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博 士 ( 水 産 科 学 ) 金

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Academic year: 2021

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博 士 ( 水 産 科 学 ) 金    尉 植

     学  VL 論 文 題 名

Establishment of enzyme‑linked immunosorbent assay  (ELISA) system to detect specific antibodies against     infectious hematopoietic necrosis virus  IHNV)

( サ ケ科 魚 類 の伝 染 性造 血 器 壊死 症 ウイ ル ス に対する 抗 体 検 出ELISA法 の 確 立 と そ の 応 用 に 関 す る 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    伝染性造血器壊死症(infectious hematopoietic necrosis: IHN)は、世界各地の孵化場や養殖   場 で 甚大 な被害 をもたら すサケ科 魚類のウイ ルス感染 症である 。IHNは、も ともと北 米西   海 岸 のベ ニ ザ ケお よ びマ ス ノ スケ の 風土 病 で あっ た が 、IHNウ イル ス(IHNV)汚染 卵の移   植により その発生が世界各地ヘ広がり、現在ではニジマス養殖で大きな問題となっている。

  日 本 では 、1970年代 に北米か ら輸入し た汚染卵が 原因で本 症が発生 した。そ の後、IHN   日 本 各地 ヘ 伝 播し 、 全国 でIHNが流 行 するように なった。IHN対策とし て、卵消 毒、飼育   施 設 の消 毒、飼 育水の殺 菌、隔離 飼育等の防 除対策が 実施され 、稚魚期 でのIHN発生 はほ   と ん ど認 められ なくなっ た。しか し、近年に なり、成 魚サイズ のニジマ スもIHNによ り死   亡 す る よ う にな り 、 隔離 施 設 でIHNVフ リ ーの 稚 魚 を生 産 して も 、 池出 し 後に 養 殖 池で   IHNVに 感 染し 死 に 至る こ とか ら 、 新た な問題とな っている 。この様 な状況下 において 、   同 一 水系 に 位 置す る 養殖 場 で のIHNV感 染履歴およ び感染状 況の正確 な把握が 防疫対策 を   考える上で重要な課題となっている。

    IHNVの検 出 法 とし て 、魚 類 株 化細 胞を 用いた分離 培養法、IHNVに対する 抗血清を 用い   た 螢 光抗 体法(IFAT) および抗 原検出ELISA、 ウイルスゲ ノムを標 的としたR.T−PCRなど

,が開発 されてき たが、い ずれも直 接検出法 であるこ とから、検 査対象魚を殺処分しなけれ   ばならず 、感染履歴の把握には不向きであり、また不顕性感染魚(キャリアー)からのIHNV   検出には 検出感度 が不十分 である。 一方、魚 を殺すこ となく検査 する方法として、血液を

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用いた間接検出法があり、供試魚血清を用いたIHNVの間接検出法としては、中和試験が 実施されているが、本法は多大な労カと検査結果を得るまでに長時間を要すること、また 検出感度の点でも十分とはいえない。これに対し、抗体検出ELISA法は、安価で短時間に 多量の検体を処理できることから、ヒトをはじめ温血動物では感染歴の把握を目的とした 一次スクリーニング法として広く普及している。魚類におぃても抗体検出ELISA法が古く から検討されてきたが、検査結果(ELISA吸光値)の再現性が低いため、ほとんど普及し ていない現状にある。

  そこで、本研究では従来用いられてきた魚類の抗体検出ELISA法の問題点について再検 討し 、特異抗体 のみを検出 するELISA法 を確立する とともに、 抗体検出ELISA法による 養 殖 魚 の 感 染 履 歴 お よ び 感 染 状 況 の 把 握 が 可 能 か ど う か 検 証 し た 。   まず第1章では、魚類での抗体検出ELISAにおける再現性の低さの原因と対策について 検討した。抗原未固定のELISAプレートを各種ブロッキング剤;スキムミルク,FBS,豆 乳,BSA,ゼラチンおよびBlocking reagent@で処理し、ニジマス、サクラマス、ヒラメお よび コイ血清を 反応させた ところ、何 れも強い発 色反応(ELISA吸光値0.3‑1.0)が認め られた。一方、魚類血清をスキムミルクで処理すると、ほとんど発色が認められなくなっ たことから、魚類IgMがELISAプレート上のブロッキング剤と非特異的に吸着しているこ とが明らかになった。また、BSAを固定したELISAプレートに、スキムミルクで前処理し た抗BSAコイ血清を反応させたところ、抗原量あるいは抗体量に依存した発色が認められ たことから、スキムミルク処理により血清中IgMの抗原抗体反応が阻害されないことが示 された。これらの結果から、魚類血清をスキムミルクで前処理することにより、魚類IgM の非特異的反応が大幅に軽減され、魚類血清中の特異抗体のみを定量的に検出することが 可能であることが示された。

