博士(医学)楊 志博 学位論文題名
サイ ク口フォスファマイドにより抑制される 抗腫 瘍エフェクター活性に対するレンチナン お よ び ク レ ス チ ン 前 投 与 の 効 果
学位論文内容の要旨
Iはじめに
癌化学療法剤の持つ免疫抑制作用は癌化学療法を施行された宿主生体の微生物感染に対する抵 抗生を弱め,さらに化学療法の癌に対する治療効果そのものを減弱させることが指摘されている。
従って,化学療法による免疫抑制はできる限り軽減する必要がある。このため,臨床的には多く の 場 合Biological Response Modifiers (BRM)が抗 癌剤と併 用され る。本研 究では抗 癌剤で 抑 制 さ れ た 抗 腫 瘍免 疫 工 フェ ク タ ーの 変 動 に対 す るLTN,PSK( 以 下,BRM)の 影 響を 検 討 し,BRMの抗癌剤との併用意義を検討した。
n材料と方法 1)動物と薬剤投与
7週 齢 の 雌 性C 57BL/6マ ウ スを 使 用 した 。 サ イク ロ フ ォ スフ ァ マ イド(CY)は150mg/kg を 尾 静 脈 よ り1回 投 与 し , レ ン チナ ン(LTN:1又 は3mg/kg/day)お よ び クレ ス チ ン(PSK: 150又は300mg/kg/day)はCY投与前7日間腹腔内投与した。
2)脾細胞の採取と脾細胞総数の算出
CY投 与後1,3,5,7及 び9日目にマ ウスを 屠殺し, 無菌的に 摘出し た脾臓を ルーズ フィツ ティングガラスホモジナイザーを用いて浮遊細胞とした。一定重量の脾臓から回収される細胞数 を数え,脾重量を積算して脾1個当りの細胞総数とした。
3)Natural killer (NK)細胞活性の測定
96穴microplateの 各wellに 脾細 胞 を2xl06,1 xl06,5 xio゜ 個/wellに分 注 し , 標的 細 胞 と し て 1Cr Sodium Chromate (NEN)に て 標 識 し た (10011Ci/10° )YAC.1細胞 を l xio゜個/well加え37℃,6時間培 養後の 上清0.1紺 中に遊 離する放 射活性をァ‑ counterに
て測定した。また,標的細胞の30%cytolysisを得るのに必要な脾細胞をllytic unit (LUヨ。)
として算定し,一定細胞数当りの活性(LUヨ。/10 )とともに,上述の脾細胞総数よルマウス 脾臓1個当りの活性(LUヨo/spleen)を算出した。
4)Lymphokine activated killer (LAK)前駆細胞活性の測定
脾 細 胞 をlxi06個 / 縦 に調 整 し 培地(RPMI1640十10%FCS)に ヒトリコ ンビナ ントイン ター ロ イ キ ン2 (rhIL2)1000JU/縦 を 加 え5%COよ,37℃ にて5日 間培 養 後 の細 胞 を エフ ェ ク ター 細胞とし た。NK細 胞に非感 受性の同 系BMT―11細胞を 標的細 胞とした 障害性を上記の I Cr・ release assayで 測 定 し た 。 NK細 胞 活 性 と 同 様 にLUヨ 。 を 算 出 し た 。 5)IL―2産生能の測定
マ ウ ス 脾 細 胞 (5 xio° / 紺 ) をConcanavalinA5rig/ 加添 加 し たRPMI1640十10%FCS 培 地に て24時 間培養後 の上清 をサンプ ルとしIL―2活 性測定に 供した 。IL―2活性はIL→2依 存 性CTLL―2細 胞lxi04/wellを96穴microplateに 分 注 し , 上 記サ ン プ ルを2培 階段 希 釈 し , 加 え て24時 間 培 養 後MTTassayに てCTLL―2細 胞 の 増 殖 曲 線 を 描き ,thIL―2標 準 液 によるStandard Curveより検体のIL−2活性を算出した。
