博 士 ( 獣 医 学 ) 小 野 寺 宜 郷
学位論文題名
Studies on Mechanisms of Action of and Resistance to QuinoloneslnGram ―POSitiVeCOCCi
(グラム陽性球菌におけるキノロン剤の作用および耐性機作に関する研究)
学位論文内容の要旨
グ ラ ム 陽 性 球 菌 の 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 、 肺 炎 球 菌 、 お よ び 腸 球 菌 は 、 臨 床 上 重 要 な 病 原 体 で あ る 。 特 に 近 年 、 こ れ ら の 薬 剤 耐 性 菌、 即ち 、MRSA (Methicillin‑Resistant Staphylococcus aureuS)、PRSP(PeniCiIlin‐ReSiStantSfr.epfoCOCCuSpneU´竹〇nfae)、
お よ びVRE(Vahcomycin‐ResistantEnterococci) の 出 現 が 問 題 と な っ て い る 。 キ ノ ロ ン 剤 は 、 こ の よ う な 耐 性 菌 の 多 く に 対 し て も 有 効 で あ る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 臨 床 の 場 で 使 用 さ れ て い る 。 し か し 、 一 方 で は 、 キ ノ ロ ン 剤 の 使 用 機 会 の 増 加 に 伴 い 、 他 の 抗 菌 剤 と 同 様 に 各 種 細 菌 の 耐 性 化 が 生 じ 始 め て い る こ と も 事 実 で あ る 。 本 研 究 は 、 グ ラ ム 陽 性 球 菌 に お け る キ ノ ロ ン 剤 の 作 用 な ら び に 同 剤 に 対 す る 耐 性 に っ い て 、 標 的 蛋 白 質 レ ベ ル で 解 析 す る た め に 企 図 さ れ た 。 キ ノ ロ ン 剤 の 標 的 は 、 細 菌 の 生 育 に 必 須 な2つ の 酵 素 、DNAジ ャ イ レ ー ス と ト ポ イ ソ メ レ ー スWで あ る 。DNAジ ャ イ レ ー ス は 、 Aサ ブ ュ ニ ッ ト (GyrA) とB サ ブ ュ ニ ッ ト (Gy「B) か ら な る 。 ト ポ イ ソ メ レ ー スWも 同 様 に 、Aサ ブ ュ ニ ッ ト とBサ ブ ュ ニ ッ ト か ら な る ( そ れ ぞ れParCとParE; 但 し 、 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 で は 慣 習 的 にGrlAとG「 |Bと よ ぶ ) 。DNAジ ャ イ レ ー ス はATPを エ ネ ル ギ ー 源 と し て 、 弛 緩 型 のDNA分 子 を 超 ら せ ん 型 に 変 換 す る 機 能 ( ス ー パ ー コ イ リ ン グ 活 性 ) を も つ 。 一 方 、 ト ポ イ ソ メ レ ー スWはA丁P存 在 下 、 超 ら せ ん 型 のDNAを 弛 緩 さ せ る 機 能 ( リ ラ ッ ク シ ン グ 活 性 ) お よ び 連 結 体DNAを 切 離 す る 機 能 ( デ カ テ ネ ー シ ョ ン活性)をもつ。
著 者 は ま ず 、 グ ラ ム 陽 性 球 菌 に 対 す る 各 種 キ ノ ロ ン 剤 の 作 用 を 解 析 す る た め 、 キ ノ ロ ン 感 受 性 の 黄 色 ブ ド ウ 球 菌 、 肺 炎 球 菌 、 お よ び 腸 球 菌 のDNAジ ャ イ レ ー ス お よ び ト ポ イ ソ メ レ ー スWの 各 サ ブ ュ ニ ッ ト 蛋 白 質 を 、 遺 伝 子 工 学 的 に 調 製 し た 。 各 菌 の 精 製GyrAお よ びGy「B蛋 白 質 に よ っ てinvit「oで 再 構 成 し たDNAジ ャ イ レ ー ス は 、 確 か に ス ー パ ー コ イ リ ン グ 活 性 を 示 し た 。 ま た 、 精 製ParC/Gr|Aお よ び Pa「E′Gr|B蛋 白 質 に よ っ て 再 構 成 し た ト ポ イ ソ メ レ ー スWは 、 確 か に デ カ テ ネ ー シ ョ ン 活 性 を 示 し た 。 