博 士 ( 薬 学 ) 加 藤 祐 輔
学 位 論 文 題 名
Identification of immune‑related molecules inlnvertebrates and analyses of their regulatory mechanisms.
(無脊椎動物の生体防御に関わる分子の同定およびその発現制御機構の解析)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
1.抗菌タンパク質遺伝子の誘導讃溝を調べるため、カイコ脂肪体のcDNAライプラリ―から抗菌性タンパク質 の― 種セクロピンBのcDNAをクロ―ニングした。得られた2っの陽性クロ―ンの塩基配列を決定し、そのア ミノ酸配列を予測した。こ れらのクローンがコ―ドするアミノ酸酪IJは、両者ともセクロピンBと一致した が、翻訳領域の同一アミノ酸をコードするいくっかのコドンで第3番目の塩基に多様性カ混られたほか、5 および3 の非番獄領域の塩 基l2に違いが見られたo]− ザン・プロットによる解析の 結果、カイコ・セク ロピンBの遺伝署写も現は大腸菌の註湯オによって急速に誘導され、8時匿I後には極吠に達すること棚らかに なった。発現は、主に脂肪 体および 血球に見られた。
2.カ イコ 体液 から の りポ 多糖(LPS)の除去と、そ のセクロピンBの誘導舘蔭黼 における生理的役割につ いて調べた。脂肪体の初代 培養系では、セクロピンBiRNAはLPSによって20分のうちに誘導され、その蓄積 は72時間以ヒにわたって持続した。少なくとも24時間以内に有意な脱感作は認められなかった。それに対し LPSを直接カイコ体腔中に注 射した場合では、セクロピ ンB一NAは注射後24時間以内に完全に消失した。こ れらの結果は、体液中のLPSの濃度および(もしくは)生物活性が時間依存的に減少していることを示唆す る。注射後の体液中のLPSの 濃度を経時的に観測したと ころ、初期の速い相(tI/2:1.0h)とそれに続く 遅い 相(tl/2〉18h) の2相か らな るLPSの 除去 が 見い ださ れた。さらに、体波 中においてセクロピンB
■NAを誘導するために必要 なLPSの閏値は、脂肪伴初代培養系で調べた値に比ぺ10倍以ヒ高いことが示唆さ れた。LPS注射後24時間の脂肪体からはセクロピン■NAはほとんど検出されないが、LPSの再注射によって再 び誘導された。この結果は 、体液からのLPSの除去がLPS注射によるセクロピンB血Mの誘導の終結に直接的 に寄与していることを示す 。これらの結果から、カイコはLPSによって引き起こされる抗菌タンパク質の誘 導を終結させるのに足りる 、生理的に意義ある能カをもったLPS除去機構を備えていることが示唆された。
3.カイコ体液中におけるりポホリン―LPS複合体形成と、そのLPS解毒における役割にっいて調べた。螢光標 識したLPSをカイコ体腔中に 注射し、経時的に採取した体液を密度勾配遠心強で解折した。注射後、螢光の ピークは高密度側から低密度側ヘ移動した。移動した低密度ピークは48時間以上の持続性を示し、体液中か らの除去に対する抵抗性を 示した。この低密度ピークはりポホリン−LPS複合体に由来するものと同定され た。この複合体は、血球を 含まない体液とLPSの混合物を25℃、Z4時間インキュペ―ションすることによっ ても形成されたが、1℃では 形成されなかった。リポホリンと複合体を形成したLPSは、遊離型のLPSに比べ て、著しくセクロピン誘導 能が低いことが示された。この複合体から再抽出されたLPSは、SDs/PAGEでの解 析からは有為な構造上の変化は認められず、リムルス試験に対する活性もわずかな減少を示したにとどまっ た。これらの結果は、リポホリン−LPS複合体の形成カ乳PSの構造を変化させることなしにセクロピン誘導能 を減少させていることを示 唆する。類似した血漿リポタ ンパク質―LPS複合体形成によるLPSの生物賦の低 下は哺乳動物でも報告されており、この機構は昆虫類および哺孚L類に共通に保存されているLPSの解毒経路 であることが示唆された。
4.カイコ体腔中に大腸菌を注射することによって、主要な体液タンパク質であるSPZ(アリルフォリン類に 属する貯蔵タンパク質)お よび30Xタンパク質の産生カ潮制されることを見いだした。これらのタンパク質 のmRNAの蓄積量も同様に減少したことから、この抑制閾象の少なくとも一奇吩はこれに由来すると考えられ る。SP2心NA量は、大腸菌注 射後8時間以ヒ経過してから 急速な減少を始めた。それ に対し、セクロピンB
― 171‑
弧馳の蓄積は注射後zO分で明らかに認められた。さらに、SP21NA量の減少を引き起こすには、セクロピン−