    第2章では、前章で明らかになったスキムミルク処理したニジマス血清を用いてIHNV に対 する抗体検 出ELISA法に ついて検討 した。まず 、IHNVを抗原として固定したELISA プレ ートを用い 、IHN発症 歴有(IHN有歴)および無(IHN無歴)ニジマス血清からのIHNV に対する抗体の検出を行った。その結果、IHN有歴血清のELISA吸光値は0.26‑1.03であ゛

った のに対し、IHN無歴血 清のELISA吸 光値は0.04‑0.64であり、IHN有歴血清の吸光値 は無歴血清に比べ相対的に高い値を示した。しかしながら、IHN無歴血清であるにもかか

(3)

わらず、IHNV抗原に対し高いELISA吸光値を示す検体が多数認められ、本ELISA条件で はIHNVに対する特異抗体のみを検出しているとは考え難い結果となった。そこで、この 原因にっいて検討するために、IHNVと同属のノビラブドウイルス属に属する魚類病原ウ イノレスであるが、IHNVとは血清学的に異ぬるウイノレスであるVHSVおよびHIRRVを抗原 としたELISAも行い、各々の吸光値の変化を調べた。その結果、IHN有歴血清のVHSVあ るいはHIRRV抗原に対するELISA吸光値は、IHNV抗原に対する値に比べ明らかに低かっ たが 、IHN無 歴血 清で は、VHSV、HIRRVお よびIHNV抗原に 対するELISA吸光値に差異 はほとんど認められなかった。特に、IHNV抗原に対し高いELISA吸光値を示したIHN歴 無血清でも、VHSVあるいはHIRRV抗原に対し、ほぼ同程度の吸光値が認められた。本試 験結果は、ニジマス血清がウイルス培養液中に存在するIHNV以外の夾雑抗原と反応して いることを示唆するものであり、IHNVを抗原とした吸光値からVHSVあるいはHIRRV抗 原に対する吸光値を差し引いた値が、IHNV抗原と特異的に反応した抗体の吸光値を示し ていると考えられた。本仮説に基づき、IHNVおよぴVHSV抗原を用いたELISA法により、

IHN有歴および無歴ニジマス全206尾の血清について検討したところ、有歴血清の吸光値 は0‑0.7(平均0.27)であったのに対し、無歴血清は何れもO.l以下(平均0.01)となり、

本 改 良 ELISA法 に よ りIHNV感 染 履 歴 を 把 握 で き る こ と が 示 さ れ た 。   そ こで 、第3章 では 、第1章 およぴ2章で 確立し たELISA法を用い、静岡県下でIHN 発症歴を有する8養魚場とIHN発症歴の無い3養魚場、さらに発症歴不明の1養魚場で飼 育中のニジマス全552尾を対象に、IHNVに対する抗体保有状況の調査を実施した。その 結果、有歴血清の吸光値は0‑1.2(平均0.20)であったのに対し、無歴血清の吸光値は全 て0.2以下(平均0.02)となり、本ELISA法により感染履歴の有無の推定が可能であるこ とが確認された。さらに、ELISA吸光値0.2以上の検体が存在した場合にはII‑.rN発症歴有 り、全てO.l以下であろた場合には発症歴無しと判断して差し支えないと考えられた。実 験に供したIHN発症歴不明血清では、ほとんどの血清のELISA吸光値0.20が以下であっ たが、127検体中6検体(4.7%)の血清が、ELISA吸光値0.2以上であったことから、こ れらの魚はすでにIHNVに感染していた可能性が高いと考えられた。以上の結果から、本 ELISA法により、抗IHNV特異抗体が検出可能であること、また飼育群のIHNV感染履歴 の把握が可能であることが示された。

