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博 士 ( 農 学 ) 小 野 慎 子

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 農 学 ) 小 野 慎 子

学 位 論 文 題 名

ノ ッ ク ア ウ ト ウ イ ル ス を 用 い た バ キ ュ ロ ウ イ ル ス の 遺 伝 子 機 能 解 析

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  バキュロウイルスに属する核多角体病ウイルス(Nucleopol yhedめwI恥;NPv)は、感染後期において 多角体タンパク質(Polh)を大量に産生し、このP01hを主成分とするウイルス包埋体(多角体)を宿主 細胞核内に多数形成する。現在、このP01h高発現能を利用したバキュロウイルスベクターは効率の良い 外来遺伝子発現系として広く利用されている。今後、バキュロウイルスにおける外来遺伝子高発現系の 更なる改良と高次利用を進めるには、Polhの大量発現に関わる遺伝子とそれらの制御関係を理解するこ とが不可欠である。そこで、ウイルス増殖過程におけるウイルス遺伝子発現制御ネットワークの解明を 目指して以下の研究を行った。

(1)Autographa californica multiple NPV (AcMNPV)にお けるimmediate―early遺伝子機 能解析   NPVは 環 状 二本 鎖DNAを ゲ ノム と し 、100個を 超 え る多 数の遺伝 子を保 有してい る(Blissard and Rohrmann,1993)。これらの遺伝子は発現時期によりimmediateーearly(ie)、delayed−early、late、 very―lateに大別され(Fri.esen and Miller,1986)、very―late遺伝子に分類されるPolh遺伝子(polh) の大量発現には、ウイルス増殖過程で発現される多数の遺伝子が関わっていると考えられている。特に ウイルス感染直後に発現し、遺伝子発現ネットワークの最上流に位置するie遺伝子は転写制御因子をコ ードしており、ie以降に発現する遺伝子のみならずie遺伝子自身の発現制御にも複雑に関わっていると 考えられている。しかし、感染前初期におけるie遺伝子間の相互関係に関しても不明な点が多いのが現 状である。そこで第一章では、ウイルス遺伝子の機能解析が最も進んでいるAutograpねca丿j′〇朋jca multipleNPV(んMNPV)を用いて、ie遺伝子(je臥je丶ぬ2閲e丘ワ、pe。卿のウイルス増殖過程におけ る役割と感染初期における相互関係にっいて、各遺伝子のノックアウトウイルスを作製して解析を行つ た。

  j餾あるいはpe諮を欠失させた場合に野生型とほば同様の増殖性を示したが、j釘を欠失させた場合、

ウ イルスDNAの複 製も多角体形成も認められなかった。また、伽鉛あるいはje口を欠失させた場合には 培 養細胞 系に韜い て2次感染の確認が困難なほど感染性ウイルス粒子の産生が強く抑制された。一方、

こ れらの ノックア ウトウイルスについて感染初期における各遺伝子の発現を定量的real―timePCRによ     ー1320―

(2)

り調 査した 結果、少 なくと も感染初 期におい てはielとme53の 発現は独立しており他のie遺伝子に影 響されないこと、また、ie遺伝子間には多様な転写制御の相互関係が存在していることが示唆された。

  以上 の結果 から、こ れまで の一般的な考えとは異なり、ielおよぴme53の2種類のie遺伝子がバキュ ロウ イルス 遺伝子発現制御カスケードの最上流に位置することが推定された。また、ielは既に報告さ れて いるよ うに(Kooleオal.,1994;Lu and Miller,1995)ウイルスDNA複製段階において必須だが、

me53はその後の過程に影響し、感染性ウイルス粒子の生産に重要な役割を果たしていると考えられる。

( 2)Bombばmori NPV (BmNPV)に お け る ウ イ ル ス 遺 伝 子 発 現 制 御 機 構 解 析 の 基 盤 構 築   上記 のAcMNPVのie遺 伝子の 解析にお いて、これまで不明であったie遺伝子間の制御関係について明 らかにした。しかし、今後、ウイルス遺伝子の発現制御における相互関係の総体を理解するためには、