B■RHAの誘導に必要な量よりはるかに多くの大陽菌を必要とした。これらの結果から、大腸薗注射による主 要体液タンパク質の産生抑制は、抗菌性タンパク質の誘導とは異ナょった機溝で制御されていると結諭した。
5.寄生性線虫D一種、豚回虫の体液から3うの基本的な防御活性(抗菌、細菌溶解および異物凝集活性)を 検出した。抗菌活性は、相対的にグラム陽性薗(バチルス・サプティリスおよび黄色プドウ球菌)に対して 強く、グラム陰性菌に対して弱かった。体液中の抗黄色ブドウ球菌活性は、1■ガIlストレプトマイシン当 量と見績もられた。黄色プドウ球菌に対する抗菌活性を示標として、ゲル遼過皿LCおよび逆相ロLCによりこ の抗菌因子を精製し、ASA即と命名した。ASABFは熱耐性(100℃、6分)を示したが、トリプシン処理で失活 したことからタンパク性と考えられた。ゲル違過により、分子量は3―4.5kDaと見積もられた。AsA即のN末 端のアミノ酸配列は既知の抗菌性タンパク質のいずれとも相同性を示さなかった。細菌溶解活性も検出され およそ10uガ,|1卵白リゾチーム当量前後と見積もられた。さらに、大腸菌およびグルタールアルデヒト固定 トリプシン処理ヒトA型赤血球に対する凝集活性が検出された。ゲル遼遇により、ASLLF−1(500めa)および ASLLF12(25kDa冫の少ナょくとも2種の異なる凝集因子が見いだされた。両者とも熱処理(100℃、6分)また はトリプシン処理により活性が失われた。,以上の防御I活性は全て無処理辣虫から採取した体液から検出され 細菌注射のような前処理は活性の検出に必要で炊かった。
ー172 ‑
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
主 査 教 授 栗 原 堅 三
学 位 論 文 題 名
Identification of immune‑related molecules inlnvertebrates and analyses of their regulatory mechanisms.
(無脊椎動物の生体防御に関わる分子の同定およびその発現制御機構の解析)
申 請者 は 長年 、無 脊 椎動 物の 生 体防 御機 構 に関 する研 究 を 行っ てき た 。今 回の 論 文は 、
申請 者 の長 年の 研究成 果 をまとめたものであ る。
1
.
抗 菌タ ンパ ク質 遺伝子の誘導機構を 調べるため、 カ イ コ 脂 肪 体 の
cDNAラ イ ブ ラ リ ー か ら 抗 菌 性 タ ン パ ク 質 の 一 種 セ ク ロ ピ ン
Bの
cDNAを ク ロ ― ニ ング した 。
得 られ た
2つ の 陽 性 ク ロ ― ン の 塩 基 配 列 を 決 定 し、
そ のア ミ ノ酸 配 列 を予 測し た 。
これ らの ク ロー ンが コ ード する アミノ 酸 配 列は 、
両者 ともセクロ ピン
Bと一致 したが、
塩基配 列 に 違 い が 見 ら れ た 。
/― ザ ン ・ プロ ッ トに よる 解 析の 結 果 、
カ イ コ ・ セ ク ロ ピ ン
Bの 遺 伝子 発 現は 大腸 菌 の注 射 に よ っ て 急 速 に 誘 導 さ れ 、
8時 間後 に は極 大に 達 する こ とが明らかになった 。
発現は、
主に脂肪体および血球 に 見られた。
2
.カイコ体液 からのりポ多糖(
LPS)の除去と、
そのセク ロ ピ ン
Bの 誘 導 制 御 機 構 に お け る 生 理 的 役 割 に つ い て 調 べ た 。 注 射 後 の 体 液 中 の
LPSの 濃 度 を経 時 的に 観測 し たと こ ろ 、
初 期 の 速 い 相 (
tl/2=
1.Oh )と それ に 続く 遅い
―
173―
良 尚
均
英 教
沢 宅
田
横 三
澤
授 授
授
教 教
教 助
助
査 査
査
副 副
副
相 (
tl/2冫
18h)の
2相 から なる
LPSの 除 去が 見い ださ れ た。 さらに、 体液中においてセクロピンB mRNA を誘導す るために 必要な
LPSの閾値は、脂肪体初代培養系 で調べた 値に比べ
10倍以 上高いことが示唆された。
LPS注射後
24時 間 の脂 肪体 か らは セク ロピ ン
mRNAはほとんど 検出されな い.が、LPS の再注射によって再び誘導された。 この結果は 体 液 か ら の
LPSの 除去 が
LPS注 射に よる セク ロ ピン
BmRNAの誘導の 終結に直接的に寄与していることを示し、 カイ コが生理的に.意義ある能.カをもったLPS 除去機構を備えて いることが示唆された。
3.
