2. GaN・AlN 極性面における表面吸着原子の安定性解析
2.5. AlN 極性面における吸着原子安定性
本計算手法をAlN MOVPEに適用する。気相中にはAl(気体)、NH3、H2が存在する と仮定する。Al原料であるTMAlは完全にAlに分解すると仮定する。表 2-3に示す平 衡条件式にはN2は現れないため、N2の存在は影響を及ぼさない。以下のすべての計算 でAl分圧は𝑝Al= 8 × 10−6 atmとする。V/III比は𝑝Al/𝑝NH3で定義する。
2.5.1. AlN(0001) T – V/III 比依存性
図 2-17に温度とV/III比を変化させたときの𝜌Ga、𝜌N、(V/III)surfおよび最も存在確率 の高い表面構造の変化を示す。典型的な成長条件(𝑇 = 1300 ℃、V/III比約300)で支 配的な表面構造は NH(H3)+NH2(Top)もしくは NH(H3)+H(Top)であり、𝜌N = 0.25~0.5 atom/(1×1)である。それに対してAlは少数であり、ρAl 10−7 atom/(1×1)であり、Al原 子が成長を律速していることがわかる。これはGaN(0001)の成長と同様に、直観的な気 相成長のイメージと整合する。
温度の変化に対して、𝑇 = 1300 ℃付近では𝜌Alはほとんど一定であるため、AlN(0001) の成長速度は十分な高温では温度変化に対して鈍感であることが予測できる。1000 ℃ 以下程度になると𝜌Alは急激に増加するため、核生成が発生しやすくなると予測される。
さらに低温になると支配的な表面構造は N(H3)/4Al(Top)となり、𝜌Al≅ 1.0 atom/(1×1)、
𝜌N ≅ 0.25 atom/(1×1)となる。この状態ではもはや吸着原子は拡散できず、入射、吸着し てすぐに固化するような成長になることが予測される。
𝜇𝑖(N𝑥 and H𝑦) =𝑥
2𝜇N2+𝑦
2𝜇H2. (2-19)
𝜇𝑖(N𝑥 and H𝑦) = 𝑥𝜇NH3+ (𝑦 2−3
2𝑥) 𝜇H2. (2-20)
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次にV/III比に対する依存性を見てみる。1300 ℃付近ではV/III比の増加に対して𝜌Al
は減少する。これはGaN(0001)における議論(2.3.3節)と同様に、Nが吸着した構造が さらに増加することでAl が吸着した構造の割合がさらに少なくなってしまうためであ る。同様に、𝜌Alの減少はV/IIIの増加に対して反比例的であるので、成長速度も反比例 的に減少することが予測される。実験的にも NH3流量を増加することによって成長速 度が減少することが報告されている[141]。GaN(0001)における議論と同様に、AlNの結 晶化反応式は、
であり、熱力学的な平衡論[82]のみの考慮ではNH3の増加は成長速度を増加させるよう に考えられる。そのため、この現象は単純な化学反応式では理解することができない。
図 2-17 AlN(0001) MOVPE中の𝝆𝐀𝐥、𝝆𝐍、(𝐕/𝐈𝐈𝐈)𝐬𝐮𝐫𝐟、最も存在確率の高い表面 構造のT – pH2依存性。𝒑𝐀𝐥= 𝟖 × 𝟏𝟎−𝟔 𝐚𝐭𝐦、𝒑𝐇𝟐 = 𝟎. 𝟏 𝐚𝐭𝐦。
Al + NH3→ AlN +1
2H2, (2-21)
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2.5.2. AlN(0001) T – p
H2依存性
図 2-18に温度と水素分圧pH2を変化させたときの𝜌Al、𝜌N、(V/III)surfおよび最も存在 確率の高い表面構造の変化を示す。pH2を増加させると𝜌Alは増加する。これは水素によ ってNが吸着した構造の存在確率が減り、その分Alが吸着した構造の存在確率が増え るためである。そのため、pH2が増加することによって成長速度も増加することが期待 される。実験的にもH2流量の増加によって成長速度が増加することが確認されている
