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窒化物半導体の結晶成長過程に関する運動論的・熱 力学的考察

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窒化物半導体の結晶成長過程に関する運動論的・熱 力学的考察

稲富, 悠也

https://doi.org/10.15017/4060173

出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

令 和 元 年 度 博 士 論 文

窒化物半導体の結晶成長過程に関する 運動論的・熱力学的考察

九州大学大学院

工学府 航空宇宙工学専攻

稲富 悠也

(3)

目次

目次

1. 序論 ... 4

1.1. 半導体... 4

1.2. 窒化物半導体のデバイス応用 ... 6

1.2.1. 発光デバイス ... 6

1.2.2. 太陽電池 ... 9

1.2.3. 電子デバイス ... 10

1.3. 窒化物半導体の成長方法 ... 12

1.3.1. MOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy) ... 12

1.3.2. HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy) ... 12

1.3.3. MBE(Molecular Beam Epitaxy) ... 13

1.3.4. OVPE(Oxygen Vapor Phase Epitaxy) ... 14

1.3.5. アモノサーマル法 ... 14

1.3.6. Naフラックス法 ... 14

1.3.7. 昇華法 ... 15

1.3.8. スパッタ+アニーリングによるAlN成膜法 ... 15

1.4. 結晶成長理論 ... 15

1.5. 本論文の目的と構成 ... 17

2. GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析 ... 19

2.1. はじめに... 19

2.2. 計算手法... 23

2.2.1. 表面構造の存在確率 ... 23

2.2.2. 計算の仮定と実際の結晶表面との違い ... 26

2.2.3. 第一原理計算による各表面構造のエネルギー評価 ... 28

2.3. GaN極性面における吸着原子安定性 ... 32

2.3.1. GaN極性面 MBE ... 32

2.3.2. GaN極性面 MOVPE ... 35

2.3.3. GaN(0001) T – V/III比依存性 ... 35

2.3.4. GaN(0001) T – pH2依存性 ... 37

2.3.5. GaN(000–1) T – V/III比依存性 ... 39

2.3.6. GaN(0001) T – pH2依存性 ... 41

2.3.7. GaN極性面まとめ ... 42

2.4. 議論:化学平衡式 ... 43

2.5. AlN極性面における吸着原子安定性 ... 44

2.5.1. AlN(0001) T – V/III比依存性 ... 44

2.5.2. AlN(0001) T – pH2依存性 ... 46

(4)

目次

2.5.3. AlN(000–1) T – V/III比依存性 ... 47

2.5.4. AlN(000–1) T – pH2依存性... 48

2.5.5. AlN極性面まとめ ... 49

2.6. 本章のまとめ ... 51

3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明 ... 52

3.1. はじめに... 52

3.2. ステップバンチングの発生傾向エラー! ブックマークが定義されていません。 3.3. 過去提案されたステップバンチングの発生メカニズム ... 56

3.3.1. Ehrlich Schwoebel Barrier(ESB) ... 57

3.3.2. 不純物 ... 58

3.3.3. 吸着原子のドリフト ... 59

3.3.4. 駆動体・成長原子の2粒子モデル ... 59

3.3.5. ステップの相互作用 ... 60

3.3.6. 吸着原子の拡散距離とテラス幅 ... 63

3.4. BCF理論と解の性質 ... 64

3.4.1. 方程式と解の性質 ... 64

3.4.2. ステップ取り込みの非対称性と不安定性 ... 68

3.5. 準静的仮定を用いない場合の解 ... 72

3.6. Kinetic Monte Carloシミュレーション ... 74

3.7. ステップ相互作用とESB効果を考慮した新規ステップバンチングモデルの 提案 ... 77

3.7.1. 三次元成長 ... 84

3.7.2. 成長表面の安定性相図 ... 85

3.7.3. 表面安定性相図の成長温度依存性 ... 87

3.7.4. 表面安定性相図の拡散障壁依存性 ... 87

3.8. 吸着原子の拡散距離の影響 ... 89

3.8.1. 脱離するまでの拡散距離xdiff:定義 ... 89

3.8.2. 脱離するまでの拡散距離xdiff:KMC ... 93

3.8.3. 二次元核が発生する平均間隔Lnuc:定義 ... 97

3.8.4. 二次元核が発生する平均間隔Lnuc:KMC ... 101

3.9. 本章のまとめ ... 105

4. 結論 ... 106

参考文献 ... 109

謝辞 ... 118

(5)

1 序論

4

1. 序論

1.1. 半導体

現代の高度な情報社会は半導体をベースとした電子機器によって支えられている。最 も重要な半導体は「半導体の王様」とも呼ばれる Si である。半導体産業が誕生するき っかけとなったのは1947年のベル研究所でのトランジスタの発明、そして1959年の集 積回路の発明である。その後 Si をベースとした集積回路は加速度的な速度で微細化が 進んでいる。Si系の電子デバイスはチョクラルスキー法(CZ法)あるいはフローティ ングゾーン法(FZ法)によって結晶成長した完全無転位のSiインゴットをスライスし たウエハを加工することで製造される。Si電子デバイスがここまで高度化できたのは、

完全な結晶を成長させる技術に支えられている。

Siのように一つの元素からなる元素半導体に対して、2つ以上の元素の化合物からな る半導体を化合物半導体と呼ぶ。化合物半導体は組成比を変化させることでバンドギャ ップエネルギーを連続的に変化させることができるというメリットがあるため、組成比 の異なる層を組み合わせることによって元素半導体では不可能な性能のデバイスを作 ることができる。化合物半導体のうち代表的なものは周期表のIII(13)族とV(15)族 原子の組み合わせであるIII-V 族半導体である。III-V 族半導体の中でも特に V 族とし て窒素(N)を用いるものは窒化物半導体と呼ばれ、窒化ホウ素(BN)、窒化アルミニ ウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウム(InN)が該当する。

BNを除く窒化物半導体はいずれも室温大気圧において安定なウルツ鉱型構造を有し、

直接遷移型のバンド構造をもつ[1]。バンドギャップはそれぞれ6.20 eV (AlN)、3.39 eV

(GaN)、0.64 eV(InN)であり、相当する発光波長領域はAlN:深紫外、GaN:紫外、

InN:赤外である。またこれらの結晶で3元(または4元)混晶系(化学式:AlxGayIn1-

x-yN)を作製することも可能である。混晶のバンドギャップは組成比に依存するので、

窒化物半導体混晶はその組成比を制御することにより赤外から深紫外の間のバンドギ ャップを実現することができる。さらにこれらの混晶系も直接遷移型のバンド構造なの で、深紫外域から可視光全域の発光デバイス用材料として有用である。図 1-1に窒化物 半導体を含む様々な化合物半導体の格子定数とバンドギャップの関係をまとめたもの を示す[2]。このグラフから、窒化物半導体とその混晶系は従来の化合物半導体とその混 晶系よりもはるかに広いバンドギャップ範囲をカバーしていることがわかる。さらに窒 化物半導体は物理的、化学的に安定であり、従来の半導体材料よりも過酷な環境下でも 使用可能である。また、V族としてヒ素(As)を用いるヒ化ガリウム(GaAs)などの化 合物半導体と比較して有害な元素を用いないため安全であり環境にも優しい。以上のよ うに窒化物半導体は様々な面で優れた性質を持ち、現在盛んに研究が行われている。

(6)