カイコ体液中 におけるりポホリン
‑ LPS複合体形成と、
そのLPS 解毒における役割について調べた。 螢光標識した
LPSをカイコ体腔中に注射し、 経時的に採取した体液を密 度 勾配 遠心 法 で解 析し た。 注射 後、螢光のピークは高密 度 側か ら低 密 度側 へ移 動し た。 移動した低密度ピークは
48時間以上の持続性を示し、 体液中からの除去に対する 抵抗性を示した。
この低密度ピークはりポホリン−LPS 複 合体に由来するものと同定された。 この複合体は、 血球 を含まない体液と
LPSの混合物を
25℃、 24 時間インキュベ ーションすることによっても形成されたが、 1 ℃では形成 されなか った。
リポホリン−
LPS複合体の形成によりLPS の 構造 を変 化 させ るこ とな しに セクロピン誘導能が減少 している ことが示唆された。 類似した血漿リポタンパク 質 ―
LPS複合 体形 成 によ る
LPSの生物活性の低下は哺 乳動 物でも報 告されており、 この機構は昆虫類および哺乳類 に共通に 保存されている
LPSの解毒経路であるこ とが示唆 された。
4.
カイコ体腔中に大腸菌を注射することによって、 主要
な体液タ ンパク質である
SP2(アリルフォリン類 に属する
貯蔵タン パク質)および
30Kタンパク質の産生が 抑制され
ることを 見いだした。
これらのタンパク質の
mRNAの蓄積
量 も同 様に 減 少し た。
SP2mRNA量は、大腸菌注射後
8時間
‑ 174―
以上経過してから急速な減少を始めた。 それに対し、 セ ク ロピ ン
B mRNAの 蓄積 は注 射 後
20分で明ら かに認められ た。 さらに、
SP2mRNA量の減少を引き起こすには、 セクロ ピ ン
B mRNAの 誘導 に必 要な 量 よりは るかに多くの大腸菌 を必要とした。 これらの結果から、 大腸菌注射による主 要体液タンパク質の産生抑制は、 抗菌性タンパク質の誘 導 と は 異 な っ た 機 構 で 制 御 さ れ て い る と 結 論 し た 。
5.寄 生 性 線 虫 の 一 種、 豚 回虫 の体 液か ら
3つの 基本 的な 防 御活 性( 抗菌 、細 菌 溶解 およ び異物凝集活 性)を検出 した。抗菌活性は、相対的にグラム陽性菌に対して強く、
グラム陰性菌に対して弱かった。 体液中の抗黄色ブドウ 球菌活性は、
lmg/mlストレプトマイシン当量と見積もら れ た。 黄色 ブド ウ球 菌 に対 する 抗菌活性を示 標として、
ゲ ル濾 過
HPLCおよ び 逆相
HPLCに よりこの抗 菌因子を精製 し、
ASABFと命名した。ASABF は熱耐性(
100℃、
6分)を 示したが、
トリプシン処理で失活したことからタンパク 性と考えられた 。
ゲ ル濾過により、分子量は
3―
4.5kDaと 見積 もら れた 。
ASABFの
N末 端のア ミノ酸配列は既知の 抗 菌性 タン パク 質の い ずれ とも 相同性を示さ なかった。
細菌溶解活性も 検出されおよそ
10 ug/ml卵白 リゾチ―ム 当量前後と見積もられた。 さらに、大腸菌およぴグルタ
―ルアルデヒト 固定トリプシン処理ヒト
A型赤 血球に対す る凝集活性が検 出された。ゲル濾過により 、
ASLLF−
1(5
OOkDa)およぴ
ASLLF―
2(
25kDa)の少な くとも
2種の異な る 凝集 因子 が見 いだ さ れた 。両 者とも熱処理 (
100℃、
6分)またはトルプシン処理により活性が失われた。
以上 の 防御 活性 は全 て無 処 理線 虫か ら採取した体 液から検出 さ れ細 菌注 射の よう な 前処 理は 活性の検出に 必要でなか った。
以上のように、本研究は無脊椎動物の生体防御に関す る多くの新しい知見を含んでおり、′博士(薬学)の学位 を与えるに相応しいと判定した。