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博 士 ( 医 学 ) 遠 藤 由 香 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 遠 藤 由 香

学 位 論 文 題 名

レ ニ ン と ア ン ジ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素 の mRNA お よ び 蛋 白 の ヒ ト 心 臓 で の 局 在 に つ い て

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  レニン― アンジオテンシン系(RAS)は 血管を収縮させ,水分貯留に働き最終的に昇圧をひ きおこす系 である。RASを抑制するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が心肥大を退縮 させると報告されているように,RASは循環器疾患の病態に深く関与しているとの報告がなさ れてきた。また,高血圧患者のうち治療前の血中レニン活性が高値であった患者に心筋梗塞の発 症率が高かったとの報告もある。遺伝子レベルでも,ACEの遺伝子発現の変化が心筋梗塞の危 険因子であることが報告されている。近年,循環RASに対して,特定の臓器で産生されその場 で作用するparacrine/ autocrine systemとしての組織RASの存在がマウス,ラットなどの 脳,副腎,肝臓,精巣,卵巣,心臓などで証明されてきた。しかしヒト心臓での存在にっいては いまだ解明されてなく,生理学的にあるいは病理学的にどのような意義があるのか不明である。

本研究はRASの重要な構成要素であるレ ニンとACEにっいて着目し,正常ヒト心臓でのこれ らのmRNAおよび蛋白の存在にっいて,剖検心を用いて検討した。

研究方法

対象:対象は北海道大学医学部附属病院および関連病院での剖検例のうち非心疾患15例で,死後 3時間以内に摘出した心臓(右心房,左心室),腎臓,肺である。これらは直ちに液体窒素で急 速凍結後,―80℃で保存し,RASと蛋白の抽出に用いた。免疫組織学的検索のために臓器はパ ラフォルムアルデヒド固定後,パラフィン包埋した。

レ ニン およ びACE mRNAの安 定性 の 検討 :死 後時 間のmRNAに 対す る影 響を 調べるため,

手術材料の腎臓および肺を用いて細分し,摘出直後から経時的に57時間後までに分けて組織を液 体 窒 素 で 急 速 凍 結 しRASの 抽 出 に 用 いた 。こ れ らのRASを 用 いて レニ ン,ACE mRNAが 増幅されるかどうか ,reverse transcription‑−polymerase chain reactionくRT―PCR)に より調べた。

(2)

RASの 抽 出 : 各 臓 器 か らacldguanldlnlumthiOCyanate に 従 いRASを 抽出 し た 。 ま た ,ribonuclease protection columnに て ポ リ(A)+RNAを 調 製 し た 。

 phenolchloroform extraction法 assay (RPA) (Dt:めに oligotex

RPAに よ る レ ニ ンmRNAの 検 出 : ヒ ト レ ニ ンcRNAプ ロ ー ブ を 作 製 し , ポ リ (A) ゛RNA にハイ ブリダ イズ させ,ribonuclease処 理の後,電気泳動し,確認した。

RT一PCR法 に よ る レ ニ ンmRNAの 検 出 と 確 認 :total RNAILtgをreverse transcriptase に よ り 反 応 後 , レ ニ ン 遺 伝 子exon8か ら9の 領 域 に っ いて 作 製 し た プ ライ マ ー を 用 い,DNA 変 成 に93℃x2分 , ア ニ ー リ ン グ に63℃x2分 ,DNAの 伸 長 に72℃X3分 の 条 件 でPCRを30 サ イ ク ル 施行 し た 。 さ らに , ヒ ト レ ニンcDNAプ口 一 ブ を 作 製し てSouthern boltを 行 い 確 認 し た 。

レ ニ ン 蛋 白の 存 在 の 検 討: 蛋 白 を 粗 抽出 し ,SDS一PAGE後 , ウ サ ギ 抗ヒ ト レ ニ ン ポ ルク 口 一 ナ ル抗体 を用い て,Western bolt法を行った。

RT―PCR法 に よ るACE mRNAの 検 出 と 確 認 :ACE遺 伝 子exon7か ら8の 領 域 に っ い て 作 製 し た プ ラ イ マ ー を 用 い ,DNA変 成 に93℃x2分 , ア ニ ー リ ン グ に68℃x2分 ,DNAの 伸 長 に72℃X3分 の 条 件 でRT−PCRを30サ イ ク ル 施 行 し た 。 さ ら に , ヒ トACE cRNAプ 口 ー ブ を 用 い てSouthern boltに て 確 認 し た 。

ACEの 免 疫 組 織 学 的 検 討 : パ ラフ ア ン 切 片 を ウサ ギ 抗 ヒ トACEポ リ クロ ー ナ ル 抗 体 を用 い て Avidin−biotin−peroxidase complex法に より 免疫染 色した 。

