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博士(薬学)奥瀬賢司 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(薬学)奥瀬賢司 学位論文題名

Roles of DNA methylation on regulation  mechanism in neuronal differentiation

(神経分化の制御機構におけるDNA メチル化の役割)

学位論文内容の要旨

  神 経の 発達 にお いて 神経 伝 達物 質の 選択 は重 要な過程である。C6グリア細胞腫 の条 件 培 地(GCM)お よ び ビタ ミンAの 誘導 体で ある レ チノ イン 酸(RA)をPC12細胞 に作 用さ せる と、 アセ チル コリ ンの 合 成酵 素で ある コリ ンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT) の活 性が 増加 する 。ま た、PC12細胞は神経成長因子(NGF)により突起を伸張しカテ コー ルアミン合成系の律速酵素であるチロシン ヒドロキシラーゼ(TH)の活性が増加する。し かし神経系のすべての細胞がこれらの分化 因子に応答するわけではない。例えぱ神経芽 細胞 腫N一18は 伝達 物質合 成能が極めて低く、分化因子に対する感受性が極めて低 い。

特定の分化因子が作用するかどうかを決定 する機講を解明することは、神経分化の機構 を研究する上で重要な鍵となる。

  近 年、DNAシ トシ ン残基 のメチル化が遺伝子の発現および細胞の分化を調節する こと が報 告さ れて いる 。N‑18細 胞 が分 化因 子に 応答 しない要因のーっとして、分化の 誘導 に関 する 遺伝 子の 発現 がDNAのメチル化により抑制されていることが考えられる。 そこ で本研究では、DJ¥TA脱メチル化剤として知られる5−アザデオキシシチジン(5―azaCdR) をい18細 胞に 作用 させ 、神 経 分化 因子 の作 用発 現機 構に おけ るDNAメチ ル化の役 割を 検討 した ふさ らに 、TH遺伝子を発現する細胞と発現し ない細胞のTH遺伝子5 上流 領域 のシ トシ ンメ チル 化状 態を 調 ベ、TH遺 伝子 の発 現に関与するメチル化部位の特定 を行 った 。こ の結 果、 神経 伝達物質合成酵素の発現調節機 構にDNAメチル化が重要な役 割を 果たしていることが明らかとなった。

  い18細 胞にRAお よびGCMを 各々 単独 で作 用さ せて も、ChAT活 性に 顕著 な変化は なか っ た 。 こ れ に 対 し 、N一18細 胞を5―azaCdRで6日間 前処 理し 、そ の後RAを2日間 作用 させ るとChAT活性 が顕 著に 増 加し た。5―azaCdRと同 じくDNA脱メチル化剤として 知ら れる5−アザシ チジン(5―azaCR)を用いた 場合も、RAによりChAT活性が増加した。しか しRAで 前 処 理 し た 後に5ーazaCdRを作 用さ せて も、ChAT活性 に変 化は なか っ た。GCM を作 用さ せた 場合 のChAT活 性 の誘 導に つい てもRAと同様の結果を得た。以上の変 化は Northern Blot法に よるChATmRNA発現 増加 とし ても 確認 さ れた 。こ れら の結果よ り、

NI18細 胞 で はRAお よびGCMに よるChATの発 現誘 導機 構が 、DNAのメ チル 化に より 抑制 されていることが明らかになった。  。

  高 いTH活 性 を も つPC12細 胞で は細 胞内cAMP濃 度の 上昇 によ りTHの発 現が 増加 する こと が知 られ てい る。 この 現 象がTH活 性の 極め て低いN118細胞でも起こるかどう かを 調べ るた めに 、N−18細胞 にアデニル酸シクラーゼの活性化剤として知られるフオ ルス コリ ン(FK) を作 用さ せたところ、4日問でTH活性が2.7倍に増加した。これに対 し、

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5−azaCdRを作用させた後にFKを作用させると、1日でTH活性が2倍に増加し6日問で は4.4倍になった。THmRNA発現量についても同様の変化がみられた。これらの結果よ り、N−18細胞ではChATと同様にTHの発現誘導機構もDNAのメチル化により抑制され ていることが明らかになった。

  またPC12細胞ではRAによりChAT活性が増加するのと同時にTH活性の減少がみられ る。このRAによるTH発現抑制作用を、N‑18細胞について検討した。FK単独で6日間 作用および5―azaCdRで前処理後にFKを2日間作用させることによるTH活性増加およ びTHmRNAの発現誘導は、RAによりともに抑制された。したがって、N‑18細胞における RAによるTHの発現抑制作用は、DNAのメチル化に依存しないことが明らかになった。

  N‑18細胞におけるFKによるTHmRNA発現誘導に新たな遺伝子発現(タンパク質合成)