(4)

  これまで、魚類の抗体検出ELISA法は検査結果の再現性が低いことから、検査・診断法 として普及しなかったが、本研究により魚類でも特異抗体の検出が可能になり、ヒトや家 畜と同様、血清疫学が可能になると考える。すなわち、本ELISAにより養殖場ごとのIHNV 感染履歴や水系ごとの感染状況の把握、さらに種苗の移動による感染の拡大や防疫対策を 実施した場合の感染縮小等が把握できるようになり、より確実な防除対策が実施できると 考える。また、池出し後のIHN対策として歩留まり確保を目的にワクチンの開発が進めら れているが、ワクチンの評価やワクチン普及時の効果判定に本法は不可欠なツールである と考える。

(5)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 准教授 助教

吉水 帰山 西澤 笠井

     雅秀 豊彦 久会

Establishment of enzyme‑linked immunosorbent assay  (ELISA) system to detect specific antibodies against     infectious hematopoietic necrosis virus (IHNV)

(サケ科魚類の伝染性造血器壊死症ウイルスに対する 抗 体 検出ELISA法 の確 立とそ の応 用に 関す る研究 )

  サ ケ 科 魚類の伝 染性造 血器壊死 症(infectious hematopoietic necrosis: IHN)は、世 界各地の 孵 化 場 や 養 殖 場 で 甚 大 な 被 害 を も た ら す ウ イ ル ス 病 で あ る 。IHN対 策 と し て 、 飼 育 施 設 の 消 毒 、 飼 育 水 の 殺 菌 、 卵 消 毒 、IHNVに 感 受 性 を 有 す る 期 間 の 隔 離 飼 育 が 実 施 さ れ 、 稚 魚 期 で のIHN発 生 は ほ と ん ど 認 め ら れ な く な っ た 。 し か し 、 近 年 、 成 魚 サ イ ズ の ニ ジ マ ス が IHNに よ り 死 亡 す る よ う に な り 、 同 一 水 系 に 位 置 す る 養 殖 場 で のIHNV感 染 履 歴 お よ び 感 染 状 況 の 正 確 な 把 握 が 防 疫 対 策 を 考 え る 上 で 重 要 な 課 題 と な っ て い る 。 抗 体 検 出ELISA は 、 特 異 抗 体 を 検 出 す る 方 法 で あ り 、 安 価 で 短 時 間 に 多 数 の 検 体 を 処 理 で き る こ と から 、 ヒ ト を は じ め 温 血 動 物 で は 感 染 歴 の 把 握 を 目 的 と し た 一 次 ス ク リ ー ニ ン グ 法 と し て 広く 普 及 し て い る 。 魚 類 に お い て も 抗 体 検 出ELISA法 が 古 く か ら 検 討 さ れ て き た が 、 検 査 結 果 (ELISA吸 光 値 ) の 再 現 性 が 得 ら れ な い こ と が あ り 、 こ の 改 善 が 課 題 と な っ て い る 。 そ こで 本 研 究 で は 、 従 来 用 い ら れ て き た 魚 類 の 抗 体 検 出ELISA法 の 問 題 点 に つ い て 再 検 討 し 、 IHNVに 対 す る 特 異 抗 体 の み を 検 出 す るELISA法 を 確 立 す る と と も に 、 抗 体 検 出ELISA に よ る 養 殖 魚 の IHNV感 染 履 歴 お よ ぴ 感 染 状 況 の 把 握 が 可 能 か ど う か 検 証 し た 。   ま ず 、 魚 類 抗 体 検 出ELISAに お け る 再 現 性 の 低 さ の 原 因 と 対 策 に っ い て 検 討 し た 。 抗 原 未 固 定 のELISAプ レ ー ト を 各 種 ブ ロ ッ キ ン グ 剤 ( ス キ ム ミ ル ク ,FBS, 豆 乳 ,BSA, ゼ ラ チ ンお よ ぴBlocking reagent@) で 処 理 し、 ニ ジ マス 、 サ クラ マス、 ヒラメ およびコ イ血清 を 反 応 さ せ た と こ ろ 、 何 れ も 強 い 発 色 反 応(ELISA吸 光 値0.3‑1.0)が 認 め ら れ た 。 ― 方 、 魚

