3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
3.4. BCF 理論と解の性質
3.4.2. ステップ取り込みの非対称性と不安定性
3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
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を得る。さらに拡散距離xdiffがL0よりも十分に長く(𝑥𝑑𝑖𝑓𝑓 ≫ 𝐿0, 𝑥)、平衡濃度は無視で きるほど小さい(𝜌𝑒𝑞 ≅ 0)と仮定すると、
を得る。式(3-27)より吸着原子密度は二次関数状であり、テラスの中心で最大値𝜌 = 𝐹𝐿20/8𝐷を取ることがわかる。吸着原子密度がある一定以上の値になるとテラス上で核 生成が起こり不安定な成長モードとなる。それを抑制するためには温度を上げ D を増 やすことや、Fを小さくすること、またオフ角を大きくしてL0を小さくすることが有効 であることがわかる。特にオフ角を大きくする方法は不安定モードを抑制するのに有効 である。オフ角Φとテラス幅L0の間には𝛷 ≅ 1/𝐿0の関係があるため、𝜌 ∝ 𝐹/(𝐷𝛷2)で ある。そのため、オフ角を2倍にすることによって不安定モードを抑制しつつ成長速度 を4倍にすることが可能である。同様にオフ角を大きくすることによって成長温度を低 くすることも可能である。SiCではテラス上の核生成を由来とした異相混入を抑制する ために、大きなオフ角基板を用いたステップ制御エピタキシーが用いられる[205]。
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である。擾乱を与えた場合のステップへの取り込み量の変化を図 3-8に示す。擾乱とし て𝑢𝑚= 𝛿 exp(𝜔𝑡 + 𝑖𝑚𝜃)を仮定する。ここでωはバンチング増幅率であり、実数部が正 であれば擾乱は増幅しバンチングが発生し、負であれば擾乱は減衰しステップは安定に 保たれる。𝜃 = 2𝜋/𝑁は波数であり、Nは擾乱の周期である。これらを式(3-28)に代入し、
ωについて解くと
を得る。すなわち、𝜕(𝐽−− 𝐽+)/𝜕𝐿0が正であればバンチングに対して不安定であり、負 であれば安定である。式(3-25)を用いると
と計算できる。式(3-31)から、成長中(𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞> 0)であれば下側ステップに取り込ま れやすい場合(𝛥−> 𝛥+、𝑑−< 𝑑+)に不安定であり、上側ステップに取り込まれやすい 場合(𝛥−< 𝛥+、𝑑− > 𝑑+)には安定であることがわかる。蒸発中(𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞< 0)であ ればこの不安定性は逆転する。すなわち𝛥−> 𝛥+、𝑑−< 𝑑+の場合に安定であり、𝛥−<
𝛥+、𝑑−> 𝑑+の場合に不安定である。
図 3-8 擾乱を与えた時のステップへの取り込みの変化。
式(3-31)の結果を直観的に説明する。もしESBが無限に大きく表面からの蒸発がない ならば、テラスに入射した原子はすべて上側のステップに取り込まれ、ステップの速度 は下側のテラス幅に比例する。この状態においてステップの間隔に擾乱が加わったなら ば、その擾乱が減衰しステップが等間隔に再配列するようにステップの速度は変化する
(図 3-9)。逆にInverse ESBが無限に大きい場合にはステップの速度は上側のテラス幅
m – 1 m m + 1
um-1
um
um+1
J
+(L
0)
J
+(L
0+ u
m+1– u
m) J
–(L
0)
J
–(L
0+ u
m– u
m-1)
L
0𝑣0= 𝐽−(𝐿0) + 𝐽+(𝐿0), (3-29)
𝜔 = (1 − cos 𝜃) 𝜕
𝜕𝐿0(𝐽−− 𝐽+) + 𝑖 sin 𝜃 𝜕
𝜕𝐿0(𝐽−+ 𝐽+), (3-30)
Re[𝜔] = (1 − cos 𝜃)𝜅3𝐷(𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞)(𝑑+2 − 𝑑−2) {(1 + 𝜅2𝑑−𝑑+) sinh 𝜅𝐿0+ 𝜅(𝑑−+ 𝑑+) cosh 𝜅𝐿0}2
∝ (𝐹𝜏 − 𝜌𝑒𝑞)(𝑑+2− 𝑑−2),
(3-31)
