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博士(法学)開 ふ佐子 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(法学)開    ふ佐子 学位論文題名

高齢者をめく゛る社会保障法理

――メデイケアにみる「高齢」保障の視点一一

学位論文内容の要旨

〇問題関心と 視角

  なぜ我々は 、高齢者を「高齢」であるという理由だけで公的に支援 するのであろうか。今 後高齢化が益 々進み、高齢者関係の社会保障支出を抑制しようとする 傾向が強まることが予 想される。こ のとき、高齢者を他と区別して保障する制度を正当化す る法理論が確立してい ないならば、 高齢者の人としての尊厳を侵害する制度改革がなし崩し 的になされかねない。

費用抑制策と して市場機能を強化する方策が先行した場合、市場によ っては担いきれない高 齢者のニーズ が疎かにされかねない。他方、必要以上に高齢者を公的 に支援するならば、他 の世代との間 に不公平が生じうる。わが国では高齢化問題が提起され て久しいが、社会保障 制度を高齢者 という切口から体系的に整理し、高齢者の特殊性を検証 して、高齢者に必要な 保障の内容を 考察する視点が乏しい。高齢者ケアの何を社会保障によ って支え、何を高齢者 の 自 立 や 他 の 主 体 な ど に よ る 支 援 に 任 せ る の か を 明 確 化 す べ き で あ る 。   この 点ア メリ カで は、 高 齢者 法(Elder Law)が 高齢 者 をめ ぐる 問題 を横 断的に取扱い、

高齢者には他 の国民よりも手厚い社会保障制度が構築されている。そこで本稿では、「高齢」

を特別に支援 する社会保障制度の正当化根拠および保障の範囲を考察 するために、検討の射 程を医療と介 護の費用負担の保障に絞り、アメリカのメディケアを研 究の素材とした。高齢 者法の主要領 域であるメディケアは、「高齢」を社会保障の給付要件の前提として確立したか らである。わ が国のアメリカ研究は、社会保障制度全体を貫く基本原 理である自助・自立の 原則を中心に 検証してきた。しかしアメリカにおいても、他の先進諸 国と同様、社会保障の 拡充を求める 声が存在しメディケアが誕生した。本稿は、従来あまり注目されてこなかった、

ア メ リ カ 社 会 保 障 制 度 に お け る 「 高 齢 者 保 護 」 の 視 点 に 着 目 し て い る 。

○各章の要旨

  第一 章で は、 第二章以降の研究の前 提作業として、アメリカの高齢者ケアの全体像を整理 し た。 そこ で、 既存の研究が乏しい「 高齢者法」を、高齢者を対象とする公的医療・介護保 険 であ るメ ディ ケアの制度内容を中心 に説明した。高齢者というーつの世代を対象とする法 分野を確立した高齢者法は、 「高齢」を前提に公的な支援を行う意義や範囲を探求する上で有 用な素材を提供している。

  第二章では、「高齢」を社会保障の給付要件として確立したメディケアの立法史を検証した。

自 助・ 自立 を重 視するアメリカでは、 社会保障制度も「貧困」や「所得喪失」を要件とした 給 付を 機軸 に、 市場メカニズムを支え る形で発展してきた。例えば公的年金制度も、退職に よ る「 所得 喪失 」の補填を年金給付の 主目的としていた。そして自助・自立の尊重から公的

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皆医療 保険制 度を創設 する試 みは挫折 し続け、対象を絞った保険をまず成立させようとする 戦略か ら、医 療二ーズ などの 高い高齢 者の保険が誕生した。こうして創設されたものの、メ ディケ アは、 従来にな い保障 を「高齢 」を理由に行う画期的な制度となった。すなわち、所 得に関 わりな く、高齢 であれ ば医療・ 介護費用が支給されることとなった。そしてメディケ ア創設以来、「高齢」が社会保障の給付要件のーっとなり、年金制度も、最近所得要件を廃止 してい る。メ ディケア の立法 史の検証 からは、他の者に対する公的な医療保障を回避してき たなかで、「高齢」を理由に公的な支援を行う根拠として、「二ーズ」と「功績」が浮上した。

身体・精神機能の老化などに起因するニーズを支援する必要性と、長年社会に貢献してきた功 績を評価する必要性が、立法理由として唱えられた。

  第三章 では、 メディケ アのそ の後の展 開を解析している。アメリカでは、メディケアの創 設によ って、 高齢者ケ アにお ける社会 保障の役割が確定したわけではない。その後の財政難 から、高齢者医療・介護も市場機能に任せようとする動きが出現し、メディケア・マネージド ケアが 導入さ れた。し かしマ ネージド ケアは、高齢者の医療や介護に対するアクセスを侵害 する上 に、必 ずしも社 会保障 関係費用 を削減しえないといった問題を提起した。医療と介護 の質や両者へのアクセスの問題は、裁判上も争われた。本章では、「高齢」を根拠に公的な保 障 を ど こ ま で 行 う べ き か 、 市 場 機 能 の 役 割 と の 関 係 で の 模 索 に つ い て 検 証 し た 。   第三章 までは 、高齢者 法なか でもメデ ィケアの法制度、立法史および運用状況を詳細に検 証する ことに より、高 齢保障 の正当化 根拠を探求する作業に有用な素材および考察すべき論 点を掘 り起こ した。第 四章で は、この 実証研究から抽出された高齢者の特徴や高齢保障をめ ぐる論 点から 、高齢者 医療と 介護を公 的に保障する制度を支える法規範を模索した。それま でのア メリカ 研究を素 材に一 般論を展 開し、わが国にも適用しうるような、高齢者をめぐる 社会保 障法理 を探求し た。そ こでは、 他の権利との関係や高齢者固有の要請といった多様な 側面か ら、社 会保障制 度の意 義や限界 を検討した。そしてこの検証を統合し、社会保障財源 の高齢者に対する分配が、正義にかなったものかを判断する際に考察すべき課題を整理した。