1 序論

5

図 1-1 化合物半導体の格子定数とバンドギャプ[2]。

上述のように窒化物半導体は優れた性質を持つが、盛んに研究が行われるようになっ たのは1990年代からである。それ以前にも優れた性質は予測されていたが、高品質結 晶の成長が困難であったためあまり注目されてこなかった[3]。窒化物半導体の代表で あるGaNは常圧で液相を持たないため、Si結晶のような融液からのバルク成長は困難 である。また開発当時は GaN 基板が存在しなかったため、異種基板上にヘテロエピタ キシャル成長させる必要があった。しかし、最も有望な基板材料であるサファイア(α- Al2O3)でさえ約13%の格子不整合度があるため、成長させたGaN薄膜には多くの貫通 転位や積層欠陥が生じた。さらに、このときの GaN 結晶は不純物をドープしていない にも関わらず多くの残留ドナーを含み、強いn型半導体となり、伝導性の制御が困難で あった。特にp型半導体の実現が難しく、半導体のデバイス応用で重要であるpn接合 が実現できなかった。しかし、1986年に有機金属気相成長法(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy、MOVPEまたはMetalorganic Chemical Vapor Deposition、MOCVD)による低温 堆積緩衝層(低温バッファ層)堆積技術[4]の開発によってGaNの結晶性が飛躍的に向 上した。低温バッファ層堆積技術とはサファイア基板上にまず低温(~500 ℃)でAlN もしくはGaNの緩衝層を堆積させ、その後通常の成長温度(~1000 ℃)でGaNを成長さ せる技術である。この方法で成長させた GaN は従来のサファイア基板上に直接成長さ せた結晶よりもはるかに優れた結晶性、電気的特性が得られた。また、残留ドナー濃度

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1 序論

6

も大幅に低下し、n型GaNの伝導性制御が容易になった。さらに、この方法で成長させ た高品質 GaN 結晶にMg をドープし、その後低速度電子線照射(Low Energy Electron

Beam Irradiation、LEEBI)処理することによりp型伝導性も確認された[5]。p型GaNの

実現により同時にpn接合も実現され、pn接合型LEDの作製にも成功した[5]。1991年 に水素フリー雰囲気においてMgをドープしたGaNを熱処理することによりp型GaN が作製できることも報告された[6]。この熱処理方法は LEEBI処理と比較して簡便であ り、p型GaNの量産を可能とする優れた方法であった。このようにして結晶性の向上、

電気伝導(p型およびn型伝導性)の制御が可能になったことから、1990年代に入り窒 化物半導体の研究が盛んに行われるようになった。

1.2. 窒化物半導体のデバイス応用

窒化物半導体は発光デバイス、太陽電池、電子デバイス用の材料として優れた特性を 持つ。本節ではそれぞれのデバイス応用における窒化物半導体の利点および開発の現状 をまとめる。

1.2.1. 発光デバイス

窒化物半導体は直接遷移型の半導体であるうえ、その混晶系のバンドギャップエネル ギーは可視光域~紫外光域のすべてをカバーするため、発光デバイスとして優れた材料 である。その中でもGaNは青色LEDの候補材料として長年研究されてきたものの、デ バイス品質の結晶成長が困難であったことからGaNベースの青色LEDの実現は困難と 思われてきた。しかし1980年代における低温バッファ層を用いた高品質GaN結晶成長 技術の開発、p型GaNの実現などのブレークスルーに続いて、1993年にはNakamuraら

によってGaN/InGaN/GaNダブルヘテロ(Double Hetero、DH)構造を用いた青色LEDが

実現された[7]。その後、多重量子井戸(Multi Quantum well、MQW)を用いた赤色~紫

外までのLED[8, 9]や青色LD[10]が実現された。InGaN発光層を用いた青色LEDの実現

によって、青色LEDと黄色蛍光体を組み合わせた白色LEDが製品化され、社会に広く 普及し省エネルギー化に大きく貢献した。

青色領域では高い発光効率、出力を達成できる窒化物半導体LED、LDであるが、長 波長側になるほどその性能は低下してしまうという問題がある。図 1-2に示すように、

緑色領域ではInGaN系、AlGaInP系LEDのどちらにおいても発光効率が低く、これは

Green Gap問題と呼ばれる。

光の三原色RGBのうち、赤色LED、LDはAlGaInP 系で、青色LED、LDはInGaN 系で高効率、高出力が実現されている。一方、緑色LDに関しては波長1064nmの固体 レーザーの内部波長変換による第二高調波による 532nm を出力するものが現状では用 いられており、変換時の損失が不可避である。そのため窒化物半導体を利用して直接緑

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1 序論

7

色光を取り出す高輝度LDが実現することが強く期待される。

このGreen Gap問題の原因は高In組成InGaNの成長の困難さに起因している。InGaN

系においてバンドギャップを小さくして長波長化を実現するには、発光層における In 組成比を増加させることが必要である。しかし、InはGaに比べ高温で蒸発しやすいた め、InGaN層の成長のためにはGaN層よりも低い成長温度を用いる必要がある。高In

組成 InGaN 層の成長にはそれだけ低い温度を設定しなければならないが、低温では表

面吸着原子のマイグレーション(表面拡散)が不十分となり結晶性が悪化してしまうこ とが発光効率を減少させる。また、高In組成InGaNを成長させると下地のGaNとの格 子不整合が大きくなりミスフィット転位が発生し結晶性が低下する。さらに高 In 組成 は相分離、組成揺らぎ[11]も誘発する。その他の理由としてはIn組成の増加に伴うピエ ゾ電界の増大が挙げられる。窒化物半導体はその結晶構造から元来c軸方向([0001]方 向)に分極を持っている(自発分極)。GaNの上にInGaNを成長させると、格子不整合 によって c 軸方向にさらに歪由来の分極が生じる(圧電分極)。圧電分極によって生じ る電界をピエゾ電界といい、これは発光層内の電子とホールの存在位置を分離させるた め、発光効率を低下させる。

これらの問題を解決するためのアプローチとして、通常デバイスに用いられる+c 面

(III族極性面)以外を用いる方法が提案されている。その理由の一つは、結晶の成長方 向によって In 取り込み率は異なるためである[12-17]。東北大学のグループでは N 面

((000-1)面)GaNを利用したLEDの開発を行っている[18-25]。N面成長においてはGa 面成長よりもInの取り込み率が高く[12]高In組成InGaNをより高温で成長可能である。

N面GaNの結晶性はGa面((0001)面)ほど十分ではないため、成長条件を最適化して 高品質なN面GaNを得ることが課題となっている。

また、無極性面、半極性面などの非極性面を用いると発光層内の垂直方向の内部電界 を低減することができる。すなわち、電子とホールの存在振幅の重なりを大きくするこ とができるため、内部量子効率を向上させることが可能である[26, 27]。2009年、住友 電工のグループは半極性面(20-21)を用いて緑色 LDを実現した[28]。また京都大学のグ ループでは半極性面(11-22)を利用した緑色 LED の研究を行っている[29-32]。非極性面 は内部電界を低減できるというメリットは存在するが、(0001)面と比較して学術的知見 や成長のノウハウが十分に蓄積されていないため、高品質な結晶が作製できていないこ とが課題となっている。

希土類元素 Eu を利用した窒化物半導体赤色 LED の研究も行われている[33-45]。現 在、赤色LEDはGaN系以外のGaAs 基板上に成長された AlGaInPが用いられている。

しかし、青色LEDや緑色LEDに加えて、赤色LEDを窒化物半導体により実現可能に なれば同一材料で光の三原色が揃う。この進歩により半導体微細加工技術を利用して、

モノシリック型高精細なLEDディスプレイへの応用が可能となる。上で述べたように、

InGaN 中の In組成を増やそうとすると結晶性が悪化するために発光性能が大きく低下

(9)