結  果

1. 摘 出57時 間 後 の 手 術 材 料 の 腎 お よ び 肺 か ら 抽 出 し たRNAか ら で も レ ニ ンmRNAが 摘 出 直 後 と 同 程 度倹 出 さ れ た 。

2.RPAで は 心 臓 で レニ ンmRNAは 検 出 さ れ なか っ た 。

3. レ ニ ン に っ い て のRT―PCRで は 検 討 し た15例 全 例 でポ ジ テ ィ ブ コン ト ロ ー ル の腎 臓 と 同 様 に 右 心 房 に レ ニ ン mRNAが 検 出 さ れ た が , 左 心 室 で は 検 出 さ れ な か っ た 。 4. レ ニ ン 蛋白 に っ い て のWestern boltで は 右 心房 , 左 心 室 ,腎 臓 の 全 て で50kD付近 に 免 疫 反 応 陽 性 バ ンド を 認 め た 。

5. ACEに っ い て のRT―PCRで は 検 討 し た15例 全 例 で ポ ジ テ ィ ブ コ ン 卜 口 ー ル の 肺 と 同様

(3)

内 の冠動 脈,小 動脈 ,静脈,毛細管の内皮で免疫反応が陽性であった。

考  案

  ヒ 卜 心 臓 に お い てRASの 要 素 で あ る レ ニ ン ,ACEに っ い てmRNAお よ び 蛋 白 の レ ベ ル で の 存 在 が 確 認 さ れ た 。 特に レ ニ ン に っい て は , 左 心室 で な く 右 心 房にmRNAが 検 出 さ れ たこ と か ら , 正 常心 で は 右 心房 で特に 重要 な役割 を果た してい ると考 えら れた。 左心室 でtまm RNA は 認 め ら れ ず蛋 白 の み が存 在する とい う解離 が生じ た点は ,血中 レニ ン蛋白 を同時 に検出 した 可 能性が あり ,今後 解決す べき点 として 残さ れた。 いずれ にせよ ,ア ンジオテンシノーゲンが右 心 房 に特に 多く存 在し, アン ジオテ ンシンHと 生理的 に拮抗 する心 房性 利尿ペ プチド も心房 に多 い ことか ら, これら の要素 が組織 で未知 の相 互作用 を行っ ている と推 測された。また,心臓の血 管 内 皮 にACEが 広 く 分 布 し て い ると い う 結 果 か ら, 心 不 全 の 治療 に 広 く 用 いら れ て い るACE 阻 害薬が 血管 内皮に 直接作 用し心 筋にお ける 微小循 環の改 善等に 貢献 している可能性も考えられ た 。アン ジオ テンシ ンHlま心 臓に 対して ,陽性 変力作 用,陽 性変 時作用 ,細胞成長促進作用,線 維 化 作 用 が ある と い わ れ てお り , 心 臓 での 組 織RASが 心病 変の成 立ちに なんら かの関 係が ある 可 能 性 が あ る。 本 研 究 は 心疾 患 と 心 臓 の組 織RASの関 係を 今後解 明して いくた めの基 礎に なる と 考えら れた 。

結  語

  ヒ 卜 部 検 症 例 の う ち 非 心 疾 患 例15例 に っ い て 心 臓 での レ ニ ン とACEのmRNAお よ び 蛋白 の 存在 の 有 無 を 検討 し 以 下 の 結 果が 得 ら れ た 。

1. RT―PCR法 に よ ル レ ニ ンmRNAは 全 例 で 右 心 房 で 検 出さ れ , 左 心 室で は 検 出 さ れ なか っ た。

2. レ ニ ン 蛋 白はWestern blot法 で 右心 房 , 左 心 室に 認 め ら れ た。

3. RT―PCR法 に よ りACE mRNAは 全 例 で 右 心 房 , 左 心 室 で と も に 検 出 さ れ た 。 4. ACE蛋 白 は 免 疫 組織 学 的 検 討 に より 心 臓 に おい ては心 外膜の 冠動 脈,心 筋内の 冠動脈 ,小 動脈 , 静 脈 , 毛細 管 の 内 皮 に 局在 し て い る こと が 判 明 し た。

  以 上 の 結 果は 今 後 心 臓 での 組 織RASが 心 疾 患 とど のよう に関わ って いくの かを研 究して いく うえ で 重 要 な 基礎 に な る と 考 えら れ た 。

(4)

