博 士 ( 歯 学 ) 加 藤 勝 也
学 位 論 文 題 名
骨 髄 幹 細 胞 の た め の ス キ ャ ホ ー ルド と し て 移植 し た ス ポ ン ジ 状 コ ラ ー ゲ ン の 組 成 と 濃 度 が 骨 欠 損 の 治 癒 に 及 ぼ す 影 響
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒言
骨 髄 には 多分化能と 自己増殖 能が高い 間葉系幹 細胞が存 在するこ とから、再 生医療 の 分野 で 広く応用が 期待され ており、 歯周組織 再生療法 への利用 も検討され 始めてぃ る 。し か し幹細胞を 有効に利 用するに は、細胞 の増殖や 分化を促 進し、再生 スペ―ス を確保 できる適 切な足場 (スキャホ ―ルド)が必要である。幹細胞の足場とし て種々 の コラ ー ゲンが応用 されてぃ るが、コ ラ―ゲン は、架橋 処理、化 学処理など の相違に よ り、 細 胞の増殖や 分化、組 織修復に 及ぽす作 用が大き く異なる と報告され てぃる。
そ こ で本 研究は、骨 髄幹細胞 や骨再生 に働く細 胞の足場 としての 有効性を明 らかに す る目 的 で、組成と 濃度の異 なるスポ ンジ状コ ラ―ゲン を人工的 骨欠損に移 植して骨 髄液を 浸潤させ 、治癒過 程に及ばす 影響を検 討した。
材料 と 方法
成 ビ ―グ ル 犬9頭の 下 顎 下縁 部 に皮 膚 切 開を加え 、骨膜を剥 離、露出 した下顎 骨体 部 に ツ イ ス ト ド リ ル で 直径3 mm、 深さ3mmの 円筒 状 の 骨欠 損 を形 成 し 、骨 欠 損底 部 を 骨 髄 腔 に 穿 孔 し た 。FC群 (n=72) は 、 骨 欠 損 と 同 じ大 き さの ス ポ ンジ 状 に作 製 し た 線 維 化 コ ラ ー ゲ ン を 骨 欠 損 部 に 移 植 し 、FC―HAC群 (n=72) は 線 維 化 コ ラ ― ゲン と 熱変 性 コラーゲ ンの複合 体を移植 し、両群 とも骨髄液 を十分に 浸潤させ た。非 移 植 群(n=18) は 何 も 移 植 せ ず 、3群 と も 骨 欠 損 部 を 骨膜 弁 で被 覆 、 縫合 し て閉 鎖 創と し た。
移 植 した ス ポン ジ 状 線維 化 コラ ― ゲ ンは 、タイ プIアテロコ ラ―ゲン を酸性溶 液に 溶解 後 、中 和 処 理し て 線 維化 コ ラ― ゲ ン (FC)を 作 製 、コ ラ ― ゲン 濃 度を2.5、3、 4、5% に調 整 して 凍 結 乾燥 処 理に よ ル スポ ン ジ状 に 成 形し 、 熱 脱水 架 橋を行っ て作
製した。スポンジ状の線維化コラ―ゲンと熱変性コラ―ゲンの複合体は、タイプ|ア テロ コ ラー ゲ ン溶 液 を熱 処 理し て 熱変 性 コラ ー ゲ ン(HAC)を作 製 し、FCとHAC の溶液を9:1の割合で混 合して同様 の処理を行 い、2.5、3、4、5%の物を作製し た。
移 植1、4、12週後 、 潅流 固 定し 、通法 に従いバラ フアン包埋 して、厚さ6 m の頬舌縦断 連続切片を 作製、H‑E重染色、オステオカルシン(OC)免疫組織学的染 色を行った。
組織学的計測は画像解析ソフ卜ウェアを用いて、作製した骨欠損、残存コラーゲン、
炎症性細胞浸潤残存コラ―ゲン、炎症性細胞浸潤結合組織、新生骨の各面積を計測、
O残存コラ―ゲン面積率、@炎症性細胞浸潤コラ―ゲン面積率、(ヨ炎症性細胞浸潤結 合組織率、 @新生骨率 を算出した 。統計学的 分析にはMann―WhitneyのU検定を用 いた。
結果
1.病理組織学的観察結果 1)術後1週
FC―HAC群とFC群 は大部分の 移植コラ― ゲンが残存 し、その内 部には血球 の他 に 有 核 細 胞 が 観 察 さ れ 、 炎 症 性 細 胞 は ほ と ん ど 観 察 さ れ な か っ た 。 非 移植群の骨 欠損部には 、線維芽細 胞様細胞と炎症性細胞が多く観察された。
3群とも、骨欠損内部にOC陽性細胞は観察されなかった。
2)術後4週
