3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
3.7. ステップ相互作用と ESB 効果を考慮した新規ステップバンチングモデルの
3.7.2. 成長表面の安定性相図
式(3-59)と式(3-60)で与えられる𝐹𝑏𝑢𝑛𝑐ℎと式(3-63)で与えられる𝐹3𝐷より作成したステ ップバンチングと三次元成長に対する表面安定性相図を図 3-19に示す。図中の青い領 域がステップバンチングと三次元成長に対して安定である条件を示している。成長速度 が高いほど三次元成長になりやすい。一方、バンチングは抑制される傾向にある。オフ 角を大きくするとテラス幅 L0が拡散距離 Lnucに対して小さくなるので三次元成長は抑 制される。𝛷 < 1°であれば、Φを大きくするほどバンチングが発生しやすくなるが、𝛷 >
1°ではΦが大きいほどバンチング発生が抑止される。ただし、𝛷 < 1°における𝐹𝑏𝑢𝑛𝑐ℎの 増加に対して𝛷 > 1°の𝐹𝑏𝑢𝑛𝑐ℎの減少は緩やかである。したがって十分に高い成長速度
(図中ではおよそ>2μm/h)でなければΦを大きくしてもバンチングを抑制することは できない。図 3-19の表面安定性相図と表 3-1のGaN系結晶における実験傾向を比較す る。実験的には成長速度が低く、オフ角が大きいときにバンチングは発生しており、図
3-19 の𝛷 < 1°の領域における結果を良く再現している。GaN 系結晶では成長速度は通
常1μm/h程度でありオフ角は0.1°のオーダーであることから、𝛷 > 1°かつF>2 μm/hで
予測されているような、Φを大きくすることによるバンチング抑制の傾向が実験的に確 認されていないと考えられる。
一方でSiC の成長速度は近年では100μm/h 程度と高く、通常用いられる基板も4°ま
たは8°と大きい。したがって成長条件は図 3-19における𝛷 > 1°かつF>2 μm/hの領域
に対応していると考えられる。実際、SiCでは表 3-3に示すようにオフ角が大きいとバ ンチングが抑制できるという報告がなされており本解析により良く説明できる。
表 3-2に示すようにGaAs系結晶においては、0.1°オーダーのオフ角を用いた実験で は GaN 系結晶と同様にオフ角が大きいほどバンチングが発生しやすいと報告されてい る。しかし、0~12°という大きな範囲で行った実験では低いオフ角においてバンチング が発生したと報告されている[160]。したがってGaAs系結晶における実験傾向も図 3-19
𝐿𝑛𝑢𝑐 (𝐷 𝐹)
𝑠∗ 2(𝑠∗+2)
, (3-62)
𝐹3𝐷 𝐷𝐿0−2(𝑠∗+2)/𝑠∗, (3-63)
3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
86 の表面安定性相図を用いて良く説明できる。
BCF 理論で用いるパラメータは未知のものが多く、非経験的に定量的な予測を行う ことは困難であり、また結晶の種類によるパラメータの違いは考慮していないものの、
本論文に示す表面安定性相図はGaN 系結晶、SiC、GaAs系結晶における実験傾向をう まく説明している。すなわち、オフ角と成長速度が低い成長条件においては高いオフ角 でバンチングは発生しやすく、オフ角と成長速度が十分に高い成長条件においては低い オフ角において発生しやすい。
成長速度が高いほどバンチングに対して安定であるのは、正の ESB が存在するとき には成長によってステップが等間隔化されるためである。Tersoff らのモデルでは ESB 効果を考慮していなかったために、成長速度が高いと逆にバンチング幅が抑制されると 予測していた[197]。したがって、成長速度が高いほど安定であるという実験結果を説明 するためには本解析のようにESB効果の考慮が必要であることが明らかとなった。
Bryan らは AlN(0001)の成長実験において、オフ角の方向によってバンチング発生後
の表面モフォロジーが大きく異なることを報告している[149]。これはオフ角の方向に よって異なるステップが出現し、実質的なステップのパラメータ(相互作用の係数や
Kinetic係数)もまた異なっているために、バンチングの発生しやすさが変化するからで
あると解釈できる。
図 3-19 三次元成長、ステップバンチングに対する表面安定性相図。
0 1 2 3 4 5
0 0.5 1 1.5 2
G ro w th r at e, F [μm/ h]
Misorientation angle, Φ [deg]
3D growth
Step-flow growth
Step ordering
Step bunching
𝑭
𝟑𝑫𝑭
𝒃𝒖𝒏𝒄𝒉3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
87
3.7.3. 安定性相図の成長温度依存性
図 3-20 に表面安定性相図の温度依存性を示す。𝐹𝑏𝑢𝑛𝑐ℎは温度が上がるにつれ急激に 大きくなりバンチングが発生しやすくなる。これは高温ではテラス上での拡散とステッ プからの脱離が促進されることによりステップ同士で原子の交換が素早く行われバン チングが素早く進行することと、高い熱エネルギーにより ESB の効果が相対的に弱く なることによるものである。実験的にも高温においてバンチングが発生しやすいことが 報告されている(表 3-1)。
図 3-20 表面安定性相図の温度依存性。
3.7.4. 表面安定性相図の拡散障壁依存性
表 3-1と表 3-2に示すようにGaN系結晶、GaAs系結晶においてはV/IIIが低いほど バンチングが発生しやすいことが報告されている。V/III 以外にも、結晶性を良くする 傾向のあるサーファクタント原子を同時に成長炉に導入することによってバンチング が発生しやすいことも報告されている(GaN成長におけるInやMg)。ここで、サーフ
0 1 2 3 4 5
0 0.5 1 1.5 2
G ro w th r at e, F [μm/ h]
Misorientation angle, Φ [deg]
1250 ℃ 1200 ℃ 1150 ℃
𝑭
𝟑𝑫𝑭
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ァクタントとは下地表面の性質を変化させることを目的で下地表面に吸着させる物質 のことである。低いV/IIIやサーファクタント原子の導入は、実質的に成長原子の拡散 障壁を低くし、表面拡散を促進する効果があると考えられる。
図 3-21に表面安定性相図の拡散障壁依存性を示す。拡散障壁が低いほどバンチング が発生しやすく、実験傾向を良く再現している。これは拡散が促進されるとステップ間 での原子の交換が素早く行われ、バンチングが素早く進行するためである。
以上のように本解析結果は成長温度、V/III に関する実験傾向もうまく再現すること ができている。一方でFujikuraら[60]は成長温度が低くV/IIIが高いほどバンチングが発 生しやすいという、他の実験や本解析結果とは異なる結果を報告している。Fujikuraら の成長方法はHVPE法である。HVPE法ではMOVPEと比べて気相中の複雑な化学反応 を含んでおり、温度やV/IIIを変えた時にHVPE特有の物理現象が発生することによっ てバンチングの発生傾向が変化した可能性がある。もしくはV/III比を増加させると成 長速度の減少を伴うので、成長時の ESB によるステップ等間隔化効果が弱くなること によってバンチングが発生したと考えられる。
図 3-21 表面安定性相図の拡散障壁依存性。