博士(薬学)岡 沙織 学位論文題名
2 ―アラキドノイルグリセロールの 生理的役割に関する研究
学位論文 内容の要旨
2―ア ラキ ドノイルグリセロール(2一AG)は ,マリファナの受容体として知られて い るカ ンナ ビノ イド 受 容体 の内 在性 リガンド である.カンナビノイド受容体として は ,神 経系 に多量 に発現しているCB1受容体と ,炎症・免疫系に多量に発現している CB2受容 体の ニっが報告されているが,生体内 における具体的な生理的役割は,これ ま で良 く分 かって いなかった.また,2−AGと もうーつの内在性リガンドと言われて い るア ナン ダミ ドの , どち らが より 重要であ るのかという点もはっきりとはしてい な かっ た, そこ で, 神 経系 及び 炎症 ・免疫系 において,カンナビノイド受容体の内 在 性リ ガン ドであ る2―AGがどのような時に産 生され,どのような生理的意義を持っ て いる のか ,また ,2―AGとアナンダミドのど ちらが生理的に重要なりガンドである の かを 明ら かに する こ とを 目的 とし て研 究を 行っ た.
!:袖経丞!三葢I士歪2‑AGの生成と意義
ま ず, ラッ ト脳 シナプトソームを用いて2−AGの生成とその意義を調べた ,その結 果, シナ プト ソー ムを脱分極させることにより ,2−AGが速やかに,かつ選 択的に生 成することを明らかにした.生成した2―AGの約30Y0は速やかに細胞外に放出されてい た. なお ,も うー つの 内在 性リ ガン ドと され ているアナンダミドのレベル は極めて 低く,脱分極によっても有意な変動が見られないこ となども明らかとなった.また,
シナプトソームの脱分極に伴って起こる2−AGの生成には,電位依存性Ca2゛チャネル及 びホ スホ リパ ーゼCが関 与し てい ると ぃう こと が考えられた.次に,CB1受 容体のア ンタ ゴニ スト であ るSR141716Aの神経伝達物質の放出に及ばす影響を調べた .その結 果,SR141716Aを 加 えることにより,シナプトソームからのグルタミン酸の 放出が増 大す るこ とが 分か った.これらの結果から,脱 分極に伴って生成した2―AGには,ー 旦起 こっ た神 経の 興奮 にブ レー キを かけ ると いう重要な役割があるという ことが強 く示唆された.次に,小脳のスライスを刺激して2−AGが生成するかどうかを調べた.
その結果,小脳のスライスを脱分極刺激やグルタミ ン酸で刺激することによって2一AG の生 成が 増大 する こと が分 かっ た, 小脳 では ,プルキンエ細胞の樹状突起 と顆粒細 胞か ら出 る平 行線 維と の問 でグ ルタ ミン 酸を 伝達物質とする興奮性のシナ プスを多 数形 成し てお り, これ が小 脳に おけ る最 も主 要 なシ ナプ スに なっ てい る.CB1受容 体は ,こ のシ ナプ スの 前終 末に 多量 に発 現し ていることが知られているの で,グル タミ ン酸 で刺 激す ることにより2ーAGが速やかに生成するということは注目 すべきこ とで ある .こ のほ か,最近,2一AGのエーテル型のアナログ(noladin ether)が脳に 存在 して おり ,第 三の内在性リガンドであると いうことが報告されているが,2−AG のエ ーテ ル型 アナ ログ はラ ット ,マ ウス ,ハ ムスター,モルモットなどの 各種の動 物の 脳に は存 在し ていないということを螢光HPLCによる定量分析やGC/MSに よる分析 によって明確に示した.