1 序論

8

してしまう。一方、GaN結晶中に添加されたEuイオンは3価の状態で4f核内遷移によ る赤色領域の発光スペクトルを持ち、InGaN混晶を用いなくても赤色発光を実現するこ とができる。この発光は電子殻内遷移に起因するため、発光ピークは鋭く波長は温度に ほぼ依存しない。1999年から2000年にかけて、イオン注入法やMBE法によってEuを 添加した GaN のフォトルミネッセンス(Photoluminescence、PL)測定が報告されてい る[33-35]。これらの試料では621 nm付近の発光が確認されており、Eu添加 GaN赤色 LEDの実現可能性が示された。その後、2009年には大阪大学のグループがMOVPE法 によってEu添加GaNの成長および赤色LEDの作製に成功した[36]。この時点では20 mA動作時の光出力は1.3 μWであったが、成長プロセスの最適化などにより2018年に

は20 mA動作時に1.25 mWという商用レベルの光出力が達成されている。

近年はAlGaNを材料とする深紫外発光デバイスの開発が盛んに行われている[46-48]。

波長250 ~ 260 nmの深紫外光はDNAの吸収波長に対応していることから、ウイルスや

バクテリアに対して強い殺菌作用を持つ。そのため深紫外固体光源は医療用デバイスや 浄水処理機器などへの応用が強く期待されている。現在殺菌用の深紫外光源には水銀灯 やガスレーザーが用いられているが、これらは大型、低効率、低寿命で、また水銀は有 害物質であり水俣条約によって一部製造が制限されるといった問題がある。そのため小 型、高効率、長寿命である固体光源に置き換えることができれば大きく利便性が向上す る。現在世界中には安全な水にアクセスすることができない人口が約11 億人とも言わ れている。深紫外固体光源の開発によって浄水機器が小型、省エネ化すればこの問題も 大きく改善されることが期待できる。加えて深紫外固体光源は高密度記憶デバイスや高 い演色性を持った蛍光灯などへの利用も期待されている。これらの需要を反映して、深 紫外光源市場は今後急速に成長すると予測されている[49]。

しかし、短波長の深紫外発光デバイスの高効率化にはいくつかの課題が存在する。一

つは AlGaN 発光層での発光効率が貫通転位密度の増加によって著しく減少することで

ある。貫通転位密度を減少させるには低転位密度の同種 AlN 基板を利用することが有 効であるが、現時点で AlN 基板は高価であり、サファイア基板上のヘテロエピタキシ ャル成長を行わなければならないため、転位の低減は困難である。他の課題としては発 光層で放出した紫外光が、発光層よりもバンドギャップエネルギーの低い層で吸収され てしまうために光取り出し効率が低いこと、Al組成の高いAlGaN層のp型化が難しい ことなどが挙げられる。

深紫外光源として通常注目されているのは AlGaN 系であるが、Chichibu らは AlInN に注目した研究を行っている[47, 48]。AlInN系は赤外~深紫外のAlGaNよりも広い範 囲のバンドギャップエネルギーをカバーし、さらに In 原子の偏析による励起子の局在 効果[48, 50]を期待できるといったメリットがある。Chichibuらは分極電場による励起子 の分離を回避できること、偏光特性を期待できることなどの理由からm面GaN基板上

にAlInN薄膜を成長させ、蛍光表示管(Vacuum Fluorescent Display、VFD)に搭載して

(10)

1 序論

9

深紫外から緑色までの小型偏光光源を実現した[51]。AlNとInNは格子定数が大きく異 なる非混和系であるため結晶の高品質化が困難であることが AlInN 系の課題となって いる。

図 1-2 III-V 族化合物半導体LED の外部量子効率と発光波長の関係[52]。

1.2.2. 太陽電池

近年の温室効果ガスの排出抑制に向けた機運の高まりから、太陽光発電などのグリー ンエネルギーの需要は増加している。現在用いられる太陽電池パネルの材料の主流はSi である。その変換効率はおよそ25.6%であり、理論限界値(30%)に近づいている。一 方で、人工衛星などに用いられる多接合型の太陽電池の効率は Si の理論限界値を上回 り、Boeing Spectrolab社製の5接合太陽電池の効率は38.8%である。多接合型の太陽電 池では様々なバンドギャップエネルギーを持った化合物半導体を積層することによっ て、太陽光の広い範囲の波長を吸収できるために Si よりも高い変換効率を有する。現 在の多接合型太陽電池の主流はInGaP/InGaAs/Ge構造である。この材料を窒化物半導体

のAlInGaN 系に置き換えることによって飛躍的な性能向上が期待できる。図 1-3 に示

すように InGaN 混晶のバンドギャップエネルギーは太陽光の広範囲の波長をカバーす

ることができる。組成の異なるInGaNを5層接合することによって40.4%の変換効率が 達成可能であることが試算されている[53]。また、宇宙で利用する場合には耐放射線性 能も重要である。窒化物半導体はInGaPやGaAs系の半導体と比べて耐放射線性に優れ ているため[54]、高い信頼性とデバイス寿命を期待することができる。一方で課題とな

るのは高In組成InGaNの高品質成長である。高In組成を実現するためには成長温度を

下げなくてはならず、低い成長温度では結晶品質が低下してしまうことが問題となって

(11)

1 序論

10 いる。

図 1-3 太陽光スペクトル(上)とInxGa1-xNの吸収波長(下)の関係。

1.2.3. 電子デバイス

窒化物半導体は電子デバイス材料としても魅力的な物性を持つ。電子デバイスにおい ては高電圧を印加したときにオフ状態を保つために空乏層が発生する。デバイス設計に おいてはこの空乏層にかかる電圧が材料固有の臨界電界強度を超えてはならない。同じ 印加電圧であってもドープ濃度が小さいと空乏層は大きく広がるために、結果高い耐圧 特性が得られる。しかしドープ濃度が低いとオン抵抗が上がってしまうためオン時の損 失が増大してしまう。そのため耐圧特性とオン損失にはトレードオフの関係がある。こ のときの耐圧とオン損失の限界値は材料の臨界電界強度とキャリア移動度によって決 まっており、それを表す指標としてバリガのパワーデバイス性能指数が存在する。各種 半導体における物性の比較を表 1-1に示す。表に示すようにGaNは高い臨界電界強度

(12)

1 序論

11

を持つために、他の材料と比べて高いバリガのパワーデバイス性能指数を有しており、

電子デバイス用材料として優れた特性であることがわかる。

GaNはc軸方向に自発分極を持つためAlGaN/GaNの積層構造を作ると、自発分極の 効果と格子定数差に伴うピエゾ電界効果によって界面に高濃度の二次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas、2DEG)が発生する。2DEGの濃度は1013 cm-2と高く、2.7×107 cm/sという高い飽和電子速度を持つ[55]。2DEGをキャリアとして利用するトランジス タを高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、HEMT)と呼ぶ。GaN HEMTは高温動作、高速スイッチング動作、大電力動作などの面から従来の Si系デバ イスを超える性能を持つ。GaN HEMT はすでに携帯基地局用の通信機器などにおいて 実用化が進んでいる。

GaN HEMT は宇宙機の通信機器への搭載も期待されている。小惑星探査機はやぶさ

(MUSES−C)のタッチダウン後や、金星探査機あかつき(PLANET−C)の軌道変更マ ヌーバ後に通信中断が発生している。これはダウンリンクの際に中利得や高利得の指向 性アンテナを地球方向に向けるために時間を要することに起因する。この通信中断を回 避する一つの方策として全指向アンテナによるダウンリンク信号の送信が挙げられる。