6) 11ー3産生能の測定
IL一3活 性 はIL一3依 存 性FDCP2細 胞1xi0 4/wellを96穴microplateに 分 注 し , 上 記 よ うな24時間 上清培養 液をサ ンプルと し,2培階段 希釈し加 えて24時 間培養後MTTassayにて FDCP2細 胞 の 増 殖 曲 線 を 描 い た 。IL―3産 生 株WEHI3B細 胞 培 養 上 清 の‑FDCP2細 胞 増 殖 支 持 能 をStandard Curveと し て ,FDCP2細 胞 の 増 殖 最 大 値 の50% 支 持 のWEHI3B細 胞 培 養 上 清 液 の 濃 度 を l Unitと し , 検 体 の 希 釈 倍 数 よ り Unitを 計 算 し た 。
m結 果
1) ,脾細 胞総数に 対する 影響:
PSK150,300mg/kg単独投与 マウスを 正常マ ウスと比 較する と,いず れも脾細胞総数が有意 に 増 加 し た 。LTN投 与 で も 増 加 傾向 が 認 めら れ た 。ま た , これ ら のBRM前 投 与でCY投与3 日 後の 脾 細 胞総 数 の 減 少が 有 意 に予 防 さ れた 。 ま た7日 後 の脾 細胞 総数の 回復はLTN,PSK 投与の いずれ において も著し く促進さ れた。
2) NK細胞活性 に対する 影響:
脾 臓1個 当 り のLU30で 表 さ れ るNK細 胞 活 性 に 対 し て ,LTNあ る い はPSK単 独 投 与 で は 有 意 な影 響 が 見ら れ な か った 。 し かし こ れ らのBRM投 与 に より ,CY投 与3日 後に 見 ら れる NK細 胞 活 性の抑 制が有意 に軽減 され,CY投 与7日 目に認 められる 活性の 回復も促 進され る傾 ‑ 71―
向を示した。
3) LAK前駆細胞活性に対する影響:
脾臓1個 当りのLAK前駆 細胞活性 はこれら のBRM単独投与により増加した。CY投与3日 後に見 られるLAK前駆 細胞活性の抑制に対して,LTNあるいはPSK前投与では改善効果を 示 さな か った が ,CY投 与7日後 の活性回 復はこれ らのBRM前投 与により 促進され た。
4)Interleukinー2産生能に対する影響:
IL―2産生 能はLTN単独投与により増加し,CY投与後に見られる抑制に対してもLTN前 投与は有意な予防効果を示したが,PSK投与では顕著な影響は見られなかった。CY投与7日 後のIL―2産生能の回復はLTNあるいはPSK前投与のいずれにおいても有意に促進された。
5) Interleukin―3産生能に対する影響:
ILー3産生能はCY投与で,翌日より一時的に抑制されたが,その後急速に回復し,5日目 からりバウンド的に増強された。LTN,PSK前投与CY投与群でのIL―3産生能は低下せず,
ほぼ正常レベルに維持された。
IV考 察
BRM前投与に より抗癌 剤CYで起こ る宿主抗 腫瘍工フ ェクターであるNK細胞,LAK前駆 細胞活性の抑制が改善されることを示した。このBRM投与の改善効果は「抑制に対する予防 効果」と「回復に対する促進効果」とに分けることができる。即ち,BRMは脾細胞総数に対し て抑制予防と回復促進の両方の作用を示し,NK細胞活性に対しては回復促進より抑制予防が,