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2:12‑O‑tetradecanoylphorbQ!!3二!Q!±!!Q(工瓰)亜企塗壷t三よろ急性炎痙t三韮鑓 歪2ニ盥Q生成と意義
炎 症・ 免疫 細胞 に多 量に 発現 して いるCB2受 容体の生理的役割にはまだ不明の点が 多い .我 々の グル ープはこれまでに,2―AGがCB2受容体を介してHL―60細胞の細胞内
´ カル シウ ムイ オン 濃度 の上 昇や ,MAPキナ ーゼ の活性化,ケモカインの産生増大,ア クチ ン重 合, また ,マ クロ ファ ージ や単 球 ,ナ チュ ラル キラ ー細 胞の 遊走を引き起 こす こと など を明 らかにしてきた,しかし, 炎症反応におけるCB2受容体 や2―AGの意 義に つい ては これ まで 研究 がほ とん どな さ れて おら ず, 正確 なこ とは まだ良く分か って いな い. そこ でま ず, 炎症 部位 で2ーAGが 生成しているかどうかを調べた.その 結果 ,マ ウス 耳介 にTPAを塗 布す るこ とに よっ て作製した急性炎症モデルにおいて,
2−AGの 量が 対 照に 比べて3倍に増大している ことを見出した.一方,アナンダミドの レベルは低く,TPAを塗布することによってもそ の量に大きな変動は見られなかった.
次に ,TPAに よ る炎 症に及ばすCB2受容体アン タゴニストの影響を調べた.その結果,
CB2受容 体ア ン タゴ ニス トで あるSR144528を塗 布することにより,耳介の腫脹は強く 抑制 を受 ける こと が分 かっ た. また ,SR144528を塗 布す るこ とに よっ て,好中球の 遊走 因子 であ るロ イコトリエンB4の産生増大 や好中球の浸潤も抑制されることが分か った.一方,マウス の耳介に2ーAGを塗布したと ころ,耳介の腫脹が観察された.2−AG によ って 引き 起こ され る耳 介の 腫脹 はSR144528によ り完 全に 抑制 され た.これに対 し, アナ ンダ ミド は耳 介の 腫脹 を全 く引 き 起こさなかった.これらの結 果は,TPAに よっ て引 き起 こさ れる急性炎症において,CB2受容体とその内在性リガン ドである2一 AGが , 炎 症 の 進 展 に 深 く 関 与 し て い る と い う こ と を 強 く 示 唆 す る も の で あ る , 3. 空 主 竺 ゾ ロ ン 豆 企 塗 査 ! 三 よ 歪 接 触 性 皮 盧 炎 ! 三 担 泣 2‑AGの 生 成 と 意 義 次 に ,マ ウス の腹部をハプテン抗原のーっであるオキサゾロンで 感作し,その5日 後に オ キサ ゾロ ンを 耳介 にチ ャレ ンジ する ことによって作製した接触性皮膚炎モデ ルに つ いて 調べ た. その 結果 ,オ キサ ゾロ ンでチャレンジした群では,対照に比べ て2ーAGの 量が 増大することが明らかと なった.また,耳介の腫脹は,SR144528を感 作時 あ るい はチ ャレ ンジ 時に オキ サゾ ロン とともに塗布することによって,強く抑 制を受けるということも明らか となった.CB2受容体と2一AGは,アレルゲンによる感 作の 成 立と ,チ ャレ ンジ 後に 引き 起こ され る炎症反応の双方において重要な役割を 演じていることが示唆された.