が関与しているかどうかを明らかにするために、タンパク質合成阻害剤であるシクロヘ キシミド(CHX)の作用を解析した。5−azaCdRを5日間作用させたN―18細胞に、FKとと も にCHXを加え24時間培養 した。しかし、FKによるTHmRNA量の増加はCHXを作用さ せても消失しなかった。この結果より、N118細胞における5−azaCdRとFKによるTHmRNA 発現誘導は、転写調節因子のdenovo合成に依存しない機構によることが明らかになっ た。したがって、5ーazaCdRの前処理によるFKのTH発現誘導の増強作用は、TH遺伝子 自身が脱メチル化されることによる可能性が高い。

  THの発現調節機構を解析する上で、FKによるTHmRNAの発現誘導がCREを介するのか どうか、さらにRAによるTHmRNAの発現抑制がTH遺伝子5 上流領域のどの部分に作用 するのかを明らかにすることが重要である。そこで、種々の長さのTH遺伝子5 上流領 域とルシフェラーゼ遺伝子の融合プラスミドを構築し、これをアドレナリン作動性神経 芽細胞腫NlEーl15に導入してTHプロモータ活性に対するFKおよびRAの作用を検討し た。この結果、FKによる転写活性化およびRAによる転写抑制に関与する部位は、いず れもTH遺伝子5 上流領域中のCREから転写開始部位までの69bp中に存在することが 明らかになった。さらに、CRE中に変異を導入したプラスミドをN1Eー115細胞に導入し た場合、FKによる転写活性化はみられなかった。したがって、FKによるTHの発現誘導 はCREを介するものと考えられる。そこで、CREを含む25bpおよび96bpのDNAフラグ メントをプローブとし、FKおよびRAの存在下あるいは非存在下で培養したい18およ びN1E―115細胞の核抽出液に対してGelShiftAssayを行った。しかし、FKやRAを作 用させることによる特異的バンドの変化はなかった。これらの結果は、FKによるTH発 現誘導はCRE結合タンパク質の発現量を変化させるためではないことを示唆する。一方 RAによるTHの転写抑制に関与する部位も、CREから転写開始部位までの69bp中に存在 するが、GelShiftAssayの結果からその作用はCREあるいはCRE結合タンパク質に結 合する因子を介するものではなく、またCRE結合タンパク質の発現を抑制するためでも ないと考えられる。

  N118細胞において、THの発現がTH遺伝子自身のメチル化により抑制されていること が示唆された。TH遺伝子5 上流領域約250bp中に、シトシンーグアニンと並ぶメチル 化を受ける可能性があるシトシン残基が14カ所存在する。TH発現の組織特異性がこれ らシトシン残基のメチル化により決定されている可能性がある。そこで、TH遺伝子を 発現する細胞、組織(N1Eー115、PC12、MAH、上頸神経節、副腎髄質)と発現しないある いは極めて発現量の低い細胞、組織(N―18、肝臓、腎臓、副腎皮質)について、TH遺 伝子5 上流領域のシトシンのメチル化状態をBisulfiteSequencing法により調べた。

その結果、CRE中のシトシン、CREの5 側のシトシンおよびTATAboxの3 側のシトシ ン残基の3カ所がTHを発現しない細胞、組織で高度にメチル化されており、THを発現 する細胞、組織ではメチル化されていなかった。他のメチル化を受ける可能性があるシ トシン残基では、メチル化状態とTHの発現とは相関がなかった。さらに,これら3カ 所のシトシンのうち下流の2カ所は、遺伝子導入の実験で明かとなったFKおよびRA

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のTH発現調節に対する作用点と重なった。以上のことから、これら3カ所のシトシン 残 基 の メ チ ル 化 が 、TH発 現 の 組 織 特 異 性 を 決 め てい る こと が 考 えら れ る。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    栗 原 堅 三 副 査    教 授    有 賀 寛 芳 副査    助教授   三宅教尚 副査    助教授   加藤宏幸

学 位 論 文 題 名

Roles of DNA methylation on regulation  mechanismin neuronal differentiation

(神経分化の制御機構におけるDNA メチル化の役割)

    申請 者は長 年にわた り神経 分化の研究を行ってきたが、今回神経分化の制御機 構に おけるDNAメチル化の役割に関する研究成果がまとまったので、学位論文を提出 した。

    神経 の発達 において 神経伝 達物質の選択は重要な過程である。C6グリア細胞腫 の条 件培地(GCNI)およびビ タミンAの誘 導体であ るレチ ノイン酸(RA)をPC12細胞に 作用させると、アセチルコリンの合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼ (ChAT)の活 性が増加する。また、PC12細胞は神経成長因子(NGF)により突起を伸張し カテ コールア ミン合 成系の律 速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)の活性が 増加する。しかし神経系のすべての細胞がこれらの分化因子に応答するわけではない。

例え ば神経芽細胞腫N−18は伝達物質合成能が極めて低く、分化因子に対する感受性 をもたない。特定の分化因子が作用するかどうかを決定する機講を解明することは、

神経分化の制御機構を研究する上で重要な鍵となる。

    近年 、DNAシトシン 残基の メチル化 が遺伝子 の発現 および細胞の分化を調節す るこ とが報告されている。N―18細胞が分化因子に応答しない要因として、分化の誘 導に 関する遺伝子の発現がDNAのメチル化により抑制されていることが考えられる。