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に比例する。その場合、ステップ位置に擾乱が加わると擾乱を増幅するようにステップ 速度が変化し、バンチングが発生する。
図 3-9 ESBとInverse ESBがステップ間隔に与える影響。
ESBは吸着原子密度の分布やテラス上で核生成が起こりやすい位置にも影響する。式
(3-23)において𝜅𝑑±をパラメータとして計算したρを図 3-10に示す。EESBが存在する場
合(𝜅𝑑−= 3、𝜅𝑑+= 0)、ステップ下側の付近にρは最大値を持つ。したがって高い成 長速度で成長を行った場合には下側ステップ付近で優先的に二次元核が発生すること が予測される。逆に EiESBが存在する場合(𝜅𝑑−= 0、𝜅𝑑+= 3)には上側ステップ付近 で最大密度を取るので、核生成もそこで起こりやすいことが予測できる。
ZhengらはMBEによってGaN表面に0.2 ML程度のGaNを成長させ核が発生しやす
い場所を調査した[184]。ZhengらはIdeal状態のGaN表面に成長させた場合には下側ス テップ付近で核生成が発生する現象を観察した。一方で成長前に2 MLのGaを表面に 堆積させた後に成長を行った場合には上側ステップ付近で優先的に核生成が起こり、
Ideal表面の場合よりも一つ一つの核が大きく密度が低いことを観察した。Zhengらの実
験から、GaN 表面のGa 層は成長時に吸着原子の拡散を促進させること、Ga 層が存在 しない場合には実質的なESB が働き、Ga層が存在する場合にはInverse ESBが働くこ とが示唆される。他にもShenらはMBEによってGaNを成長した後、上側ステップ付 近で優先的に核生成が起こっている表面を観察している(論文中Fig.1. C)[153]。また、
Chuaらは MOVPE による GaAs成長で、同様に上側ステップ付近で優先的に核生成が
起こっている表面を観察している(論文中 Fig.1. (a))[165]。さらに Bryan らも AlN
ESB (成長中)
L0 L0 – ΔL
L0 + ΔL v0 + Δv
v0 – Δv v0
L0
L0
L0
L0 L0 – ΔL
L0 + ΔL v0 + Δv
v0 + Δv v0 – Δv
v0
Inverse ESB (成長中)
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MOVPEにおいて同様に上側ステップ付近の核生成を観察している(論文中Fig.1.(b))
[149]。これらの論文中では核の発生位置と ESBとの関係を考察していないが、これら
の結晶では成長条件によってはInverse ESBが働く可能性があることを示唆している。
核の発生位置を観察することによってESBの有無を間接的に調べることができるため、
今後この点を注視した実験的研究が行われることが期待される。
図 3-10 ESB(またはInverese ESB)とテラス上の吸着原子密度ρの関係。𝜿𝑳𝟎 = 𝟐、𝝆𝒆𝒒= 𝟎。
ESBが存在し、結晶が成長している場合にはミアンダリング(ステップの蛇行)が発 生する[177]。この時の結晶表面における原子密度分布の概略図を図 3-11に示す。もし ステップがわずかに蛇行したとすると凸である部分が原子をさらに集めやすくなる。す ると凸な部分の成長スピードが上がるため、さらに曲率が大きくなりミアンダリングが 発生する。一方で蛇行したステップは直線ステップと比べて欠損した化学結合が多いた め、エネルギー的に不安定である、そのため、エネルギーを減少させるために原子の再 配列によりステップは直線化される傾向もある。したがって成長速度が十分遅ければ、
この再配列によってミアンダリングは発生しない。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
-0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5
ρ/Fτ
x/L
0𝜅𝑑−= 0 𝜅𝑑+= 0 (No Barrier) 𝜅𝑑−= 0
𝜅𝑑+= 3 (Inverse ESB)
𝜅𝑑− = 3 𝜅𝑑+ = 0 (ESB) L0
x
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図 3-11 ESBが存在し成長している場合の結晶表面の原子密度分布。