生慢性Zレルギニ性炎痙c三担泣 2‑AGO生成と意義
最後に,好酸 球が関与する慢性のアレルギー性炎症にCB2受容体や2―AGが関与して い るか どう かを 調べ た. 炎症 ・ 免疫 系でCB2受容体が 多く発現している細胞は,Bリ ン パ球 ,ナ チュ ラル キラー細胞,マクロファージなど で,多形核自血球や,Tリン パ 球 など には あま り発 現し てい な いと 言わ れて きた.しかし,多形核自血球を,好 中 球 ,好 酸球 など に分 けて調べた例はこれまでなかった .そこでまず,好酸球にCB2受 容体が発現して いるかどうかを調べた.ヒ卜末梢血好酸球及び好中球を 調製し,RT− PCR及びWestern blot法を 行っ たと ころ ,好 酸球にはCB2受容体が多量に発現して い る とい うこ とが 初め て明らかとなった.一方,好中球 にはCB2受容体は殆ど発現し て いないというこ とが分かった.また,2ーAGはCB2受容体を介してヒト末 梢血由来の好 酸 球を 効率 的に 遊走 させ ると い うこ とも 明ら かとなった.更に,マウスの耳介に オ キ サゾ ロン を反 復投 与す るこ と によ って 作製 した,好酸球の浸潤を伴う慢性アレ ル ギ ー性 炎症 モデ ルに おいても,2―AG量が著しく増加するという結果が観察された . こ れら の結 果は ,2−AGが 急性炎症や接触性皮膚炎だけでなく,好酸球が関与する 慢 性のアレルギー 性炎症にも深く関与しているということを強く示唆する ものである.
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学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 助教授
五十嵐 横沢 井/口 川原
学 位 論 文 題 名
靖之 英良 仁一 裕之
2 ―アラキドノイルグリセロールの 生 理 的 役 割 に 関 す る 研 究
2ーア ラ キ ドノ イ ル グリ セ ロ ール(2‑AG)は,マ リファ ナの受容 体として 知られ て い る カン ナビノイ ド受容 体の内在 性リガ ンドであ る.これ まで、 内在性リ ガンド と し て報告さ れた2一AGと以 前から報 告のあ ったアナ ンダミ ドのどちらが生体内で重要 な 働きをし ている かという 点、神経 系に多 量に発現 してい るCB1受容体と,炎症・免 疫 系に発現 してい るCB2受 容体の生 体内に おける具 体的な 生理的役割については不明 の ま まで あった. そこで 神経系の 細胞や 炎症・免 疫系の動 物モデ ルを用い て,カ ン ナ ビノイド 受容体 の内在性 リガンド である2―AGが どのよ うな時に産生され,どの受 容 体を介し てどの ような生 理的意義 を担っ ているの か,ま た,2一AGとアナンダミド の ど ちら が生理的 に重要 なりガン ドであ るのかを 明らかに するこ とを目的 として 一 連 の研究を 展開し 、以下の 成果をお さめた 。
(1) ラ ッ ト 脳 シ ナ プ ト ソ ー ム を 用 い た実 験 を 行い 、 シ ナ プト ゾ ー ムの 脱 分 極刺 激 に よ っ て ア ナン ダ ミ ドで は な く2‑AG選 択 的 生成 が お こ るこ と を 明ら か に した . こ の 2‑AGの 生成に は、電位 依存性Ca2゛チ ャネル及 びホス ホリパー ゼCの 関与が示唆された。
生 成 し た2― ・AGの 約30% は 細胞 外 に 放出され ること、CB1受 容体のア ンタゴ ニストで あ るSR141716Aを 用 いた 実 験 から 放 出 され た2‑AGが シ ナプ ス 膜 のCB1受容 体 を 介し て 抑 制 性 伝 達 物 質 で あ る グ ル タ ミ ン 酸 の 放 出 を 抑 制 す る 事 実 を 見 い だ し た 。 次 に 、 小脳 の ス ライ ス を 脱分 極 刺 激や グ ル タミ ン 酸 で 刺激 す る こと に よ って2‑AG の 生 成 が 増 大す る こ とが 分 か った . 小 脳で は , プル キ ン エ 細胞 の 樹 状突 起 と 顆粒 細 胞 か ら 出 る 平行 線 維 との 問 で グル タ ミ ン酸 を 伝 達物 質 と す る興 奮 性 のシ ナ プ スを 多 数 形 成 し て い る .CB1受 容 体 は , こ のシ ナ プ スの 前 終 末 に多 量 に 発現 し て おル グ ル タ ミ ン 酸 刺 激 に よ る2‑AGの 速 や か な 生 成 と いう 今 回 の 発見 は 、2一AGの役 割 を 考え る 上で注目 すべき こととい える.
