博 士 ( 薬 学 )大 久 保 学 位 論 文 題 名
脳梗塞治療剤の合成および構造活性相関に関する研究 学位論文内容の要旨
充
脳 虚血 に対 して 脳保 護 作用 を有 する 脳梗 塞治 療剤 の創 出を 目的 とし て、
1
)抗 ア ノキ シア 作用 (細 胞を 無 酸素 (ア ノキ シア )状 態か ら保 護す る作 用) 、お よぴ2
)N‑methyl‑D‑aspartate. (NMDA)
レ セプ ター 拮抗 作用 の2
つ の作 用に 着目 し、 新規 化 合物 の合 成お よぴ 構造 活 性相 関に 関す る研 究を 行っ た。それぞれの 作用について選 択し た高 次評 価化 合物 に つい ては 、脳 虚血 モデ ルに おける脳保護作 用を評価し、脳 梗塞治療剤としての可能性を調べた。(1) 抗ア ノキ シア 作用 を有 する 新規 ビリ ミジ ン、 ア ゾー ル誘 導体 の合 成と 構造 活 性相関
抗アノキシア作用に関しては、ピリミジン誘導体6‑m et hyl‑5 ‑(4 ‑methylp iperazin ‑
l‑ylcarbonyl)‑4‑(3 ‑nit rophenyl)‑2‑ phenylpyrimidine(l)l
)をりード化合物として、ア リル ピリ ミジ ン母 核部 分 の変 換を 行い 、さ らに 作用 の優れた化合物 を探索した。抗 アノキシア作用は、無酸素状態(100ゲ。窒素気流下)におけるマウスの生存時間延長 作用により評価した。その結果、i)アリルピリミジン母核部分は、ペンゾイルピリミ ジン2)、お よびアリルチアゾールに変換し得ること3)、ii)チアゾール誘導体におぃて は、2位のフェニル基が作用発現に必須で はないこと3)、およぴ塩基 性部分の置換位 置 は5
位 よ り も2
位 の 方 が 優 れ て い る こ と を 明 ら か に し 、リ ード 化合 物1より10
倍 強い抗アノキ シア作用(3.2mg/kg,ipから用量依存的に生存時間延長 )を示すチアゾ ール誘導体N‑[2‑
(4‑mo rpholi nyl
)ethyl].4‑(3‑trifluoromethylphenyl)‑2‑thiazolecarboxamide(2
)を見出した4)。また、化合物1
およぴ2の分子静電ポテンシャ ルの 比較 によ り、 これ ら の化 合物 の抗 アノ キシ ア作 用発現には、塩 基性部分の窒素 原 子 の 静 電 ポ テ ン シ ャ ル と 母 核 部 分 の 位 置 が 重 要 で あ る 知 見 を 得 た 。(
2
)N‑Methy
トD‑aspartate (NMDA
)レセブタ一括抗作用を有する 新規テ卜ラヒド ロ イ ソ キ ノ リ ン 、 テ 卜 ラ ヒ ド 口 チ エ ノ ピ リ ジ ン 誘 導 体 の 合 成 と 構 造 活 性 相 関 .代 表 的 な
NMDA
レ セ プ タ ー 拮 抗 剤MK801
の 構 造 変 換 を 行い 、副 作用 であ るフ ェ ン サイクリジン(PCP
)様常同行動誘発作用(人における幻覚、妄想など の惹起作用)を 分 離 し た 安 全 域 の 広 い 新 規NMDA
拮抗 作用 を見 出す 目的 で、MK801
の構 成構 造の1
.methyl‑l‑phcnylisoindoline
お よぴl‑methyl‑l‑phenyl‑l
,2
,3
,4‑tetrahydro‑isoquinoline(3
) を合 成 した。これらの うち化合物3がNMDA
拮抗作用 を示すことを見 出 し 、3
を り ー ド 化 合 物 と し て り ン グ サ イ ズ お よ び 芳 香 環 の 変 換 を 行 っ た 。化合物
3
は 、3
,4‑dihydro
ーl‑phenylisoquinolineの2
位をベンジル化し、1位をメチ ル化 した 後、 接触 還元 に よりベンジル基 を除去し、合成した。ラセミ体3は酒石酸誘 導体 を用 いて 光学 分割 し 、光 学活 性体 を得 た。 また 、チエノピリジ ン誘導体につい ては 、ナ イト ロン を中 間 体と する ルー トに より 合成 した 。 NMDA拮 抗作 用は 、ラ ッ ト 脳 膜 画 分 へ の 【3H]MK801
に対 する 結合 阻害 作用 およ ぴマ ウス にお けるNMDA
誘 発 痙攣抑制作用により評価した。その結果 、i)リングサイズはテトラヒドロイソキノリ‑ 117 ‑
ン 環が 量連 であ るこ と、
ii)3
のCl位メ チル およ び フウ ニル 基は 作用 発現 に必須であ ること、iii)芳香環への 置換基の導入はレセプターとの親和性を低下させること 、iv) い ずれ のべ ンゼ ン環 もチオフェン環に等価変換で きること、を明らかにした5,6)。光 学 活 性 体 の 中 で 最 も 優 れ た 作 用 を 示 し た ( 十 )‑3