○本稿の帰結

  本稿 は、高 齢者の医 療・介 護二ーズ のみを保障するという、比較法的見地からみると特殊 な制 度とし て誕生し たメデ ィケアの 法制度と 制度史の全貌を詳細に解明かした。多くの国で は、 労働者 または低 所得者 に対する 医療保障 制度がまず創設され、後に保障の対象が広げら れて きた。 これに対 してア メリカで は、高齢 保障を正当化する各種の理論的根拠が主張され たこ とに加 え、当時 の政治 状況に起 因して、 高齢者に対象を絞った保険制度がまず創設され たの である 。本稿は 、高齢 者であれ ば所得が あり自立しえても、医療・介護保障を受けうる こと となっ た理由を 明らか にした。 さらに、 その後の財政難から導入されたメディケア・マ ネー ジドケ アを検討 し、民 間会社に よる高齢 者ケアの限界を分析した。高齢者をケアする社 会 保 障制 度 の 存在 意 義 を 、市 場 機 能の 限 界 およ び 高 齢者 の ニーズ や功績 などに探 った。

  アメリカは、自助・自立を基調とする国だからこそなお、社会保障の役割を鋭く問い続けて いる。そして結局、公的な医療・介護保障の対象を、低所得者に加えて高齢者とー定の障害者 に限 定して いる。本 稿は、 高齢者ケ アにおい ても市場機能を強化すべきとの主張が絶えない なかで、現在においても高齢者を優遇し続けるアメリカ社会保障制度の特性を明らかにした。

市場 機能を 駆使する 国のお 手本とな ってきた アメリカにおいても市場の限界が模索されてい る 実 情 の 解 析 は 、 市 場 化 を 押 し 進め よ う とす る わ が国 の 論 調に も 一 石を 投 じ え よう 。   本稿 は、ア メリカの メディ ケアを素 材に、高齢者を特別の集団として公的に支援する根拠 を考 察した 。さらに 高齢者 ケアの範 囲、すな わち公的に保障すべき医療と介護保障の範囲を 検証 した。 そしてこ れらの 検討を統 合し、高 齢者を対象とする社会保障制度の正当性や保障

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の範囲を判断す る際に考慮すべき論点を整理した。それぞれの論点をめ ぐる本稿の考察は不 十分なものでし かなく、今後も掘り下げた研究を行わねばならないが、 こうした整理は、わ が国の法政策を 検討する上でも有用となろう。わが国の社会保障法についても、「高齢」とい う切口から統ー 的に解析し、高齢者をめぐる社会保障法理をより体系的に検証してゆきたい。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査

教授 教授 助教授

道幸 長谷川 倉田

学 位 論 文 題 名

哲也     晃   聡

高齢者をめく゛る社会保障法理

ーーメデイケアにみる「高齢」保障の視点――

(論文 の要旨)

  本 論 文 は、 「 高 齢」 を 要件と する社会 保障制度 がなに ゆえに正 当化さ れるのか という 問 題 関心 か ら 、ア メ リ カの 高 齢 者法(Elder Law)、と りわ けその中 心をな すと考え られる メ デ ィケ ア を 対象 に 、 その 制定史 と近年 の改革の 動向さ らにはメ ディケ アをめぐ る同国の 理 論 状況 を 検 討す る も ので ある。 周知の ように、 わが国 を含む福 祉国家 の多くは 、労働者 を 対 象と し た 社会 保 障 =社 会保険 制度を すべての 国民に 一般化し てきた という歴 史を有し て お り、 必 ず しも 「 高 齢」 という 要件に 着目して 社会保 障制度を 体系化 してぎた とはいい が た い。 確 か に、 社 会 の少 子高齢 化に対 応するた めの施 策は、多 くの福 祉国家に おいて実 施 さ れて い る 。し か し 、こ れらは 、既存 の制度枠 組みに よる所得 再分配 が高齢者 世代に偏 り すぎる という現 象に対 応しよう とする 点で、対 処療法 的である 。