そこ で本研究では、DNA脱メチル化剤として知られる5−アザデオキシシチジン(5― azaCdR)をNー18細胞に作用させ、神経分化因子の作用発現機構におけるDNAメチル化 の役 割を検討 した。 さらに、TH遺伝子を発現する細胞と発現しない細胞のTH遺伝子 5 上流領 域のシトシンメチル化状態を調べ、TH遺伝子の発現に関与するメチル化部 位の 特定を行った。この結果、神経伝達物質合成酵素の発現調節機構にDNAメチル化 が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

    N→18細胞 にRAおよ びGCMを 各々単 独で作用 させて もChAT活性に 顕著な 変化は なか ったが、Nー18細胞を5−azaCdRで前処理しその後RAまたはGCXtを作用させると ChAT活性 およびChATmRNA発現が顕著に増加した。これらの結果より、Nー18細胞では

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RAおよ びGCMによるChATの 発現誘 導機構が 、DNAのメチル 化によ り抑制さ れている こ と が 明 ら か に な っ た 。 ー 方 、PC12細 胞 で は細 胞 内cAMP濃度 の 上 昇に よ りTH の発現が 増加す る。N―18細胞 にアデニ ル酸シ クラーゼ 活性化剤のフォルスコリン (FK)を作用 させたと ころ、5―azaCdRで 前処理 後にFKを作 用させるとTH活性および THmRNA発現が 顕著に増 加した 。これら の結果 より、N―18細胞ではChATと同様にTH の発現誘導機構もDNAのメチル化により抑制されていることが明らかになった。また RAはChATの 発 現 を 誘 導 す る の と 同 時 に 、FKに よ るTHの 発現 誘 導 を抑 制 し た。

    N―18細胞にお けるFKに よるTHmRNA発 現誘導に 対する新たな遺伝子発現の関与 を調べるために、夕ンパク質合成阻害剤のシク口ヘキシミド(CHX)の作用を検討した。

5−azaCdRで前処理 したN―18細胞 に、FKと ともにCHXを加えてもFKのTHmRNA誘導能 は消失し なかっ た。した がって 、5―azaCdRの前処 理によるFKのTH発現誘導の増強 作 用 は 、TH遺 伝 子 自 身 が 脱 メ チ ル 化 さ れ る こ と に よ る も の と 考 え ら れ る 。     FKに よ るTHmRNAの 発 現誘 導 お よびRAによ るTHmRNAの 発現 抑制の作 用点を 明 らかにするために、種々の長さのTH遺伝子5 上流領域とルシフェラーゼ遺伝子の融 合プラスミドを構築し、これをアドレナリン作動性神経芽細胞腫NIE―115に導入して THプロ モー夕 活性に対 するFKお よびRAの作 用を検 討した。 この結 果、FKによ る転 写活性化 およびRAによる転 写抑制 に関与す る部位 は、いずれもTH遺伝子5 上流領 域中のcANIP応答 性配列(CRE)から転写開始部位までに存在することが明らかになっ た。さら に、CRE中に変 異を導 入したプラスミドをNIE‑115細胞に導入した場合、FK による転 写活性 化はみら れなか ったこと から、FKによるTHの発現誘導はCREを介す るものと 考えら れる。そ こで、CREを含むDNAフラグメントをプローブとし、FKおよ びRAの存在下あるいは非存在下で培養した細胞の核抽出液に対してGel Shift Assay を行った が、FKやRAを作用 させることによる特異的バンドの変化はなかった。これ らの 結 果 は、FKおよ びRAによ るTHの 発現調節 はCRE結合タン パク質 の発現量 を変 化させるためではなく、転写調節因子のりン酸化状態の変化等によることを示唆した。

    N―18細胞にお いて、THの発現がTH遺伝子 自身のメ チル化により抑制されてい ることが 示唆さ れた。TH遺 伝子5 上流領域約250bp中に、シトシンーグアニンと並 ふメチル 化を受 ける可能 性があ るシトシン残基が14力所存在する。TH発現の組織特 異性がこれらシトシン残基のメチル化により決定されている可能性がある。そこで、

TH遺伝子を発現する細胞、組織と発現しない細胞、組織について、TH遺伝子5 上流 領域のシトシンのメチル化状態をBisulfite Sequencing法により調べた。その結果、

CREを中心 とした3カ所の シトシ ン残基がTHを発現 しない細 胞で高 度にメチ ル化さ れており、THを発現する細胞ではメチル化されていなかった。さ、らに、これら3力 所のシト シンの うち下流 の2力所は、 遺伝子導 入の実 験で明らかとなったFKおよび RAのTH発現 調節に対 する作 用点と重 なった。 以上の ことから、これら3力所のシト シ ン 残 基 の メ チ ル 化 が 、TH発 現 の 組 織 特 異 性 を 決 め て い る と 推 測 さ れ た 。     以上の ように、 申請者 は神経分 化の制御 におけ るDNAメチル化の役割に関し数 多くの新しい知見を得ており、本論文は博士の学位を与えるにふさわしいものと判定 した。

参照

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