の [3H
]MK801
結 合 阻 害 作 用(
Ki=3 5.4 nM
)お よ ぴNMDA誘 発痙 攣抑 制作 用(ED50 8.7mg/kg
,ip)は、それぞれMK801
の約1
/10、1/6であ った が、 副作 用で あるPCP
様 常同 行動 を誘 発す る最小発現 用 量 がMK801
に 比 べ30
倍 高 く 、NMDA
拮 抗 作 用 とPCP
様 常 同 行 動 誘 発 作 用 を 分 離 し 得る可能性が得られた。 さらに(十)‐3は、MK801には見られない低酸素状態(98%
窒 素.2%酸素気流下)における生存時間延長作用(最小有効用量:3.2mg/kg,ip)を合わせ 持っことを見出した5)。また(十)‐3のイソキノリン環Cl位の絶対配置がSであること に基づき(+)‑3とMK801の3、次元安定構.遣を比較することにより、作用発現に必要なCl
位の メチ ルお よび フウ ニル 基と イソ キノ リン 環 の相 対的 な位 置が レセ プターに対 する親和性に影響を与え ることが示唆された。(
3
) 新規 抗ア ノキ シ ア剤2
、 新規NMDA
拮抗 剤( 十)‐3のスナネズミ一過性脳虚血モ デルおよびラッ卜中大脳 動脈閉塞モデルにおける脳保護作用高次評価化合物2および(十)うの脳虚血に対する 脳保護作用を調べるため、スナネ ズ ミ一 過性 脳虚 血モ デル にお いて 、虚 血負 荷に よ る自 発運 動量 の増 加に 対する抑制 作 用お よび 海馬 遅発 性神 経細 胞壊 死に 対す る抑 制作用について評価した。そ の結果2 は、100m g/kg(ip)で自発運動量の抑制作用を示した 。また(+)‑3は、32mg/kg(ip)か ら 自発 運動 量の 抑制 作用 およ び10mg/kg(ip)から 遅発性神経細胞壊死に対する抑制作 用 を用 量依 存的 に示 し、 いず れの 化合 物も 脳虚 血 に対 して 脳保 護作 用を 有すること が判った。さらに(十)‑3は、脳梗塞モデルであるラ ット中大脳動脈閉塞モデルにおい て
0.1 mg/kg (iv)
投 与から梗塞巣縮小作用を示し 、脳保護作用を有する脳梗塞治療剤 として有望な化合物であ ることを明らかにした。(4)まとめ
脳保 護作 用を 有す る脳 梗塞 治療 剤の 創出 を目 的 とし て、 抗ア ノキ シア 作用および
NMDA
拮 抗 作 用 に 着 目 し 、 新 規 化 合 物 の 合 成 お よ び構 造活 性相 関に 関す る研 究を 行 った。その結果、抗ア丿 キシア作用に関しては、リード化合物1の構造最適化により、作 用の 優れ た新 規チ アゾ ール 誘導 体2を 見出 し、 脳虚血モデルにおいて脳保護作用を 示 す こ と を 明 ら か に し た 。
NMDA
拮 抗 作 用 に 関 し て は 、MK801
の 構 造 変 換 に より 、 安全域の広い新規テトラ ヒドロイソキノルン誘導体(+)‑3を見出した。(+)‑3は、ラッ ト 脳梗 塞モ デル にお ぃて 梗塞 巣縮 小作 用を 示し 、 研究 目標 とし てい た脳 保護作用を 有 す る 脳 梗 塞 治 療 剤 と し て 有 望 な 化 合 物 で あ る こ と を 明 ら か に じ た 。引1用 3t献
l) a) Kuno A., Sugiyama Y., Katsuta K., Kamitani T., Takasugi H., Chem. Pharm. Bull., 4 0, 1452 (1992); b) Kuno A., Sugiyama Y., Katsuta K., Sakai H., Takasugi H., ibid, 4 0, 2423 (1992).
2) Ohkubo M., Kuno A., Sakai H., Sugiyama Y., Takasugi H., ibid., 4 2, 1279 (1994).
3) Ohkubo M., Kuno A., Sakai H., Takasugi H., ibid., 4 3, 947 (1995).
4) Ohkubo M., Kuno A., Nakanishil., Takasugi H., ibid., 4 3, 1497 (1995).
5) Ohkubo M., Kuno A., Katsuta K., Ueda Y., Shirakawa K., Nakanishi H., NakanishiI., Kinoshita T., Takasugi H., ibid., 4 4, 95 (1996).
