博士(医学)野原 学位論文題名
先天性脊椎異常に合併する脊髄異常の実験的研究 学位論文内容の要旨
裕
I緒 言
先天性脊椎奇形の手術では神経合併症の頻度が高い。その原因は脊椎奇形に神経組織異常が合 併するからである。これまでの臨床研究からこの神経組織異常は,時には術前検査で検索できな い程度のものであることがわかった。従来より,先天性脊椎奇形や脊髄髄膜瘤の実験的研究は数 多くされてきたが,脊椎奇形例の神経組織がどのような状態にあり得るかを検索した報告6よほと んどない。
この実験の目的は,先天性脊椎異常に伴う脊髄及びその他の神経組織異常を検索することであ り,人間の脊椎・脊髄奇形の一端を解明する足がかりにすることである。そこで,以下のニっの 実験を行った。
実験1:胸・腰椎部脊椎異常を作成しその臨界期を定める。
実験2:実験1から催奇形剤投与時期を一定化し,脊椎異常にはどのような精髄神経系異常が 合併しているかを検索する。
n実験材料および実験方法
動物はゴールデンハムス夕―を使用した。性周期は毎朝膣分泌液を観察して確認し,排卵予定 日の夕刻,雄と同居させ翌朝分離した。雄と分離した日の午前8時を妊娠第1日目O時間と設定 した。
催 奇形 剤 とし て6−amlnonlcotinamide(6―AN)を使 用し,単回(15mg/kgを腹腔 内注 射で投与した。実験1では妊娠5日目12時間から妊娠6日目12時間まで6時間毎の5群に分けて 腹腔内注射を行い,実験2は妊娠6日目O時間に行った。対照群は,妊娠6日0時間に蒸留水(10 mE/kg)を腹腔内注射した。胎仔の摘出は分娩予定前日(妊娠15日目)に母獣を屠殺開腹して行 い,一部は妊娠12日目で摘出した。
実験1では,胎仔摘出後直ちに胎仔の皮膚および内臓器を切除し,骨軟骨透明標本をアルシャ
ン ブ ル ー お よ び ア リ ザ リ ン レ ッ ドS染 色 後 、 グ リ セリ ン と1%KOH溶 液中 で作 成 した 。透 明 標 本は 実体 顕 微鏡 で観 察 した 。
実 験2で は, 摘 出胎 仔は 直 ちに ブア ン 液に 固定 し ,パラフアン包埋 後横断面または矢 状断面連 続切 片を 作 成し ヘマ ト キシ リン 一工オジン染色お よびトルイジンブル ー染色として光顕 下に観察 した 。
皿結 果
1.実験1: 使用した母獣は90匹で,対照群は10匹であった。
1) 胎仔 生 存率 と脊 椎 奇形 発生 率 :胎 仔生 存 率は53.9% であった。脊椎 奇形発生率は31.9% で あった。対照 群で脊椎奇形は観 察されなかった。
2) 脊椎 奇 形の種 類と頻度:観察され た奇形は,肋骨癒 合,半椎,楔状椎 ,蝶形椎,椎体癒合 , 椎弓 癒 合, 椎体 骨 核異 常, 脊 髄髄 膜瘤 と多岐にわたって いた。体軸骨格の 奇形は複雑に重複し て いた。
3) 脊椎 奇 形の 発生 高 位別 頻度 : 頚椎 の調 査 は正 確に で きな かっ た ので 除外 した 。妊娠第5日 目12時 間処 理群 で は, 上位 胸 椎奇 形が 多 く全 脊柱 に およ ぶ広範囲 で重篤な奇形をみ た。妊娠第5 日18時 間処 理群 で も, 上位 胸 椎異 常は 多 かっ たが , 重篤 な異 常 は減 少し て いた 。妊娠第6日0時 間処 理 群で は下 位 胸椎 ・腰 椎 奇形 が多 く,ヒトの先天性 側彎症患者と類似 した奇形が多かった 。 妊 娠 第6日6時間 処理 群 では 仙椎 部 の異 常が 出 現し た。 妊 娠第6日12時間 処 理群 では , 腰仙 椎部 奇 形 の 頻 度 は上 昇し , 上・ 中位 胸 椎奇 形は 出 現し なか っ た。 奇形 の 発生 は,6―AN投 与時 間が 遅れるに従い 頭側より尾側ヘ移 行する傾向がみら れた。
4) 脊椎 奇 形の 形態 : 重度 奇形 は 肋骨 癒合 , 椎体 癒合 , 半椎,楔状椎, 蝶形椎を多椎問にわ た り合 併 した もの で ,軽 度の 骨 格異 常は 半椎などを孤立性 に持つ限局的障害 であった。椎体骨格 の 骨化 遅 延や 分節 異 常は 全奇 形 仔に 奇形 の重症度とは関係 なくみられた。骨 軟骨透明標本でみた 脊 髄髄 膜 瘤は 椎弓 根 問距 離の 著 しい 拡大 があり,その形態 はヒトの脊髄髄膜 瘤と同一視できるも の であった。