FC―HAC群は、 残存コラーゲン辺縁部に細胞密度の高い層が観察され、その外側 に新生骨が認められる部位と、残存コラ―ゲンと新生骨が接してぃる部位が観察され た。残存コラ―ゲン内部には、細胞がほば均一の細胞密度で観察され、その数は術後 1週に比較して明らかに増加し、多くはOC陽性であった。
FC群は、残存コラ―ゲン内部に細胞は少なく、コラ―ゲン濃度が高くなるに従っ て炎症性細胞浸潤が増加する傾向が観察された。残存コラ―ゲン内の細胞はOC陰性 だった。
非移植群は、新生骨が骨欠損の半分程度まで形成されており、骨欠損中央部、にはOC 陰性の細胞が多数観察された。
3)術後12週
FC−HAC群は、 いずれのコラーゲン濃度でも残存コラ―ゲンはほとんど観察され ず、コラーゲン濃度が高い場合では、作製した骨欠損のさらに外側まで新生骨が形成 されてぃた。
―641―
,FC
群は、コラ―ゲン濃度が高くなるに従って残存コラーゲンが増加し、その内部 や周囲の結合組織に炎症性細胞が.多〈観察された。
非 移 植 群 は 、 骨 欠 損 の 大 部 分 に 新 生 骨 が 再 生 し て ぃ た 。
2
.組織学的計測結果
1)骨欠損面積
骨欠損面積は3 群問で有意差は認められなカ`った。
2
)残存コラーゲン面積率
FC
−
HAC群は 、1 週後 では
83.5〜
99.2%と 移植 コラ― ゲンのほとんどが残存し てぃたが、12 週後にはほば消失した。いずれの観察期間でも、コラーゲン濃度の違 いにより有意差は認められなかった。
FC
群 は、1 週 後で はほと んどのコラ―ゲンが残存レ、12 週後ではコラーゲン濃 度2.5 %ではほば消失したが、5 %では17.8 %の残存率であった。いずれの観察期 間でも、コラーゲン濃度が高いものは低いものに比較して有意に高い値を示した。
3
)炎症性細胞浸潤コラ―ゲン面積率 ´
FC
―HAC 群は、いずれのコラーゲン濃度、観察期間でもコラーゲン内部への炎症 性細胞浸潤はほとんどなく、有意差は認められなかった。
FC
群 は 、
1週後で は8.6 〜16.2 %、
4週 後で は40.1 〜
67.3 % 、12 週 後で は2.5
〜47.8 %で、12 週後はコラ―ゲン濃度が高いものは低いものに比較して有意に高い 値を示した。
同 じ コ ラ ― ゲ ン 濃 度の
FC―
HAC群 と
FC群 を比 較す ると 、FC 群の方 がFC −HAC 群より有意に高い値を示した。
4
)炎症性細胞浸潤結合組織率
FC
―HAC 群は、いずれのコラーゲン濃度、観察期間でもコラ―ゲン周囲の結合組 織 へ の 炎 症 性 細 胞 浸 潤 は ほ と ん ど な く 、 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
FC群 は 、
1週 後 で は
12.0〜
18.0% 、
4週 後 では
6.9〜42.2 % 、12 週 後で は0.8
〜19.3 %で、4 、12 週後はコラーゲン濃度が高いものは低いものに比べて有意に高 い値を示した。
同 じ コ ラ ー ゲ ン 濃 度の
FC−
HAC群 と
FC群 を比 較す ると 、FC 群の方 がFC ―HAC 群より有意に高い値を示した。
5
)新生骨率
FC
−
HAC群 は 、
1週 後で は
0〜
8.8% 、
4週 後 で は
38.2〜
68.2% 、
12週 後 で は
76.1〜87.0 %で、いずれの観察期間でもコラ―ゲン濃度の違いによって有意差は認 められなかった・;
―642 ―
FC
群 は 、
1週 後 で は
0.6〜3.2 % 、
4週 後 で は
21.0〜
59.8%、12 週後 では
58.0〜76.0 %で、
4、
12週後はコラーゲン濃度が高くなるにしたがって有意に低い値を 示した。
非移植群との比較では、
FC−
HAC群はすべての観察期間とコラーゲン濃度で有意 差がなかったが、FC 群は4 週後で有意に低い値を示した。
考察
FC
―HAC 群 と