このためには高出力の送信用電力増幅器が必要となる。この問題解決に向けて、固体電 力増幅器(Solid-State Power Amplifier、SSPA)の高出力化が検討されている。そのため 高出力動作と高周波動作を両立可能なGaN HEMTがこの用途での利用に適している。

また、1.2.2節でも述べたように窒化物半導体は耐放射線性にも優れているので長寿命、

高信頼性も期待できる。

高周波デバイスにおいて実用化が進んでいる GaN 電子デバイスであるが、インバー ターなどの高耐圧パワーデバイスの用途としても開発が進んでいる。表 1-1に示すよう にパワーデバイスとしての材料物性はSiCを上回っているため、現在用いられているSi パワーデバイスや開発中の SiC パワーデバイスを上回る性能を達成できる可能性を持 つ。一方でGaN自立基板は非常に高価であるため、デバイス用のGaNは異種基板上に ヘテロエピタキシャル成長させられる。ヘテロエピタキシャル成長では格子定数差から 多数の貫通転位が発生するので、高電圧を印加するパワーデバイスにおいては深刻な問 題となる[56]。GaN HEMTにおいては成長方向に対して横方向に電流が流れる一方、縦 型パワーデバイスでは面積効率のために成長方向と平行に電流が流れる。そのため貫通 転位によるリーク電流の影響が大きい。GaN パワーデバイスの実装のためにはリーク 電流の原因となる転位の抑止や不純物濃度のコントロールが必要となる。また安価で高 品質なGaN自立基板の製造方法の実現も望まれる。

(13)

1 序論

12

表 1-1 各種半導体の物性値[55]。

ダイヤモンド GaN 4H-SiC GaAs Si バンドギャップ(eV) 5.5 3.4 3.3 1.4 1.1 臨界電界強度(MV/cm) 8 ~3.5 2.8 0.4 0.3 電子飽和速度(cm/s) 2.7×107 2.7×107 2.2×107 2.0×107 1.0×107 電子移動度(cm2/Vs) 2000 ~1000 1000 8500 1350

熱伝導度(W/cm・K) 20 2 4.9 0.5 1.5

Baligaのパワーデバイス

性能指数(Si比)

13000 ~900 500 16 1

1.3. 窒化物半導体の成長方法

本節では窒化物半導体の代表的な成長方法について述べる。

1.3.1. MOVPE(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)

MOVPE法(有機金属気相成長法)は窒化物半導体の代表的な成長方法である。また

はMOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)とも表記される。これは気相成長

法(Vapor Phase Epitaxy)の一つで、気体の流れにより原料ガスを基板に到達させ、化学 反応、表面反応によって結晶を成長させる。III族(Ga、Al、In)の原料としては有機金 属化合物(Trimethyl Gallium、Trimethyl Aluminum、Trimethyl Indium。以下TMG、TMA、

TMI)を用いる。窒素供給源ととしてアンモニア(NH3)を用いる。これらの原料ガス

をキャリアガス(通常H2かN2、あるいはそれらの混合ガス)を用いて基板に輸送し成 長を行う。典型的なGaNの成長温度は1050 ℃程度である。MOVPEは後述のHVPEと 比べて成長速度が遅く、急峻な界面を制御可能であるため、デバイス作製のために広く 用いられている。

1.3.2. HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)

HVPE法は代表的なGaNバルク成長法であり、商業的に流通しているGaN基板のほ とんどすべてはこの方法によって成長が行われている。他のバルク成長法であるアモノ サーマル法、Na フラックス法と比べると、成長速度が大きいこと、常圧で成長可能で あること、設備の大型化が可能であることがメリットとして挙げられ、デメリットとし ては高温(1000 ℃)が必要であること、気相成長なので原料の利用効率が悪いこと、結

(14)

1 序論

13

晶品質、サイズは基板の情報を引き継ぐことが挙げられる[57]。また欠陥密度は 106 ~ 107cm-2程度と他のバルク成長法よりも高い[58-60]。

MOVPE では III 族原料として有機金属化合物を使用するのに対して、HVPE ではハ

ロゲン化合物(GaCl)を用いる。成長は二段階の反応によって行われる。まず成長炉内 の原料部において金属GaとHClを反応させGaClを発生させる。

生成したGaCl を成長部に輸送し、基板付近でNH3と反応させることによって GaNを 成長させる。

成長用の基板としては通常サファイア上に GaN をあらかじめ成長させたものが用いら れる。しかし、GaN/サファイアの格子不整合が大きいために、得られるエピタキシャル 膜には欠陥が多い。また、成長膜厚が増えるにつれて熱膨張係数や格子定数の違いによ って結晶の反りが大きくなる。反りがあるとスライスした際に結晶軸がずれたり、クラ ックが入ったりするという問題があるため、厚膜化は困難である。

GaN 基板のサプライヤーであるサイオクス(SCIOCS)は VAS 法(Void-Assisted-

Separation)によってこの問題を解決している[60-64]。VAS 法では、まずサファイア上

にMOVPEによってGaN薄膜を成長させ、その表面にTi薄膜を蒸着させる。このテン

プレートを熱処理するとTi薄膜がTiNの網目状の構造に変化し、GaN膜内部に無数の ボイドが発生する。この上にHVPEによってGaNを成長させると、ボイドによって応 力が緩和されることによってmm単位の厚いGaN結晶の成長が可能となる。

東京農工大学のグループはTHVPE(Tri-Halide Vapor Phase Epitaxy)法を提案してい る。これはIII族原子の原料として三塩化物(GaCl3、AlCl3、InCl3)を用いる点がHVPE と異なる。三塩化物を用いると高い成長の駆動力が得られることが熱力学計算より見出 されている[65]。THVPEではHVPEと同様の手法によって発生させた一塩化物(GaCl、

AlCl、InCl)を別の反応炉で Cl2と追加反応させることで三塩化物を生成し、NH3と基

板付近で反応させることによって成長を行う。これまでにこの手法で GaN[66, 67]や InGaN[68]の成長を行えることが実証されている。

1.3.3. MBE(Molecular Beam Epitaxy)

高真空に保持されたチャンバー内で基板に原料を分子線で供給することで成長させ る方法を分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxy、MBE)と呼ぶ。窒化物半導体 の成長の場合、III 族源は金属を局所加熱することで蒸発させて取り出した原子ビーム が用いられ、窒素源として低圧の NH3もしくは励起させた窒素ラジカル原子が用いら れる。成長速度が遅いため原子レベルでの膜厚の制御が可能である。Yoshikawa らは

HCl + Ga → GaCl +1

2H2. (1-1)

GaCl + NH3→ GaN + HCl + H2. (1-2)

(15)

1 序論

14

MBE法によってわずか1ML(Monolayer)のInN量子井戸を含む構造を成長させた[69]。

成長炉内が真空環境であることから反射高速電子線回折(Reflection High Energy Electron Diffraction、RHEED)によって表面の周期性を成長中に観察することも可能である。さ らに、炉内の超高真空を利用して表面吸着原子の脱離ライフタイムなどを測定すること も可能である[70-72]。一方、高真空が必要とされることや成長速度が遅いことからから 量産には不向きである。

1.3.4. OVPE(Oxygen Vapor Phase Epitaxy)

大阪大学のグループは Ga の原料として GaO2ガスを駆動体として用いる OVPE 法

(Oxygen Vapor Phase Epitaxy)法を提案している[73]。Ga2O3の固体粉末をH2ガスで還 元することでGaO2ガスを発生させ、NH3と反応させることで成長を行う。バルク成長 法として一般的であるHVPE 法では成長時に生じる NH4Clが排気口に堆積するために 長時間成長や連続成長が困難であることがデメリットになっていたが、OVPE法ではこ の問題を回避することが可能である。これまでに基板と同程度の結晶性を有する GaN