学位論文審査の要旨

  循環器疾患の病 態にレニン―アンジオテンシン系(RAS)が深く関与しているとの報告がな されてきた。近年 ,循環RASに対して,特定の 臓器で産生されその場で作用するparacrine/

autocrine systemとしての組織RASの存在がマウス,ラットなどの諸臓器で証明されてきた。

しかし,ヒト心臓での存在にっいてはいまだ解明されてなく,その意義にっいては不明である。

本 研 究 で はRASの構 成要 素で あ るレ ニン とア ンジ オ テン シン 変換 酵 素(ACE)のmRNAお よ び 蛋 白 の 正 常 ヒ ト 心 臓 に お け る 存 在 に っ い て , 剖 検 心 を 用 い て 検 討 し た 。 材料と方法:対象は剖検例のうち非心疾患例15例から死後3時間以内に摘出した心臓(右心房,

左心 室 ), 肝臓 ,肺 であ る 。各 臓器 からRASを抽 出し ,ヒトレニンmRNAの検出に はri。 bonuclease protection assayくRPA)およびreverse transcription−polymerase chain reaction (RT―PCR)法 を , ヒ 卜ACE mRNAの 検 出 に はRT―PCR法 を 用い た。 さら に,

ヒト レ ニンcDNAプロ ーブ お よび ヒトACE cDNAプ 口一 ブを作製してSouthern blot解析を 行いRT―PCRの結果 を確認した。レニン蛋白の 検討には,蛋白を粗抽出し,SDS−PAGE後,

ウサギ抗ヒトレニ ンポリクローナル抗体を用いて,Western blot解析を行った。ACE蛋白の 検討にはパラフォルムアルデヒド固定のパラフィン切片をウサギ抗ヒトACEポリク口ーナル抗 体を用いて免疫染色を行った。

結果:レニンにっ いてのRT亠PCR法では検討し た15例全例でポジティブコント口ールの腎臓 と同様に右心房に レニンmRNAが検出されたが, 左心室では検出されなかった。レニン蛋白 にっいてのWestern blot解析では右心房,.左心室,腎臓の全てで50kD付近に免疫性反応陽性 バン ド を認 めた 。一 方,ACEにっ い てのRT‑PCR法 では 検討した15例全例でポジテ ィブコ ント 口 ―ル の肺 と同 様に 右 心房 ,左 心室 と もにACE mRNAが検出された。ACE蛋白 の分布 にっいて右心房,左心室の組織で検討したところ,心外膜の冠動脈,心筋内の冠動脈,小動脈,

毛細管の内皮で免疫反応が陽性であった。

顕厚 雄       和輝 畠部 橋 北阿 石 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

(5)

mRNAが検出さ れたことから,正常心では 右心房で特に重要な役割を果たしていると考えら れた。左心室 ではmRNAは認められず蛋白 のみが存在するという解離が生じた点は,血中レ ニン蛋白を同時に検出した可能性があり,今後解決すべき点として残された。いずれにせよ,ア ンジオテンシノーゲンが右心房に特に多く存在し,アンジオテンシンIIと生理的に拮抗する心房 性利尿ペプチドも心房に多いことから,これらの要素が組織で未知の相互作用を行っていると推 測された。また,ACEが心臓の血管内皮に広く分布していたことから,心不全の治療に広く用 いられているACE阻害薬が血管内皮に直接作用L心筋における微小循環の改善等に貢献してい る可能性も考えられた。

結語:ヒト部 検症例のうち非心疾患例15例にっいて心臓でのレニンとACEのmRNAおよび蛋 白 の存 在の 有無 を 検討 し以 下の 結果 が 得ら れた 。RT―PCR法によルレニンmRNAは全例で 右心房で検出され,左心室では検出されなかった。レニン蛋白はWestern blot法で右心房,左 心 室に 認め られ た 。RT―PCR法 によ りACE mRNAは全例で右心房,左心室で ともに検出さ れた。ACE蛋白は免疫組織学的検討により心臓においては心外膜の冠動脈,心筋内の冠動脈,

小動脈,静脈,毛細管の内皮に局在していることが判明した。

  口頭発表に当り,阿部教授より対象に右心房と左心室を選んだ理由,レニンの免疫染色,刺激 伝 導系 でのRASの局 在, 心 臓内 膜側 と外 膜側 で のACEの分布の差,ACE阻害 薬投与例での RASの動態に っいて,石橋教授よルレニン のmRNAと蛋白の分布の解離 ,酵素活性にっいて の検討の有無,心臓内でのネガティブコント口一ルとなる部位の有無にっいて,小林教授よルレ ニンが右心房に多く左心室に少ないことの普遍性と発生学的影響にっいて,古舘教授よルレニン をradio immuno assayで測定したかどうかにっいての質問がなされたが,発表者は概ね適切 な回答をした。その後行われた阿部,石橋両審査教授との試問においても概ね妥当な回答がなさ れた。

  以上,本研 究はヒト心臓に組織RASが存 在することを明らかにし,今後心臓での組織RAS と心疾患との関係を解明していく基礎を築いたものであり,有意義な研究と考えられ,学位授与 に値する。

参照

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