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3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

3.4. BCF 理論と解の性質

3.4.1. 方程式と解の性質

結晶の成長粒子(以下単に原子と呼ぶ)は1種類でその長さはa0であるとする。今後 の計算では簡単のためa0を長さの単位として採用する。結晶表面は平均テラス幅L0か らなる微傾斜面であり、ステップは直線的であり問題を一次元とみなせると仮定する。

成長方式はMBEもしくは気相成長を仮定する。結晶表面には気相または分子ビームと して、Fの流束でランダムに原子が入射する。表面に吸着した原子は熱エネルギーによ ってランダムに拡散を行う。この時の拡散係数を D と置く。吸着原子はまた熱エネル ギーによって表面から再び気相に脱離する確率も持つ。脱離するまでのライフタイムを τとする。以上の素過程をまとめると、表面での吸着原子密度の時間変化は以下の微分 方程式で記述することができる。

3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

65 拡散係数は、

で与えられる。ここでEdiffは拡散するために必要な活性化エネルギーである。ライフタ イムは、

で与えられる。ここで Edesは表面から脱離するために必要な活性化エネルギーである。

D0は振動数因子であり、本章では𝐷0= 1013 s−1とする。表面に入射した原子は拡散し てステップまで辿り着くと固化する。式(3-12)における境界条件は、

で与えられる。ただし𝛥±はKinetic 係数、上付き文字±はそれぞれ上側ステップ、下側 ステップへの取り込みを意味する。ρeqは平衡吸着原子密度である。式(3-12)~(3-15)の概 略図を図 3-6に示す。境界条件である式(3-15)の意味を説明する[176]。ステップから1 だけ離れているサイトに存在する原子がステップに取り込まれる(ステップ方向に拡散 する)単位時間の回数は、

で与えられる。ここで𝐷±はステップの一つ隣のサイトからステップに取り込まれると きの速度定数(拡散係数)であり、

で与えられる。ここでEESB、EiESB (iESB=Inverse ESB)はそれぞれ下側ステップ、上側ス テップに原子が取り込まれるときに、テラス上の通常の拡散障壁から追加で発生するエ ネルギー障壁である。一方、ステップに存在する原子が脱離してテラスに放出される単 位時間の回数は、

で与えられる。ただし𝜌𝑒𝑞 = exp(−𝐸0/𝑘𝑇)であり、E0はステップで固化している原子と テラス上に存在する原子のエネルギー差を表す。これらの活性化エネルギーの関係の概 略図を図 3-7に示す。正味のステップへの取り込みは、

𝜕𝜌

𝜕𝑡 = 𝐹 −𝜌

𝜏+ 𝐷𝛻2𝜌, (3-12)

𝐷 = 𝐷0exp(−𝐸𝑑𝑖𝑓𝑓/𝑘𝑇), (3-13)

1

𝜏= 𝐷0exp(−𝐸𝑑𝑒𝑠/𝑘𝑇), (3-14)

𝐷𝜕𝜌

𝜕𝑥= 𝛥+(𝜌 − 𝜌𝑒𝑞) 𝑎𝑡 𝑥 = −𝐿0 2 ,

−𝐷𝜕𝜌

𝜕𝑥= 𝛥(𝜌 − 𝜌𝑒𝑞) 𝑎𝑡 𝑥 =𝐿0 2,

(3-15)

𝐽𝑖𝑛= 𝐷±𝜌 (∓𝐿0

2 ± 1) = 𝐷± [𝜌 (∓𝐿0 2) ±𝜕𝜌

𝜕𝑥(∓𝐿0

2)], (3-16)

𝐷+ = 𝐷 exp(−𝐸𝑖𝐸𝑆𝐵/𝑘𝑇),

𝐷 = 𝐷 exp(−𝐸𝐸𝑆𝐵/𝑘𝑇), (3-17)

𝐽𝑜𝑢𝑡 = 𝐷± exp(−𝐸0/𝑘𝑇) = 𝐷±𝜌𝑒𝑞, (3-18)

𝐽 = 𝐽𝑖𝑛− 𝐽𝑜𝑢𝑡 = 𝐷± [𝜌 (∓𝐿0

2) − 𝜌𝑒𝑞±𝜕𝜌

𝜕𝑥(∓𝐿0

2)], (3-19)

3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

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で与えられる。一方でステップにおける拡散流束はフィックの法則より

で与えられる。式(3-19)と式(3-20)が等しいと置くことにより式(3-15)を得る。ただし、

である。後の計算で式を簡素にするため、長さの次元を持つパラメータ𝑑±を導入する。

図 3-6 BCF理論の概略図。

図 3-7 吸着原子が感じるエネルギー障壁。

𝜕𝜌

𝜕𝑡 = 𝐹 + 𝐷𝛻

2

𝜌 − 𝜌 𝜏

①入射

②拡散

④結晶化

③脱離

拡散方程式:

ステップ前進速度:

① ② ③

𝐽 = Δ 𝜌 − 𝜌

𝑒𝑞

= −𝐷𝛻𝜌

E

0

E

diff

E

iESB

E

ESB

x

m

x

m+1

𝐽 = ±𝐷𝜕𝜌

𝜕𝑥(∓𝐿0

2), (3-20)