の180μm/hの成長速度での成長が報告されている[74]。この手法の欠点としては結晶中

への酸素不純物の混入が挙げられる。

1.3.5. アモノサーマル法

アモノサーマル法は超臨界アンモニアへの GaN 溶解度の温度依存性を利用した成長 方法である[75]。高温部においてGaNを溶解させ、低温部に設置した種結晶上に成長を 行う。この手法は水晶の成長方法である水熱合成法に類似した手法である。HVPE法な どと比べて原料の利用効率が良いことがメリットとして挙げられる一方、超臨界状態を 維持するために高温高圧環境が必要であることから装置の大型化が困難であることが デメリットである[57]。

1.3.6. Na フラックス法

Naフラックス法はGaとNaの融液に加圧N2を溶け込ませてGaNを析出させる成長 方法である[76]。溶液成長であるため、他のバルク成長法よりも高品質な結晶を成長さ せることが可能である。またいくつかの改良によって、近年では6インチの結晶成長に 成功している[77]。化学的に不安定な Na を用いるため、安全性の確保が重要であり設 備の大型化が困難であることがデメリットである。

(16)

1 序論

15

1.3.7. 昇華法

昇華法は AlNのバルク成長法として最も用いられる方法の一つである[78, 79]。また は物理気相輸送(Physical Vapor Transport、PVT)法とも呼ばれる。この手法ではAlNの 結晶粉末を2000 ℃以上の高温で熱分解させ、種結晶の上に再結晶化させる。成長速度

は100 μm/hと速く、さらに転位密度は104 cm-2以下と非常に低い。一方で成長温度が非

常に高いことにより原子空孔や不純物などの点欠陥密度は高い。AlN基板の主な利用先 である深紫外発光デバイスにおいてはこの点欠陥によって深紫外光を吸収してしまう という問題がある。この問題を解決するために、昇華法によって成長させた基板上に HVPE法によって成長させることで、昇華法基板の転位密度の低さを引き継ぎつつ不純 物濃度が低いAlNを成長させるという方法が検討されている[80]。

1.3.8. スパッタ+アニーリングによる AlN 成膜法

Miyake らはスパッタ法によってサファイア上に AlN を成膜した後、2 枚のテンプレ

ートのAlN側を合わせた状態(face-to-face)でアニーリングすることによってスパッタ 膜のAlNの結晶性が改善することを報告している[81]。スパッタ法とアニーリングとい う簡便な方法によって高品質の AlN 膜が得られることから、高出力で低価格な深紫外 LEDの開発に向けてこの技術は注目されている

1.4. 結晶成長理論

これまでに述べたように、窒化物半導体は優れた物理的な性質を備えており、様々な デバイスに応用されてきた実績、そして新たなデバイスに利用されるポテンシャルを有 している。高性能、高信頼性を持ったデバイスの開発には高品質な結晶を得るための結 晶成長技術が必須となる。結晶成長技術を高度化させるうえで、結晶成長を理論的に理 解することは必要不可欠である。

結晶成長の理論研究は2つのアプローチ方法に分類することができる。

一つ目は、結晶の自由エネルギーと気相(液相)の自由エネルギーから平衡分圧や融 点などの計算や、特定の結晶の欠陥や表面構造のエネルギー計算をするアプローチ等で ある。ここではこれらを熱力学的アプローチと呼ぶ。

以下に熱力学的アプローチの事例を挙げる。結晶成長が発生するのは、気相または液 相にある粒子の化学ポテンシャル(1粒子あたりの自由エネルギー)が固体状態の化学 ポテンシャルよりも高いときである。氷が0 ℃で凍り、Siが1414 ℃で融解するのはこ の温度において水と氷の、固体Siと液体Siの化学ポテンシャルが等しくなるからであ る。ある結晶が気体から結晶化し、ある分圧において成長と蒸発が釣り合い平衡に至る

(17)

1 序論

16 と仮定する。平衡分圧をpeqとすると、

となる。分圧がpeqよりも高い場合の成長速度は、単純には、

によって与えられると考えることができる。α は比例定数である。この式は Hertz–

Knudsen 式と呼ばれ、分圧差𝛥𝑝 = 𝑝 − 𝑝𝑒𝑞は結晶成長の駆動力として考えることができ

る。Koukitu らはこの考えのもとに、流入させる原料分圧と平衡分圧の分圧差によって 成長の駆動力が定まるという熱力学解析モデルを提案し、窒化物半導体に適用した[82]。

平衡定数は熱力学物性値として実験データが存在するので、駆動力を具体的に計算する ことによって成長温度やV/III比が成長の駆動力にどのような影響を及ぼすかを解析す ることができる。KoukituらはまたInGaN MOVPEにおいても同様の手法を応用展開し た。InGaNのIn組成比が駆動力の比Δ𝑝In/(Δ𝑝In+ Δ𝑝Ga)に比例するという仮定のもと、

InGaN のIn 組成比が成長温度によってどのように変化するかを解析し、実験結果を上

手く説明した[83]。

以下に熱力学的アプローチの他の事例を挙げる。SmithらはGaN極性面における安定 な表面再構成構造を第一原理計算によって決定し、MBE 成長中に観察された表面の周 期性を説明した[84]。Lyons らは窒化物半導体内部の炭素に関する点欠陥の形成エネル ギーや電気的、光学的特性について第一原理計算による解析を行った[85]。

これらの化学的なアプローチは、問題としている現象に対して平衡分圧や形成エネル ギーなどを定量的に計算することができる。一方で熱力学的な計算は平衡論に基づいて いるため、運動論的な非平衡現象を記述することができない。第一原理計算も静止した 状態のエネルギーを計算しているため、同じく非平衡現象を取り扱うことができない。

第一原理分子動力学シミュレーションといった手法も存在するが、扱える原子数と時間 スケールには限りがあるため、結晶表面形状の変化という大きな空間スケールと時間ス ケールを伴う現象の記述は困難である。

もう一つのアプローチ方法は、固有の結晶の特徴には立ち入らずに、できるだけ現象 を単純化することによって非平衡現象を記述し、すべての結晶の成長に共通するユニバ ーサルな法則を見つけようとするものである。ここではこれを運動論的アプローチと呼 ぶ。

運動論的アプローチの事例を挙げる。1951年にBurton、Cabrera、Frankは結晶表面に おける吸着原子の拡散、脱離、キンクでの固化などの現象を拡散方程式によって表すモ デルを提案した[86]。これは三人の頭文字をとってBCF理論と呼ばれる。拡散方程式は

で与えられる。ここでρは吸着原子密度、Fは気相からの入射流束、Dは拡散係数、τは 脱離ライフタイムである。この理論により入射流束と成長速度の相関、テラス幅と吸着

𝜇(solid) = 𝜇(gas, 𝑝0) + 𝑘𝑇 ln 𝑝𝑒𝑞/𝑝0, (1-3)

Growth rate =𝛼(𝑝 − 𝑝𝑒𝑞), (1-4)

𝜕𝜌

𝜕𝑡 = 𝐹 + 𝐷𝛻2𝜌 −𝜌

𝜏, (1-5)

(18)

