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3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明

3.2. ステップバンチングの発生傾向エラー! ブックマークが定義されていません。

3.3.5. ステップの相互作用

ステップの相互作用もバンチング不安定性に影響を及ぼす。ステップ端の原子は化学 結合が欠落していることにより、ステップ近傍にはひずみ場が生じる。このひずみ場同 士、したがってステップ同士は相互作用する。固体の弾性理論によると、固体の自由表 面の一点にデルタ関数型の力Fが作用するとき、その周囲には𝐹/𝑟に比例する変位が生 じる[195]。

結晶表面に原子が吸着しているとき、その原子は下地の結晶原子に対して力を作用する。

この様子を図 3-5に示す。吸着原子は静止しているため、作用反作用の法則から下地原 子に与える力のベクトルの合計はゼロとなるが、それぞれの力は原子大きさ(d)程度

𝑢𝑚𝑜𝑛𝑜𝑝𝑜𝑙𝑒(𝒓)~𝐹𝒆𝒓/𝑟. (3-3)

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異なる位置で作用する。ここでは簡単のため、反対方向を向いている同じ大きさの力2 つが存在していると仮定する。このような状況においては吸着原子の周辺に𝑑(𝐹𝑑/𝑟)/

𝑑𝑟~𝐹𝑑/𝑟2の変位が生じる。

これは静電気において点電荷のポテンシャルが∝ 1/𝑟であるのに対して、電気双極子の ポテンシャルが∝ 1/𝑟2であることに対応する。このアナロジーにより、表面に作用して いる一つの力を“力の単極子(Force monopole)”、少しだけ離れた場所に作用する方向 が異なる力の集まりを“力の双極子(Force dipole)”と呼ぶ。𝐹𝑑は双極子モーメントに対 応する。表面に2つの吸着原子AとBが距離rだけ離れて存在しているときの相互作 用を考える。吸着原子Aによって生じる変位は式(3-4)で与えられる。簡単のため、変位 はx方向のみと考え、吸着原子Bをx軸に沿った2つの力±𝐹からなる力の双極子と考 えると、相互作用エネルギーは、

となる。すなわち、吸着原子同士の弾性的相互作用エネルギーは1/𝑟3に比例し反発力で ある。より詳細な計算を行うと

となる[176]。ここでmは双極子モーメント、Eはヤング率、ζはポアソン比である。こ のような弾性理論をもとにした議論によって、ステップ同士の弾性的な相互作用は反発 力でエネルギーは1/𝑟2に比例することがわかる[176, 196]。

図 3-5 力の双極子(force dipole)の概略図。

d

F F

𝑢𝑑𝑖𝑝𝑜𝑙𝑒(𝒓)~𝐹𝑑𝒆𝒓/𝑟2. (3-4)

𝑊𝑎𝑑−𝑎𝑑= 𝐹𝑢𝑑𝑖𝑝𝑜𝑙𝑒− 𝐹 {𝑢𝑑𝑖𝑝𝑜𝑙𝑒+ 𝑑 (𝑑𝑢𝑑𝑖𝑝𝑜𝑙𝑒 𝑑𝑥 )}

= −𝐹𝑑 (𝑑𝑢𝑑𝑖𝑝𝑜𝑙𝑒

𝑑𝑥 ) ∝(𝐹𝑑)2 𝑟3 ,

(3-5)

𝑊𝑎𝑑−𝑎𝑑=1 − 𝜁2

𝜋𝐸𝑟3 [𝑚𝑚− 𝜁

1 − 𝜁(𝑚𝑚𝑧𝑧 + 𝑚𝑧𝑧𝑚) + ( 𝜁

1 − 𝜁)

2

𝑚𝑧𝑧𝑚𝑧𝑧 ],

(3-6)

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下地基板との格子不整合などによって結晶にひずみが生じている場合には別の種類 のステップ相互作用が発生する。ステップにおいては結晶の高さが不連続になるため、

ステップにおいては平面内の応力がバランスされていない。そのため応力を受けている 結晶表面でのステップは、弾性理論によって力の単極子の列とモデル化される。双極子 同士の計算と同様にして、この場合のステップ間相互作用は引力でエネルギーはln(𝑟) に比例することがわかる。これは弾性相互作用1/𝑟2と比べて、より長距離的な相互作用 である。