LAK前駆細胞に対しては抑制予防より回復促進が顕著であった。正常マウスにおける抗腫瘍工 フェクタ一活性のCY投与による変動には,種々の内因性サイトカイン産生の変動が関与して いると考えられるが,一般的にIL―2,‑3はTh細胞から産生されるとされており,これが NK細胞,LAK前駆細胞活性に影響すると推察される。本実験で示したCYによる抗腫瘍工フェ クター活性の抑制に対するBRM前投与の改善効果にもIL一2産生能の改善が関与していると 考えられる。またCYで惹起したIL―3産生能低下に対するBRMの改善効果は抗癌剤による 骨 髄 細 胞 抑 制 を 減 弱 し , 各 種 血 球 の 成 熟 分 化 機 能 に 有 利 に 働 く と 考 え られ た 。
V結 語
抗癌剤CYによる抗腫瘍増エフェクター活性の抑制がBRM前投与によって改善されること を示した。このBRMの作用の一部は内因性サイトカイン産生能の改善によるものと推察され た。以上のような結果は,BRMの化学療法剤との併用が宿主免疫機能の正常維持をもたらすこ ―72―
とにより化学療法の効果の増強に寄与しうる可能性を示唆している。
学位論文審査の要旨 ー 主査 教授 細川真澄男 副 査 教 授 武市 紀 年 副 査 教 授 皆川 知 紀
癌化学療法剤(以下,抗癌剤)の免疫抑制作用は,癌化学療法を施行された宿主の微生物感染 に対する抵抗性を弱めるばかりでなく,化学療法の治療効果そのものを減弱してしまうことが指 摘 され て い る。 一 方 、レ ン チ ナ ン( 以 下 ,LTN), クレ スチン (以下,PSK)などのBiologi‑
cal Response Modifiers (BRM)は 単 独で は 効 果が 弱 く,ほと んどの場 合に抗 癌剤と併 用さ れ てい る 。 そこ で , 申請 者は ,抗癌剤 に併用 されるBRMの意義 を明ら かにする ために ,抗癌 剤 投 与 に よ り 抑 制 さ れ る 抗 腫 瘍 工 フ ェ ク タ ー 活 性 に 対す るBRM投 与 の 影響 を 検 討し た 。 実 験 は7週 齢 の 正常 雌C 57BL/6マ ウ スを 用 い て行 な わ れた 。 マ ウス にcyclophosphamide (CY) 150mg/kgを 尾静 脈 よ1回 投 与 し, 経 目 的に 脾 細 胞の 総 数 ,ナ チ ュ ラ ルキ ラー(NK)細 胞 活 性 , リ ン ホ カイ ン 活 性化 キ ラ ー(LAK)前 駆 細胞 活 性 , イン タ ー ロイ キ ン2お よ び3(11
―2,IL−3) 産 生能 を 検 討 した 。NK細 胞 活 性は 新 鮮 脾細 胞 を ,LAK前駆 細 胞 活性 はヒトリ コ ンビ ナ ン トIL―2(lOOOJRU/7nE)添加 培地で5日間 培養し た脾細胞 をエフェ クター として,
そ れぞ れYAC―1細胞 あ る い はBMT一11細 胞を 標 的 とし た ク 口ム 遊 離 試験 で 測 定し た。IL一 2,IL―3産 生 能 は脾 細 胞 をconcariavalinA(5119/紺 )添加培 地で培養 した上 清中のIL― 2、.IL一3活 性 をそ れ ぞ れのサイ トカイン 依存細 胞を用い て測定 し,判定 した。BRM投与 は LTNlな い し3mg/kg/day,PSK150な い し300mg/kg/dayをCY投 与 前7日 間 腹 腔 内 投 与 し た。 そ の 結果 ,CY単 独 投 与 マウ ス で は, 脾 細 胞総 数 , 脾臓 当 り のNK細 胞活 性 ,LAK前 駆 細胞活 性が強 く抑制さ れ,3日目に は最低値 を示す が,5日目以降回復し,7日目には正常レベ ル以上の値を示すりバウンド現象が観られた。しかし,単位細胞数当りのエフェクター活性では NK細胞活 性は全 経過を通 して, ほぽ正常 レペル を維持し たのに対し,LAK前駆細胞活性(ま脾 臓 当り の そ れと 同 様 な変 動を 示し両者 へのCYの 影響に違 いがみ られた。 また,IL一2,IL― 3産 生 能 に お ぼ すCY投 与 の 影 響 に も 違 い が み ら れ ,IL一2産生 能 はCY投 与 後3日 目 を最 低 値とし て抑制 され,そ の後徐 々に回復 するが,9日 目にも正 常レペルには復帰しないが,ILー