1 序論

17

原子密度の相関などの様々な現象が説明可能である(詳細は 3.4 節に記載)。その他に も、この拡散方程式を基に原子ステップの挙動やテラス上の二次元核生成を議論するこ とが可能である。他の運動論的アプローチとしてKinetic Monte Carloシミュレーション が挙げられる。これは粒子の入射、拡散や脱離現象を乱数によってランダムに行いなが ら結晶成長中の表面を模擬する方法である。最も単純な仮定では結晶は単純立方型であ り、平面方向に4つの結合を持つ。これをSolid on Solid(SOS)モデルと呼ぶ。このシ ミュレーションを用いることによって分子動力学計算では困難な大きな空間、時間スケ ールの非平衡現象を模擬することが可能である。

これらの運動論的アプローチでは、熱力学的な計算や第一原理計算では困難である非 平衡現象を記述することが可能である。その一方で、これらの理論では系を極度に単純 化しすぎているため定量的な議論は困難である。例えばBCF理論では成長粒子は1種 類しか存在せず、決められた拡散係数とライフタイムを持つことが仮定されている。し かし窒化物半導体の気相成長などにおいては結晶の構成原子は2種類であり、また水素 などの成長に関与しない原子の影響、表面再構成の影響によって、脱離や拡散などは単 純なパラメータでは表すことができない。このような性質を反映して、運動論的アプロ ーチの理論研究においては実験との比較が考慮されず、数式やシミュレーション結果の みで完結する場合が少なくない。もしくは高真空中でのMBE成長など、できるだけ理 想状態に近い状況を想定しており、工学的に重要な気相成長の問題を取り扱うものは少 ない。

現実の結晶成長を正しく理解するためには2つのアプローチの両方が重要である。ま た、それぞれのアプローチにおいて欠けている点を補うような視点が新たに必要である。

すなわち、熱力学的アプローチにおいても実際の動的な結晶成長現象を考慮に入れた解 析が必要であり、運動論的アプローチにおいても実験結果を上手く説明し、工学的な問 題の解決に役立てるような解析が必要とされている。

1.5. 本論文の目的と構成

本研究では運動論的、熱力学的な視点から結晶成長理論を展開し、窒化物半導体の高 品質化に貢献する。具体的には2つの研究課題に取り組んだ。

2GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

GaN とAlN 薄膜は電子デバイス、発光デバイスによく用いられる。デバイスに用い られるのは通常III族面((0001)面)であるが、N面((000-1)面)の結晶薄膜も優れたポ テンシャルを有しており、今後の研究が期待される。現在までに GaN と AlN 極性面

((0001)および(000-1)面)上の安定な表面再構成を予測する研究は多くなされてきた。

しかし、それらは最も形成エネルギーの低い最安定な表面構造の予測のみにとどまって

(19)

1 序論

18

いた。本研究課題では各表面構造がどれだけの割合で存在しているかを計算する手法を 提案し、MOVPE法によって成長中のGaN、AlN極性面に適用する。この解析から成長 中の吸着原子密度が判明するため、従来の表面予測方法では困難であった安定な成長モ ードを得るための指針を得ることができる。本研究課題は熱力学的なアプローチである が、吸着原子密度の予測から成長中にどれだけ核生成が起こりやすいかなどの非平衡現 象を間接的に考察することができる。

3章 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

デバイス品質の結晶を成長させるうえで、表面を原子レベルで平坦に保つことは重要 である。ステップバンチング(原子ステップ間隔の疎密化)が発生すると原子ステップ が束になりマクロステップを形成することで表面平坦性が失われてしまう。ステップバ ンチングは運動論的な現象であり、これまでに多くの理論研究が行われ様々なモデルが 提案されてきたが、その原因は未だ明確でない。本研究課題では窒化物半導体における ステップバンチングの発生傾向をまとめ、その傾向を説明することのできるバンチング 発生モデルを提案し表面安定性相図を作成する。また従来窒化物半導体の研究領域にお いて受け入れられていたバンチング抑制モデルを KMC シミュレーションにより検討 し、実験傾向と比較によりその妥当性を検証する。本研究課題は運動論的なアプローチ であるが、実験傾向との比較を重視した。また作成した表面安定性相図は実験研究者に とっても理解しやすく、効率的な結晶成長に役立つと期待される。

4章 結論

本研究で得られた結果を総括する。

(20)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

19

2. GaNAlN 極性面における表面吸着原 子の安定性解析

2.1. はじめに

現在実用化されている GaN 系結晶ベースの電子デバイス、発光デバイスにはほとん どすべて(0001)面の結晶薄膜が用いられている。その一方で、異なる結晶面を用いるこ とによりデバイス性能を向上させる試みも行われている。

GaN(000–1)を用いた HEMT は高周波動作と低電気抵抗の両立が可能であると期待さ

れている[25, 87]。通常のGaN(0001) HEMTではAlN/GaNという積層構造となっており、

ヘテロ構造により生じた分極の影響で界面GaN側に2DEGが発生する。一方GaN(000–

1) HEMT では自発分極の方向が逆になるので、積層構造は GaN/AlGaN/GaN となり、

2DEGはGaN/AlGaN界面のGaN側に発生する。HEMTの動作周波数を向上させるため

にはゲート長を短くすることが有効であるが、ゲート長が短くなりすぎるとソース-ド レイン間にリーク電流が生じてしまう(短チャネル効果)。これを抑制するためにはチ ャネル-ゲート電極間の距離を短くすることが必要であり、GaN(0001) HEMTではAlN 層を薄くすることに対応する。電子供給層である AlN 層を薄くすると2DEG の濃度が 小さくなり電気抵抗が上がってしまうため、動作周波数と電気抵抗はトレードオフの関 係にある。その一方でGaN(000–1) HEMTであればチャネル-ゲート電極間の距離を短 くすることは最表層の GaN チャネル層を短くすることに対応し、電子供給層を薄くす ることができるため低い電気抵抗と高い動作周波数を両立することが可能である。その 他にも最表層が AlGaN でなく GaN になるためコンタクト抵抗が低くなること、

GaN(000–1)は熱的により安定であるためデバイス工程におけるアニーリング処理時に 有利であることなどのメリットが存在する。

発光デバイスにおいても(0001)面以外を用いるメリットが存在する。GaN(000–1)は

GaN(0001)よりも In の混入確率が高いため、より高温で InGaN 発光層を成長させるこ

とが可能なため、長波長発光デバイスへの応用が期待される[21]。また、(11–20)面や(1–

100)面といった無極性面、(11–22)面などの半極性面などは(これらを非極性面と呼ぶ)

面垂直方向の内部電界が極性面と比べて小さいため、ホールと電子の再結合確率が高く、

高い内部量子効率を達成することができる。

上記のように(0001)面以外を用いるメリットは存在するものの、デバイス応用は十分 に進んではいない。それは同じ結晶でも結晶面によって成長の特徴が大きく異なるため、

長年研究されてきた (0001)面に比べて他の結晶面では十分な結晶性を達成できていな い。理論的サポートによって結晶面ごとの成長の特徴を予測することができれば効率的 に成長の最適化ができ、結果として様々な成長面を利用したデバイス応用の進展が期待

(21)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

20 される。

同じ結晶であるにもかかわらず成長面によって成長の特徴が大きく異なるのは、原子 の吸着、拡散、脱離といった結晶成長プロセスが表面状態に大きく関係しているからで ある。

これまでに GaN 系結晶の表面状態に関する多くの理論研究が行われている[84, 88- 109]。結晶バルク中ではすべての化学結合手が満たされているが、表面においてはダン グリングボンド(未結合手)が存在しエネルギー的に不安定である。ダングリングボン ドを持つ表面原子は互いに結合したり、雰囲気中の分子と化学吸着したりすることによ り、理想状態とは異なる表面構造を形成する。これを表面再構成と呼ぶ。安定な表面再 構成構造は雰囲気のガス分圧や温度に依存する。結晶成長の過程を考察するうえで、成 長条件下(有限のガス分圧、温度)における表面再構成構造の同定は重要である。