FC群は 、1 週後 、残 存コラ ―ゲ ン内 部に血 球の 他に 有核 細胞が観 察され、これらはOC 陰性で骨芽細胞への分化レベルが低かったことから、移植時に 浸潤させた骨髄液中の幹細胞の可能性が高いと考えられた。また、4 週後には、FC
―
HAC群では 細胞 数が 増加し 、こ れら の細 胞は
OC陽性を示すものが多くなった。
これらは、残存コラーゲン内の細胞密度が均一であったことから、骨髄液中の幹細胞 が増殖して骨芽細胞に分化した可能性が高いと思われた。一方、FC 群では4 週後に は炎症性細胞が残存コラーゲン内部にまで浸潤してぃるものが多く、残存コラーゲン 内に観察された細胞はQC 陰性だった。従って、FC にHAC を添加することによって、
骨 髄 幹 細 胞 や骨 再 生 に 働 く 細 胞 を 増 加 させ る の に 有 効 で あ ると 考え られた 。
移植コラーゲンの吸収と骨形成過程はFC 群と
FC−HAC 群では大きく異なってぃた。
FC
群で艫炎症性細胞浸潤が著しく、移植したコラ―ゲンが貪食された後に骨形成に 必要な細胞が出現すると考えられたが、
FC―
HAC群では炎症性細胞浸潤はほとんど 観察さ れず、残存コラ―ゲン辺縁部に線維芽細胞や骨芽細胞が多数観察され、一部に は残存コラーゲンと新生骨が接してぃだ部分も見られたことから、残存コラーゲンの 分解と同時に骨形成が進むものと思われた。
以上から、FC ―HAC 複合体は骨髄由来の幹細胞や骨再生に働く細胞の増殖や分化 に有効であると考えられたが、歯周組織再生に応用するためには再生スペ―スを確保 でき る機 械的 強度を 有し てぃ るこ とも重 要である。
FC−
HAC群でコラーゲン濃度 が高い場合に、作製した骨欠損を越えて外側に新生骨が形成されてぃたものがあり、
これは骨欠損から溢出した移植コラ―ゲンが皮膚弁に圧迫されても骨形成スペ―スを
確保してぃたためと考えられた。従って、FC ―HAC 複合体は、歯周組織欠損が水平
性や幅の広い1 壁性などの場合にも、コラ―ゲン濃度を高めて強度を向上させて応
用することが可能と考えられた。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
骨髄幹細胞のためのスキャホールドとして移植した スポンジ状コラーゲンの組成と濃度が
骨 欠 損 の 治 癒 に 及 ぼ す 影 響
´
審 査 は 主 査 、 副 査 全 員 が 一 同 に 会 し て 口 頭 で 行 っ た 。 は じ め に 申 請 書 に 対 し 本 論 文 の 要 旨 の 説 明 を 求 め た と こ ろ 、 以 下 の 内 容 に つ い て 論 述 し た 。
近 年 、 再 生 医 学 の 分 野 で は 幹 細 胞 を 利 用 す る 研 究 が 多 く 行 わ れ て い . る。 骨髄 に 少 量 存 在 し 、 多 分 化 能 を 有 す る 幹 細 胞 を 歯 周 組 織 再 生 療 法 ヘ 応 用 す る こ と が 考 え ら れ る 。 幹 細 胞 を 組 織 再 生 に 応 用 す る た め に は 、 再 生 ス ペ ー ス 確 保 の た め の 機 械 的 性 質 と 細 胞 や 組 織 の 侵 入 性 に 優 れ た ス キ ャ ホ ー ル ド が 必 要 で あ る 。 本 研 究 で は 、 組 成 や 濃 度 の 異 な る ス ポ ン ジ 状 コ ラ ー ゲ ン を 人 工 的 骨 欠 損 に 移植 し、
骨 髄 幹 細 胞 や 骨 再 生 に 働 く 細 胞 の ス キ ャ ホ ー ル ド と し て の 有 効 性 を 検 討 し た 。 成 ビ ー グ ル 犬9頭 の 下 顎 骨 下 縁 部 を 全 層 弁 で 剥 離 し て 、 直 径3 mm深 さ3mmの 円 筒 状 の 骨 欠 損 を 形 成 、 骨 髄 腔 に 穿 孔 し た 。FC一HAC群 (n 72) は2.5、3、4、 5% の 線 維 化 コ ラ ー ゲ ン(FC)一 熱 変 性 コ ラ ー ゲ ン(HAC)複 合 体 を ス ポ ン ジ 状 に 成 型 し た も の を 移 植 し 、 骨 髄 液 が 十 分 に 浸 潤 し た こ と を 確 認 し た 。FC群