Tersoff らは上記の弾性的な斥力相互作用1/𝑟2と応力による引力相互作用ln(𝑟)が存在

する場合のバンチング不安定性について理論的に解析を行った[197]。Tersoff らは線形 安定性解析(詳細は3.7節で説明する)を用い、等間隔に並んだステップ列に擾乱を与 えた後のステップ間隔の時間発展について計算を行った。Tersoffらの計算によると、線 形近似を用いた場合の、m番目のステップの初期位置からの擾乱umは、

と計算される。ここでRはバンチング増大率で

であり、Δは擾乱の振幅、Fは表面に吸着する粒子の流束、Nは擾乱の周期、α1、α2は それぞれ引力相互作用、斥力相互作用の係数である。すなわち、m番目のステップが他 のステップから受ける相互作用エネルギーは、

となる。Dはテラス上の拡散係数、Aは粒子一個が占める面積、E1はステップからテラ スに脱離するために必要なエネルギー、Lavはステップが等間隔に配置した時のテラス 幅である。ただし、これらの記号は Tersoff らの論文中の表記をそのまま用いており、

後述の本計算で用いる記号とは関連がない。格子不整合などのひずみによってバンチン グが発生するというTersoffらのモデルはGaN/Si [157]やSiGe/Si [198, 199]などのヘテロ エピタキシャル成長実験によって支持されている。Tersoffらの計算によると、引力相互 作用由来のステップバンチングは高温においてより速く形成される。これは、温度が高 いほどステップから原子が脱離しやすく、また表面での拡散が早くなる。するとステッ プ間で原子のやり取りが早く進むため、バンチングが形成される速度が速くなるためで ある。Tersoffらの計算はまた、平均テラス幅Lavが大きいほど(すなわちオフ角が小さ いほど)ステップバンチングが素早く進行することを予測している。これはテラス幅が

𝑢𝑚(𝑡) 𝑒𝑅𝑡𝛥 cos (2𝜋

𝑁 𝑚 +2𝜋

𝑁 𝐹𝑡), (3-7)

𝑅 = (𝐵𝛼12 𝛼2 ) 𝐿20

𝐿3𝑎𝑣 8𝜋4

𝑁3 (1 −1

𝑁+𝐿20𝜋2

𝐿2𝑎𝑣𝑁) (−1 +2 𝑁− 1

𝑁2), (3-8)

𝐿0= √𝛼2/𝛼1, (3-9)

𝐵 = 𝐷𝐴

2𝑘𝑇𝑒−𝐸1/𝑘𝑇, (3-10)

𝑈𝑚 = ∑ {𝛼1ln(𝑥𝑛− 𝑥𝑚) + 𝛼2/2 (𝑥𝑛− 𝑥𝑚)2}

𝑛≠𝑚

, (3-11)

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大きいと、長距離の引力相互作用が近距離の斥力相互作用よりも支配的になるためであ る。逆にテラス幅が小さいと近距離の斥力相互作用が優勢的になりバンチング速度が小 さくなる。しかしTersoff らのテラス幅依存に関する予測はGaN系、GaAs 系結晶にお ける実験傾向と逆になっている。エラー! 参照元が見つかりません。節で述べたように 実験的にはテラス幅が短い(オフ角が大きい)場合にステップバンチングが発生しやす い。

格子不整合によってバンチングが発生すると主張する論文[157, 198, 199]が存在する 一方、格子不整合度がバンチング不安定には無関係であるという主張も存在する。Bryan らはAlNをAlN基板上とサファイア基板上に成長させ、ステップフロー成長からステ ップバンチング成長に転換する臨界オフ角は下地基板によらず一定であることを確認 した。この結果からBryanらはエピタキシャル層にかかる応力とバンチング不安定性は 無関係であり、AlN におけるバンチング現象はTersoffらのモデル[197]では説明できな いと主張した[149]。

Tersoff らのモデル[197]では引力相互作用の起源として、ひずみによる力の単極子同

士の相互作用を想定している。しかし、ひずみが存在しないような結晶表面上でも引力 相互作用が確認されている。FrohnらはCu(110n) (n=7、19)において、3-5原子分の短い 距離で引力相互作用が働くことを発見した[200]。SwamyらはPt(110)表面においてステ ップの引力相互作用を確認し、ひずみ由来の引力相互作用モデルだけではSwamyらの 実験を説明できないことを主張した[201]。Sudohらは2 ~ 4°のSrTiO3に結晶を800 ℃で アニーリングしてからステップ間の距離を測定し、近距離の引力相互作用と遠距離の斥 力相互作用があることを発見した[202]。したがって、AlNにおいてもひずみとは無関係 なステップ引力相互作用が働いていることも考えられる。