安定な表面再構成を理論的に決定する方法として形成エネルギー-化学ポテンシャ ル(E – μ)線図がよく用いられている(図 2-1)。これは化学ポテンシャルをパラメー タとしてどの構造が一番エネルギー的に安定であるかを示す図である。化学ポテンシャ ルが大きいことは雰囲気中にその分子が豊富に存在することを意味する。ただし化学ポ テンシャルは実験によって操作できるパラメータではないので、このままでは実験との 直接的な比較が困難である。そこで Kangawa らは統計熱力学を用いて化学ポテンシャ ルを温度とガス分圧の関数として計算することで、温度とガス分圧をパラメータとした 表面相図として表す方法を提案した[110]。この手法によって実験との直接的な比較が 可能となった。

図 2-1 E – μ線図の例。

E

μ A

A

(22)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

21

しかし、これらの方法では最小のエネルギーをもつ表面構造のみを予測するにとどま っている。実際の成長中の表面では様々な分子種が気相から入射し、表面からも脱離す ることによって単一の構造以外も存在していると考えられる。例えば、仮に理想表面状 態(何も吸着していない状態)がエネルギー的に最安定であったとしても、少数ながら も必ず表面には吸着原子が存在しているはずである。GaNの気相成長は通常Gaの供給 量が成長速度を律速する。そのような状況ではGaが吸着した表面構造は少数しか存在 していないと考えられる。しかし、成長の安定性を決定するのはむしろその少数Ga原 子であり、それらがどれだけの割合で存在しているかを理解することは成長の安定性を 考察するうえで重要である。図 2-2に従来手法と本章で提案する手法の比較図を示す。

図 2-2 従来手法と提案手法の比較。

従来の手法では様々な表面構造が混在することは考慮しなかったために、各構造に固 有の自由エネルギーのみを比較することで最安定な状態を決定していた。様々な表面構 造が時間的、空間的にある割合で同時に出現することを考慮すると、例えエネルギー的 に安定でない構造であっても低い存在確率で存在することができる。なぜならば、様々 な構造が混じって存在しているとエントロピーが大きくなるため、系全体の自由エネル ギーが低くなるからである(図 2-3)。本節で提案する手法では混合エントロピーの効 果を導入することによって、各表面構造の存在比の計算を可能にする。

(p,T)

Crystal surface

(p,T)

・・・

・・・ ・・・ ・・・

・・・

・・・ ・・・

従来手法:

第一原理計算により最小エネルギーの表面状態のみを予測

・・・

実際の表面/本計算手法:

様々な吸着構造が混合/各構造の存在率を計算可能

(23)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

22

図 2-3 混合エントロピーによる自由エネルギーの低下。

各表面構造の存在比を計算することによって、各吸着原子の表面密度がわかる。特に Ga、Nなどの成長原子の吸着原子密度は重要である。成長原子の密度が高いとテラス上 で二次元核が頻繫に発生することによって、三次元的な表面となる。安定したステップ フロー成長を行い原子レベルで平坦な表面を得るためには成長原子の表面密度をコン トロールする必要がある。図 2-4 に気相と平衡に至った場合の成長原子密度 ρを変化 させたときの成長表面のシミュレーション結果を示す。計算には3.6節で説明するKMC

(Kinetic Monte Carlo)シミュレーションを用いた。原子密度が変化すると成長後の表 面モフォロジーは大きく変化することがわかる。

図 2-4 成長原子の𝝆(= 𝑭𝝉)を変化させたときの表面モフォロジーの変化。30ML 成長後。計算サイズ400×400、平均テラス幅𝑳𝟎= 𝟓𝟎、F = 10、100、1000 ML/s(左、

中、右)、T = 700K、Ediff = 0.5 eV、En = 0.5 eV、EESB = 0.2 eV、Edes = 1 eV(詳しい パラメータの意味は3.6節参照)。

系の自由エネルギー

存在比 A 100%

B 100%

従来手法

エントロピー効果

本手法

表面吸着原子密度を計算可能

成長機構のより詳細な考察が可能

ρ= 1.6×10-5atom/(1x1) ρ= 1.6×10-4atom/(1x1) ρ= 1.6×10-3atom/(1x1)

(24)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

23

本章ではまず提案手法の計算方法を説明する。その後GaNとAlNの極性面に適用し て成長中の結晶表面における吸着原子密度を解析する。その結果から、結晶面ごとの成 長の特徴や安定した成長を行うための指針を述べる。

2.2. 計算手法

本節では計算手法について説明する。

2.2.1. 表面構造の存在確率

まず初めに様々な表面構造が混合して存在する場合のエントロピー効果を定式化す る。すなわち、単位表面構造の化学ポテンシャルのうちの配置エントロピーの寄与を評 価する。

無限に広く、ステップやキンクの存在しないテラスを仮定する。この表面に存在して いる単位表面セルの数をNと置く。本章の計算では単位表面セルとしてGaN極性面の 2×2表面を選択するが、その定義は任意である。表面は気相と接しており、気体分子の 吸着などによって様々な表面構造が混在していると考える。このとき表面構造iにある 単位表面セルの数をniとすると、この表面のカノニカル分配関数Q

で与えられる。Idealは理想状態の表面構造である。式後半の総乗はIdeal以外のすべて の表面構造についてとる。njNには

の関係がある。表面構造はその対称性によって、エネルギー的に同じだが異なる状態を 取りうる。この異なる状態の数を縮退度と呼び、gjで表す。例えばGaN(0001)の2×2表 面には等価なサイトが4 つ存在する。Ga 原子が表面に一つ吸着するとき、その最安定 な吸着サイトはT4サイトである。表面には等価なT4サイトは4 つ存在するので、こ の構造のgは4となる。簡単のため、表面構造同士の相互作用は無視する。すなわち、

単位表面セルがどのような配置であってもエネルギーは等しいと仮定する。振動や回転 のエネルギー準位による自由エネルギーへのエネルギー的、エントロピー的な寄与は無 視し、絶対零度における形成エネルギーのみが自由エネルギーのうちエネルギー項に寄 与すると仮定する。すなわち振動などはすべて基底状態にあり、有限温度によってより 高エネルギーの準位を取ることはない。近年 Kempisty らはフォノンの自由エネルギー への寄与を考慮した表面相図の予測を行っている[111]が、本章での計算では簡単のため にそれらの影響は無視する。

式(2-1)の物理的な意味を補足する。カノニカル分配関数の定義は 𝑄 = 𝑁!