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類血清をスキムミルクで処理すると、ほとんど発色が認められなくなったことから、魚類 IgMがELISAプレート上のブロッキング剤と非特異的に吸着していることが明らかになっ た。また、BSAを固 定したELISAプレートに 、スキムミルクで前処理した抗BSAコイ血 清を反応させたところ、抗原量あるいは抗体量に依存した発色が認められたことから、ス キムミルク処理により血清中IgMの抗原抗体反応が阻害されないことが示された。これら の結果から、魚類血清をスキムミルクで前処理することにより、魚類血清中の特異抗体の 検出が可能であることが示された。

    次いで、ス キムミルクで前処理したニジマス血清を用い、IHNVに対する抗体検出 ELISA法について検討した。IHNV抗原に対し、IHNV感染履歴を有するニジマス血清(有 歴血清)のELISA吸光値は0.26‑1.03であったのに対し、IHN無歴血清のELISA吸光値は 0.04‑0.64であり、IHN無歴血清にもかかわらず、IHNV抗原に対し高いELISA吸光値を示 す検体が多数認められ、本ELISA条件ではIHNVに対する特異抗体のみを検出していると は考え難い結果となった。そこで、この原因について検討するために、IHNVと同属で、

血清 学 的に はIHNVと異 な るVHSVお よ びHIRRVを 抗原 と したELISAを 行い、各々 の吸 光値 を 比較 し た。 そ の結 果 、IHN有 歴血清のVHSVあ るいはHIRRV抗原に対す るELISA 吸光値は、IHNV抗原に対する値に比ベ明らかに低かったが、IHN無歴血清では、VHSV、 HIRRVお よ ぴIHNV抗 原 に対 す るELISA吸 光値 に 差異 は ほと ん ど認 められず 、VHSVあ るいはHIRRVを抗原とした場合の吸光値は、IHNV以外の夾雑抗原との反応であると考え られ た 。し た がっ てIHNVを抗 原 とした吸 光値からVHSVある いはHIRRV抗 原に対する 吸光値を差し引いた値が、IHNV抗原と特異的に反応した抗体の吸光値を示していると考 えられた。 本仮説に基 づき、IHNVおよ びVHSV抗原を用 いたELISA法 により、IHN有歴 およぴ無歴ニジマス全206尾の血清にっいて検討したところ、有歴血清の吸光値は0‑0.7f平 均0.27)であったのに対し、無歴血清は何れもO.l以下(平均O.Ol)となり、IHN発症歴 の有無でELISA吸光値に明らかな差が認められた。

  そこで、本 改良ELISA法 により、静 岡県下でIHN発症歴を有する8養魚場と発症歴の 無い3養魚場、さらに発症歴不明の1養魚場で飼育中のニジマス全552尾を対象に、IHNV に対する抗体保有状況の調査を実施した。その結果、有歴血清の吸光値は0‑1.2(平均0.20) であったのに対し、無歴血清の吸光値は全て0.2以下(平均0.02)となり、本ELISA法に より感染履歴の有無の推定が可能であることが確認された。さらに、ELISA吸光値0.2以 上の検体が 存在した場 合にはIHNV感染履歴があると判断して差し支えないと考えられ た。IHN発症歴不明 血清では、ほとんどの血清のELISA吸光値0.20が以下であったが、

127検体中6検体(4.7%)の血清が、ELISA吸光値0.2以上であったことから、これらの魚 はすでにIHNVに感染していた可能性が高いと考えられた。以上の結果から、本ELISA法 により、抗IHNV特異抗体が検出可能であること、また飼育群のIHNV感染履歴の把握が     ‑ 1218―

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可能であることが示された。

  これまで、魚類の抗体検出ELISA法は検査結果の再現性が低いことから、検査・診断法 として普及しなかったが、本研究により魚類でも特異抗体の検出が可能になり、ヒトや家 畜と同様、血清疫学が可能になると考える。

参照

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