𝛥± = 𝐷𝐷±

𝐷 − 𝐷±, (3-21)

𝑑+= 𝐷/𝛥+= exp(𝐸𝑖𝐸𝑆𝐵/𝑘𝑇) − 1,

𝑑= 𝐷/𝛥= 𝑒xp(𝐸𝐸𝑆𝐵/𝑘𝑇) − 1. (3-22)

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ステップの前進速度が表面の拡散現象に対して十分に遅いならば準静的仮定𝜕𝜌/𝜕𝑡 = 0を用いることができる。この仮定の下、式(3-12)の解は、

で与えられる。ここで、

である。xdiffは原子が入射してから脱離するまでの平均拡散距離を意味する。また、上 側ステップへの取り込みJ+と下側ステップへの取り込みJ-はそれぞれ、

で与えられる。𝐽±はそれぞれ𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞に比例しており、𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞> 0ならば成長中でステ ップは前進し、𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞< 0ならば蒸発中でステップは後退する。式(3-23)はそのままで は複雑であるので、近似を加えて単純化する。ステップでの取り込みにおいて追加の拡 散障壁がない場合(EESB = 0 eV & EiESB = 0 eV)、式(3-21)よりKinetic係数は無限になる。

この時の境界条件はステップ端において𝜌 = 𝜌𝑒𝑞であるという条件に置き換わる。もし くは、式(3-23)において𝛥±= ∞、𝑑±= 0を代入すると

𝜌 = 𝐹𝜏 + 𝜆𝑒𝜅𝑥+ 𝜇𝑒−𝜅𝑥,

𝜕𝜌

𝜕𝑥 = 𝜅(𝜆𝑒𝜅𝑥− 𝜇𝑒−𝜅𝑥), λ =1

2(𝜌𝑒𝑞− 𝐹𝜏)

× (1 + 𝜅𝑑+)𝑒𝜅𝐿0/2− (1 − 𝜅𝑑)𝑒−𝜅𝐿0/2 (1 + 𝜅2𝑑+𝑑) sinh 𝜅𝐿0+ 𝜅(𝑑++ 𝑑) cosh 𝜅𝐿0, 𝜇 =1

2(𝜌𝑒𝑞− 𝐹𝜏)

× (1 + 𝜅𝑑)𝑒𝜅𝐿0/2− (1 − 𝜅𝑑+)𝑒−𝜅𝐿0/2 (1 + 𝜅2𝑑+𝑑) sinh 𝜅𝐿0+ 𝜅(𝑑++ 𝑑) cosh 𝜅𝐿0.

(3-23)

𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓= √𝐷𝜏,

𝜅 = 1/𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓. (3-24)

𝐽+= 𝐷𝜕𝜌

𝜕𝑥(−𝐿0 2)

= 𝜅𝐷(𝜌𝑒𝑞− 𝐹𝜏)

× 1 − cosh(𝜅𝐿0) − 𝜅𝑑+sinh(𝜅𝐿0)

(1 + 𝜅2𝑑+𝑑) sinh(𝜅𝐿0) + 𝜅(𝑑++ 𝑑) cosh(𝜅𝐿0), 𝐽= −𝐷𝜕𝜌

𝜕𝑥(𝐿0 2)

= 𝜅𝐷(𝜌𝑒𝑞− 𝐹𝜏)

× 1 − cosh(𝜅𝐿0) − 𝜅𝑑sinh(𝜅𝐿0)

(1 + 𝜅2𝑑+𝑑) sinh(𝜅𝐿0) + 𝜅(𝑑++ 𝑑) cosh(𝜅𝐿0).

(3-25)

𝜌 = 𝐹𝜏 + cosh(𝑥/𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓)

cosh(𝐿0/2𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓)(𝜌0− 𝐹𝜏), (3-26)

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を得る。さらに拡散距離xdiffL0よりも十分に長く(𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓 ≫ 𝐿0, 𝑥)、平衡濃度は無視で きるほど小さい(𝜌𝑒𝑞 ≅ 0)と仮定すると、

を得る。式(3-27)より吸着原子密度は二次関数状であり、テラスの中心で最大値𝜌 = 𝐹𝐿20/8𝐷を取ることがわかる。吸着原子密度がある一定以上の値になるとテラス上で核 生成が起こり不安定な成長モードとなる。それを抑制するためには温度を上げ D を増 やすことや、Fを小さくすること、またオフ角を大きくしてL0を小さくすることが有効 であることがわかる。特にオフ角を大きくする方法は不安定モードを抑制するのに有効 である。オフ角Φとテラス幅L0の間には𝛷 ≅ 1/𝐿0の関係があるため、𝜌 ∝ 𝐹/(𝐷𝛷2)で ある。そのため、オフ角を2倍にすることによって不安定モードを抑制しつつ成長速度 を4倍にすることが可能である。同様にオフ角を大きくすることによって成長温度を低 くすることも可能である。SiCではテラス上の核生成を由来とした異相混入を抑制する ために、大きなオフ角基板を用いたステップ制御エピタキシーが用いられる[205]。