3. 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
3.6. Kinetic Monte Carlo シミュレーション
結晶成長中の表面を模擬する方法としてKinetic Monte Carlo(KMC)シミュレーショ ンがよく用いられる。本章3.8節においても従来のステップバンチングモデルの検証に KMCを用いる。そのため、基本的なKMCシミュレーションの概念を本節で説明する。
Monte Carlo とはカジノで有名なモナコ公国の地区の名前である。それに由来して、
乱数を用いた数値計算やシミュレーション全般のことをMonte Carlo法と呼ぶ。結晶成 長の分野においては入射や脱離、拡散などの現象を乱数によりランダムに発生させるこ とによって、原子スケールの成長現象を模擬することに用いられる。分子動力学
(Molecular Dynamics)や第一原理計算では計算時間、計算サイズが限られているため、
長時間、ミクロンレベルでの表面モフォロジーの変化をシミュレーションすることはで きない。その一方、KMC 法であれば計算コストが軽いため、表面の非平衡現象を大き なスケールでシミュレーション可能である。3.4節で説明したBCF理論は表面における 拡散現象を解析的に記述しているが、解析は一次元でありテラス上での核生成などは考 慮に入っていない。そのため、詳細な表面モフォロジーの解析にはKMCが必要となる。
原子はすべてサイコロ状の立方体であり結晶は単純立方格子をなすと仮定する。気相
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8
-0.5 -0.3 -0.1 0.1 0.3 0.5
ρ - ρ
eqξ/L
0𝐹𝐿20 𝐷 = 1 𝐹𝐿20
𝐷 = 5 𝐹𝐿20
𝐷 = 10
L0 ξ
3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
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から毎秒Fの流束で表面に原子が吸着する。拡散、脱離の現象はすべてアレニウス式の 速度定数
に従う。ここでD0は振動数因子であり1013 s-1を用いる。活性化エネルギーEiは
で与える。ここでnneiは吸着原子の平面方向の隣接原子数で、Enはその結合1つあたり のエネルギーである。Ediff、Edesは拡散、脱離に必要なエネルギー障壁である。また、原 子がステップに取り込まれる、またはステップから脱離する場合などには追加の拡散障 壁EESBとEiESBが発生する。これらの速度定数、活性化エネルギーの概要図を図 3-14に 示す。
図 3-14 KMCにおける活性化エネルギー。
原子の拡散のパスに対する追加障壁の有無の判別のフローチャートを図 3-15 に、そ の例を図 3-16示す。
入射流束 F
+E ESB
+E iESB 拡散: n nei *E n +E diff
脱離: n nei *E n +E des
n
nei:平面内の隣接原子数
E
n:ボンド 1 つあたりのエネルギー E
diff:拡散障壁
E
des:脱離に必要なエネルギー
𝑘𝑖 = 𝐷0exp(−𝐸𝑖/𝑘𝑇), (3-37)
拡散:𝑛𝑛𝑒𝑖𝐸𝑛+ 𝐸𝑑𝑖𝑓𝑓,
脱離:𝑛𝑛𝑒𝑖𝐸𝑛+ 𝐸𝑑𝑒𝑠, (3-38)
3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
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図 3-15 拡散パスのフローチャート
図 3-16 拡散パスの種類の例。
各Monte Carlo Step(MCS)における処理を説明する。まず、その時点において起こ
りうる事象のすべての速度定数を計算し、その合計をktotalとする。そのMCSにおいて
No
ESBを適用
+EESB Q1. Yes 拡散時に高さが
変化しない
No
Inverse ESBを適用
+EiESB
Yes Q3.
拡散後のサイトの 四方にそれより 高いサイトが存在 No
追加の拡散障壁無し Q2. Yes
拡散前の原子の 平面隣接数がゼロ
Q1. 拡散時に高さが変化しない
Q2. 拡散前の原子の平面隣接数がゼロ
Q3. 拡散後のサイトの四方にそれより高いサイトが存在
例1:
Q1Yes Q2Yes Q3Yes
∴No Barrier
例2:
Q1No
∴ESB
例3: Q1Yes Q2Yes Q3No
∴Inverse ESB
例4:
Q1Yes Q2No
∴Inverse ESB
3 窒化物半導体におけるステップバンチングの原因解明
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事象kiが起こる確率は𝑘𝑖/𝑘𝑡𝑜𝑡𝑎𝑙で与えられる。乱数によってそのMCSで発生する事象 iを1つ決定し、表面の構造をそれに従って変更させる。この 1 つのMCSにおいて物 理時間はdt = − log 𝑢𝑟/𝑘𝑡𝑜𝑡𝑎𝑙だけ進める。ただしurは0 ~ 1の乱数である。その後、次 のMCSへと移行する。これらを繰り返すことによって表面形状を変化させていく。