各 菌 由 来 の こ れ ら 酵 素 の 活 性 を キ ノ ロ ン 剤 は 濃 度 依 存 的 に 阻 害 し 、 レ ボ フ ロ キ サ シ ン 、 シ プ ロ フ ロ キ サ シ ン 、 ス パ ル フ ロ キ サ シ ン 、 ト ス フ ロ キ サ シ ン 等 は 、DNAジ ャ イ レ ー ス の 場 合 よ り も 低 い 濃 度 で ト ポ イ ソ メ レ ー スW を 阻 害 し た 。 こ の 結 果 は グ ラ ム 陰 性 菌 の 場 合 と 異 な り 、 グ ラ ム 陽 性 球 菌 に お け る キ ノ ロ ン 剤 の 第 一 標 的 は ト ポ イ ソ メ レ ー スWで あ る こ と を 示 唆 し て い る 。 一 方 、 新 規 キ ノ ロ ン 剤 で あ る シ タ フ ロ キ サ シ ン は 、DNAジ ャ イ レ ー ス と ト ポ イ ソ メ レ ー スWを 同 程 度 の 濃 度 で 阻 害 し 、 か つ 、 そ の 阻 害 濃 度 は 他 の キ ノ ロ ン 剤 と 比 べ て 最 . も 低 い 値 で あ っ た 。 こ の シ タ フ ロ キ サ シ ン の 特 性 は 、 そ の 良 好 な 抗 菌 活 性 と 関 連
するものと考えられた。
細菌の抗菌剤に対する耐性化には一般に、抗菌剤の標的となる細菌蛋白質の変 異、即ち、それをコードする遺伝子の変異が関与する。大腸菌の研究によると、
キノロン耐性には特に、標的酵素である DNA ジャイレースおよびトポイソメレー ス IV の A サ ブ ュ ニ ッ ト の N 末 端 に 位 置 す る 領 域 ( Quinolone Resistance‑
Determining Region; QRDR) の変異が関与するとされている。そこで著者は、グ ラム陽性球菌のキノロン耐性と標的酵素の変異の関連を検討するため、黄色ブド ウ球菌、肺 炎球菌、お よび腸球菌のキノロン耐性株の GyrA および ParC/GrIA の QRDR の 変 異 を 、 コ ー ド す る 遺 伝 子 配 列 の 変 異 に 基 づ ぃ て 調 べ た 。 レボフロキサシンに対する感受性が野生株より 2 〜4 倍低下した低度キノロン耐 性黄色ブドウ球菌では、 GrIA 80 位のアミノ酸であるセリン(Ser) または GyrA88 位のアミノ酸であるグルタミン酸(G |u )の一方の置換を伴う変異が認められた。
同感受性が野生株より32 倍低下した高度耐性株では、G 「|A ( 80 位Se 「または84 位 Glu ) お よび GyrA (84 位Ser または 88 位 Glu )の両方 にアミノ酸 置換を伴う 変異が認め られた。肺 炎球菌でも 、低度耐性 株では ParC の QRDR のみに変異が 認め ら れ、 高 度耐 性 株で は ParC およ び GyrA の QRDR に変異 が認められ た。ま た、腸球菌では、低度耐性株で GyrA に変異が認められ、高度耐性株ではGy 『A お よび ParC に変異が認められた。以上の結果は、グラム陽性球菌においても、標 的酵素の A サブュニ ットの QRDR 変異がキノロン耐性に関与することを示唆して いる。 ParC ′GrIA またはGyrA の一方の変異が低度耐性を、そして、両蛋白質の変 異が高度耐性をもたらすものと考えられた。
さらに著者は、上述のような変異と各酵素のキノロン感受性の関連を解析する ため、点突然変異法を用いて黄色ブドウ球菌の野生型 GrIA および GyrA 発現ベク ターにキノロン耐性株で認められた変異を導入し、あらたに変異型 GrIA および Gy 『A を調 製後、それ ぞれ野生型 GrlB および GyrB を組合せる事によって変異型 トポイソメレースW および DNA ジャイレースを再構成し、キノロン剤によるそれ らの活性の阻害を試験した。その結果、各種キノロン剤の80 位あるいは84 位変 異型トポイソメレース W 阻害濃度は野生型同酵素阻害の場合に比べて9 〜94 倍高 く、野生型 DNA ジャイ レース阻害濃度よりも高くなった。 84 位あるいは 88 位変 異型 DNA ジ ャイレース 阻害濃度は 、野生型同 酵素阻害の場合に比べて4 〜50 倍 以上高い値であった。実験に供したキノロン剤の中では、シタフロキサシンが最 も低い濃度で両変異酵素を阻害し、その値は他のキノロン剤と比べて顕著に低か った。以上の結果は明らかに、キノロン耐性菌で認められたParC ′ G 「lA およびGyrA のアミノ酸変異はそれぞれ、トポイソメレース W および DNA ジャイレースのキノ ロン感受性を低下させることを示している。トポイソメレース W 変異株では DNA ジャイレース(野生型)の方がキノロン感受性が高くなるため、それが第一標的 となると考えられた。シタフロキサシンは野生型トポイソメレース W および DNA ジャイレースのみならず、変異型両酵素に対してもかなり高い阻害活性を有して いるので、酵素変異のため他キノロン剤に耐性を示す菌に対しても良好な抗菌活 性を示すと考えられた。