  そ こ で 、本 論 文 の第1章 は、 ア メ リカ に お い て「 高齢 者」とい うカテ ゴリーに 着目し 、 彼 らが 市 民 生活 を お くる うえで 直面す る法律問 題を広 く対象と しなが ら、その ニーズや 特 性 に応 じ た 法分 野 が どの ように して形 成されて きたか を検証す る。エ ステート ・プラン ニ ン グに 代 表 され る 財 産管 理問題 を切り 口に、高 齢者の 生活全般 に関わ る法律問 題を専門 に 取 り扱 う 法 曹が 増 え てき たこと 、およ びそこか ら高齢 者法とい う法領 域が確立 されるま で の 経緯 が 整 理さ れ 、 実際 にどの ような 問題が取 り扱わ れている かが紹 介されて いる。こ こ で は、 「 社 会保 障 法 」と いう法 分野よ りも、「 高齢者 」や「障 害者」 といった 人的集団 に 着目し て法分野 が個易I亅に 形成さ れ、これらの人的集団のニーズや特性に応じた法を構想し ようと するアメ リカの 独自性が 浮き彫 りにされ ている 。

  っ ぎ に 、第2章 では 、 ア メリ カ の 高齢 者 法 に 占め る比 重がかな り大き いメディ ケアの 立 法 過 程 と そ の 特 徴 が 検 証 さ れ て い る 。 同 国 で は、1935年 に 制定 さ れ た社 会 保 障 法が 高 齢 者を 対 象 とし た 年 金制 度を確 立し、 ここから 多様な 社会保障 制度が 展開され てきたと い う 歴史 を も つ。 し か し、 その特 徴は、 あくまで も個人 の自助・ 自立を 重視しつ っそれに よ る こと が 困 難な 場 合 に公 的な社 会保障 給付が対 応する という点 にあり 、年金制 度につい て も 当初 は 所 得保 障 の 要否 が支給 の際に 改めて問 われる というも のであ った。ま た、公的 な

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的な制度を創設するというプランが医師団体や民間保険会社の根強い反対の前に幾度も挫 折す るという 歴史を重 ねていた。 その後、 民主党の ジョンソン政権は、1965年にメデ イケアを創設し、ここに所得保障の要否とは無関係に「高齢」であることのみを要件とし た医療保障制度がアメリカにおぃて成立した。

  本論文は、この立法過程に着目し、自助・自立を基調とするアメリカの社会保障制度に おいて、所得保障の要否を問うことなく、給付を行うとしたメディケアがどのような政治 的なぃし思想的背景の下に成立したのかを立法資料等を通じて詳細に検証している。そこ では、白人の高齢女性が医療保障を求める典型的なケースとして想定されていたことや政 府案の作成に尽カしたスタッフが一般的な医療保障制度を制定する「橋頭堡」としてとり あえず賛同を得られそうな高齢者のみにターゲットを絞った制度を提案したことなどが多 くの資料から検証されている。ここでは、他の福祉国家において、私傷病がすべての国民 に共通の社会危険と認識されていくプロセスがすべての国民を対象とする医療保障制度を 生んだのに対し、アメリカでは、私傷病についてもなお自助・自立が強調され続けている がゆえに、自助・自立が期待できなぃ特定の人的カテゴリーのみを対象とする医療保障制 度が誕生したというプロセスが明らかにされている。

  しかし、メディケアの存在は、他の国民が一般的な医療保障制度の対象になっていなぃ アメリカにおいて、「高齢者」のみが特別に保護されるという状況を生みだした。それゆ え、その理論的正当化ともいうべき作業が社会的にも要請され、高齢者法の発展とともに さまざまな考え方が提示されるようになる。そこで、第3章および第4章では、アメリカ の社会保障制度において極めて特異な位置を占めるメディケアが今日まで維持されてきた という事実、とりわけメディケア・マネージドケアの失敗に着目して、アメリカでは高齢 者を特別に保護することがどのようにして正当化されようとしてきたかが詳細に紹介され ている。本論文では、そのなかでも特に高齢者が社会に対してなしてきた「功績」が高齢 者を保護する制度を正当化するという学説に着目し、そこから「高齢」を要件とする社会 保障制度の理論化を試みている。

(評価の要旨)

  本論文の最大の功績は、自助・自立を基調とするアメリカの社会保障制度においてもそ れに依拠しなぃ制度とそれを許容なぃし維持しようとする動きがあったことを明瞭に示し た点にある。また、本論文で提示された視点は、アメリカ社会保障制度史を複眼的に把握 することを可能にしたという比較法研究レベルにとどまらず、社会保障法研究一般におい ても「高齢者」という人的カテゴリーから関連諸制度を横断的に検討し、体系化する試み の必要性を示すものであり、今後の社会保障法学のあり方に一石を投じようとする点で野 心的であるとさえぃえる。ただし、本論文の意図した「高齢」を要件とする社会保障制度 の理論化は、上述の検討内容のみでその目的を果たすに十分とはいえない点があり、今後 も本論文の研究成果を前提としたさらなる研鑽が必要である。とはいうものの、メディケ アの立法史およびその後の制度展開に関する部分、アメリカの社会保障制度に対する法学 の関わり方の特徴などを検証した部分、メディケアをめぐる近年の制度改革や理論動向を 比較検証した部分などは、博士(法学)を授与するのに十分な内容を備えており、審査委 員全員一致で本論文を学位論文として評価することに決した。

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参照

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