個々の遺伝子を順番に解析するのではなくウイルス遺伝子の網羅的解析手段の導入が必要と考えた。ま た、制御機構をより深く理解し、得られた知見を応用展開するうえでウイルス遺伝子発現に関わる宿主 因子の情報は重要である。最近、中国と日本の研究チームの国際的共同研究によルカイコ(めめ Vx morカ の全 ゲノム 配列が解明され(Internation・alSilkwormGenomeCOnsortium,2008)、鱗翅目のモデル昆 虫と してゲ ノムアノーテーション計画が今まさに進行中であることから、カイコを宿主とするBmNPVに おい て宿主 ゲノム情報の利用が可能となってきた。一方、BmNPVにおいては効率の良いノックアウトウ イル ス作製 ・遺伝子改変システムが確立していない。そこで、遺伝子の網羅的解析をBmNPVにおいて進 めるための基盤構築を行った。

  まず 既にAcMNPVで 導入さ れている バクミド システ ムを、ゲ ノム配列が明らかになっているBmNPVT3 株(GomieオaI.,1999)を用いて構築し(OnoefaJ.,2007)、従来の方法ではできなかった必須遺伝 子 の ノッ ク ア ウト を 可能に した。次 に允redrecombinationシステム (DatsenkoandWanner,2000) を 導 入し 、 相 同組 換 え 酵素 を 強 制発 現 さ せ るこ と で 効率 的 に 遺伝 子 を 組換 え る 系を 確 立 した 。   これ らを組 み合わせて、BmNPVの135遺伝子(Gomie¢aJ.,1999)に加えて最近転写産物の存在が明 らかになった6遺伝子(KatsumaeオaJ.,2010)に関して、一連のBmNPVノックアウトバクミド(KOVs) を作 製して 各KOVDNAをBmN細胞に 導入し、 それら の増殖特 性を評 価した。そして各遺伝子の欠失によ るウ イルス 増殖やpDm発現量 への影 響を視覚 化する ために、p〇mプロ モーター の制御 下でGFPを発現 させ 、その 螢光量により評価した。さらに、それらのウイルスDNA複製能や感染性ウイルス粒子産生能 の有無に関しても調査を行った。

  する と10個のKOVを導 入したBmN細胞 中ではGFP発現 が認めら れず、子孫ウイルスも産生されなかっ た。 それら はウイル スDNA複 製因子 やウイルス由来のRNAポリメラーゼをコードする遺伝子を欠失させ た変 異体で あるため、p〇m発現にはウイルスDNA複製と後期遺伝子発現というイベントが必須であるこ とが 示唆さ れた。ま た残りの131個 ではGFPの発現が観察されたが、そのうち36個では子孫ウイルス産 生が認められず、感染が拡大しなかった。それらの多くはウイルス粒子の構成因子をコードしているも のが 多く、 感染性ウイルス粒子の形成に重要であるというこれまでの報告と矛盾しない。また、GFPが     −1321ー

(3)

発現し感染が拡大したものの中には、野生型と比べてGFPの発現量が減少しているものも観察されたた め、それらがpolh発現に直接関与しているという可能性が示唆された。

  以上、NPVの増殖過程に関わる遺伝子機能解析を網羅的に推進するための基盤構築が完了した。

‑ 1322

(4)

学位論 文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ノックアウトウイルスを用いた バ キュロウイルスの遺伝 子機能解析

  本論文は106頁からなる和文論文であり、図17と表24を含む。別に参考論文1編が添えら れている。

  バキュロウイルスに属する核多角体病ウイルス(Nucleopol yhedrov7船;NPV)は、感染後 期において多角体タンパク質(Polh)を大量に産生することから、このP01h高発現能を利用 したバキュロウイルスベクターは効率の良い外来遺伝子発現系として広く利用されている。し かし、P01hの大量発現に関わる遺伝子とそれらの制御関係は不明な点が多い。本研究は、P01h の大量発現を可能にしているウイルス遺伝子発現制御ネットワークの解明を目指して研究を 行ったものである。得られた結果は以下のように要約される。