𝑛Ideal!∏(𝑔𝑗)𝑛𝑗

𝑛𝑗! , (2-1)

𝑛ideal+ ∑ 𝑛𝑗= 𝑁, (2-2)

(25)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

24

で与えられる。iは注目している系が取りうるすべての状態を含む。すなわちQは系の すべての状態に対するボルツマン因子の和である[112, 113]。いま考えている系は、nj個 の表面構造jの単位表面セルと nIdeal個の理想状態のセルの合計 N 個のセルからなる。

セルの配置によってエネルギーは変化せず、また振動や回転などはすべて凍結されてい ると仮定しているので、この系が取りうるすべての状態のエネルギーは同一である。し たがって式(2-3)におけるボルツマン因子は 1 となる。すると Q は単純にこの系が取り うる状態の数を意味する。すべてのセルが異なる状態で𝑔 = 1であるならば、系が取り うる状態の数は𝑁!である。N個のセルのうちni個が状態 iにあるとする。まず、i状態 のそれぞれのセルがgiだけ異なる状態を取りうるために全体の場合の数は(𝑔𝑖)𝑛𝑖倍とな る。一方で、i 状態のセル同士を入れ替えても系の状態は同じである。ni個のセルの並 びは𝑛𝑖!通り存在するため、全体としては場合の数は1/𝑛𝑖!倍となる。同様の考えをすべ てのi状態の構造について考慮することによって、系のQは式(2-1)で与えられることが わかる。

セル同士の相互作用や振動、回転エネルギーの励起を無視するという仮定により、系 のエネルギーは、

となる。ここで−𝑢𝑗は状態 jのセルのエネルギーである。エネルギーの原点としては、

Ideal表面と真空中に静止したラジカル原子を基準とする。概要図を図 2-5に示す。

図 2-5 エネルギーの基準。

u

0

Ideal

+ +

静止状態

–u

1

+

–u

2

𝑄(𝑇) = ∑ exp(−𝐸𝑘/𝑘𝑇)

𝑘

, (2-3)

𝑈0= − ∑ 𝑛𝑗𝑢𝑗, (2-4)

(26)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

25

統計熱力学によると、系のカノニカル分配関数 Q が既知であればその系の熱力学的 な物性値はQ より導出することが可能である[112, 113]。系のヘルムホルツ自由エネル ギーは𝐴 = 𝑈0− 𝑘𝑇 ln 𝑄で与えられるので、式(2-3)を用いて

と計算できる。ただしスターリングの公式ln 𝑊! ≅ 𝑊 ln 𝑊 − 𝑊、(𝑊 ≫ 1)を用いた。状 態iのセルの化学ポテンシャルはAniによって偏微分することによって得られる。

ただし、この偏微分では全体のセルの数Nは固定されている。そのため𝑛𝑖が1だけ増え ると同時に𝑛Idealは 1 だけ減少する。すなわち∂/ ∂𝑛𝑖 = −𝜕/𝜕𝑛Idealである。𝜃𝑖 = 𝑛𝑖/𝑁は その状態の存在確率である。式(2-6)の第二項がエントロピー効果を表している。存在確 率 θiが小さいほど μiが小さくなることから、その表面構造がエネルギー的に不安定で あっても少数であれば確率的に存在可能であることを意味している。また第二項は𝑘𝑇 に比例していることから、高温ほど様々な表面構造が混在するエントロピーの高い状態 が出現することがわかる。θiμi(surf)の関数として表すことも可能である

𝜃Ideal+ ∑ 𝜃𝑗 = 1の関係を用いると

を得る。

もしテラスが無限に広く成長原子の吸い込み口となるステップやキンクが存在せず、

さらに二次元核が発生しないほどに過飽和度が低いならば、結晶は蒸発も成長もせずに 気相から吸着する原子と表面から脱離する原子は動的平衡にある。すなわち、理想状態 の表面に気相原子が吸着するという反応による系のギブズエネルギー変化𝛥𝑟𝐺はゼロ である。

𝐴 = 𝑈0− 𝑘𝑇 ln 𝑄

= − (∑ 𝑛𝑗𝑢𝑗)

+ 𝑘𝑇 [(∑ 𝑛𝑗ln𝑛𝑗

𝑔𝑗) + 𝑛Idealln 𝑛Ideal

− 𝑁 ln 𝑁],

(2-5)

𝜇𝑖(surf) = (𝜕𝐴

𝜕𝑛𝑖)

𝑁

= −𝑢𝑖0+ 𝑘𝑇 ln𝑛𝑖/𝑔𝑖

𝑛Ideal= −𝑢𝑖+ 𝑘𝑇 ln𝜃𝑖/𝑔𝑖

𝜃Ideal. (2-6)

𝜃𝑖 = 𝑔𝑖𝜃Idealexp (𝑢𝑖+ 𝜇𝑖(surf)

𝑘𝑇 ). (2-7)

𝜃Ideal = [1 + ∑ 𝑔𝑗exp (𝑢𝑗+ 𝜇𝑗(𝑠𝑢𝑟𝑓)

𝑘𝑇 )]

−1

, (2-8)

𝜃𝑖 =

𝑔𝑖exp (𝑢𝑖+ 𝜇𝑖(surf)

𝑘𝑇 )

1 + ∑ 𝑔𝑗exp (𝑢𝑗+ 𝜇𝑗(surf)

𝑘𝑇 )

, (2-9)

𝛥𝑟𝐺 = 𝜇𝑖(surf) − Δ𝑖𝜇(gas) = 0, (2-10)

(27)

2 GaN・AlN極性面における表面吸着原子の安定性解析

26

ここでΔ𝑖𝜇(gas)は表面構造が理想状態からi状態に変化するときに失われる気相分子の

化学ポテンシャルの和である。例えばGa が2 つ吸着した表面状態であればΔ𝑖𝜇(gas) = 2𝜇Ga(gas)である。式(2-10)を用いることで式(2-8)、(2-9)は

となる。式(2-11)、(2-12)より温度と雰囲気気体分子の分圧(化学ポテンシャル)を与え ることによって各表面構造の存在確率、そして各原子の表面密度を計算することが可能 である。

任意の圧力における気体分子の化学ポテンシャル𝜇𝑖(𝑝, 𝑇)は、

と計算することができる[112, 113]。ただしp0 (= 1.013×105 Pa)は標準圧力であり、μ0は 標準圧力における化学ポテンシャルである。第一原理計算ソフトウェアDmol3[114, 115]

によって計算した標準圧力における化学ポテンシャルを

表 2-1にまとめる。エネルギーは静止したラジカル原子を基準としている。

表 2-1 気体分子の標準圧力における化学ポテンシャル 気体分子 標準圧力における

化学ポテンシャルμ0 (eV/molecule) Ga(gas) −0.080𝑥2− 1.782𝑥 + 0.139 Al(gas) −0.080𝑥2− 1.660𝑥 + 0.139 H2 −0.118𝑥2− 1.546𝑥 − 4.205 N2 −0.130𝑥2− 2.169𝑥 − 10.107 NH3 −0.237𝑥2− 2.162𝑥 − 12.090

𝑥 = 𝑇(K)/1000, 773 K < T < 2023 K

2.2.2. 計算の仮定と実際の結晶表面との違い

ここで本計算の仮定と実際の結晶表面との乖離について説明を加える。本計算ではテ ラスは無限に広く、ステップやキンクの存在や新たな二次元核の生成は無視している。

そのため、表面の吸着原子は気相との吸着、脱離のみの動的平衡によってのみ存在率(密 度)が決定されている。しかし実際の成長中の表面には必ずステップやキンクが存在し、

𝜃Ideal= (1 + ∑ 𝑔𝑗exp (𝑢𝑗+ Δ𝑗𝜇(gas)

𝑘𝑇 ))

−1

, (2-11)

𝜃𝑖 =

𝑔𝑖exp (𝑢𝑖+ Δ𝑖𝜇(gas)

𝑘𝑇 )

1 + ∑ 𝑔𝑗exp (𝑢𝑗+ Δ𝑗𝜇(gas)

𝑘𝑇 )

. (2-12)

𝜇𝑖(𝑝, 𝑇) = 𝜇𝑖0(𝑝0, 𝑇) + 𝑘𝑇 ln𝑝𝑖

𝑝0. (2-13)

表  1-1  各種半導体の物性値[55]。
図  2-4  成長原子の
図  2-8  GaN 極性面の計算において考慮した表面構造。
図  2-9  AlN 極性面の計算において考慮した表面構造。
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参照

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