6) Ohkubo M., Kuno A., Katsuta K., Ueda Y., Shirakawa K., Nakanishi H., Kinoshita T., Takasugi H., ibid., 4 4, 778 (1996).
‑ 118ー
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
大塚栄子 松田 彰 野村靖幸 井上英夫
学位論 文題名 1
脳梗塞治療剤の合成および構造活性相関 に関する研究
申請者は脳梗塞治療剤の合成および構造活性相関に関する研究 を行ってきたが,今回脳虚血に対して脳保護作用を有する脳梗塞 治療剤として、1 )抗アノキシア作用(細胞を無酸素(アノキシ ア)状態から保護する作用)、および 2 )N‑methyl‑D‑aspartate
( NMDA )レセプター拮抗作用の2 つの作用を有する新規化合物を 合成し構造活性相関に関する新知見を得た。それぞれの作用につ いて選択した高次評価化合物については、脳虚血モデルにおける 脳保護作用を 評価し、脳梗塞治 療剤としての可能性を調べた。
( 1 ) 抗アノキシア作用を有する新規ピリミジン、アゾール誘導 体の合成と構造活性相関
抗アノキシア作用に関しては、ピリミジン誘導体6‑methyl‑5 ‑
(4‑methylpip erazin‑1‑ylcarbonyl )‑4‑ (3‑nitrophenyl )‑2‑
phenylpyrimidine ( 1 )をりード化合物として、アリルピリミジン 母核部分の変換を行い、さらに作用の優れた化合物を探索した。
抗アノキシア作用は、無酸素状態におけるマウスの生存時間延長 作用により評価した。その結果、i )アリルピリミジン母核部分は、
ベンゾイルピリミジン、およびアリルチアゾールに変換し得るこ と、 ii )チアゾール誘導体においては、2 位のフェニル基が作用発 現に必須ではないこと、および塩基性部分の置換位置は 5 位より も 2 位 の方が優れているこ とを明らかにし、リード化合物1 より 10 倍強い抗アノキシア作用を示すチアゾール誘導体N ―[ 2‑ (4‑
morpholinyl ) eth yl ]‑4 ‑ ( 3‑trifluoromethylphenyl ) ‑2‑
―119 ―
thiazolecarboxamide (2 )を見出した。また、化合物1 および2 の分 子静電ポテンシャルの比較により、これらの化合物の抗アノキシ ア作用発現には、塩基性部分の窒素原子の静電ポテンシャルと母 核部分の位置が重要である知見を得た。
(2 )N‑Methyl −D ―aspartate (NMDA )レセプター拮抗作用を有 する新規テトラヒドロイソキノリン、テトラヒド口チエノピリジ ン誘導体の合成と構造活性相関
代表 的な NMDA レセ プター 拮抗 剤 MK801 の 構造変換を行い、副 作用であるフェンサイクリジン( PCP )様常同行動誘発作用(人に おける幻覚、妄想などの惹起作用)を分離した安全域の広い新規 NMDA 拮 抗作用 を見出 す目的 で、 MK8 01 の構成 構造の l‑methyl‑
l‑phenylisoindoline および 1 ― methyl‑ l‑phenyl − 1 ,2 ,3 , 4‑
tetrahyd ro‑isoquinoline (3 )を合成した。これらのうち化合物3 が NMDA 拮 抗作用 を示す ことを 見出 し、 3 をり ード化合物としてり ングサイズおよび芳香環の変換を行った。
化合物3 は、3 , 4‑dihydro‑l‑phenylisoquinoline の2 位をべンジ ル化し、 1 位をメチル化した後、接触還元によルベンジル基を除 去し、合成した。ラセミ体3 は酒石酸誘導体を用いて光学分割し、
光学活性体を得た。また、チエノピリジン誘導体については、ナ イト口 ンを中間体とするルートにより合成した。 NMDA 拮抗作用 は、ラット脳膜画分への[3H ]MK 801 に対する結合阻害作用およ びマウ スにおける NMDA 誘発痙攣抑制作用により評価した。その 結果、 i )リングサイズはテトラヒド口イソキノリン環が最適であ ること、II )3 の Cl 位メチルおよびフウニル基は作用発現に必須で あること、Ill )芳香環への置換基の導入はレセプターとの親和性を 低下させること、IV )いずれのベンゼン環もチオフェン環に等価変 換できること、を明らかにした。光学活性体の中で最も優れた作 用を示した(十)‐3 の[3H ]MK 801 結合阻害作用およびNMDA 誘発痙 攣抑制作用は、それぞれ MK8 01 の約 1 /lO 、1/6 であったが、副作 用であ る PCP 様常同行動を誘発する最小発現用量がMK801 に比ベ 30 倍高 く、 NMDA 拮抗 作用と PCP 様常 同行動 誘発作用を分離し得 る可能性が得られた。さらに(十)‐3 は、MK8 01 には見られない低 酸素状 態( 98% 窒素 ‑2% 酸素気流下)における生存時間延長作用
― 120−