3産 生能 はIL―2産 生能 ほど 強く は抑 制さ れず ,ま た, 急速 に正 常 レペ ル以 上に回復した。
以上 の エフ ェク ター 活性 ある いは サイ トカ イン 産生能の変動に対するBRM投与の影響は,
CY非投 与 マウ スの 正常 免疫 能へ の増 強作 用,CY投 与後3日目 の抑 制へ の軽 減作用あるいは7 日 目の 回 復へ の促 進作 用に 分け て観 察さ れる 。す なわ ち, 正常 免 疫能 に対 してはLTNがLAK 前 駆細 胞 活性 をPSKが 脾細 胞総 数、LAK前 駆細 胞活 性を 増強 する が ,そ れら はいずれも顕著 で は な か っ た 。 一 方 , 両BRM投 与 はCY投 与 後3日 目 に 抑 制 さ れ る 細 胞 総 数 ,NK細 胞 活 性 に対 しては有意な軽減作用を示したが,LAK前駆細胞活性に対して全く軽減作用が観察さ れな か った 。 しか し, 両BRMと もCY投与 後7日 目の 回復 に対 して は, 著 明な 促進 作用を示した。
ま た, サ イト カイ ン産 生能 の回 復も 両BRM投与 により促進され,時期的 に早くなった。この こ とに よ り, 脾細 胞総 数, 抗腫 瘍工 フェ クタ ー活 性の回復がBRM投与に より促進される機序 の一 部に内因性サイトカインの関与していることが示唆され た。
以 上の研究成果は,化学療法後の抗腫瘍エフェクター活性の変動を経時的に詳細に検討した結 果 ,LTN,PSKな どのBRMは 正常 免疫 能に 対す る影 響だ けで は評 価し がた い場 合 にも ,化 学 療法 後に抑制される抗腫瘍エフェクター活性の回復促進効果を検討することにより,評価しうる こと を示したものである。本研究で,担癌マウスを用いずに,あえて正常マウスを用いたのは,
担癌 マウスのエフェクター活性は癌細胞の増殖に影響され, 化学療法,BRM投与を施行す ると 癌細 胞の増殖の変動による影響が強く表面に出て,純粋に化学療法,BRl¥4の影響を解析できな いと 考えたからである。
口 頭 発 表 に 際 し, 武市 ,皆 川, 小林 の3教 授か ら,CY投 与後3日目 の抑 制に 対す るBRMの 影 響 が 大 き く ナ ょい のを どう 考え るか ,LTNとPSKとのBRM作用 の違 いは なに か 。サ イト カ イン 産生能をin vitroで検討しているが,内因性サイトカイ ン産生を癌細胞を移植したマウス で 調 べ た か 。BRMに よ る回 復促 進の 機序 はな にか 。腹 腔内 投与 され たLTN,PSKは血 中に 検 出さ れるのかなどの質問があった。申請者は,これらの質問に適切な応答をなしえなかったが,
これ は申請者が日本語による応答に不慣れのためであり,個別に審査いただいた武市教授,皆川 教 授に 改 めて 質問 をい ただ き, 申請 者は 正し い返 答を なし えた の で, 合格 と判定された。
以上 , 本研 究は 現在 臨床 的に も用 いら れて いるLTN,PSKなど が 癌化 学療 法により抑制さ れる 抗腫瘍エフェクター活性の回復促進作用で評価されることを示したものであり,今後,新し いBRMを 評価 する 際に 大き な示 唆を 与 える のも として,博士(医学)の 学位に相当するもの と判 定した。