[141]。AlNの結晶化反応式(2-18)のみを考慮すると、pH2の増加は逆反応を促進させるた
めに成長速度は減少するように予測される。実験的に確認されている成長速度の増加は、
本研究の表面吸着原子密度の解析によって理解することができる。
図 2-18 AlN(0001) MOVPE中の𝝆𝐀𝐥、𝝆𝐍、(𝐕/𝐈𝐈𝐈)𝐬𝐮𝐫𝐟、最も存在確率の高い表面 構造のT – pH2依存性。𝒑𝐀𝐥= 𝟖 × 𝟏𝟎−𝟔 𝐚𝐭𝐦、V/III比(= 𝒑𝐀𝐥/𝒑𝐍𝐇𝟑)300。
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2.5.3. AlN(000–1) T – V/III 比依存性
図 2-19に温度とV/III比を変化させたときの𝜌Al、𝜌N、(V/III)surfおよび最も存在確率 の高い表面構造の変化を示す。広い範囲の成長条件において NH(T4)/4Al(Top)または
N(T4)/4Al(Top)が優勢的であり、𝜌Al、𝜌Nともに非常に高い。そのため、AlN(000–1)の成
長では高頻度な核生成により三次元的な表面になりやすいことが予想される。実験的に
も AlN(000–1)は AlN(0001)よりも荒れた表面に成長しやすいことが報告されている
[142]。また成長速度はAlN(0001)と同等であることが報告されている。この傾向はGaN
とは逆である。すなわち、GaNであれば(000–1)面は核生成頻度、成長速度が低く、平坦 に成長する一方、AlNの(000–1)面は高頻度で核生成が起こり、成長速度は(0001)面と同 等で三次元的に成長しやすい。この違いはAl(Ga)とHの吸着エネルギーのバランス に起因する。Hの吸着エネルギーは強く、3H(Top)構造の吸着エネルギーはGaN(000–1)
では14.18 eVで、AlN(000–1)では14.14 eVである。ほとんどエネルギーが等しいのは、
どちらもN−Hの結合であることから理解できる。式(2-12)において、表面構造iの存在 確率は因子exp(𝑢𝑖+ Δ𝑖𝜇(gas))が大きいほど大きくなる。3H(Top)の𝑢𝑖+ Δ𝑖𝜇(gas)はそれ ぞれ、
である。ただしpH2 = 0.1 atm、T = 1100 ℃とした。一方、他の表面構造として、4Ga(Top)、
4Al(Top)における吸着エネルギーはそれぞれ15.14 eV、19.18 eVである。これらの構造
におけるの𝑢𝑖+ Δ𝑖𝜇(gas)の値は、
である。ただし𝑝Ga= 𝑝Al = 10−5atmとした。N-Gaの結合とN-Alの結合では後者の方が 強い。式(2-22)と式(2-23)の比較により、GaN(000–1)では3H(Top)が支配的であるのに対 して、AlN(000–1)ではN-Alの結合の方がより強いのでAlが1ML吸着した構造が支配 的になることがわかる。
気相のV/IIIは300であるにもかかわらず、(V/III)surfは1以下、すなわち𝜌N< 𝜌Alであ る。したがって成長速度はNH3の供給量に律速され得ることが示唆される。
𝜌Al、𝜌Nが高すぎない条件で成長を行うにはAlとNH3の供給量を低くし、高い成長温 度を用いることが必要である。また、𝜌Al、𝜌Nを低下させるためには低いV/III比を用い るも有効であることがわかる。
3H(Top) [GaN(000–1)]: 14.18 + 1.5𝜇H2(𝑝H2, 𝑇) = 3.95 eV,
3H(Top) [AlN(000–1)]: 14.14 + 1.5𝜇H2(𝑝H2, 𝑇) = 3.91 eV, (2-22)
4Ga(Top) [GaN(000–1)]: 15.14 + 4𝜇Ga(𝑝Ga, 𝑇) = −0.14 eV,
4Al(Top) [AlN(000–1)]: 19.18 + 4𝜇Al(𝑝Al, 𝑇) = 4.57 eV, (2-23)