以上のように本研究では、グラム陽性球菌のトポイソメレースW およびDNA ジ ヤイレースに対するキノロン剤の阻害作用を解析し、前者を優位に阻害すること を明らかにした。また、キノロン耐性グラム陽性球菌における両酵素の変異を同 定するとともに、それらの変異が確かに両酵素のキノロン感受性を低下させるこ とを証明した。さらに、シタフロキサシンの優れた両標的酵素阻害活性に基づき、
本剤のグラム陽性球菌に対する良好な抗菌活性の発現メカニズムを考察した。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Studies on Mechanisms of Action of and Resistance to QuinoloneslnGram ‐POSitiVeCOCCi
(グラム陽性球菌におけるキノロン剤の作用および耐性機作に関する研究)
黄色ブドウ球菌、肺炎球菌および腸球菌の薬剤耐性菌、即ち、MRSA、PRSPおよびVREの出現が問 題となっている。キノロン剤は、これら耐性菌に有効であり、臨床で使われている。しかし、キノ ロン剤耐性菌が生じ始めている。本論文は、グラム陽性球菌におけるキノロン剤の作用と耐性につ いて、標的蛋白質分子レベルで解析した成績をまとめたものである。
キノロン剤は、細菌の遺伝子複製に必須な2つの酵素、DNAジャイレースと卜ポイソメラーゼW を標的とする。何れもAおよびB2 つのサブュニットからなる。DNAジャイレースはATPをエネル ギ―源として、DNA分子を超らせん型に変換する活性をもつ。一方、トポイソメラーゼIVはATP存 在 下 、 超 ら せ ん 型 のDNAを 弛 緩 さ せ る 活 性 と 連 結 体DNAを 切 り 離 す 活 性 を も つ 。 グラム陰性菌では、キノロンはDNAジャイレ―スを優位に阻害することが判っている。著者は、
グラム陽性球菌に対するキノロン剤の作用を解析するため、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、および腸 球菌の両酵素蛋白質遺伝子をクローニングして、これらを発現させ、各種キノロン剤の酵素阻害実 験を行った。その結果、グラム陽性球菌においては、キノロン剤がトポイソメラ―ゼ1Vを優位に阻 害する、即ち、グラム陰性菌とは異なる作用機作を明らかにした。
キノロン剤に対する細菌の耐性化に標的蛋白質の変異が関与することが知られている。大腸菌で は、キノロン耐性にDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVのAサブュニットの変異が関与 するとされている。著者は、黄色ブドウ球菌、肺炎球菌および腸球菌のキノロン耐性株を解析し、
グラム陽性球菌におけるキノロン耐性と標的酵素の変異の関連を明らかにした。即ち、グラム陽性 球菌においても、耐性株の標的酵素各々のAサブュニットの変異がキノ口ン耐性に関与することを 示した。次に著者は、黄色ブドウ球菌の変異型DNAジャイレースおよび卜ポイソメラ―ゼIVをあら たに調製し、酎性株で認められた変異と各酵素のキノロン感受性の関連を解析した。その結果、キ ノロ ン耐性株で認められた各酵素の変異がキノロン 感受性低下と関連することを証明した。
また、新規キノロン剤、シタフロキサシンが両標的酵素阻害活性および変異によって耐性を獲得
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宏 一
典 男
正 幹
茂
田 田
原 藤
喜 藤
桑 伊
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
した酵素に対しても高い阻害活性を示すことを明らかにするとともに、本剤がグラム陽性球菌に対 して優れた抗菌活性を示すメカニズムを解明した。
本研究成果は、近年、臨床において大きな問題となっている黄色ブドウ球菌、肺炎球菌および腸 球菌の薬剤耐性菌感染症の予防と治療に資するところが大きいので、審査員―同は氏が博士(獣医 学)の学位を授与されるに十分な資格を有するものと認めた。
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