(n 72) は2.5、3、4、5% のFCを 同 様 に 移 植 し 、 非 移 植 群 (n 18) に は 何 も 移 植 し な か っ た 。 術 後1、4、12週 で 組 織 標 本 を 作 製 し 、H‑E重 染 色 、 オ ス テ オ カ ル シ ン 免 疫 染 色 を 行 い 、 組 織 学 的 観 察 及 び 、 残 存 コ ラ ー ゲ ン 率 、 炎 症 性 細 胞 侵 入 組 織 率 、 新 生 骨 形 成 率 を 組 織 計 測 し た 。統 計学 的分 析は 、Kruskal−Wallis 検 定 、Mann一Whitneyの り 検 定 を 用 い た 。 ゛
そ の 結 果 、1週 後 で は 、FC群 、FCーHAC群 と も 、 移 植 コ ラ ー ゲ ン 内 部 に 多 数 の 血 球 の 他 に へ マ ト キ シ リ ン に 染 ま る 細 胞 が わ ず か に 観 察 さ れ た 。 炎 症 性 細 胞 浸 潤 組 織 率 は 、FC群 の 方 がFC.HAC群 に 比 べ て 多 か っ た が 、 非 移 植 群 と 比 較 し
光 男
人
雅 隆
正
浪 後
村
川 向
田
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
て 有 意に 低 かっ た 。4週 後で は 、FC群 は、 い ず れの コ ラー ゲン濃 度でも炎 症が 観察され、濃度が高<なろと移植コラーゲンt丿,残存量が多くなり、炎症が|mく なろf頃向が観察された, FC―HAC鮮は移植コラーゲン内部に、オソ、テ,イ.カルシン 陽性 の細胞の 増殖カi多 く観察され 、コラー ゲン濃度 が異なっ てむ治癒 状態にほ と ん ど 差 は 観察 さ れ なか っ たっ12週後 で は、FC詳は 、 コ ラー ゲ ン濃 度 が 高い と移fしきコラーゲンの残存量カt増加して炎症性細胞浸潤が多くなり、骨の新生量 も減 少した。FC―HAC群は、 移値コラー ゲンはほ ぼ吸収さ れて新生 骨が欠損 を埋 め て お り 、 コ ラ ー ゲ ン 濃 度 が 異 な っ て も 治 癒 状 態 に 差 は な カ ゝ っ た 。 以上 の 結果 か ら 、線 維 化 コラーゲン に熱変性 コラーゲ ンを添加 すること によ り、 再生スペ ース確保 のためにコ ラーグン 濃度を上げても、炎症を生じにくく、
骨 髄 由来 の 幹細 胞 や 骨再 生 に働く細 胞のスキ ャホール ドとして 有効であ ること が 明 ら か と な り 、 歯 周 組 織 再 生 に 応 用 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。
引き 続き審査 担当者と 申請者の 間で論文 内容およ び関連事項 について 質疑応 答 が行 わ れ た。
主な 質 問事 項 は 、
(1) スポ ン ジ 状コ ラ ーゲ ン の 濃度 の 決 定方 法 (2)観察 期 間 の決 定 方 法
(3) FCとFC−HAC複 合 体の 吸 収の 差 (4)骨髄 幹 細 胞の 割 合
(5)骨欠 損 面 積の 計 測 方法 な どで あ っ た。
これ らの質問 に対し、 申請者は 適切な説 明によっ て回答し、 本研究の 内容を 中 心と した専 門分野は もとより 、関連分 野につい ても十分な 理解と学 識を有し て いる こ と が確 認 さ れた 。
本研 究は、骨 髄幹細胞 や骨再生 に働く細 胞のため のスキャホ ールドと しての 有 効性 を検索 する目的 のもと、 組成や濃 度の異な るスポンジ 状コラー ゲンを人 工 的骨 欠損に 移植し、 骨髄液を 浸潤させ 、コラー ゲンの細胞 増殖・分 化に与え る 影響 や、吸 収性を組 織学的に 明らかに し、歯周 組織を再生 できる可 能性が高 い こと を明確 にした点 が高く評 価された 。本研究 の内容は、 歯科医学 の発展に 十 分貢 献する ものであ り、博士 (歯学) の学位を 授与するに 値するも のと審査 担 当者 全 員 が認 め た 。