 量およ び時間 融雪 流出量 を基 に日融 雪流出 量を計 算する 必要 がある 。
2) 積雪深 の変化 に応じ て到達 時間 が変化 する。
3) 時 間融 雪 量 を 求 める に は 気 温の 熱伝達 と日 射の2要素 の測定 値が必 要であ るが ,山岳 地域 では時 間日 射量の デ一夕 を入手 するこ とが 困難で あり, 日照時 間か ら時間 日射量 を換算する
こと が必要 である 。
上 述 の3っ の 条 件 を 満 足 す る 実 用 的 で 簡 便 な 流 出 モ デ ル を 提 案 し て い る 。 以上, 本研 究は, 北海道 におけ る農業 構造 ・営農 管理の 変化に とも なう水需要の時間的・空間 的変動 を分析 し,そ の対 応策を 論じた もので ある 。
これを 要す るに, 本論文 は,気 象・水 文資 料の入 手が困 難であ る山 岳地域の農業利水施設の合 理的な 計画・ 運営・ 管理 法に関 して新 知見を 得て おり, 水資源 工学・ 水文学の進歩に寄与すると
ころ が大き い。
よ って, 著者は ,博士 (工学)の学位を授与される資格あるものと認める。