(1)Autograpねc釘jめ珊JcamultipleNPV(ん淵PV)に船けるimmediate―early遺伝子機 能解析

  ウ イル ス遺伝 子の機能 解析が最 も進んで いるイUオ 昭閉p施calj劒ロjcamultipleNPV

( ん心PV)を用いて、感染後最初に発現するie遺伝子(je伏j8丶ね&田e殿pP。卿のウイ ルス増殖過程における役割と感染初期における相互関係にっいて、各遺伝子のノックアウトウ イルスを作製して解析を行った。

  その結果、je2あるいはpe閲を欠失させた場合に野生型とほぼ同様の増殖性を示すが、ゴ酊 を欠失させた場合、ウイルスDNAの複製も多角体形成も認められないこと、また、口e閲ある いはjPロを欠失させた場合には培養細胞系において2次感染の確認が困難なほど感染性ウイル ス粒子の産生が強く抑制されることを示した。一方、これらのノックアウトウイルスにっいて 感染初期における各遺伝子の発現を定量的real―timePCRにより調査した結果、少なくとも感     ―1323−

   

   

   

   

   

(5)

染初期においてはielとme53の発現は独立しており他のie遺伝子に影響されないこと、また、

ie遺伝子間には多様た転写制御の相互関係が存在していることを明らかにした。さらに、iel およびme53の2種類のie遺伝子がバキュロウイルス遺伝子発現制御カスケードの最上流に位 置すること、me53は感染性ウイルス粒子の生産に重要な役割を果たしていることを示した。

(2)Bombyx mori NPV (BmNPV)にお ける ウイル ス遺 伝子 発現制御機構解析の基盤構築   これまでの結果を踏まえて申請者は、Polhの大量発現に関わる遺伝子間相互作用を理解す るにはバキュロウイルスのなかで唯一、宿主のゲノム情報が利用可能なBmNPVにおいて網羅的 解析を展開するための実験系の確立が必要であると考えた。そこで、AcMNPVで導入されてい るバクミドシステムをBmNPV T3株を用いて構築し、従来の方法ではできなかった大腸菌の中 での ウイ ルス 遺伝 子組 換え と必 須遺 伝子 のノッ クア ウト を可 能に した 。さ らに えred recombinationシステムを導入し、相同組換え酵素を強制発現させることで効率的に遺伝子 を組換える系を確立した。

  この系を用いて、BmNPVの141遺伝子に対するー連のBmNPVノックアウトバクミド(KOVs) を作製し、それらKOVのDNA複製能、polhプロモーターの活性化、そして感染性ウイルス粒 子産生能に関して調査を行った。まず、ウイルスのDNA複製因子やRNAポリメラーゼをコード すると報告されている10個の遺伝子にっいて解析し、polhの効率的発現にはウイルスDNA複 製とウイルスRNAポリメラーゼによる後期遺伝子発現という、2つのイベントが重要であるこ とを示した。またウイルス粒子の構成タンパク質遺伝子のいくっかは、ノックアウトすること で子孫ウイルス産生と感染拡大が認められなくなり、それらが感染性ウイルス粒子の形成に重 要であることを示した。また、野生型と比べて同程度の感染拡大は認められるがpolhプロモ ーターの活性化は低いものを見出し、それらがpolh発現に直接関与している可能性を示した。

  本研究の成果は、産業的にも重要なNPVの遺伝子機能およぴその制御機構の飛躍的理解にむ けて貢献するところが大きく、学術及ぴ応用の両面からその価値を高く評価することができ る。

  よって審査員一同は小野慎子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと 認めた。

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参照

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