(2) ホ ル ポ ー ル エ ス テ ル(TPA)耳 介 塗 布 によ る 急 性 炎症 に お ける2一AGの 生 成を 観 察 し 、 炎 症 反 応 の 進 展 に お け る そ の 生 理 的 意 義 を 明 ら か に し た 。 炎 症・ 免 疫 細胞 に 多 量に 発 現 して い るCB2受 容 体の 生 理 的役 割 にはまだ 不明の 点が 多 い . そこ で ま ず, 炎 症 部位 で2一AGが 生 成し て い るか ど う かを 調べた ,その 結果,
マ ウ ス 耳介 にTPAを 塗 布す る こ とに よ っ て 作製 し た 急性 炎 症 モデ ルにお いて‐2‑AGの
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量が対照に比べて3倍に増大していることを見出した,―方,アナンダミドのレベル は低く,TPAによる変動は見られなかった.次に,TPAによる炎症に及ぼすCB2受容体 アンタゴニストの影響を調べた.その結果,CB2受容体アンタゴニストであるSR144528 を塗布することにより,耳介の腫脹は強く抑制を受けることが分かった.また,
SR144528を塗布することによって,好中球の遊走因子であるロイコトリエンB4の産生 増大や好中球の浸潤も抑制されることが分かった.これらの結果は,TPAによって引 き起こされる急性炎症において,CB2受容体とその内在性リガンドである2−AGが,炎 症の進展に深く関与しているということを強く示唆した・
(3)オキサゾロン耳介塗布による接触性皮膚炎における2一AGの選択的生成と、2一 AGによる細胞のCB2受容体を介した炎症アレルギー反応への関与を初めて明らかにし た。マウスの腹部をハプテン抗原のーっであるオキサゾロンで感作し,その5日後に オキサゾロンを耳介にチャレンジすることによって作製した接触性皮膚炎モデルに ついて調べた,その結果,オキサゾロンでチャレンジした群では,対照に比べて2一AG の量が増大した.また,耳介の腫脹は,SR144528を感作時あるいはチャレンジ時に オキサゾロンとともに塗布することによって,強く抑制を受けるということも明ら かとなった,CB2受容体と.2‑AGは,アレルゲンによる感作の成立と,チャレンジ後に 引き起こされる炎症反応の双方において重要な役割を演じていることが示唆された.
(4)最後に,好酸球が関与する慢性のアレルギー性炎症にCB2受容体や2‑AGが関与 しているかどうかを調べた.ヒト末梢血好酸球及び好中球を調製し,RT−PCR及び Western blot法を行ったところ,好酸球にはCB2受容体が多量に発現しているという ことを初めて明らかにした.一方,好中球にはCB2受容体は殆ど発現していなかった。
また,2一AGはCB2受容体を介してヒト末梢血由来の好酸球を効率的に遊走させるとい うことも明らかとなった.これらの結果は,2‑AGが急性炎症や接触性皮膚炎だけで なく,好酸球が関与する慢性のアレルギー性炎症にも深く関与しているということ を強く示唆するものである,
以上述べたように、カンナビノイドとその受容体の役割に関する多くの新知見や それを得るために用いた新研究技法は、この分野の研究を一歩前進させる貴重な貢 献であるばかりか、将来の脳機能や炎症アレルギー反応に関係した疾患の新規治療 法や創薬の展開にも繋がる可能性を秘めた重要な成果となっている。これらの成果 は、この5年間に11報の原著論文(うちJBCなど3報の筆頭著者論文)として国際的 一流誌に発表されてきた。
審査員一同このことを高く評価し、本論文提出者が博士(薬学)の称号を受け るに相応しいものと一致して判断した。
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