論文内容要旨
基質特異性拡張型β―ラクタマーゼ(ESBL)産生菌感染症における 経験的治療の有効性評価
日本環境感染学会誌 第33巻 第4号 130-135頁 2018年
病理系臨床病理診断学専攻(昭和大学横浜市北部病院) 詫間章俊
近年、様々な耐性菌の出現や微生物の薬剤耐性化が世界的な問題となっ ており、既存の薬剤を有効活用するとともに耐性菌を抑制していくことが 課題となっている。2016 年に本邦の薬剤耐性対策アクションプランが厚 生労働省によりまとめられ、重要な薬剤耐性遺伝子の一つとして基質特異 性拡張型β―ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)に 関する情報収集と分析を推進することが挙げられている。
ESBL 産生菌による重症感染症の治療にはカルバペネム系薬の投与が推 奨されているが、ESBL 産生菌感染症全例に投与することは、過剰使用に つながる。そこでカルバペネム系薬以外の抗菌薬が注目され、その臨床効 果について検証がなされている。特定の感染症や原因菌に対して、in
vitroで感受性を示すセフメタゾールやフロモキセフの有効性が示されて
いるが、これらによる経験的治療のエビデンスはない。昭和大学横浜市北 部病院(以下、当院)でもESBL産生菌の検出頻度は増加しており、その治 療マネジメントを困難なものとしている。そこで、当院においてESBL 産 生菌感染症の経験的治療における使用抗菌薬の実態を調査し、有効性に関 わる因子について検討した。
2008 年4 月から2016 年3 月までの間に、当院でESBL 産生菌が検出さ れ主治医により起因菌と判断された患者132例のうち、ESBL産生菌と判明 していない時点で経験的治療として抗菌薬投与が3日以上行われた症例 128 例を対象とした。128例の患者背景や治療内容,有効性を後方視的に 評価した.臨床効果の指標として主治医による臨床所見改善の記録がある 症例、または症状増悪のない抗菌薬投与終了症例を有効群とし、他剤への 変更(de-escalation を除く)、または全身状態の増悪や死亡症例を無効 群とした。
対象の128例のうち、有効群が100例で無効群が28例であった。感染症の 種類としては尿路41.4%、起因菌はE.coliが72.7%とその大変を占めた。
有効群において尿路感染症とカルバペネム系薬の投与が有意に多く、呼吸
器感染症が有意に少なかった。多変量解析ではカルバペネム系薬の投与が 有効性に関連する因子であった(オッズ比:3.73、95%信頼区間:1.34-10.35、
p=0.012)。
本研究では、ESBL産生菌感染症に対してはカルバペネム系薬の投与が有 効性に関連する因子であり、他の薬剤における経験的治療の有効性は証明 できなかった。ESBL 産生菌による感染症が疑われる場合には、経験的治 療の第一選択薬としてカルバペネム系薬を選択する必要がある。しかし,
カルバペネム系薬を多用することは、耐性菌選択圧を助長する可能性があ る。そのため、ESBL 産生菌の関与が否定された場合や治療の経過が良好 な場合には、投与の中止や他剤への変更を行う必要があると考えられた。