2.実験2: 使用した母獣は52匹であった。
1)胎仔生存 率:胎仔生存率は56.1%であった。
2)脊 髄・ 神経 組 織異 常の 種 類と 頻度 : 脊髄 およ び 神経 組織 の 異常 発生 率 は26.6%であった 。 脊髄髄膜瘤(20.O%) ,重複脊髄(3.3%),脊髄空洞症(8.9%),脊髄中心水腫(51.1%),潜在 性二分脊椎や 神経根異常(12.2%),髄膜腔の拡 大(5.6%)がみら れた。対照群には 異常を認め
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なかった。
3)脊椎異常と脊髄異常合併例の形態:横断面切片で潜在性二分脊椎と脊髄異常の合併例がみ られた。二分脊椎と脊髄の癒着をもっものとそうでないものがあり,表層外胚葉(皮膚)の一部 は 欠 損 し て い た 。 脊 髄 神 経 節 の 形 成 異 常 は 軽 度 の も の か ら 重 度 ま で み ら れ た 。
IV考 察
1. 実験 に 使用 した6―ANに っい て:6―ANが 神 経管 の形 成に 障害 を 及ぼ すことはCha mberlainら,McCanlessら の 報告 から 明ら かで あ る。Johnsonらは6ーANが酵素系を阻害 してnicotinic acidやtryptophanの欠乏をきたし,胎仔の器官形成に影響を与え奇形を発生 せしめているとした。
2.ゴールデンハムスターにっいて:この動物は,妊娠の確定が容易で確実であること,妊娠 期間が短いので短期間大量の催奇形実験が可能であることが利点である。本実験の妊娠判定は10 0%の精度であった。
3.脊椎奇形の臨界期:本実験では,6一AN投与が遅くなるにっれて,奇形出現部位が尾側 へ移行する傾向があった。妊娠5日目には全脊椎におよぷ奇形が多くみられ,妊娠6日目は胸・
腰椎部に奇形が多発した。
4.脊椎異常と脊髄異常の合併:脊椎奇形と脊髄奇形を同時に観察することは極めて困難で,
これが今まで両者を同時に調査した報告が少ない原因と思われた。本実験で得られた異常は、脊 索や出現したばかりの中胚葉が障害を受け脊椎奇形が生じ,陥入直前にある神経が障害を受けて いろいろな神経組織奇形を生じたと考えられる。神経堤(neural crest)と椎板(sclerotome) が同時に障害されたとき,潜在性二分脊椎の椎弓と髄膜の癒合が形成されると考えられた。
5.先天性脊椎奇形治療との関連:本実験でみた小さな脊髄の空洞や変形,脊髄と髄膜の癒着,
神経節異常は脊髄造影やコンピューター断層撮影,核磁気共鳴画像でも発見されにくいと思われ る。術者撒神経組織異常の合併を念頭にいれ,手術には術中脊髄モニタリングなど細心の注意が 払われるべきである。
V結 論
1.胸・腰部脊椎奇形の臨界期は妊娠6日目であった。
2.脊椎奇形に様々な神経組織異常が合併することを示した。
3.重度異常は陥入直前の神経板と中胚葉や脊索の障害が同時に起こるためと考えられた。
4. 軽度の 脊椎後 方要素 異常 に随伴 する神 経組織 の異常 は, 神経堤 と椎板 の障害 が同 時に起 こ ること が条件 である と考え られ た。
5. 臨床診 断では 検索困 難と 思われ た神経 組織異 常があ るの で脊柱 変形治 療にあ たっ て細心 の 注意を 払う必 要があ る。
学位論文審査の要旨
先天性 脊椎奇 形は 神経組 織異常 を合併 するこ とが 多く, 手術合 併症防 止の見地から無視できな い問題 である 。臨床 研究か ら, 術前検 査で発 見され ない 神経系 異常の 存在がわかヮてきた。これ まで先 天性脊 椎奇形 や脊髄 髄膜 瘤の実 験的研 究は数 多く されて きたが ,脊椎奇形の立場から神経 組織が どのよ うな状 態にあ るか を検索 した報 告はな い。 本研究 の目的 は,日常臨床で遭遇する先 天性脊 椎異常 と類似 した奇 形を 作成し ,その 脊椎異 常に 伴う脊 髄およ びその他の神経組織異常の 形態を 調査す ること である 。以 下のニ っの実 験を行 った。実験1:胸腰椎部脊椎異常を作成する。
実験2: 実 験1か ら 催 奇 形削の 投与時 期を 一定化 し,脊 椎異常 に合 併する 脊髄・ 神経系 異常を 検 索する 。
