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2. GaN・AlN 極性面における表面吸着原子の安定性解析

2.3. GaN 極性面における吸着原子安定性

2.3.1. GaN 極性面 MBE

まず本計算手法をGaN極性面のMBE成長に適用する。MBE成長中はRHEEDによ って表面の周期性を観察できるため、成長中の表面再構成に関して多くの実験報告が存 在するからである。そのため、計算結果と実験結果を直接比較することによって計算手 法の妥当性を確認する。

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多くの研究によって、GaN極性面の MBE成長では少し Ga-richな成長条件が良い結 晶品質を達成するために必要であることが判明している[123-125]。これは V/III 比が 1000のオーダーであるMOVPE 成長とは対照的である。Ga-rich な条件では Gaに終端 された表面再構成が現れ、このようなGa終端表面が吸着原子の拡散を促進させるため である。このようなGa-rich条件では表面に入射したN原子はすぐさまステップに取り 込まれるため、表面に存在する原子はGaが多数であると考えられる。したがって解析 においてはN原子の存在は無視し、Ga原子のみを考慮する。MBEではラジカル窒素や NH3の分子ビームが N 原料として供給されるが、これらの熱力学的なモデル化が困難 であることもN原子を無視する理由である。流束ΦGaのGaビームの化学ポテンシャル は同じ流束を持つGa気体の化学ポテンシャルと等しいと仮定する。完全気体の流束は 𝛷 = 𝑝/√2𝜋𝑚𝑘𝑇で与えられるので[112, 113]、分圧𝑝 = 𝛷√2𝜋𝑚Ga𝑘𝑇の完全ガスを仮定す る。mGaは原子1個当たりの質量である。温度Tには成長温度を用いる。したがってGa ビームの化学ポテンシャルは

で与えられる。以下の計算ではΦGa = 1ML/sと設定する。入射したGaがすべて成長に 寄与すると仮定すると、これは0.93 μm/hの成長速度に対応する。

成長中の表面構造の存在確率を図 2-10に、最も存在確率の高い構造を示した相図を 図 2-11 に示す。図 2-11 では実験的に確認されている表面構造の周期性と成長条件に よる変化も示している。

GaN(0001)について、典型的な成長温度である 600 ~ 900 ℃では4Ga(Top)、Ga(T4)、

Idealが出現しやすい。これらはそれぞれ1×1、2×2、1×1の周期性を持っている。これ

らの現れやすさはΦGaにも依存し、ΦGaが大きいほどGaの数の大きい(Ga被覆率の高 い)表面が出現しやすい。実験的にも成長中の1×1、2×2の周期性を持った表面は確認 されている。これらの周期性は成長温度、Ga 流束ΦGa、N流束 ΦNに依存する。Hacke らの報告[126]によると、2×2表面は高温、低ΦGa、高ΦNで出現しやすく、逆に1×1表 面は高温、高ΦGa、低ΦNで出現しやすい。図 2-11で考えると、Hackeらの確認した2×2

表面はGa(T4)に対応し、1×1表面は4Ga(Top)に対応すると考えられる。ΦNの影響は今

回の計算では直接考慮していないものの、ΦNが大きいと表面のGaが結晶化により消費 されやすいため、実質的に低ΦGaの条件に対応すると考えられる。そう考えるとHacke らのΦN傾向と図 2-11は整合がつく。Chengら [127]は高温で1×1が現れやすく、低温 で2×2が現れやすいという、一見するとHackeらと逆の傾向を報告している。しかし、

Chengらの成長温度はHackeらよりも高いため、Chengらの1×1はIdealであり、2×2は

Ga(T4)に対応すると考えると本計算結果と整合し説明がつく。

GaN(000–1)について、基本的な傾向はGaN(0001)と整合しており、高温、低ΦGaの条

件になるほどGa密度が少ない表面が現れやすい。実際、GaN(000–1)とGaN(0001)は気 𝜇Ga(beam)(𝛷Ga, 𝑇) = 𝜇Ga(gas)0 (𝑝0, 𝑇) + 𝑘𝑇 ln𝛷Ga√2𝜋𝑚Ga𝑘𝑇

𝑝0 , (2-15)

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相成長では最適な成長条件が大きく異なる一方、MBE においては成長条件が似通って おり、これは表面状態が同じような成長条件依存を持つからだと考えられる。Ga 被覆

率0.25MLの表面構造におけるGa原子の吸着位置に関しては、GaN(0001)ではT4サイ

トであり、GaN(000–1)ではH3サイトと異なる。これは、T4サイトにGaが吸着した場 合、直下に存在する第二近接原子はGaN(0001)ではNであり、GaN(000–1)ではGaであ るためである。GaN(0001)であれば Ga(ad) – Nのイオン的相互作用によってT4サイト が安定である。一方、GaN(000–1)ではGa(ad) – Gaの反発作用になるため、H3サイトの 方が安定である。2つの極性面を比べた時、GaN(000–1)の方がより Ga被覆率の高い表 面が現れやすい。これは表 2-2に示すように、GaN(000–1)のほうがGaの吸着エネルギ ーが高いことからもわかる。GaN(000–1)はGaN(0001)よりも熱的に安定であることが知 られているが、これは表面Ga adatomが安定であり蒸発が進みにくいことに起因すると 考えられる[25]。SmithらはGaN(000–1)を成長させた後800 ℃でアニーリングすること で1×1の表面が現れることを報告した[84]。Smith らは第一原理計算により、その表面 は理想表面のN原子の直上にGaが吸着した構造であると提案した。その構造は本論文 における表記では4Ga(Top)である。図 2-11において800 ℃で4Ga(Top)が出現するには

ΦGa = 1 ML/sが必要であり、アニーリング中(ΦGa0)ではGa(H3)、Ideal表面が現れる

と予測される。しかし実際にはGaの吸着エネルギーが強く、アニーリング中も成長中 に吸着したGaが非平衡的に蒸発せずに残っているために4Ga(Top)が出現したと考えら れる。他の報告においてもGaN(000–1)成長中の1×1 構造は確認されており[128-130]、

これらも4Ga(Top)に対応すると考えられる。Foxonらも GaN(000–1)を750 ℃で成長中

に1×1構造を確認した。Foxonらはさらに高い成長温度を用いた場合、もしくは成長を 終了した後に周期性が2×2に変化することも確認した。図 2-11からFoxonらの2×2構

造はGa(H3)に対応すると考えられる。

本計算では無限に広いテラスを仮定したが、実際の表面はキンクやステップが存在す る。図 2-6に示したように、テラス幅が狭いと成長原子はすぐさまステップに取り込ま れるため、テラス上のGa密度が減少する。したがって表面が荒れてキンク、ステップ 密度が高いほど、Ga密度の少ない表面が出現しやすいと考えられる。

以上のように本計算結果は報告されている実験結果や理論計算結果を良く説明して おり本計算手法の妥当性も確認された。しかし、過去の報告と良い一致を示すことは、

換言するとMBEの理論解析において新しい発見は少ないと言うことである。本計算手 法は少数原子の安定性を議論可能であることが長所であるため、様々な化学種が雰囲気 に存在する気相成長に適用することで新たな知見が得られると期待できる。

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図 2-10 MBE成長中の表面構造の存在確率。ΦGa = 1 ML/s。

図 2-11 MBE成長中の GaN極性面における最も存在確率の高い表面構造。実験 データ:Hacke (1996) = [126]、Cheng (1999) = [127]、Smith (1997) = [84]、Foxon (1999) = [131]。