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図 2-19 AlN(000–1) MOVPE中の𝝆𝐀𝐥、𝝆𝐍、(𝐕/𝐈𝐈𝐈)𝐬𝐮𝐫𝐟、最も存在確率の高い表面 構造のT – pH2依存性。𝒑𝐀𝐥= 𝟖 × 𝟏𝟎−𝟔 𝐚𝐭𝐦、𝒑𝐇𝟐 = 𝟎. 𝟏 𝐚𝐭𝐦。
2.5.4. AlN(000–1) T – p
H2依存性
図 2-20に温度と水素分圧pH2を変化させたときの𝜌Al、𝜌N、(V/III)surfおよび最も存在 確率の高い表面構造の変化を示す。pH2を増加させると𝜌Alと𝜌Nが減少し、過剰な核生成 を抑制できると考えられる。前節の内容と合わせて、AlN(000–1)の成長においては𝜌Alと 𝜌Nを減少させて核生成頻度を低下させることが必要であり、そのためには(1)Al、NH3の 供給量を少なくする、(2)成長温度を高くする、(3)低いV/III比を用いる、(4)高い水素分 圧にすることが必要であることがわかる。
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図 2-20 AlN(000–1) MOVPE中の𝝆𝐀𝐥、𝝆𝐍、(𝐕/𝐈𝐈𝐈)𝐬𝐮𝐫𝐟、最も存在確率の高い表面 構造のT – pH2依存性。𝒑𝐀𝐥= 𝟖 × 𝟏𝟎−𝟔 𝐚𝐭𝐦、V/III比(= 𝒑𝐀𝐥/𝒑𝐍𝐇𝟑)300。
2.5.5. AlN 極性面まとめ
図 2-21 に AlN 極性面 MOVPE(典型的な成長条件)における表面状態をまとめる。
AlN(0001)においてはGaN(0001)と同様に、表面のほとんどをN が覆っており、少数の
Alが存在する。温度の増加に対して𝜌Alはほぼ一定であり、𝜌Nは減少する。V/III比が増 加(pNH3が増加)すると𝜌Alは反比例的に減少し、𝜌Nは増加する。したがって成長速度も
V/III比に対して反比例的に減少すると考えられる。。pH2の増加に対して𝜌Alは増加し、
𝜌Nは減少する。したがって成長速度は水素流量に対して増加すると考えられる。
AlN(000–1)においては、AlN(0001)と同じ成長条件においては Al が 1ML吸着し、そ
の上にNが0.25ML吸着した構造が支配的である。𝜌Alと𝜌Nがともに高いことから、こ
の条件では高頻度の核生成が発生し三次元的な表面となってしまうことが予測される。
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𝜌Alと𝜌Nを減少させるためには高い成長温度、高い水素分圧、低いAl、NH3供給が有効
である。3H(Top)が支配的となる成長条件であれば𝜌Alと𝜌Nを適切に減少させることがで
きるので、平坦な結晶を成長することができると期待できる。
図 2-21 AlN極性面 MOVPEにおける表面状態まとめ。
AlN(0001) MOVPE
N Al
𝜌N≅ 0.25 atom/ 1 × 1 𝜌Al 10−7atom/ 1 × 1 pAl= 8×10-6atm, V/III比≈ 300
T = 1300℃, pH2≈ 0.1 atm 表面のほとんどにNが吸着 少数のAlが存在
T増加
V/III比(pNH3)増加
pH2増加
ρ
Al一定・ ρ
N減少
ρ
Al減少・ ρ
N増加
ρ
Al増加・ ρ
N減少
AlN(000–1) MOVPE
𝜌N 0.25 atom/ 1 × 1 𝜌Al 1.0 atom/ 1 × 1
1MLのAlが吸着
その上に0.25MLのNが吸着
T増加
V/III比(pNH3)増加
pH2増加
ρ
Al増加・ ρ
N増加
ρ
Al減少・ ρ
N減少
pAl= 8×10-6atm, V/III比≈ 300 T = 1300℃, pH2≈ 0.1 atm
ρ
Al減少・ ρ
N減少
N Al
高T・高p
H2低p
Al・低p
NH3表面のほとんどにHが吸着 AlとNは少数
H
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