実 験 方 法 : 動 物 は ゴ ー ル デ ン ハ ム ス 夕 一 を 使 用し , 催 奇 形 削は6aminonicotinamide(6 ー・AN)を単 回 (15mg/kg)腹 腔 内 注 射 で投 与 し た 。 実験1( 母 獣90匹 )妊娠5日 目12時間 から 妊娠6日 目12時 間 ま で6時 間 毎 の5群に 分 け て 腹 腔内 注 射 を 行 い ,実 験2(52匹 ) は 妊 娠6日 目 O時 間 に 行 っ た 。 対 照 群(10匹 )は , 妊 娠6日O時 間 に 蒸 留水 く10mt/kg)を 腹 腔 内 注 射し た 。 胎仔は 分娩予 定前日 (妊娠15日目)に母獣を屠殺開腹して摘出し,一部は妊娠12日目で摘出した。
実験1では ,直ち に胎 仔の皮 膚およ び内臓 器を 切除し ,骨軟 骨透明 標本を アル シャン ブルー およ びア リ ザ リ ン レッ ドS染 色 後, グ リ セ リ ンと1%KOH溶 液 中 で 作 成し た 。 透 明 標本 は 実 体 顕 微 鏡で観 察し た。実 験2では, 摘出胎 仔は直 ちに ブアン 液に固 定し, パラフ アン 包埋後 横断面 また は矢状 断面連 続切片 を作成 しへ マトキ シリン ーエオ ジン 染色お よびト ルイジンブル―染色として 光顕下 に観察 した。
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志
弘
郎
清
征
田
部
本
金 阿
藤
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
結果お よび考 察:実 験1では,胎仔生存率は53.9%であり,脊椎奇形発生率は31.9%であった。
対 照群 に脊椎 奇形は 観察さ れな かった 。観察 された 奇形は 肋骨 癒合, 半椎, 楔状椎 ,蝶形椎,椎 体 癒合 ,椎弓 癒合, 椎体骨 核異 常,脊 髄髄膜 瘤と多 岐にわ たっ ていた 。体軸 骨格の 奇形は複雑に 重 複 し て いた 。妊娠 第5日目12時 間処理 群で は,上 位胸椎 奇形が 多く 全脊柱 におよ ぷ広範 囲で重 篤 な 奇 形 をみ た。妊 娠第5日18時 間処理 群で も,上 位胸椎 異常は 多か ったが ,重篤 な異常 は減少 し て い た 。 妊 娠第6日O時間 処 理 群では 下位 胸椎・ 腰椎奇 形が多 く, ヒトの 先天性 側彎症 患者と 類 似 し た 奇 形 が多 か っ た 。 妊娠 第6日6時間 処 理 群 で は仙 椎部の 異常が 出現し た。妊 娠第6日12 時 間処 理群で は,腰 仙椎部 奇形 の頻度 は上昇 し,上 ・中位 胸椎 奇形は 出現し なかっ た。奇形の発 生 は ,6―AN投 与 時 期 が遅 れ る に 従 い頭 側 よ り 尾 側 ヘ移 行 す る 傾 向が み ら れ た。実 験2では,
胎 仔 生 存 率 は56.1% であ り , 脊 髄およ び神経 組織の 異常発 生率 は26.6% であっ た。脊 髄髄膜 瘤 (20.0% ),重 複脊髄 (3.3%), 脊髄空 洞症(8.9%)脊 髄中 心水腫(51.1% ), 潜在性二分脊椎 や 神経 根異常 (12.2% ),髄 膜の拡 大(5.6%)がみられた。対照群には異常を認めなかった。横 断 面 切 片 で 潜 在性 二 分 脊 椎 と脊 髄 異 常 の 合併 例 が み られ た。本 実験 では, 脊椎奇 形は6―AN投 与 が遅 くなる にっれ て奇形 出現 部位が 尾側へ 移行す る傾向 があ り,胸 ・腰椎 部脊椎 奇形の臨界期 は 妊 娠6日目 であっ た。 本実験 で得ら れた異 常は 脊索や 出現し たばか りの中 胚葉 が障害 を受け 脊 椎 奇形 が生じ ,陥入 直前に ある 神経板 が障害 を受け 神経組 織奇 形を生 じたと 考えら れた。神経堤 と 椎板 が同時 に障害 された とき ,潜在 性二分脊椎の椎弓と髄膜の癒合が形成されると考えられた。
本 実験 でみた 小さな 脊髄の 空洞 や変形 ,脊髄 と髄膜 の癒着 ,神 経節異 常は脊 髄造影 やコンピュー 夕 一断 層撮影 ,磁気 共鳴画 像で も発見 されに くいと 思われ るの で,手 術では 神経組 織異常の合併 を 念 頭 に い れ , 術 中 脊 髄 モ ニ タ リ ン グ な ど 細 心 の 注 意 が 払 わ れ る べ き で あ る 。